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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
終章 ヤレアッハの塔編 ~金色の文字使い~

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245/281

245:現れる者

 【人間国・ランカース】の直近では、ジュドムが部下とともに白虎と対峙していた。


「くっ、奴の動きが速過ぎる! しかも……!」


 白虎の身体が光った瞬間、四方八方へと毛針が飛ばされる。


「防御態勢を取れぇっ!」


 大盾を持っている者たちを前方へ立たせガードに集中する。しかし毛針の勢いが強過ぎて、盾をあっさりと貫いて、構えている者たちの身体をも貫く。


「好き勝手などさせんっ! 民たちは必ず我々が守るっ! 《波崩衝》っ!」


 ジュドムが地面を殴った瞬間、衝撃が波紋のように広がっていき、白虎へと迫っていく。しかし白虎がドスンッと足で地面を叩くと、同じような波紋がジュドムの攻撃を弾いてしまう。


「ちっ! なら《拍手掌》っ!」


 パンッと手を叩く。再びそこから広がる波紋が白虎へと向かう。


「ウガァァァァァァァァァァァッ!」


 凄まじい咆哮を上げ大気を震わせ、《拍手掌》の効果を無効化してしまった。


「くそっ! 俺の衝撃をすべて弾きやがる!」


 先程からどのような衝撃をも弾かれてしまう。

 その時、白虎の身体が闇色に染まっていき、全てが染まった後、大きくジャンプした。そして地上へと向け、口を大きく開ける。身体を染めていた闇が、口元に集束していき、巨大な闇玉を作り上げた。


「アレはまさか!? 闇属性の力っ!」


 すべてを無に帰す効果を備える闇の力に触れれば、この場にいる者たちは瞬時に消失してしまうだろう。


(俺一人なら何とか防御はできるが、彼らを守り抜くには力が足りねえ!)


 それほど巨大な攻撃。そのまま白虎から放たれる。


「くそがっ!」


 だができるだけのことをするつもりだ。ジュドムは全力を右拳に込めて、一気に解き放つ。膨れ上がる力を拳に宿し、そのまま降ってくる塊に向かって突き出す。


「《豪拳空衝》っ!」


 拳から放たれたエネルギーが闇の塊へと迫る。二つの衝撃がぶつかり合う。だがすぐに結果は訪れた。ジュドムが放った攻撃が闇に呑まれてしまったのだ。


「何ィッ!?」


 当然遮るものがなくなった闇は地上へと落ちてくる。このままでは全滅してしまう。

 絶望が脳裏を支配した時、


「「ホーリーサークルッ!」」


 ジュドムたちを守るように出現した温かな光。


「「ホリネスレイザーッ!」」


 闇に向かって走る巨大な光の柱が二つ。闇は光によって分散させられ、分散した闇の塊は、ジュドムたちを覆っている光の壁によって弾かれていく。


「やったで! やっぱり闇には光やんな!」

「ええ! 無事ですか、ジュドム様!」

「お前たちは……! 確かシノブとシュリ……か?」


 そこにいたのは、この世界に勇者として召喚された四人だった。

 すると彼女たちの存在に気づいて大声を上げて近づいてきた者がいた。


「タイシ様、チカ様!」

「おお! 久しぶりだな、ウェル!」


 ウェル・キンブル。元々は大志たちの教育係だった人物である。


「戻ってきて頂けたのですね! 皆さん!」

「……ああ、魔王様が俺たちを派遣したんだよ。多分戦力的に人間界はキツイって言ってさ」

「大丈夫だった、ウェル?」

「間に合って良かったで~」

「はい。危機一髪でした!」


 大志、千佳、しのぶ、朱里がそれぞれ言葉を出すと、ウェルは感動気に眼を潤ませる。


「おいおい、嬢ちゃんたち、助っ人は嬉しいが、感動の対面はあとにしてくれ」


 ジュドムが皆の気を引き締めさせる。


「だがよ、ありがとうよ。本当に助かったぜ」

「いいえ。俺たちは……ううん、俺はこの世界に返さなければならないものがたくさんあります。ここで少しは返したいと思ってやって来たんです!」

「……ほう」


 大志の目が以前とは違う強い光を放っていることに気づいたジュドム。


(ずいぶんと波に揉まれたか。迷いのない眼をしてやがる)


 戦争ではかなり無茶なことばかりやっていた彼だが、罪の大きさに立ち直れずそのまま潰れるかと思っていたが、存外、根性があったようだ。


(いや、周りに恵まれたってわけか)


