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40:祝いの宴

「よく、頑張ったなルッソ」

「あなた……無事で本当に良かった」


 マックスは家に入る許可を得ると、すぐさまルッソのもとへ行き、彼女の手を優しく握った。

 どうやら母体にも問題はないようだ。今は出産のせいで体力が著しく低下しているようだが、(じき)によくなるだろう。

 ルッソが横目で日色たちを視界に捉える。


「こんな格好で……ごめんなさい。でも……ありがとうみんな」

「いいってことよ! まあ、俺はほとんどな~んもできなかったけどよ!」


 アノールドが恐縮するように苦笑を浮かべている。


「確かに、オッサンは早々に捕まっただけだったな」

「お、お前なぁヒイロ、そこはもう少しフォローを入れてだな…………でもま、今回もやっぱりお前が何とかしてくれたんだな」

「…………」

「やっぱすげえ奴だよお前って奴はよぉ」


 いや、その言葉を真正面から受けることはできないと日色は思った。

 一度は……諦めてしまったのだ。

 それに倒したのも、何だか分からないうちに敵が弱っていて、自分の身体が回復していたからだ。それに初めて使った二文字の力……。

 それが無ければこうして命の誕生を経験することはなかっただろう。全ては偶然、そんなふうに思ってしまっている。


「ウイもありがとな。ヒイロと一緒にアイツを倒してくれたんだろ?」

「ううん、ウイは失敗した」

「え?」

「ヒイロの期待に応えられなかった。アイツ倒したの、ヒイロだよ?」

「ホ、ホントかよ? だってヒイロはまだレベルも俺より低くて……」

「ほんとだよおじさん!」


 アノールドに答えを返すミュア。


「わたしとススちゃんは見てたもん。ヒイロさんがレッドスパイダーを倒すところ」

「そうそう、ものす~っごくカッコよかったよヒイロくん!」


 ススも絶賛の声を上げると、アノールドは「マジかよ……」と頬を引き攣らせる。

 だがそれはマックスも同様だった。


「アイツを一人で……何者なんだ兄ちゃん?」

「答える義務はないな」


 日色は例のごとく腕を組んだまま目を閉じて憮然とした態度を見せる。


「わ、悪いなマックス、コイツはこういう奴でよ」

「お、おう。まあ、俺らは助かったから感謝しかねえよ。あんがとな、ヒイロだっけ?」

「気にするな。オレは蜜菓子が食べたかっただけだ」

「はい?」


 当然日色のことを知らないマックス、スス、ルッソはキョトンだ。そこでアノールドが、日色が何のために戦ったのかざっくりと説明すると、


「そ、そんな馬鹿な……そんなことで命を懸けたのか……?」

「そんなこととは何だ? オレにとっては重要なことだ」


 マックスに否定めいたことを言われてムッとするものを感じる。

 確かに今回のはさすがにヤバかったが、それでもレッドスパイダーと戦った根底にあるものは蜜菓子への欲求である。

 だが本当に今回は学んだ。去り際をもっと慎重に判断することを決意した。まだまだやりたいことがあるのに、死ぬわけにはいかないのだ。


(もっと強くなる。アンテナ女じゃないが、どんな壁も軽く越えられるくらいまで強くなってやる)


