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リアルチートオンライン  作者: すてふ
7章 キンキ戦争編(前編)
170/202

170話 やはり俺たちのクエストはまちがってなかった。

「行ったぞ、総!」


 樹海の中で響く伸二の声。その声に追われるように、一匹の赤い狼が猛然と向かってくる。


「了解──《夏風》!」


 半円を描くようにして赤狼の突進を躱す。


 着地した狼は、その場をピクリとも動かない。いや、動けない。なぜなら──


「お前はすでに、死んでいる」


『ギャイッ!?』


 頭から尻尾にかけて両断された狼を、俺的カッコいいセリフ第三位の言葉で追悼する。


 一度言ってみたかったんだよな、この台詞。


「よ、よ~し……なんとか、終わったみたい、ね……」


 期末試験を乗り切った時のような疲労感をどっしりと乗せた声を発する我らがリーダーに、皆が短い返事で応じる。


「にしても、段々殺しにかかってきたわね、この森。いくら何でも、フレイムウルフ20体はないでしょ」


 先ほど真っ二つになって消えた狼の名を忌々し気に呟く彼女の顔は、とびっきりの苦いコーヒーを飲んだ感想を漏らしているようですらある。


「我々だけだったら、さっきので全滅でした。いや、本当にCOLORSさんと一緒で良かったですよ」


「それは私たちもですよ。風鈴崋山の皆さんのお陰で、危なげなく対処できました」


 風鈴崋山のリーダー蒼破さんと、我らがギルドマスター翠さんが、なんとも大人な対応で場を和ませる。


「ねぇねぇソウさん。今の居合切りって、どんなアーツなんですか?」


「あ、それ俺も聞きたい! どうやったらガンナーでそんな変態な動きができるんスか? マジで刀が見えなかったんスけど」


 黄色がトレードマークの雷破さんの疑問に、赤がトレードマークの炎破さんが乗っかる。


 誰が変態じゃ。


「まぁ、その、日頃の訓練の賜物ですよ」


 嘘は言っていない。何ひとつ。


「こいつのことは気にしないでください。基本、常に変態ですから」


 肩に腕を回して絡んでくる親友よ、発言には気を付けろ。ブチ転がすぞ。


 ツッコミのキャパシティが徐々に満杯になっていくのを感じていると、温和な笑顔をぶら下げた峰破さんが近付いてくる。


「ハイブさんとソウさんって本当に仲がいいですね。で、受けはどっちですか?」


 畜生。とにかく畜生。どうしてこうも新しいエリアで現れる新キャラはこうも俺のMPを削りに来るんだ。


 というか、ずっと前から疑問だったが、どうしてツッコミ役が毎回俺しかいないんだ。ここはボケ星のホームタウンか? ツッコミ星の住人はどこに行ったんだ。


「峰破さん、ちょっといいですか?」


 おぉ、さすがは我らがギルマス。どうか、この腐りきっている人にガツンと言ってやってください。


「総くんが攻めで、ハイブが受けです」


 ちくしょぉおおおおおおおおお!





 ■ □ ■ □ ■





 石臼でゴリゴリとMPを削られながら、時折飛び出してくるモンスターにその鬱憤を晴らして歩くこと一時間。俺たちの足が、ピタリと止まる。


「なんだ、これ……」


 目を点にした炎破さんは、乾いた喉を絞るように呟く。


 大地を割り輝きを表出させたソレは、樹々一色に並ぶ深緑の景観をぶち破り、天に向かって自らの存在を示す。


「水晶……それも、こんな大きな……」


 峰破さんの口から、腐っていない純粋な言葉が久方ぶりに漏れ出る。


 一際大きく開かれた瞳には、陽光を自らの中に取り込み、何十にも屈折させた光を内包している巨大な水晶が映し出されていた。


「チッ、アイテム説明欄は出てこねえか」


 ウィンドウ画面を起動させている炎破さんは、状況を整理する要素の1つが機能しないことに舌打ちをする。


「わからない以上は、この周囲を──」


 そこまで喋り、蒼破さんから剣呑な空気が発せられる。


 ほぉ、伸二や翠さんよりも早く気付いたか。アーチャーのスキルか何かかな?


「──なにかが近付いてくる? いや、これは……追われてる!?」


「っぽいですね。逃げてるのは二足歩行で1人。追ってるのが四つ足歩行で十ちょっとって感じです」


 俺の知覚とほぼ同じ答えを出す蒼破さんに、大まかな予想を補足する。


「そこまでわかるのか? ガンナーってそんなに幅広くスキル持ってたっけ」


「はい、ガンナーは大体これぐらいはできますよ」


 詳しく説明している時間はない。それに、俺は自分以外のガンナーを知らないから、この言葉も嘘ではない。俺ができるイコール、ガンナーができる。


「それより、来ます──リーフ!」


 突然のことに風鈴崋山のメンバーは皆困惑しているが、我らがギルドのリーダー翠さんなら、こういう時こそ──


「ブルー、ハイブの後ろに下がって! ハイブ、合図を出すまでヘイト移動は控えて! 総くん、迎撃は上から! 何かされない限りは、追われているナニカは放置」


「「「 了解 」」」


 素早い状況判断を下す司令の声に従い、足場にしていた木の根っこを靴型に陥没させ、上の枝に跳躍する。


「さて出番だ──イナギ」


 胸のホルスターから、黒いオートマチック銃《イナギ》を二挺、取り出す。


 気配の出どころからナニカが飛び出てくるまであと数秒──いや、来る!


