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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
番外編3

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271:帰還への希望

「最初はこのシステムを使用して、創造主様がこちらへ足をお運びになっていたのでありますが、ある日別の世界に行ってしまわれたのであります」

「おいおい、それってまさか……」

「そうだよ、ヒイロ。それが――地球」


 なるほど、と。一つの謎が解けた。

 どうやってイヴァライデアが地球との繋がりを得たのか気にはなっていたが、


「まさか偶然に地球に降り立っていたとはな」

「降り立つっていうのとはちょっと違う。何て言うか、わたしの身体が精神体になって、地球に漂着したような感じ」

「それって、幽霊みたいになって地球に送還されたってこと?」


 そう尋ねたのは千佳である。イヴァライデアがコクリと肯定した。


「わたしは【イデア】の神だから、いくら魔法陣を使用しても【イデア】からは遠く離れられない。だから魔法陣はわたしの精神だけを地球へと飛ばしたの」

「しかし問題はまだあったのであります」

「どういうことなん、ウィルっち?」

「ウィ、ウィルっち!?」


 しのぶに馴れ馴れしい呼び方をされて驚いていたが、すぐに咳払いを一つすると説明を続ける。


「問題、それは【イデア】へ降り立つ手段がなくなったということであります」

「下手に使用すれば、またどこぞの世界へ飛ばされてしまうから、か?」


 アヴォロスの言葉にウィルビーが頷くのを日色は見て、今度は日色が質問を出す。


「精神体にされて地球に飛んだお前はどうやって戻ってきたんだ?」

「意識すれば自由に戻ることができたの。それに地球へも条件を整えたら、魔法陣の力を使わなくても少しの間なら精神だけ飛ばすこともできた」

「相変わらず神っぽいチートぶりだな」

「だって神だし」


 えっへんと小さな胸を張っている。


「元々はこのシステムは、創造主様の力を月から魔法陣によって伝わらせ増幅し、『精霊の母』を形作るものだったのでありますが、この【オリンピース】そのものをこちらに強制転移させたことにより、システムに何らかの歪みが生じ、それが徐々に大きくなってしまい結果的に他世界への扉になってしまったのであります」


 ウィルビーの説明にイヴァライデアもコクコクと頷いて彼の話に間違いがないことを証明する。


「歪んだ魔法陣が暴走でもしたら大変だということで、ウィルビーが創られ、ここの管理を任されたのであります。しかし『精霊の母』が没したことにより、力を失ったこの島は海の中へ沈んでしまったのでありますが」


