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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
番外編3

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270/281

270:黄金郷オリンピース

 獣人が住む大陸――獣人界から遥か西。

 そこにはただただ、目の覚めるような青い海が広がっていた。

しかし突如として―――そこに一つの島が出現する。

 そこに存在する大地や木や石、草や花、そのすべてが〝黄金〟に染まった島。

 まさにそれは――黄金郷――といえるものであった。

 そして出現する瞬間を海の上で実際に見つめていた人物が一人。


「――――よもや、このようなところにあったとはな」


 黒いローブに身を包んだ人物の名前はアヴォロス。海の上を、まるで大地に立つようにして沈まずに立ったまま。

 突然現れた島を険しい顔で見つめながら、ゆっくりと歩を進める。


「余すらも生まれる遥か昔――かつて『精霊の母』が生まれると同時に世界自身が創り出したと言われる黄金郷――【オリンピース】」


 不意にアヴォロスが眉をひそめて足を止める。あと一歩で島に上陸できるが……。


「…………結界か」


 それ以上先に進めないようになっていた。何か見えない壁が島全体を覆い、侵入者を拒んでいる。


(どうしたものか……)


 一度島の全体像を確認しようと、背中から翼を生やして空に浮かぶ。

 すべてが黄金に染まっているため、異様としか思えない景観が広がっている。島の中央にはやはり黄金色のピラミッドが建てられてあった。

 まるで遺跡のようなそこに目を奪われていたが、何とか結界を破れないかと思い右手をかざす。

 そのまま魔力の塊を放ってみる。だが島に到着する前に、やはり見えない壁によって弾かれて魔力の塊は霧散した。


「ふむ。無理か」


 力ずくで結界をこじ開けてもいい。しかしその際に手加減できずに結界ごと島を崩壊させてしまう危険性もある。できれば穏便に事を終えたい。


(さて……こうなればあやつの力が一番有効か)


 脳裏に浮かぶは我が最大のライバルの顔。


(しかしここを離れるのもな……)


 もしかしたら島は浮島で、そのまま流れに乗ってどこかへ消えるかもしれない。そうでなくとも再び海の中へと沈むかもしれないのだ。見張りが必要だろう。


「仕方ない……か」


 懐からペンと紙を取り出し、すらすらと字を書いていく。そして書き終わると、紙を小さく折り畳んで、懐からもう一つ違うアイテムを取り出す。


(はぁ、こんなところで奴にもらった魔具が役に立つとはな)


 それは旅に出る前にペビンにもらった一つのアイテム。小さな緑色のリングである。

 そこに魔力を通すと効果を発揮できるのだ。リングは二対一体となっており、それぞれが繋がっており、リングに物を通すと、もう一方のリングを通して転移させることができる。

 リングに魔力を通すと、中の空間が歪んでいく。その中に書いた紙を入れると、下に落ちるのではなく、そのまま紙は消失してしまった。

 これでもう片方のリングを持つペビンへと情報が渡るだろう。


「あとは待つだけ……か」


 空に浮かびながら、腕を組んでジッと眼下に浮かぶ島を見つめた。



     ※



 時計塔の上でペビンから紙を手渡された日色は、その足でリリィンの屋敷へと戻っていた。


「――おや、ヒイロ様。お戻りになられたのですかな」


 出迎えてくれたのはシウバだった。彼の手には多くの書類が握られてある。


「それ全部祭り関係のか?」

「左様でございます。すべてお嬢様には目を通して頂くものとなっております」

「祭りが始まる前も大変だったが、終わった後も主催者ってのはキツイもんだな」

「ノフォフォ、確かにそうですが、これはこれでお嬢様は嬉しい忙しさだと口にしておられますから」


 まあ、長年の夢が叶ったのだから当然といえば当然かもしれない。


「ところでどちらへ行かれていたのですかな? ニッキ殿が探しておられましたが」

「ああ、実はな、こういうものがアイツから届いてな」


 そう言ってペビンに渡された紙を広げて彼に見せた。

 その紙に目を通したシウバの目が鋭くなる。


『獣人界の西――島の出現あり。外観から予測するに、島は原初の時代――『精霊の母』とともに生まれ、そして瞬く間に姿を消したと思われる〝黄金郷〟――【オリンピース】の可能性高し。強力な結界に保護されており、島を傷つけずに侵入するにはヒイロ・オカムラの力が必要。何故この時期に出現したのか調査を必要とする。世界に仇なす影響がある危険性もまたあり。至急参じられたし。アヴォロス』


「――【オリンピース】……ですと」

「知ってるのか?」

「実在するとは聞いておりました。自身の目で見たことはありませんが」

「誰に聞いた?」

「『精霊の母』です」

「……! ああ、そういえばアンタは直接そいつに創られたんだっけか」

「左様でございます。しかしわたくしが生まれた時は、もうすでに【オリンピース】は海の中と聞かされておりましたから」

「アンタの他に〝黄金郷〟の情報を知ってそうな奴はいるのか?」


 その問いにシウバが低く唸る。それも仕方ない、か。何故なら彼はこう見えても数千年の時を生きている『精霊』であり、彼以上に長生きをしている存在が果たしてまだいるのかも疑わしい。