 今回は本当に良い勉強になった。だが本当に、生きていて良かったと心底思う。


「ま、まあいいや。変わった獣人もいるってこったな。ミュアも大変だな、あんな兄を持つと」

「え? ヒイロさん? いえ、ヒイロさんは……」

「おいミュア」


 即座にアノールドがミュアの発言を止める。

 そして小声で「兄妹で通せ」と言うと、ミュアもようやく今の日色の姿が自分とそっくりだということに気づいたのかハッとなりマックスに対して慌てて笑顔を作る。


「あ、そ、そうなんです! ヒイロさんはお兄さんで」

「ん~でもなんでミュアちゃんはヒイロくんのこと名前でよんでるの?」

「えと……そ、それは……」


 ススの追求にタジタジになるミュアだが、


「それはオレがそう呼べと言ってるからだ」

「あ、そうなんだ。やっぱりヒイロくんって変わってるね!」


 単純な娘で良かったと日色は思った。ミュアもホッとした様子で息を吐いている。


「まあ、何はともあれ、本当にありがとうよ!」

「ありがとうございます」

「ありがと、みんな!」


 マックス、ルッソ、ススの順で礼を言われた。そしてマックスがニカッと笑って、


「今日はゆっくり休んでくれや。明日は村をあげての宴をすっからよ! もちろんお前たちへの感謝の印としてだから、参加してくれよ!」


 宴と聞いて日色は耳をピクリと動かす。


「おい、その時に蜜菓子は出るのか?」

「へへ~ん、任せろ! 新鮮な《ハニーシロップ》を使った、サイッコウの蜜菓子を堪能させてやるぜ!」


 日色はその言葉だけで報われた気分になる。それと同時に明日がとても待ち遠しい。ウィンカァも「楽しみだね」と言いつつ尻尾をフリフリ振っていた。



     ※



 翌日、『熊人族』が住む【ドッガム】では太鼓の音が調子よく鳴り響いていた。

 この宴は村長の提案であり、村人を救ってくれた日色たちに向けて行われるイベントだ。

 村の中心には木製の舞台が作られてあり、そこには太鼓を叩く者と、その音に合わせて踊る若い女が数人。それに木製の笛を吹いている者もいる。


 そしてその周囲にこれまた木製のテーブルや椅子が用意されてあり、テーブルには数々の料理が立ち並んでいた。

 軽快に踊る女人にアノールドははしゃいでいたが、日色は目の前の料理を堪能していた。肉料理がメインであり、腹にずっしりボリューム感が半端ない。

 だが味付けも悪くなく、美味しい食べ物が豊富に置いてある。


 村の危機を救ってくれた張本人ということで、日色は注目を浴びていた。

 次々とお礼を言われるのは、さすがに鬱陶しいと思っているような雰囲気だ。

 しかし出された料理が思った以上に美味しかったようで、仕方なくその場で料理を口にしている。


 そんな中、酒が入ったカップを片手にアノールドはマックスと顔を突き合わせている。


「しかしよぉ、今更だけど、お前無事だったんだなアノールド」


 マックスは酒を仰ぎながら言葉を発する。


「何のことだ?」

「風の噂で、お前に似た獣人が人間に奴隷化させられたって聞いた。アレはやっぱお前だったんだな……その耳、そん時に何かされたんだろ?」

「……まあな」


 マックスは一目見て、以前はあったアノールドの耳が、今は無いことに気がついていたようだ。そしてそれが風の噂で流れてきた奴隷化の話で、アノールドのことだと直感的に判断したのだろう。


「大分、辛い目にあったようだな。ホントに人間はとんでもねえことしやがる」


 我を忘れたようにキレてはいないが、言葉に十分な怒気が込められているのを感じて、アノールドは自分のために怒ってくれていることに対し、何だか嬉しくもありこそばゆくもあった。


