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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
91/202

91話 この日獲得した報酬に俺は震えた

 9回の表。14点差という絶望的な数字を突き付けられた俺たちだったが、そこから打者一巡の猛攻を見せ、ワンアウトながら満塁。そして打席には俺という好条件を迎えることに成功していた。


 マウンド上の鳥人間はすでに肩で息をしており、もう完全に死に体と言える。因みにセカンド、サード、レフト、ライトの鳥人間は地面の上で横になっている。何があったのかはわからないが、おそらく疲れたのだろう。何があったのかはわからないが。


「さて……こいつを倒せばもう守備はガタガタだ。最後の一押しだな」


 人間としての大事な何かを踏み外している気がしないでもない。だが、この勝利の先に葵さんの笑顔があると思えば、俺は鬼にもなろう。まぁ今丁度鬼なんですけどね。


 だが、そう上手く事が運ばないのがスポーツなのだ。俺はそのことを失念していた。


「タイム! ピッチャー交代!」


 外野の方から鳥人間の声が響く。どの鳥人間も同じ声だから少しわかりにくいが、それでも俺の目は、ある方向へとしっかり固定されていた。


 その視線の先にいるのは、俺に最初に倒された元ピッチャーで現レフトの鳥人間。さっきまで横たわっていたのがまるわかりなほどにヨロヨロな足取りで、しかし瞳には燃え盛る炎を宿し嘴を大きく開く。


「ピッチャーは……俺だ」


 マウンドの鳥人間は涙を流しながら、レフトの鳥人間へとボールを手渡した。


「決着をつけてやるぞ……人間」


 息も絶え絶え。押せば倒れそうな満身創痍の鳥人間が、全身から蒸気を上げ睨みを利かせる。


 ……あれ、これなんか変な展開になってないか?


 これ完全に悪役のポジションじゃないか?


 ……いいだろう。なら完全にヒールに徹しよう。そしてその上で勝とう。たとえ悪役だろうが手は抜かない。俺はアンパンなワールドのバイキンさんに転生したら、小麦と餡子(あんこ)の価格を暴騰させ、ジャムなおじさんとバターなお姉さんを拉致監禁、その後洗脳し、台風の日に奴に決戦を挑むような男だ。鳥人間相手に情けはかけない。


「――こいっ」


 俺の声に、鳥人間はニヤリと嘴を尖らせ、そして――


「死ねぇえええ!」


 その球は真っすぐ一直線に俺の腹部へと走ってきた。


 予想通りだ。非常に打ちにくく、かつ避けやすい球。だが俺はこの球を避けない。奴の闘志の乗った球を、全力で奴に打ち返す。


「うぉおおおお!」


 腕を畳み、かつオープンスタンスで俺の振るったバットは銀の軌跡を横一線に描く。


 ――捉えた!


