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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第三章 オーガの国
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ポワドンでの食事

「帰りたいと寂しくなったりする?」


 私は少し考えて首を横に振る。答えに迷ったわけではなく、正直な気持ちを伝えて良いのか迷っていたのだ。自分を偽るのは得意ではないし、素直に答えた。


 リリーやローズがそういうことを聞きたいのかなと感じることはあったが、直接聞いてくることは一度もなかった。だから私も言わなかったのだ。私はより具体的に自分の家族について語ろうとしたのに気付き、躊躇して言葉を選び直す。隠したいわけではなく、余計に気遣わせるのが嫌だったのだ。


「あまり家族とうまく行ってなかったんだ。逃げかも知れないけど、ここにいて、すごくホッとしている。自分の家じゃないし、ずっとここにいて良いのかという迷いもあるけどね」


「家族って一言で表してもいろいろだと思うよ。俺の考えが全てとは限らないけど、血がつながっていてもどうしても仲良くなれなかったり、血のつながりがなくても家族以上に仲良くなれる場合もあるんじゃないかって思うんだ。だから、ここにいたいと思う気持ちを責めなくていいと思うよ。ルーナはラウールもいいところって言うくらい住みやすいところだからね」


 私はロロの返答に驚いていた。曖昧な言い方しかしなかったため、もっと家族という言葉を重要視して、家族は大事にしないといけないとか、私の考え方が間違っていると私の考えを否定されるのではないかと思ったからだ。彼は私の気持ちだけではなく、今の生活を受け入れていることに対する、私の罪悪感にも気付いている。


 私の視界の輪郭がぼやけてきたが、泣かないようにと頬を軽くつねった。


「もし環境が変わって住むところがなくなったら俺が雇ってやるよ。そのうち自分の店を持つかもしれないからさ。俺はたちの悪い冗談は言わないから、そのまま真に受けて大丈夫だよ」


 ロロはそう人懐こい笑顔を浮かべた。

 彼の明るさに引きずられるようにして、私も笑顔を浮かべる。


「ありがとう」


「それに、ルーナのことはリリーさんたちが教えてくれると思うけど、もし聞きにくいことや分からないことがあれば俺に聞いてくれれば教えるよ。一応、国の教育課程は修了しているから、基礎的な知識は問題ないしな。ルイーズやラウールに聞いてもいいと思うよ」


「そうだね。その時はよろしくお願いします」


 ロロに話をして心が驚くくらい軽くなった。最初はその口の悪さに驚いていたのが嘘みたいだ。彼は決して相手を傷付けるようなことは言わないんだろう。彼の口の悪さに戸惑っても、彼に対して怖いという気持ちを感じたことは一度もない。


「学校か。教育課程って何歳くらいまであるの?」


 ルーナは子供が少ないため、一か所に纏めて定期的に勉強を教えているようだ。ただ、善意で教えたい妖精も少なくなく、実質個別指導状態になっているとか。人間の国のほうはどうなっているんだろう。


「五歳くらいから文字の勉強が始まって、二十歳までに終わらせるようにはなっている。ただ、二十まで通う人は少ないんじゃないかな。俺も十二で終わったしね」


 ロロの話を詳しく聞けば、学校に入る年齢は個人差があり、五歳というのは最少年齢らしい。小学校、中学校という区別はなく、学校という一括りになっているようで、指定の教育を終えれば年齢に関係なく卒業できるらしい。その教育が身に付いているかといったテストも行われるらしい。彼は基礎的なことだけだというが、それでも十二というのはかなりすごい気がする。


「それから薬師になったの?」

「そうだよ」

「勉強、大変じゃなかった?」


「俺、物心ついた時から父親やおじさんに叩き込まれていたから、もう人生の一部みたいな感じなんだよね。学校を卒業した時には、薬草の名前や効用、使い方が頭の中に入っていたんだ」


「お父さんに?」


 ロロは頷く。


「ついでに、父親がいるのに何であそこで暮らしているのかという疑問が湧くと思うから言っておくと、俺の父親は亡くなったんだ。だから、父親の古い友人のおじさんの家で暮らしている」