「……ホオズキ殿も恐らくわたくしと同じで詳しくはご存知ないと思われますし、原初の時代から生きている者はもう存在しないのではないでしょうか」

「それもそうか……あ」

「どうかされましたかな?」

「……忘れてた」

「は?」

「原初の時代どころか、この世界のすべてを知り尽くしてるはずであろう奴がいた」

「……! そうでございましたな。彼女はどちらに?」

「多分、オレの部屋で寝てるな」


 うっかりしていた。そうだ。『精霊の母』を生み出した存在のことを忘れてしまっていた。


「話はアイツ――イヴァライデアに聞けばいいとして、オレは準備したらすぐにでも出るからそのつもりでな」

「畏まりました。お嬢様には?」

「アンタが伝えておいてくれ。忙しいだろうしな」

「左様でございますか。ではどうか、お気をつけて」


 シウバに「ああ」と答えると、そのまま自室へと向かった。

 ベッドの上にはいつものように穏やかに眠るイヴァライデアの姿がある。


「――おい、起きろ」

「んむぅ……ヒ……イロぉ?」

「眠っているところ悪いが急ぎの用事だ。一緒に来てもらってもいいか?」

「……うん。いいよ」


 そう言うと、眠たそうに目を擦りながら飛んで、日色の服の中へすっぽり収まる。


「……どこ行くの?」

「それは着いてから説明する。まだ本物って決まったわけじゃないしな」

「……本物?」

「着いたら教えるから、それまで寝てろ」

「うん。んじゃ、その時になったら起こして」


 イヴァライデアはまたも寝息を立て始めた。


「さて、準備を……って、別に取り立ててすることはないが」


 あとはペビンが来るのを待つだけ。

 するとタイミングの良いことに、窓を外からノックする音が響く。視線を向ければ、そこにはペビンが浮いていた。


「先程ぶりですね、ヒイロくん」

「御託はいい。それで? 手の空いてる奴らってのは用意できたのか?」

「ええ、あの〝黄金郷〟に向かうのですから、それなりの人材で暇を持て余している方々を探し出しましたよ」


 暇を持て余す。ずいぶんな言いようである。


「何人だ?」

「――五人です」

「結構多いな」

「一人は確定していたんですけど、まあ……あとの四人はオマケということで」

「?」


 気になる言い方だったが。


「とりあえず、その連中はどこにいるんだ?」

「一人は【獣王国・パシオン】、そして残りは――【人間国・ランカース】ですね」

「【ランカース】? ……何か嫌な予感がするんだが」


 その予感はすぐに当たることになる。

 とりあえずまずは獣人界にペビンと一緒に転移することに。

 【パシオン】の《王樹》にある庭園に転移してほしいとペビンに言われたのでそのようにすると、そこには動きやすい服装を着用しているミミルが待っていた。傍にはレッグルスが立っている。


「――ヒイロさま!」


 日色の姿を見て駆けつけてくるミミル。彼女はそのまま嬉しそうに日色の右腕を取る。


「なるほどな。ミミルか」

「『精霊の母』の転生体。彼女は必須だと思いまして」

「よろしくお願いします、ヒイロさま!」


 確かに原初の時代に存在した人物の生まれ変わりならば、何か謎を紐解く鍵になるやもしれない。


「レッグルス、ミミルを借りるぞ」

「君になら安心して任せられる。我々も原初の時代の島については気になる。だから調査を頼んだよ」


 彼に頷きを見せてから、今度は【ランカース】へと転移する。

 向かう場所は《玉座の間》ということだったのだが……。


「………………おい、糸目野郎。まさか残り四人てコイツらのことだったのか?」


 日色の目の前で待っていた四人の姿を捉えて思わず溜め息が零れ出た。


「そうですよ。ただいま良い人キャンペーン中の――勇者四人組の方々です」


 おう、そこにいたのは、青山大志、鈴宮千佳、皆本朱里、赤森しのぶの、毎度お騒がせの勇者たちであった。


(嫌な予感はしてたが……まさかコイツらだとはな……)


 面倒事になりそうで思わずガックリと肩が落ちた。


「よ、よぉ、丘村」


 緊張した面持ちで少し上ずった声をかけてくる大志。

 しかしそれには応えずに、先にペビンに事情を説明しろといった目線を向けた。彼は「おお怖い」と呟きながら肩を竦め、


「彼ら自身が名乗り出たのですよ。安心してください、ジュドム王の許可ももちろんとってありますから」


 その心配は別にしていない。日色が文句を言いたいのは、何故わざわざそれほど親しくもない連中を選んだのかということである。

 日色と勇者たちは、この世界に召喚されてからまともに会話したことなどほとんどなく、会えば衝突ばかりしていたし、大志に至っては殺し合いまでした仲だ。


「久しぶりやな、丘村っち」

「そうですね。大会でもお会いしましたが、こうやってゆっくりとお話する機会を持てませんでしたし」


 しのぶと朱里は、他の二人と比べるとまだ日色と取っ付き易い感じで喋りかけてくる。


「……丘村、私たちと一緒に仕事とかするの嫌かもしれないけど、少しでもこの世界の役に立てるんなら、連れてってほしいのよ」


 真剣な眼差しで言うのは千佳だ。日色は四人の目をそれぞれ見回し確認していく。


(……なるほどな。大会の時にも感じたが、ずいぶんと変わったもんだな)


