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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
106/202

106話 この日俺はボス戦どころではなくなった

 炎の戦場へと足を踏み入れた俺と軍曹を最初に出迎えたのは、白いローブを肩にかけた女神だった。もう金ぴかじゃない。


『主ら……絶対に生かしては帰さん』


 お怒りじゃ。女神は大層にお怒りじゃ。背後の炎がより一層その雰囲気を醸し出しておるわい。


『――七の手、歩兵(ほへい)


 肩にかかっていたローブから全身真っ白な甲冑姿の戦士が飛び出してくる。


 1、2、3……18体か。多いな。


『征け、我が兵よ』


 その声への従うことが至上の喜びかのように、兵たちはノリノリで俺と軍曹へ襲い掛かる。


 見たところ兵士の装備は右手の槍と左手の盾の2つ。足捌きは普通の兵士程度。実は武器の扱いに関しては達人だったり、いきなり魔法を使ってこない限りは大丈夫だろう。俺と軍曹なら。


「おらぁあああ!」


 軍曹の刀が一閃する度、白い兵士の首が胴体へ別れを告げ、俺が人差し指を動かす度、白い兵士の頭が弾ける。


 うん、負ける気が全くしないな。今なら少し自覚できる。俺ら、強いわ。


 俺と軍曹が兵士をフルボッコにしている間、女神はモップさんの使い魔ポン太君と雪姫さんからの攻撃に晒されていた。女神は白い兵士を量産した直後だった為か、これまでよりもやや動きが鈍い。怒りのボルテージは最高潮みたいだが。


『ええい邪魔するでない!』


「あぁ女神様! もっと、もっと僕を罵ってください!」


『気色悪いわぁああ!』


 遂にAIからも言われてしまったか。もうこの人を救う手段はないな。


「ねぇ女神様、今どんな気持ち? ねぇどんな気持ちぃ?」


『な、なんなんじゃ主らぁああ』


 終末期ドMとドS姫が女神を凌辱――いや襲撃している。ただ剣による攻撃と使い魔による魔法での攻撃が霞んでしまうほどに、本人たちの言動が濃い。そして酷い。


「……お前の仲間はあんなんばっかりか」


 呆れたように呟く軍曹。だが軍曹、今はお前の仲間でもあるんだ。そこ、忘れるなよ。あと、類友だぞ。ん、胸が痛い。どうしたんだ? まぁ気のせいか。


 そして最後の歩兵を倒したところで、俺と軍曹は少し離れた場所で戦う女神へと視線を戻した。


 ――さぁ女神様、遊ぼうか。


 だが俺たちの視線を受けても、女神は虫を見るような目しか返さない。おいドM、羨ましがるな。心配しなくてもお前はこの中で断トツの嫌悪の対象だよ。


『歩兵が……おのれぇえ!』


 最初に比べてだいぶ癇癪持ちになった女神の咆哮に慣れてきた俺たちには、その声も大音量のスピーカー程度にしか感じない。


 さぁ、クライマックスだ。


『――八の手、捨て歩』


 捨て歩? なんだそれは。歩を捨て…………!?