 彼を支える三人の女の子たち。彼女たちがいるからこそ、彼はまだ立ち続けていられるのだろう。


「ジュドム様、防御関係は俺たち勇者に任せてください! 闇には光が一番ですから!」

「……だがタイシ、防御じゃ奴は」

「大丈夫です。攻撃役として……」


 大志が大地に降り立った白虎に視線を促す。すると、


「《次元断》っ!」

「《狐火斬り》っ!」


 白虎を挟み込むように二人の人物が斬撃を放つ。白虎は咄嗟に後方へ跳び、斬撃を避ける。斬撃同士がぶつかり、衝撃波で白虎をさらに後方へと弾き飛ばした。


「うむ、先手はもらったでござるよ!」

「そのようですね」


 そこに現れたのはウィンカァ・ジオの師匠であるタチバナ・マースティルと、ウィンカァの父であるクゼル・ジオだった。


「タチバナッ!?」

「久しぶりでござる、ジュドム殿。再会の挨拶はほどほどに、まずは敵を討つでござるよ」


 人間界に現れた助っ人たちに、ジュドムは思わず頬を緩めた。



     ※



 【イデア】の遥か上空に位置する【ヤレアッハの塔】の上階にて、日色はサタンゾアによって映し出されていた映像を見てホッと息をつく。


「どうやらアイツらも動き出したようだな」

「ああ、シウバも【ハーオス】で玄武を相手に奮闘しているようだな」


 リリィンの言う通り、マリオネたちとともにシウバも一緒に戦っているようだ。


 朱雀→アクウィナス

 玄武→シウバ

 青竜→アノールド、ララシーク、ユーヒット

 白虎→クゼル、タチバナ、勇者四人組


 それぞれ、三国での助っ人として駆けつけたようだ。その中には、《塔の命書》で操られるリスクを背負っている者だっている。だが彼らは国の危機に脇目も振らずにやって来た。


(アイツらが頑張っている。ならオレも力を温存とか言ってる場合じゃないな)


 オレは深呼吸を数回してから、《合醒》状態のままある文字を書いていく。


『天下無双』


 この波に一気に乗って、神王を倒すことに専念する。文字を発動させると、爆発的な赤きオーラが日色の全身から迸る。頭上には天下無双の文字が連なる。


「ほほう……それがうぬの最強モードというわけか」


 サタンゾアは興味深そうに観察してくる。


(オレの魔法は奴には使えない。ならオレをメインに戦術を立てるべきだ)