 この世界に来た当初の彼らの瞳は好奇心や期待感といった陽気さしか映っていなかったような気がしていた。それが戦争に関わり、絶望に叩き落され、仲間同士傷つけ合うこともあったのだ。

 四人それぞれが、多かれ少なかれ世界自身に責任転嫁を押し付けようとしていた。

 しかし今の彼らからは、悲壮感など欠片も存在せず、心から世界のために何かをしたいといった気持ちが伝わってくる。


「――よろしければ、彼らを同行させてあげてくださいですの」 


 そこへ聞き覚えのある声が耳朶を打った。確認してみると、そこには三人の人物が立っていることに気づく。

 声を発したのは元第二王女であるファラだ。その傍には同じく元第一王女のリリスと、この国の王――ジュドムの姿があった。


「お久しぶりですの、ヒイロさま」

「第二王女か」

「元、ですの。それにいい加減お名前で呼んでほしいですの」


 まだ幼さが残る顔が少し不機嫌に歪む。会う度に名前で呼べと言ってくる彼女だが、それほど親しくもないので、結局そう呼んでしまう。


「あ~あ、俺も忙しくなけりゃヒイロと一緒に行きてえんだけどなぁ」

「もう、ジュドム様。国王としての自覚を持ってください」

「悪い悪い。けどな、元冒険者としては冒険心が疼くんだよなぁ」


 リリスに窘められながらも、ジュドムは快活に笑う。


「さて、ヒイロくん、あとはあなたが決めてください」


 と、ペビンが選択を促してきた。

 ジッと大志たちの真剣な表情を見回す。そして……。

「…………まあいいか。準備はできてるのか?」

「お、おう! バッチリだ!」


 大志が腰に携帯しているバッグを見せつけながら言った。どうやらペビンの誘いを受けてからすぐに準備をしていたようだ。


「本当ならこのファラも行ってみたいのですが」

「足手纏いだからな」

「む……ミミル様はいらっしゃるですの」

「コイツに関してはいろいろ事情もあるしな」

「そ、それにミミルはヒイロさまをお慕い申し上げていますから!」


 そう言いつつ日色の腕を取るミミル。


(いや、慕ってるとかは今関係ないと思うが……)


 そう思っているのは日色だけのようで……。


「むぅ……ヒイロさまはもっとこちらの国に顔を出すべきですの」


 さらに不機嫌度が増すファラだが、いつまでもここで時間を食うわけにはいかない。

 日色は彼女の額をトン……と人差し指で突くと、


「そのうちな」


 と漏らした。

 すると、「もう」と口にしながらも額を押さえながら、どことなく嬉しそうなファラに、リリスやジュドムたちが微笑ましそうに笑っている。


「よし、それじゃ行くからさっさとそれぞれの身体に触れろ」


 そう言うと、日色の身体を介して、それぞれが手を繋いだり、肩に触れたりして数珠繋ぎのようになった。

 ジュドムたちの見送りの中、『転移』の文字を使用して、獣人界の西端へと飛んだ。








 獣人界の西端へと辿り着いた後は、ひたすら西に向かって海を渡っていくだけ。その先にアヴォロスがいるはず。

 両手で文字を書き、


『飛翔』と『六人』


 で発動。

 これで空を自由に飛べない者でも自らの意志で、日色の力が届く範囲の中でなら飛ぶことが可能。ちなみにペビンは自分で飛べるので数には入れていない。


「お、おお!?」

「と、飛んでるわよ、私たち!?」

「これが丘村っちの魔法なんかぁ」

「こうやって自由に飛ぶのって初めてです私!」


 大志、千佳、しのぶ、朱里がそれぞれ、日色の魔法を味わって感動の声を上げている。


「感動するのはいいが、あまりオレから離れるなよ。まあ、そのまま海に落ちたい奴は別に構わんが」

「……相変わらず一言多い奴よね、アンタは」

「もう千佳さん、丘村くんのご厚意なんですから」

「あれぇ? 朱里っち、ずいぶん丘村っちの肩持つやんかぁ」

「え!? そ、そんなことないですよ!」

「ちょっとちょっと、それって……マジなの朱里!? 相手はあの横柄眼鏡よ!」

「それ言い過ぎやで、千佳っち……」

「そうです。丘村くんは私たちのために魔法を使ってくれているのに……」

「い、いやだって……も、もう! 何か私だけ悪いみたいじゃないのよぉ!」


 そんな三人の喧しいやり取りを見ながら、


「お前もアイツらと常に一緒とは、同情するぞ」

「はは……俺はまあ、楽しいけど」


 少しばかり大志に情が湧いた日色だった。

 それから彼女たちを大志が諌めて、皆で海の上を飛翔し始める。

 そのまま結構な速度で飛び続け、約三十分ほど経った頃、視線の先に小さく島のようなものが見えてきた。


(――アレか)


