98:懐かしき訪問
『魔人族』と『獣人族』の決闘は、獣人界で行われることになっている。
本来ならば簡単に行き来などできない両者間なのだが、『魔人族』はあっさりと了承した。
こちらにはすぐにでも向かうことのできる方法があるとのこと。
それはひとえに日色の転移能力があるからだ。
そのことを獣王であるレオウードも知っているので、その方法については驚きは無かった。
決闘場所も決闘方法も獣人が決めて、その上で負けたとあったら、さすがにもう言いわけなどできはしない。プライドの高い獣人なら尚更だ。
そう考えて魔王イヴェアムは、獣人たちに決めさせたという理由もあった。
――【獣王国・パシオン】。
その東に位置する【ヴァラール荒野】と呼ばれる、獣人界で一番広い荒野が存在する。そしてその荒野には、奇妙な場所が存在している。
そこは空から何か巨大なものが落ちてきたかのようなクレーターが生まれているのだ。
半径にして二百メートル以上は間違いなくあるだろう。
そこが、決闘場所になっている。
さらに『獣人族』が決めた決闘方法は、互いに同人数ずつ選抜し合い、クレーターの中で決闘するというものだ。
一騎討ちのような決闘にもなるし、二対二や三対三のようなマルチな決闘にもなる。
また決闘に参加する者の中で、それぞれ王という役割を担う者を一人決める。その王を守りつつ戦うのだ。無論王が敗れれば、他の仲間がまだ倒されていなくともその決闘は敗北を意味する。
ただタイマンの場合は、一人しかいないので、必然とその者が王となる。
観戦者はクレーターの外から見守るのが義務。無論手を出した場合は、その決闘の勝敗は手を出した方の負けになる。
勝利条件は、相手側の王が戦闘不能に陥るか、負けを認めるかだ。命を落としても敗北になる。
この決闘方式は、元来『獣人族』の中で行われてきたものであり、互いに譲れないものを懸けるのが通例だ。
勝った者には地位や名誉が与えられ、負けた者は全てを失う。
それがかつて『獣人族』の間で行われた《アガッシ》と呼ばれる決闘方法である。
決闘場所、決闘方法は、書簡で魔王イヴェアムも把握できた。向こうに決めさせると決断した以上、文句は無いのだが、少し問題がある。
それは日色の魔法なら、一瞬でその決闘場所へ行くことができるが、それは実際に行ったことがある場所ならばだ。
日色は【パシオン】には行ったことがあるが、残念ながら【ヴァラール荒野】には行ったことがなかった。だから一度行っておいた方が何かと都合が良い。
そこで日色は、イヴェアムから決闘場所の話を聞き、一人で【パシオン】に飛ぶことにした。
「ほう、相変わらずデカイな」
シンボルである巨大樹――《始まりの樹・アラゴルン》を中心にして、周囲に街が広がっている王国だ。しかも人間が作った街とは違い、全て木でできている。家も木の中をくり抜いて生活空間を確保している。
国の中には澄みきった小川も流れており、自由に小魚も泳いでいる姿を発見できた。自然とともに生きている獣人らしい住処である。
そして王城ならぬ《王樹》と呼ばれる王族の住処がある。幾つもの巨大な樹が重なり合って大きな要塞のようになっているのだ。
街には多くの行商人や旅人が訪れ、《始まりの樹・アラゴルン》に祈りを捧げるのだ。
『初代獣王』ジングウードがその樹をシンボルとし、街を造り上げて行ったことから、その樹は神聖なものとして崇められてきた。
年に一回行われる《始まり祭》と呼ばれる祭りでは、多くの者が集まって来る。特に子供を連れて来る者が多い。
何故ならその時に、その《始まりの樹・アラゴルン》に登り、祈りを捧げることで加護を受けられると信じられてきた。
《始まりの樹・アラゴルン》のように丈夫で立派な子に育つようにと、いわゆる願掛けのような儀式が行われるのだ。もちろんそれは獣人の子供だけに限る。昔、人間が登って見つかり処刑された事実もあるのだ。
その大樹を見上げながら懐かしさが込み上げ、日色は思わず頬が緩む。
