62:深夜の対話
「さて、とりあえず座れ。いろいろ説明してやる。こちらも、聞きたいことがあるしな」
彼女の表情は、食事の時のような怪しい笑みを浮かべたものではなかった。
目を細め、深刻そうに少し口を尖らせている。
日色は痛みに耐えながらも同じようにソファに腰かける。ちょうど二つあるので、彼女とは対面する形で座った。
そこへシウバが救急箱のようなものを持ってやって来た。
本来なら手当てなど必要無い。『治癒』の文字でも使えばスッキリ治るのだが、ここで使うわけにはいかず手当てを受けるしかなかった。
シウバに包帯を巻いてもらい、一通りの処置が終わると、そこでようやくリリィンが口を開く。
「先に謝っておく。我が眷属が申し訳ないことをしたな」
少し意外に思った。初めて見た時は、謝罪など、自分に非があっても絶対にしそうにない人物だと思ったものだったが、存外礼節を弁えているようだった。
「いや、それより説明をしてくれ。どうしてアイツがここに来て、どうしてオレを襲ったのか。それにアイツの姿……」
「うむ。まあ焦るな。完全なるこちらの不手際だ。しっかり説明してやる」
するといつの間にかいなくなっていたシウバは、どうやら紅茶を用意しに行ってたようで、戻って来たシウバが二人の前に紅茶を置く。
リリィンはその紅茶を手に取り、一口含み軽く息を吐く。
そして静かに話し始めた。
「ここが魔界ということは貴様も知っていると思うが」
『魔人族』は自分たちの大陸のことを魔界、獣人の大陸を獣人界、人間の大陸を人間界と呼んでいるらしい。
「本来なら『魔人族』だけが住む大陸だが、中には他種族も身を隠して生活していることもある」
その話は別段珍しい話ではない。人間の大陸にも獣人はいるし、その逆もまた然りだ。
ただ魔界に関しては、生息するモンスターや環境自体が厳しいので、他種族が暮らしにくく、滅多に存在しないのが現実でもある。
「話の流れから察していると思うが、シャモエは『魔人族』ではない。いや、あくまでも純粋なと付け足した方が良いか」
「純粋な?」
気になるワードが出てきたので聞き返した。
「シャモエは『魔人族』と『獣人族』との間にできた落とし子だ」
「……ハーフってことか?」
日色は心の中で『やはりな』と思った。
「そうだ。分類すると『魔獣』と呼ばれる種族に入る」
そんな呼び名があったのかと思い、それならシャモエの獣耳がある理由にも納得した。
「だが初めて見た時は、アイツには獣耳も尻尾も無かったが?」
「『魔獣』という種族にはな、その血の濃さで『魔人族』寄りか、『獣人族』寄りか分けられる。まあそれは人間と獣人のハーフにも言えることだがな」
ウィンカァは後者で、確かに彼女は人間よりの姿をしていた。
「シャモエは『魔人族』の血が濃くてな。だから普段は獣耳など無い」
「なるほどな。それで? 急に生えたのは?」
「迂闊だった。今日は満月の夜だった」
「あ?」
リリィンが窓の外を見るので、同じように見ると、確かにそこには日本とは比べようもないほど大きな月がまんまると太り空に浮かんでいた。
「満月の夜には『獣人族』の血が強まるらしい。だが勘違いするなよ? 全ての『魔獣』がシャモエのように暴走するわけではない。二つの血に負けず、しかとコントロールできている奴もおる」
つまりは、シャモエはまだ未熟者だということだ。
何でも成人している『魔獣』は自身の力を把握し、コントロールできているらしい。しかしシャモエの場合、まだ成人しておらず、暴走する力を押さえられるほどの精神力を持ってはいないのだ。
(そういやアンテナ女も満月の時に暴走したっけな)
彼女もハネマルを殺されたのがきっかけで、怒りのままに感情を爆発して豹変してしまった。
「それでも最近は何とか暴走することだけは無かったのだが、今日はいろいろあって、奴の心が揺らいでおったからなぁ」
「面目次第もございません」