 日色はリリィンの目を見る。彼女は日色の言いたいことを理解したのか、何も言わず頷きを返してくれた。

 しかしノアの方は、キラキラした瞳で日色を見ているだけ。


「おお~、やりたい、ヒイロとやりたいよ、スーッ!」

「――――――どうでもいいが、その発言は時と場所を選べ。あらゆる意味で危険だ」

「え~どゆこと?」

「――――――分からないならいい。ヒイロ・オカムラ、全力で叩き込むということでいいんだな?」

「ああ、一気にアイツを潰す!」

「――――――了解した。ノア、全力で神王に向かうぞ」

「や~っと楽しめるね。うん、じゃあ、いこうか」


 ノアの瞳が獲物を見つけたハンターの如く光る。そのまま虹色の翼を広げて大地を蹴り出し、宙を飛びながらサタンゾアへと迫っていく。

 次いでリリィンも同様に翼を広げて突っ込んでいった。


「俺たちも行くさ、ヒイロ!」


 テンの言葉に「ああ」とだけ答えると、すぐさま『飛翔』の文字を浮かばせて効果を得る。そして二人と同様に空を飛び回りながら相手へと迫る。


「ククク、何だ。高みの見物はもう終わりか。まあいい。【イデア】がどうなるか、少々興味深かったが、まずはうぬらを先に殺そう」


 すると初めて自分から玉座から立ち上がり、


「――《水撃のクドラ》」


 彼が右手を前方へ出すと、その手から大量の水が螺旋を描き日色たちへと向かってきた。


「そんなものっ!」 


 日色の身体を覆っている《赤気》が、瞬時に『蒸発』という文字となり、激流へと放たれる。水に触れた文字は効果を発動させ、一気に水蒸気と化してしまった。


「《黒ノ刃》ッ!」

「《幻夢射撃》っ!」


 まずノアとリリィンが、水蒸気の中を突き進み、サタンゾアの目前に現れ攻撃を放つ。

 武器である《黒帝》を羽で覆い巨大化させたノアの剣が、サタンゾアの頭上から襲い掛かり、リリィンが顕現させた銃から、巨大な魔力の塊が放射される。


「――鉄壁の」

「させないと言っているっ!」

「む?」


 サタンゾアの背後へ『転移』の文字効果で出現した日色。


『停止』『停止』『停止』『停止』『停止』『停止』『停止』『停止』


 ほんの一瞬でそれだけの文字を浮かび上がらせ、サタンゾアに放って発動。すべての文字から眩い光が出現し、彼の身体を覆い動きを奪っていく。


「むぅっ!?」


 明らかに動揺を見せるサタンゾア。次いで、


『巨大化』『大分裂』『威力増』


 その三文字の羅列を作り出し、手に持つ《金剛如意》に与える。


「いけるっ! 《閃極回巻》ィィィッ!」


 三つの文字効果が発動し、巨大化した《金剛如意》が分身の術を使ったかのように増えていく。しかしこれはすべて実体がある分裂体であり、すべてが『威力増』の文字効果で威力を増加させた攻撃だ。


 背後から日色、前方からはリリィンたちの攻撃が挟み撃ちでサタンゾアに迫る。また彼は日色の『停止』の文字で動けなくなっているはず。

 相手が日色たちを侮っていたからこその隙。


 当たる――――三人ともが確信していた。


「シリウス、うぬの技をもらう。――――《最終活性・クィントゥム》」


 刹那、彼の身体から凄まじいまでの蒸気に似た湯気が噴出し、彼の身体をマグマのような熱が放たれてくる。

 だがサタンゾアはその場を動こうとはしない。


「――《不動の構え》」


 驚くことに、一ミリも動くことなく、すべての攻撃をその身に受けたサタンゾア。

 手応えはあったと日色は思っていたが、胸に押し寄せてくるもやもやが取れない。本来であるならば、あれだけの攻撃をまともに受ければ致命傷は必至。

 だが不安が日色の胸に込み上げてくるのだ。

 攻撃によって生まれた煙から、巨大な腕が伸びてきて、日色を捕まえようとしてくる。


「ちィッ!?」


 瞬時にその場から身を翻して回避し、後方へと移動する。リリィンたちも先程までいた場所に立ち止まり様子を見守っているようだ。

 下手に近づき藪蛇になることを恐れているのだろう。


「ククク、なかなかに鮮烈な攻撃だったな」


 煙の中から現れたサタンゾアを見て愕然とする。


「無傷……だと……っ!?」


 しかしその中でスーとノアだけが現況を把握していた。


「――――――やはりシリウスと同等の技を……。彼の技を再現したということか」

「みたいだねぇ。うわ~すっげえめんどくさいよぉ」

 

 サタンゾアが技を使う前にシリウスと言っていた。ノアたちは彼と戦ったことがあるので、今の現況の説明ができると踏んで日色が「どういうことだ?」と尋ねる。


「――――――シリウスには、不動を貫くことで絶対的な防御力を発揮できるらしいのだ」

「……なるほどな。その力を再現したってわけか」

「ククク、まあ力の消耗率が激しいから、あまり多用はできぬがな」


 サタンゾアがそう言った瞬間、巨体が残像を残すほどの速度で日色の背後を取る。


「なっ!?」

「まずはうぬかな、《文字使い》?」


 驚くべき速さで剛腕が迫ってくる。咄嗟に日色は腕をクロスさせて防御態勢を整えた……が、衝撃がこない。少し気を抜いた直後、


「ヒイロッ、後ろだっ!」


 リリィンの声とほぼ同時に、背中から激烈な衝撃を受ける。


「がはぁぁっ!?」


 そのまま高速で吹き飛ばされ地面を削りながら、百メートル以上進んだところでようやく止まってくれた。


「くっ……っ」


 たった一撃。それだけで全身が砕けたかと思うほどのダメージ。《赤気》を纏って防御力を上げているというのにこれである。


「――――――ノア、次はこちらに来るぞ!」

「わかってるってば!」

 

