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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第四章 ドワーフの国
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二本の剣

 「武器?」


 私の話にロロは首を傾げた。


「ナイフでも何でもいいけれど、自分を守る手段がほしいの」


 ロロは顎に手を当てると私を上から下まで意味深な目で見る。


「短剣辺りがいいんじゃない? いざというとき威嚇するものがほしいんだよな」

「短剣か。ルーナで武器を扱っているお店の人にも同じことを言われた」


 やっぱりその辺りが無難なんだろうか。


「ロロはそういうの考えたことある? あの薬なの?」

「それもあるけど、ナイフも持っているけど普段持ち歩かないし、その場にあるものを応用していることほとんどだよ」

「その場にあるもの? 木の棒とか?」

「場合によるけどね、例えばこの石でも使いようによってはかなり強力な武器になるよ」


 ロロは足元に落ちているこぶし大の石を拾う。

 これを投げつけて、武器にするということなのだろうが。


「でも、それってうちどころ悪かったら死なない? そもそも届くの?」

「狙いを外さなきゃいいんだよ。要は。ある程度は届くよ」


 そう自信たっぷりにロロは言う。それができそうなのが彼のすごいところだ。ただ私は遠投に自信はないし、あくまで自衛の手段なので必要以上に誰かを傷付けるのは避けたい。


「実例を見せたいけど、ここだと避けたほうが無難かな」


 私はロロの言葉に頷いた。

 今日は二人でポワドンに来ていたのだ。ただ、前回の件を受けて、私達の調査範囲はかなり減らされ、ほとんどその地図の確認をするだけだ。今はその地図の確認をしていたときに、ロロに武器について相談したのだ。


「それと、これならいつでもやるよ」


 ロロは眠り薬を取り出し、私に見せた。


「いいの? いくら?」

「お金は良いよ」

「悪いよ。お金なら少しはあるから払うよ」

「あくまで念のために持っているだけで普段は使わないから」


 ロロはそう言うと肩をすくめた。


「ありがとう」


 私が受け取るとロロは笑顔を浮かべる。

 私はまだロロにあの話を言えていない。ロロに言うなら、リリー達にも言ったほうがいいかもしれない。あの場所に連れて行ってくれたルイーズにも。そう考えると誰にどこまで言うべきなのだろうかという範囲が良く分からなかった。

 アリアは好きにしたらいいと言う。ただ、言わないという選択肢があることを彼女は私に語っていた。


「ブレソールで武器を見てみるか。ただ、武器を買ったら名前を登録しないといけないから、一人では買いに行くなよ。お前って生存記録もないだろうし、問題になるかもしれない」

「登録制なの?」

「念のためだよ。犯罪に使わなかったら何も問題ない。自衛で持っている人も少なくない。だから、俺が買っていいけど、女物の武器ならルイーズかテッサに頼んだほうがいいかもしれない」


 武器を扱う店に行き買うという単純なわけにはいかないようだ。そもそも一人で武器を選ぶのも難しいのに。


「迷惑かけてばかりだよね」

「それくらいいいんじゃないかな。大した手間でもないし。ルイーズもお前のこと気に入っているみたいだから、喜んで手伝ってくれると思うよ」

「そうなの?」


 ルイーズは誰に対してもニコニコしていて、自分が好かれているという実感はなかった。


「そう思う」


 それが本当なら嬉しいかもしれない。私もルイーズのことは好きだと思っている。周りを引きこむほどの明るさを持っていて、裏表もさなそうなところなど、彼女を尊敬している面は多い。


