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269:退屈しない世界

 今回の〝アウルム大祭〟における最大の目玉、二つの大会が無事最高の結果を残し、このイベントを企画し尽力したすべての者たちは満足していた。

 そして祭りも残り一日。この日は、すべての打ち上げということで、さらなる盛り上がりが期待できる。

 そう思いながら、日色は昼間の〝フープシュート大会〟を振り返り、夜中一人でリリィンの屋敷の屋根に上りながら星空を眺めていた。


「ふわぁ~ヒイロォ~」

「こんな時間に起きるのか、お前は」


 フラフラとした様子で日色の自室から現れるイヴァライデア。

 日中はずっと眠っている彼女なので、今は夜行性に目覚めてしまっている。

 そんな彼女がチョコンと、日色の右肩に腰を落ち着かせた。


「ふわぁ~、今日の試合凄かった」

「寝てたんじゃないのか?」


 ベンチには一緒に入ったが、応援の声も聞こえなかったので、預けていたランコニスの懐で眠っていたと思っていた。


「ううん。ちゃんと見てた。だって、わたしのヒーローの活躍だし」

「わたしのヒーローとか言うな」


 イヴァライデア専属のヒーローになった覚えがまったくもってない。


「そんなことより、力の方は大分回復したのか?」

「ん~ちょっとだけ、かな」


 【ヤレアッハの塔】の時、死にそうになっていた日色とアヴォロスと救ったイヴァライデアだが、その時の反動で強制的な眠りを強いられているのだ。

 存在力ともいえるエネルギーが小さいので、かろうじて実態を保っている状態であり、幻のようにか細い存在なのである。

 だから眠って少しでも力を温存して存在し続けようとしているのだ。それに力を使わなければ、そのうち眠らなくても大丈夫になると彼女は言う。

 もうかれこれ二年以上は経つが、それでもまだ一日二十時間以上は夢の中だ。


「でもこの調子だと、十年くらいで普通の生活ゲット?」

「何で疑問形なんだよ」


 それにしてもまだ十年かかるのか、と肩を竦めてしまう。日色にとって命の恩人でもあるので、早く普通に生活できるようにしてやりたいという気持ちはあるが、こればかりは日色でさえどうしようもないのである。


「明日はお祭り、最後?」

「ああ、名残惜しくもあるがな。どうせならもう一度グルメ大会を開いてほしかった」

「ヒイロらしいね」

「というか、毎日開いてもいいと思うが」

「それは難しいと思うけど」


 それは残念だ。あんないいイベントなら、本当に毎日あっても誰も文句言わないような気がする。無論日色の見解ではあるが。


「――ねえヒイロ」

「何だ?」

「……楽しい?」

「は? 急に何だ?」

「……ヒイロはこの世界、楽しんでくれてるかなって」

「見れば分かるだろ。不満など言った覚えはないが」

「そだね。……ヒナタも喜んでくれてるかな?」


 丘村日向――日色の母親だ。


「直接ニッキに確かめてみたらどうだ?」

「それも面白いかも」


 日向の転生体――それがニッキなのである。かつて日色もこの世界で死んだ母親との再会を果たしている。


「……ヒイロが、楽しんでくれてるなら、いい」


 嬉しそうな笑みを溢すイヴァライデアを一瞥してから、再び星を眺める。


「これからどんな世界になっていくんだろうな」

「それは、この世界に生きてる者次第」

「……だな」


 願わくば、誰もが退屈しない世界にしたいものである。

 こんなふうに他人と笑い合える世界を願い、挫折した者はきっと数え切れない。今のこの瞬間が、いってみれば奇跡そのものなのだか。

 だからこそ日色は思う。この奇跡が永遠に続くといい、と。

 いつの間にか右肩から寝息が聞こえると思ったら、イヴァライデアがすでに寝落ちしていた。夜行性といっても、起きてられる時間は限られている。


(神……か。世界を創造した神でもできないことはある。間違うこともある。悔やむことだってある。コイツのことだ。オレをこの世界に呼んで、自分の事情に巻き込んでしまったことをいまだに後悔してるんだろうな)


