266:フープシュート大会2
「いやぁ、素晴らしい試合でしたね、クゼルさん!」
「そうですね、オリアさん。どちらも全力を尽くした良い闘いでした」
「それにしても、最後の攻防は見事でしたね」
「はい。残り数十秒の激闘でした。恐らく〝ストレングスレオン〟は、時間切れを待つために守備に尽力し、〝トロイリーベ〟は、十点を得るためにボールを回して攻撃の隙を窺っていた。そしてその瞬間がやってきました」
「ええ、しかしイヴェアム選手は他の仲間たちを封じられ孤立してしまっていましたね」
「それも〝ストレングスレオン〟の策だったのでしょう。そうすることで、イヴェアム選手一人だけに集中すればよくなりますから。ただ彼女の勢いだと、さすがに一枚の壁では突破される恐れがある」
「現にアノールド選手は抜かれちゃいましたからねぇ~」
「はい。ですがそれすらも読んでいたのでしょう。そのすぐ後ろには、すでにミュア選手が放った銀の粒子の壁が形成されていたのです。イヴェアム選手は、まんまとその粒子に捕まり力を奪われてしまう」
「その隙をついて、ミュア選手がボールを奪った。まさに作戦勝ちということですね」
「イヴェアム選手の攻めは確かに良かったですが、少し焦り過ぎてしまったということでしょう。もう少し周りが見えていれば、粒子に衝突する前に何かできたかもしれませんし。しかし彼女を焦らせ、かつ二枚の壁を配置していた〝ストレングスレオン〟の上手、だったといえるのでしょうね」
元々、〝ストレングスレオン〟は、攻撃よりも守備に強いチームだった。だからこそ、この終盤でそれが最も活かされたということだろう。
今、コートの中央では両チームが互いに顔を合わせて握手をしている。やはりそれぞれが気心知れている仲間ということもあり、全員がスッキリとした良い顔を見せていた。
「負けました、レッグルス王」
イヴェアムもまた、汗塗れの顔だが、爽やかに笑顔を浮かべている。
「いえ、こちらもギリギリでした。何とかユーヒットが機能してくれたお蔭です」
「そういえば、あれほどの切り札があるなら、もっと早く使ってもよろしかったのでは?」
「それができれば良かったのですが、そうもいかなくてですね」
「何か理由が?」
「もちろん。ですがそれは秘密にしておきましょう。またいずれ闘うかもしれませんからね」
「それもそうですね。次は負けませんよ」
「こちらもです」
両チームのキャプテンが固い握手を交わすと同時に、観客たちがさらに声を上げて鼓舞する。
「それでは両チーム、礼っ!」
「「「「ありがとうございましたっ!」」」」
シウバの掛け声に全員が頭を下げて声を張る。
※
一方、勝負の結果を控室で見届けていた日色は、楽しげに微笑を浮かべていた。
「ミュアたちが勝ったか」
「どちらが勝ってもおかしくはなかったな。〝ストレングスレオン〟の切り札が強烈過ぎたということだ」
リリィンの言う通り、勝負がどう転んでもおかしくはなかった。一進一退を繰り返し、会場を大いに湧かせた歴史に残る名勝負だっただろう。
(アクウィナスと闘えると楽しみにしていたが、それはまた今度におあずけになったな)
恐らく当人のアクウィナスも残念がってはいるだろうが、勝負の結果なのだから仕方ない。
「さて、次はワタシたちだ。ヒイロ、そろそろスタメンを発表しろ」
「ああ」
日色は控室にいるメンバーに身体ごと正面を向く。
「――まず最初は様子見として、攻撃2、防御4で試合運びをしていく。攻撃はオレとリリィンだ」
「任せておけ」
「守備は前衛と後衛に分けて配置させる。まず前衛の二人だが……ニッキ、ウィンカァ、お前らだ」
「ん……頑張る」
「やってやるですぞぉ!」
「そして後衛は、テン、レッカ、お前らだ」
「ウキキ! 楽しむさ~!」
「ち、父上! じ、自分なんかでよろしいのですか!?」
テンはやる気だが、レッカは明らかに動揺を見せている。
「当然だ。練習だって一緒にしてきただろうが」
「で、ですが今回、自分は不参加になるだろうって考えていたのですが……」
「オレは不参加にするなんて一つも言ってないぞ?」
「あ……」
「選ばれたからには全力でやれよ、レッカ」
「……っ! オッス!」
最初は自分が選ばれたことに呆けていたレッカだが、日色に認められたことが嬉しいのか笑顔を浮かべ、力強く返事をした。
「次にオレたちのフープの守護神だが――カミュ、頼めるか?」
「了解。全力で……守る」
「お前の砂の防御は強力だからな。頼んだ」
カミュの砂は自由自在で応用力も効く。また相手に対し攻撃することもできる万能さを持っているので、キーパーとしては最適だ。
「今回、初の大会だから、相手情報は何もない。どんなふうに闘うのか、どんな奴らがスタメンで出てくるのかハッキリとしたものは何一つない。けど、オレたちはどんな奴らが相手だろうと負けるつもりなど毛頭ない。初大会の優勝チームという称号はオレたちがもらうぞ!」
『人間族』、『獣人族』、『魔族』、『精霊族』、すべての種族の血を引く者たちの混合チームがここに集結した。
今、コートの上では二組の選手たちが顔を突き合わせている。
まだ試合は始まっていないが、特に互いのチームキャプテンであるリリィンとジュドムからは凄まじい威圧感が放たれていた。
「負けねえぜ、リリィン?」
「フン、《衝撃王》という名を本日失墜させてやろう」
互いのキャプテンはともに豪気な性格で負けず嫌いだ。こうなるのも当然だが……。
「おいリリィン、一人で突っ走ったりするなよ?」
「分かっておるわ、ヒイロ」
日色が窘める。
「ジュドム殿も落ち着くでござるよ」
「落ち着いてるっての」
ジュドムを諌めるのは人間の冒険者の中で三人存在すると言われているSSSランクの一人であるタチバナ・マースティルだ。
そのままタチバナの視線がウィンカァへと向く。
「まさかお主と闘うことになるとは、実に楽しみでござるよ」
「ん……ウイも。だから全力で、いく」
タチバナはウィンカァの師匠だ。今回チームとしては敵対することになったが、ウィンカァはタチバナのことを慕っており、タチバナもまたウィンカァのことを大切にしている。
今回師弟対決といった形でも見応えがあるかもしれない。
「両チーム、準備はよろしいですかな?」
両チームを挟んで立つ審判のシウバ。その手にはボールを持つ。
「ではこれから〝イノセントムーン〟と〝ジェントルブレイヴ〟の試合を始めさせて頂きたいと思います!」
互いに健闘を称えるかのように「お願いします!」と声を揃える日色たち。
そしてそれぞれがポジションについていき、中央には日色とジュドムが残る。
「ほう、やはりアンタが“コンジキ”だったか」
「そういうお前も、やはりといったところだな」
日色とジュドムの額には、それぞれ黄金の鉢巻が巻かれてあった。
「スポーツだが、こうして闘えるのは楽しみだな、おい」
「どうもオレの周りの連中は戦闘狂ばかりいやがるな」
「ワハハ! 違えねえやな! けど俺が集めた面子も結構なもんだぜ?」
「……確かにな」
相手のスタメンを確認して驚愕した。
そこにはともに『神族』を倒した、元『神族』のペビンやシリウスがいたのだから。
「まさかあの連中を抱き込んでたとはな。反則じゃないか?」
「よく言うぜ。お前のチームだって反則過ぎんだろうが。お前やリリィンだけでも規格外だってのによ」
「だが制限がかかってるのは知ってるだろうが」
「まあな」
日色は視線をチラリとジュドムが集めたメンバーたちに視線を向ける。
そこにはこの世界に来る前に見知っている連中の顔もあった。
