表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第六章 人間の国
142/168

森で佇んでいた不思議な少年

 翌日、アリアとルイーズがルーナを出た少しあとに、私はセリア様からルナンの近くまで送ってもらうことになった。念のため洋服はその女性から借り、深く帽子をかぶっている。今回、許可が下りたのは当人たちの承諾もあったが、ブレソール内でもルイーズのお父さんや、フランクさんなどが積極的に動いてくれたのも功を奏したようだ。彼らに迷惑をかけないためにも、ばれないようにしないといけない。


 彼女が私を連れてきたのは、ルナンから少し離れた木陰だ。このあたりも緑が徐々に回復しているものの、フイユと同様に緑が枯れている。


「気をつけてね。危なくなったら、真っ先に逃げなさい。私はフイユにいるから、すぐにかつけるわ」

「ありがとうございます。セリア様にも迷惑をかけてごめんなさい」

「いいのよ。あなたが無事で帰ってくることが一番大事だもの」


 私はもう一度セリア様にお礼を言うと、ルナンのほうに歩いていく。距離はあるものの、町の存在ははっきりと見えるため、迷う心配はない。


 しばらく歩くと、大きな門が現れる。その国の前には紺の制服を着た三人の男性と、観光客なのか七十代くらいと思しき、日傘をさした女性が立っていた。男性三人はなめるような目つきで私を見る。私は不安な気持ちをできるだけ出さないようにして、持っていた入国証を見せた。


