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48:レベルアップ

 クロウチに討伐部位ごとクレイバイパーを持っていかれ、仕方なく手ぶらで外へと出ることになって、何のために残ったのか分からず溜め息を吐く。


「……痛っ」

 気づいたことがある。身体が筋肉痛だ。主に足。歩けないほどではない。だがその理由はハッキリとしていた。


(多重書きの相乗効果のせいだろうな)


 『速』を多重書きして相乗効果を生んで、速さを向上させたのは良かったが、日色のレベル的に逸脱したスピードだったためか、身体が少し悲鳴をあげている。

 便利ではあるが、やはり使い過ぎは《反動》が起こるようだ。


(これは上乗せするほどきついんだろうな……)


 そう思いながら、使いどころを間違えないようにしようと決めて歩く。

 外へ出ると、すぐ目の前の木陰にミュアを寝かせて介抱しているアノールドを発見した。


「お前何やってたんだよ? 討伐部位が分からなかったのか?」

「いや……そうか、やはりオッサンは見てないのか」


 クロウチは地面に潜って消えていった。もしかしたら来た時もそうだったのかもしれない。

 だとしたらアノールドは見ていない可能性が高い。あの出口からやって来た可能性もあったが、そうであるならアノールドが気づくはずだ。


「は? 何を?」

「いや、何でもない。チビはどうだ?」

「ああ、別に大した怪我もしてねえし、ちょっと気を失ってるだけだ。無理もねえ。あんだけの力を解放したんだし、クソヘビに締めつけられて大変だったろうしな」


 ミュアはぐっすりと眠っていた。あれほどの雷を生んでおいて、彼女の身体には何の外傷もない。服ですら焼け焦げているところは無かった。


「ところでアンテナ女とハネッコはどうした?」


 アノールドたちと一緒に外に出た彼女たちがいないのだ。


「ああ、ウイたちなら川のニオイがするとか言って、水を汲みに向かったぞ」

「そうか」

「悪いがこのままミュアが起きるまで――」


 アノールドが言いかけたその時、ミュアが「う……」と目を醒ます。


「ミュア? 大丈夫かミュア?」

「…………おじ……さん?」


 まだ焦点の合わない目を必死に凝らしているミュア。


「おおそうだ。俺だぞ。どうだ? 身体は何ともねえか?」


 ミュアは徐々に視界がハッキリしてきたのか、視線を動かしてここが洞穴内ではないことを知る。


「うん、身体は少し痛いけど大丈夫だよ。モンスターは……?」

「あのヘビなら倒したぜ」


 するとミュアは悲しげな表情を見せる。


「ご……ごめんなさい……わたしのせいで……」


 どうやらモンスターを倒したようだが、自分のせいで苦労したであろうと認識して申し訳なく思っているようだ。


「アハハ、何言ってんだ? お前のお蔭でクソヘビを倒せたんだぜ? 何も覚えてねえのか?」

「…………え?」


 ミュアに、日色たちが見たことをそのまま話した。

 俄かには信じられない内容だったのは明らか。

 ミュアは瞬きを忘れて固まっている。

 自分の力がクレイバイパーの動きを止めて、倒すきっかけを与えられたというのが信じられないのだ。


 ミュアは日色にも確かめるように目線を向けてくるが、日色は腕を組みながら目を閉じたまま肯定も否定もしない。ミュアは再び視線をアノールドへと戻す。


「おじさん……ほんとに?」


 アノールドが理由もなくミュアに嘘をつくことはない。それでもあの強力なモンスターに、ミュアが一矢報いることができたということが驚愕なのだろう。

 アノールドもミュアに証明してやりたそうな表情をしているが、どうすればいいのか分からず困った表情だ。

 そこで日色はハッとなり、少し試してみたいことを思いつく。地面にある文字を書いて発動する。


「おいヒイロ、何してんだ?」

「黙って見てろ」


 発動すると、青白い魔力が地面に広がり、その魔力にうっすらと何かが映し出される。それはまるでテレビ画面のような映像そのもの。そこには、先程のクレイバイパーとの戦闘映像が流れ始める。


(どうやら成功だな。『映』の文字で自分の記憶の映像を見せることができるとは便利だ)