シウバが申し訳なさそうに頭を下げる。どうやら今日は彼女にとっての初めての客人が来た日であり、毒の山に出掛けて行ったシウバをずっと心配していて、ようやく帰って来たことで浮足立っていた。
心の安定が損なわれてしまっていた彼女は、普段はそれなりに制御できていた力を抑え切れず、こうして暴走させてしまい日色を襲ってしまったということだ。
(たったそれだけのことで暴走か。どうやらあのメイドはメンタルはあまり強くないようだな)
少なくともウィンカァと比べると、だが。
「しかし、何でオレの所だったんだ? お前らも襲われたことあるんだろ?」
「そうだな。確かにその通りだ。襲われるのはほとんどワタシだったな」
「いやはや、わたくしめに襲って頂ければそれはそれで嬉し」
「黙れ変態!」
「ぎびょっ!」
今度は見事なフックを受けてベッドの方に飛んでいった。シウバはどこまで行ってもシウバなのであった。
「『獣人族』の本能はより強い者。危険な者に反応する。だからこの屋敷にいる間は、基本的にはシャモエの狙いはワタシだった」
そう言えばシウバからリリィンの強さはドラゴンが泣いて詫びるほどだと聞いていた。それほどの人物なら、獣人の本能が危険を察しても理解できる。
「だが今日は……おかしな出来事が起こった」
リリィンはそう言うと、ジッと鋭い瞳をぶつけてくる。
「シャモエが危険視したのは、ワタシではなく貴様だった」
そこでハッとなる。確かに彼女の言う通りなら、シャモエの本能はリリィンより日色を危険に感じて襲ったということになる。
「確かに貴様には不可思議なことが多々ある。『インプ族』でもないのに『インプ族』の姿をしている。そして、先程のシャモエとの一戦」
見ていたのかと奥歯をギリッと噛み締める。
「貴様、火を使うとシウバに聞いたが、まるでその気配は無かった。魔力を放出していたにも関わらずだ」
「…………」
「それに最後の動き。突然貴様の力が跳ね上がったように感じた。そしてその際、その腕が微かに光を発した」
そう言って日色の腕を指差す。
「ワタシよりもシャモエは貴様を危険視した。本能で貴様の方が確実に仕留めておかなければならないと察したのだ。このワタシよりも」
少し怒っているように聞こえる。
どうやら彼女はシャモエが自分より日色を選んだことが気に喰わず、ようするに軽い嫉妬を覚えているのだが、日色はそれどころではなく、《文字魔法》を見られていたことに衝撃を受けていた。
「もう一度聞こう。一体何者だ小僧?」
今度は好奇心で聞いているというよりも、明らかに警戒心からくる言葉だった。
日色はゴクリと喉を鳴らし彼女の目を見据える。
(これは……誤魔化しは危険かもな)
今度こそ力づくで聞き出そうとするかもしれないと感じた。こちらに非は全くないのだが、彼女たちにとっても日色の存在が不気味であることも偽りは無い。
それに何となくだが、気になることもある。まずはそれを確かめてから、自分のことを話すかどうか決めようと思った。
だがその前に一応の保険はかけておく必要がある。そう思い、日色はキッと視線を鋭くさせる。
「自分の従者も碌に躾できてないとは呆れたものだな」
「何だと……?」
思った通り、リリィンは不愉快そうに眉をひそめて睨み付けてくる。
「客人に対する礼が、まさかこんな仕打ちだとは恐れ入ったな」
「む、むぅ……」
日色の言い分の方が正しいので言葉を噤み唸る。
「しかも正体を教えろだと? 寝ぼけてんのか、おい?」
互いに睨み合うような形になって、近くにいるシウバも難しそうに顔をしかめている。
「おざなりな謝罪なんかしやがって。謝るなら誠意を見せたらどうだ?」
「く……」
年下で生意気な日色にここまで言われて、非は確かにこちらにあるが、さすがに腹が立ってきたリリィン。
そんな彼女を観察するようにジッと見つめる日色。
そしてバッとその場から動き部屋の隅へと移動し、二人から距離を取った。