「ところで、思い切ったことをしたものだな。勇者の連中まで使うとは」
視線の先にいるのは、日色と同じ日本からの召喚者である、勇者の四人組だ。その中の一人である青山大志に視線を合わせると、彼は日色と目が合ってもすぐに逸らした。
他の三人はともかく、彼が行ったことはそう簡単に赦されてはいけないものだ。あのアヴォロスの仲間で、【獣王国・パシオン】のシンボルである《始まりの樹・アラゴルン》を破壊し、かつての【人間国・ヴィクトリアス】では、王女リリスを誘拐したという前科もある人物だ。
日色との戦いで何とか狂人化した大志は元に戻ったが、それでも彼が自分の意志で行っていたことは事実であり、多くの人を殺しもした。
「ハハハ。確かにアイツ――タイシのやっちまったことは償いきれねえことだろうな。けどよぉ、お前は知らねえだろうが、アイツも……いや、アイツらもこの二年間、必死で頑張って来たんだぜ。石を投げられ唾を吐きかけられても、【イデア】のために尽力してくれた。そしてそれを見ていた者たちは確かにいるんだ。俺もその一人だな」
「…………」
「弱音なんて一切吐かずにやってきたアイツらにも報われていい部分はあると考えた」
「甘い王だな」
「ハハ、お前と一緒でな」
「……オレは王じゃないぞ」
「甘いのは認めんだな」
「…………」
確かに数年前の日色と比べると別人のように甘くなったと自分でも思うので反論ができない。
「まだまだタイシを認めてねえ奴らは多いが、今回のことは良いきっかけになればって思ってな。もちろん一生認められねえかもしれねえし、実際この試合が終わったら反響とかすげえとは思う。何であんな連中をチームに入れたんだってな」
今でも確実に大志に恨みを持っている者はいるだろうし、当然の反応だろう。
「勇者を庇ってるってことで、アンタの立場も悪くなるかもしれないぞ?」
「そんなことどうでもいいんだ。俺はな、ヒイロ。自分を変えてぇって奴を支持してやりてえだけなんだ。王としても、人としてもな」
やはりジュドムという男は器が広い。確かに人々を治める王としては許されない発言だろうし、行動も自重するべきだろう。
しかし日色はこういう男が王として国を治めるべきだと思っている。
人を見て判断する。
それは日色も重視していること。噂や過去に踊らされず、現在を見つめる。無論過去なども蔑にはできないが、それでも優先するべきは“今”だと思う。
ジュドムは未来を見つめている。大志をここに立たせることで、未来には価値が存在すると考えているのだ。
(……甘いが、嫌いじゃない考え方かも、な)
見れば、勇者たちは真剣な眼差しで前を見据えている。
その表情だけで、この二年間で積み重ねた経験を感じさせた。
一言――強くなった。そう感じた。
特に大志はいつもどこか頼りない雰囲気を醸し出していたが、様々なことを経験して成長しているようだ。
「…………面白い。だがこの試合で勝つのは――オレらだ」
「ワハハ! やってみろ、小童!」
シウバがホイッスルと同時にボールを天高く放り投げた。
〝イノセントムーン〟VS〝ジェントルブレイヴ〟の試合が今始まった。
高々と上がったボールに、日色とジュドムがジャンプをして手を伸ばす。およそ常人の垂直跳びとはかけ離れた距離を跳ぶ二人の跳躍力に、観客たちが目を見張る。
勢いがほぼ互角。若干日色が身長の関係で不利だ。
しかし日色には――アレがある。
右手の人差し指に青白い魔力を宿した日色は、素早く動かして文字を形成した。
書いた文字は――『速』。
発動した瞬間、ググンッとスピードが増し、ジュドムを抜いて前に出る日色。
(よしっ、もらった!)
と思って、もう少しでボールに手が触れると思われた瞬間、ボールが何かに弾かれたようにさらに上空へと上がる。
「んなっ!?」
「――させねえよ、ヒイロ」
見れば、下にいるジュドムが右手をボールに向けてかざしていた。
(コイツ、衝撃波でボールを!)
日色に捕らせないために衝撃波を下からボール目掛けてぶつけて距離を稼いだのだ。
「だがそれは悪手だ。お前はこれ以上跳べないだろう!」
日色は『飛』の文字を使って、勢いの落ちてきた速度を復活させボールを追う。
ジュドムは垂直跳びの限界に達しているようで、すでに失速が終わり落下しそうになっている。ボールはまだ上空。これで邪魔者がいなくなり、日色は簡単にボールを捕獲できる。
しかし安心したのも束の間、ジュドムがニヤリと笑みを浮かべると、彼の足元からボフッと鈍い爆発音のようなものが響いた。
するとジュドムがその場からさらに上空へと跳び上がる。あっという間に日色を追い抜いて、ボールをその手に掴んだ。
「っ!?」
当然もう手段がなくなったと判断していた日色は虚を突かれる。舌打ちをしながら、ボールを持って空中を移動する彼の足元に注目した。
(くっ……! あれは衝撃波を足から放って、その推進力で空を移動してやがるのか!)
原理はテンが行う魔力爆発移動に似ている。
さらに驚くことに、ジュドムが単身でそのまま空からフープへと突っ込んでいく。
「このまま点まで取るつもりか!?」
日色も追うが、ジュドムの速度の方が速い。
そして空から日色側のフープ目掛けて、
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
目一杯ボールを投げつけたジュドム。空気を切り裂くボールの勢いは激しく、失速することなくフープへと直行する。
このまま先制点は〝ジェントルブレイヴ〟だと思われた……が、ボールの前方に突如として現れた砂の塊。
その塊が姿を変えて巨大グローブのようなものへと変化を遂げた。そしてボールを見事、受け止めることに成功する。
上空のジュドムは「ちぃ」と舌打ちをしてから、自陣コートへと戻って行く。
日色はフープを死守してくれたカミュの傍へと降り立つ。
「よくやったぞ、カミュ」
「うん……当然」
えっへんといった感じで軽く胸を張るカミュ。
「フープは……守る。だから……頑張って」
カミュからボールを受け取ると、日色は「ああ」と返事をした。そのまま今度はジュドム側のフープを睨みつける。
「よし、今度はこっちから攻めてやるっ!」
日色は同じ攻撃ポジションのリリィンにボールをパスする。彼女は受け取ると、そのまま相手コート内に侵入し、
「フン、先程の礼はきっちり返さねばな!」
リリィンを止めるべく壁役となった勇者の一人である赤森しのぶをあっさりと抜いてフープへと接近していく。
しかししのぶを抜いた瞬間、眼前に小さな光の粒が幾つも浮いており、それに囲まれていることをリリィンは知る。
すると光の粒たちが一斉に弾けると、眩い光がリリィンを包み込む。
「くっ、小癪な!」
「へへへ、そう簡単に抜かせへんよ!」
しのぶはわざと抜かせて、その背後に光魔法を用意していたらしい。これは侮り過ぎていたリリィンの落ち度だろう。
「ナイスッ! しのぶ!」
しのぶのプレーに称賛の声を送るのは鈴宮千佳だ。彼女も勇者の一人。
動きが止まったリリィンが持つボールに、しのぶの手が迫る。しかし刹那、ボールから『送』の文字が浮き出て、リリィンの手から瞬時に消えた。
「なんやてっ!?」
ボールが再び現れたのは――日色の手の中だ。
(保険として文字を設置しておいて良かったな)
実はリリィンにパスする前に、《設置文字》を使って文字をボールに設置しておいたのだ。
「ああもう! 丘村っちの魔法、やっぱズルいやんっ!」
しのぶの嘆きは無視して、今度は日色が相手フープへと向かう。その先にはジュドムが待ち構えている。
「通さねえぞ、ヒイロ!」
