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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第四章 ドワーフの国
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転移魔法が使えない場所

 私はベッドから体を起こすと、魔法の箱からロロから預かったメモを取り出した。この花の国の民に渡してほしいという願いを込めたメモは私がもらっていいものだったのだろうか。その血を引くのか、その住人だったものかにより答えは変わってくる。だが、このメモの存在は私に国探しのヒントをくれたのだ。


「セリアのところに行くの?」

「そのつもり」

「それなら、先に行っているわ」


 彼女はパッと姿を消す。突然行っても大丈夫なんだろうかという不安があったが、それは私が気にすることではないんだろう。

 彼女の部屋に行くと、すぐにドアをあけてくれた。アリアは既にテーブルのところにいる。


「どうかしたの? 世間話でも歓迎するけれど」


 私は会釈をすると中に入った。


「花の国ってどうやって探しているんですか?」


 私は椅子に座ると、そう問いかけた。

 彼女は少し待ってというと、奥にある机まで行く。そこから色の変わった紙を持ってくると、私とアリアのいるテーブルの前に広げる。そこに記されているのは世界地図だ。彼女の地図には複数の斜線が入っている。


「基本的には歩いてよ。行った場所を斜線で覆っているの。この場所にはまず花の国は存在しないわ」

「転移魔法じゃなくて?」


 予想外の言葉に、思わずそう聞き返す。


「そうよ。転移魔法は一度行った場所しか使えないから、歩いて探すしかないのよ。幸い、若いときにいろいろな場所に足を踏み入れていて助かったわ。他の人に悟られるのも面倒だしね」


 その地図は多くの場所に斜線が入っているが、まだまっさらな部分も少なくないし、ところどころ斜線が入っているところも少なくない。

 それは途方もない作業のような気がした。


「しらみつぶしに歩くと行っても、目で見て分かるところは行っていない。後から転移魔法で行って確認できるから。そういうところは丸で囲んでいるの」


 だから一つの地図に丸と斜線が入り乱れていると納得する。ただ、もう一つ三角の記号がある。


「この三角は何?」


 アリアがその地図を覗き込む。


「この辺りに妙な結界が張ってあるのよね。気になって印をつけておいたの」

「まあ、結界が張ってある場所は少なくないからね」


 アリアはその話で納得したようだ。

 私はふと思いついた疑問を彼女に投げかけた。


「一人で探しているんですか?」

「あなたが来る前はノエルとアリアの三人で、今は二人で探しているわ」

「そんなに少ない人数で?」

「事が事だし、あまり大っぴらにしたくはないのよ。まあ、人間に襲われようと私もノエルもどうってことはないんだけどね。あとは女王様とお父様も知っているわ。ただ、私がこの国を空けるのと、この二人が空けるのでは事情も周りの目も変わってくるから、この国で探しているのは私一人なの」


 どうしてそこまでごく少数の人しか知らないんだろう。

 彼女は私の疑問を見越したように、笑顔を浮かべる。


「信頼出来る人は確かに他にもいるわ。でも、立場的に言えなかったり、国を空けられないものには言っていない。余計な重荷を背負わせる必要はないんだもの。ただ、あなたを引き取ってもらう必要があるから、お父様と女王様には話をしたし、二人とも快諾してくれたわ。ちなみにアリアがあなたについていることも知っているわよ」


 セリア様はペンでアリアを指差した。

 だから、アリアはこの国の転移魔法を使えるのだろう。

 アリアは不機嫌そうに彼女を見た。ペンで指されたのが気になるようだ。


「これからも探すんですよね」

「あなたがこの国を出ていかないときはそうする予定よ。早めにしないと、周りが異変に気づいてからなら厄介になる」


 私は拳を握り深呼吸した。自分自身が勇気をもらうためだ。


「私にも協力させてください」


 その言葉にセリア様は目を見張るが、すぐに目を細め、ペンをテーブルの上に置く。


「早く元の世界に戻りたい?」


 私は少し迷って否定した。


「あまり元の世界に未練はないと思います。ただ、自分には何もできないのがもどかしい。私が考えなしに行動を起こしたことで、探すのも遅くなってしまうし、余計に足手まといになっているかもしれない、と」

「そもそも私たちの都合にあなたを巻き込んだのだから、気にしないでいいのよ。あなたにしてみれば、こんな世界に急に連れてこられて、危険な目に遭っているのだから。こちらが謝らないといけないくらいよ」


 彼女は優しく微笑むと、そう言葉を綴る。

 彼女の話を聞き、すごく優しい人だと思った。フェリクス様の娘さんといった感じだ。

 何であの私を誘拐しようとした人はあんなに怯えていたんだろう。

 悪いことをしようとしたのを見つかったからなのだろうか。


 私が思いついたことは一緒に探したいということと、もう一つあった。それがロロから託されたメモに直結する。この世界には転移魔法という便利なものがある。

 それを使わない手はないと思ったのだ。

 彼女は花の国の民が国の外に出てきているのを知らないのだ。それが分かれば、また違った探し方ができるはずだ。

 私は部屋から持って着たメモを彼女に見せる。

 彼女はそれをみて目を見張った。


「これ、どうしたの?」

「ロロから預かりました。ロロって分かりますか?」

「ラウールの友人よね。顔は知らないけど、名前は聞いたことあるわ」

「彼のお父さんが花の国の民を名乗る人間にあったらしくて、これを託されたそうです。花の国の民に出会ったら、渡してほしい、と。だから、他にも花の国の民が世界のどこかにいるんじゃないかと思うんです」

「可能性はなくはないわね。やっぱり彼は複数の民を転移させていたのか」


 セリア様は顎に手を当て、何かを考えていたようだ。


「花の国の民は魔法を使えるんですよね?」

「ほぼ全員が使えると思うわ。魔力が生来強い民が多い種族だしね」

「だったら、彼らを見付ける事ができれば、転移魔法でたどり着くと思うんです。そしたらもっと早く見つかるかもしれない」


 どうやって探せばいいのかと言われても分からないが、世界の地図を当たりながら探せば、見つかる可能性も出てくる。

 その言葉を聞き、セリア様は悲しそうに微笑んだ。


「それは無理よ」


 彼女は大げさに肩をすくめた。

 事情が呑み込めない私を見て、彼の所は首を横に振る。


「花の国の民は魔法は使えるけど、大部分の花の国の民は花の国には転移魔法で行けないの」

「どうして? 一度行ったことのある場所なら、転移魔法で行ける、と」

「そういう場所なのよ。ずっと前からね。そうでなければ、他国の侵略をもっと早くに受けていたと思う」


 あのルイーズとロロと一緒に行った山のようなものなのだろうか。

 だが、私は疑問に思う。彼女は全員が使えないとは断言しなかった。


「大部分って」

「花の国の玉座についたものだけは転移魔法で行き来できるのよ。だからゼロではない。もしかすると例外的に使える者もいるかもしれないけど、今の私にはそのくらいしか分からないの」


 玉座ということは、王様ということなのだろうか。

 王様を探すのはそれはそれで難しそうだ。大陸に住む一人と、存在する国だと断然後者のほうが探しやすい。

 それに生きているのかも分からない。


「いつもとはいかないけど、たまになら連れて行ってあげるわ。あなたなら分かる可能性もあるしね。そのためにはもう少し自分で自分を護れるようにならないとね」


 彼女の台詞はもっともすぎて私は返す言葉もなく頷いた。

 セリア様は立ち上がると、私を一瞥した。


「用事がないなら、今からついてきなさい」


 私は特にすることもなかったため、彼女の言葉に頷いた。



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