いきなり何をと思ったリリィンはハッとなって見てくる。
日色はそんな視線はお構いなしに指先に魔力を宿す。
無論その行動に気づいたリリィンは眼光をさらに強め、シウバはサッと即座に彼女を庇うようにして前に立つ。
(お、意外とイケたな)
内心でほくそ笑みながら彼女たちに見えないように文字を書いていく。
その文字は『転移』。これでいつでもこの場から脱出することが可能になった。
実はこの行動は一種の賭けだった。
もし魔力を感づかれた瞬間に、飛びかかってでもこられたら危なかった。
何せシウバもリリィンも、本当の強さを理解していないからだ。
いや、間違いなくリリィンは強い。あのララシークと同等以上の空気を持っているので、恐らく普通に戦っては勝ち目が無いかもしれない。
だから冷や冷やしながら文字を書き、それが成せたことでどれだけホッとしたかは本人にしか分からない。
(さて、保険はかけた。後は……)
気になっていたことを聞くだけだと思った。こちらの一挙手一投足に注視している彼女たちを見つめる。
「おい、何か言うことは無いのか?」
無ければこのまま今立てた計画通り事を進めるだけだ。
ちなみに計画とは、相手がこのまま敵意を向けたまま何も話さなければ転移して、ミカヅキを連れてこの島からの脱出を図る。
外には大勢のランクS級のモンスターがウヨウヨしていると言うが、ここにいるよりはマシだろうと判断した。
日色は身構えながら相手の様子を見守る。
すると――。
「ノフォフォ、そうでございますね」
微かに笑みを浮かべたシウバが、突然戦闘態勢を解き頭を下げてきた。
「お、おいシウバ……?」
その行動にリリィンでさえも目が点になっていた。
「お嬢様、全てヒイロ様が正しくてございます」
「は?」
「あの方は我らのお客人。そしてわたくしの命の恩人でございます。礼は礼を持って返し、命は命を持って返す。それを忘れてはなりませんでした」
「…………」
「この屋敷にお招きして、彼を試すようなことをし、更には屋敷の者が彼を傷つけました。それなのに我々がこのような態度では、これから先、お嬢様のためにも、そしてお嬢様の野望のためにもなりますまい」
「…………」
「今すべきことは、お嬢様ならご存じのはずでございます」
リリィンはシウバの言葉を聞いてしばらく押し黙っている。
日色は表情を変えないで、そんなリリィンを見つめるが、思わずギョッとした。
何故なら……。
「う……」
リリィンが涙目になっているからだった。
(え? ……は? 泣いてる?)
さすがの日色もこんな状況は予想しておらず呆気にとられている。
涙を流すまでには至っていないが、子供が悔しいのを我慢しているような表情だ。
「う、うるしゃい! わかっておりゅわ!」
ドスッと手に持っていたぬいぐるみをシウバに投げ渡し、キッと視線をこちらに向けてくる。
「ごめん! すまん! 悪かった! 許しぇ!」
頭は下げてはいないが、膨れっ面の上、半ば自棄に言う彼女を見て、何だか完全に毒気が抜かれた。
(な、何だコイツ……これじゃまるで……)
「ノフォフォフォフォ! お子様みたいでございますね。そのようにお泣きになられて」
シウバが言いたいセリフを言ってくれた。
「うるしゃいわ! 泣いてなどおらにゅわ!」
ドスッと拳を腹にめり込まされ、呻き声を上げて床に沈むシウバ。
だが彼女を見て、本当に子供のように思えた。確か彼女は長生きをしていると言っていた。シウバの口ぶりからもそれは事実なのだろう。
しかし自分の欲求が通らず、あまつさえ信頼している従者に叱られ、彼女は歳に似合わず多感な感情を表に出してしまったのだ。
そんな彼女を見て、少なからず恐怖を感じ警戒していた自分が情けなくなるような気持ちまで込み上がってくる。
ただ単に歳はとっていてもまだ彼女は子供だったようだ。自分が知りたいから教えろと言い、怒られたから感情的になる。そんな子供。