「武器ならこれをやるよ」


 私の耳に少し低い声が届く。

 その言葉に振り替えると、ラウールが立っていたのだ。彼は鞘に納めた短剣を掲げていた。


「今日は中まで来たんだ」

「少し息抜き。ブレソールにいると、気疲れしてな」


 ロロはラウールの言葉に笑う。


「ルイーズが言っていたよ。めかし込んだ女たちが挑発的な態度を取るってさ」

「昔から、あいつがそう思われるんだよな。悪いとは思っているよ」

「幼い時からの知り合いで今も親しいと言えば、目の敵にするんじゃない? 当の本人は気にしていないからいいんじゃないか」


 何の話をしているんだろう。深刻そうなラウールの表情を見ていると話の内容が気にかかる。何か大変なことに巻き込まれているのだろうか。


「そんなことより」


 ラウールはさっきの剣を私に渡す。


「確かにその剣はいいものだけど、こんなの持つと、また別の危険に遭いそうだよ」


 ロロはその剣を見て難しい顔をする。

 ラウールが差し出したのは以前私に突き付けたナイフだ。

 あの時のことを考えると、ここまで彼と親しくなるとは想像さえしなかった。

 私はその剣を受け取り、鞘を抜いてみた。日の光に煌めき、不思議な美しさがある。

 いくらくらいするのだろう。私の所持金で賄えたらいいのだが。


「そうか? 俺は別に危険な目に遭ったことはないけど」

「ラウールとこいつじゃいろいろと事情が違う。この剣を奪ってうっぱらおうとするやつもいるだろうしね」

「そんなに高い剣なの?」

「この剣一本で十万テールくらいはすると思うよ。その剣ならもっとお金を出そうとする人間がいてもおかしくない」

「十万?」


 クラージュの土地が五千万。これが五百本であの広大な土地が買えるのか。

 私の所持金をではどうあがいても買えるわけがなく、私は鞘におさめると、ラウールにその剣を差し出した。

 彼は私の心境を悟ったのか苦笑いを浮かべる。


「別にお金は良いよ。そんなに使い道もないんだよな。それに俺は一度も襲われたことはないよ」

「ラウールを襲う強盗がいたら、一度会いたいくらいだよ。オーガの武器を叩き割ったこともブレソールで広まっているから、余計にね」

「そうなの?」

「本当、それには参ったよ。まあ、この剣が原因で危険な目に遭えば元も子もないな。なら、武器屋でそこそこ手ごろな剣を探してみるのが良いかもしれないな。欲しいならいつでも言ってくれればやるよ」


 ラウールはそう言うと剣を受け取った。私はラウールの腰に差している剣を目にとめる。

 リリーの話を聞いたからだろうか。


「その剣ってものすごい剣なんだよね」


 ラウールは剣を抜くと、私に柄の部分を渡した。

 あの短剣と同じように独特の煌めきがある。

 私は胸を高鳴らせながらその剣に触れた。

 あの強度を知ってしまったからか、もっと重いと想像していたが意外に軽い。さすがに片手で振り回せる重さではないが。


「これは俺が子供のときにもらったんだ。ただ、この剣だとすぐに扱うのが大変だからといって、こっちの剣ももらった」


 ラウールが差し出したのはあの短剣だ。ということはノエルというドワーフが作った剣なのだろうか。

 高いのにも納得がいく。


「そんな大事な剣を誰かにあげたらダメだよ」

「ノエルにこの前会った時、使わないならその娘にあげてもいいと言っていたから、一応本人の許可はあるはず」

「その剣は貰った人も大変そうだよな。あのときは大騒ぎだったよ。あのドワーフが人間のために剣を作るなんてとね」


 ロロの言葉にラウールは苦笑いを浮かべる。

 そんなにすごいことなのか。ラウールのお父さんは断れたらしいが、なぜラウールには作ってくれたんだろう。

 その娘ってノエルとの間で私の話でも出てきたんだろうか。

 私は彼にお礼を言い、剣を返した。


「ブレソールで武器を選ぶなら、付き合おうか?」

「大丈夫。テッサに頼むよ」

「そうか。あいつなら良い武器を選んでくれると思うよ」


 ラウールはそう笑顔で語る。

 私達はその作業を終えると、今日は早めにブレソールに戻ることになった。



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