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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第二章 獣人の国
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大陸を繋ぐ石

 神殿が完成すると、彼女には大事な役目がある。その重圧を感じてるのだろう。彼女は軽く失敗は許されないと言っていた。そうした結論に至った理由は、今まで誰もその儀式に失敗したことがないからだそうだ。だからこそ、より必要以上の重荷を抱えているのだろう。


 でも、この優しい妖精達がたくさんいる国の神様がそんなに怖いとは思えないけれど。


 辺りに妖精の姿は多いが、一足先に神殿に戻ったはずのエリックの姿はない。


「エリックは?」


「多分、装飾品に最後の仕上げをしているんだと思う。入らない約束だから、お城に戻ろうか」


 彼女は神殿の奥にある部屋を指差した。そこには灯りがついているが、暗黙の約束となっているのか誰も近寄ろうとしない。


「ただいま」


 聞き馴染みのある声に振り替えると、金色の髪をタオルで拭う、リリーの姿があった。彼女は着替えたのか、服は全く濡れていなかった。


「どうだった?」


 ローズは心配そうにリリーに問いかける。


「大丈夫だよ。みんな無事に避難させたし、こっちの国に来たい人は連れてきた。ポールも宿舎にいるよ」


「良かった。お疲れ様」


「ありがとう」


 リリーはローズの言葉に微笑んだ。そして、神殿内を見渡す。


「でも、すごいね。本当、見違えるくらいに綺麗になったね」


 リリーはため息交じりに辺りを見つめていた。


「そういえば、あの入口にある像を作った人も明日の儀式に来るらしいよ。ラウールからそう連絡があったんだって」


 神殿を出たとき、リリーがラウールの持ってきた像を指差してそう告げる。


「そうなんだ。ラウールが来たの?」


 リリーは首を横に振る。


「通信で」


 と言いかけて言葉を噤んだ。


「口で言うよりは実際に見せたほうが早いよね。後で教えてあげるよ。お城にはあるから。フェリクス様は結局一度もみないけど、どこに行ったんだろう」


 リリーは辺りを見渡した。


「多分、どこかでのんびり過ごされているんだよ。おっとりした人だから」


 ローズの微笑みに、リリーは苦笑いを浮かべた。


「まあ、フェリクス様はそういう人だよね。いい意味で、おおらかというか。わたしはお腹すいちゃったから食堂に行くね」


 わたしとローズは顔を見合わせる。


「私達も行くよ。まだ朝ご飯を食べてなかった」


「なら一緒に行こうか」


 私達がお城に続く道を半分程歩んだ時、見慣れた少年がかけてくるのに気付いた。


 彼は私達の前で足を止めると、にこりと笑う。


「始めてきたけど、すごく綺麗なところだね」


「ありがとう。ポールはごはんを食べた?」


 私達の問いかけに、彼は頷く。


「遊ぼうよ」


 リリーは彼を見て、目を細める。


「わたしは街を案内するよ」


 彼の手を引いたリリーにわたしもローズも少し驚いた。朝ご飯を食べていないと知っているためだ。その反面、彼女ならそうした行動に出たとしても納得できる気はする。


「なら、あの町はずれにある広場に集合しよう。ポールはお菓子か飲み物はいる?」


 ローズの提案にポールは何度も頷いた。


「一緒に行く? それとも何でもいい」


「何でもいい」


 元気いっぱいに彼はそう伝える。私達はそこで二手に分かれ、私とローズは食堂に、リリーはポールと一緒に辺りをうろつき、その広場に戻ることになったらしい。


「リリーってすごくしっかりしていて優しいよね」


 城の中に入った私はローズにそう言葉を漏らす。


「リリーはいろいろ苦労してきたからなのかもしれないね。いつも周りの人の気持ちばかり考えているから」


 ローズはそう言うと、寂しそうに、それでいて優しく微笑んでいた。


 親を幼い頃に失くしたというのは彼女から聞いた。だが、彼女はそんな態度を微塵も見せず、自分をより良くしようとする。


