183話 やはり俺のツッコミゲージは削れていく。
悲しみを背負った咆哮が城内に轟く。
しかし、そんなものはどこ吹く風と、空飛ぶ野菜によって召喚された《ゴニンジャー》と名乗る5人の侍は、白狐と俺たちの間に割って入った。
思考を止めて、ただの殺戮戦闘マシーンになりたい欲求が間欠泉の如く湧き上がる。もしここにいるのが自分ひとりだけだったならば、間違いなくそうしただろう。
だが、ここには守りたい人がたくさん……いや、2、3人ぐらいいる。冷静に。そう、冷静に敵を分析しよう。
幸い、敵は決めポーズのまま固まっている。少しは時間をくれそうだ。
まずはあの真ん中にいる赤いやつ。赤い甲冑に身を包む《幸村レッド》というのは、あの有名な武将、真田幸村をモデルにしているモンスターだろう。両手に持つ二本のネギは、剣か銃、どちらかの性能を持っているとみた方が良いだろうな。
残りは…………。
「うん」
ちくしょう。日本史は苦手なんだよ。
よし、敵の正体はもうどうでもいい。それよりも、戦力の分析だ。
敵の数は、白狐を入れて6。こっちはモヒカン・ボンバーを入れれば9。
最悪の場合、白狐は俺が抑えることもでき──る、な。となれば、あのいかれた戦隊ヒーロー5人を、翠さんたち8人で対応することになるが、できるのか?
……無理だ。あいつらがここに辿り着く前に倒した中ボスクラスより弱ければ別だが、同じかそれ以上の強さだったら、俺たちは全滅する。
運営はどう頭を拗らせて、こんなイカレタ難易度に設定したんだ。
「それにしても……動かないな」
あの白狐もそうだったが、どうも間の取り方と言うか、今回の敵はその辺が鈍い。
そう考えた時。
「ま、ママ!」
その異変に最初に気付いたのは、白狐をずっと見続けていたモヒカン・ボンバーだった。
次いで視線を動かせば、ゴニンジャーの後方で丸まり続けていた白狐から、光が発せられている。
今度はお前が光るのか!
そんなツッコミが喉まで出かかったが、モヒカン・ボンバーの真剣な顔を見て引っ込める。
代わりに、
「リーフ、どうする!?」
聡明な我らがリーダー。俺を導いてくれ。どうやって敵のどてっぱらに風穴を開けるかを。
「見守りましょう。隙だらけにも見えるけど、ヒーローものの鉄則として、こういうのには手出し厳禁だしね」
アカーーーーーン。このリーダー、ポンコツだ。
なにヒーローものの鉄則って!? 変身シーンを邪魔しないからこそ怪人側はいつもやられるんじゃないの!? 怪人がヒーローを倒すなら、まずは敵の補給を断ち、次に戦力の分散。締めに変身の阻止ではないのか!?
「そ、蒼破!」
救いの手を求め、風鈴崋山のリーダーの名を叫ぶ。
「さすがリーフさん。その心、実にあっぱれ!」
だよねチクショウ! ああわかってたよ、こうなるって!
いいよいいよ、見守ってやんよ! お前らの言うとおりに、事の顛末を見守ってやろうじゃないか。
そんな決意を決めていると、
「おい総。あの光、前とはだいぶ違うな。前はあんな光──って見ろ! なんか繭みたいなのに包まれてくぞ!」
丸まっていた白狐を覆う光の繭。心なしか、最初よりも少し縮んでいる気すらする。
「本当だな。狐だとばっかし思っていたが、実は芋虫だったのか」
「言ってる場合か! だがあの感じ、戦線に復帰する感じじゃないぞ。もしかしたら、あのゴニンジャーとは共闘しないシステムなのかもしれない」
んー。難易度的にも、そのぐらいなら納得か。とすれば、この状況では白狐は放っておくのが正解なのかな? 下手につついて暴れられるよりも、そっちの方が良い気がしてきた。もしや、翠さんはこの辺まで考えてあんなことを……。
まぁなんでもいい。戦いを途中で中断されてモヤモヤしていたんだ。真ん中の赤いのがそろそろ突っ込んできそうな気配だし、そろそろこっちのペースでやらせてもらおうか。
『そこな不届き者!』
赤いのがなにか言っている。なんでもいいからさっさとかかってこい。
『我ら、クズノハ様をお護りする猛き槍なり!』
白狐の名前はクズノハか。予想の範囲内だな。
『いざ、尋常に勝負されたし!』
おうよ。勝負してやる。だから、さっさとかかってこい。まとめて血祭りにあげてやるからよ。
……え、いいよな?