「ならお前ごとフープに叩きつけてやるっ!」
日色はボールを脇に挟み、両手をパンと合掌する。
「――《太赤纏》っ!」
赤いオーラが日色の身体を覆う。そのオーラを右拳に集中させて、狙いを左手に持ち替えたボールに定める。
「くらえっ! 《太赤砲》っ!」
本来なら《赤気》で作り上げた球体を殴って放つ技であり、その威力は絶大。
《赤気》を纏ったボールが、真っ直ぐジュドムへと飛んでいく。これは生半可な力では止められないはず。たとえ壁となって受け止めても、そのまま吹き飛ばされるのがオチだ。
しかしジュドムは仁王立ちのまま、向かってくるボールに意識を集中させている。やはり受け止めるつもりのようだ。
ジュドムは黄色いオーラを身体から溢れ出させ、それを両手へと集束させる。そのまま日色のようにパンッと合掌し、
「――《烈・拍手掌》っ!」
叩かれた両手から周囲に向かって衝撃の波紋が広がる。その衝撃波がボールを阻むと、まるで鎬を削るかのようにギリギリとぶつかり合っていた。
しかしボールの方が勢いは強く、衝撃波をぶち破ると、そのままジュドム目掛けて突っ込んでいく。ジュドムは捕球の体勢を整えボールを両手をキャッチする。
ボールの勢いにジュドムは後方へと、そのままの格好で押されていく。
当初、日色の目論見はジュドムをあっさり吹き飛ばすか、そのままジュドムごとフープへ叩き込む考えだったのだが……。
「…………止めやがった、か」
数メートルほど後方へ押されたが、ジュドムは見事にボールを手放さずに捕球に成功していた。
(あの衝撃波で勢いを弱められたのが痛かったな)
恐らくジュドムも衝撃波だけで止められるとは思っていなかったのだろう。ただそれでもボールの勢いは削ぐことができる。そして勢いが弱まったボールならば止められると考えたのかもしれない。
「うっしゃあぁぁぁっ!」
ジュドムが拳を高く突き上げて咆哮すると、それに応えるように人間の観客たちが大いに湧く。彼のチームメンバーたちも同様だ。
「見事でござるよ、ジュドム殿!」
「さすがはジュドム様やで!」
「そうだな。俺も頑張らなくちゃ!」
「そうね、大志。丘村になんか負けてられないわよ!」
「そうでなくては、英雄ヒイロくんには勝てませんしね」
「うむ、それでこそ我らのキャプテンだな」
タチバナ、しのぶ、大志、千佳、ペビン、そしてシリウスがそれぞれ言葉を送る。また補欠だがもう一人の勇者である皆本朱里と、国軍隊長のウェル・キンブルがベンチで声援を送っていた。
「よーし、反撃開始だ!」
ジュドムたちの攻撃が始まる――。
前半が開始してすでに五分。しかしいまだに両チームとも得点はできていない。
どちらも最初は様子見といった思惑が強く、ディフェンス中心の動きなので、なかなか得点に繋がらないのである。
何度か攻守が逆転しては、また無得点時間が続く。
そんな中、さすがにそろそろ得点しなければと思い、日色が守備メインだったフォーメーションを変更した。ボールは日色の足元に置いてある。
持ち続けられるのは、十秒なので手放しているのだ。無論ジュドムたちが奪いにこないか警戒はしている。
「いいか、これから前半終了まで攻撃4の守備2でいく。攻撃は引き続きオレとリリィンに加えて、ニッキとウィンカァ、お前らだ」
「任せるですぞっ!」
「ん……やる」
やる気に目を光らせる二人。
「テン、レッカ、お前らも隙があれば攻めろ。守備はあまり考えるな。まずは初得点を得るのが先決だ」
「ウキキ、オッケーさ!」
「オッス! 全力でやります!」
日色はボールを拾い上げ、相手コート内へと走る。その後ろにリリィンたちがついてきた。
日色の前方には、ジュドムが立ちはだかっている。ジュドムを相手していると時間が必要以上にかかってしまう。ここは……。
「――リリィン!」
彼女へとボールを投げ渡す。リリィンは受け取ると、彼女の侵攻を阻もうとするしのぶと目を合わせる。
「少し大人しくしていろ!」
「し、しもたっ!?」
リリィンの《幻夢魔法》。今大会では、目を合わせることだけでしか発動は許されていないが、見事しのぶを幻術にハメることができた。
しのぶは足元から伸びた蔦により全身を絡め取られて拘束されてしまう。もちろんこれはしのぶだけに見えている幻だ。
リリィンはしのぶの脇を通り抜けるとすぐにボールを左サイドにいるニッキへとパスする。
しかしそのパスを読んでいたのか、シリウスが物凄い速度で突っ込んできてボールへと手を伸ばす。
「にょわっ!? させないですぞっ!」
シリウスの動きに気づいたニッキが、慌ててボールへと走る。何とかニッキが先にボールを手にしたものの、彼女の目前にはまるで壁のように立つシリウスがいた。
「……さあ、ボールを頂こうか」
「うぬぬ……大きいですぞ」
シリウスの醸し出す存在感に、ニッキが後ずさりした。さすがはかつて日色パーティを追い詰めただけはある。その威圧感だけで並みの者なら戦闘意志が削がれるだろう。
「ニッキ、こっちっ!」
「!? ウイ殿! お任せしましたですぞ!」
大きくジャンプをしてニッキを跳び越えようとしているウィンカァに向かってボールを投げ、彼女はしっかりとボールを掴むと、そのままシリウスも越えてフープへ駆け抜ける。
「「――させないっ!」」
だがウィンカァの行く手を阻む壁はまだあった。
大志と千佳のコンビが二人でウィンカァに挑む。
「ん……その程度、何てことない」
ウィンカァのスピードは、二人とは格が違うようで、あっさりと二人は抜かれてしまう。
ただ大志たちもそれで終わりではなかった。
「「ライトバンテージッ!」」
二人の手から伸び出た閃光が、背後からウィンカァに迫っていく。
ただウィンカァもそれに気づき、ジャンプして回避する。
「――空中では身動きがとれんでござろう」
さらにウィンカァの上から声が降ってくる。
「――お師さんっ!?」
初めてウィンカァの表情に焦りの色が映し出された。
「ボールは頂くでござるよ、ウイ!」
「くっ!」
しかしそこでボールにまた『送』の文字が浮かび上がり、瞬時にボールは消失してしまう。
「っ!? またでござるか! ジュドム殿、そっちに行ったでござるよ!」
タチバナは、また日色がボールを手に入れたと思ったのだろう。しかし……。
何故かジュドムがマークする日色は涼しげな表情のまま、ただ突っ立っているだけだった。
日色はニヤリと笑みを浮かべる。
「あいにくだったな。あの文字は別にオレだけに送る効果しかないわけじゃない」
ボールを『送』の文字で送った先は――
「ウッキキッ! もらったぜっ!」
いつの間にか誰よりもフープに近づいていたテンの右手にボールは握られてあった。すでに投球のフォームになっている。フープは目の前。
テンから放たれたボールが真っ直ぐフープへと迫っていく。
これで初得点がようやく目にできると思われた瞬間――。
ボールの下から青白い波紋が広がり、その波紋がボールと触れた直後、ボールを消失させた。
「んなっ!?」
当然得点を確信していたテンは驚愕する……が、すぐにその原因に辿り着く。
「お、お前か――ペビンッ!」
テンの眼下には、不敵に笑みを浮かべながら、その手にボールを持っているペビンがいた。
「やれやれ、そう簡単に僕から点を奪えると思わないでほしいものですね」
ペビンの力――《強奪のクドラ》。先の波紋に触れたものは、瞬時にしてペビンに奪われてしまうのだ。それが魔力でも人間の身体でも。そしてボールでも、だ。
「よくやったペビンッ! ボールを回せっ!」
