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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
103/202

103話 あの日見た師の背中を彼女は追いかける

 キツネ巫女の魔力に憑りつかれた俺と伸二とモップさん。だが俺たちの魂の咆哮に扉は一切動くことはなく、ただ後方から迫る釘バットの唸る音しか聞こえなかった。




「「「……申し訳ありませんでした」」」


 頭部を真っ赤に染めた俺たちは揃って土下座ストリームアタックを決め、額を地面に擦り付ける。


 その光景に葵さんはアワアワ、翠さんはプンプン、雪姫さんと大佐は爆笑、軍曹は寝ると言う世紀末な状態を作り出している。


「もう過ぎたことは良いわよ。それに、問題に失敗しても天井から多数のモンスターが襲ってくる程度の罠しかないことが分かった訳だし」


 翠さんによる釘バットスイング制裁の直後、天上から辺り一面にモンスターが降ってきた。


 それには少し驚いたが、主に俺と軍曹と大佐の3人でそれらを一掃。直接戦闘の不得手な葵さんを守りつつ、殆ど損害なく罠を突破することに成功した。


「でも次はちゃんと皆に答えを確認してから言ってよ? 急にその場の勢いで余計な答えを増やすなんて論外だからね」


 ド正論を突きつけられた俺の口から、YES以外の返答が出ることはなかった。


「分かればよし。じゃ、サクサクっと行くわよ!」




 そこから先はシンプルだった。天の声の出す殆ど運の二択問題に対し、やや勘の鋭くなったキツネ巫女――葵さんが正答率60%という感じで答えを出していき、失敗した時には俺たちヒャハー祭りだぜ軍団が世紀末を踊った。


 その過程で分かったことは、天の声は猫派であり、カレーとハンバーグだったらカレー。入浴時最初に洗うのは左腕。靴のサイズは27.5センチ。無人島に漂着して最初にすることは、全力でかめ〇め波を叫ぶ。好きなモビルスーツはジ〇スナイパーⅡ。自分を戦隊ポジションで表すとしたら、レッドになりたかったブルー。今一番欲しいものは、美女の危機に颯爽と登場して心を奪えるような力と、その場に居合わせる運。子供の頃のあだ名は、歩くエロスピーカー。


 俺たちは全プレイヤーの中で最も天の声の情報に詳しい者たちという謎の称号を引っ提げ、奥へ奥へと進んでいった。





 ■ □ ■ □ ■





「今度の扉は……何もリアクションがないな」


 恐る恐る扉の様子を窺いつつ伸二が呟く。


「だがこれまでとは扉の装飾が違うぞ? こっちのほうが黒光りしてて豪華そうだ」


 適当な価値観からの言葉だが、中々にシンプルで的を得ているとも言える。どう見ても、これまでのものとは違う。何より、天の声が静かだ。これまではしつこいくらいに向こうから声をかけてきたのに、事ここに至って急に静かになった。


「どうする、リーフ?」


 伸二からの言葉に翠さんは数拍の間目を閉じ、そして、


「聞いてみましょう。ねぇ、聞こえる天の声?」


 いや翠さん聞いてみるって……近所のおばさんじゃないんだから――


『どうした、侵入者よ』


 答えるんかい! どんだけ親切設計だよお前。


「ここには問題とかないの?」


 彼女の言葉に、天の声は先ほどよりも少しだけ声のトーンを下げ答える。


『ない』


 それが天の声の答え。だがそこではいそうですかと引き下がれるものではない。きっと何かはあるはずだ。まさかここで本当に行き止まりなんてことはあるまい。


『ここはこれまでの試練の間とは全くの別物』


 やっぱりな。てかこれまでのって試練だったんだ。まぁ糞どうでもいい知識を蓄えさせられる苦痛を与えられるという試練なら体験したか。


『ここを通るためには、我に資格を見せよ』


「……し、かく?」


 呆然とした表情で答える翠さん。それも仕方がない。資格と言われても、そんなものには全く心当たりがない。


「ねぇ天の声、私、大型二輪の免許と危険物取扱の免許なら持ってるわよ」


 元気よく挙手をする大佐の口から生々しいコメントが飛び出す。だが、


『それではない』


 天の声は容赦なくぶった切る。


『ここを通ることが出来るのは、この地に授けられた加護を持つ者と、その従者のみ。それ以外は、何人たりともここを通さぬ』


 カゴ? つまりあれか? カゴを持ってきたらいいのか?