「確認をします。その場で待機してください」


 その入国証を持って、国内に入っていく。


「あなたも観光できたの?」


 年配の女性がゆったりとした口調で話しかける。

 私は言葉少なに頷く。

 ぼろを出したくなかったし、ニコレットという女性がおとなしいため、あまり話をしないほうがいいと言われていたためだ。


「ジネット=ビゴー」


 兵士が女性の名前を読み上げると、女性は私に会釈して兵士のところに行く。

 彼女はにこやかに言葉を交わすと、その近くにある建物に入っていく。

 あそこで荷物の確認でもするのだろうか。

 しばらくして、私の入国所を手にした男性が戻ってくる。


「ニコレット=オプレ」


 名前を呼ばれ、その男性のところまで行く。


「叔父さんは元気か?」


 私は頷いた。

 兵士の目が私の頭の先から足先までをなめるように見た後、荷物を出すように促した。

 彼らはその荷物をすべて取り出し丹念に調べていく。

 そして、私の前に青い服をきた女性が現れた。


「今から所持品の検査をするのでついてきてください」

「荷物は?」

「あなたの検査が終わるころには確認も終わっています」


 要は荷物を隠す隙を与えないということなのだろうか。

 そのそばにある建物に連れていかれ、上着を脱がすように促される。

 それを彼女に渡すと、彼女はボディタッチをして、私が何も持っていないのか丹念に確認をしていく。

 一通り検査が終わると、そのまま別の入り口から出て行く。そこには私の荷物を手にした男性の姿がある。

 アリアがこのあたりにいないということはルイーズは彼女をうまく連れ込んだのだろう。

 あの検査をどうやってルイーズは潜り抜けたのだろうか。


 私は荷物を受け取ると、軽くお辞儀をして、ルイーズと待ち合わせをしている公園に歩を進めることにした。


 だが、数歩歩いたとき、前方から青い服を着た男性二人が深刻な表情をしながら、こちらにやってくる。

 私は深く帽子を被ると、目を合わせないようにした。

 どうしても他人になりすますというのは、気持ち的にもすっきりしない。

 男性たちはそのまま私のわきを通り抜けていく。


「シモンのやつ、どこに行ったんだ」

「いらだつのは分かるが、くれぐれも気をつけろよ」

「分かっているよ。ソレンヌ様の知り合いとはいえ、好き勝手が過ぎるんじゃないか」

「仕方ないよ。ここではあの家が法律なのだから」


 彼らはそういうと、住宅街のほうに歩いていく。

 王妃の知り合いというのが気にはなったが、私はまずは公園に行くことにした。

 ルイーズの地図では町に入って、正面にある道を右手に進んでいくと、その正面に三つの道がある。そのもっとも手前の道をまっすぐ進んで……。


 彼女に言われた道順を思い出しながら歩いていくが、途中、六角に突き当たる。

 この道のどこを進むのだろう。

 人はまばらにいるが、どうも王妃の町というイメージから人の聞けずにいた。


 とりあえず行ってみよう。

 右から2番目の道と言っていた気がする。その方向には緑が見え隠れする。

 私は怪しい記憶を信じ込もうと、その方向に歩き出すことにした。

 だが、少し歩くと森の中に入り、私は足を止める。

 ルイーズの言っていた公園に森はあるが、どうも道を間違えた気がする。

 引き返そうとしたとき、澄んだ少年の声が耳に届いた。


「お姉ちゃん」


 その言葉に顔をあげると、黒髪の少年が碧の瞳でこちらを見つめていたのだ。

 少年はそのまますとんと地面に着地すると、私の傍にきてにこりと笑う。


「お姉ちゃん、一緒に遊ぼう」

「遊ぶって。私、友達と待ち合わせをしているの。だから、ごめんね」


 友達といわないほうがよかったかもしれない。

 だが、少年は残念そうに微笑むと、肩をすくめた。


「この先で待ち合わせ?」

「この町に大きな公園ってあるよね。そこで待ち合わせているの」

「だったら案内してあげる」


 少年は屈託のない笑顔を浮かべると、私を先導するように歩き出した。


「いいよ。悪いから。いきかただけ教えてくれれば行ける」

「お姉ちゃん、迷子になったからここにいたんでしょう。なら、案内してあげるよ」


 少年の手が私の腕をつかんだ。彼の表情が和む。


「それにお姉ちゃんともう少し一緒にいたいんだ。お姉ちゃんと一緒だとホッとする」


 悪い子ではないのだろう。それに子供に慕われて、悪い気がしなかった。


「ありがとう」

「お姉ちゃんの名前は?」


 私は本名を名乗りそうになって、思いとどまる。


「ニコレット」


 少年はじっと私の目を見て微笑んだ。


「そっか」


 少年はそれだけ言い残すと、テンポよく歩き出した。

 そして、私は彼の後についていくことにした。


 しばらく歩くと、前方に人の数が増える。

 ここがそんぼ公園なのだろうか。


 少年は辺りを見渡すと、長々とため息を吐いた。


「本当にしつこいな。僕はここでバイバイするね。次の角を右に曲がると、公園の前に出るよ。またね。お姉ちゃん」


 少年はそういうと、左手のほうにかけていく。

 何だったんだろう。


 だが、ルイーズを待たせていたこともあり、彼の言った道をまっすぐ進むことにした。

 言われたとおりに角を曲がると、公園がある。公園の中にはおもいのほか、多くの人がいた。ルナンの住人や、観光客らしき人など具体的にあげればきりがない。


 私はルイーズと待ち合わせをしている木陰を探す。

 木陰に帽子をかぶり、大きなバッグを持った少女を見つけ、声をかけた。

 彼女は私と目が合うと、微笑んだ。


「よかった。何かトラブルがあったんじゃないかと思ったけど」

「迷子になったけど、親切な子が案内してくれたの」

「そっか。いきましょうか」


 ルイーズはそういうと、目を細めた。

 私たちはその足でルイーズの言っていた森に行くことにした。


 公園を出ると、ルナンの町を歩く。

 いたるところに青い服を着た警官の姿がいて、思わず身をひるませた。


「大丈夫よ。普通にして。入国に制限を付けている分、中の監視はテオよりも甘いと思う」


 ルイーズはそっと囁いた。今回の計画の発案者である彼女は全くいつもと変わらない。

 警官が通り過ぎたのを見てホッとする。


「町に入る許可が下りないこともあるの?」

「当然あるわよ。ジルベール様辺りだと許可が下りないでしょうね」


 ルイーズの足が止まる。

 彼女の目の前を小さな子が駆け抜けていく。

 彼女はそうした子供たちを切なそうに見送ってた。

 彼女は私と目が合うと、申し訳なさそうな表情を浮かべて頭をかいた。


「きっと私たちのしようとしていることは、この町にとってはよくないことなんだろうなって一瞬考えてしまったの」


 そうルイーズは微笑むと歩を進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