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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第三章 オーガの国
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交換条件

「何用だ」


 男の手には鈍い光を放つ大きな斧が握られてる。私の上半身はゆうにありそうなくらいの大きさだ。国の入口を監視しているのだろうか。


「つい先日、知り合いがリシー川に物を落として、どうやらそちらの国に流れ着いたらしい。なので、それを探させてくれると助かる。もし、身分の証明が必要なら、ブレソールに問い合わせてくれ」


 ロロは男に臆することなく、淡々と答える。


「リシー川? もっともらしい理由をつけて、何かよからぬことをたくらんでいるんだろう。この国には貴重な鉱物がたくさんある。お前らの国には存在しないようなものもな」


「そんなことはしない。何なら監視をしてくれても構わないし、そちらで探してくれるならそれでもいい。だが、どうしても大事な物なので、一度でいいから確認をさせてほしい。頼む」


「その指輪は青い石か?」


 ロロが頷くと、男は少し待っているようにと言い残すと、岩影に姿を消した。


 洞窟の向こう側と同様に緑の多い場所だ。木の根元は見えない。その原因は目の前に岩の塊が点在し、この国の奥を見る事ができないためだ。中には私の慎重をゆうにこえるのではないかと思われるものまであった。隠れるには最適の構造かもしれないが、先程の人くらい大きければ隠れる事ができるかは微妙な気がする。


 私達はお互い顔を見合わせるだけで、何も言おうとはしない。見慣れない土地ということが私達の口を塞いでしまったのだろうか。


 しばらくして、岩陰から男が現れる。彼は拳を私達に突き出した。その手の中には青い宝石のはまった指輪が収められている。


「これか? 数日前に人間がその指輪を返してくれと言って尋ねてきた」


「それだ。返してほしい」


「断る」


 私達は顔を見合わせる。


「その持ち主の許可があれば返してくれるのか? それか本人を連れてきたら。対価が必要なら、相談させてくれ」


「そんなものは関係ない。俺が拾ったのだから、俺のものだ。本来なら追い返すところだが、俺は優しいから、こちらの頼みを聞いてくれたら返してやらんでもない」


「頼み?」


「この国のはずれにメサという薬草が生えている。それを取ってきてほしい」


「知っている?」


 眉根を寄せたロロに問いかけると、彼は頷いた。


「名前だけなら。ポワドンに生えているかなり希少な草で、万能薬として使われているとか」


「その気があるならついてきてくれ」


 男は洞窟から右手にそれて歩き出す。私達が来ると確信を持っているのか、振り返る事さえしない。


 私達は顔を見合わせると、歩き出すことにした。


 その先には森があり、そこから少し分け入ったところで彼は足を止める。


「契約成立ということで良いな?」


「ちょっと待て。ポワドンのものなら、自分で取りに行くか、買えばいいんじゃないか? 他にも誰かに頼むことだってできるはずだ」


「それは難しい。途中、壊れかけた吊り橋を渡る必要があって、私ではどうしても通れないんだよ。橋の復旧まで待つ余裕はない。このままでは私の息子の命が持たない。彼の病気の治癒にメサが必要なんだ。それを取ってこないなら、この指輪は返さない」


「でも、他国の薬草を無断で採取するなんて」


「国の許可はもらっているので大丈夫だ」


 だが、ロロの表情は厳しいままだ。


「何の病気だ? 俺の持っている薬で治療できるかもしれない。幸い薬ならいくつか手持ちがある」


「メサがどうしても必要なんだ。頼む」


 男がロロの腕をつかむ。ロロは傷みを感じているのか顔を歪ませた。


 男にとってはメサしか選択肢がないようだ。私達は顔を見合わせる。


 国からの許可を貰っているなら、そこまで神経質にならないで良い気がする。どうやらそれしか方法がないんだろう。


「分かった」


 ロロがそう答えると、男はついてこいと言い残し、より深い場所に入っていく。


「そっちに本当にあるんだろうな」


「ここを通っていくのが近道だ。お前たちも急いでいるなら、早く帰りたかろう」


 徐々に森が深くなっていくが、ある地点を境に、私達の影が濃くなっていく。そして、視界が開けると、目の前には岩でできた道が広がっている。道は狭く三人が並んで歩くのがやっとといった幅だ。その奥には彼の壊れかけているといった言葉を如実に表す橋がかかっていた。