 ノアはスーの忠告通り意識をサタンゾアに集中していたようだが、即座にノアの頭上へと現れる。


「そん……な、瞬きもしてないのに……見失った……!」


 ノアの驚愕。


「ククク、《転移のクドラ》だ。何も、《文字使い》だけの専売特許ではない」


 そのまま拳をノアへと突き下ろした。ノアは咄嗟に翼で全身を球体状に多いガードしながら、地面へと突き刺さった。


「最後はうぬだ。アダムスの器よ」

「その名でワタシを呼ぶなっ!」


 リリィンが紅き瞳を光らせ、サタンゾアを幻の世界へと引き摺り込もうとするが、


「ムダだ――《閃光のクドラ》」


 サタンゾアが指を鳴らした瞬間、眩い光が周囲を覆い尽くす。


「ぐあぁっ!? 眼がぁぁっ!?」

「ククク、眼が良過ぎるというのも考えものだな」

「がはぁっ!?」


 サタンゾアの拳に叩きつけられ地面へと激突した。

 まさに瞬殺といってもいいほどの劇的さである。恐らくヒイロパーティの中で最も攻撃力の高い者たちが集まっているというのに、ほとんど何もできずに沈められてしまった。


「ふむ――《白雷のクドラ》」


 サタンゾアが宙を飛び、眼下に両手をかざす。すると白い色を宿した雷が、地上で倒れている日色たちを襲う。

 ダメージのせいで避けることができずに雷をその身に受けてしまう日色たち。


「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 視界が光と闇を繰り返し、激痛が身体中を走る。日色だけでなく、他の二人も同様だ。


「ぐぐぐぐぅ……っ、くっそがぁっ!」


 『反射』の文字を浮き上がらせ発動。白雷を跳ね返すが、サタンゾアには軽く避けられた。


「はあはあはあはあはあ……」


 何もかも想像以上である。初めてサタンゾアに会った時は、そこそこ戦えていると思っていたが、その時にも彼が言っていた通り、単なる遊びだったのだ。

 本気で潰そうとしてきている今とは比べものにならない。


「ぐ……こ、これほどか……」


 日色はフラフラにながらも立ち上がり、雷を受け続けている二人を見やる。


「くらえっ!」


 『大爆発』の文字をサタンゾアに向けて放つ。しかし彼は余裕で避ける……が、そのまま文字を発動させ爆発を引き起こす。

 この文字は別に直接当てなくても、その余波で十分に効果が期待できる。その結果、


「ふむ。なかなかの威力ではあったな」


 爆煙の中から姿を見せるサタンゾアは無傷だが、雷による攻撃が止まっていた。


(二人は……ちっ、気絶してるのか?)


 リリィンたちはピクリとも動かない。まだ死んではいない。それは彼女たちの力をまだ感じるのでそう判断できる。しかし日色以上のダメージを受けていることは容易に想像できた。


「何を安心しておる。――《捕縛のクドラ》」

「なっ!? これはさっきのっ!?」


 突如として足元から現れた触手が身体に巻き付いてくる。これは先程テンとミミルを捕獲する時に使用したサタンゾアの力。


「ククク、終わりだ、《文字使い》。やはりその程度だったな、何もかも」


 上空にいるサタンゾアが日色に向かって人差し指を突き出す。


「最後はうぬが倒した魔神ネツァッファの技で逝くが良い――《電紅石化》」


 紅い閃光が指先から放たれる。これに貫かれれば、全身が石化するという恐ろしい技だ。そうなれば死んだも同然。

 咄嗟に文字を使って回避しようとするが、


「ククク、無駄だ。その捕縛は力をも拘束する」


 魔法が使えない。


「くそぉっ!?」


 これで終わるのかと悔やんだその時――


 《電紅石化》が急に弾かれ、明後日の方向へと飛んでいった。そして日色を庇うように、目の前に現れた人物がそれを成したことは明白。


「……お、お前は――っ!?」


 日色にはその人物に見覚えがあった。全身を黒いローブで覆ったその人物は、以前日色たちを救ってくれた者で間違いない。


「……このようなところで終わられると困るな、ヒイロ・オカムラ」

「……え。その声……!?」


 以前聞いた機械音のような声ではない。それはかつて聞いたことのある、そしてこの場にいるはずのない人物の持つ声である。


「……何者だ、うぬは」

「貴様に名乗る名など持ち合わせてはおらぬわ」

「ほほう」


 再び放たれる《電紅石化》。しかし黒ローブは、右手から魔力で形作られた剣を作り出し、日色を拘束している触手を斬ると、日色と自身を含む足元に水溜まりを作り、そこに沈み込んで消える。

