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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第二章 獣人の国
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見つからない探し物

 私達がたどり着いたのは河原だ。水が流れ、辺りには石が転がっている。

 乾いた場所とは違い、湿気のある空気に喉の辺りがホッとするのが分かる。


「テオがああなのは仕方ない側面もあるんだよ。今でこそ平和だが、争いが多い国だったんだ。だからこそ、エスポワールから人を受け入れても、昔の感覚が消えないんだろうな。何かトラブルが起こった時に一気に鎮められる魔術師でもいればいいが、そういう話も聞かないからな」


 自分達の身を護るために、あそこまで強い警戒を敷いているということなんだろうか。そう考えるとあの街に対する見方も変わってくる。富を求めるのもそうした側面があるのかもしれない。


「テオから他の領地への移住者も少なくない。だからこそ、ずっとそのままとはいかないとは思う」


 私はラウールの言葉に頷いた。そうなったとき、このクラージュはどうなるんだろうか。


 私達はアンヌのおじいさんの言っていたものが隠せそうな場所がないか見渡しながら、リリーを探す。彼女たちがこの辺りを探しているのであれば探していけばどこかで彼女たちと出会うのではないかと思ったのだ。


 そしてしばらく歩いた時、前方から声が聞こえる。


 顔をあげるとリリーとポールの姿があった。


 二人は私達のところまで駆け寄ってくる。


「会えて良かった」

「ポールがね、ラウールの足音が聞こえると言っていたの」


 リリーとポールは目を合わせて笑う。


「上流からこの辺りまでざっと隠せそうなところを探したんだけど、見つからなくて。穴を掘って探すしかないのかな。正直、そうなったらきりがないよね」


「アンヌになら分かるもの、か」


 私はそうつぶやいた。


 だが、当の本人には思い当たることはないらしい。恐らくアンヌに在り処を伝えないことで、その物質を護ろうとした可能性もあるが、このままだと見つからないままになってしまいそうだ。


「だが、むやみに穴を掘っても時間を浪費するだけだな」


 ラウールは眉根を寄せ、辺りを見渡した。


 川が流れているためこのあたりは若干下り調子になっている。辺りには砂利道が広がり、物を隠せそうな場所があるとは思えなかった。川が近いということは雨が降ればこの辺りは水がしたたる可能性も少なくない。


 可能性があるとしたら川の傍に広がる森だ。だが、この辺りも多量の雨が降れば、土砂が流れ落ちてしまうだろう。そうなれば、この山の多い国で探すべき場所は限られるのかもしれない。


「見つからなかったら、その緩衝地帯をエスポワールの国として買い取るのはできないの? あの国ならそれくらいなら出せるよね」


「金額自体は出せるが、俺の一存では無理だな。そもそも国として買い取るとテオの人間も出入りが自由になる。そうなれば状況は今より悪化すると思う」


「そうか。お金を持っていて、人間から攻撃されなさそうな種族が買い取ってくれればいいけれど、それも難しいか」


「そのメリットもないからな。もっと別に良い場所もある」


 ラウールも難しい顔をしていた。


 リリーとラウールがいろいろ話し合っていたが、やはりそれを見付けるしか解決法がないようだ。


 私達は再び探し始める。一度リリー達の探した場所を含めて、私達はまとまって探すことになった。


 身落としのある可能性と、バラバラで探すよりはまとまって移動し、その場所をしらみつぶしに探したほうがよいのではないかという話になったのだ。


 岩場の影や窪み、時には川の中に至るまで目視で確認できるところは大方確認するが、肝心の宝物はなかなか見つからない。


 陽が傾き、差し込む光が徐々に弱くなっていた。


「そろそろ帰ったほうがいいかもね」

「そうだな」


 リリーの言葉に、ラウールはすっきりしない表情でを浮かべる。彼は何かに急かされるように辺りを見渡していた。

 彼がすぐに帰ると言い出さなかった気持ちは分からなくはない。


 何かヒントでもないだろうか。私はそう思い、彼らから離れて辺りを見渡した。その時、私達の視界に広場のようなものが目に入る。


「あそこにある広場のようなものは何?」

「子供たちの遊ぶ広場なんだって。ここに来た時、ラウール達がきたのに気付いたから先に合流することにしたの」


 リリーとポールは目を合わせ、肩をすくめる。


「最後にそこを確認するか」

 ラウールの一声で私たちはその広場に行くことになった。


 その広場は遊ぶ場所と言われている通り、芝が生え、きちんと整備されている。だが、その整地された場所に銅像のようなものが置いてあるのに気付いた。


「あの像は?」


 私がその像を見た時、心臓が鳴る。私はその感覚をどこかで味わったことがある。私はポールの案内を待たずに中に入るとその像の前に立った。


 私はその実物を前にし、どこで見たのかを思い出した。あのラウールの持ってきたという妖精の神殿に置いてあった像だ。だが、厳密には違う。あの像のような繊細さはない。だが、その躍動感というか、像に命の存在を感じたのだ。