 遠目にも分かる。異様なオーラを纏っている島だ。

 それに明らかに島全体が眩い輝きを放っている。黄金の輝きだ。


「す、すっげえ、本当に黄金だぞ、千佳!」

「う、売ったらどれだけするのかしら」

「もう千佳っちってば現金なんやから~」

「そうですよ。不謹慎です、千佳さん」

「ちょ、二人とも。アタシはちょっと気になっただけで」


 案外余裕の勇者四人だった。まあ、島を見て感激するのは日色も理解できるが。

 その島へ向かって速度を上げて進んでいき、目の前に迫って来た時――


「――ようやく来たか」


 聞き覚えのある声が上空から降り注いできた。


「……アヴォロス」

「ずいぶんと待たせてくれおって」

「ふん、来てやっただけでもありがたく思え」

「おやおや、お二人は顔を合わせれば相変わらずですね」


 日色とアヴォロスのお決まりのやり取りにペビンが楽しげに笑う。しかしミミルは日色の背中に隠れており、勇者たちは明らかに警戒している。

 ミミルはともかく、大志たちはアヴォロスの策略によって関係に亀裂を作られていたので、こうなるのは当たり前だが。


「ほう、勇者どもも来たのか」

「アヴォロス……っ、お前何でここに!」

「確かタイシ……だったか。ヒイロから何も聞かされておらぬのか?」

「何だって? おい丘村、どういうことだ?」

「今の奴は脅威じゃない。有体にいえば、お前らと同じ世界のために動いてるだけだしな」

「け、けどコイツが何をしたのか、お前だって知ってるだろ!」

「別に許してるわけじゃない。ただ互いの利害が一致しているし、これ以上ムダな争いをしても疲れるだけだ」

「そんな……」

「ねえ大志、丘村がそう言うんなら、信じようよ」

「千佳……お前だってアイツにいろいろやられたのに」

「確かにそうだけど。でもそれを言っちゃえば、アタシたちだって何も考えずに戦争とかしてたわけで……」


 千佳の言い分に、大志も反論することなく押し黙った。


「コイツと一緒にいるのが嫌って言うのなら、今からでも国に送り返してやるが?」

「……いや、一度決めたことはもう覆さないって決めたんだ」


 大志はアヴォロスを一瞥してからさらに続ける。


「確かにアヴォロスに利用されてしまったけど、利用されてた俺も……悪い。水に流すってわけじゃないけど、今はやるべきことをやるつもりだ」


 本当にこの世界に来てずいぶん心が鍛えられたものだと、少し見直した日色。ここでアヴォロスに食ってかかるだけのような奴ならば、強制的に国に送り返そうかと考えていたが、どうやらその必要はないようだ。


(他の連中も――割り切ってるようだな)


 他の三人の顔を見てそう判断した。

 アヴォロスはアヴォロスでどこ吹く風といったところだが。


「さて、話が一段落したところで、そろそろヒイロくん」


 ペビンが話を島の方へと戻した。


「アヴォロス、アレが〝黄金郷〟――【オリンピース】ってことでいいのか?」

「ああ、恐らくはだが」


 その時、「おりん……ぴーす?」と小さな呟きが日色の胸元から聞こえた。

 どうやらちょうど良いタイミングでイヴァライデアが起きてくれたようだ。胸元からひょっこり顔を出すと、そのまま日色の顔を見上げてきた。


「ヒイロ……今、ビックリする言葉が聞こえたけど」

「起きたのか。言葉だけじゃなく、ビックリする代物が目の前にあるぞ」

「え…………あ……ん? えと……何でここにあるの?」

「とオレに聞かれてもな。こっちはお前に確認してもらいたいんだが。その様子だと、あそこにある島が〝黄金郷〟ってことでいいんだな?」

「うん。ずっと前にわたしが創ったもの」


 日色はアヴォロスと顔を見合わせ互いに頷く。


「入るにはどうしたらいい?」

「……結界?」

「ああ、お前が張ったんじゃないのか?」

「ううん。あの子がやってる」

「あの子?」

「でも驚き。まだ存在してたなんて」


 イヴァライデアさえも、島自体が消失したと思っていたようだ。ならこの出現は、彼女の意志とはまったく無関係ということ。


「とにかく、結界を解くことはできないのか?」

「《文字魔法》なら可能。今の日色ならできる」

「結局は魔法頼みってわけか」


 仕方ないと思いつつも、多分そうなるんだろうなと思っていたので文句はない。日色は空中に文字を書いていく。


(この結界は恐らく外敵の侵入を防ぐために設置されてるものだろう。それを粉々に壊すのも後々に問題化するかもしれん)


