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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第二章 獣人の国
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薬草の管理

 お城の右手には神殿に繋がる道があるが、その脇に細い道があるのには気付いていたが今までその奥に入ったことはない。私はおじさんを助けた時以外は、基本的に良く行く場所しかうろ付かない。それにお城の外に出る時はリリー達と一緒が多かったのだ。


 リリーが入っていたのはちょうどその道だ。陽の光は差し込むし、歩くのに不自由はないが、明るいとは言い難い。


 だが、森に差し込む陽の光が徐々に強くなっていく。そして、私の視界にも森の先にあるものが映る。


 森を抜けた後の光景に私は声を出すのを忘れて辺りを見渡していた。見渡すばかりの菜園が広がっている。国として管理をしている分、広さは半端ない。個人で持っているロロ達の畑と広さを比較するのはおかしい気がするが、その比じゃない広さがある。


「これ全部薬草なの?」

「そうだよ。ここに名前が書いてあるよ」


 リリーの指した板には薬草と思しき名前が記してある。


「いつか美桜に見せたいと思っていたんだけど」


 彼女はその言葉と共に、わたしを菜園の奥地に連れ出した。そこにはエメとシリルと書かれた看板が並んでたてられている。


「作り方自体は私達以外は知らないけど、一応栽培もしておこうとなったの」

「薬草と一緒に育てて大丈夫なの?」

「もともと生えているものだからね。それは大丈夫」


 わたしが来て、メモに書いてあることを実践して、それがこうした結果を産むと思うと少し不思議だ。

 その時、リリーが私の傍に来ると優しく微笑んだ。


「診療室で管理しているんだけど、朝方だけで良いから、誰か一人手伝ってくれる人を探しているんだって。美桜が興味があればやってみない? 主に植物が病気にかかっていないか、枯れている植物がないか確認するの」


「でもわたしが役に立てるかな 植物の病気の見分け方も分からないかも」

「大丈夫だよ。誰に頼んでもどうせ薬草の名前や見分け方を含めて教えないといけないんだから、その辺りは覚悟の上だよ」


「やってみたい」

「なら、ジョゼさんに話に行こうか。きっと喜んでくれるよ」

「うん」


 わたしはリリーの言葉に頷き、お城に戻ることになった。


 私が手伝うという話をジョゼさんは快諾してくれ、私はその翌日から手伝うことになった。そして、しばらくの間はリリーも手伝ってくれるそうだ。たまに彼女はこの薬草園の手伝いもしていたりするらしい。彼女はローズに勉強を教えたりもするし、何でもできると感じていた。




「起きて」


 わたしが重い体を起こすと、リリーが覗き込んでいた。

 彼女の顔を見て、今日から薬草園の手伝いをするのを思い出したのだ。


「ごめん。すぐに着替えるね」


 私はベッドから起き上がると手際よく着替え、外で待ってくれているリリーと合流する。


 私達は起きてそのまま城を出て行く。もう既にお城の妖精は動き始めていて、掃除をしたり、荷物を運んだりと新しい一日を迎えるための準備をしている。お城を出ると、昨日の薬草園に急いだ。


 もうざわめきのある町とは違い、そこはまだ静寂に包まれ、夜の名残を残している。


 改めてみると、これをチェックしていくのは意外と大変かもしれない。


「病気の発生自体はね、魔法で確認できるんだ」


 リリーが呪文を詠唱すると、農園の奥できらきらと光る。リリーに促されて、その奥まで行く。

その光の先にある植物の葉が赤く変色していた。


「例えばこうなってしまうともう薬草には使えないの」


 彼女はその薬草を根から抜き、かごに入れた。


「根から抜かないといけないの?」

「状態が軽ければその部分だけで良いけれど、この呪文に反応するようになったらまず無理。それだけ薬草自体が弱っているということなの。できるだけ質の高い薬を作るためにはね。可哀想だけどね」 


 リリーは寂しそうに笑う。


「早めに気付くには目で見てその悪い部分だけを取り除く必要があるの。それを美桜にお願いしたいの」


 思ったよりも難しいかもしれない。それをわたしが見抜くことなんてできるんだろうか。


「病気に弱い植物を一応教えておくから、そこを中心に見たらいいよ。それに完璧は無理だから、見落としていたとしても気にしないでね。半日で病気に感染して枯れてしまうということもあるから、ある程度は仕方ないの」

「半日」


 それだと朝見ても翌日には枯れてしまっている。

「夕方にはジョセさんが魔法で確認するからそんなに考えなくてもいいよ。この植物も昨夜のうちに悪くなったんだろうね」


 植物を見ると綺麗だとか、その美しさを真っ先に感じ取る。この世界の植物は私が知る限りすごく綺麗だし、身体に良い作用をもたらすものが多い。だが、その長所の裏には影の部分が同時に存在しているんだろう。


 責任が重いのをひしひしと感じながらも、できるだけ頑張ってみようと決めた。


「とりあえずやってみよう。しばらくはわたしも一緒に行くから、分からないことがあれば聞いてね」

「ありがとう」


 わたしは彼女から病気にかかりやすい薬草を教えてもらい、一つずつ確認していくことにした。


 だが、その植物が立ち並ぶ場所まできた時、ある一点で妙な違和感を覚えた。うまく言えないけれど、空気が淀んでいるような、その辺りだけ空気に異質な色がついている気がしたのだ。気がしただけなのでもちろんそれがはっきり見えていたわけではない。


 わたしがその部分を念入りに見ると、緑の葉が白い棘のようなもので覆われている。

 わたしはリリーを呼び、聞いてみる。

 彼女はそのを見て、顔をしかめた。


「これもそうだね。でも、葉の先端しか発病していないみたいだから、これくらいなら枝を切れば大丈夫かな」


 彼女はその葉のある枝をざっくりと切り、きったものをかごに入れる。その籠は薬草を摘むためではなく、病気の薬草を入れるために持ってきたらしい。


「病気によって進行度に差があってね、その辺りもおいおい教えるね」


 土地の三分の二程を確認したとき、水平線上にあった太陽が高い位置までのぼりかけていた。リリーは手を止めて私を見た。


「続きはご飯を食べてからにしようか」


 私達は籠を薬草園の隅に残すと、お城に戻る。そして、ローズと待ち合わせて食事を一緒に食べた。


 それからわたしとリリーの二人が薬草園に戻り、残りの三分の一をチェックする。 


 私が見つけたのは最初の病気の葉一枚で、リリーも二つほど病気にかかった葉を見付けていた。


 それを籠に収め、リリーと一緒にジョゼさんに報告しにいく。


「ありがとう。助かったよ」


 報告に来た私を明るい茶色の髪をした長身の男性が出迎えてくれた。


 リリーが簡単に報告するのを私は傍で聞いていた。具体的にどこで採取したのか、どの部分を取り除いたのかを事細かに伝えている。


 彼女の報告を終わるのを待ち、一緒に診療室を出た。


「わたしはこのままクラージュに行って、アンヌ達を迎えに行ってくるよ」


 彼女は朝から私に付き合ってくれたのにも関わらず疲れを滲ませた様子もなく、笑顔で城を後にした。


 しばらくしてアンヌ達がクラージュに戻ってきて、またいつもより賑やかな日々が始まった。でも、同時に不安はある。彼らはいつまでラウールの言った事を護ってくれるのだろう、と。そして、今、クラージュの大人が多くこの国に来ているからこそ、向こうに残っているポールたちのことが気になるのかもしれない。


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