「確かにあの時にはもう戻りたくねえな。それに今、俺は幸せなんだぜマックス」

「アノールド……」

「好きなことができてる。なりたかった料理人にもなれたし。今は娘もいるしな」

「へ? おいおい娘って……誰だ?」

「ミュアだぜ」

「はあぁぁぁぁっ!?」

「ちょ、お前声でっけえ……あ~耳痛え」


 耳がキーンとなり顔をしかめるアノールド。


「お、お前も娘がいたんだな……けど母親似か? つうか紹介しとけよな」

「あ~違うぜマックス。ミュアは娘だけど血は繋がってねえ」

「え? そうなのか?」

「ああ、ちょいと友人に自分の娘を託されたんだ」


 寂しげに遠い目をするアノールドの目を見たマックスが、自分のカップに入っている酒を喉へと流し込むと、軽く溜め息を漏らす。


「…………いろいろあったみてえだな」

「ああ……あったないろいろ」


 二人の間にしばらく沈黙が流れる。

 マックスも不躾に追及してくるようなことはしない。アノールドはマックスのこういうところが気に入っているところである。


「そんじゃ、ヒイロも拾ったってことか? ミュアの兄貴なんだろ?」


 ギクッとアノールドの心臓が音を生む。そう言えば忘れていたが、日色は今『化』の効果で獣人化しているのだ。しかもその姿はミュアと同じ白銀の髪を有している。

 しかも今の話の流れでいくと日色も託されたということになる。


「え……っと、あ、あれだ! アイツは確かに兄だけど、最近見つかったんだよ!」

「ん? つまり生き別れてた……とか?」

「そうそうそうそう! そんでヒイロがどこかにいるって情報聞きつけて、探し回ってようやく最近感動の再会ってわけよ!」

「なるほどな。そっから旅をしてるってわけか」

「あはは! その通りだ!」


 アノールドはじっとりと背中に冷たい汗が流れるのを感じている。


(わ、悪いなマックス。真実を勝手に話すと俺が怒られるんだよ)


 勝手に真実を告白すれば、必ず日色からお仕置きがくると知っているので話すわけにはいかなかった。

 それにいくら温厚な種族である熊人でも、さすがに日色が人間で、ウィンカァが獣人と人間のハーフだなんて言えないのだ。

 下手をするとこの楽しいムードだって一瞬で消え去り気まずい雰囲気になる可能性が高い。


「にしても、アイツ強えんだな。一人でレッドスパイダーをやるなんて聞いたこともねえぞ?」

「あ、ああ、アイツはまあ、いろいろ規格外なんだわ」


 本当にいろいろとなと心の中で呟く。


「きっと強くなる理由があったんだろうなぁ。あんな若えのによぉ」

「そ、そうだな」

「それにかなりの《化装術》の使い手でもあるんだろうな」

「あ、あはは……そ、そうだぜ」


 魔法ですとは言えないアノールド。獣人は魔法が使えないので、使えることを示すと説明が面倒過ぎる。


「ま、これ以上詮索はしねえよ。お前らは村の恩人だ。ゆっくりしてけ」

「ああ、ありがとなマックス」



     ※



「おいチビ、好き嫌いはよせ」


 日色は隣でグリンピースのような豆科の食べ物を避けているミュアに物申した。


「え……でも……」

「それ単体で嫌なら、こうやって」


 近くにある肉にソレを挟み、さらに野菜で包む。


「ほら、食え」

「え……は、はい」


 手渡されたミュアだが、やはり抵抗感があるのか、上目遣いで「ほんとに食べるの?」と見つめてくる。

 すると日色は目で「食わなければ押し込むぞ」と脅すと、ミュアは覚悟をしたようにパクッと口内に突っ込んだ。


 目を強く閉じ半ば自棄になって口を動かすミュア。

 しばらく動かしていると、「あれ?」的な感じで首を傾ける。


「あの嫌な歯ごたえが……無い?」


 どうやら日色の作戦が成功したようだ。確かにこの豆は噛むとプチッと中身が出てきて食感に違和感を覚える者もいるかもしれない。日色にしてみればそれが良いのだが。


「どうせ嫌いな理由は、食感やらニオイやらが苦手と相場は決まってる。ならそれを取り除ける工夫をしてやればいい。この肉はなかなかに匂いが強い、それにこの野菜は歯応えがしっかりしていて肉にも、そのお前が苦手な豆にもよく合う」

「す、すごいです。まるでおじさんみたい」


 するとコツンと軽くミュアの頭を小突く。


「にゅっ!?」

「誰があんなロリコンと一緒だ」


 不機嫌そうに眉を寄せて、日色は次々と料理を口に運んでいく。

 一体その細い体のどこにそれだけのものが入って行くんだろうと思っているのか、ミュアは不思議そうな表情で見つめている。


「お兄ちゃんがいたら……こんな感じなのかな?」

「ん? 何か言ったか?」

「あ、いえ! 何でもないです!」

「そうか?」


 何か言ったように思えたが、彼女が否定するなら気のせいだったのだろう。真っ赤な顔をしながら日色の教えた食べ方で豆を食べている。

 そんな二人を見て、アノールドがまるで射殺さんばかりの視線を日色に突きつけているのに日色は気づいていたが、例の親バカ感情が迸っているだけだと分かっているので軽く無視しておく。