 当然紅い閃光はターゲットを見失い、地面を石化させるだけに留まった。


 日色は黒ローブとともに、少し離れた場所に現れた水溜まりから浮き出ていく。そのまま自分の前方に立っている黒ローブを見つめる。


「お前……何で……?」


 そう尋ねると同時に、黒ローブの蹴りが日色に襲い掛かる。蹴りを受けた日色は後方へと吹き飛ぶ。


「ぐっ、お前何をっ!?」


 地面に倒れながらも、文句を言おうと黒ローブを睨みつけた直後、黒ローブの頭上から落雷が降り注いだ。


「ククク、そのまま燃え散るがよい!」


 サタンゾアによる攻撃だった。あのまま傍にいれば、日色も巻き添えになっていただろう。


「アイツ……!」


 自分が黒ローブに救われたことを知る。それとよく見れば、吹き飛ばされた場所に、ノアとリリィンが寝かされていた。どうやら二人とも、黒ローブにこの場へ連れて来られていたようだ。

 雷を受け続ける黒ローブ。徐々に燃え尽きていくローブ。そしてその下から相手の正体が露わになる。


「はあぁぁぁぁぁっ!」


 手に持った剣を叫びながら振るう黒ローブ。同時に雷が一気に弾かれ、纏っていたローブの残骸が宙に舞う。

 日色は相手の顔を見てゴクリと喉を鳴らす。

 それは間違いなく、かつて日色と死闘を演じた宿敵。



 《マタル・デウス》を組織し、世界支配を企てた男――――元魔王、アヴォロスだった。

 


 あの頃と、日色と戦った時とほとんど変わらぬ姿。

 見惚れるほど整った顔立ちに、流れるような美しい金髪。スラッとした体躯に、膨大な魔力量。一つ依然と違うところがあるとすれば、それは左眼に黒い眼帯をしているということだけだろうか……。


「何者だ……うぬは?」


 神王には分からないのか……?