 突如として藪が大きく揺れると、間を割るようにして勢いよく飛び出てきたのは、1人の子供だった。


 しかし──いや、それは後だ。今は──


「リーフ、来るぞ!」


 声を張り上げた直後、樹々の隙間、藪の間から、ライオン並みの体躯を誇る真黒な双頭の狼が2体飛び出てくる。


 しかし、彼らの目に映ったのは、追い詰めた獲物の姿でも、それを護ろうとする冒険者の姿でもなく──


「──《星屑(スターダスト)》!」


 眩く輝く、星々の煌めきだった。


『ギャォオオオオオ!?』


 突如眼前で発生した光の爆発に、双頭の黒狼の身は焦がれ、上空に吹き飛ばされる。


 あれは致命傷だな。戦闘能力はだいぶ削がれているだろうから、後回しでもいいだろう。それよりも──


「下がれリーフ!」


 大きな魔法を使ったことにより、新たに現れた3体の黒狼が彼女に向かって獰猛な足を走らせる。その牙を振るわれれば、彼女の体は容易く引き裂かれるだろう。


 だが、それをさせないように彼女は俺に指示を出したのだ。だったらここからは──俺の仕事だ。


 双頭の狼の目は4つ。出てきた数は3体。4×3は12。小学校二年生レベルの計算により撃ち出された弾丸は、正確に漆黒の瞳に飲み込まれ、そのことごとくを破裂させた。


『ギャォッ!?』『バギャッ!?』

『ギャギィ!?』『ギャンッ!?』

『アイタァ!?』『ギャゥン!?』


 双頭の性質故か、2つの口からは別々の鳴き声が──しかし同じ声で──出て来て、苦悶の声が一瞬にして場に散乱する。


 なんか変な声も交ざってた気もするが、それは無視だ。それよりも、こっちを欺こうと迂回している獣どもに、自分たちの認識している世界の誤りを教えてやる。


「ハイブ、右!」


「応!」


 俺の声に伸二が反応した直後、藪を飛び越えた黒狼の姿が露わとなる。


 しかし、その進路は既に地獄の1丁目に通じている。双頭の黒狼の瞳には、巨大な盾が刹那の間を刻みながら迫っていた。


「──《オフェンスシールド・剛》!」


 巨人の拳に殴られたかのように黒狼が吹き飛ばされ、その身が木にぶつかった衝撃でくの字に折れる。


 アレは痛い。


「さて──ん」


 翠さんの初撃で地面に伏していたやつ。視界を奪われたやつ。それらの始末をつけようと引き金に再び指をかけようとするも、風鈴崋山の面々がその動きにストップをかける。


「《ブレードアタック》!」


 衛生兵の職に就く峰破さんの剣閃は、立ち上がろうとしていた黒狼の首筋と心臓へ正確に描かれる。


「秘剣──シャイニング・セイバー・ジ・エンド!」


 二刀流で舞う様に剣を振るう炎破さんだが、アーツ名が実際の剣技と合っていない気もする。厨二病の状態異常に罹っている人だし、その辺はツッコまない方が吉だろう。


 手負いの狼の処理は風鈴崋山の面々が担ってくれているようだし、こっちはこっちの相手をさせてもらおうか。


 樹々の枝を飛び、上空から迫る黒狼の眉間に、弾丸を撃ち込──


「《スパイラル・アロウ》!」


 弾丸同様のジャイロ回転を得て放たれた矢が、黒狼の脇腹を抉る。


 僅かに視線をずらせば、いつの間にか俺と同様に木の枝の上から射線を確保していた蒼破さんが、猛禽類のような視線を敵に向けていた。


「……やるなぁ。手合わせしてみたい」


 その言葉が叶うことはない。そんなことぐらい理解できている俺の双銃は、その後も波状攻撃のように襲い掛かってくる黒狼の群れを、仲間とともに処理していった。





 ■ □ ■ □ ■





「ふぅ~、片付いた、わね──さってと」


 両手を組んで真上に上げ、背筋を伸ばした占星術師は、大きく息を吐き出すと、水晶の裏に隠れている子供に視線を伸ばす。


「別にとって食べたりしないから、私たちとお話ししない?」


 自分を追い立てていた黒狼の群れを容易く屠った俺たちのことを警戒しているのか、子供──少年は訝し気な視線の色を変えない。


 しかしそれでも、俺たちの少年に対するこの気持ちは変わらない。


 年は5歳かそこらだろうか。幼く可愛い顔の作りながら、隙を見せまいと尖がっている様が実に子供らしさを強調している。


 こんな子供が森の中で1人というのは実に危険が危ない。


 だからこの少年は、俺たちが安全に保護する。


「……ほ、ホントーに? 食べたりしない?」


 恐る恐る、ゆっくりと水晶の影から顔を出す少年は、同じ目線になるまで腰を(かが)めた翠さんの優しい笑みに、その緊張をゆっくりと解していく。


「食べないわ。それより、あなたの方こそお腹空かない? お姉ちゃんたちと一緒に、ご飯食べない?」


 直後、水晶の影から狙ったかのようにグーっと音が鳴る。


「ご、ゴハン……いいの?」


「いいわよ」


 母性溢れる笑みを浮かべる翠さんから放たれたその言葉は、少年の警戒心を氷解させる。


「じゃあ……食べる」



 よっぽどお腹が空いていたのか、それとも嬉しかったのか。少年はピョンと飛び跳ねるように影から出て来ると、そのままトテトテと翠さんへと歩み寄る。


 そのお尻からは、一本のモフモフな尻尾が、これでもかと左右に揺れ動いていた。




 ──これ、絶対レアイベントだ。

次回『やはり運営のセンスはまちがっている。』

更新は木曜日の予定です。

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