(おいおい、さっきまでのオレの覚悟は……)
気が抜けてしまって、文字が消えそうになり、慌てて集中する。
ここで発動もせずに止めてしまえば《反動》があり、数時間の間、身体は弱体化し《文字魔法》》が使えない。そんなのはごめんだった。
だがこれなら気になっていたことが聞けるかもしれないと判断し口を開く。
「ちょっといいか?」
「な、何だ!」
少し腫らした目を向けてくる。もう全然怖くない。むしろほとんどの人は、頭を撫でて慰めてやりたいと保護欲を誘うような雰囲気を持っている。
「はぁ、まあなんだ、一応謝ったと判断して、さっきの続きだが」
「教えてくれるのか!」
泣いた鴉が笑うではないが、笑みを浮かべて言葉を放ってきた。
それを見て苦笑を浮かべた日色は、「……その前に一つ答えろ」と口にする。
「む……」
こちらが先に質問したのに、日色から偉そうにものを言われて不機嫌そうに眉をひそめる。
「お嬢様」
いつの間にか復活していたシウバが、リリィンを宥めるように声を発する。
するとリリィンは肩を竦め手を振った。
「はいはい分かった分かった。だがその質問に答えたら貴様のことを教えるんだろうな?」
射殺せそうな視線で睨んでくる。さっきまで泣きそうだったところを見ているせいか、凄んでも全然威圧感が無い。むしろ子供がいきがっているようにしか見えなくなってきた。
「それは質問の解答次第だ」
「…………ふん、いいだろう。ワタシは他の者と違い懐が深い。先に質問させてやろうではないか」
尊大な感じで言葉を発し、それをシウバが申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。
「では質問だ。赤チビ、お前は」
「ちょっと待て」
「何だ?」
「い、今何て言った?」
「は?」
「あ、あか、あかちびとは何のことだ?」
隣にいるシウバは額から滝のように汗を流している。またも修羅場になりそうなので焦っているのだ。
「そんなもんお前のことに決まってるだろうが。赤い髪でチビスケだから。赤チビだ」
「ほほう……どうやら捻り潰されたいようだなぁ……」
ゴゴゴゴゴゴと明らかに異様なオーラのようなものが彼女の背後から感じるが、それを感じて冷や汗をかいているのはシウバだけだ。
「何だ、嫌なのか?」
「当たり前だろうが! 貴様ワタシを誰だと思っている!」
「泣き虫な子供だな」
「うぐ……き、貴様ぁ……」
顔を真っ赤にして目に怒りを込めている。
「そんなに嫌か? なら赤ロリはどうだ?」
「は? ん? 何だって? あかろり? あかろりとは何だシウバ?」
「へ? は、はっ! ええとでございますね……その、赤ロリとは……」
恐らく赤いロリータということなんだろうがと心の中で思うが、決して口にはしない。どうしたものかと思い、必死に思考をフル回転させて思案する。
「むむむ、そう! そうでございます! 赤ロリとは褒め言葉でございますよお嬢様!」
「む? そ、そうなのか?」
「は、はい! 何でも巷では赤ロリという言葉は、可憐でお美しい淑女に与えられる名前だそうです!」
「ほう、外ではそのような言葉が流行っておるのか」
なるほどとコクコクと頷く。日色はそんな二人をボ~っと眺めている。
「で、ですからここは甘んじてお受けになっても良いのではないでしょうか?」
「む……むぅ。そうか……」
赤ロリなどという言葉は無い。何故なら日色が即興で作ったからだ。そして褒め言葉でもない。ただの日色にとっての分かり易い代名詞に他ならない。だが世間知らずのリリィンがそんなことを知る由もないのである。
「うむ、ならば赤ロリと呼ぶことを許してやろう! ワタシは寛大だからな! アハハハハ!」
「よ、良かったでございます! ノフォフォフォフォ!」
シウバは心の中で彼女が単純で良かったと思わずにはいられなかった。