「いや、そうか。うぬは確か……アヴォロス。地上の魔王だったか」


 しかしアヴォロスはそれには答えずに、日色の方に意識を向けた。


「何を呆けている。もう諦めたか?」

「な、何だと?」

「やはり貴様に託したのは失敗だったか」

「くっ……」

「余の眼力も衰えたものだ。こんな矮小な異世界人に期待するとはな」


 段々腹が立ってきた。何故アイツにそこまで言われなければならないのか……。


「……ほざくなよテンプレ魔王」

「む?」

「オレを助けたと思ってたんじゃないだろうな?」

「事実、貴様は二度、余に救われている」

「オレは助けられたなんて思っていない。実際あの時も今も、お前が来なくても何とかなった。余計なお世話なんだよ」

「ほう、言うではないか」


 そこで失神していたリリィンが眼を開け、視線で火花を散らしている日色とアヴォロスを見やる。


「…………どういう状況だ、これは?」

「――――――どうやらアヴォロスが生きていたようだが。しかし驚いたな」

「ワタシは一度塔で会っているからな、もう驚いた後だ」


 彼女の言葉が耳に入り、日色は眉をひそめる。


「会った? コイツにか?」

「そうだったな。奴が危ないところも余が救った。感謝しろ、横柄な眼鏡小僧」

「ぐ……偉そうな物言いだな。勝手に助けて恩の押し売りか? そんなもんは迷惑なだけなんだよ、金髪ダメ魔王」

「「ああっ!」」


 互いに顔を近づけながら睨み合う両者。

 神王すら手を出さずに見守るほどの空気。


「お、おいヒイロ、今はケンカしてる場合じゃないっての」

「黙れ黄ザル、どういう了見で復活したか知らんが、先にコイツに引導を渡してやる」

「フッ、貴様にできるのか? すでにフラフラではないか。先に殺すぞ」

「あ~もう、どうすりゃいいのさ、コレェ……」


 テンが嘆くのは当然。最終決戦で、いきなり喧嘩をしだしたのだから。


「ええい、やめんかっ!」


 ゴツンと二人の頭を小突いたのはリリィンだ。


「「な、何をするっ!?」」

「喧しい! 喧嘩など後でいくらでもするがいい! 今はそれよりも成すべきことがあるだろうが!」


 そう叫んだ瞬間、リリィンが呻き声を上げて膝をつく。そういえば全員が大ダメージを受けていたのを忘れていた。


「フン、さっさと治療するのだな。それまでは、余があの者と遊んでおこう」

「……ふむ、今度は地上の魔王が相手か。うぬは楽しませてくれるか?」

「ご期待に応えようか」


 瞬時にその場から、サタンゾアの懐へと入り込んだアヴォロス。両手の周囲には、小さな黒い球体が幾つも出現している。


「喰らい尽くせ、グラットゥン・ブリザード」


 小さな球体が無数に増え続け、サタンゾアの周囲を覆い回転し始める。すると徐々に、彼が身に着けている装飾品や服などが蝕まれていく。


「ほう、面白い力だ」

「続けてこれだ。――ブレイジング・ボルト」


 サタンゾアの頭上に現れた、帯電状態の炎の塊から落雷のごとくサタンゾアへと降り注ぐ炎の塊。


「――《空隙のクドラ》」


 サタンゾアの頭上に現れるゲートホール。そこに吸い込まれた炎がアヴォロスのすぐ背後に現れたゲートホールから、アヴォロスに向かって放たれる。しかしアヴォロスは動かない。

 そのまま魔法を自身の身体で受け止める。


「ククク、まさか避けもできぬとはな」

「……避けることができなかったのではない」

「む?」

「避ける必要がないのだ」


 アヴォロスは右手をサタンゾアへと向けると、そこからさらに膨れ上がった炎の塊が放出された。


「何っ!?」


 炎は真っ直ぐサタンゾアを捉え爆発を起こす。


「余が自分の魔法でやられるわけがないであろう。常識で考えるのだな」


 いや、それはあくまでもアヴォロスクオリティだからと誰かが突っ込んだ。恐らくテンあたりだろう。

 たとえ自分が放った魔法でも、普通はそれが跳ね返ってきたりしたらダメージを受けるのは必至。しかしアヴォロスは、逆に魔法を一度取り込み、増幅させてからさらに放つという離れ業をやったというわけだ。


(しかもだ、アイツが放ったすべての魔法は、どれも二種類の魔法を合成させて作り上げたものだ。その威力は跳ね上がるはず)


 やはり大した奴だと日色は感心してしまう。二つの属性魔法を同時に使うのはイヴェアムでもできるし、混合魔法だってやろうと思えばできるが、かなりの集中力がいるし、魔力の消耗を激しいと聞いた。