ジュドムはすでに駆け出していた。その彼に向かってボールがペビンから放たれる。パスの延長線上には誰もいない。真っ直ぐジュドムのもとへ――と思われたが、何もないところに突然網が出現し、ボールはその網によって動きを止めてしまう。
「っ!?」
ジュドム側が同時に驚きに染まる。
ボールがある地点から少し離れた場所に位置して右手をかざしていた人物がいた。
「よくやった、レッカ!」
「オッス!」
そう、レッカの《創造魔法》によって創り出された網によってボールを止めたのだ。
「くっ、守備陣までこっちに来させてたのか!?」
ジュドムの言う通り、今、日色側のコートには、キーパー役のカミュしかいない。もしカウンターでも受けたら終わりだ。しかし日色はそれでも先制点を得ることに固執した。
日色はすぐにボールを拾いペビンへと肉薄していく。
「いくら《太赤纏》状態のヒイロくんでも、僕の《クドラ》からは逃げられませんよ」
再びペビンから放たれる波紋。
しかし――日色は笑う。
「――ここまで来れば、オレの勝ちだ糸目野郎」
「っ!?」
刹那――日色の姿が掻き消えた。
「ど、どこですっ!?」
「ここだっ!」
現れたのはペビンの背後。
日色は最後の壁をクリアし、そして――。
14 対 0
――――得点が表示された。
見事、日色がボールをフープの中に通したのだ。表示得点は――“7”。しかし“コンジキ”である日色が得点したので、その倍の点数を得たというわけである。
試合が始まって約十分。ようやく点が動いた瞬間だった。
日色が点を取ったことで観客たちの歓声と応援がさらにヒートアップする。〝イノセントムーン〟のメンバーたちもそれぞれ喜びを表情や身体で表現していた。
そんな中、〝ジェントルブレイヴ〟のフープの近くに立つ日色に、ペビンが声をかけてくる。
「やはり君の魔法は反則だと思うのですが」
「これでも一文字魔法しか使ってないんだぞ。効果範囲だって限られてるしな」
ペビンと相対した時、日色は『送』の文字を自分に発動させて、ペビンの背後へと送った。
ならこれを最初から自陣コート内にいる時にやれば一瞬でフープ近くに飛んでこれたのではと思われるだろうが、一文字魔法には効果範囲が設定されているのでそう簡単にはいかない。
大体文字を中心とした直径七メートル程度の場所までしか効果を引き延ばせないのだ。
これが『転移』の文字ならば距離の問題は消失するのだが。
「しかし文字を設置するのは些かズルいのでは?」
「おいおい、これでも《赤気文字》や《釈迦金気文字》は使わないって決めてるんだから、それくらい認めてもらいたいな」
同じ一文字でも、それらを使って文字を発動すれば効果範囲の制限も意味をなさなくなってくるのだ。
「ふぅ、つくづく思いますよ。さすがは神の魔法だと」
「悔しいなら、取り返してみろよ。できるならな」
明らかな挑発を受けるペビンだが、元々感情の起伏が小さいペビンはやれやれといった感じで肩を竦めるだけだが……。
「ぬおぉぉぉっ! ヒイロッ! ぜってえ取り返してやるからなぁっ!」
話を聞いていたのか、ジュドムのやる気が異常に盛り上がり始めている。
(……そうこなくちゃな)
せっかくだから全力の相手と闘いたいと思う。
まだまだ勝負はこれからだ。
※
一方その頃、一足早く試合が終わったミュアやアノールドたちは、自身の控室……ではなく、観客席で直接日色たちの試合を観戦していた。
自分たちの試合が終わって完全にリラックスムードのようで、手には飲み物を持って席に腰を落ち着かせている。
一応選手用に用意されている席なので、周りにもミュアたちの知り合いが連なっている。
「うわぁ、や~っぱヒイロの魔法は卑怯だわぁ」
「ふふ、そうだね、おじさん」
「ですが、制限がかけられている中で、さすがはヒイロさまです!」
ミュアの隣に座るミミルもまた、日色が得点したことに喜んでいる。
「このどちらか勝ったチームが、決勝で俺たちとやるんだよな」
「うん、明日ね」
「ミュアとミミル様はどっちが勝つと思う?」
アノールドの問いに、二人の少女は「う~ん」と唸る。
「……わたしは……ヒイロさんに勝ってほしいかな」
「ミミルも……です」
「はは、予想通りの答えだったなぁ」
どうやらアノールドも彼女たちがどう答えるかおよそ見当がついていたようだ。
「けどまだ勝負はこれからだし、ジュドムさんもこのまま黙ってるわけがねえ」
「そうだね。勇者の人たちだけじゃなくて、シリウスさんやペビンさんもいるしね」
「特にシリウスさんは身体能力でいえば、恐らくこの中で誰よりも上に立つ存在だと思います」
ミミルの言う通り、彼と戦ったことのあるミュアたちは、シリウスの強さを嫌というほど熟知している。
彼の持つ《活性のクドラ》はまだ使用されていない。それを使えば――
「あっ、噂をしてたら使うようだぜ!」
アノールドがシリウスを指差す。
ボールは彼が持っており、徐々に彼の身体が赤く変色していく。
爆発的に膨れ上がる力の奔流に、ボールを奪おうとしたニッキが吹き飛ばされてしまっていた。
恐らくシリウスを中心に〝ジェントルブレイヴ〟は攻めを開始するだろうことは想像に難くない。
日色は『鎮』の文字をシリウスに向けて放つが、凄まじい速度で動くシリウスをなかなか捉えることができないでいる。
「多分今のヒイロの魔法、シリウスの力を削ぐためのものだろうな」
「う、うん。けど文字の速さよりも、シリウスさんの動きの方が速い」
「こうして遠くで見ていると、異常ともいえる速度ですね」
「へへ、さすがは元『神族』ってことだな。あのペビンにしたって、《強奪のクドラ》なんつう馬鹿げた能力持ってやがるしよ」
そもそもただでさえ身体能力が高い『神族』。その上に稀有な異能を宿しているので、それはもう出し抜くのは困難を極めること間違いない。
そしてシリウスがそのまま日色側のフープへと突っ込んで、カミュの砂の防御を蹴りを放ち力づくで打ち破って見事に得点した。
幻術を使えるリリィンも、シリウスと目を合わせることすらできない速度で彼が動くので空振りに終わっているようだ。
「段々面白くなってきたな」
「うん、どっちも凄いよ!」
「ヒイロさまぁぁぁっ、頑張ってくださぁぁぁいっ!」
ミミルは必死に日色に声援を送り、それに触発されたようにミュアや、近くに座っているクロウチなども日色の応援をし始めた。
※
シリウスの活躍により、〝ジェントルブレイヴ〟の猛攻が始まり得点を許してしまっている〝イノセントムーン〟。
日色たちも魔法を駆使して点を何とか返すが、総合的に攻めの回数や得点率は、明らかにジュドムたちの方が上だった。
そして前半戦終了のホイッスルが鳴る。
25 対 41
先制点は奪取できたものの、気づけば大差をつけられ敗北の道の上を歩いてしまっていた。
ベンチに帰った日色たちは、とりあえずシリウス対策が必要だと考え話し合うことにする。
「やはりとんでもない身体能力だ。並みの魔法や《化装術》での防御も、肉体一つで突破してくる。奴を何とかしない限り、このまま点差が広がるばかりだろうな」
「ヒイロの言う通りだが、どうする? 一応制限がかけられており、《活性のクドラ》は二段階までしか使えないようにしてはいるが、まだ一段階目。さらに上があるんだぞ?」
リリィンが腕を組みながら心配を口にする。
日色やリリィンと同じように、シリウスもまた能力に制限をかけられてはいるが、《クドラ》を使わずともジュドムとタメを張るような肉体を持つシリウスが、さらにパワーアップできるのだから、つい不安が押し寄せて心配事を口にするのも無理はない。
「オレが文字を重ねがけをすれば、今のシリウスなら止められるだろうが、さらに一段階上になられるとしんどいかもな」
