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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第四章 ドワーフの国
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オーダーメイドの剣

 私たちはラウールの転移魔法でブレソールの前に到着する。


「帰りはどれくらい後になる?」

「ルイーズに頼むからいいよ」

「分かった。じゃあな」


 ラウールは転移魔法を使い姿を消した。


 ロロに促され、わたし達はそのまま門のほうに行くことになった。


「いつもここで別れるの?」

「家の中に直接送ってくれることもあるよ。街を歩くと目立つからあまり好きじゃないらしくて、用がある時は割と町の外かな」

「そうなんだね」


 彼は王子という立場を抜いても、その容姿や雰囲気で人の目を集めてしまうだろう。幾度となくラウールに案内してもらったが、今から考えると悪かったかもしれない。

 私たちは町の中に入るとテッサの家に直行する。テッサの家につくと、ロロがノックする。扉が開き、ブノワが顔を覗かせた。


「テッサに話があるけど、いい?」


 ブノワは体を動かし、ロロを家の中に通す。私が入ったのを確認して扉を閉める。家の中には良い香りが充満しており、ロロは香りの出所と思われる方に歩いていく。台所だろうか。私はその場で突っ立っておくのも気が咎め、ロロについていことした。すると、部屋の向こうからテッサが顔を覗かせる。


「どうしたの?」


 彼女は私と目が合うと、笑顔を浮かべる。


「こいつが剣を買いたいらしくて、選ぶのを手伝ってほしいんだけど」

「いいよ。十分くらい待ってくれる?」


 彼女はすぐにそう言ってくれた。

 私たちは彼女の家で少し待つことになり、ブノワにこの前食事をした部屋に通された。席に座って少しすると、ブノワが二人分のお茶を持ってきて、私とロロの前に並べる。

 私がお礼を言うと、彼は頭を下げると部屋を出ていった。


 ブノワの入れてくれたお茶を口に含むと、甘い風味が口の中に広がる。

 湯気が出ているのに、甘味の強さはジュースを飲んでいる感じだ。何の味に近いんだろうと考えてみて、桃だと気付く。甘味料が入っている気はしないのでもともとこんな味なのだろう。

「不思議な味だね」

「子供のときから飲んでいたから、そんなには。甘いからお腹が空いた時に飲まれることが多いよ」

 私とは違い、ロロは一気にそれを飲んでしまった。

 私たちがお茶を飲み終わったころ、テッサが部屋に入ってきた。


「待たせてごめんね。剣は今まで持った事ある?」


 私は首を横に振る。


「ルーナは治安が良いから、必要なさそうだもんね。今から、行こうか。わたしのお父さんの知り合いのお店だから、じっくり選ぶといいよ」


 テッサは家を出ると、門のほうに向かって歩き出す。途中で細い道に入る。そして、薬屋のある通りに出る。そこからお城と反対側に歩くと、剣のイラストのあるお店の前で足を止めた。扉が開きっぱなしになっているが、中は薄暗く、人気がほとんどない。四十代と思しき男性がカウンターの奥に座っている。彼女はここに入ると告げると、中に入った。ロロは中に入らず、外で待っておくようだ。


 男性はテッサを見ると優しく微笑んだ。


「テッサさん、珍しいね」

「短剣を見にきたの」

「でも、テッサさんはステファンに作ってもらっているんじゃ」

「というか、友人のね」


 彼女はわたしを指差し、わたしは頭を下げた。


「ゆっくり見て行ってくれ」


 テッサはお店の右手にある棚に私を案内する。そこには複数の短剣が並んでいた。


「予算はどれくらい?」

「二千テールくらいで買えますか?」

 それが私の全財産だ。全て使うのは避けたいが、武器自体がそこそこ高いため、全財産を使う覚悟が必要かもしれない。ルーナで剣を買う時には千あれば十分だとリリーは言っていたが、こっちは少し物が高いらしい。


「二千か」


 テッサは店の剣を見ると、顎に手を当て何かを考えているようだ。


「箱を開けていただけますか?」


 お店の人がやってきて、すぐに箱を開けてくれる。そこから彼女はその棚の右四つを指差した。


「この四つが二千で買える剣かな」


 私はテッサに断り、二千テールの剣を手に取ってみる。剣自体はかなり軽く扱いやすそうだ。残りの剣も触ってみるが、剣の種類や、ルーナで触った短剣との違いもいまいち分からない。一番目安いもので五百テール。この辺りなら、手ごろかもしれない。

 だが、彼女は少し難しい顔をしていた。私に断ると、手にする剣を棚に戻した。


「少し考えてみますね」


 彼女は私を促すと、店の外に出た。


「何かいいのはあった?」


 店の前で待つロロの問いかけにテッサは首を横に振る。


「家に戻ろうか」


 テッサはそう言うと、さっき通ってきた細い道を戻っていく。


「やっぱりブレソールだと高いよね。美桜さんの住んでいるところはすごく物価が安いらしいの。恐らくあの二千の剣だと千前後で買えると思う。あのお店も他のお店に比べると安いんだけどね。だから、あの武器ならどっちで買ってもそんなに性能は変わらないと思うから、私は向こうで買ったほうがいいと思う」

「やっぱりそうか。ラウールにでも頼もうか」


 頼めば力になってくれそうだが、いつも彼を頼りにしていて悪い気がする。


「それかエペロームで作ってもらう? 自分で交渉して頼まないといけないけど、普通の既製品もかなり安いよ」

「エペローム?」


 リリーと地理の勉強をした時に出てきた国だ。この国から遥か西側にある国。


「ドワーフの住む国で、人間の国からも頼んで作ってもらう人も多いの。私が持っていた剣もそうなの。お父さんの世代からの付き合いでね。もっとも人が歩いていける距離ではないから、ルイーズやラウールに送ってもらっているけれど」


 いわゆるオーダーメイドということか。テッサには護衛の話があるくらいだし、かなり剣にも力を入れているんだろう。


「どれくらいかかるんですか?」


 そう聞いたのは興味本位からだ。ものすごく高そうな気がするし、お金が足りる気はしない。


「価格は人によってばらばらなんだよね。基本は材料費プラス百テールから五万テールの間だけど、性能や作り主によって価格は全然違うよ。材料は普通の一般的な強度の短剣なら五百前後で足りると思う」

「意外に安いんですね。もっと高い気がするのに」


「この国自体が物価が高いから、向こうで仕入れてここで売るという人もいるよ。だから、買いものをするときには他の国でしたほうが安上がりということも少なくない。明日、エペロームに行くんだけど、一緒に行く? 同じお金を出すなら、そっちだともっと安く手に入るかもしれない」

「いいんですか?」

「いいよ。ルイーズに連れて行ってもらう予定だから、私から話をしておくね。ある程度まとまったお金だから、しっかり考えて決めたほうが良いよ」

「ありがとうございます」

「じゃ、決まりだな。今からルイーズの家に行くから、俺から話をするよ」

「分かった。剣は明日見てからもう一度探そう」


 私はテッサの言葉に頷く。


 私たちはテッサと別れるとルイーズの家に行くことになった。彼女の家をノックすると、茶色のワンピースを着たルイーズが顔を覗かせた。

 彼女は私とロロと目が合うと、明るい表情を浮かべる。


「遊びに来てくれたの?」

「さっきテッサと会ったんだ。あと、こいつを送ってほしくて」


 ロロはルイーズにエペローム行きの件について話をする。ルイーズは笑顔でロロの話を聞き、分かったと口にする。そして、明日テッサと待ち合わせる前に、ルイーズに迎えに来てもらうことになった。



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