 それなら、と日色が選択した文字――『結界通過』。

 文字を発動した直後、日色の目には結界に穴が開いていく様子がハッキリと見えた。


『転送』と『八人』


 の文字を素早く両手で書いて加えて発動。するとその場にいた日色たちが、その結界穴を通過してその先へと転移することができた。

 そのほとんど同時に、結界に空いていた穴が閉じる。


(四文字魔法でも、その効果を十秒くらいに抑え込むとは、余程強力な結界のようだな)


 しばらくは結界の穴はそのまま維持されると考えていたが、結界の修復力は日色の想像を超えていたということである。すぐに八人を転送して正解だった。








「――っ、ここは? あれ? 島の中!?」


 大志や、他の勇者たちはいつの間にか島に上陸していたことに驚いてしまっている。

 他の者たちはもう慣れているのか、日色が行った所業だと理解しているようだが。

 日色は驚く者たちを無視して、改めて島を観察してみる。


(本当に黄金だらけだな)


 まさしく。どこに視線を送っても、黄金、黄金、黄金。


(〝黄金郷〟とはよく言ったものだな)


 その中で一際目立つのは、やはり島の中央にあった黄金のピラミッドだろう。


(あの中に何かありそうだが……)


 チラリと胸元に目線をやってみると、イヴァライデアもまた懐かしげに周囲を見回していた。


「やはり懐かしいか?」

「うん、まあね。けどどうして、いきなり出てきたんだろ」

「そんなことより答えろ、イヴァライデア。この島は何のために創られた島だというのだ?」


 当然の疑問をアヴォロスが口にする。

 だがそれに応えたのは――



 ――――――創造主たる方にそのような口の利き方はあまり感心しないのである。



 それは直接頭の中に響くような声だった。



「誰だ!?」


 声を発したアヴォロスだけでなく、当然誰もが警戒し、周囲に注意を払っていると、日色たちの少し目先にある地面に魔法陣が出現し、そこからズズズズズズと何かが顕現してきた。


(……! 何だコイツ……?)


 そこに現れたのモノにイヴァライデア以外の全員が目を点にしている。

 金色の火の玉のような存在。そこにチョコンと二つの目があり、それだけ。かなりシンプルな造形ではあるが、間違いなくこの存在が喋ったのは誰もが理解できたはず。

 するとフワフワと動きながら、日色の前――いや、イヴァライデアの前に移動すると、


「こうしてまたお会いできるとは、恐悦至極なのである。創造主様」

「うん。あなたも元気だったみたいで良かった」

「もったいなきお言葉なのである」


 魔物、とつい思ってしまうが、そうではないのだろう。だがどういう存在なのか、何故この場にいるのか不思議に思い、日色が「紹介しろ」と言うと、


「お主、創造主様に向かって失礼だと思うのである」

「うるさい火の玉野郎、少し黙ってろ」

「何と!? 吾輩にはウィルビーという創造主様に名付けて頂いた誇り高き名があるのである!」

「知るか。それよりも早く説明しろ、イヴァライデア」

「うん、分かった」

「んなっ!? な、何故そのような無礼な者の意を叶えようとなさるのである、創造主様!」

「ああもう、うるさい」


 話が進まないと思い、日色は『沈黙』という文字を空中に書き出す。


「そ、その魔法は――っ!?」

「少し黙ってろ、火の玉野郎」


 ウィルビーに向けて文字を放ちそのまま発動。一瞬の放電現象ののち、ウィルビーはギョッとしつつも、声を発することがなくなった。


「これで静かになった。それで? コイツは何だ?」

「この島の管理者」

「管理者?」

「うん。この島にはある装置があって、それを守るためにこの子を創ったの」

「ある装置……だと?」

「それはあそこの中にある」


 そう言って彼女が指を差したのはピラミッドである。どうやらその中に、そのある装置とやらが眠っているらしい。

 これほど厳重に守護しなければならない装置とは一体何なのか、日色の好奇心をくすぐった。


「なるほどな。コイツの役割は理解したが、そもそも何でこの島はこんな姿をしてるんだ?」

「……この島は、元々【ヤレアッハの塔】の一部」

「何だと?」


 それを聞いて驚いたのは、日色だけでなくアヴォロスとペビンもだった。


「そういや、今思い出したが、塔の屋上にあった塔の制御システムがピラミッドの形だったよな」


 日色は思い出していた。その制御システムを使って、月の【イデア】への落下を防ぐことに成功したのだ。

 するとペビンが顎に手を置いて思案顔で呟く。


「そういえば、我々『神族』が【ヤレアッハの塔】に到着した当初、屋上にはもう一つのピラミッド型の装置があったという話を聞いたことがありましたが、あれはもしや……?」