「ならどうする?」
「…………リリィン、これからポジションを大幅変更する」
「何?」
「オレとニッキ、そしてウィンカァは後ろへ下がり防御に徹する」
「大丈夫なのか?」
「オレに考えがある。だから攻撃はリリィンと、レッカ、そしてテンに任せる」
「……貴様に考えがあるのならそれでいい」
「もう一点もやらん。すべての攻撃は、オレら三人……いや、四人で止める」
チラッとカミュの存在を視界に入れると、彼もまたコクッと頷きを見せた。
(点差は十六点。結構大きいが、まだまだ挽回できる。これからだ)
※
一方、前半を優勢で追えた〝ジェントルブレイヴ〟のベンチは笑顔に溢れていた。
それはやはり最強と思われていた〝イノセントムーン〟相手に善戦どころか勝ち越している事実に誰もが喜びを得ていたからだろう。
「よし! この調子で後半も持ち上がっていこうぜ!」
ジュドムが両拳を固く握りながらチームメイト全員の顔を見回す。
「そうですね。確かに今のところはこちらに分がありますが、相手はあの英雄たち。このまま大人しくしているわけがないですよ? 恐らくシリウスさんの対策も万全にこなしてくるでしょう」
「そのようなことは分かっている、ペビン。だが私とて、まだまだ力を温存しているのだ。いくら英雄が相手だからといっても、能力が多大に制限されている以上、負ける道理はない」
「さっすがシリウスさんや! 頼もしいで!」
しのぶが嬉々とした笑顔を浮かべる。
「けど、ペビンの言った通り、あの丘村が大人しいままで終わるわけがないし、ジュドムさん、何か考えがありますか?」
大志の言葉にジュドムはニカッと笑みを浮かべてグーサインを出し、
「そんなもん、ねえ!」
「……へ?」
「俺たちはただ真正面からぶつかり、正々堂々と勝つ! それが〝ジェントルブレイヴ〟の誇りだ! 敵が何をしてこようが関係ねえ! このまま全力で突っ走る、それだけだ!」
およそ王の発言とは思えないが、何故か彼が口にすると不思議な説得力がある。言葉に力があるというか、元気を皆に与えるような力強さを感じるのだ。
「そうね。守りは性に合わないわ。攻めて攻めて勝ちましょうよ!」
「そうだな、千佳。俺たちはただ全力でやればいい!」
「その通りや! 丘村っちに、ウチらの強さを見せつけてやるで!」
「頑張ってくださいね、皆さん! 私も精一杯応援しますから!」
最後に皆に声援を送る朱里の笑顔に、大志たちも笑顔で応える。
その時、休憩終了のブザーが鳴り響く。
「うしっ、んじゃ最後まで踏ん張るぞっ!」
「「「「おおっ!」」」」
後半戦が始まる――。
※
後半戦が始まってすぐ、ジュドムたちは予想だにしなかった日色たちのフォーメーションに度肝を抜かれていた。
今まで攻撃を担当していた日色、ニッキ、ウィンカァを自陣コートから一切動かさずに守りを固めているからだ。
点差で負けているというのに、守りに入る姿に疑問を持っているのだろう。
ボールはリリィンが持ち、日色たちの代わりに攻撃へと上がって来たテンとレッカ。
するとレッカが魔法によってジュドム側全員の目の前に土の壁を創り上げる。すぐ回り込んで土壁を良ければどうということはないが、ジュドムたちは一瞬だが視界を閉ざされてしまったことも確実。
その一瞬の隙をつき、リリィンの姿が全員の視界から消えてしまっていた。
「――こっちだっ!」
突如上空からリリィンの声が降って来て、ほとんど反射的に全員が上を見上げ、空中に浮いているリリィンの姿を捉える。
しかしそれはリリィンの企みを完遂させることに繋がった。
今までジュドム側は、極力リリィンと距離を取って目を合わせないようにしていたのだが、咄嗟に彼女を視界に入れその目を見つめてしまったのだ。
刹那、彼女の目を見てしまった者たちの動きがピタリと止まる。
リリィンの《幻夢魔法》の虜になってしまったのだ。無事なのは――
「――やはり貴様だけは用心してこちらを見なかったか、ペビンッ!」
リリィンが上空で叫ぶように言う。
「あなたが何かをしそうだったのでね」
「しかしこれでしばらく連中の動きは止めた。後は貴様だけだ!」
「それはどうでしょうか?」
糸目がうっすらと開かれ、ペビンが両腕をさっと振るう。そこから生み出された波紋が、彼の近くで身動きを奪われている大志と千佳、そしてしのぶの身体に触れる。
直後、虚ろだった大志たちの瞳に光が戻ってしまった。
「ちィッ! 《強奪のクドラ》でワタシの力を奪ったのか!? 厄介な!」
「リリィン、こっちにボールを!」
テンが前線にいるジュドムとシリウスの脇を通り抜けて手を上げる。リリィンは空から彼にボールを投げ渡し、テンはそのままボールを受け取るとディフェンスの大志たちへと突っ込んでいく。
「と、止めるぞ、千佳、しのぶ!」
大志の言葉に千佳たちも身構えるが、
「止められるもんなら止めてみなっての!」
テンの姿がブレたと思ったら、何十人ものテンに分裂し始めた。
「う、嘘ぉっ!?」
「ちょ、大志、これどうすればいいのよ!」
「あ、あかんっ! ボールはどこや!」
三人はテンに翻弄されて、本物のテンを見抜けないでいた。その間にテンは三人を抜き、フープを守るペビンへと接近する。
「あいにくですが、僕にはそのような技は効きませんよ?」
再び右手を振って波紋を広げるペビン。分裂体が次々と掻き消えて行く。テンの分裂体は魔力で構成されているので、その魔力を奪われると姿を維持できないのだ。
「いきなさい、《絶》!」
ペビンの指から放たれる糸。それはまるで自由意志を持っているかのように動き、本物だと思われるテンの身体に巻き付いて拘束した。
「ぬわっ!? く、くっそぉ!」
「さあ、ボールを……?」
「ウキキ……ボールがどうしたって?」
テンが愉快気に口角を上げる。彼んぼ手の中にボールが見当たらない。
「ま、まさか!?」
咄嗟にペビンが上空に浮かぶリリィンに視線を向ける。しかし彼女の手の中にもボールは確認できなかった。
するとその時、テンの脇から小さな人影がサッと躍り出て、すぐさまペビンを通り過ぎフープへと向かう。
それは――レッカだった。
虚を突かれてペビンも彼の対応ができずにいた。邪魔者がいなくなったフープにボールを通過させるのは至極簡単なこと。
レッカは分裂時にテンから受け取ったボールを、力一杯投げつけてフープを通過させることに成功した。
表示得点は――“5”。
30 対 41
まだ劣勢は続いているが、後半戦の先取点は見事レッカが収めた。
すぐにボールは中央ラインまで持ってこられて、〝ジェントルブレイヴ〟側のターンから始まる。
「くそ、やられたな」
「落ち着くでござるよ。点を取られたなら取り返せばいいだけでござる」
悔しげに言葉を絞り出すジュドムに対し、タチバナは冷静だ。
「シリウス殿、お主にまた任せてもよいでござるかな?」
「うむ、任せておけ」
今までシリウスの攻めはすべて成功しているので、やはりジュドムは彼を中心に攻めてくるようだ。
ジュドム、タチバナ、シリウスが攻撃で、残りは守備といった三対三の形。バランスが良く、基本的な陣形だ。
それに対し、日色側も同様に三対三の陣を組んでいる。しかし今までは、その陣形でもシリウスに突破されていた。
ただ後半戦から面子が変わっただけ。
ジュドムたちは三人でボールを回しながらゆっくりと歩を進めていく。
確かにシリウスは注意すべき人物だが、他の二人だって十分に放置するのは危険な能力を持っている。この布陣を破るには、生半可な策だけではこなせないだろう。