 二人はポカンとしているが、アノールドは先程体験した光景が映っているので何となく日色の使った文字の意味を理解したようにコクコクと小刻みに頷いている。


「こ、これまさか、さっきの戦いの……か?」

「そうだ。おいチビ」

「な、何ですか?」

「これが真実だ。どう受け止めるかはお前次第だ」


 そう言って日色は映像に視線を落とした。ミュアも同じように映し出されているものを見つめている。

 そこにはミュアがクレイバイパーに捕まった瞬間の光景が映っていた。突然凄まじい電流が迸り、クレイバイパーの動きを止め、その隙を狙って日色たちが攻撃をする。

 身体から淡い光を放っているミュアを受け止めたアノールドが、面白いように感電する様子までもハッキリと映し出されていた。その後の二人の会話までハッキリと聞こえる。


 日色は『映』の文字を先程から上書きし続けていた。

 何故なら効果が一分間なので、一度だけだと途中で終わってしまうのだ。だから《多重書き解放》効果の相乗効果で持続時間を伸ばしている。


「これ……ほんと?」


 まだ信じられないのか、ミュアは日色たちを見回す。アノールドは笑みを浮かべてそっと彼女の頭に手を置きながら大きく頷く。


「ああ、ようやく目覚めたんだ。頑張ったな、ミュア」

「ふぇ……」


 ミュアの眼からブワッと涙が溢れ、彼女はアノールドに抱きつく。彼はそんな彼女の頭を擦りながらこう言う。


「言っただろ? お前は強くなるって。これからだって」

「ひっく……ひっく……うえぇぇぇぇぇん!」

「これで戦えるぜ。けどまだまだ初心者だ。一歩ずつ。分かったな、ミュア?」

「う……ひっく……うん……うん……うんっ!」


 アノールドが彼女の涙を大きな指で拭き取ってやり、彼女は嬉しそうに破顔する。


「ちょっといいか?」


 そんな中、空気を読まない言葉が二人の耳に届く。


「な、なあヒイロ、俺たち今感動の……」

「いいから周り見てみろ」

「だから何が…………はい?」


 そこにはモンスターたちで満たされていた。


「う……うっそぉん……」


 そう呟いてしまうのは無理はないだろう。


「まあ、ここは安全地帯でもないし、ご都合主義ってわけにはいかないってことだ」

「こ、こ、このクソモンスターどもがぁ! ちょっとは空気を読まんかぁぁぁぁぁいっ!」

「とりあえず片すか。チビはここにいろ。どうせまだ動けないだろ?」

「あ、はい」


 また自分は守られるのかと思ったのか、シュンとなる彼女に日色は言う。


「おいチビ、力を手にしたんなら、当てにできるくらいには役に立つようになれよ。次は守らんぞ」

「…………はい!」


 その言葉がミュアの心にとても力強い響きを与えたようで、パアッと嬉しそうに笑顔を見せる。

 本来なら守らないという言葉に不快感を催すかもしれないが、彼女にとってはその言葉が歓喜なまでに嬉しいものなのだろう。


 ミュアは戦う二人の背中をジッと見ている。今までその背中を、誰かの背中をずっと見続けてきた彼女。

 しかし、彼女は曲がりなりにも力を得た。彼女は拳を握りしめながら彼らの戦いを目で追っていた。


「爆ぜろ、《文字魔法》!」


 『爆』の文字を行使し敵を一掃。


「うひゃあぁぁぁぁっ!?」

「あ……」


 アノールドが近くにいることを忘れていた。爆発に巻き込まれそうになり、アノールドは物凄い形相で睨みつけてくる。


「な、何しやがるヒイロォォ! 危ねえじゃねえかっ!」

「…………まあ、オッサンなら大丈夫かと思って」

「大丈夫なわけねえだろこのすっとこどっこぉいっ!」


 戦闘中にも拘らず相変わらずの二人である。


「よし、それじゃ離れてろオッサン」

「遅いわっ!」


 そう怒鳴りつつも、日色が何か文字を書いているのを見て下がるアノールド。モンスターはあと三体ほど。

 しかしその時、その三体の身体に閃光が走り、一気に寸断される。


 モンスターたちも何が起こったのか分からずにそのまま絶命。見れば彼らの後ろには、いつの間にかウィンカァとハネマルがいた。どうやら彼女が瞬殺したようだ。

 何はともあれ戦闘終了だ。


「お、おおすっげえ……」


 アノールドはウィンカァの所業を見てほとほと感心している。


「えっと、倒したけど……良かった?」

