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エトワールの賢者  作者: 沢村茜
第五章 エルフの国
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三つの怪しい場所

 二人がルナンに行く日、ラウールがルイーズをつれてやってきた。

 彼女は大型のショルダーバッグを抱えていて、その中には布地が敷き詰められている。そこにアリアがひっそりと隠れる。


「くれぐれも無理するなよ。本当は俺も行きたいが」

「大丈夫よ。お父様にも話は通してあるし、向こうには知り合いもいるもの。きちんと申請も通したしね」


 彼女はポケットからメモを取り出す。

 そこには入国許可書と書かれていて、ルイーズのサインに加え、数人のサインが記してある。


「何かあったらすぐに連絡しろよ。あと無理はしないように」

「分かっているよ」


 彼女はそういうと、ラウールと一緒にセリア様の家から転移魔法で去る。

 ラウールは彼女をルーナの外まで送り、そこで別れるようだ。

 ルイーズ自体もルナンに行ったことがあるため、行くのに問題はないとのことだ。

 セリア様から女王に話を通し、ルイーズが持つ通信石とルーナの通信石の契約を交わしてもらい、何かあれば私かセリア様に連絡を取ってもらうように話をつけていたのだ。


 私はその日、セリア様の家で落ちつかない時間を過ごすことになる。

 ルイーズに何かあればラウールから連絡が来るはずだが、悪い連絡は幸いにも届かなかった。


 日が傾きかけたころ、ルイーズがラウールに連れられ、セリア様の家に現れた。彼女は両脇に荷物を抱えている。彼女はそれを床の上に置く。


「知り合いからお土産をもらっちゃった。何かほしいものがありますか?」


 袋の中には工芸品やお菓子、洋服など様々なものが入っている。

 話を聞けばルナンでそこそこの地位にある人がルイーズをかなり気に入ってるらしく、その人からもらったようだ。今回もその人にルナンを案内してもらったらしい。


「なにもなかった?」

「大丈夫。私が人が入らないところに行きたいと思っても普段の行動の成果から誰も疑わないわ」

「普段から変人で通っているからな」


 ラウールが苦笑いを浮かべて、そう告げる。


「独創的で好奇心旺盛と言ってよ。話もいろいろ聞いてきたわよ」


 ルイーズは地図をテーブルの上に置いた。

 アリアはソファに腰を下ろすと、地図に目を走らせる。


「貯水池はここだっけ?」

「そうですね。アリアさんもその辺りが怪しいと思ったんだね」

「正確には三か所だけど」


 ルイーズは荷物を触るのをやめ、アリアのところまで行く。


「貯水池に何かあったのか?」

「私もだけどルナンの民も入れない場所が三か所あった。その一つが貯水池なの。何か仕掛けがあるなら、人の入れない場所にある気がするんだよね」


 彼女は自分が入れなかった場所を地図に記していく。


 一つが貯水池だ。生活用水は地下からくみ上げているが、こうしてためた水を使うこともあるそうだ。そして、鉱物の採掘所。ここが普通の人間に入るのに制限があるのはやっぱりわかる。ここで取れる金属は主に生活用品などに使われているらしい。残りの一か所は国の北側の地域で、地盤が悪い場所らしい。そのため、かなり前から更地になっているらしい。


「全部遠くからしか見ていないけど、話を聞くところによれば、採掘所からは毒ガスが出てきたらしいの。だから、ここは除外していいんじゃないかな。あとラウールたちはルナンがフイユの水を奪っていると考えているんだよね。なら、地盤の悪いところよりは貯水池のほうが怪しい気がするの」


 それが彼女とアリアの見解だったのだろう。


「あとね」


 ルイーズは一度ためらった後、言葉をつづける。


「これは関係ないと思うけど、ルナンで起こった事件で妙なことを聞いて調べてもらったの」

「ルナンの人間が被害者としてだよな。フイユはもともと出入りを厳しき規制されているため、人間に手を下すのは非現実的だと思うよ」

「だけど、妙に未解決の事件が多いと思わない? ブレソールはともかく、ここまで未解決の事件が多い町はそうそうないと思う」


 彼女の一覧表には解決済みと未解決が一覧として表示されているが、解決済みが六割程度しかない。


「ルナンでこんなに未解決事件が多いなんて、奇妙だな」

「そうだよね。あの監視の町でだよ。そして、未解決事件の八割が失踪事件。ただ、事件としての届けでがされていないものもある可能性がある。そして、そのうちの半数以上がこの禁止区域に足を踏み入れていた目撃証言があった、と」