 アノールドはともかく、周りにいた者たちには、間違いなく二人が兄妹のように思われただろう。バレるかもしれないと思っていたが、存外(ぞんがい)兄妹がハマッていたようだ。

 食べていると、先程までは全身をゆったりとした服で着込んだ女性が躍っていたが、今度は露出度の高い服装をした女性たちが数人舞台へと上がった。どうやら今から違う舞いを踊るらしい。

 太鼓を叩く音が変わり曲調も激しくなる。その音に合わせて踊り子が優雅に踊っている。


「わ~キレイな人だね~。踊りも上手~」


 ミュアは両手をパチパチと叩きながら見惚れている。

 だがその隣にいる日色は食い気優先なので、目の前の料理を食べるのに夢中だ。ある程度口に放り込んだら、胃に流し少しの間踊りを見る。


(ふ~ん、熊でも細い奴はいるんだな)


 極めて失礼なことを考えて、また料理に目がいく。

 そしてミュアの目には、美しい女性の踊り子姿に鼻の下を伸ばしたアノールドが映る。


「あ~もうだらしないなぁ」


 まるで父親が、知らない女性を見てデレデレしているのを発見したような恥ずかしさがあるのか、


「ちょっと注意してきます!」


 そう言いながらアノールドの元へと向かって行った。

 日色は料理に舌鼓を打ちながら、空を見上げる。


 しばらくするとミュアが戻ってきた。アノールドは注意をがっつりとされたようで項垂れてマックスに慰められていた。


「ところでアンテナ女はどこだ?」

「え? ウイさんならあそこですよ」


 ミュアが指差した方向には一つのテーブルに一人だけウィンカァが座っており。その上にある大量の料理を驚くほどのスピードで平らげている。ハネマルと一緒にだ。

 変わらずの食欲だ。料理を用意する女性は「ひ~!」と言いながらも次々とテーブルへと運んでいる。日色は心の中でご愁傷様とだけ言っておいた。


 するとまた曲調が変化した。今度は小さな少女が一人だけ舞台へ上がる。


「あれ? うそ……あれってススちゃんですよ?」

「んあ?」


 日色は肉を頬張りながら視線を舞台へと向ける。

 身体にはキラキラした石を繋ぎ合わせて作った衣装を身に纏っている。光を受けて輝く彼女はまさにスターのようだ。


 踊りも幼い割に華麗で目を奪われるものがある。聞けばルッソは村一番の踊り子だったらしい。

 その遺伝子を受け継ぐススも、やはり踊りの才能があるようで、見事なステップを踏み小さい舞台ながらも自分を大きく見せている。

 本人もとても楽しそうにリズムを刻んでいるようだ。


 そしてあっという間に曲が終わると、ススが舞台を降り真っ直ぐ日色たちの方へ向かってくる。


「ねえヒイロくん! わたしどうだった?」

「は? 何が?」

「ぶ~何がっておどりだよ~」

「評価しろってことか?」

「え? う~ん、そんなむずかしいことじゃなくて、上手くおどれてたかなって思って」

「そんなことか。踊れてたと思うぞ」

「えっ!? ほ、ほんと!?」


 テーブル越しに詰め寄ってくるスス。


「ああ、少なくともその歳で大したものだ」

「あ、えへへ~ホメられちゃった~」


 嬉しそうに破顔し、クルクルとその場で回転するスス。

 そしてマックスの姿を発見したススは、


「パパ~! ヒイロくんにホメられたよぉ~」


 報告しに向かった。

 日色が料理を口に運ぼうとするが、ジ~ッと視線を感じたので、


「……どうかしたかチビ?」


 そうミュアに尋ねるのだが、頬を少し膨らませた彼女は「何でもないです!」と言って料理を食べ始めた。


(一体何だ……?)


