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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第三章 オーガの国
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他国へと繋がる洞窟

 ロロは肩をすくめる。


「嘘ついても仕方ないと思うし、正直に言うよ。あのままあの人を放っておくわけにもいかないので探しに行くよ。彼が今のまま探しに行けば、確実に死ぬと思う」

「どこに?」


「リシー川はルーネにも通じているが、その大部分がポワドンを通っている。だから、リシー川を確認してから最悪ポワドンに行くしかないだろうな。できる限り手は尽くすが、無理だと思えば引き上るつもりだよ」

「私も一緒に行きます」


 そう名乗り出たのはリリーだ。

 ロロが不意をつかれたように彼女を見る。


「俺一人で十分だよ。深入りはしないし」


「でも、私だったらポワドンの近くまで転移魔法で行ける。昔、行ったことあるもの。時間の短縮にはなると思う」

「ルイーズに頼まなくていいのは助かるが」


 ロロは積極的ではないものの、リリーの提案に折れたようだ。


「分かったよ。リリーさんってラウールの言った通りの人だね」


 ロロは表情を和ませる。


 その言葉にリリーは瞬きする。


「なんて言っていたの?」

「怒らせると怖いけど、実直で、すごく頼りになると」


 リリーは驚いたように目を見張る。


「暴力女と思われていると思っていた」

「悪い印象は持っていないと思うよ。ずっと前に、ラウールがルーナにいた頃の話を楽しそうに聞かせてくれた。俺もいつか行ってみたいってずっと思ったくらいだから」


 ロロは屈託のない笑顔を浮かべている。


「ルーナに来てくれたら案内します。今の段階ではなかなか人間を積極的に招待するとはならないけど」

「期待しているよ」


 二人は顔を見合わせると、笑顔を浮かべていた。


 二人はあっという間に打ち解けていた。ロロもリリーも壁を作るタイプではないのでなおさらだろう。


「夕方になって戻らなかったら、ルイーズかテッサに伝えてほしい。おじさんが心配するから」

「分かった。気をつけてね」


 リリーがいるので、ロロが危険な目に遭うこともないし、私はここで待っていようと決める。

 リリーが転移魔法を使い、二人の姿が消える。私は小屋を覗き込む。


 先程の男性は眠り、その傍らでオーバンさんは心配そうに男性を見つめている。

 たまたま見つけた人間にそこまで心配するんだろうか。その反面、男性のほうはオーバンさんに対しては普通の態度で接していたのだ。


 その時、男性が叫び声をあげる。私は思わず小屋の中に入った。


「大丈夫ですか?」


 彼は私と目が合うと、顔を背けた。


「すみません。嫌な夢を見てしまって」

「気にしないでください」


 だが、彼は独り言を言うと、ひとりでに納得してしまったようだ。そうだったのか、と言い聞かせるように口にする。


「指輪を探している時、何物かに殴られたという話はしたと思いますが、オーガに殴られて、その時の夢を。こっちが悪いとはいえ」

「急に殴られたんですか?」


 彼の言葉には嫌な響きがある。


「森のほうで人影が見えて、何かの匂いがして。何だろうと思い立ち止まった時に。一撃を受けた後に、まだ意識があったので、回復魔法と同時に攻撃魔法を使ったのですが、彼らには効かずに驚きました」


「魔法が効かない?」


「対魔法のバリアを持っているという噂は聞いていましたが、まさかあれほど効果がないとは思いませんでした。その時の夢を見てしまって、驚かせてしまいましたね」


 頷きながらも、私の脳裏には嫌な予感が過ぎる。リリーの魔法が効かなければ、二人はどうなるのだろう。危険な目に遭ったりしないのだろうか。せめてこのことを伝えておいたほうがいい気がする。