「あの橋を渡れば一本道でつくはずだ。ところどころ岩が脆くなっているところもあるので、気をつけてくれ。私はここで待つとしよう」


「俺が行くよ。二人でここに残っていても構わないよ」


 私とリリーは目を合わせ、頷いた。


「行くよ。大丈夫」

「なら、誰が先に行く?」


 ロロはオーガを見据えた。


「この先にあるのは草原なんだよな?」


 男は頷く。


「私が先に行くよ」


 リリーはそう言うと、笑みを浮かべた。


「分かった。じゃ、俺が最後に行く」


 どうやら私の順番は二番目に自動的に決まったようだ。

 リリーが橋を渡り始める。橋のロープは時折、嫌な音を伝えながらもリリーを無事に送り届けた。


「無理だと思ったら引き返せよ」


 ロロに背中を叩かれ、橋を渡る。高いところは平気だったりするので、そこまで怖くないが時折足元がふらつき、ロープが茶色の粉を拭き出す。リリーに比べて見るからに体重の重い私が無事にたどり着けるかといった心配はあったが、どうやら杞憂だったようだ。


 私が何とか渡りきると、ロロは軽い足取りで渡ってきた。


 あっという間に私達のところまで到着する。


「ロロって運動神経良さそうだね」

「子供のときからいろいろなところに行ってきたから、足場の悪いところを移動するのは慣れているよ」


 彼の言葉に納得する。


「あとは薬草を採取して戻ればいいだけだ」


 私達は顔を見合わせると、その奥に進むことにした。


 それから先は岩場の道が続いている。まるで岩の中を歩いているようだ。


 凹凸のある岩に足場を取られないようにしながら進んでいくが、時折足元がふらつく。その度に身体の状態を立て直し進んでいく。


「きつかったら、この辺で休んでいてもいいよ」


「大丈夫」


 そう口にして足に力を入れた時、軽い衝突音が聞こえる。その数秒後、私の足の下にあったはずの岩が姿を消す。私の身体から血の気が引いた。


「美桜」


 それからはやけに目の前の映像がコマ送りのようにゆっくり見えたが、その割には目の前で起こっていることが理解できない。


 だが、何かが私に絡みついたのと、ロロとリリーの私を呼ぶ声だけは耳に届いた。


 このまま落ちるのだろうかと思った時、お尻と足に何かぶつかった感触があった。


「間に合った」


 リリーはその場に座り込む。


 私が自分の座っている場所を見渡すと、艶のある灰色の岩がいつの間にか広がってたのだ。


 私の体に絡みついていたリリーの蔦が姿を消す。


「立てるなら、こっちに来い。魔法で出したなら、いつまで持つか」


 私はロロの言葉に促され、心臓の音に体が支配されるのを感じながら、体を起こすと、リリーの傍まで歩いていく。


「すげえな。岩を出したんだよな」


 リリーは疲れを滲ませながら、微笑んだ。


「あまり使うなと言われているけどね。体力の消費が激しいの」


「ありがとう」


 リリーは何度も首を横に振る。


 リリーの出した岩が跡形もなく崩れ去り、崖の下に落ちて行った。


「しばらくここで休むか。これだと帰りもかなり危ないな」


 それから岩の山のほうにより、私とリリーの状態が落ち着くのを待ことになった。この辺りは石がボロボロなのか、ところどころに崩れ落ちた後が見られる。私達が休ん出いる間にもいくつかの場所で岩が崩れ落ちていたのだ。


 タイミングを見計らい、私たちはその場所に急ぐことにした。


 だが、先ほどのように足場の悪いところを歩かないように、ロロが足場を確認し、彼と同じ道を歩むことになった。


 岩道を歩いていくと、上に土が転がり始める。同時に、甘い香りが花に届く。その道の先には見渡すばかりの花畑が並んでいた。漏れる日の光が、より幻想的に草原を映し出した。私は美しさに見とれ、声を漏らす。


「この中から探せと。何日かかるんだよ」


 その美しさに感嘆の声をあげた私とリリーとは逆に、ロロは苦虫をかみつぶした顔をすると、頭を抱え込んだ。


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