各々が秘めた想い
リリーとルイーズは辺りを目を輝かせながら見まわしていた。そんな二人をローズとラウール、ロロ、エリスが見守ってた。見守るといってもその表情は人によって違っているけれど。
「すごい。こんな風になってたんだ」
リリーは花の国に興味があったのか辺りを見渡していた。
わたしが帰ると決めた翌日、セリア様の提案でわたしの友人たちがやってくることになったのだ。
まだ彼女たちにはわたしがもとの世界に戻ることは伏せていた。
「どうぞ」
シモンとセリア様が一緒に部屋の中に入ってきた。
シモンの手にはカップが握られていた。
「さっき下で会ったのよ。美桜に会いに来たらしいの」
セリア様はシモンからプレートを受け取る。シモンはその足でわたしの隣に腰掛けた。
城の一階は誰でも自由に出入りできるようになっている。二階以降はわたしたちの部屋があるため、誰でもは出入りできないようになっていた。
セリア様は手際よく、人数分の飲み物を並べていった。
リリーは辺りを見渡した。
「でも、本当にきれいだね。こういう言い方はどうかと思うけど、もっと廃れているのかと思っていた」
「わたしたちが国に入った直後はそうだったんだけどね」
わたしはそのときのあらましを簡単に伝えた。
リリーたちは興味深そうに聞いていた。
「すごいね。それほどこの国に王が必要なんだ。まあ、他の国とは比べて特殊なんだろうけど。美桜もやっぱりここで暮らすの?」
わたしはその問いかけに言葉をのんだ。
今、伝えようと思ったのだ。
「わたし、もとの世界に戻ることにしたの。向こうには家族もいるし、おばあちゃんにお母さんのことを話したい。それにお母さんに指輪を届けたいと思っているんだ。戻ってきたいとは思っているけど、おばあちゃんがダメだと言ったら、もう戻ってこれないと思う」
わたしはできるだけわかりやすく、その事情を伝えた。
「そっか。向こうにも家族がいるんだもんね。いつ戻るの?」
「三日後らしい」
「三日後?」
リリーは目を見張った。
「だったらそれまでわたしもこの国にいていい? ローズもそうするでしょう?」
「そうだね」
ローズは目を細めた。
「わたしもそうしようかな。ロロも残るでしょう?」
「まあ、用事もないし、いいよ。でも、そんなに大人数で泊まったら迷惑かけないか?」
ロロは苦笑いを浮かべた。
「それは大丈夫よ。使っていない部屋も多いもの」
「ラウールとエリスはどうする?」
わたしは思わず部屋のすみにいた二人に視線を送った。
「いや、俺たちは帰るよ。まだ国のほうもごたごたしているしな」
「そっか」
「その前日になら少しだけ時間を作るよ。挨拶くらいはしたいから」
「ラウールはまじめだね」
「いろいろとあの人をほったらかしてきた責任を取らないといけないから」
ラウールはそう苦笑いを浮かべていた。
あの国は目立った混乱もなく、今までの状況を収束させつつあるようだ。
そこにはラウールを始めとし、ルイーズのお父さんや、様々な人の力があってこそだろう。そのわたしがあった人たちの多くがラウールを慕っていた。
ラウールとエリスはお茶を飲むと帰っていった。
ほとんど話す機会もなかった。
「もう少し長居していけばいいのに」
二人が去った後、ルイーズは苦笑いを浮かべた。
「美桜が帰るのは仕方ないけど、戻ってくるのが早くて、二、三年後か。ラウールと離ればなれになっちゃうね」
「え?」
わたしは思わずリリーを見た。
わたしはラウールが好きだとは彼女に一度も言っていない。
「見ていたらわかるよ。あの人は気づいていないだろうけどね」
そうルイーズとリリーは目を見合わせて微笑んだ。
ローズは驚いたように目を見張っていた。
「本人には言わないでね。わたしなんてつりあうわけがないもの」
「つりあわないわけがないと思うけどね。二人とも王族の血筋だし、ラウールも美桜のこと大事に思っていると思うよ」
「それは友達としてなんじゃない」
「そうでもないと思うけどな。ただ、跡継ぎの問題もあるだろうけどね」
「そうだね」
わたしは王妃にはならなかった。けれど、ラウールはそうはいかないだろう。
彼はエリスに負担のかからない人生を歩むことを望んでいたのだ。
「でもまだ結婚なんて先の話だよ」
「ラウールはそうはいってられないんじゃない? 今の王は結婚が遅かったけど、エリスの母親と婚約はしていたわけだし。ラウールももう婚約はしていてもおかしくない歳だもの。というか、わたしが打診されているのよ。ラウールと正式に婚約しないかってね」
「そうなの?」
わたしはルイーズを見た。
今までの流れだとそうだろう。
彼女が王妃になるのが一番だ、
きっとよい王妃になる。
でも、ルイーズとラウールが婚姻したとき、わたしは祝福できるのだろうか。
いや、きっとしなければならない。
「いろいろ反対もあるだろうけど、美桜さんとラウールならうまくやっていけると思うけどな」
「そもそもそれは困るわよ。エリスが王位につくならともかく」
いつの間にか戻ってきていたアリアが難しい顔で会話に入ってきた。
「やっぱり王家の人間だから難しいの?」
そのルイーズの問いかけにセリア様が笑った。
「美桜が跡を継ぐかはともかく、跡継ぎを産んでもらおうとでも思っているんでしょう。ラウールが向こうの王になれば、子供も向こうの国の人間になる可能性が高い。サラが亡くなったあとの、次の王に見合う能力の持ち主なんて今のところ見当たらないもの。人口も数えるほどしか残っていないから」
「そうなんですね」
「まあね。あなたもそのうち誰かと結婚しないといけないわね」
「わたしは結婚なんてしないわよ。そもそも誰とするのよ」
アリアは大げさに肩をすくめた。
完璧な彼女が誰かに惚れるというのがいまいちイメージがわかない。
ラウールとならお似合いかもしれないが、二人はそういう雰囲気ではない気がした。
「ノエルとか?」
「何言っているの?」
アリアは顔をしかめた。
「だってあなたが唯一逆らえない人でしょう?」
セリア様は目を細めた。
「そんなことないもの」
「悪くないと思うけどね」
「でも、ノエルさんって向こうの長老の息子ですよね。跡を継ぐのなら、サラ様とは一緒になれないんじゃないですか?」
わたしは驚いてリリーを見た。
そうだったんだ。
だからこそ、お父さんと親しい付き合いがあったのだろうか。
「向こうは弟が跡を継ぐのよ。ノエルが拒否したの。その理由は王になったら個人としてサラを支えられないから。長老もそのことは理解しているわ。寿命が極めて長いから親のほうが長生きする可能性が十分にあるということもあるんでしょうけど」
セリア様はアリアをからかうような目で見ていた。
そんなセリア様をアリアは頬を膨らませて睨んでいた。