 だからこその先程の質問なのだろう。

 日色は彼女をそっと左手で掴むと、両手で優しく抱え込んだ。

 この言葉、届きはしないだろうが、それでも……。


「とても感謝してるぞ、イヴァライデア」


 決して起きてはいないだろう。しかしどことなく、彼女の寝顔は嬉しげであった。


 







 一週間に渡って行われている〝アウルム大祭〟も、いよいよもって残り一日となっていた。

 これまでの二つの大会が大成功に終わり、【太陽の色】に集まった者たちが一様に最大の盛り上がりを見せている。

 まるでロウソクの火が消える瞬間に、激しく燃える現象のように最後の一日を精一杯堪能しようと誰もが祭りを満喫していた。


 出店には数多くの者たちが集まり、種族など関係なく肩を並べて楽しそうに談笑していたり、昨日の〝フープシュート大会〟に影響を受けた子供たちが、さっそくボールを買ってもらって、一緒に遊んだりしている。

 この祭りが彼らに与えた影響は多大なものであり、皆が楽しめる空間として成り立っていた。


 これぞリリィンが追い求めてきた夢であり、叶った瞬間でもあった。

 そんな【万民が楽しめる場所】を造りあげたリリィンが、《アウルム大博物館》の一番上階に設置されている展望台から、その光景を万感の思いで見つめている。

 隣には彼女に仕える執事――シウバの姿と、同じくメイドのシャモエの両者が立っていた。彼らも長年リリィンの夢が叶うように支えてきたので、主人の夢が叶ったことが嬉しいのだろう。その表情はとても穏やかに緩んでいる。


「お嬢様、辿り着けましたね」

「おめでとうございますです、お嬢様」

「ああ。これもワタシ一人ではない。多くの者たちの助力あってのものだ」

「ノフォフォフォフォ! できればご自身一人でなされたかったのでは?」

「フン、当初はそう思っていたが、よくよく考えてみれば、万民のために造るのだから、結果的に万民の力が必要になるのは当然だったのだ」

「なるほど。いやはや、ご成長なされて、このシウバ・プルーティス。感激で涙が止まりませんぞ」

「シャ、シャモエもですぅぅ~」

「ああもう、貴様ら泣くでないわ」

「――そういうお前も、目じりが赤いが?」


 そこへ一人の人物が姿を現した。


「ヒ、ヒイロッ!?」


 リリィンがいつの間に、といった感じで目を丸くする。

 日色は空からここへ飛んできたのだ。そのままリリィンの隣に立って、同じ場所で同じ光景を眺める。


「前に言ったな。オレの夢の話を」

「む? あ、ああ。ワタシの夢の先を見るのが貴様の夢、だったな」


 そう。その夢を見た時のことはハッキリと覚えている。

 それはまだ他種族同士が戦争を繰り返す間柄で、魔王イヴェアムが人間王ルドルフと会談をした日だった。

 ルドルフの画策により、密かに獣人と手を組んだ人間が、魔王や主力が自国を離れた時を狙って【魔国・ハーオス】へと攻め入ったのだ。つまりは戦争である。


 そのまっただ中にあった日色たち。そこでリリィンが自身の夢を日色に語った。

 その夢の先を是非とも見てみたいと思い、日色は彼女を手伝うことに。誰もが楽しめる場所を造ったその先にどんな世界が広がっているのか見たいと思ったからである。


「どうだヒイロ、これが貴様の言っていたワタシの夢の先だ」

「勘違いするなよ、リリィン」

「は? ど、どういうことだ?」

「これはまだお前の夢が叶ったっていうことだけだろ」

「う、うむ。それはそうだが……」

「オレはこの先を見たいんだ」

「この先……?」

「多くの種族が、この場所で交わり手を取り合うことができた。そしてそういう奴らが、今後この【イデア】をどういう世界にしていくのか、それを楽しみにしてるってわけだ」

「なるほど。それが夢の先、というわけか」


 この先――もしかしたら、また種族同士がいがみ合うような事態に陥るかもしれない。戦争もまた起こるかもしれない。

 だがその時に、今回のことが争いの歯止めになる可能性だってある。

 結局は人と人との繋がりがあって、そこに楽しさや喜びが生まれるし、また逆に悲しみや痛みが生まれたりする。

 そこに折り合いをつけてどう人々が生きていくのか、日色はそれを見たいと思ったのだ。


(オレがこんなにも他人に興味を持つようになるとはな。この世界に来たばかりの頃から考えると信じられん)