 ようやく謎だったものに答えを得ることができた。何故突然今になって〝黄金郷〟が現れたのも、どうして沈んだのかも、この島がどういう存在であるかもすべて氷解したのだ。


「いや、まだだ。まだ一つ謎が残ってる」

「まだ何か疑問が? ヒイロさま?」


 そう尋ねたのは先程からずっと日色の傍に控えていたミミルだ。


「ああ、【人間国】にあった儀式の塔。そこに刻まれた魔法陣が、何でここの魔法陣と瓜二つなんだ?」

「あ……確かにそうですね」


 ミミルもその疑問に納得したようで、説明を求めるようにウィルビーを見るが、


「吾輩は人間のすることなど知らないのであります」


 どうやら説明できないようだ。とならば……。


「……簡単。わたしが地球から救世主を呼ぶために、人間に魔法陣を流したから」

「そうか。確かにお前の計らいで過去の勇者たちやオレを呼んだんだったよな」


 どう考えても、人間側に魔法陣を使わせたのはイヴァライデアしか考えられなかった。


「ただこの魔法陣の力を使うには、かなりの魔力と生命力が必要だった。使うのがわたしならともかく、人間たちにはとても難しいもの」

「だから失敗したら《反動死》になるってわけだ」


 異世界との扉を繋げ、勇者を呼ぶには【人間国】の王族の力が必要になる。


「けど何で王族だけにしたんだ?」

「誰も彼もに力を渡しても使えない。人間の――ヴィクトリアスの血族は生まれつき魔力が高く、特異性を持ち合わせてた。だから彼らにのみ召喚と送還の力を与えた」

「ちょっと待てよ! 召喚は分かるけど、送還の魔法もリリスたちは最初から使えたってわけか!」


 食いついてきたのは大志だ。


「一応伝わってるはず。文献でヴィクトリアスの血族に渡した。それを彼らが残し伝えてるなら」

「で、でもリリスたちは……ルドルフ王も知らないって言ってたぞ」

「それはあれでしょ、大志」

「千佳……?」

「召喚はまだ生き残る可能性あるけど、送還は一度したら、確実に死ぬから。そうじゃないの、神様?」

「……送還には召喚よりも大きな力が必要になる。人間の器じゃ、無理」

「だそうよ、大志。それにあの人だって、アタシたちをここに戻すためにどうなったのか、忘れたわけじゃないでしょ?」


 彼女が言うあの人――それは間違いなくアリシャのことだろう。


「……そうだな。使えば確実に死んじまうような力。そんなもん、使えないよな」

「物分かりが良くなったな。ビックリだ」

「あのな、丘村。俺だって少しは成長してるぞ!」

「まあ、あの人間の王たちが元々知ってて黙ってたってのは予想外だったが、そういう理由があるなら黙っていたのも理解はできるな」


 もし大志たちに知らせれば、今すぐ送り返せと言われる危険性があったはず。だからこそルドルフ王がそれを告げなかったのだろう。


「だがアヴォロスは知ってたんだな?」

「ああ、アリシャから聞いていたからな。無論シンクたち過去の勇者もだ。しかし彼らはそれを聞いてもなお、この世界に残って戦ってくれたがな」


 それで死んでしまっているのだから世話はないと思うが、それもまた彼らが自分で選択した未来ならケチはつけられないだろう。


「ということは、この島はミミルが死ぬまでまた浮き続けるってことか?」

「で、ありますな、ヒイロ様」

「なるほどな。……ん? ちょっと待て、イヴァライデアの力が元に戻れば、ここの魔法陣を使ってコイツらを元の世界に戻すことも可能なんじゃないか?」


 日色のその言葉に、勇者の面々はハッとなって、イヴァライデアに一斉に視線を向けた。


「……うん、不可能じゃない」


 今のイヴァライデアなら無理だろうが、彼女の力が万全になったら、ここの魔法陣を組み直して完全なものにし、その上で送還することができるようになると日色は思った。


「か、帰れる……のか? 地球に?」


 そんな大志の呟きに対し、他の三人もホッとしたような表情を浮かべている。やはり故郷が恋しいのだろう。気持ちは分かる。

 儀式の塔も戦争で失われてしまい、もう帰る手段がなくなったはずが、こうして道筋が見えたことに希望を見出したのだから。


「丘村くんも帰れますよ!」


 そんな朱里の言葉に対し、日色は……。


「いや、オレは帰るつもりはない」

「え……」

「もうこの世界がオレの世界だ。元の世界に未練もないし、行くつもりもない」

「そ、そんな……!」

「一度帰って挨拶は済ませておいたしな」


 大志と千佳は、日色の覚悟を知っているので何も言わない。


「お前らは良かったじゃないか。特にハーレム男は帰りたかったはずだろ?」

「ハ、ハーレム男……それだけはお前に言われたくないけど」

「あ?」

「い、いやまあ、確かに今も帰りたいって思いはあるけど……さ」

「微妙な表情だな。まだこの世界に残ってやりたいことがあるのか?」

「…………」

「一つ言っておくが、お前が過去にしたことに対する償いのためにいろいろ頑張ってるらしいが、償いなんて基本的に終わらんぞ」

「え?」

「日本で考えても、だ。よく罪を犯して刑務所に入って償ってきたと聞くが、あれは罪に対して罰が執行されただけで、罪が消えたわけでも償いが終わったわけでもない」

「…………」

「そもそも背負った罪が一生消えることなんてないし、償いが終わったなんてこともあり得ないってオレは思う」


 日色の見解に他ならないが、黙って大志たちは聞いている。


「お前があの戦いで殺した連中の家族が心の底から許すことは多分ないだろうし、【パシオン】の《始まりの樹》を破壊したこともそうだ。きっとお前が生涯背負うべき罪で、それを償い終わることはないと思うぞ」