 それなのに、まるで準備運動をしているかのような感じで混合魔法を放つのだから、やはり彼は天才だということだ。


 日色は彼が時間を稼いでくれている間に、自分、リリィン、ノアの治療を行っていく。しかしノアだけはすでに自分の魔法で治癒し終わったのか、MP回復薬を服用中だった。

 だから日色はリリィンと自分だけに『回復』の文字を使って傷を治癒していく。


「……ふぅ、しかし神王とやらは想像以上のようだな」

「珍しいな、お前が弱音か?」

「バッ、そういうわけじゃないわ馬鹿者! とにかく、闇雲に戦っても勝ち目が薄いと言っておるのだ!」

「そういうことにしてやろう。ところで、アイツに助けられたというのはホントか?」

「あ? ……ホントだ。命を救われたと見ていいだろうな」

「そうか……」

「おいヒイロ、今は過去の遺恨に囚われてる場合じゃ」

「分かってる。そもそもアイツの目的はオレたちと一致してるはずだ」

「ヒイロ……」

「どういう方法でここに来たのか定かじゃないが…………まあ、喜ぶべき誤算でもある」

「素直ではないな、貴様も」

「お前に言われたくないぞ」


 その時、治癒の光が消え、回復が終わったことを知らせた。

 それと同時に、爆煙の中から現れたサタンゾアが、様々な力を駆使してアヴォロスと戦い始めている。


「やはりほぼ無傷か」


 傷らしきものは見当たらない。服や装飾品は先程のアヴォロスの魔法で破壊を受けてはいるが。


「ヒイロ、《天下無双モード》もそろそろ切れるのではないか?」


 見ればすでに頭上の文字は『天』だけになっている。


「安心しろ。オレも強くなってるんだ。このモードが解けても、少し待てば、また使えるようになってる」

「ほう、どれくらいの時間でだ?」

「十分間だ」

「……いきなり六分の一に縮めるとは、貴様はどんどんと人外じみていくな」

「うるさい。近頃自覚している」


 アヴォロスとの死闘が終わり、自分の中でさらなる力が目覚めているのには気が付いていた。きっかけは恐らくイヴァライデアに渡された力が発動したこと。

 ミュアの死で暴走して、《天上天下唯我独尊モード》になったことで、レベルが飛躍的に上がったようだ。


「そうだ。アヴォロスを倒した時のような姿にはなれないのか?」

「……何度も試そうとしたが、書けるのは四文字までだった」

「しかし一度は書けたのだ。あの力があれば、神王にも勝てるのではないか?」

「確かに強くなった自覚はあるが、まだオレは自力でアレを発現させることはできないようだ」


 いや、そもそもあれほどの力を一人で捻出することはできないような気がする。魔神ですら相手にしないほどの力なのだ。

 まさしく神のごとき力。それを一人だけで体現するのは元々無理なのかもしれない。


「……なら一か八か、そのイヴァライデアとやらを復活させて一緒に戦うのはどうだ?」


 確かにその方法も考えた。しかし彼女も自分の力は段々衰えていると言っていた。たとえ復活させたとしても、本当に満足に戦うことができるのか怪しい。

 復活させれば、サタンゾアにイヴァライデアを奪われるリスクだってある。しかし現時点で、魔神を倒した力が使えない限り、サタンゾアに勝つのは難しいと言わざるを得ない。


 ミュアたちが戻って来ようが、それはサタンゾアにとっては脅威ではないだろう。

 今、ボロボロになりながらも、前方で戦っているアヴォロスを見た。涼しげな表情に見えるが、常に魔力全開で戦っているのが分かる。あの出力のまま、あとどれだけの時間戦い続けることができるか……。


「イヴァライデアを復活……か」


 彼女が戦えなくとも、力や知識を借りることができればもしかしたら……と思わずにいられない。しかしこれは危うい賭けでもある。

 このままではいずれ日色たちは敗北し、この身柄で《イヴダムの小部屋》を開けられてしまうだろう。そしてサタンゾアはイヴァライデアの力を手に入れる。


(ならその前に、オレらがアイツを保護して、アイツの力を借りる方がいいのか……)


 思い悩んでしまう。どの選択肢が正しいのか、判断がつかない。

 その時、パチンと両頬に軽い刺激が走る。見ると、すぐ目の前にリリィンの顔があった。


「ヒイロ、ワタシは貴様の判断を支持する」

「……リリィン」

「このまま戦い続けたところで、悔しいがジリ貧なのは間違いない。いや、ジリ貧すら届かずに殺される可能性だって高い」


 彼女の言う通りだ。


「だが、一筋の光明があるのであれば、それがどれだけ危険な橋でも渡る。貴様は今までもそうしてきたのではないか!」

「っ!?」

「貴様だけに重荷は背負わせん! なぁに、全部が失敗してもよいではないか! 元々は神に挑む勝負。勝率が低いことは分かっていた。ならやるだけやればいい。もし失敗して、全員が死んだら……ワタシが一緒にあの世で頭を下げてやる!」

「リリィン……」

「クハハ! ワタシはお前の主だからな!」


 こんな時、彼女の豪胆さに救われる。キリキリと痛んでいた胃も、すでに治まっている。


(……一筋の光明……か)


 日色は立ち上がり、大きく深呼吸をする。《天下無双モード》を解く。同時に《合醒》も解いて、テンが人型で顕現する。テンはすべてを理解しているかのように、日色の顔を見て頷く。後は任せておけといった表情である。

 そしてリリィンもまた、日色の顔を視界に捉えて、


「……決めたんだな?」

「……ああ、しばらくここを任せていいか?」

「無論だ! しかしこの褒美はいずれ要求するからな!」

「……控えめにしてくれよ」

「クハハハハ!」


 日色は『転移』の文字を書き、


「テンプレ魔王ぉっ!」


 大声で叫ぶと、アヴォロスも日色に振り向く。


「少しの間、頼む!」


 それだけ言うと文字を発動させて、《イヴダムの小部屋》があった場所へと戻った。



     ※

 