 今も自分の欲望を優先的に考えていることは変わらない。しかしそこには確かに他人が傍に立っている。

 しかしこの世界に召喚された当初は、人との繋がりを深くしたいとは思わなかったし、他人などどうでもいいと考えて生活していた。自分の利のためだけに動き、他人を蔑にすることだってあっただろう。


 今の日色を考えると驚くほどの変わり様だと自分でも理解する。これが成長する、ということなのかもしれない。


「ワタシも今日は一日楽しむ予定だ。コイツらもこの一週間頑張ってくれたからな。労ってやるつもりだ」

「……ふっ」

「な、何がおかしいんだ?」


 日色が微笑を浮かべたので気になったのだろう。


「いや、お前も出会った当初から比べて変わったなと思ってな」

「フ、フン! 貴様ほどではないわ!」

「そう、かもしれないな」

「ところで、貴様は今日一日どうするのだ?」

「楽しむに決まってるだろ? 最後なんだ。まだまだ食い足りないものだってあるしな」

「……やはり貴様はどう変わっても貴様なんだな」

「ノフォフォフォフォ! やはりヒイロ様はそうでなくては!」

「はいです! ヒイロ様らしいのが一番です!」


 何となくバカにされている感があるが、日色はそのまま『飛翔』の文字を書いて発動させると、その場から下へ降りて行った。








「――ニャァァッ!? ヒイロいたのニャァッ!?」

「げっ、ニャン娘!?」


 日色が一人で出店を堪能していると、目の前に真っ白毛の幼女――クロウチことシロップが現れた。日色の姿を見て物凄い勢いで突っ込んでくる。


(くっ、どこだ鳥野郎!) 


 こんな時にいつも壁役として使える手駒を探す日色だが、運のないことに近くにはいないようだ。結果――。


「ふにゃあぁ~ヒイロおニオイニャ~」


 抱きつかれてしまい、小さな頭をグリグリと胸に押し付けられてしまっていた。


「……ごめん、英雄」


 そこへ近づいてきたシロップと同じように小さな獣人。


「……誰だ?」

「……プティス」

「……ぬいぐるみはどうした?」


 そう彼女がいつも着込んでいる熊のぬいぐるみがなく、素顔のリスの獣人の姿だったのだ。


「今洗濯中」

「……あれってやっぱり洗濯するんだな」


 着ぐるみ事情にはあまり詳しくない日色だった。


「ところで、コイツをどうにかしてくれ」

「そうニャ、ヒイロ!」

「耳元で騒ぐな。うるさい奴だ」

「もう一度勝負ニャ! 次は負けニャいニャ!」

「…………何のことを言ってるんだお前?」


 いきなり勝負を挑まれたが何の勝負のことかサッパリだった。


「クロ、昨日の大会で根に持ってる」

「……ああ、〝フープシュート大会〟のことか?」

「そうニャ! 昨日は負けたけど、次は勝つニャよぉ!」

「それはまた今度だ」

「今度っていつニャ?」

「……今度っていうのはそのうち、いつか、ってことだ」

「ん~勝負、してくれるニャ?」

「だから機会があったらな」

「ニャ~! だからヒイロ好きニャ~ッ!」


 またも身体を擦り付けてくる。


(コイツの勝負好きはどうにかならないものか……)