「……そう、だよな」

「だからこの世界に残って、罪を清算するまで働いてから地球に帰るって選択肢はどうかと思う。清算なんてできないんだしな」

「……だったら俺は……」

「別にオレは帰りたければ帰ってもいいと思う」

「……え?」

「少なからず、お前が自分のやったことを悔やんで、償うために誰かのために働いてきたのは知ってる」


 ジュドム王からもそれは聞き及んでいた。そして彼だけでなく、各国の王たちからもだ。

 時には小石を投げつけられたり罵声を浴びせられたりしたらしいが、それでも彼らは決して心を折ることなく一心に動いてきた。


「あとはもう、お前が納得できたかどうか、だ」

「俺……が?」

「この世界に住む者たちのために生き続けるっていうのもいいが、地球にはお前の親や兄弟とかが待ってるんじゃないのか?」

「っ……それは」

「それに多分、お前が帰るって選択しないと、そっちの奴らも帰らないと思うしな」


 日色は彼の傍に立つ千佳たちを見つめる。


「オレには勝手な言い分だろうが、向こうに未練は……ない」


 児童養護施設に住む者たちにとっては日色がいなくなるのは辛いだろうが、日色はそれでもこちらの世界に残ることを決めている。

 どちらにしろ選ぶということは、何かを捨てるということだ。捨てた方にはその者が関わった部分に悲しみが広がるだろうし、後悔だって残るかもしれない。

 それでも日色は地球と【イデア】を天秤にかけて、結果的に【イデア】を選択した。それだけのこと。無論悪いと感じている部分もあるが、日色はどう思われても一つを選んだのである。