「ああ、さっすがはウイだぜ!」


 三人と一匹はミュアのもとへと帰る。木にもたれて休息している彼女が、驚いた様子でジッとある一点を見つめながら固まっていた。


「ど、どうしたんだミュア?」


 彼女の様子を気にしたアノールドが聞くと、彼女はそのままの表情でアノールドを見て言う。


「お、おじさん……レベルがすごいことに……」


 どうやら《ステータス》を確認していたようだ。自分のレベルがとんでもなく上がっていることにミュアは驚いていたようだ。


「は? 何だそんなことかよ。ま、そうだろうな。実際に手を出してねえとはいえ、一緒に行動してるんだ。俺たちが倒したモンスターの経験値がミュアにも流れるんだから、レベルが上がって当然だろうよ」


 ギルドでパーティ登録しているので、【グリー洞穴】で戦った分、そして今の分の経験値が彼女にも入っているはず。当然まだレベルが低かった彼女はかなりのレベルアップへと繋がったのだろう。


「つうか、洞穴ん中でもレベルアップしてただろ? 気づいてなかったのか?」

「う、ううん。気づいてたけどあとで確認しようと思ってたの。だけど三回くらいしか音は鳴らなかったのに……」


 レベルアップすると頭の中に気の抜けるような音が響く。


「ああ、それはあれだ。一気にレベルが飛び級しただけだ。だから三回ってのも、3レベル分上がったって意味じゃねえ」


 その証拠に以前、ユニークモンスターであるレッドスパイダーを倒した時、日色も一回のレベルアップで数レベル一気に上がっている。だが音は一回しか鳴ってはいない。


「そ、そうなんだ……」

「ま、俺も確認しておきたかったんだよ。洞穴では俺もレベルアップしてたしな。それにさっきのでも上がったみてえだし」


 二人が《ステータス》を確認したので日色も一応確認しておくことにした。二人と同様に音を耳にしていたからだ。



ヒイロ・オカムラ

Lv 40


HP 228/770     MP 150/1500

EXP 75632     NEXT 5890


ATK 258(320)   DEF 200(215)

AGI 350(352)   HIT 192(200)

INT 309(313)


《魔法属性》 無

《魔法》 文字魔法(一文字解放・空中文字解放・多重書き解放・二文字解放)

《称号》 巻き込まれた者・異世界人・文字使い・覚醒者・人斬り・想像する者・ユニーク殺し・モンスター殺し・グルメ野郎・我が道を行く・妖精の友



アノールド・オーシャン

Lv 41


HP 160/595     MP 30/249

EXP 86038     NEXT 7660


ATK 394(438)  DEF 359(375)

AGI 328(333)  HIT 252(254)

INT 114()


《化装特性》 風

《化装術》 風の牙・風陣爆爪・爆風転化

《称号》 風の友・元奴隷・料理人・親バカ・暑苦しい男・変態と呼ばれた男・ロリコン・野生の剣



ミュア・カストレイア

Lv 28


HP 65/255     MP 54/160

EXP 41143    NEXT 2952


ATK 266(269) DEF 227(235)

AGI 214(217)   HIT 181(182)

INT 96()


《化装特性》 雷

《化装術》 雷の牙

《称号》 雷の友・奪われた者・マイエンジェル・キューティフラワー・我慢の子・料理好き・純真・妖精の友



ウィンカァ・ジオ 

Lv 79


HP 2420/2830    MP 565/751

EXP 627191     NEXT 9675


ATK 682(802)   DEF 656(686)

AGI 901(916)   HIT 469(519)

INT 224()


(せん)()》 一ノ段・疾風     二ノ段・渦巻き     三ノ段・大車

     四ノ段・一閃     五ノ段・火群

《称号》 天賦の才・ハーフ・力馬鹿・家族思い・禁忌・動物好き・一直線な娘・大食い・人斬り・ユニーク殺し・マイペース・モンスター殺し・放浪者・電光石火・達人・アンテナ女・ヒイロの下僕・のほほん巨乳・不思議ちゃん・ストロングガール・戦闘好き・月光