何故日色がここに来たのかと言うと、理由は幾つかある。
一つ目は決闘場所に案内させること。ただしこれは別に案内させなくても、『探索』の文字を使えば見つかるので言ってみればついでだ。
二つ目はもう一度、ここの獣王を見たかったというのもある。一度確かに相見えたが、会談の時は時間が無くそれほど観察することができなかった。
それにこんな決闘方法で種族の未来を決めるという王と話をしてみたいと思ったのも事実だ。馬鹿。一言で言えばそうなるが、日色にとっても何だか嫌いになれない人物だった。
それはひとえに一番最初の仲間が獣人だったというのもあるのかもしれない。馬鹿だが正直、そんな彼らを束ねる王に少しばかり好感を抱いていた。
そして三つ目は、その仲間との約束を果たそうと思い立ったからだ。まあ、正直に言うと今まで忘れていたので、この機会をちょうど良いと判断したからなのだが。
無論仲間とはアノールドたちのことだ。あれから半年以上、彼らがどう成長しているのか、少しばかり楽しみでもあった。
半年をかなり過ぎてしまったため、恐らく小言を言われるだろうとは覚悟しているが、せっかく来たので挨拶ぐらいはしておこうと思ったのだ。
とりあえず『化』の文字で獣人に変化しておく。
そして真っ直ぐララシークの住まいへと足を延ばす。
そこも以前と同じ相変わらずボロボロ具合な家なのかとも思ったが、これまた前と違い立派な……とは言えないが普通に扉が設置されてあった。
恐らく見かねたアノールドかミュアが直したのだろうと判断する。無造作に扉を開けて中に入る。だが部屋には誰もいない。
ただこれは以前もそうだった。
この家には地下室がある。
多分彼らはそこにいるのだろうと思って、地下室がある場所まで行こうとすると、日色は眉をピクリと動かして動きを止める。
「ん? 誰だ?」
背後から声がした。振り向くとそこには長い耳を持った白衣姿の幼女がいた。手には酒瓶らしきものを持っている。間違いなく彼女はララシークだ。
「……よぉ」
「…………お前まさか……?」
最初は不審者を見るような目をしていたが、すぐにキョトンとした様子で日色を見つめる。
「久しぶりだなチビウサギ」
その呼び名でララシークは確信を得た。
「こ、小僧かっ!?」
「誰に見えると言うんだ?」
「い、いやだってお前……え? マジか?」
いまだ信じられないといった感じで混乱している。突然日色が目の前に、しかも自分の家に現れたのだから吃驚するのも無理は無いが。
「アイツらは?」
そんなパニック状態のララシークの気持ちを無視するように尋ねる。
「え? あ、いや、そうか、アイツらに会いに来たのか?」
「ああ、ついでだがな」
しばらく目をパチクリしていたララシークだが、大きく溜め息を吐くと、落ち着いたようにクスリと笑う。
「そうか、アイツらにか。だが残念だったな、今はいねえんだ」
「いない?」
「ああ、レオ様……いや、国王様の言いつけで、あるモンスターを狩りに行っててな」
「国王の言いつけ?」
何故アノールドたちが国王の言いつけでモンスター退治に行くのか不思議に思った。ギルドからの依頼ならば分かるのだが、国のトップから直接依頼されるのは珍しいのだ。
「そうだ。試練でな」
「試練だと?」
そこでララシークは何故そんな試練を受けているのか説明した。
「ほう、ならオッサンたちも決闘に出ると? それに勝つために王直々の依頼を受けてるんだな?」
「その通りだ」
これは全く以て予想外だった。まさか彼らが戦争に参加するとは思っていなかった。何故なら前回の戦争でもアノールドたちは参加の意思など皆無だったからだ。
幾ら獣人のためとはいえ、進んで戦争に行く者たちではなかった。特にアノールドはミュアのことがあるので戦争になど興味が向くとは考えられなかった。
しかしララシークから戦争参加の内容を聞いて、彼らの本質が自分に会うためにあるのだと聞かされると思わず呆れてしまった。