「もしかしたらこの先、もう向こうに戻れるチャンスなんてないかもしれない。そのチャンスを不意にするかどうかは、お前……いや、お前ら次第だ」


 彼らにはまだ、地球には育ててくれた親や兄弟がいる。何も言わずに異世界に来て、そのまま音沙汰がないのでは、やはり家族にとって辛いだろう。

 しかしあまり日色も強くは言えない。施設の皆の思いに反して自分勝手に決断しているのだから。

 あとはもう、彼らで決めるしかないのだ。


「……な、なあ神様」

「何?」


 大志がイヴァライデアに話しかけた。


「この魔法陣を使って地球と行き来することはできないのかな? いや、できないんですか?」

「人の命を使うなら、できる」

「い、命?」

「うん。送還できる者が一緒にあっちに行って、再び君たちを送ればこちらに来れる」

「け、けどそれって……」

「うん。アリシャと同じ」


 つまりは送還者は死ぬ、ということだ。


「で、でもそれじゃこっちの人が、もう一度アタシたちを召喚するのは?」


 今度は千佳が訪ねた。確かにその方法ならいけると思っても不思議ではない。


「ううん。同じ異世界人を召喚することはできない。それはわたしの力でも無理」

「そ、そうなんだ……」


 目に見えて意気消沈する千佳。他の勇者たちの顔色も優れない。

 確かに行き来できれば、この悩みは解決するだろう。しかし道は一方通行。結局は彼らは選ぶしかないのだ。

 故郷か異世界か、を。


「それに多分、ここの魔法陣もあと一度くらいが限界だと思う。いろいろ手を加えて直す必要もあるし、それに送還できるのは……ううん、してもいいのはわたしだけだろうし」


 それはそうだろう。送還者は死ぬのだから。


「わたしの力がもう少し戻れば、送還しても死ぬことはない、から。それでもミミルの力を借りることにはなる、と思う」

「へ? ミ、ミミルの……ですか?」


 突然今まで蚊帳の外っぽかった話題を振られてキョトンとするミミル。


「うん。ここのシステムを復活させるには、ミミルの力を共鳴させる必要がある」

「オレの魔法だけじゃ無理なのか?」

「日色にももちろん手伝ってもらう。けど日色だけじゃ足りない。送還はそれだけ大変なこと」


 思った以上に送還という行為はリスクが付き纏うようだ。前に一度イヴァライデアに『地球送還』や『地球転移』などの文字で地球に行くことができるのではないかと尋ねたが、魔法の力を失ってもいいならできるかもしれないと言われたので、速攻で却下した。

 さすがにこの力を失ってまで親しくもない他人を助けようとは思わない。それに日色でも命の危険があるようなこともイヴァライデアは言っていたので。


「ここのシステムはもうなくした方が良いな。残していても、また新たな災いを呼ぶ危険性の方が高い」


 アヴォロスの言う通り、その可能性を否定することはできないだろう。ここの存在を知って、悪巧みをする者たちが出ないとは限らないのだ。


「だからもし、あなたたちがこの世界に残るというのなら、このままここで日色に破壊してもらう」

「ちょっと待て、ミミルに影響は出ないんだろうなイヴァライデア?」

「……ヒイロは身内には優しい」

「ヒイロさま……!」

「……いいからさっさと答えろ」

「大丈夫。ミミルに影響はない。確かにミミルと魂は繋がっている。でもそれは言ってみればヒイロとテンのような繋がり。それよりもまだ弱い方だから。契約破棄すれば安心」

「それならいい」

「ヒイロさま……ミミルをそこまで気遣って頂いて……やはりミミルはヒイロさまのことをお慕い申し上げております!」

「っ……あのな、こんなところで言うな」

「嘘……ミミル王女ってまだ十代前半……よね? お、丘村って……」


 千佳がガッツリ引いているが、これで他にも幼女に好かれているという話をすればどうなることやら……。

 何故か朱里がムッとしたような表情を浮かべているが、その理由は日色には分かっていない。


「にゃはは~、もうあれやな。大志っちのお株を丘村っちはすっかり取っとるみたいやわ」


 しのぶが失礼なことを言い始めた。


「へ? 俺の株って……どういうことだ?」


 大志は相変わらずの鈍感ぶりで理解していないようだが。


「そんなことはどうでもいい。イヴァライデア、ここのシステムを扱えるようにするにはどれくらいかかる?」

「……わたしの力はまだ戻ってない。だけどあと少し戻して、その上にヒイロの力をわたしに流してそれを変換して使えば多分大丈夫。でもそれでもいろいろな調整が必要になるし……一週間くらい、かな」