 日色は自分の《ステータス》のある部分を見て目を見張っていた。


《二文字解放》


 これはやはりそういうことなのかと、期待感が半端なく押し寄せてきている。今すぐにでも実際に使って確かめたかった。しかしとりあえずはまず確認することが必要だった。


《二文字解放》 消費MP 300

 二文字を連ねて書くことができる。その効果は一文字の時よりも遥かに強力。効果範囲、威力、汎用性、それらが極めて向上するが、それに反し制限もある。文字によっては効果時間が極端に短い文字も存在する。また明確にイメージを施さなければ文字自体書くことができない。また二文字を書き終え、発動する前に中断して消してしまうと、《反動》として一定時間の間、二文字が使用不可能状態に陥り、魔力も二分の一に削られる。



(これまた強力ではあるが、厄介な《反動》があるな……)


 もし二文字を書こうとして、失敗して中断すればかなりの《反動》があるらしい。


(……二文字なら書くのにも時間かかるものもあるだろうし、これは特に周りを警戒して使わなければな)


 そう、もし誰かに書いているところを邪魔でもされれば、魔力が半減。しかもしばらく二文字は使えない。もし相手が強敵だとしたら、かなり敗北が濃くなるペナルティである。


(けどこれだけのリスクだ。やはりそれ相応の効果は見込めるんだろうな)


 それでもやはりワクワクする。一体どれだけのことができるのか楽しみで仕方がない。これは早く一人の時間を作ってどこかで試したくてウズウズする。

 一度、レッドスパイダーの時に使用した二文字だが、威力は凄まじいものだった。早く使ってみたい。


「おうヒイロ、お前も何か増えた称号とかあったか?」

「さあな、そっちはどうなんだ?」

「ま、まあ、若干ある称号が完全にお前のせいだとは思うんだが、これについてはまたジックリとお話するとしてだ、《野生の剣》ってのがあった」

「ほう」

「何でも《ステータス》に補正がかかるらしくてな。得したぜ。ミュアはどうだ?」

「あ、うん。もうすごすぎてどう言ったらいいか……」


 ミュアは自分の《ステータス》の内容を話すと、アノールドも驚きを隠せず口をポカンと開けたままになる。


「あ、上がったな……レベル……!」

「う、うん。何か嬉しいやら切ないやら……かな?」


 彼女の気持ちは尤もだろう。レベルが28にもなるのは、それなりの冒険者である証拠にもなる。

 しかし彼女自身、前線に立って戦ったことなどないのだ。それなのにそれほどのレベルになっている事実に現実味が薄れて感じているはず。


「ま、いいんじゃねえか。レベルはレベルだ。幾ら高くてもそればっかりに目がいって傲慢になるよりは、ミュアのように疑うくらいがちょうどいいと思うぜ」

「そ、そうかな?」

「ああ、まあミュアが傲慢になることはないだろうが、今の現実を受け入れて、今の自分を使いこなせるようにこれから頑張ればいいんだよ。全てはこれからってこった」

「う、うん!」


 アノールドに言われて、強く頷きを返すミュア。彼の言う通り、レベルはあくまでも指標。目指すべきゴールではない。

 レベルに見合っていない実力を持ったと思うのなら、それを使いこなせるように努力すればいいだけだ。


「ウイも上がってたか?」

「ん……少し」


 アノールドの問いにウィンカァがコクンと頷きを見せる。


「やっぱパーティ組んでると、こういうところが助かるよなぁ」


 単純なことを言えば、一人が戦い他の者は見守っているだけでも経験値が上がるのだ。


(一体どういうシステムになってるんだろうな……ホントにゲームみたいだ)


 だが便利なのも確かだ。ミュアのようにレベルの低い者を育てるためには都合の良いシステムである。


「ミュアたちのお蔭でクレイバイパーも倒せたし、やっぱパーティはいいもんだな」


 トドメを刺したのはアノールドなのだが、彼は自分一人では確実に逃げていたと言いつつ、仲間のありがたみにジ~ンと感動している。


「とりあえず先に進むぞ。ここにいればまたいつモンスターがやってくるか分からない。アレが……そうなんだろ?」


 日色が指を差したのは、森の先に見えている、これみよがしにシンボルっぽい大樹が天を衝くように伸びている場所。


「ああ、あれが【獣王国・パシオン】だ」







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