まずはボールを奪うために、テン、レッカがジュドムとタチバナをマークし始める。
ジュドムは目の前に壁として彼らが現れる前にシリウスへとボールを渡した。
「――《第一活性・プリームム》」
シリウスは自身の《活性のクドラ》を使用し、身体能力を大幅に向上させた。しかしテンたちはシリウスを追わず、ジュドムとタチバナの前進を防ぐことだけに意識を集中させている。
そしてジュドムは驚愕すべき光景を目にする。
「バ、バカな……っ!? こ、これは――」
ジュドムの目線の先にいるのはシリウスなのだが、そのシリウスの前に立ち塞がる者たち。
「まさか三人でシリウスを止めるつもりか!?」
そう、今、日色とウィンカァ、ニッキの三人は、シリウスを取り囲んでいた。さらに言えば、三人ともが――
「「「――《太赤纏》っ!」」」
赤きオーラを纏う。三人のオーラが結集して、シリウスを赤い壁が行く手を阻んでいた。
「くっ!」
さすがのシリウスも、《赤気》を纏った三人のプレッシャーに足を止めざるを得ないようだ。シリウスがタチバナに向けてパスしようとするが、
「させるか!」
日色が身体でパスコースを塞ぐ。それになまじパスを出せても、タチバナをマークしているレッカの動きが鋭くてパスカットされてしまう恐れが強い。
ならばジュドムへとシリウスの視線が向くが、タチバナ同様にテンの執拗なマークが外れない。
「させないですぞ!」
ニッキのプレッシャーも日色に負けず強い。
そうこうしているうちに、3……2……1……。
ホイッスルが鳴らされる。個人でボールを所持し続けることができる時間は十秒である。それを超過してしまい、ボールは〝イノセントムーン〟へと移った。
シウバが一度ボールを手に取ってから、日色へと手渡す。
シリウスは悔しそうに歯噛みし、自陣コートへと戻っていく。
(ふぅ、何とか上手くいったな。さすがにアイツでも三人相手じゃ突破するのは難しいだろう)
これが日色の立てた作戦だった。日色たち《太赤纏》を使える三人が壁役となって、シリウスを止める。攻撃力は激減するが、これ以上点を取られないための方策だった。
(この様子なら、たとえ《第二活性》をされてもある程度は大丈夫だろう。だが問題はまだある)
確かにシリウスは抑えたし、ジュドムやタチバナもレッカとテンで何とかできるが、相手の守備役――大志たちが上がってきたら対応が困難である。
何せ彼らを止める駒がないのだから。
「ヒイロ……大丈夫」
「……カミュ?」
後ろから声をかけてきたので、日色は振り向く。
「勇者たちの攻撃は……俺が……止める」
「……任せてもいいか?」
「うん……信じて」
「分かった、頼むぞ」
日色に頼られているからか、カミュの瞳はメラメラとやる気の炎で燃えていた。
「よし! 今度は攻撃だ! 気を抜かず行くぞっ!」
※
「いやぁ~前半戦、素晴らしい勝負を繰り広げてくださいましたね! どうでしたか、クゼルさん!」
実況のオリアが隣に座る解説のクゼルに視線を向ける。
「そうですね。互いに守備能力が非常に高いチームなので、もしかしたら得点はあまりここから動かないかもしれませんね」
「確かに。特に〝イノセントムーン〟の《太赤纏》三連発には驚きましたね!」
「本来ならあの力を攻撃に回したいところでしょう。しかしシリウスさんの攻撃力と対抗できるのは、三人の《太赤纏》による防御しかない。カウンターが怖いから、下手に三人は攻撃に回ることができない」
「しかし〝ジェントルブレイヴ〟もまた守備がなかなか強力です。故にどちらも得点がなかなか難しいということですね!」
「はい。ただ〝ジェントルブレイヴ〟はシリウスさんだけではありません。もしかすると、守備に回している勇者の方々たちを攻撃に起用する可能性も高いですね」
「なるほど。ですがもし失敗すればカウンターを受けて、がら空きの陣地に攻め込まれるのでは?」
「それはそうですが、ジュドムさんの性格上、守りに徹するようなことはしないでしょう」
自他ともに認めるほどの積極的かつ攻撃性の強い性格をしているジュドムなので、クゼルは彼ならば多少のリスクを背負っても攻撃優先という選択をしてくると考えているのだ。
「後半戦は勇者の方々の動きもそうですが、〝イノセントムーン〟がどのような守備をしてくるのか見物でしょう」
「なるほど~! それは実に楽しみですね! 点差はほぼありません! 後半戦はたった一度の得点が勝敗を決する可能性も高そうです!」
オリアが身体が震わせ期待感を込めた言葉を放つ。
そしてオリアの言った通り、後半戦はたった一度の得点が勝敗に導くような試合運びになることになる。
※
後半戦が始まって十五分。すでに残り時間も僅かになってきていた。
点差は……。
38 対 41
思った通り、大志たちも攻撃役として起用し始めた〝ジェントルブレイヴ〟だったが、カミュは大量の魔力を使って砂分身や砂壁などを使って彼らの攻撃を止めていた。。
ただ一人で彼らを止め続けた代償は高く、
「はあはあはあはあ……」
確実な疲労感がありありと表情に浮かび上がっていた。
(……まずいな。次に攻め込まれたら、さすがに止められないかもしれないぞ)
カミュのお蔭でフープは守れているが、それも恐らく次の攻撃を止められるかどうか分からない域まで達している。
しかもボールは〝ジェントルブレイヴ〟側。まだ点差で負けている以上、ここを防いで得点しなければ勝つことはできない。
ここ十分以上、得点が動いたのはたった一度。リリィンによる得点だけ。それからずっと互いに無得点が続いているのだ。
日色たちも攻撃側に回ればいいのかもしれないが、《第二活性》を使い始めたシリウスをマークするのに人員は割けない。カウンターが一番怖いのだ。
だから日色、ニッキ、ウィンカァの三人は、常に守備を意識してシリウスの動向を窺っている。
そのため攻撃力が落ちるのは必然だった。
(何とかこのターンを防いで、ボールを奪わないとな)
しかし相手側も慎重で、六人でパスを回しながらやってくるのでなかなかボールを奪うことができないのだ。
「よぉーしっ、次に決めて点差を広げるんだっ!」
ジュドムは守りに徹するつもりはないようだ。いや、カミュの現状を見ているからこその判断かもしれない。次ならば得点できると踏んでいるのだろう。
そしてここで一気に点差をつけて突き離し、勝利まで持っていこうという算段なのかもしれない。
するとジュドムはまだ日色側のコートに入っていないのにも拘らず、その身体から凄まじいオーラを迸らせる。
「何かするつもりだ、気をつけろっ!」
と、日色は仲間たちに告げる。
ジュドムとタチバナ、そしてシリウスが同時に空高く跳び上がる。ちょうど一定の距離を開けて後ろからタチバナ、シリウス、ジュドムの順に並んでいた。
ボールを持っているのはタチバナだ。
彼女は手刀の形に右手を変化させて、全身から溢れ出させた黄色いオーラである身体力をその右手に集約させていく。
そしてボールを少し頭上へ放り投げると、ボール目掛けてオーラを纏った手刀を叩きつけた。
弾かれたボールは前方にいるシリウスに向かって飛ぶ。
そのボールをタイミング良く、シリウスが全力で蹴り出した。ググンッとさらに威力と速度が増したボールは、その前にいるジュドムに向かって突き進む。
「これが俺たちの最大の攻撃だっ! 名付けて――《バーストインパクト》ッ!」
ジュドムが、自身を通過したボールに向かって両手から衝撃波を放ち、その衝撃波を背に受けたボールは爆発したように速度を高めてフープへと直行していく。
(マズイッ!? あんなものが今のカミュに止められるわけがないっ!)