 彼はあっさりと言い放つ。


「そろそろ続きをするか。そもそも中断させたのは俺だけどね」


 私はロロと一緒に調査を再開する。


 ロロは薬草のマップを作りながら、私に適宜、薬草についての知識を教えてくれた。



 昼過ぎに転移魔法陣のあるところが白く輝き、マテオさんがやってきた。私とロロはきりのよいところまで終わらせ、宮殿まで戻った。


 その後、朝と同じ部屋に案内された私はそこに並んだ料理を見て驚いていた。並んでいるお皿の場所から私とロロの二人分なのは分かるが、その量がとても多い。


 野菜中心で盛り付けもどこかのお店に入ったみたいにかなり凝っている。


「何かあったら読んでください」


 その言葉と共にマテオさんが去っていく。

 私とロロは豪華な料理の前に取り残されてしまった。


「こんなに食べられないよね」


 一人当たり、二人前か三人前はありそうだ。


「とりあえず食べられるだけ食べようか」


 始めて見る料理ばかりでどれを食べていいのか迷っていた。

 ロロは手元のスープの入ったカップに口を付けていたので、私も同じものを飲んでみることにした。

 野菜を煮込んで作ったスープのようだ。味付けは調味料が入っているのか、自然なうまさとは別のうまみがある。ルーナの食事に比べると濃い気もするが、それはそれでおいしい。


 私は目の前にある茶色の板のようなものを見る。


「これ、どうするの?」

「食べられるよ。食用の木の幹。割れやすいから手で食べるといいよ」


 割れやすいと言ったのは実際に触ってみて納得した。乾燥していて、一枚ずつがすごく薄い。私は恐る恐る口の中に放り込んでみた。さくさくとしていて、ジャガイモを薄くスライスして揚げたような食感で、お菓子を食べているような気分になった。私がそれだけを食べきったのを見ていたのか、ロロが優しい笑みを浮かべていた。


「食べたいなら俺のも食べていいよ」

「いいよ。他にもまだあるし」


 そんなにおいしそうに食べていたんだろうか。

 頬が赤くなるのを感じながら、次に食べる食べ物を探してみた。

 別の皿には球形の拳サイズのパンのようなものがあり、食べてみると中には橙色の果物のようなものがジャムのようにして詰められていた。


 見たことのない果物だったが、とても甘い。その周りの生地があっさりしていたため、中身の果物の甘さがより際立っている。おいしいけど、甘いので早めに食べたのは失敗だったのかもしれない。


 オーガは体が大きいけれど、こうして野菜一色なのは意外だ。十分な量のたんぱく質を補給できるのか、そもそもそういうのが必要ないんだろうか。


 多いと思った食事も、想像以上においしかったからか私達はあっという間に平らげてしまった。そして、満腹になったお腹を抱えて、あの草原に戻ることになった。


 それからロロとラウールとの待ち合わせ時間ぎりぎりまで進めたが、結局草原の十分の一程度しか調べることはできなかった。ロロは今日の分をレジスさんに報告していて、地図や分布図などは持ち帰るようだ。


 私達は洞窟の外でラウールと合流し、先にロロをブレソールまで送る。その後、ルーナまで連れていってもらった。もう辺りは日が沈みかけている。


「次は三日後だよな。時間は何時がいい?」


 私は朝食を食べ終わり、部屋に戻った少し後を指定した。


「分かった。それくらいに迎えに来る」

「お城まで来るのは大変だと思うからここで待ち合わせをしよう」


 私の提案にラウールは頷く。その後、彼は挨拶をしてその場を去っていく。


 その後、リリーとローズに帰ってきたことを伝えると、食堂で夕食をもらい、ローズの部屋に集合した。フェリクス様に話を通しているため、他の妖精にきかれて困る話でもないが、以前リリーと隠れて行ったという気まずさから話をするのを避けてしまったのだ。ポワドンでの話を聞かせると、二人は興味深そうに聞いてくれた。


「草マップか。結構大変そうだね」

「時間もゆっくりあるし、のんびり手伝うよ」

「頑張ってね。私もポワドンの前の洞窟までなら行けるし、美桜をブレソールかポワドンまでなら送るよ」

「ありがとう」


 その後、ローズ達と一階の浴場に行き、各々の部屋に戻ることになった。


 お風呂をあがり、濡れた髪を拭いながら、私は本棚の本に触れた。以前、ロロにもらった本で内容はかなり覚えていた。それ手に椅子に座る。


「何やっているの?」


 アリアが私の呼んでいる本を覗き込んできた。


「今日の復習。折角ついていってもあれだと時間がかかりすぎるし、私とロロが別れて確認したら、もっと早く地図が作れると思ったの。今日一日で随分あの国の植物も覚えたし、大丈夫だと思う。でも、できると言って間違ったらロロに迷惑をかけちゃうし、できるだけ確認しなくていいように予習と復習をしておかないとね」


 折角行くなら少しでも役に立ちたいと思ったのだ。ラウールやロロにも手間をかけさせているのだから。


「そっか。勉強熱心なのはいいことだと思うよ」


 アリアはそう言うと、優しく微笑んでいた。

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