 完璧なタイミング。完璧な体の開き。完璧なスイング。俺のバットは白球に吸い込まれるように迫りそして――


「――消えっ!?」


 ボールが消えた!? いや違う。これは、かの伝説の魔球フォークボール。ストレートの軌道と腕の振りで突如として下へと軌道を変える魔球だ。


「ぐっ」


 間に合え。その一心で軌道修正をかける。


 だが無情にもバットは白球の上で空を切り、下へと落ちるボールは恐ろしい勢いで俺の股間(コスモ)へと吸い込まれていき、


 そして――


「アーーーーーーー」


 因果応報。この時俺は、この言葉の意味の深さを知った。





 ■ □ ■ □ ■





「いやー、惜しかったなぁ。もうちょっとだったんだが」


「まぁプロ並みの動きをする敵にあれだけやれたんだから、良い方なんじゃない? 個人の活躍に応じた報酬はもらえたんだし」


 ダンジョンの中にある休憩ポイント。そこにあるベンチに腰掛けた伸二と翠さんは上機嫌にそう語る。俺の方を見て笑いを堪えている仕草は……気のせいだ、気のせいにしよう。


 彼らの言う通り、俺たちはあの後健闘及ばず敗北した。半蔵さんは言わずもがな、その他のメンバーも懸命に動いたのだが、それでもあと一歩が及ばなかった。


 俺の招集に快く応えてくれたのに……勝たせてあげたかったな。


「半蔵さんたちには悪いことしたかな?」


「そう? 楽しんでくれてたみたいだし、個別報酬にも喜んでたから気にすることないと思うわよ?」


「だといいけど」


 半蔵さんとサクラさん、それにスミスさんの3人は、試合が終わると光とともに消えていった。チャットで無事元の場所に転送された旨の文が送られてきたから心配はないが、今度改めてお礼を言いに行こう。


「皆は何貰えたの? 因みに私は紅茶のセットだったよ~」


 雪姫さんは紅茶か。おしゃれな彼女らしい報酬だな。


「私はリボン。ブルーは?」


「私は(かんざし)。付けるとほんの少しだけ魔法回復量が増えるみたい」


 巫女に簪とか最高かよ。今すぐ付けるべきだ。そしたら俺のMPもマッハで回復する。このゲームにMPなんて概念ないけども。


「俺ティッシュだったんだが……」


「奇遇だねハイブ君。僕もだよ」


 現実世界においても残念賞枠の代表格として知られるティッシュ。貰った者を困惑させることに優れた、ドSなアイテムだ。それはどうやら仮想世界においても変わらないらしい。というかこの世界でティッシュって何に使うんだ。


「総は何だったんだ? お前は相当活躍してたから結構なもの貰えたんじゃないのか?」


 無駄にハ-ドルを上げてくるティッシュの言葉に、俺は重いため息を零し、獲得したアイテムを皆の前に提示する。


「こ、これは……」


「ひっ」


「何とも……」


「羨ましい……」


 大多数がドン引き。約1名の変態が羨望の眼差しを向けるのは、俺が持つワラ人形。だがその顔に相当する部分には血のりの様なものが付着しており、紫色のオーラまで発している。どう考えても、呪いのアイテムだ。


「活躍の仕方が不味かったんだろうな……」


 まぁ俺1人だけ野球とは微妙にずれたところで戦ってたし、敵の恨みを買う覚えはありすぎて困るぐらいだったからな。自業自得か。


「まぁこの話はここまでにして、そろそろダンジョンを出ないか? そろそろ時間も時間だろ」


 やや無理矢理に話を切り上げた伸二だが、その言葉には全面的に同意する。俺もこの報酬の事は早く忘れたいし、そろそろ晩飯の時間だからな。


「皆オッケーって感じだな。よし、じゃあ行くか」


 その後俺たちは無事にテンジンの町まで戻り、明日に再びここで会うことを約束してからそれぞれにログアウトした。





 ■ □ ■ □ ■





「いただきます」


 食卓のテーブルを家族3人で囲み、焼き魚へと箸を伸ばす。


「総ちゃん。最近葵さんとはどうなの? あれから全然家に呼ばないけど……ちゃんと仲良くしてる?」


「か、母さん。それは今いいから」


「え~気になるなぁ。瑠璃も気になるわよねぇ?」


 おっと母上。もうリーサルウェポンの投入ですか。俺がその兵器の前では無条件降伏なのを知っててもうやりますか。


「う~ん……でもお兄ちゃんの事だから、きっとまだ手も繋げてないと思うなぁ」


 ぐふぅおあ!? くっ……効くぜリーサルウェポン。俺の急所に最高の一撃だぜ。てか毒針だぜ。もう急所じゃなくても即死だぜ。


「ハハ……瑠璃は手厳しいな」


「総ちゃん。あんないい子滅多にいないんだからね! 絶対に逃がしちゃだめよ?」


「……善処します」


 もう勘弁してくれ。伸二や翠さんにこうして詰め寄られるのもきついが、家族から詰め寄られるのはきついを通り越して地獄だ。


「あ、それと明日は私と瑠璃1日いないから、お昼ご飯は1人でお願いね」


「ん、わかった」


 これは1日ゲームに入り浸れるな。今日は普段よりも少し多めにトレーニングしておこう。


 ん? どうしてこの人は膨れているんだ? ハコフグのモノマネかな?