「うん。それがこの島。あの屋上の一つ上にはもう一つフロアがあって、それがこの島だったの」

「あそこにこのような島があったとは……」


 そう呟いたのはアヴォロスだ。彼もまた一度、塔の屋上へ上っているのである。


「何故塔にあった島を【イデア】に?」

「この世界で言う『精霊の母』を生み出すために、【ヤレアッハの塔】の一部をここに持ってきて、わたしの力を増幅させる必要があったから」

「つまりこの島全体が、お前の力を増幅させる性能を持ってるってことか」


 イヴァライデアがコクリと頷いて肯定した。


「その力を使って『精霊の母』を生み出したことは理解した。なら何故今まで海の中に沈んでいたのだ?」


 そう問うたのはアヴォロスだ。

 だがその時、ウィルビーが身体をブルッと震わし、日色の魔力を弾き飛ばしてしまった。


「――その説明は吾輩がさせて頂くのである!」


 ビシッと宣言するウィルビーを見て、日色が内心で驚愕していた。


(コイツ……! オレの二文字魔法効果を自力で弾き飛ばしやがった)


 さすがにイヴァライデアが、塔の一部の管理者として選ぶだけはあるということなのかもしれない。

 だがそこへ、ウィルビーが何故な日色へと視線を合わせてくる。


「先程は無礼な物言い謝罪するである」

「……は? 何だ急に?」


 いきなり態度が変わったので逆に不審さが増す。


「まさかあなた様が新たな神の後継者だとは知らず、本当に申し訳ないのである」

「別に気にしてなくてもいい。だが神の後継者なんかじゃない。そんな名で呼ぶな。オレはヒイロ・オカムラだ」

「……承知したのである。ヒイロ様」


 案外素直なんだなと思いつつ、やはり《文字魔法》を使う存在は特別なのだという事実に日色は肩を竦めた。


「それで? 島が何故海の中に沈んだか、説明してくれるのか?」

「はいであります。まずこの島の機能が『精霊の母』と繋がっているということを念頭に置いてほしいのであります」

「そうなのか?」


 確かめるために、一応イヴァライデアに視線を向けると、彼女もまた首を縦に振って肯定した。


「『精霊の母』が没落した時に、この島もまたその機能を失い海へと沈んだというわけであります」

「ちょっと待ってください。それでは『精霊の母』が健在の時には、この島はまだあったということですが、我々は確認しておりませんよ?」


 そう問い返したのはペビン。彼もアダムス同様に『精霊の母』がまだ活動していた時期にこの世界へやってきたのだから。


「それは当然なのであります。この島の秘密を知られないために、外敵からの感知ができないようにされているのであります」

「は? いやしかしこうやって現にアヴォロスさんが発見していますし、遠目でもしっかりと我々も確認することができましたよ?」


 そう、ペビンの言う通り、ウィルビーの言うことが正しいとするならば、島が浮上したとしてもそれをアヴォロスが発見することはできなかったはずだし、日色たちもまた島に近づいても島の存在を感知することできないということのはず。

 しかしウィルビーは首を左右に振る。


「それは簡単であります。『精霊の母』が没したことにより、この島を覆う結界もまた弱まったのであります」

「……? ちょっと待て、結界そのものは『精霊の母』と繋がってはいないのか?」


 そう日色が尋ねると、


「はいであります。この島の結界はこのウィルビーが張っておりますから。『精霊の母』が健在の頃は、彼女の力も借りてより強固になっていたのですが、彼女が死んでからは吾輩だけの力で結界を張っておりますゆえ。ただどうしても感覚が鋭敏な者ならば、島の気配を感じ取れるのであります」

「なるほどな。一応筋は通っているように思えるが……。おい、お前はそもそもどうやって島の存在に気づいたんだ?」


 今度はアヴォロスに対して質問を投げかける日色。


「余は前々から、この島の存在には薄々気づいておった。ウィルビーと言ったな?」

「何でありますか?」

「前にも一度、この島は浮上したことがあっただろう?」

「……! よく気づかれましたな」

「『精霊の母』の魂と機能が繋がっているのであれば、その転生体がこの世に生まれ出た時に、その機能は復活したはずだ」


 その言葉に全員がハッとなって、ウィルビーに視線を向けた。


「……その通りであります。一度目はラミル殿、そして此度は……」


 ウィルビーがミミルの方に視線を送る。彼女はビクッとなって、日色の後ろに隠れた。

 どうやらミミルが転生体だということはもう気づいているようだ。

 ただ日色には気になることがあった。


「しかしタイムラグがあり過ぎないか? ミミルが生まれて十年以上も経ってるんだぞ?」

「それも仕方ないのであります。ただでさえ『精霊の母』の力は、人の器には厳しいものがあるのであります」

「! それはまさかコイツが声を失っていたことと関係があるのか?」

「声? 恐らくそれも魂の覚醒のために生じた弊害であります。しかしそのように、転生体は人という器なので、身体も精神も未熟なままでは、この島も転生体の力を受け取ることができないのであります。仮に受け取れたとしても微弱なので、島の復活には時間がかかるのであります。今日、ようやく浮上できるだけの力が溜まったのでこうして」