「よし、とにかくお前ら……一週間だ」


 日色の言葉に勇者四人は「へ?」となる。


「一週間で選択しろ。一週間後、ここのシステムを破壊する」

「「「「っ!?」」」」

「もちろん破壊するのは、お前らを元の世界に送ってからになるかもしれないが。どちらにしろ一週間後には破壊することにするから、どうするかは自分たちで決めろ」

「い、一週間……」


 大志が若干顔を俯かせつつ呟く。


「イヴァライデア、さっそく調整に入るぞ。ミミルも手伝ってくれ」

「はいです! ヒイロさま!」

「おい糸目野郎、お前も暇なら手伝え」

「是非。このような興味深い代物、滅多にお目にかかれませんしね」


 ペビンも快く手伝うことを決めてくれた。

 そして勇者たちは……。


「……た、大志?」

「千佳…………どうすれば、いいと思う?」

「こらこら大志っち。また誰かに人生決めてもらうつもりなんか?」

「しのぶ……」

「もうそんなことはせえへんって自分で決めたやろ?」


 少しきつめの睨みに対し、彼はブンブンと頭を振るとパンッと両手で自身の頬を叩いた。


「っ……そうだよな。大事な選択なんだ。これは俺が決めなきゃ」

「千佳っちと朱里っちはもう決めたんか?」


 しのぶの問いに千佳は真っ直ぐ頷いた。


「ええ、神様たちの話を聞いてもう決めたわ。しのぶは?」

「絶賛悩み中やな。こっちの世界にもいろんな繋がりができてもーたから、そう簡単に切り離したくあらへんし。けど、元の世界には家族が待っとるしな……」


 しのぶの言う通りだ。【イデア】に来て数年。様々なことを経験してきた。

 辛いことや悲しいことも多かったが、それでもやはり楽しいこともたくさんあって、笑い合える仲間も得ることができたのだ。 

 どっちの世界を選んでも、どっちかの繋がりを断つことになる。それが今の彼女たちにとっては辛いものになっているのだろう。


「――このような場所で決めるより、一旦ジュドム王のもとへ帰ったらどうだ」


 そう提案してきたのはアヴォロスだった。


「どちらの選択をするにも、黙っているわけにもいくまい。少なくとも世話になっている国なのだからな」

「……正論だけどよ、お前に言われるのは何か腹が立つ」

「フッ、豪気ではないか。ならばその勢いでさっさと身の振り方を決めればよいであろう」

「う……」


 言い返されてしまい口ごもる大志。


「ヒイロは忙しい。良ければ余が国へと送り届けてやるが?」

「…………大志、頼もうよ」

「千佳……けどコイツは」

「大丈夫だって。まあ、確かに信じるのはちょっと怖いけど」


 大志と千佳は特にアヴォロスに捕縛され利用されていたのだから警戒しても仕方がない。


「でもアヴォロスの言う通り、ここで決めるより一度国に帰ってお世話になった人たちと話してからでも遅くはないんじゃない?」

「………………そう、かもな」


 大志が決断し、不機嫌そうな顔のままだがアヴォロスに視線を向ける。


「……送ってくれ」

「了解だ」


 アヴォロスの足元に生まれた水面が徐々に広がっていく。


「――アクエリアスゲート」


 大志たちの足元にも広がり、そのまま彼らは水の中に沈み込んで姿を消した。


 

