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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第六章 人間の国
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シモンを救う唯一の方法

「あなた、まさか」

「少し待っていて」


 私はアリアにそう伝える。


 今の場所を知りたい。

 私たちはどこにいるのか。どうやったら逃げ出せるのか。

 シモンの居場所も。

 だから、もう一度、力を貸してほしい。




 確かに前は力を貸してはやった。

 だが、王でもないお前に私が再び力を貸す必要があるとでも?



 ないでしょうね。でも、今はあなたの力が必要なの。

 だから、お願い。



 断る。私はあいつらとは違う。お前のために力を貸す義理はない。



 私は唇を噛んだ。

 そして、深呼吸をする。



 なら、命令するわ。力を貸しなさい。



 私に命令するなど、サラが聞いたら腰を抜かすな。

 お前の父親でさえも。



 私はあなたがいろいろな場所を探知できることしか知らない。向こう見ずなことをしている可能性もある。でも、このまま言いなりにはなれない。シモンたちを救い出して、国に戻る。



 お前たちは国に戻ればいい。だが、この国の人間はどうだ?

 この国を離れない限り、逃がしても、また捕まる。

 お前たちのエゴに巻き込むのか?



 彼の言葉にドキッとした。

 このまま王妃の言いなりになるのがいいのだろうか。

 ルイーズがルナンに来る前にいっていたことを思い出していた。

 彼女は万に一つの奇跡に賭けていた、と。

 それを変えるには今しか、海王を監禁しているという罪が明らかな今しかない。



 分かっている。でも、私は奇跡に賭けたい。

 絶対に彼らをまた捕まえさせない。必要なら私がすべて罪をかぶる。その結果が死だろうと構わない。だから、私に力を貸しなさい。



 無知というのは怖いものだな。……まあいい。国に戻って知の書を取り込んだお前がどういう反応を見たいから仕方なく力を貸してやろう。ただ、サラではなくお前がやることが条件だ。



 分かった。


 私は彼の言葉に頷き、アリアを見る。


「今から私が調べるよ。だから待っていて」

「あなた、まさか。また。やめなさい。あれはあなたには扱える代物ではないのよ。本来、王にしか扱えない」

「でも、呼び出せたし、話は通じた。そんなに心配しないで。大丈夫だから。それにこのままじゃ、ダメなんでしょう」


 アリアは彼を使えるが、呼び出せないんだろう。私にはその理由が分からない。だが、今はもう立ち止まることができない。


「分かった。でも、無理はしないで」


 私は頷く。

 その蔦が私の体に絡まり、私の心臓の鼓動が早くなる。

 その蔦が地面の中に入り込んでいく。その蔦が私の脳にダイレクトに届いた。


 外の見張りは三人。だが、その奥には人の気配がある。

 隣の部屋にいるのはロロとブノワ。それは間違いない。

 隣といっても相応に距離が離れているのは分かる。

 頭の中に直に映像がダイレクトに、そして感覚的に伝わってくる。

 もっとも伝えやすい方法で脳裏に伝えているのだろう。


 見張りを三人抑えれば外に出られるのだろうか。その先を落ち着いて確認すると、二人の制服をきた男性。その奥には金属の扉があり、長い通路がある。その先にはもう一度、二重になった扉がある。その先にあるのは階段で、その上には広い部屋がある。暖炉や本棚、絵画などが飾られた部屋だ。お城の一階に比べ人気がない。恐らく、ラウールの言っていた西の塔だ。


 その部屋を出ると近くに階段がある。人の姿はあるが、王妃やシモンはいない。

 呼吸が荒くなり、頭が痛くなる。私の体力がかなり奪われたのだろう。

 だが、ここで投げるわけにはいかない。



 お前にはこのあたりが限界だな。では、私は戻るとしよう。



 待って。シモンをまだ見つけていない。



 シモン?



 花の国の生き残りと言われる少年がどこかにいるの。彼を連れて帰らないといけない。



 花の国の生き残りか。妙な生命反応を一つ見つけたが。



 そこの場所を教えて。



 いいが、お前が倒れたらそこで探査は終了だ。



 分かっている。



 私たちの意識はあの部屋に戻る。そして、暖炉の中に入っていったのだ。

 砂っぽい、埃っぽい感覚で、しばらく使われていないのが分かった。その先に扉があったのだ。

 シュルシュはその奥へと入り込む。

 その先には階段がつながっていた。その階段を登っていくと、一階、二階どころではなく、その西の塔の最上階と思しき五階まで伝わると思われる部屋。そこは金属製の扉で固まっている。


 扉の中に飲み込まれるような感覚を味わった後、飛び込んできたのは黒髪の少年の姿だ。


 あのときもそうだった。彼はぐったりとしていて、まるで死んでいるようにも感じられた。

 そして、彼の白い肌が緑色に変色していた。

 何か異様なことが起きているのは実感できた。



 生きているが……。あれは。かなりまずいな。恐らく、緑の力に飲まれて、もう長くはないだろう。



 魔術実験の代償なの?



 そうだな。もってあと半日から一日。




 その話を聞き、血の気が引く。どうしたらいいのだろう。すぐに彼のところにアリアを連れて行かないといけない。


 そもそも彼がここに来たのは私のせいなのに。

 そうでなければ、彼がこんな目に遭わされることはなかった。

 今すぐにでも王妃を捕まえ、彼女からシモンを解放させないといけない。


 そのとき、シュルシュの感覚がふと離れた。恐らく、私の体力の限界を悟ったのだろう。

 だが、彼の送ってくれた映像は私の中に鮮明によみがえる。

 シモンが今、あの場所で苦しんでいる。

 私のせいで。


 体中で鳥肌が立ち、さっと何かが引いていく。

 そして、言葉では言い合わらせない何かが私の体を覆っていくのが分かった。その眼に見えない何かが私の体に入り込んでいき、鼓動が荒くなる。だが、荒くなる呼吸に反して、今まで感じていた疲労も一切なくなる。


 何かは分からない。ただ、私の本能のようなものがその解決策を導いてくれた。

 今までの植物たちとは違う。唯一似ているとしたら、あのエペロームで皆を解毒した蔦。

 だが、今からしようとしているのは、それとは大きく異なる。

 本当にそんなことができるのか分からない。今までほとんどの植物が私の体に負担を与えてきた。

 それによって私の体にどんな負担がかかるのかも分からない。

 だが、しなければならない。それが今、シモンを救う唯一の方法だ。


 きついとか、怖いとかそんな言葉はもう封印した。この城に来ると決めたときから。


「美桜?」


 何かを感じたのかアリアが私の傍まで来る。


「大丈夫。もう少しだけ待って」


 私はそう微笑むと、その頭の中に伝わってきた言葉を綴った。シランス、と。


 私の体の中でとどまっていたその何かが一気に解き放たれる。


 どこまでだろう。この城全体。いえ、この町全体を影響下に収めないと、すぐに王妃の味方がくる。

 彼女が町に自分の仲間を潜ませていないとは思えない。


 私がそう決めた直後、辺りが静寂に包まれたのだ。



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