「なるほどな。そういう事情があったわけか。それじゃアヴォロス、お前は先代の転生体の時に、島の存在に気づいて、それからずっと探していたってわけか?」

「そういうことだ。しかし前回はラミルが死ぬ少し前に気づいたから遅かったがな。それでもこの島の気配を感じたのが、ここらへんだったために、一応部下どもに探させてはいたんだが、結局見つけられなかった」

「それは当然なのであります。ここの海底はおよそ人が辿り着けないほどの深さがあるのであります。それに吾輩の結界も相まって、たとえ海の中に入って探したとしても、そうそう見つけられるわけがないのであります」


 加えて海という環境は、他のどの大陸よりも厳しい。生息している魔物も強力で数が多い。探し出すのは困難を極めているだろう。


「余はある古代遺跡にて、碑文を発見した。そこにはかつて存在した〝黄金郷〟について書かれてあった。誰が残したのか。恐らくそれは『精霊の母』本人だろうな」

「何のためにそんなものを?」


 日色が尋ねると、アヴォロスは腕を組みながら答える。


「これも恐らくとしか言えないが、自身が死んでしまい、そして生まれ変わった時、その碑文を読んで〝黄金郷〟の存在を知らせるためではないか?」

「その考えは、吾輩も支持するであります。『精霊の母』はほんの僅かではありましたが、未来を予期する夢を見ることができたはずなのであります」

「そうなのか、イヴァライデア?」

「分からない。わたしが彼女を創り出したのは本当だけど、どう成長、または進化していくかは彼女次第だったから。その過程で彼女に何かしらの特異な力が生まれていてもおかしくない」


 神の手から直接生まれた存在。ならば特別な力を複数備えていても不思議ではない……か。


「『精霊の母』は、自分の死と再生を予期し、その碑文を残したのではないでありますか?」

「アヴォロスさん、その遺跡ってのはどこにあるんですか?」


 ペビンが聞くと、アヴォロスは一言――。


「海の中だ」


 と言い、皆が目を丸くするが、彼はまだ続ける。


「海の中には、多くの古代遺跡が残されてある。まだ海がここまで広がっていなかった頃は、三大陸もまだ大きく、もう一つの大陸があったとさえ言われているからな。まあ、それもこの世界が創られた本当に初期の頃だが」


 『精霊の母』も、まさか残した碑文が海の中に沈むとは思わなかったのだろう。そこまで未来を見通せる力はなかったということだ。


(まあ、都合良く未来を見通せるなら死ぬこともなかったかもしれないしな)


 そう、神王サタンゾアの手によって殺されることもなかっただろう。


(そういえば、三大陸はかなり冒険して回ったが、それでも海ってのは数えるほどしか来たことなかったな)


 そこで一つ思い出す。


(北の海にはアダムスが造った迷宮もあったしな。あれも元々は地上にあったものなのかもしれない)


 アヴォロスの言うように、海の中には、まだまだ日色が知らない世界が広がっているかもしれない。


「まあ、そもそも海の中の魔物たちも、あれほど数が増し強力になるとは、創造したイヴァライデアさえも予見できなかったはずだ」


 そうアヴォロスが言うので、日色が「そうなのか?」と彼女に尋ねると、小さく顎を引いて彼女が答えた。


「うん。わたしはあくまでも、生命体が生まれるきっかけを創ったに過ぎないから。そこからどう進化していくのかは分からなかった」


 まあ、最初から何もかも分かっていたらな、他種族同士で争い合わないように創るだろう。争いの嫌いなイヴァライデアだったら、もしできるならそうしているはずだ。


「ところで一つ、創造主様にお尋ねしたいことがあるのであります」

「何?」

「創造主様が直接こちらに赴かれたということは、ここのシステムを利用しようとされているのでありますか?」

「……そうなの、ヒイロ?」

「いや、オレに聞かれてもな。そもそもここのシステムがどういうものなのか知らないし」


 というよりも、アヴォロスの頼みでここまで来ただけなのだ。怪しい島が世界に及ぼす影響を考えての危惧だったが、どうもそういうものでもなさそうだし。

 もしウィルビーが敵だったり、世界を破滅に導こうとしていた時のことは一応考えていたが。


「余はこの島がどういうものか知りたいためにここまで足を運んできた。不確かなものを放置するのは些か不安だからな」


 今、アヴォロスは世界の守護に力を注いでいる。悪い影響を与えるような存在に対し、それ相応の対応をしているのだ。

 だからこそ、こんな未知の島の出現を黙って見過ごすことはできなかったのだろう。


「碑文には島の存在意義そのものは書かれていなかったからな。教えてもらおうか、この島のシステムとやらを」

「ずいぶんと上からの物言いでありますな。まあ、神の後継者――いえ、ヒイロ様もそうお望みの様子でありますし、ならばご説明するであります。では、吾輩についてくるであります」