「まあ、今回の決闘は単なる殺し合いじゃねえからな。アイツらには良い経験にもなるし、それにアイツら言ってたぜ? 強くなった自分をお前に見せてえってな」
ニヤニヤしながら言う彼女を一瞥して軽く溜め息を吐く。
「ところでアンテナ女はあれからどうしたんだ? やはり父親を探しに出かけたのか?」
「ああ、ライブ……て分かるか? アノールドの姉だ」
「知ってる」
まさに女傑の名に相応しいような逞しい体つきをした女性だ。
「ライブがウィンカァの父親のことを知ってたらしくてな。それを教えたらすぐに出てったよ。あのチビっこいモンスターと一緒にな」
ハネマルも一緒にこの国を出て行ったようだ。
「なるほどな。まあ、アイツらの人生だ。好きにすればいいし、オレがどうこう言う筋合いも無いからな」
「ほほう、そうか」
「それにそういうことならここで会わない方が却って良かったかもしれんしな」
「……その心は?」
「今のオレは敵だぞ? 少なくとも国を背負って戦うなら、今は会わない方が良いだろ?」
もしかしたらせっかくの覚悟が鈍る可能性だってあるのだ。それにどうせなら、本気で戦う強さというものを見てみたいと思った。
「ふ~ん、確かにそうかもな。けどこうは考えられねえか?」
「ん?」
刹那、ララシークが一瞬の間に日色の背後へと迫り、首にその細い腕を回し、もう片方の手でメスのような刃物を首元に突きつけていた。まさに神速のごとき動きだった。
まるで初めて会った時の再来である。
「ここでお前を拘束させて、獣人勝利に一歩貢献した方がいいかも……とな?」
「…………」
「それにやっぱりアイツらも小僧に会いたいだろうしよ?」
「…………」
「おやおや? あれから少しは強くなってるだろうと思ったが、やっぱりワタシの速さにはまだ対応できねえみてえだな? ナハハ!」
嬉しそうに笑みを浮かべるが、
「そうだな、あれから少しは強くなったぞ」
ララシークの目が大きく開かれる。
何故ならば日色の声が、自分の背後からしたからだろう。
ハッとなって後ろを見てみると、腕を組みながら壁にもたれている日色がいた。
「ど、どういうことだ?」
いまだ動かない日色と背後にいる日色を交互に見る。
――ボンッ!
「ふぐっ!?」
突然拘束していた日色が煙となって消えると、そのままララシークは床へと落下してしまった。
「い、痛ぇ……ど、どういうことだ?」
「ただの分身だ」
「ぶ、分身……って……」
日色はこの家に入った時、背後に誰かが来たのに気付くと、すぐさま『分身』の文字を使って、本体は『透明』で姿を隠していたのだ。
ちなみにどれも《設置文字》だったので、瞬時に発動できたというわけだ。ララシークは知らずに家に入って来て、分身相手に話していたということだ。
「これで、前の借りは返せたな」
以前は彼女に今のように一瞬で間を詰められ背中をヒヤリとさせられたのだ。
だから次に会った時は、その仕返しをしてやろうと思っていたが、上手く彼女を出し抜くことができたようで思わず笑みが零れる。
「……ハハ、こりゃ思った以上に獣人にはしんどい決闘になりそうだな」
日色の実力を垣間見れたことで、その成長度の高さに驚いているようだ。
「ふぅ、まあいい。いや、一本取られたのは非常に遺憾だが、それはいずれ返すとして、お前はアイツらに会いに来ただけなのか?」
ララシークに、ここに来た目的を言うと得心がいったような表情を浮かべて、それならばと言いながら一緒に国王が住む《王樹》へと向かうことになった。
彼女もちょうど国王に用事があると言っていたが、
「それにこんな面白そうなこと見逃す手はねえだろ?」
と、やじ馬根性炸裂な感じで笑顔を浮かべていた。
日色にしても、彼女がいればスムーズに話が通ると思ったので何も言わず了承したのだ。
一応獣人の時の日色の顔を知っている兵士もいるだろうからと、ララシークにフードを被るように言われた。確かにその方が無駄な争いが起こらずいいかもしれない。
だが《王樹》に入ると、赤ローブを着用した顔も確認できない人物に視線が向かうのは当然だった。