「どこに行くか聞いてくれないのー?」


「……どこに行くの?」


「ふふっ、内緒」


 だろうね。わかってたよ。何年あなたの息子を務めてきたとお思いか。


 だが瑠璃と母さんがここ最近ずっと2人で一緒に何かをしているのは気になるな。それはそろそろ教えてほしい。


「瑠璃。最近母さんと2人で何してるんだ? よく部屋にいるみたいだけど」


「え、その……な、内緒!」


 駄目か。今回の内緒は結構ガードが堅いな。いつもなら1週間程度で崩れるものを、今回のは春からずっとだ。もしや女の子特有の何かなのかな?


 だとしたらこれ以上言うと嫌われるかもしれん。ん? 瑠璃に嫌われる?


 ……いかん、絶対駄目だ。もうこの話は今後一切封印だ。向こうから話してくれるようになるまで、俺の方からは絶対に振らないぞ。


 よし、そうと決まれば話題を変えよう。


「あ、そう言えば今日さ――」


 そこまで言った直後、ポケットに入れたままにしておいたスマホの着信音が鳴る。この音は電話か。となると伸二かな?


「ごめん、ちょっと出てくる」


「あ、ちょっと総ちゃん食事中よ……もう!」



 そのまま庭に出てスマホをタッチする。そこから聞こえてきた声は俺の予想通り、


「おう総。ちょっといいか?」


「どうした伸二、電話なんて」


 いつもならラインかメールで済ませるのに、何かあったのだろうか。


「その様子だとまだ知らないな? 今掲示板やゲーム内は大騒ぎになってるぞ」


「マジか。何があったんだ?」


「口で説明するより見たほうが早い。お前のスマホにURL送信するから、そこから見てみてくれ」


「あぁ、分かった」


 伸二からの電話を切ると、間もなくそのURLが送られてくる。


 そこに書かれてあったのは――



『システムメッセージ。現時点を持ちまして、キュウシュウエリアの全てのボスモンスターの討伐が確認されました。よって、これよりキュウシュウエリア全域におけるレイドボスを解放致します。このボスの撃破をもって、キュウシュウの完全クリアと致します。

 なお、今回のレイドボスは最大人数100人で挑むことのできる仕様となっております。震えてお待ちください』




 震えてきた。





 ■ □ ■ □ ■





「総ちゃんったら、食事中なのに……」


「葵さんからの電話だったかもしれないよ?」


「そっか。なら許すわ」


「あ、お母さん。それより今日倒したボスのことなんだけど」


「それがどうかしたの?」


「なんで弱体化アイテム使わなかったの? 持ってたよね、私たち」


「あの人が言って聞かなかったのよ。俺は強敵と闘いたいんだって」


「ふ~ん。お兄ちゃんみたいだね」


「まぁ総ちゃんも同じことは言いそうね。それに、もしかしたら既にしちゃってるのかも」


「あ~……お兄ちゃんならあり得るかも。でもそのお陰で今日は大変だったよ? 次からはやっぱり弱体化アイテム使おうよ」


「そうね、言っておくわ。でも今回はあの人のお陰で最初のボス撃破に成功したんだから、大目に見てあげましょう」


「は~い」


「明日はお母さんのお友達の家に行って、そこでお茶した後にインしましょうか」


「うん。あ、レイドボスの情報もお願いね」


「それは任せてちょうだい。情報戦はお母さんの土俵よ」

次回『あの日聞いたレイドボスの存在を俺たちは探した』

更新は木曜日の予定です。

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