 そう言って、フワフワと動き始めた。行き先はどうやらピラミッドの方だ。

 ピラミッドの大きさは高さが大体三十メートルほどで、幅は百メートルくらいはあるのだろうか。

 その黄金のピラミッドに近づくと、何もない壁に突然切れ込みが走って、壁が徐々に蜃気楼のように消えて行った。


「中に入るであります」


 ウィルビーの先導で、日色たちはピラミッドの中へと足を踏み入れる。ちょうど一人が通れるほどのスペースの通路が続いている。壁には一定間隔に明かりが設置されているものの、物々しい雰囲気が漂っているので、まるでお化け屋敷のようだ。


「な、なあ千佳。まさかいきなり魔物とか出てこないよな?」

「ちょっと、変なこと言わないでよ!」

「ビビリやなぁ、大志っちも千佳っちも、大丈夫やって。出てもミイラやろうし」

「「余計怖いわ!」」

「皆さん、少し静かにした方がいいのでは?」


 勇者たちがまるで肝試し気分のようだ。


(しかし確かに何かが出そうな雰囲気ではあるな。気温も外と比べて低いようだし)


 そのまま真っ直ぐ歩いていると、その先に光が見え、ウィルビー曰くそこが目的地だという。

 到着してみると、かなり開けた場所であり、四方を階段に囲まれている祭壇のようなものが中央に設置されてあった。

 その他には特に目立ったものはない。ただここがピラミッドの中心なのか、上を見上げると四角すいの頂点であろう先が見えた。


 祭壇のような場所には、十メートル四方くらいの平たい足場が造られてあり、四つ角にはそれぞれミニサイズのピラミッドの存在を発見する。

 それらに囲まれた中央――そこにはどこかで見たような魔法陣が刻まれてあった。


「魔法陣……?」


 日色の呟きに、皆の視線もそちらへと向く。周りを黄金で包まれた中に、ひっそりと佇むようにしてある赤い魔法陣。それが妙に異端さを際立たせる。


「この島のシステム。あの魔法陣を使って何かをするっていうのか?」


 そう日色が尋ねると、驚いたことにアヴォロスが、


「や、やはりそうだったのか……!」


 と確信を得たというような言葉を繰り出した。


「何を言っている、アヴォロス?」

「いえ、ヒイロくん。あの魔法陣をよく見てください」

「はあ?」


 糸目野郎ことペビンまでもが、何かに気づいているようだ。


「……至って普通の魔法陣だが? 血で書かれてるように見えるが」

「あれは恐らく本物の血でしょう。しかしそのようなことではなく、注目すべきは魔法陣の形そのもの」

「形?」

「ヒイロくんも、あの魔法陣、どこかで見たことがって思いませんでしたか」

「確かにそう思ったが……」


 もう一度魔法陣を見つめる。するとようやく脳内にある記憶と合致する魔法陣を検出できた。


「ま、まさか……!?」

「な、なあ丘村? あの魔法陣がどうかしたのか?」

「そうよそうよ。自分たちだけ分かってないで、ちゃんと説明してよね!」


 大志と千佳が説明を求めてくるが、


「……! ちょっと待ってや。確かにあの魔法陣見たことあるで」

「そう、ですね……けれどどこで……?」


 しのぶと朱里も見覚えがあると口にする。


「分からないか? オレたちは特にあの魔法陣と強い繋がりがあるんだがな」

「何だって?」

「アタシたちが?」

「よく見てみろ。あの魔法陣の形――オレたちがこの世界に来て、一番最初に目にしたもののはずだ」

「「「「っ!?」」」」


 四人の勇者たちがほぼ同時にハッとなって、強い眼差しを魔法陣へと注ぐ。


「そうであります。あの魔法陣は召喚・送還の儀式を行うために創造主様の血液で書かれた魔法陣なのであります」


 ウィルビーが認めた。これで百パーセント日色たちの考えが的を射ていたことを証明したのだ。

 日色たちがこの世界に来て初めて目にした魔法陣。それは【人間国・ヴィクトリアス】にあった、儀式の塔の魔法陣である。

 第一王女リリスは、その魔法陣の力を借りて日色たちをこの世界に召喚したのだ。


 そしてその魔法陣を使い、アヴォロスは日色と大志と千佳、そして元ヴィクトリアス第一王女アリシャの四人を、一度地球へと送還もしている。

 またアリシャが自分の血液で描いた魔法陣で、その命と引き換えに日色たちを再び【イデア】へと送還した。

 都合三回。日色はこの魔法陣を目にしていたのだ。


「この魔法陣……というか島は、元々【ヤレアッハの塔】にあったもの。あの魔法陣の元々の能力は、異界と異界を繋ぐ転移魔法陣だった」


 突然イヴァライデアが口を開き始めた。黙って皆がそれに耳を傾ける。


「この【イデア】に置くことで、自由に月とここを行き来できるようにしたかった」

「ですが創造主様のお力は想像以上のものだったのであります」


 続けて言葉を発したウィルビーに、皆の視線が向かう。


「あの魔法陣の力は、月と【イデア】を繋ぐだけでなく、その他の様々な世界と繋ぐ力を得てしまったのであります。その一つが――」

「オレたちの住んでいた地球、か」


 日色の解答にウィルビーが頷いた。




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