     ※



 【人間国・ランカース】へと戻ってきた大志たち。

 アヴォロスはそのまま【オリンピース】へと一人帰って行った。


「……大志、とりあえずジュドムさんに報告しに行こ」


 千佳の言葉に大志は「ああ……」と明らかにトーンダウンしている様子で声を発した。まだ自分の中で何が正しい選択か迷っているのだろう。

 勇者四人は、そのまま王城まで行き、ジュドムが仕事をしているだろう執務室へと向かった。

 執務室の扉をノックすると、中からジュドムらしき声で「おう、入っていいぞ」という言葉が届けられる。


「――ん? は? 何でお前ら……〝黄金郷〟ってやつを調査しに行ったんじゃ……」

「あんなジュドムさん、少し話があるんやけど」


 ジュドムはしのぶの言葉に対し不思議そうに眉をひそめていたが、彼女たちの顔を見て深刻な問題だと敏感に悟ったのか、


「……俺だけでいいのか?」

「……できればリリスやウェルたちにも」


 そう大志が言うと、ジュドムは分かったって言って、城に仕えているメイドたちにリリスたちを呼ぶように頼んだ。

 執務室では何なので、大志たちは会議室へと足を運んでいた。

 ジュドムの招集を受けて、その場には勇者四人の他、ジュドム、リリス、ファラ、ウェルと、大志たちが一番世話になっている人たちの顔が集まっている。


「さて、んじゃ話を聞かせてもらおうか」


 ジュドムの皮きりで、説明をし始めるしのぶ。

 〝黄金郷〟がどんな場所か、そしてそこにいたウィルビーの存在や、彼から聞いた話など、ジュドムたちは黙って聞いていた。


「なるほど。神の世の遺産ってわけか。まさか【ヤレアッハの塔】の一部だったとはなぁ」


 ジュドムは腕を組みながら軽く首を縦に振りながら納得気だ。しかしまだしのぶは肝心な説明をしていなかった。


「確かに大仰な話だけどよぉ、何でお前らそんなに悩んでますって面してんだ? その島が別に危険ってわけじゃねえんだろ?」

「……せや、ジュドムさん。けどな、問題は島のシステムについてなんや」

「システム?」


 しのぶはコクッと頷くと、今度は大志が説明をし始める。


「島の中央にピラミッドがあって、その中に儀式の塔にあった魔法陣が刻まれてあったんです」

「……何だと?」

「そ、それってもしかして召喚の魔法陣……ですか?」


 そう問うたのはリリスだ。


「そうだよ、リリス。君が俺たちを召喚するために使われた魔法陣と瓜二つのものだ」

「…………」

「あの魔法陣が召喚と送還の魔法を使うためのものだってことはもう分かってる。リリスはあれが送還もできる魔法陣だってことを知ってたのか?」

「いえ、父上からは召喚しかできないと聞かされておりました」

「そっか。んじゃやっぱりルドルフ王は意図的にリリスやファラには言わなかったんだろうな」

「ちょっとお待ちくださいですの。儀式の塔にあった魔法陣は召喚だけではなく、送還も可能な魔法陣だったということですの?」


 ファラの質問に千佳が頷いて答える。


「そうよ。だからこそアヴォロスはあの魔法陣を使って一度アタシたちを元の世界に飛ばせたんだから」

「そういえば……そう、でしたね」


 リリスが悲痛な表情を浮かべる。何故ならその時に魔法陣を使用したのはリリスとルドルフだからだ。その際にルドルフが残っていた親心を発揮して、リリスだけは守って自らの命を落としてしまった。そのことを思い出したのだろう。


「……あの魔法陣を……いや、島のシステムを残しておくのは、今後のトラブルになるってことで、一週間後に破壊することが決まった」

「ちょっと待てタイシ、何故一週間なんて期間を設けるんだ?」


 当然の疑問がジュドムから発せられた。


「丘村は言った。その一週間で、システムを一時的に復活させるって」

「お、おいおいそれって……!」

「はい。一週間後、元の世界に帰るか、ここに残るかを決めろっていうことです」


 大志の告白に対し、リリスやウェルは「そ、そんな……」と寂しげな声を出した。


「……そうか。とうとうそういう日がやって来たってわけだな」

「ジュドム様、よろしいのですか! タイシ様たちはこの国の大事な勇者様で」

「しょうがねえだろ、リリス」

「っ!?」

「タイシたちには元々住んでいた世界があるんだ。そこで待ってる家族だっているはずだろ」

「あ……」

「感情でものを言うなら、俺だってコイツらがこの世界にいればいいと思う。コイツらの頑張りだって見てきてるし、少しずつ周りにも受け入れられてきてる。正直、もったいねえなって思う」


 大志たちがこの数年で世界のために貢献し続けてきたことは、この国も者たちなら誰もが知っている。

 勇者の奉仕作業ということで、少しずつ勇者たちの存在を受け入れる者たちも出てきた。まだ獣人にとっては受け入れがたいものらしいが、それでも確実に何かが変わってきているのも確かだ。


「俺は少なくとも、コイツらが選んだ選択を支持するつもりだ」

「ジュドムさん……」


 大志を筆頭に、千佳たちも彼の名を呟く。


「そう、ですよね。私たちの我が儘でこちらの世界へお呼びしたのですから。理由はあれど、れっきとした誘拐なのですよね」

「リリス、そうじゃない。いや、そうなんだろうけど、俺は……この世界に来ていろんなことを学べた。ま、まあ正直に言うと、こっちの世界に呼んだリリスを恨んだことだってある」

「タイシ様……」

「けどさ。今振り返ってみると、この世界でどう生きて行くのかは俺次第だったんだよな。俺はここがゲームみたいな場所で、自分たちが勇者だってことで盛り上がってさ。きっと何もかも祝福されて上手くいくって決めつけてたんだ。どこかリアルじゃないって思ってたんだろうな」