 獣人の血を色濃く引き継いでいるのはいいことなのかもしれないが、毎回勝負を挑まれる身にもなってほしいものだ。


「ほらクロ、今日は国で待ってる人たちのためにお土産買う約束」

「おお、そうだったのニャ! 名残惜しいけど、部下たちのためにお土産買うのも上に立つ者の役目ニャ!」

「……お前意外にも責任感強かったんだな」

「おお~! プティス、ヒイロに褒められたニャ!」

「良かったね、クロ。それじゃ、行くよ」

「分かったニャ! じゃあニャ~ヒイロ~!」


 上機嫌に手をブンブンと振りながら、シロップたちはそのまま人ごみの中へ消えて行った。


「――ふふふ、人気者なのですねヒイロ様」


 不意に背後から声が聞こえたと思い振り向くと、そこには動きやすい服装に身を包んだ美女が、妖精たちとともに現れた。


「……『妖精女王』か」


 そこにいたのはニンニアッホだった。さすがに普段と同じ格好だと、あまりにも目立ち過ぎるということで、一般女性の服を借りて着込んでいるのだ。

 しかし元のルックスレベルが高いので、どうやっても目立っているが。特に男たちの視線が彼女へと集まっている。

 しかし彼女が『妖精女王』だということを知っているのか、誰も近寄って来ない。


「ヒイロ~!」


 赤い髪の妖精――オルンが日色の顔に抱きついてくる。タイプ的にシロップと似ている奴だ。妖精の中では最も日色に懐いている。


「これオルン、あまり迷惑をかけてはいけませんよ」

「は~い! ねえねえヒイロ、遊ぶ? 遊ぶ?」

「はぁ、オルン。言っている傍からあなたは……」


 溜め息混じりに肩を少し竦めるニンニアッホ。


「お前らも祭りを堪能しに来たのか?」

「はい。これからヒメと一緒に《アウルム大博物館》を回る予定なのです」


 ヒメとは親友同士なので不思議ではないが、ヒメもまた美少女なので、さらに男たちの視線を釘付けにすることだろう。


「ほら、行きますよ、オルン」

「ええ~。ヒイロと一緒がいい! 一緒がいい!」


 ダダをこね始めるオルン。


「……別にコイツくらいなら面倒みるぞ」

「え? よいのですか?」

「ああ、どうせ言うこと聞かないだろ、コイツ」

「……申し訳ありません。ではお願いします。オルン、人様に迷惑かけてはダメですよ」

「は~い!」


 オルンがチョコンと日色の頭の上に乗ると、にこやかな笑顔でキョロキョロと周りを見ながら楽しみ始める。

 それからちょっとうるさい連れとともに、他の仲間たちと出会いながら日色は祭りを楽しんでいった。









 ――夜を迎え〝アウルム大祭〟が終わりに近づく。


 間違いなく大成功といえるだろう。これだけ多くの者たちが一堂に会し、何かを楽しむ姿はまさに奇跡の情景だ。

 そこには確かにまだわだかまりを抱えている者たちだっているだろう。しかし今回のことが良いきっかけにはなるはず。

 他種族のことを知り、同じ命を持ちそう違わない存在だということを理解できるだろう。


 それが日色やリリィンの希望するところだった。

 あと一時間ほどで祭りが終わる頃になると、皆の顔にも惜しみさが現れ始める。それだけこの一週間が実りのあるものだったということが分かった。


「――さて」


 今、日色は〝フープシュート大会〟を行った会場に一人で来ていた。無論リリィンの許可は取っている。

 これから行うことについても、だ。

 日色は右手の人差し指に魔力を集束していく。ポワッと青白い光が灯る。

 そのまま指を動かすと、闇を照らすように淡い光が空中に文字を形成していく。


『花火百発』


 今回、日色も十分に楽しめた。そしてそれは、ここに集まった者たちのお陰でもあることを理解している。

 だからこそ、最後に日色から皆へプレゼントといえば大げさかもしれないが、最後のシメとして何かをしてみたかったのだ。


「さあ行け――《文字魔法》」


 小さく呟くと同時に、空に刻まれた文字が眩い放電現象が起き、そこから光の塊が上空へと立ち昇って行く。


 ――パァァァァァンッと夜空に大きな花が咲いた。


 大きな音と光に気づいた者たちが、一様に足を止めて頭上を見上げる。中には何者かが攻めてきたのかと驚き声を上げていたが、次々と上がる美しい花火に次第に目を奪われて言葉を失っていた。