「「皆、歩兵から離れ――」」


 俺の声と翠さんの声がピタリと重なる。だが、彼女の最後の言葉が聞こえることはなかった。


 その声が聞こえる前に、俺たちは巨大な爆炎の中に飲まれていった。





 ■ □ ■ □ ■





「皆、動ける!? 皆!」


 翠さんの声が聞こえる。と言うことは死んではいないようだ。


 だが……HPがヤバいな。残り30%ぐらいか。この辺りが一番駄目なんだよな。25%以下(レッドゲージ)にならないと赤鬼は発動しないし、大抵の攻撃1回で死ぬし。


 しかし……体がやけに重いな。ダメージの影響もあるだろうが、それにしても重い。おまけに視界も真っ暗だ。なんかバッドステータスついたかな。


「う、う~ん……」


 モップさんの声が聞こえる。そしてそれに合わせて顔の上で柔らかい何かがもぞもぞと動く。


 この辺で大体どのようなことになっているのか察した俺は、両の手に握る拳銃を俺の顔に(ケツ)を乗せている阿呆に向けた。


「わ、ちょっと待っておくれ総君。不可抗力、今のは不可抗力だよ!」


 わざとかわざとでないか。そんなことはさほど重要ではない。問題は俺の顔の上に、おぞましい生き物のおぞましいモノが乗っていたということだ。


「総君、モップさん、動ける!?」


「動けるけどピンチだよ! 主にソウ君的な理由で僕の貞操が危ない!」


 こいつの口を一刻も早く塞ぐことが安寧につながる。俺は今それを確信した。


「良かった。ならすぐに下がって回復を受けて! ブルーの!」


 葵さんの回復!? いかん、こんな変態に構っている場合ではない。一刻も早く葵さんの下に馳せ参じなければ!


 未だ煙立ち込める戦場を俺とモップさんは真っ直ぐと進む。その途中で同じような傷を負っている軍曹と雪姫さん、伸二とも合流した。


「小僧、何だその様は」


「軍曹こそ、HP赤くなってるよ」


「ええい、こんな時に言い合いしない! 早く回復支援受けなさい!」


 翠さんの叱咤の声が鼓膜の奥でキーンと音を立てる。


 だが同時に、俺の脊髄に氷柱を捻じ込むおぞましい声も聞こえた。




『――九の手、碑舎(ひしゃ)


 ――ヤバい。


 そう感じたのは直感。だが、こういう時の直感は時として理論を越える。それが分かっていた俺は、なりふり構わず伸二と軍曹を突き飛ばした。


「おわっ!?」


「おい小僧、何――」


 そこから先は聞こえなかった。


 突如真っ黒い壁が俺の視界を覆い、伸二たちを突き飛ばした左腕が俺とサヨナラした。


「――っ」


 先を無くした腕から、赤いエフェクトが派手に飛び散る。


 そして周囲を見れば、俺の四方は完全に黒い壁に遮断されていた。


「閉じ込められた……か」


 何ともわかりやすい手だ。相手が複数いる場合は、各個撃破は鉄則だ。今更感心するほどでもない。ただ、こんな見え見えの手に引っかかった自分に少しだけ腹が立つ。


『1人か……まぁ良い。最も厄介な奴が釣れたわ』


 四方を囲まれたリングに取り残された俺を、上空から女神が愉悦に満ちた表情で見下ろす。あいつ、飛べたのか。


 しかし俺には疾風と迅雷がある。この程度の壁、飛び越えることはそう難しくはないぞ。いやだが待て、折角だしアイツが何をするか見てからやろう。その方が翠さんに多くの情報を渡せる。


「翠さん! なるべくコイツの情報をそっちに伝える。だから――」


『無駄だ小僧』


「……あ?」


『向こうの声は貴様には届かぬ。貴様はここで、孤独に打ちひしがれながら最後の時を迎えるのだ』


 つまり、ここは完全に無効と遮断された空間と言うことか。


『しかしその姿……貴様、何者だ』


 女神の瞳に映るのは、頭から2本の角を生やし、目と肩からは紅いオーラを発する鬼の姿。そう言えばさっきの左手切断でHPは残り10%にまで減ってたな。


『まぁ良い。この空間が貴様らにとっての地獄であると言うことには変わりないのだからな』


「どういうことだ?」


『その空間は貴様らの使うあらゆる技、つまり魔法、術、アーツを封じる』


 愉悦に満ちた表情が、さらに歪む。


『更に――』


 女神が手を振りかざすと、四方の壁から黒い兵士が1、2、3……15体現れる。装備はさっき倒した歩兵と殆ど同じか。


『こいつらが貴様を切り刻む。どうだ絶望したか? あぁそうだ、1つだけ救いの手を差し伸べて遣わそう。もしこの兵たちを全て倒すことができれば、ここから出ることができるぞ? 出来れば、だがな。ふっふっふ……あーっはっはっはっはっは』