 自嘲するように大志はフッと苦笑を浮かべる。


「けどさ、そんなわけがなかったんだ。この世界にはこの世界のルールがあって、そこに生きている人は紛れもなく俺と同じ命があって……。決してゲームなんかじゃなかった。戦争の時にそれを痛感させられてパニくった。何でこんな世界に来ちまったんだろうって。アヴォロスに捕まって利用されて、リリスを恨んだ。何でこんな世界に呼んだんだって」


 誰もが大志の言葉に耳を傾けている。


「でもさ、少なくともここでどう生きていくかは選べたんだよ。丘村みたいに、さ」

「大志……そう、だよね。アイツは最初から自分で自分の道を選んで突き進んでたしね」


 千佳の言葉に大志が首を縦に振った。


「俺は……俺たちは何も考えないで……おかしなことに目を向けないで、疑わないで、そのままこの国に残ることを決めた。アヴォロスに捕まったあとでも、奴の言いなりになって行動することだって、結局俺自身が決めたことなんだ。誰が悪いわけでもない。俺が俺自身の道を決めてたんだよな」

「それが理解できただけでも十分な成長じゃねえか、タイシ」

「ジュドムさん……!」

「若い奴は無鉄砲でいいと俺は思う。その先に待ってるのは決して幸せだけじゃねえ。そこには苦しいことや痛いことなんて目白押しだ。けどな、自分の歩んできた道を他人のせいにだけはしちゃいけねえ。自分の人生は、自分で背負うってのは当たり前のことなんだよ」


 静かに会議室に響くジュドムの言葉は重く勇者たち、いやその場にいる全員にのしかかる。彼の言っていることに間違いがないと思っているからだろう。そしてそれをここ数年で目の当たりにしてきたのが大志たちなのだ。


「お前らは自分たちのしてきたことの間違いに気づき、それを正そうと努力してきた。罪を背負って贖おうと必死にな。けど背負った罪を下ろすことなんて誰にもできねえ。本人にもな。それは一生背負い続ける必要があるからだ。二度と――間違いを犯さねえためにな」