 そして日色が最後に何かをすると聞かされていたアノールドたちも空を見上げて頬を緩めている。


「……ヒイロの奴、粋なことしやがって」

「キレイだね、おじさん、ミミルちゃん」

「はい。とっても美しいですね、クーお姉さま」

「そうね、ミミル」


 色鮮やかな光の花に見惚れるアノールド、ミュア、ミミル、ククリアの四人。

 そしてこの場にいる日色の仲間たちもそれぞれ天を仰ぎながら感嘆の溜め息を溢していた。

 誰一人動かずに花火が終わるまでその場で立ち止まっている。


 ――最後の百発目がヒュ~ッという音とともに空高く翔け上がっていく。


 強烈な破裂音とともに、今までで一番の大輪を咲かせた。

 しばらくの静寂が続いた後、堰を切ったかのように歓声と拍手が鳴り響く。

 その喜びの音を会場で聞いていた日色はふぅと小さく息を吐いて空を見上げる。


(どうやら、上手くいったようだな)


 満足のいく締め括りができたようだ。

 そうして最高の盛り上がりの中――〝アウルム大祭〟は終わりを迎えた。








 ――翌日、【太陽の色】へ来ていた民たちが、それぞれの居場所へと帰って行った。

 イヴェアムやレッグルス、そしてジュドムたち各国の王たちも、仲間たちとともにそれぞれの国へ帰って行く。

 祭りは大成功に終わったが、まだ各国が……いや、種族が抱える問題がすべて解決したわけではない。王たちは国へと帰り、民たちのために何が一番ためになるか奮闘するのだ。


 繋いだ手を放さないように、そしてそれが今後もずっと続くように、と。

 日色は急に静かになった【太陽の色】の景色を、一番高い時計塔の上で見回しながら祭りの後というものを堪能していた。


「――いつの世も、祭りの後というのは寂しいものですね」

「…………何しに来たんだ、糸目野郎」


 いきなり現れたのは――ペビンだった。背中には美しいと思わせる六枚羽が生えている。ペビンはそれを消すと、ゆっくりと日色の隣に立つ。


「僕もこの一週間、思った以上に楽しめましたよ」

「それは良かったな。それで? そんなことを言いにわざわざ来たのか?」

「……実はある方からコレをヒイロくんに届けてほしいと頼まれまして」


 そう言って彼が手渡してきたのは小さく折り畳んだ一枚の紙。

 日色は「ある方?」と言いつつ受け取ると、訝しみながらも開いて中を確認した。


「――――っ! ……また面倒なことを」


 やれやれと思うような内容が書かれてあった。


「どうしますか? リリィンさんやイヴェアムさんたちにもお話した方が良いかと思いますが」

「いや、奴らは祭りの事後処理で忙しいしな」

「もしかしてお一人で? よろしければ僕が手の空いている方々に声をかけてみますが?」

「……どういう風の吹き回しだ?」


 絶対に何かを企んでいると察知する。何故ならペビンの醸し出す雰囲気が楽しそうだからだ。


「いえいえ、僕はただ面白いものが見たいだけですから。いやぁ、祭りが終わったと思ったら、すぐにこれです。やはり君の傍にいるのは面白いですね~」

「オレはお前の退屈処理係じゃないぞ」

「あ、それいいですね。ヒイロくんは僕の退屈処理係です」

「ふざけるな」

「ははは、ではいろいろ声をかけて回ってみるとしますか」


 そう言うと楽しそうに笑みを浮かべながらその場から去って行った。

 日色は相変わらず軽いペビンに対し溜め息を溢しながら、再度紙に視線を落とす。


「確かに、ホントに退屈しない世界だな、まったく」


 だがそれもまた楽しんでいる自分がいることに、日色は微かに頬を緩めた。






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