それでも傍にはララシークもいるので、彼女の連れだと判断して誰も何も言ってこない。《玉座の間》に入る前に、兵士にララシークが謁見を求めていると告げる。
兵士はララシーク相手に緊張した面持ちで頷き《玉座の間》に入って行った。
そしてしばらくすると帰って来て、入る許可を得る。
ララシークを先導にして、日色は後をついて行く。
(ほう、ここが《玉座の間》か……そしてアレが)
そう思いつつ視線を玉座に向ける。そこには、獣王であるレオウード・キングが座っており、こちらを訝しむような目で見つめていた。
さらに日色が目だけを動かして周囲を確認する。玉座の近くにはいつか見た鳥人間がいた。どうやらこちらを警戒しているようで鋭い目つきで睨んでいる。
「突然どうしたララ?」
レオウードはララシークに向かって聞くが、視線は日色に向かっている。
「いえいえ、バカ弟子たちの現況報告と…………面白い人物を紹介しようと思いましてね」
「ほう」
全員の視線が日色に集束する。
すると鳥人間がレオウードを守ろうと傍まで来ようとするが、レオウードはそれを片手を上げて制止させる。
「……その者か?」
「はい。きっとビックリしますよ」
楽しそうに笑みを浮かべるララシークを一瞥すると、再び日色に視線を戻す。
「……そこのお前、フードを取って顔を見せるがよい」
そして言われた通りにフードを取る。
次の瞬間、一転して空気が固まる。特に鳥人間は以前直に獣人姿の日色に会っているので、素早くレオウードの前に立ち身構えた。
「ララシーク様、どういうおつもりですか?」
明らかに殺気を全身に漲らせながら彼女に尋ねる。その反応も当然だ。敵であるはずの日色をここまで案内してきたのはララシークなのだから。
だが彼女は肩を竦めて笑顔を崩さず口を動かす。
「安心しろってバリド。コイツがレオ様に会いたいって言ったから連れて来ただけだ。前にも言ったぞ? この小僧とは知り合いだってな」
「で、ですが!」
鳥人間――バリドの言い分は尤もだ。幾ら知り合いとは言っても、数日後には国を懸けて決闘する間柄なのだ。しかも考える限り最大に警戒すべき相手の一人。
日色がこの瞬間に王の命を奪いに来たのかもしれないと考えても的外れだと誰も思わないだろう。
「そう警戒しなくてもいい。この小僧はホントに話をしに来ただけだ」
「そ、その根拠がどこにあるというのですか!」
「だってよ、コイツがそんな面倒なことするわけがねえからな」
「……は? め、面倒?」
虚を突かれたように呆気に取られるバリド。するとその彼の肩に手がかかる。
「こ、国王様?」
「少しどいてろバリド」
「し、しかし!」
「どいてろ」
目をギロリと動かして威圧すると、バリドは渋々横に動き控えることにした。
そしてレオウードはそのまま日色を見据え、
「久しぶり……なんだな?」
そう聞いてきた。
だから日色もまた素直に答える。
「ああ、久しぶりで間違い無いな」
「あの時、【聖地オルディネ】で相対した『魔人族』。アレはお前だったというわけか」
「そうだ。あの時はいきなり攻撃してきやがって、王ともあろう者が手が早いんだな?」
「貴様っ!」
バリドが以前のように羽を飛ばそうと翼を動かした時、またもレオウードの睨みによって阻止される。
「う…………分かりました」
翼を元に戻したのを確認したレオウードは、再び日色を観察するように見つめてくる。
「仮にも一国の王に対してそのような物言いができるとは、大物か馬鹿か……お前はどっちだ」
「大物に決まっているだろうが」
一瞬の迷いも無く答える日色にレオウードは笑顔を作る。
「ガハハハハ! なるほど! こりゃあの時の小僧で間違いないわ! ガハハハハ!」
楽しそうに笑っている国王を見て、兵士たちもキョトンとしている。そして先程、冷え切っていた空気が嘘のように緩んでいく。
「さて、確かにお前はヒイロ・オカムラらしいが、お前は敵側の最高戦力のはずだ。そのお前が何故ここに来たのか理由を聞かせてみろ」