 日色の言ったことと同じようなことをジュドムが口にする。


「なぁに、今のお前らなら、どんな世界にいようとそれを忘れることはねえだろ」

「「「「っ!?」」」」

「それだけお前らがこの世界で得たことはかけがえのないもののはずだ。心も身体も大きく成長できた。それは今のお前らを見たら理解できる」

「……はい。タイシ様たちは立派に生きてこられました。私だってタイシ様たちの頑張りを見て、負けないようにと日々精進しているつもりです」

「リリスお姉様の仰る通り、ファラもまた勇者様がたのお姿に触発されていましたですの」

「はい! このウェル・キンブルも同じく!」


 ジュドム、リリス、ファラ、ウェルがそれぞれ言葉を投げかけた。感動気に目を潤ませる大志たち。

 そしてジュドムが最後に一言添える。


「だから、大いに悩んで、自分の人生を決めな。それが人ってもんだ」


 彼の言葉を受け、大志は知らず知らずに涙を流しながら「……はい」と返事をした。







 ジュドムたちと話をした後、大志たちは今度は四人で話そうということになって、大志が与えられている部屋へと四人で向かった。


「まさか大志があそこで泣くなんてね~」

「う……それ言うなよぉ。何か勝手に涙が出てきちゃっただけなんだし」


 千佳にからかわれて頬を真っ赤に染める大志に、千佳としのぶはカラカラと笑う。

 しかしそんな中、朱里だけは深刻な表情のまま、顔を若干俯かせがちを保っていた。


「……どないしたん、朱里っち。何か暗いで?」

「しのぶさん……」

「……? ホンマどしたん?」

「……もしかしてさ、朱里はこっちに残りたいって気持ちの方が強かったりするの?」

「っ!?」


 千佳の発したことに朱里はビクッと肩を震わせる。その仕草だけで、千佳の言葉が的を射ているのだと証明していた。


「私は……この世界に来て、たくさんの失敗を経験しました」

「それはウチら全員やと思うで?」

「……そうですね。でも大志くんと千佳さんと離れ離れになった時、私にはしのぶさんがいてくれました」

「せやな」

「もし、しのぶさんがいてくれなければ、私は生きてはこれなかったと思います」

「大げさやって」

「いいえ。それは自分でよく分かっているつもりです」

「朱里っち……?」

「……今も私は皆さんと一緒にいるからやっていけてるんだと思います。いえ、ここにいるしのぶさんたちだけじゃなくて、本当に多くの人たちに支えられてきました」

「せやな。ウチもそう思うで。大志っちたちと離れ離れになった時は、魔王城のみんなに世話になってもうてたし。戦争が終わった今も、今度はジュドムさんたちに迷惑かけっぱなしや」


 しのぶの言う通り、そういった支えがあったからこそ、朱里は常に平穏無事な生活を送ってこられたのだ。もしイヴェアムやジュドムたちの守護がなければ、今頃殺されていてもおかしくはない。


「私は……そんな命を救われた人たちに、まだ何も返せていません。確かにここ数年は、皆さんと一緒に世界のためって名目で仕事をしてきました。でもよく考えてみれば、それは私の意志だったのか、一人だったらできたのか、そう考えると疑問に思うんです」


 朱里の放った言葉の真意は、他の三人にも重くのしかかっているようで押し黙ってしまっている。


「このまま戻って果たして胸を張って日々を生き続けることができるか不安なんです」

「そ、それはウチだって同じやで! この世界でもらったもんはデカいし、まだ全部恩返しもできてへんと思う。けど一週間後のチャンスを逃したら、もう帰れへんかもしれへんねんで?」


 そう、それが四人全員の懸念だろう。仮に行き来できるのであれば、四人は恐らく戻ることを躊躇しないはず。向こうの家族にだって顔を見せたいだろうし、当然の行為だ。

 しかしそうではない。一週間後の一度きり。そこを逃せば永遠にこの世界――【イデア】に住むことになる可能性が高い。


「……朱里の言ってることは分かるわ」

「千佳さん……」

「アタシだって、まだ恩返しできてない人たちがいっぱいいると思う。アタシがアヴォロスに力を利用されたせいで傷つけてしまった人たちにも、まだ返せてないものって多いと思うし」

「それでも千佳さんは……帰るんですよね?」

「…………うん。アタシは帰るわ。神様から話を聞いて、アタシは帰るって選択をした」


 他の三人が千佳の揺るぎのない瞳を真っ直ぐ見つめている。


「一度帰った時、家族にはごめんって言って出てきた。多分、意味は分かってないでしょうけど。もしかしたらもう帰れないからごめんって意味で言ったつもり。けど……帰ることができるなら、やっぱりアタシは家族のところに帰りたい」

「千佳…………そう、だよな。俺は残してきた家族に何も言えてないや。だから……帰りたい。帰って……親孝行をしたいって思ってる」

「ウチも……かな。こっちの世界は楽しいし、戦争の脅威だって丘村っちたちのお蔭でほぼなくなった。多分これからこの世界はもっともっと楽しくなると思う。でも……やっぱりこの世界はウチらの世界やないねん」

「しのぶさん……」

「朱里っちがどんな答えを出すのか正直分からへん。けどな、ジュドムさんも言っとったけど、どんな答えでもウチは支持するで」

「うん。アタシもよ」

「俺も、だ。だからいっぱい悩んで決めよう。俺だってまだ完全に決めたわけでもないしな。それにちょっとやっておきたいこともあったし」

「大志?」

「何でもないよ、千佳。……朱里、あと一週間あるんだ。悩み抜こうぜ!」

「大志くん…………はい。皆さん……ありがとうございます」


 朱里の双眸から静かに輝くものが零れ落ちた。





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