 一人でいるときには勉強をしているし、部屋にいないときには魔法の練習をしているという話も聞いたことがある。


 彼女が無理をしていなければ良いけれど。


 私達は食堂に行き、持ち出せそうな食事を三種類、そしてデザートと飲み物も注文する。それらを布の袋に入れ、リリーと待ち合わせをしている場所に急いだ。


 待ち合わせ場所には既にリリーとポールの姿があり、二人は石に腰をかけ会話をしている。


 町はずれの広場と聞いてもぴんと来なかったが、そこはわたしがおじさんを助けた場所だ。


 もう随分と時間が経ってしまった気がする。私が日本からいなくなってどれくらいが経過したんだろう。


 私達は石の上に座ると、朝食を食べることにした。ポールには器の中に色とりどりのデザートが入ったものを渡す。彼は目を輝かせながら食べていた。


 私達は食べ終わった後、そこでしばらくくつろぎ、町にもどることにした。


 立ち上がり、城へ帰ろうとしたとき、森の中に人影を見かけた。その風貌からフェリクス様ではないかと思ったが、次の瞬間には既に彼の姿はもうない。見間違いだったんだろうか。


「どうかした?」


 リリーの問いかけに私は首を横に振る。


 城の近くに戻ってくると、アンヌにはちあわせをする。どうやらポールは無断で宿舎を飛び出したらしく、ポールを探しにやってきたらしい。ポールは宿舎に戻ることになり、そこで別れた。


 私達はその足でお城に戻ることになった。


 部屋に戻るために階段を上がろうとするとリリーが私を呼びとめた。


「時間があるなら通信室に案内するよ」


 すっかり忘れていた。


 私はリリーの言葉に甘え、案内してもらうことになったのだ。


 通信室と呼ばれる部屋はお城の一階の休憩室の隣の部屋だ。ドアが締め切られており、中が見えなくなっている。そのため、今まであまり気にかけたことはなかった。


 リリーはその部屋の扉を開けた。そこは人が私が暮らしている部屋と同じくらいの広さで、部屋の中央には透明な石が飾られている。朝、アンヌが手にしていた石とよく似ている。その脇には椅子が置いてあった。


 私の後に入ってきたローズが扉を閉める。


 リリーは部屋の中央に行くと手をかざした。


「この石に手をかざせばこの石と契約をした石のある場所との会話ができるの」


「契約?」


 わたしが首を傾げると、リリーは少し考えているようだ。


「簡単に言うと石と石の間に魔法でつなぐの。その線は見えないものだけど、この二つの石で会話出来るとね」


「なんとなく分かる」


 彼女の話から電話線をイメージしていた。


「でも、魔法でつなぐなら他の石でもいいんじゃないの?」


「他の石だとうまく言葉が伝わらないの。この石は昔大きな巨石で、それが拡散して世界に広がったとされているの。だから、ずっとこれを使っているんだ」


 何か様々なものに多くのいわれがあって面白い。日本でもそういう物事に対してまつわる話はあったとは思うが今まで当たり前にあったため、なぜそれが生まれたのかといったことは考える機会はほとんどなかった。


「ラウールとかにも連絡できるの?」


「可能だけど、ラウールやエリス自体はこの石を所持していないから、お城か町に繋がるとは思う。石同士でつなぐから、誰が出るかは分からないしね」


 固定電話のようなイメージだ。石のある場所とならロロ達にも連絡が取れたりするんだろうか。


「お金はかかかるの?」


「かからないよ。でも、使いすぎると壊れてしまうから、私用で使う人はあまりいないみたい」


 ある程度希少なものなのだろう。どうやら簡単に連絡が取れるというわけでもないようだ。


 私達が通信室から出たときに、ちょうどお城に入ってきたフェリクス様にはちあわせをする。リリーはクラージュの獣人を連れてきたことを彼に説明していた。


 彼は優しく微笑むと「分かった」と口にし、女王様には彼から伝えておいてくれると言ってくれた。それから、こちらにきた獣人たちに挨拶をすると、再びお城を出て行ってしまった。


 私達はそんなフェリクス様を見送り、各々の部屋に戻ることになった。

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