そう考えて、
「ニッキ、ウィンカァ!」
名前を呼んだだけで意図が伝わったのか、彼女たちは《太赤纏》を使って、ボールの前に立ちはだかった。
「うおぉぉぉぉっ! 《爆拳・弐式》ィィィッ!」
ニッキの拳から紅蓮に染まった拳撃が飛ぶ。彼女の攻撃はボールに触れた瞬間に爆発したが、煙の中からボールはほとんど速度を緩めずに突っ込んでくる。
「……止める! ――《九尾尖突》っ!」
ウィンカァの臀部近くから生えた九本の尻尾が一つになって、ボールを止めるべくドリル状に変化して伸びていく。
ギギギギギギギと鎬を削るような音が響くが、
「うっぐうぅぅ……っ!?」
苦しそうなのはウィンカァの方だ。徐々に束になっていた尻尾が一本一本弾かれていき、とうとう全部の尻尾を弾きボールはフープへと向かう。
「させるかっ! これなら止められるはずだ!」
『止』の文字をボールに向けて日色が放つ。しかし問題もある。それは――。
「そんなもんっ、吹き飛ばせぇぇぇっ!」
ジュドムの叫びに呼応するかのように、日色が放った文字を弾き飛ばしてしまった。
(くっ! やっぱり一文字じゃ力不足か!?)
ジュドムたち三人の力を合わせた攻撃は、二文字や三文字でも突き破ってしまう威力が備わっているはずだ。せめて《釈迦金気文字》ならば良い勝負ができたかもしれないが、普通の魔力文字ではさすがに止めることができなかったようだ。
「カミュッ!」
あとは彼に託すしかない。しかし彼も度重なる攻撃を防いできたことで溜まった疲労感は回復していない。
魔力も大分少なくなっていることだろう。
「はあはあはあ――――レッドアイドル」
カミュは自分の指を噛み切り、砂に血液を染み込ませていた。紅く染まった砂が長いバッドのようなものに変形し、ボールを打つべく振りかぶる。
日色たちの守勢により、明らかに勢いが弱まったボールだが、それでも今のカミュが止められるかは定かではない。
ボールとバッドが衝突し、力と力がぶつかり合う。
「くぅぅぅぅぅっ!?」
カミュの無表情の顔が、苦悶の表情でいっぱいになる。まさに全力を注いでいる瞬間だ。
だが先に悲鳴を上げたのは、バッドの方だった。段々と広がっていくヒビ。このままではバッドが折れてボールがフープへ通過してしまう。
「くそ! 今の内に強化を!」
日色が『強』の文字をバッドに放とうとするが、
「させないぞ、丘村!」
「なっ、お前ここまで!」
いつの間にか大志が目の前にやってきていた。
ニッキやウィンカァの前にもしのぶと千佳が立ちはだかっている。
(くっ、守備陣まで全員をここに!? この一撃で勝負をつけるつもりか!)
必ずこのターンで得点をするという意気込み。失敗してカウンターを受けることなど微塵も考えていない攻めだ。
リリィンたちは、日色たちがフープを守ってくれると信じて相手コート内にいるので、助けに来るのは距離的に無理である。
「邪魔だ、ハーレム男!」
「お前が言うな、眼鏡野郎!」
言い合いをしている間に、とうとうボールはカミュのバッドを砕いてしまった。膝をついてしまうカミュ。
「俺たちの勝ちだっ、丘村!」
大志が勝利を確信した笑みを浮かべたその時――
「……まだ………………終わってないっ!?」
敗北したと思われたカミュがカッと目を見開くと、最後の力を振り絞るように両足に力を込めて跳び上がる。
そのまま真っ直ぐボールの向かう先に到達すると、飛んでくるボール目掛けてパンチングを放つ。そこで初めて分かったが、彼の右拳が砂で固められていることに気づく。
「ああァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
ボールの勢いに押し負けそうになったカミュだったが、見事カミュの気合が勝利を得た。
とはいってもほとんど相殺のような感じで、カミュとボールは同時に弾け飛ぶ。
それを見た日色は全力で《太赤纏》を使い、大志の脇を通り過ぎて上空に浮かぶボールへと向かう。
「くっ、丘村ぁ!?」
大志は日色の動きについていけず、他の者もフォローには入れない。
日色はボールを手に取ると、鋭い視線を相手コートで待機していたリリィンに向けた。
「―――後は任せたぞぉっ!」
彼女に向かって目一杯ボールを託した。
パスコースには邪魔者はおらず、リリィンはしっかりとボールを受け取ることに成功する。
残り――二分を切った。
リリィンは日色から受け取ったボールを大事そうに抱えて走る。幸いにも守備役である勇者組は全員が後ろにいるので、あとはフープ目指して突っ込むだけ。
「――させるかぁっ!」
少し後ろからリリィンの前方に向かって衝撃波の塊が地面に向けて降り注いだ。地面に衝突した衝撃波は拡散して、近くにいるリリィンの足を止める。
「くっ! ジュドムか!?」
まだ空にいるジュドムからの足止め。その隙にジュドムが空中を移動してリリィンへと迫ってくる。
このままではせっかく日色たちが稼いでくれた時間と距離が一気に潰されてしまう。
「リリィンッ! 俺に渡すさっ!」
リリィンが走っていた右サイドの反対側を走っていたテンからの要求。リリィンは彼に向けてボールを放つ。
「パスなんてさせるかぁっ!」
またも空からジュドムの衝撃波が飛ばされる。ボールを弾いてそのままペビンにキャッチさせるつもりだろう。
しかしその思惑は突如現れた風の塊によって相殺されてしまう。
「テンさんっ、ここは自分にお任せを!」
「ナイスさ、レッカ!」
レッカが《創造魔法》によって風の塊を創り出し、ジュドムの衝撃波へとぶつけたのだ。
ボールは問題なくテンのもとへ行き渡り、
「おっしゃあっ! ペビンッ、覚悟するさっ!」
「悪いですが、ここは是が非でも譲れませんね」
ペビンが腕を払い波紋を広げる。それに当たってしまうと、ボールは彼に奪われてしまう。
「これならどうさっ!」
「またお得意の分身ですか!」
テンが十人以上に分身した。
「しかしボールを持っているのは一人だけ! 今度は前のようにはいきませんよ!」
ペビンは周囲をサッと確認し、レッカとリリィンの位置を把握する。今度はサポートできない距離にいることを知る。
つまりテンの動きを止めれば確実にボールを奪えるということだ。
ペビンが目一杯波紋を広げ、それに触れたテンの分身体が次々と消失していく。そして一番後ろにいたテンがボールを持っていることを確認する。
「さあ、これで詰みです! ――《絶》!」
ペビンの指から糸が放たれテンへと向かう。