チラリと翠さんに視線を移す。
うん、あの顔はOKの顔だな。そういうことにしよう。
再び訪れようとしている戦いの臭いに体が反応したのか、日本刀《夏風》を持つ手に自然と力が入る。
『幸村レッドよ。一番槍はこの又兵衛ブルーが貰うぞ』
ドデカい大根を担いだ緑一色の鎧武者が、一歩前に出る。
『やあやあ! 我こそはゴニンジャー最速の侍、又兵衛グリーン! 無骨者どもよ、この槍を受けよ!』
口は達者のようだが、手に持っているものが残念過ぎる。ただの大根ではないのだろうが、それでも見た目はちょっとデカいだけの大根だ。あの大根が実はロケットランチャーだったりすれば別──
『如意槍!』
手にした大根が光を生む。その直後だ。
「ごはっ!?」
炎破の体がくの字に折れ曲がり、そのどてっぱらに巨大な穴が空く。
「「炎破ぁ!?」」
雷破と峰破の声が重なり合って部屋に響く。そんな中で最初に動けたのは、蒼破と翠さん。動揺する2人に、リーダーである蒼破はすぐに支援の指示を出し、翠さんは葵さんとモヒカン・ボンバーを連れてすぐに伸二の後ろへと隠れた。
──いい判断だ。
又兵衛とかいう侍と炎破の距離は約10メートル。あの槍の射程範囲は最低でもそれだけある。なら、後衛はそれ以上の距離をとるか、伸二の後ろに隠れるしかない。勿論それによってこっちに隙は生まれてしまうが、そこは俺がフォローすれば──
「!」
視界の端に、メッセージが届いた際に表示される、豆電球とメールのセットのようなイラストが浮ぶ。
このタイミングでのメッセージ。翠さんかな。時間もない、パッとだけ、
【試したいことがあるの。時間を稼いで!】
「リロード《徹甲弾PT-X》」
脳が文字を認識した直後、体が動く。
できれば鎧の隙間を狙いたいが、生憎と急所は見えない。ならばと、装甲をぶち抜く意志のこもった弾丸を緑鎧の肩に放つ。
『むぅ、小癪な──』
さっきと同じ光一色の光景が網膜を焼きにくる。だとしたら次に来るのは、どこに来るかわからない高速の突き。
──どこに来るかわからない?
いや、少なくとも、俺の体のどこかには来る。なら、後はタイミング。昔、よく親父に銃口を突きつけられた状態で躱す練習をさせられたが、あの要領でいけるだろう。
『──《如意槍》!』
上半身を捩じった直後、左の頬を視認できないナニカが通過する。
『なんだと!?』
危ねえ! 上半身に来るだろうとヤマを張ったが、もし下半身を狙われてたら足が吹っ飛んでた。
『えぇい、まだだ!』
大根を握る手に力が入っている。もう一度、か。ということは、この伸びきった大根は横に薙ぎ払われるか、縮んで手元に戻るか。よし、ヤマ張るか。
『戻れ!』
伸びきった大根が、一気に元の長さに戻る。どういう物理法則だ。まぁいいか。それよりも、
「運んでくれて、サンキュな」
『!?』
大根を掴む左手を弛める。
凄い速度だったな。迅雷よりも早く動いたのは、初めての経験だよ。
これは礼だ。
「受け取れぇええええ!」
日本刀《夏風》の柄を押し出し放つ渾身の突きは、又兵衛なんとかの腹部を貫通し、刀ごとその体を後方に吹き飛ばす。
だが休むわけにはいかない。敵のど真ん中に入ってしまったからな。
『又兵衛!? おのれ!』
『我らが力、舐めるな!』
右の赤鎧が構えるのは二本のネギ。片手で握り、銃のように先を向けてくる辺り、おそらくはライフル銃。
左の青鎧が手に持つのは、複数の玉ネギ。こっちに投げようとしているってことは、手榴弾かなにかだろう。
さっきからツッコミブザーが鳴りっぱなしだが、それ以上の音量で脅威に対する警戒音が鳴り響いている。
──やらせはせん。やらせはせんぞ!
両手を広げ、オートマチック銃《シナギ》の引き鉄を引く。
右手から放たれた2つの弾丸は赤鎧のネギを弾き、左手から放たれた5つの弾丸は青鎧から投擲される寸前の玉ネギを撃ち抜く。
そして、
『やばっ、どわぁあああああ!?』
青の鎧武者が、業火に飲まれる。
やっぱりあの玉ネギは爆弾だったか。危ねえモンを投げやがる──お、レッドが爆炎に気をとられている。これは攻撃してくださいって合図かな? よし、その心意気やよし。死ね。
「来い、双刃《ナータ》!」
二振りの得物をぶら下げ、一気にレッドのもとまで駆ける。途中でそれに気付き再び銃口を向けてくるが、
「遅い!」
ブーメランのように投擲された一振りのククリ刀がレッドの額を引き裂き、顔を跳ね上げさせる。
『あぎっ、んが!』
それでも強靭な体を持つであろう赤鎧の武者は、天井に向かっていた視線を強引に引き戻し、再び鋭い眼光を敵に向ける。
その闘志、見事。だが急いで戻された武者の瞳に映るのは、もう一振りのククリ刀を肩口に目がけて振り下ろそうとするガンナーの姿。
「ふっ!」
斜めから振り下ろし、鎧ごと肉を引き裂く。だがこれでは浅い。そのまま手首を返し、さっき抉ったばかりの傷口に沿って、逆再生するかのように下から斬り上げる。
『おがぁあ!?』
今度は深く入った。けどこんだけやってHPは1割も削れないのか。明らかにプレイヤーよりも頑丈に作られてるな。さすが中ボス。
「なら、削れるときに削らないとな」
ナイフを召喚し、変則二刀流の連撃を見舞う。蜂のように舞い、蝶のように刺す!