 口元を大きく歪ませて嗤う女神。


 が、


『貴様……なんじゃその顔は』


 俺も笑っているのがお気に召さないのか、女神は途端に不機嫌な口調へと変わる。


 いや、そりゃ笑うだろ。


『ええい! 兵たちよ、奴を斬り刻め!』


 剣を振り上げた兵士が3体、俺へと襲い掛かる。


「で? それがどうかしたのか?」


 頭上から降る剣を躱し、兵士の頭を後ろ回し蹴りで吹き飛ばす。


『……は?』


 突きを放ってきた兵士の剣をしゃがみ込み躱し、右の拳で喉元を潰す。


『え、ちょっと』


 投擲された槍を掴み、そのまま兵士にお返しする。あ、顔面貫通した。


『な……』


「面倒になってきたな。さっさと潰すか」


 そのセリフを置き去りに、孤立気味の兵士からその数を一気に減らしていく。


『な、なんなんじゃ! 本当に貴様は何なんじゃ!?』


 何って……そんなの決まってるだろ。


「日本の高校生だ」


 兵士の首を180度捩じり、俺はそう答えた。と言うか、それ以外に答えようがない。


 だが女神にはその答えはお気に召さなかったようで、


『貴様のような高校生がいてたまるかぁああ!』


 お前も伸二と同じようなことを言うのか。


 だが、だが俺だって普通の高校生だ。高校生みたいに青春したいんだ!


「うっせえ! お前もアイツみたいなこと言ってんじゃねえ!」


 横一文字の剣を銃のグリップで止め、そのまま兵士の頭を吹き飛ばす。


「それに、俺にはこの後普通の高校生らしくやることが残ってるんだ。邪魔すんじゃねえ!」


『貴様……何が貴様をそうさせる……何が貴様を、そこまで奮い立たせる!』


 最後の兵士の頭を吹き飛ばし、俺は女神に答える。


「このアタックが成功したら、葵さんに告白するんだ。絶対に邪魔はさせない」


『な……が……ぐっ……』


 刀を上空の女神に向け、俺は勝利者宣言を出す。


「さぁ、お前の出した条件はクリアしたぞ。俺をここから出せ」


『く、く、くっそぉおおおおお!』


 次の瞬間、ガラスが飛散したかのように、俺を囲っていた黒い障壁は砕け散った。


 そして壁の向こうでは、俺の帰還を信じて待っていてくれたであろう仲間たちが――





 あれ、どうして皆黙ってるんだ?


 伸二、なんで結婚式の時の花婿の父親のような目をしている。


 翠さん、大佐、雪姫さん、どうして爆笑している。


 モップさん、何故そんな羨ましそうな目で俺を見つめる。


 軍曹、せめて起きろ。


 そして葵さん。どうして顔を両手で覆って俯いているんだ。




 ……え?



 本当に理解不能な俺の脳ミソ。だが最後の力を振り絞るように、俺の脳ミソは女神が俺を閉じ込めた時のセリフを脳内再生した。



 ――向こうの声は貴様には届かぬ――



 向こうの声は俺には届かない。


 うん、冷静になってもう一度考えよう。落ち着け、落ち着け俺。


 向こうの声は俺には届かない、だ。つまり、俺の声は壁の向こう――葵さんたちにはバッチリ聞こえていた可能性が……


 いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや餅つけ、餅つけ俺。


 まだそうと決めつけるのは早い。早いぞ総一郎。


 それにアレだ。俺のあの言葉が向こうに丸聞こえだったとしてもだ。告白の対象が誰かなんて――


 言ったな。俺ハッキリと言ったな、葵さんにって。





「……ふぅ」


 ま、あれだ。これはアレだよ総一郎。


 俺は1つの答えに行きつき、そして――咆哮を上げた。


「女神このやろぉおおおおお!」


 逆恨み。これは完全に逆恨みだ。だが今の俺に、この感情を自己解決する術はない。出来ることはただ1つ。狂戦士(バーサーカー)となってこの女神をフルボッコにすることだけ。戦っている間だけは、この感情を忘れることができるはずだ。


 だから戦え、俺。戦って戦って、そして散れ。


 いつかこの瞬間のことも、思い出となるその日まで、俺よ……強く生きろ。

次回『この日盤上に立つ彼女の姿に俺は敬礼した』

更新は月曜日の予定です。

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