「今度は捕まるわけにはいかないさっ!」
空中に跳んで、魔力爆発による移動手段を使って縦横無尽に宙を駆け回るテン。
「舐めないで頂きたいですね!」
ペビンの両手の指から十本の糸が放出され、蜘蛛の巣のようなネットがテンの侵攻を防ぐ。
「さあ、絡め取ってあげましょう!」
フープの前に現れた蜘蛛の巣のお蔭でボールを投げつけることができない。
残り一分を切った。
このままでは時間切れで〝イノセントムーン〟の敗北が決定する。
テンは咄嗟にチラリと後ろを確認した。レッカはジュドムの衝撃波に対応を追われており、日色たちもフープへと向かってきているが距離があり過ぎる。
リリィンは……と視線を送り、テンの目を大きく開かれた。そして、確かにニヤリと笑みを溢す。
「――ペビンッ、これならどうさ!」
テンがかざした右手から眩い光が迸り、ペビンの視界を奪う。ただペビンは――。
「あいにく、あなたの居場所はすでに掴んでいます!」
光で視界を奪われているというのに、テンの居場所を正確に掴み、彼の身体を糸で拘束したペビン。どうやらテンが何かをすると気づいていたようで、先手を打たれていたのだ。
「うっぐっ!?」
テンの呻き声が聞こえ、光が収まると、ペビンは勝利を確信したまま瞼を静かに開ける。
「もう時間もない。これでしゅ――」
しかしペビンの視界に映ったのは、拘束されたテンの姿ではなく、リリィンの不敵に微笑んだ顔だった。
当然彼女と目を合わせてしまったということは――。
ガクッとペビンが虚ろな瞳を浮かべて膝を折る。同時にテンの拘束と、蜘蛛の巣が消失。
「うしっ!」
「あと十秒もないっ、早く決めろサル!」
「サルだけどサル言うなっ!」
テンはペビンを通り過ぎ、そのままフープに向かって走る。
あと五秒……四秒……三秒……。
そして全力でボールをフープ目掛けて投げつける。
表示得点を意識している暇はない。点差は――三点。
ボールは誰にも邪魔することなくフープを通過した。
だがまだ喜べない。
この場にいるすべての者たちが表示得点に視線を向かわせる。
息を呑む瞬間――モニターに映し出される両チームの得点。それは――。
43 対 41
表示得点――五点。つまり……。
「お、俺たちの……勝ち……?」
テンの呟きが、鎮まったその場に流れる。そして――。
「うおっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
テンのガッツポーズと同時に、観客たちも一斉に歓声を響かせる。
「うおぉぉぉぉっとぉぉぉぉっ、この土壇場でテン選手が決めましたぁっ! 仲間との連携によって喉から手が出る程ほしかった点数をようやくゲットしましたぁっ!」
オリアの実況が響き渡る。
「そして残り時間はぁぁぁ――」
残り時間は――一秒を切っていた。
日色はホッと息を吐き、得点に貢献したリリィンも小さく拳を固めて頬を緩めている。
だがまだ試合が終了したわけではない。
日色たちは全員が自分たちのフープの前に集まって防御態勢を整えている。これではさすがに、コンマ数秒で距離を詰めて得点するのは不可能に近い。
結果――ジュドムがボールを投げた瞬間にブザーが鳴り、試合終了のホイッスルをシウバが示した。
「やはりコンマ数秒でできることはなかった! 〝ジェントルブレイヴ〟、無念の敗退だぁっ!」
オリアの言葉を聞く前に項垂れる〝ジェントルブレイヴ〟側と、その応援席。
対比して嬉々として拍手と歓声を送る〝イノセントムーン〟側の応援席。
日色たちもそれぞれガッツポーズや安堵の笑みを見せていた。
「しかしサルよ。あの土壇場でよくワタシの狙いに気づいたな?」
懐から出したハンカチで汗を拭きながら、リリィンがテンに尋ねる。
「おうさ。リリィンの右肩に文字が浮き出てたからな。ヒイロが最後に何かするんだろうって思って、とりあえずペビンの注意を逸らすことにしたのさ」
あの時、リリィンの右肩に浮かび上がっていたのは『送』の文字だ。日色は最後の最後に、彼女の役に立つかもしれないと文字を彼女に設置しておいたのである。
ペビンもリリィンがテンのサポートができないほど後方にいることに安心していたからこそ突けた隙でもあった。
テンが彼の視界を一瞬奪った直後に、リリィンをペビンの目の前へと送る。そこでペビンに幻術をかけるという筋書きだ。
距離的にギリギリだったし、いろいろ綱渡りの部分は多かったが、見事に上手くハマってくれて日色はホッとした。
「糸目野郎は放っておくと何をしでかすか分からないからな。何とかアイツを無力化させる方法をって考えてたが、上手くいって良かった」
「ウキキ! さっすがはヒイロさ! お、ジュドムたちが来たさ」
テンの言う通り、苦笑を浮かべたジュドムたちが日色たちのところへやって来た。
「はぁぁぁ、もう少しだったのによぉ」
「今回はオレらの勝ちだったな、ジュドム」
「ちぇ。まあ、面白かったからいいけどよ」
「そうでござるな。存分に楽しめたでござるよ」
ジュドムもタチバナも、スッキリした良い表情を浮かべている。いや、彼らだけでなく、シリウスや大志たちも、だ。
「いやはや、まさか最後にあのような手でくるとは。やはりヒイロくんはとんでもないですね」
大きく肩を竦めながらペビンは愚痴のように言葉を漏らす。
「悔しいけど、今度は負けないからな、丘村!」
「ふん、オレに勝ちたいならもっと強くなることだな――青山」
「お、お前……名前を……!」
大志の名前を(苗字だが)口にしたのは初めてだ。大志はキョトンとしながらも、どこか嬉しそうである。
「何よ、丘村のくせに偉そうに! 次はぜーったい勝ってやるんだからね!」
「にゃはは~、負けん気が強い千佳っちらしいわ。けどま、気持ちは分かるで! 次は勝とうな!」
「そうですね。次があるなら、今度こそは丘村くんたちに勝ちましょう!」
千佳、しのぶ、朱里がそれぞれ決意を口にする。
最後にシリウスが日色の目の前に立ち、
「完敗だ。さすがはあのサタンゾアを倒しただけはある」
「勘違いするな。オレは一人で戦ったわけじゃない」
「ふっ、そうだったな。良い闘いをありがとう」
シリウスが手を差し出してきたので、日色もまたその手を握り返す。
そして皆でコートの中央に整列をした。
シウバが柔和な笑みを浮かべながら宣言する。
「43対41で、〝イノセントムーン〟の勝利ですっ! 礼っ!」
「「「「ありがとうございましたっ!」」」」
互いに礼を尽くし、奮闘を称えた。