「理由は幾つかあるが、アンタたちに関係ある理由として二つある。一つは決闘場所の正確な位置を聞くこと」
「ん? 決闘場所を知らないのか? そこで良いと魔王からは返答を受けておるぞ?」
眉をしかめて聞いてくる。
「いや、決闘場所そのものには問題は無い。ただ正確な場所を把握しておく必要があるから聞きに来ただけだ」
「ほう、それは何故だ?」
「オレが『魔人族』連中をそこに運ぶからだ」
それは魔王から受けた書簡にも書かれてあったはず。こちらの者が当日に決闘場所へと転移させると。無論そんなことができる者がいるとは普通は思わないだろう。
だが会談の時、確かに日色は一瞬にして魔王たちを遠く離れた魔界へと転移した。だからそれが可能なのだと判断してくれたと思う。
「しかしそれなら何故場所を正確に把握する必要があるのだ? ……ああ、なるほど、お前の魔法は知らぬ場所へは行けぬか?」
「……ほう、頭は悪くないみたいだな。てっきり脳筋だと思ってたが」
日色の言葉にララシークはプッと吹き出し、バリドは額に青筋を立て、兵士たちはヒヤッとして騒然とする。
ただ肝心のレオウードはというと、
「ガハハハハ! 言い得て妙だな! なあララよ!」
「ナハハ! まったくです!」
楽しそうに笑っていた。王に対して侮辱に当たるようなことを言って、兵士たちはここで戦闘が起きてしまうと思ったのか、巻き込まれることにヒヤヒヤしたが、どうやらそれは杞憂だったようでホッとしていた。
「脳筋か! それは確かララにも言われたことがあったな! ガハハ!」
「だってその通りではないですか!」
レオウードが少しも怒りを感じていないので、さすがのバリドも呆けてしまっている。
「分かった分かった! それでは転移をするためにも場所を知りたいというわけだな?」
「まあ、あえて理由をつけるとそうなるな」
「む? あえてだと?」
「ああ、別にアンタたちに教えてもらわなくても自分で探すこともできたからな」
「ほほう、ならば他の理由と言うのは?」
「なに、単純にアンタという人物と話してみたかっただけだ。こんな馬鹿げた決闘を受ける愉快な王とな」
「ガハハハハ! 確かにお前から見れば馬鹿げた決闘だろうな!」
「……」
「だがヒイロよ、力と絆を何よりも重んじる我ら『獣人族』にとって、この決闘はある意味、一番納得のいく戦争方法なのだぞ」
「……ただの戦闘馬鹿だろ?」
「そうとも言うがな。しかし分かり易い。違うか?」
「……嫌いじゃないがな。そういう分かり易いのは」
「ガハハ! そうかそうか! それで? ワシとこうして話したいと言っておったみたいだが、どうだ? 得るものはあったか?」
「そうだな、アンタが獣人たちに慕われている理由が何となく分かった」
そこにいるだけで常人とは違う覇気を宿した人物。豪快な物言いに、凄まじい戦闘能力。そして人を惹きつける何かを持っている。
獣人たちがこの人物を頼りにしているというのも理解できるような気がしたのだ。ここで話も聞かずに一方的に戦闘になる可能性も考えていたが、そこまで考え無しの馬鹿ではなかった。
それどころか、力だけではなく頭もそれなりに回る方らしい。これは魔王イヴェアムと違ってカリスマ性では比較にもならないと思って苦笑する。
日色の言葉が嬉しかったのか、またも豪胆に笑うレオウード。
――タタタタタタタタタタタタ!
すると何やらこちらに向かって来る足音が聞こえてきた。そして背後から息を乱しながらも必死に胸を押さえて玉座の方角を見る少女がいた。
「こ、こちらにヒイロ様が来られているというのは……本当……なの……です……か……」
そう語る彼女の目が次第に広がっていく。その目に映る一人の人物に釘付けになっているのだ。
「……ヒ……ヒイロ……様?」
日色は自分の名前を呼ばれて、軽く顔だけを背後へと向ける。
少女の姿を見て、少し考えてしまったが、頭に着けている大きな青いリボンを見て「お?」と思い出したように目を少し見開く。
「お前……青リボンか?」