「なぁリーフ、俺カゴなら――」


「総君、今はそんなボケ聞いてる場合じゃないの」


 おおおおおい!? 君たち自分のボケは全て俺に打ってレシーブさせるくせに、俺のボケはサーブすら打たせないってか!?


 だが非情なツッコミに打ちひしがれる俺の後ろでは、この件に対する真剣な議論が繰り広げられていた。


「ねぇルーちゃん、これってアレじゃないかなぁ」


「私も、そんな気がします。加護って言葉ではないですけど、意味はそれに近いですし」


「僕も2人に同意だね。それにそれなら、ソウ君を中心にしたメンバーが選抜された理由にも納得がいく」


「ですよね」


 3人の声を耳に入れていた俺だが、流石にそこまで言われては気付いてしまった。そうか、そういうことだったんだな、あれは。まったく……


 俺はすっと立ち上がり、彼らの方へと視線を向ける。


「……なるほど。あれは、この時のためだったのか」


 なんて粋な演出だ。いや、俺たちのこれまでの道のりが決して無駄でなかったことの表れかもしれない。


 俺は皆の期待に応えるべく、懐へと手を忍ばせ、


「待たせたな、天の声。俺たちの資格……その眼に焼き付けろ!」


 紫色のオーラを全身から発する呪いのワラ人形を取り出した。


『……え?』


「鳥人間たちとの激闘の末ゲットした、血と汗と涙の結晶だ。どうだ、これなら――はべぼっ!?」


「「「 違ぁああああああう! 」」」


 再び後頭部から赤いエフェクトをまき散らしながら、俺の顔面は数分ぶりに地面との再会を果たした。





「こんなところでボケなくていいから! さっさとあのスキルを提示しなさい」


 普段俺が常に思っていることを、雪姫さんから逆に言われてしまう。だが確かにこのタイミングは少し悪かったな。俺以外は皆真剣だったからな。


「ごめんごめん」


 そう言いつつ、やたら数字の少ないステータス画面からスキル一覧画面へとスライドする。


 そして――


「ほら天の声。これでいいか?」


 正面の扉に提示したスキル。それはナガサキでの死闘の果てに、可憐なる姉妹リリスとカノンから貰った勲章。2人とも……使うぞ。


 それに対し天の声は、


『これは……天使の祝福、だと。馬鹿な……これは全部で77ある加護の中でも頭のいかれた難易度の――いや、屈指の難関コースだぞ』


 おいお前今何って言おうとした。だが興味深い情報でもある。追及は止そう。え~っと、全部で77ある加護に、難関コースだったな。ははん……なるほど、そういう感じなのか。


『ぐっ……汝らの資格を、認める。通るが、よい。汝らの目的の部屋はこの先だ』


 困惑の色を抑えきれない天の声。それが聞こえた後、目の前の重厚な扉はその顎を開いた。





 ■ □ ■ □ ■





「ここがボス部屋か?」


「この次だろうな。ここはその前の最後の調整部屋みたいな感じじゃないか?」


 その答えに行きついた俺たちの表情に、これまでとは違った緊張が走る。


「……いよいよね」


 雪姫さんも猫を被る余裕がない程度には緊張している。


「ソウくぅん?」


「さぁ、いよいよだ!」


 何かに追われるようにして急ぎ扉の前に立つと、一度大きく深呼吸をしてから、その重厚な扉に手をかける。


 後ろを振り向けば、皆一様に頷きその時を待ち構えていた。



「――行くぞ!」


 自分へ気合を入れるようにして声を張り上げ、重い扉を力一杯に押す。


 そしてゆっくり、ゆっくりと、その先の光景が露わになっていく。




「あれは……」


「――女神」


 そこにいたのは、神アネの装いにそっくりな女神。


 大きさこそアネに比べかなり小さく3メートル程度しかないが、足元まで伸びるウェーブのかかった髪が風もないのにそよいでいるその神聖さは、確かに神アネに連なるものとして不足は感じさせない。いや、胸だけはさすが妹様と言った感じか。拝んどこ。