「私、少し出かけてきます。オーバンさんはここに残ってくれますか?」


 私はオーバンさんが頷くのを確認して、小屋を後にした。


 私はロロの小屋を離れ、ブレソールまで戻ろうとした。


「どこに行くの?」


 その道中、鞄からアリアが顔を覗かせ、そう問いかける。


「リリーとロロに魔法が効かないと教えないと。あの人みたいになるかもしれない」

「二人がどこに向かったのか知っているの?」

「リシー川かポワドンだよね」


 ブレソールより遥かに南下した場所にある。歩いていくとどれくらいかかるのかは考えたくないが、そんなに近くはないと思う。


「歩いていく気なの?」

「だって私は魔法を使えないし、そうするしかないよ」


 ラウールやルイーズに頼むという選択肢もあるが、そこまでしていいのかは分からない。それに、まずはブレソールまで戻る必要がある。


「あなたの近くにいるのは誰だと思っているのよ。私が連れて行ってあげるよ。リリー達の場所までね」

「どこにいるのか分かるの?」


 アリアは頷くと、呪文を詠唱した。ラウールやリリーの転移魔法のときに光の壁が出てくるが、その光よりも心なしか透明感があり、煌めいている気がした。


 目を開けると、私の前に森が立ちふさがる。


「ここを右手に進んで、三本目の木のところで、前進したところにいるわ。説明が面倒だから離れたところに着地した」


「ありがとう」


 私はアリアの言った通りの道筋を辿っていくと森を抜ける。そこにはリリーとロロの姿がある。

 二人の名前を呼ぶと、二人は驚きながら振り返った。


「どうしたの? 美桜」

「あの人が言っていたけど、オーガは魔法が効かないんだって。攻撃をされた時も、急に攻撃されたらしいの。だから、気をつけて」

「そうなの?」


 リリーは驚いたようだが、ロロは顎に手を当て頷く。


「噂は本当だったのか。でも、お前はどうやって」

「何でもないの。二人が無事ならいいけど」


 ロロは私がここに来た方法を聞いてくるのではないかという気がした。ここに来た方法を問われれば、アリアのことを話さないといけなくなる。私はその場を取り繕う。


「二人はここで何をしているの?」

「それがね、ここを通ればポワドンなのだけど、さっきの人の話だとリシー川に指輪を落としたんだよね。なので、リシー川を渡るか、正式にここから通ってポワドンに行くのか迷っていたの。リシー川から入ると、不法侵入に当たるから」

「こっちから入ったほうがいいんじゃないかな?」


 不法侵入という言葉に思わずそう答える。だが、同時に疑問が湧きあがる。


「そうだよね。こっちからのほうが安全かな。正当な入口だし、急に襲われることはないと思う」

「でも、国土には自由に入れるんじゃないの?」

「基本的にはそうしている国が多いよ。商人たちも自由に通れるように。広い国土を持つ国なら特にね。でも、ポワドンは転移魔法で行き来できないようにしているんだよ。その辺りは個々の国の裁量だから、仕方ないけど」


 国によっていろいろだと感じさせられる。


 リリーは私の顔を覗き込む。


「美桜も一緒に来る? ここまで来てしまったのなら」


 予想外の言葉に戸惑っていると、ロロが私の肩を叩く。


「聞いて戻って来るだけだから、お前も来たらいいよ。バラバラに帰っても、あの人に気を使わせるだけだと思う。帰ってくるたびに挨拶をしないといけなかったらしんどいだろうしね」


 ロロの提案に私も同感だ。三人一緒に戻れば、彼が挨拶をするのも一度でいいのだ。


 ロロが洞窟をのぞきこみ、眉根を寄せた。


「この洞窟、下りになっているな」


 ロロは小瓶を私に差し出した。


「気休めにしかならないと思うけど、念のため虫よけを塗っておいた方がいい。前のやつよりもかなり強いから、少し肌に痛みを感じるかもしれないが、害はないよ」


 言われたとおりにその小瓶の成分を肌に塗った。ロロが忠告をしたように、塗ると肌の表面に焼けるような刺激が走る。


 私はその小瓶をリリーに渡した。彼女もそれを手のひらにとったとき、顔を引きつらせた。


「エルフでも問題ないとは思うんだが、刺激が強かったかな」

「大丈夫」


 リリーは声を震わせながらも全身にそれを塗る。

 私が瓶をロロに返すと、彼はそれをバッグに収める。


「ロロは?」

「さっき塗ったから大丈夫。何かに噛まれたら、即言ってくれ」


 私もリリーも頷く。


「行くか。壁は念のため触らないように」


 ロロの言葉に頷き、その先に進むことにした。

 ロロが先頭を、続いて私とリリーが並んで歩く。

 洞窟の中はひんやりとしていて冷たい。春のような気温の外とは異なり、温度が数度は一気に下がった気がする。


 リリーが呪文を詠唱し、光の球が私達の目の前に現れた。

 中は鍾乳洞のように光沢のある壁で、至る所で水滴が滴り落ちる。

 目の前を水滴が横切る。

 私達は足音だけが響く空間を淡々と歩き続ける。

 どれくらいの時間を歩いただろうか。足が徐々に重くなってくる。


 リリーを見ると、彼女の息は随分上がっていた。逆にロロは呼吸一つ乱していない。


 そのロロの足が止まる。


「もうすぐ出口だ。何かあったら逃げろよ」


 ロロは肩越しに振り替えると、そう告げる。そして、淡々と歩き出す。

 視界の隅に光が見え、それが徐々に大きくなる。

 洞窟を抜けた直後、私は目の前を歩いていたロロとぶつかる。

 ロロは上を見上げ、固まっていたのだ。


 彼の視線の先に何があるのか。私は彼の視線を追ってから気付く。

 私の身長の倍くらいある巨大な何かが眼前に立ちふさがっていたのだ。燃えるような赤い肌をした男は私達を射抜くような目で見つめていた。


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