「フイユだけではなく、あの町で何がが起こっている可能性もあるということか」

「それ以上は何も言わなかったけどね。ただ、一般市民が起こした犯罪なら、摘発はできなくないと思う」


 話を聞く限り、テオやフイユと同じような感じなのだろう。

 あの中で悪いことをして逃げ切るなんてそうそうできない気がする。


 日本にいたころは事件もよくあったが、ルーナが安全なこともあり、事件の話を聞くと必要以上にドキッとしてしまっていた。


「じゃあ、犯人は」

「ただ、今はフイユのことが最優先だよね。水飲み場を流れる水脈はこのあたりでフイユと交差しているわ。この地区もこのあたり。だからこのあたりを調べてみたらいいんじゃないかな」


 難しい顔をしたラウールの肩を叩き、ルイーズは地図にしるしを落としていく。


「わかった。ありがとう」

「調べるって地中を?」

「この流れだとその必要があると思う。でも、セリア様もアリアさんもいるから大丈夫よ」


 そうルイーズは微笑んでいた。


 私はルイーズから置物をいくつかもらい、その日は城に戻ることになった。

 部屋に戻るとソファに腰掛ける。

 これだという決定打が見つかると思っていたわけじゃない。

 だが、すべてがあいまいで霧の中をさまよっている気分だ。

 地面に穴をあけて、何も見つからなかったらどうなるんだろう。

 リリーの今後がかかわっているのに。

 あの王様も黙っていないだろう。ポワドンのときとはわけが違う。


「一つ聞きたかったんだけど、ロールを呼び寄せたとき、何かした? 考えたり、願ったり、なんでもいいの」


 机に座ったアリアがそう問いかける。

 あのエペロームの魔の沼での出来事だ。


「なにも。ただ、声が聞こえたの」

「エミールの木のときは?」

「同じだと思う」


「エペロームで解毒したときは?」

「願ったんだと思う。助ける力を貸してほしい、と」

「願いか。あいまいだよね。なら、なら、意図的には呼び寄せられないのか」

「何が?」


「今の段階だと地面に穴をあけるしかないけど、一つだけ地下を探るのによい方法がある。それならフイユ王にも許可を取らなくても大丈夫だと思う」

「どうするの?」

「ロールとよく似たシェルシュという植物があって、それを呼び出して、血かを探らせれば、何が起こっているか探れるかもしれない」

「そんな植物があるんだ」


 アリアは首を縦に振る。


「ティメオがたまに使っていた。ただ、それを扱うのは負担が大きくてね、知識のないあなたには難しいかもしれない」

「知識ってどんなこと? 今から勉強して足りるなら勉強する」

「地の書に書いてあることもだけど、言葉で説明するのは難しい。まずシュルシュを呼び出せないことには話も始まらないでしょう」


「どうやって呼び出すの?」

「だから、ロールをどうやって読んだのか聞いたのよ。シュルシュやロールは系統が似ていて、呪文で強制的に召喚することも、動きを強要することもできない。あなたなりの方法があるかと思ったんだけど、難しいわね」

「私なりの方法? お父さんが呼び出せたのなら、その方法をまねればいいんじゃないの?」

「呪文のような合言葉だったり、願いだったり。植物によって違うこともありえる。ティメオの方法をそのっまとったとしても、あなたにはそれが通用するかは分からない」


 植物とのやり取りを思い描くが、どうもしっくりこない。


「念のため聞くけど、お父さんはどうだったの?」

「簡単よ。名前を呼んだら、たいていの植物が反応してくれたわ。もちろん、シュルシュもね」

「シェルシュ」


 そう名前を呼ぶが、全く無反応のままだった。


「彼は特別なのよ」


 そういうとアリアは微笑んだ。


 そして、アリアの言っていた植物を呼び出す方法も、よい改善策がないまま、再びフイユに行く期日を迎えた。


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