「どうしたの?」


 いつの間にかリリーたちも傍に来ており、リリーが私の肩をぽんと叩く。


「この像ってラウールの持ってきてくれた像に似ているね」

「言われてみると確かに似ているよね。これって同じ人が作ったの?」


 振り返ると、ラウールは戸惑いながらその像を見つめていた。


「その像を作ったのはアンヌお姉ちゃんのおじいさんだよ。おじいさんは手先が器用で、こうした像を良く作っていたの。この国の守り神なんだって。この国にはアンヌのおじいさんの像がいくつかあるの」


 目を輝かせる少年の言葉に私は笑みを浮かべていた。

 私達は広場を探したが、それらしいものを見つけることは出来なかった。


 私達はアンヌのところに戻る。リリーとポールが探した場所をアンヌに事細かに報告していく。他の獣人たちの捜索の結果も芳しくなく、それらしいものは見つけられなかったようだ。


「わざわざ悪かったね。あとはこっちで探してみるよ」

「早く見つかるといいですね」


 私の言葉にアンヌはありがとうと告げる。


「明日、明後日の話ではないから、おいおい探せばいいさ。ただ、国に話を通すのは、買い取れるだけの資産が集まってからになるとは思う。もし、その間にテオの人間から攻撃されたり、何かあれば、俺に言ってくれてもいいし、リリーに伝えてくれ」


 リリーは突然の指名に驚いたようだが、こくりと頷く。


「分かった。感謝するよ」


 私達は彼女たちが妖精の国に戻ってくる三日後に、再会の約束をし妖精の国に戻ることになった。


 アンヌの家を出ると、ラウールが短く息を吐く。


「このまま送っていくよ。町の外まで歩くのもあれだしな」

「ラウールは自由に移動できるのか。なら、お願いしようかな」


 私達はラウールに送ってもらい、妖精の国に戻ることになった。


 彼の呪文で妖精の国まで戻ってくる。もう家々に明かりがともり出す時間になっていた。城の部屋にもぽつぽつと灯りがともる。


 お礼を言おうとラウールを見ると、彼と目が合う。


「お前は薬師にでもなるのか?」


「そういうわけじゃないけど、薬を作っていると楽しいかな。いろいろと知識が足りないのは嫌と言う程分かったけどね」


 その言葉にラウールは目を細めた。


「お前にその気があるなら、知り合いの薬師を紹介するよ。妖精の国と伝わってくる薬も、取れる薬草も違うし、勉強にはなると思うよ」


 知らないというのは怖いことだと身に染みた。そう考えると、少しでも知識をつけるのは必要だと思ったのだ。


「紹介してほしい」

「なら、明日、迎えに行くよ。昼は用事があるから、朝早くになるけど」

「朝ってどれくらい早いの?」


 ラウールが口にしたのは私が起きるよりも早い時間だった。


「私は早起きだから起こしてあげる。でも、大丈夫かな。美桜は文字が十分に読めるか分からないの」


 リリーは言葉を選びながらそう口にする。


「こいつは別の世界から来たらしいな。でも、言葉は普通に話せている気がするが」


 私はかいつまんで事情を説明した。


「そんなことがあるのか。その辺りはうまく伝えておくよ」

「でも、大丈夫かな」

「口は悪いけど、悪い奴じゃないよ」


 その言葉にリリーが笑い出す。


「ラウールに口が悪いと言われるなんて、その人可哀想」

「お前はあいつに会ったことがないから、そう言えるんだよ」


 ラウールはすごく口が悪い。見た目が無駄に整っているから、その言葉遣いにギャップがある。彼より口が悪い人なんて想像がつかない気がする。


 私達はラウールとその場で別れ、お城まで歩いていく。城に到着後、まずは女王様の部屋に行く。帰ってきた事を伝えるためだ。彼女は笑顔で出迎えてくれる。リリーはクラージュとテオの件には一切触れなかった。言わない方が良いと判断したのだろうか。


「夕食のときは呼びに来るね」


 私はそう行ってくれたリリーと部屋の前で別れる。そして、その足でベッドに腰を下ろした。


「何かいろいろなことがあったな」


 急にだるさを感じ、、そのまま横になる。


 だが、アリアのことが脳裏を過ぎる。体を起こし、バッグをあけるが、アリアの姿はどこにもなかった。彼女はかなり器用に転移魔法を使いこなせるようなので、心配はしていないけれど。


 いつもローズとリリーと一緒に食事を食べに食堂に行くが、その日の夜はローズは早めに床についたらしく、リリーと二人だった。


 部屋に戻ってくるとアリアがいつの間にか戻ってきていて、私のベッドで熟睡していた。


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