『あがっががががっががががががが!?』
キャベツを持った黄色鎧と、ゴボウを持った黒鎧がどんな攻撃を仕掛けてくるのかは不明だが、こいつにくっついていれば、そう簡単には攻撃してこないだろう。加えてこいつは、ライフルを使う中遠距離タイプ。零距離ならば、こっちの方が有利。フルボッコタイムだドン!
『くっ、いい加減に離れよ──《風壁》!』
荒々しい風が体を包み、赤鎧から強引に引き剥がされる。
これはあの黄色鎧の仕業か。てことは、あいつは魔法職タイプで、キャベツは水晶のような役割ってところか。段々こいつらの構成がわかってきたぞ。
ついでだ。黒鎧の武装も確かめるか。あのゴボウを見る感じ、スナイパーライフルか槍か剣か……わからんな。体で確かめよう。
「ワイヤーガン!」
立体的な機動戦を確立する要。銃口から射出されるワイヤーは、もう一度引き鉄を引くことで──物理学を若干無視した力で──使用者の体を射出先まで運ぶ。今回それが向けられたのは、天井。
高さが10メートル近くある天井とか中々見ないが、きっとあの巨大な白狐用のフィールドとして作られたんだろうな。
「っと」
体をぐるりと反転させ、天井に足を付け逆さまに部屋を視界に収める。結構なスピードでやってるから、三半規管にくるな。
『く、降りてこい小僧!』
ゴボウをぶんぶんと振り回して黒鎧が喚いている。あの感じだと、あの武器は近接武器。持ち方からして、剣──いや、侍だから刀かな。
『下がれ、全登ブラック。拙者が引きずり降ろしてくれる──《フレイムフィッシュ・鰯》!』
キャベツを上に掲げた侍が、十数匹の鰯を召喚する。浮いているのと、炎で出来ていることを除けば、中々にシュールな絵なんだが──っと、呑気に眺めてる場合じゃない、来た!
『死ねぇえええ!』
空を泳ぐ鰯の群れが、赤い軌跡を真っ直ぐに伸ばし飛来する。ミサイルみたいだが、その直線的な軌道なら躱すのは余裕だな。
「解除」
天上に撃ち込まれたワイヤーの尖端部分を、解除コードと呼ばれる言葉で消失させる。そうなると次に起きる現象は、重力に従って床へ落下する純真無垢な少年と、天井に自分からぶつかって自爆する間抜けな鰯の群れ。
『甘いわ──《フレイムフィッシュ・鰹》!』
今度は鰹か。3匹だけだが、鰯より全然大きいし、威力も上だろうな。床に着地する直前を狙うのもいいタイミングだ。現実世界の俺だったら、避ける手段はない。
──現実世界、ならな。
「疾風」
炎で作られた鰹の予測進路から、強引に外れる。行先は、キャベツで黄色な侍。
『!?』
「後衛職は接近戦に弱い。鉄則だろ?」
腰に差したナイフを抜き、その首元に一閃。
だが、手に戻ってきた感触は、肉を引き裂くものではなく、鉄と鉄とがぶつかるものだった。
『させぬ!』
黒鎧が間に入り込ませたゴボウが、ナイフを止める。普通に見れば豆腐でも切るかのような感覚で両断できるはずだが、ゴボウには切り込みひとつすらあるようには見えない。
──硬い。なら!
「来い──《夏風》!」
そのゴボウ、笹切りにしてやる!
そう思い、日本刀を手にした瞬間。
【準備オッケー! 一発お見舞いするから、下がって!】
翠さんからのチャット文が視界に浮かぶ。
了解だ。こいつを笹切りにしたら、すぐに下がる。
【今すぐに下がらないと、葵にあのこと言うわよ】
即時撤退。有言実行。男は引き際が肝心だ。
「よーし、今──《ラ・メテオーラ》!」
急ぎ後方へ下がった直後、天井スレスレから隕石群が降り注ぐ。それらが畳に堕ちると、五色レンジャーと俺の間で幕を引くように爆炎が上がる。
これは敵への攻撃が目的ではない……そうか、次への布石か。俺が時間を稼いでいる間に、なにかを準備したんだな。乾坤一擲の、なにかを。
「さぁ、これで私たちの勝ちよ。ビニール袋の中に入っていた、この──50%オフシールで!」
スイカ大の大きさの丸いシール。黄色と赤で派手に作られたソレを掲げ、彼女はドヤ顔でこっちを見る。
……さて、そろそろいいかな?
本日何度目か。目一杯に肺を膨らませ、一気に──
「ふざけんなぁああああああ!」
次回『やはりこのシナリオはまちがっている。』
更新は明日の12時を予定しています。