 若干居心地が悪くなった日色だった。







「《フライシロップ》に《ハニータルト》、それに《ミツドモエ》と、これが《蜜汁(みつじる)》だ!」


 マックスが机に並べられた蜜菓子を指差し教えてくれた。

 どれも見たことのない菓子ばかりだ。ミュアなんてもうテンションがおかしくなりそうなほど有頂天である。


 やはり女の子だなと思うが、アノールドも宝石のように輝いている蜜を見て喉を鳴らしている。例の如くウィンカァは涎を滝のように流しているのだが。

 マックスがデザートとして、昨日採集した蜜である《ハニーシロップ》で作った蜜菓子を用意してくれた。


「あむ」

「いやだから何でもう食べてんのぉ!」


 日色は我慢できずパクパクと食べていく。アノールドの突っ込みなど相手にしてはいられない。負けじと他の者も食べていく。


 《フライシロップ》は蜜を薄く引き伸ばして油で揚げたものだ。凄まじいほどの新食感である。外側はパリッとしているのだが、中から濃厚な蜜がトロリと流れ出てくる。

 これは手軽に食べることができて最高の一品だ。塩気もあり甘さも控えめなので、酒のツマミにもちょうどいいとのことでアノールドが絶賛した。


 《ハニータルト》はタルトに蜜をたっぷりとかけたものだ。

 フワフワしたタルトに蜜の甘みとフローラルな香りがマッチしていて上品な味だ。ミュアの一番のお気に入りになったようで、顔を蕩けさせておかわりをしている。


 《ミツドモエ》はピザのような生地を三つに区切りをつけて、それぞれに《黒蜜》、《赤蜜》、《白蜜》を塗り、その上に様々な果実を乗せたものだ。

 三つの風味豊かな香りと、がっつり感が気に入ったのかウィンカァとハネマルは一心不乱に口にしている。


 《蜜汁》はぜんざいのような仕上がりで、モチモチとした白玉が入っている。その白玉の中には蜜が入っており、噛んだらとろ~りと姿を現す。

 餡と蜜のコラボレーション作品だ。これは日色が最高だと位置付けした。


 十分に堪能した四人と一匹は恍惚に身を委ねていた。


(命を懸けただけはあったか……ああ、美味い)


 日色も昨日の死闘が嘘のように、今は楽園を感じる。これだから美味いものを追い求めることは止められないのだ。この感動はもう日色を中毒にまでさせてしまっている。

 これからも日色はグルメのためならギリギリまで頑張れると再度認識した瞬間だった。


「ハハハ! 美味えだろ!」


 マックスが満足気に頬を緩ませている日色に聞いてくる。


「ああ、美味いな。一つ気になったんだが、この《黒蜜》や《赤蜜》、それに《白蜜》って何か特別な蜜か? どうもこのニオイ、どこかで嗅いだことがあるような気が……」


 日色は《ハニータルト》を手に取りクンクンと鼻を引くつかせているが、どこかで嗅いだと思われる香りの特定ができずにいた。


「それはだな、【ドッガムガーデン】の花をすり潰して作った蜜なんだよ」

「ほう」

「黒には《ブラックアイリス》、赤には《レッドアイリス》、そして白は《ホワイトアイリス》だ」


 なるほど、だから同じ蜜でも色が違うというわけだ。香りもそれぞれ違う。


「ちなみにだ、その《白蜜》を加工して作られたのが《蜜飴》だぜ?」

「《蜜飴》? もしかしてMP回復薬のか?」

「ああ、元々は《ホワイトアイリス》を混ぜ合わせて作ったものを改良して世界に流通されてるんだ」


 どうやら思った以上に【ドッガム】と言う村は世界に貢献しているらしい。


「んじゃ、俺は愛する嫁と子供が待つ家に戻るからよ。宴を存分に楽しんでくれな!」


 マックスはアノールドたちにも挨拶してから家へと帰っていった。その後ろにベルもついていっている。

 彼らの顔は幸せでいっぱいという感じだ。

 日色も質は違うものの、目の前に広がる甘味に幸せを感じ、マックスの言った通り宴を満喫した。



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