『ようこそ、人の子らよ』


 アネよりもやや幼さを感じさせる声が、巨大な洞窟内に木霊する。決して叫んでいる訳ではないが、その声は不思議と数十メートル離れている俺の耳にハッキリと入ってくる。


『私は神・イモート。ここまで来たご褒美に、私からあなた方へプレゼントがあります』


 もう騙されないぞ。お前らはそうやって友好的なフリをして、直後に開幕ビームをかますんだ。絶対に油断をしないぞ。


 だが、張り詰めていた緊張の糸を、神イモートは電動ノコギリで切断にかかった。


「――なっ!?」


 突然女神が、その身に纏う白のローブを脱ぎ始める。俺はその信じられない光景に、釘付けにならざるを得なかった。


「何をしてるんだ、アイツは……」


 もしや、本当に視覚的なご褒美をくれるのだろうか。だとしたらなんて良い人、いや女神様だ。ごめんなさい女神様、俺、間違ってました。大事なのは、相手を信じようと自分から歩み寄る心だってこと、今思い出しました。


 女神様のその献身、俺忘れません。だから女神様、そう遠慮せずにその肩にかかる細い紐も外していいんですよ。何なら俺がお手伝いしましょ――


『――初手、虚雨射(キョウシャ)


 肩からするりと落ちた白のローブが、一切の物理法則を無視して俺の頭部を貫通するべくその袖を伸ばす。


「――っと」


 信じられない伸縮性と硬化性を持つローブが顔の横を掠めると、僅かに遅れて左の頬から赤いエフェクトが飛び散る。


「……そう来たか」


『へぇ……今のを躱すとは。人の子にしては良い反応ね』


「そりゃどうも」


 言い終わる瞬間、両の手に銃を構え女神の眼球向けて鉛玉を放つ。


『ふん、小癪』


 だが放たれた弾丸は、女神に当たる前にそのことごとくを白いローブによって阻まれた。


「自動迎撃システム、みたいなものか」


 女神の腰を包むようにふよふよ浮んでいる白のローブ。恐らく女神の意思通りに動く攻撃性と、自身に迫るあらゆるものを迎撃するシステムが搭載されているのだろう。


 だが、この程度なら想定の範囲内だ。そうだろ、


「リーフ!」


 俺の声に、翠さんはすぐさま反応する。


「――プランAで行くわ! 総君と軍曹、ハイブが前衛。雪姫さんはその後方でいつでも交代できるように。私とモップさんが後方から援護射撃。ブルーと大佐は回復支援」


 その指示に俺たちは応の声を上げそれぞれの持ち場へと動く。


「総君、軍曹! そのローブの射程を知りたいの。出来るだけ手を出させて」


「オッケー」


「了解だ」


 それぞれに左右からジグザグに女神へ迫る俺と軍曹に、女神はややうざったるそうにローブの両の袖を左右へと伸ばす。


「ほっと」


「――紫電閃(しでんせん)!」


 それをサイドステップで躱す俺と、紫電を纏った刀で断ち切る軍曹。一見すると女神のローブが勝手に弾けた様にも見えるほどの、凄まじい速さの居合斬りだ。


 今のところは射程は約30メートルで一直線に進むタイプか。そう言えば最初に攻撃する時にキョウシャとか言ってたな。初手とも言ってたし、もしかして将棋の香車のことか? だとしたらこの直線的な攻撃も納得だ。

 となると、他の攻撃パターンを引き出して対処法を翠さんに考えてもらうのが俺と軍曹の役目だな。あ、もしかしてここまで見越して出来るだけ手を出させてって言ったのか、翠さんは。


「ハイブ、2人のキャパオーバー分はアンタが援護よ!」


「任せろ!」


 今のところの攻撃だったら伸二の出番はないだろうが、もし角や飛車、桂馬といった攻撃パターンが来たとしたら少し厳しいかもしれないな。軍曹が。俺じゃなく軍曹がな。俺じゃないかんな。