「おい、もういいか?」
「む? 良いぞ、さっさと言え」
ようやく本題に入れると思いホッとする。
「……質問だ。お前は種族に拘り、優劣をつけるタイプか?」
「は? 何を言っているのだ貴様は」
日色は黙って彼女の目を見つめる。そんな視線を受けてリリィンも真剣な表情を作る。
「ふん、種族に関係無く、ワタシは強い者が好きだ。優劣があるとするなら、強いか弱いか、ただそれだけだ小僧」
途端に彼女の幼い顔の中に、経験から得られる老獪な表情を見て取れた。
それは彼女が長年に渡って見出した答えであり、自信を持って口にできる言葉なのだろうと理解した。とても先程まで叱られて涙目をしていた少女だとは思えない。
「……なるほどな」
別に難しい話でも無かった。彼女はただ興味があるか無いか、そしてその者が強いか弱いか、ただそれだけで判断する人物だった。
シウバも優しそうな笑みを浮かべて彼女を見ている。何となく自分の娘を見ているような目だが、いつもそんなふうに大人な雰囲気なら紳士なのだが、突然変態化するので、その変わり様に残念過ぎると思った。
(オッサンたちとはまた違った奴らだが、コイツらなら少しだけだったら話しても大丈夫のような気がする。だが一応言質はとっておくか)
そう思い、日色はシウバが巻いてくれた包帯に手を掛ける。
「おい、オレのことを教える前に、他言はしないと誓え」
「見くびるな。このワタシがホイホイと喋り倒す口軽女にでも見えるか無礼者め!」
「ノフォフォフォフォ! ヒイロ様が仰るならば、墓場まで持っていきましょうぞ」
「…………分かった」
そしておもむろに包帯を引き千切る。その行動に二人はキョトンとなって目を見開いている。
「き、貴様何を」
「黙って見てろ」
――ピシュンッ!
一瞬にして日色が消えたことで、二人は目を丸くする。
「どこ見てるんだ?」
二人はハッとなって声の方向を見てみると、先程まで部屋の隅にいた日色が、いつの間にかソファに腰かけていた。
(これだけでも十分だが、どうせならこれも治しておくか。アイツらの驚く顔も面白そうだしな)
呆気にとられている二人をよそに、まだ血が出ている肩を見て、新たに魔力を指先に集中させていく。
そう言って魔力を指先に集中させていく。
(この程度なら二文字でなくとも……)
何かの文字を腕に書いていく。だがそれは設置文字のようで腕に吸い込まれるようにして消えた。
そしてさらに今度は『治』の文字を書いて肩に発動させる。すると痛々しそうに歯型がついていた皮膚が、見る見るうちに元の綺麗な皮膚に戻って行く。
その光景を見た二人は唖然と時を止めたように固まっている。
だがリリィンはハッとなると、顎に手をやり思案顔で口を開く。
「治癒魔法……? いや、治癒魔法は光属性の魔法だ。『魔人族』が使えるわけがない。それに光の力も感じられない。それに先程の移動術……どういうことだ?」
ブツブツと言葉を並べている間にも、日色の傷は完全に治癒した。さらに鋭い目つきになったリリィンは先程と同様の姿で言う。
「説明しろ。今のは……何だ?」
「何と言われても、オレの魔法だ」
「……だから『魔人族』が何故……いや待てよ。そうか貴様、それはユニーク魔法だな?」
シウバも気づいていたのかこちらを見つめながら微かに頷く。
「ああそうだ。《文字魔法》と言ってな。詳しいことは言わんが、万能さが売りの能力だ」
「詳しく話せ」
「断る。それ以上話す義理は無いな。これでもサービス過多だぞ」
「む、貴様……」
明らかに怒りの込めた視線をぶつけてきている。
しかし日色はその視線を受け流し答える。
「お前は自分の能力を他人にベラベラと喋るのか? ここまで話したのも単なる気まぐれだ。これ以上は手の内は見せん。それが普通だろ?」
「む……」
日色の言うことが尤もだと判断したのか、少し怒りが収まるが、それでも何やら聞きたくてウズウズしている目を向けてくる。気持ちは分かるが、これ以上は話すつもりはない。
実際に話そうと思ったのはここまでだった。彼女がもし種族に拘るような人物なら、やはり転移してこの場を去ろうと思っていた。
戦争を望んだ獣人のように、自分たちが優れた種族であり、他を滅ぼそうという思想を生む可能性があるのなら、一緒にいれば必ず災いに巻き込まれると判断したのだ。
しかし結果は種族に関しては全く興味が無かった。あるのは強いか弱いか。単純な解釈だったが、分かり易くて逆に好感が持てるような解答だった。
これが先日シウバにリリィンの話を聞いて、彼女の持つ考えが気になり、ここにいるなら聞いておきたかったことだ。
「要するに、貴様の魔法はユニーク魔法で、火も起こせるし身体能力も上げられ、治癒もできるというわけだな。すると……そうか、その姿も?」
「さあな」
「それくらい答えても罰は当たるまい」
「だから言っただろ、『インプ族』じゃないと。それだけで十分だろ?」
「む……むぅ」
不機嫌そうに上目使いで見上げてくる。先程と違って、まるで玩具を取り上げられた子供のような姿に、思わず日色も拍子が抜ける。
「ノフォフォフォフォ! ただの御仁ではございますまいとは思っておりましたが、まさかユニーク魔法の使い手だったとは、これは恐れ入りましてございます! ノフォフォフォフォ!」
「ええい黙れシウバ! ああもう、気になるわ! いっそ力づくで」
「いけませんよお嬢様。彼はお客人なのでございます。それにずいぶんとご迷惑もおかけしました」
「む……」
シウバの正論に言葉が続かず口ごもる。
「良いではありませんか! ここは奇人変人が住まう処。常々お嬢様が仰っているではございませんか。いちいち他人様のことを詮索しても仕方ないのでは?」
「確かにそうだが……むぅ」
それでも飛び級的に奇人である日色のことが気になって仕方が無さそうだ。爪を噛みながらこちらを見つめてくる。
だがその時、日色は内心でほくそ笑んでいた。
(よし、上手くいった)
今彼の目には、二人のあるものが見えている。それは《ステータス》だった。
実は『治』の文字を使っている間、すかさず設置していた『覗』を発動させたのだ。
食事の際は使う隙が見当たらなかったが、こうして魔法を使える口実を巧みに利用させてもらい、同時に発動した。これならば『覗』に関しては不審に思われない。
ちなみに二文字を発動したことで、設置文字は消えてしまったのだが、『治』の文字を書く前に設置した文字はコレだった。同時に発動させて違和感を無くさせるようにするためだった。
リリィン・リ・レイシス・レッドローズ
Lv 148
HP 6733/6733
MP 5876/5876
EXP 2796139
NEXT 98022
ATK 977()
DEF 944()
AGI 1159()
HIT 1220()
INT 1476()
《魔法属性》 無
《魔法》 幻夢魔法(夢喰い解放・幻惑制限解放・幽玄の間構築解放)
《称号》 幻と共に生きる者・幼女・泣き虫・酒好き・探究者・傀儡者・モンスター殺し・ユニーク殺し・斬り裂き魔・超人・永きを生きる小さき悪魔・赤バラの魔女・強者を求める者・極めた者
シウバ・プルーティス
Lv 80
HP 1250/1250
MP 6000/6000
EXP 604441
NEXT 23000
ATK 430()
DEF 355()
AGI 490()
HIT 333()
INT 1000()
《魔法属性》 闇
《魔法》 プールボール(闇・攻撃)
ダークゲート(闇・移動)
ブラックアウト(闇・攻撃)
フィアクリメーション(闇・攻撃)
シャドウクリエイト(闇)
《称号》 闇の精霊・視る種族・異端者・変態執事・不死身ロリコン・女好き・フェミニスト・セクハラジジイ・女の敵? 味方?・達人・万能・平和主義者・忠実なる僕・白髪鬼・最強の盾