 そう思い軍曹の方をチラッと見ると、向こうもこっちをチラッと見ていた。そしてあの顔。同じこと考えてたなきっと。くそっ、負けてられるか。


「雪姫さん。20秒後に軍曹と位置替えです。スイッチの準備を」


「は~い」


 その声を聴き軍曹の顎が垂直に落ちる。効果音をつけるとしたら「ガァアアアアアン!?」だな。


 だが翠さんを上官と位置付けている軍曹は、非常に不満そうな顔をしつつも反論の声を上げずに女神の伸びるローブ攻撃を凌ぎ続ける。やっぱ仕事人だな、あの人。


 そうして20秒が経過した後、翠さんの指示通りに軍曹と雪姫さんがスイッチする。


「雪姫さん、あの攻撃パターンなら《柳》で凌ぎきれるはずです。ブルーが軍曹のバフをかけ直すまで耐えてください。総君、新しい攻撃パターンが雪姫さんにいかないように、ヘイトを離さないで! ハイブ、総君が間に合わない時はアンタの出番よ!」


「「 合点だ、親分! 」」


「誰が親分よ!?」


 そりゃ貴女ですよ。こんなに頼れる人、親分と言わずして何と言いますか。


 軍曹には戦闘開始直後に、葵さんが防御力アップの(護国陣)をかけている。そしてそれが切れると同時に雪姫さんと入れ替え、彼女は回避用アーツの柳で攻撃を凌ぐ。その際の隙は俺と伸二でカバー。どれもここに来る前に話した戦闘プランに基づく行動だ。


 だがこれを瞬時に展開するには、リーダーは他にも大量の攻撃パターンを頭に詰め込み、かつ俺たち全員の使用するスキル、アーツを詳細に把握しておく必要がある。


 元々頭が良くて行動的な人とは思っていたが、ジーザーの時とはまるで別人だ。一体カゴシマで何をどうしたらこんなことができるようになるんだ。俺なんて自分の分のスキルを管理するので手一杯だぞ。


「総君、雪姫さんにヘイトが移りそう! もう少し手数と火力を上げて!」


「了解――リロード【焼夷弾PT-02】!」


 よく燃え広がりそうな女神の白いローブ。攻撃の起点となっているその肩口に、着弾すれば広範囲に炎をぶちまける弾丸を撃ち込む。


『させんわ!』


 くそっ、またあれに防がれた。だがお陰であのローブの尖端は燃えないことが分かった。そして今のをガードしたということは、あのローブの肩口は弱点と見るべきか。


 ――そうと決まれば。


「リーフ、突っ込んでいいか!?」


「え!? う~ん……いいわよ――ってうわ速!」


 俊足のブーツ迅雷を起動し、伸びきったローブの下を潜り抜け一足で女神の懐に潜り込む。


「ども、こんちは」


『――無礼者が!』


 女神が掌を俺に向ける。アネと同じパターンなら、掌ビームが来ると思っていいだろう。


 だが女神の手の先から出たのはビームではなく、人がすっぽり収まりそうなほど巨大な鏡だった。


 それが出現するのとほぼ同時に銃口から放たれた弾丸。だがその全てが、鏡に吸い込まれた直後、再び鏡から現れ俺へと放たれた。


「うおっ!」


 くそっ、被弾した。通常弾じゃなければ危なかったな。


 しかし何だその鏡。攻撃を反射するとか反則だろ。そんなんじゃ射撃も魔法も撃てやしない。そんなんじゃ……ん。


「来い――冬雨(ふゆさめ)!」


 半蔵さんに打ってもらった新しい刀、冬雨。通常攻撃力が……え~っと……かなり高いその刀を、横一文字に振るう。


 すると、鏡は甲高い音を上げ少しだけ後方へとよろめいた。


 やはり鏡の淵に対する近接の物理攻撃は反射できないか。なら今のを考慮すれば――


「リーフ!」


「いい仕事よ、総君。軍曹、雪姫さん!」


 その声に、いつの間にか左右へと展開していた2人が女神との距離を一気に詰め、手にした獲物を抜き放つ。


「「 一刀破斬! 」」


 巨大な刀で軍曹が左から刺突を、雪姫さんが右から上段斬りを放つ。そして俺は、どちらか一方を鏡で防がせないため、再び鏡の淵に剣撃を加え女神の防御手段を奪う。


『ぐっ、貴様!?』


「そう遠慮するな、存分に味わってくれ」


『――っ!?』


 次の瞬間、女神を中心とした辺り一帯は、巨大な剣の斬撃を受け爆散した。

次回『この日魅せた友の力に俺は「体育館裏」』

更新は木曜日の予定です。

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