 アヴォロスが登場する少し前、中階では――。


「刻まれなさい、《絶》!」


 ペビンの両指から放たれる十本の極細の糸。彼のエネルギーを圧縮させて作られたその糸は、アヴドルが放ったモンスターであるピューピルを面白いように寸断していく。

 しかし殺しても殺してもすぐに新たなピューピルが床から湧き出てくるのでキリがない。


 そしてミュアはというと、ミミルを庇いながらクリスタルの巨人と化したアヴドルの攻撃を《銀耳翼》を広げて防御に徹していた。


「ククク、今頃、貴様らの希望も潰えているかもしれぬな。さすがの英雄と称された者も、神王様には勝てるわけがない」

「そんなことはありません! ヒイロさんなら必ず勝ってくれます!」

「根拠に乏しいな。希望に縋ってるようにしか見えん」

「縋って何が悪いんですか!」

「……何?」


 ミュアの叫びが気になったのか、アヴドルは一旦動きを止める。


「わたしたちはヒイロさんに縋っています。ヒイロさんなら、きっと世界を救ってくれると。縋る……ううん、これは信頼です!」

「……よもやそんな吹けば飛ぶようなものを頼っているのか。片腹痛いわ」

「あなたたちにとっては取るに足らないものでも、わたしたちは信頼を武器に今までも乗り越えてきました! 信頼を大切に想えない人が、信頼を馬鹿にしないでください!」 


 ミュアは叫ぶと同時に身体から銀色に輝く雷をアヴドルへと放つが、彼に当たる直前で弾かれて消失してしまう。


(やっぱり《銀転化》じゃないと……でも、距離が遠過ぎるし、使えば風で吹き飛ばされてしまう。けどもう少しで……!)


 攻める手が完成するのだが、と心で呟く。


「信頼か……あるとすれば、それは神王様に対するもののみ。あのお方の強さを儂は信じている! 儂の選択肢は間違っていなかったのだ! あの方を、『神人族』を選んだ儂はすべてに勝っている! これぞ信頼が生んだ力だ!」

「……それは単に相手の力にひれ伏しているだけです」

「……何だと?」

「本当の信頼は、互いに支え合うものです」

「支え合う……だと? 世迷言を」

「あなたには分からないでしょう。『神人族』がすべて正しいと決めつけてるあなたには」

「なら貴様が見せられるというのか? 本物の信頼とやらを?」

「…………」

「カハハハハハハ! ほれみろ、何も言い返せまい!」

「……できます」

「ハハハ……っ、……何?」

「わたしはヒイロさんを信頼しています。そして――仲間を信じてます!」

「見せられるものなら見せてみるがいいっ!」


 アヴドルから放たれるクリスタルの塊。しかしミュアは動かない。《銀耳翼》で自分たちを覆っていない状態でだ。


 次の瞬間、この部屋の入口から、猛スピードで駆け抜けてくる三つの人影があった。

 三つの人影から走る幾つもの閃光。アヴドルから放たれたクリスタルは瞬時にして真っ二つになり、そして爆発して塵と化す。


「き、貴様らは……!」


 駆けつけてくれた存在。それはウィンカァとニッキ、そしてレッカである。


「ん……ちょっと遅れた」

「お待たせですぞ!」

「母上、ミュアさん、ご無事ですか!」


 ミュアは三人に笑顔を向けると、キッと表情を引き締めアヴドルを睨みつける。


「これが、信頼です!」


 彼女たちならば、必ず駆けつけてくれると信じていた。


「小癪な……ククク、虫が何匹集まったところで」


 するとその部屋にいたピューピルが一気に全部が断絶される。


「やれやれ、ようやくネタ切れ……ですか?」

「……ペビン」


 恐ろしいことに、放置しておけば部屋を覆い尽くすのではないかと思われたピューピルが、すべて床に倒れ粉々に霧散していた。


「もう一度、言います。これが信頼の強さです! 仲間と支え合う強さです!」

「ぐぬぅ……」

「おやおや、アヴドルさんともあろうお方が、たった一人の少女に言い負かされるとは、やはりあなたはそこまでの人物だということです」

「ふざけるなっ! 儂はサタンゾア様に選ばれた存在だ! 【イデア】のモンスターを操作して三国を滅ぼすという重大な使命すら任されているのだ!」

「重大な……ですか。おめでたい人ですね」

「な、何だと?」

「いくらここのシステムを利用したからといって、あなたの器でできることなどたかが知れています。気づかないのですか? あなた、かなり衰弱しているようですが?」

「っ!?」


 見れば筋骨隆々だった身体が、萎んできていて弱々しい体躯に成り変わっている。ミュアもそれには気づいていた。気づいていて、わざと防御に徹して、時間稼ぎをしていたのだ。そのうち自滅すると判断して。


「これだけの力を長時間自分の身体を媒体にしていればそうなります。もう限界のはずです」

「バカなことを言うな! 儂は今では最強の力を手にした! 【イデア】を総べる力をな!」

「どうやら頭の中身までいっちゃってるようですね。そもそも、あなたがサタンゾア様に使命を任されていると言いましたが、サタンゾア様にとって、あなたが失敗しようが成功しようがどうでもいいんですよ」

「な、何を言っている?」

「あの方は、他人を見ない。自分以外の存在は、すべて玩具としか扱うことのできない人ですからね。同じ仲間も例外ではありません。無論……あなたもね」

「黙れっ! ふざけたことを抜かすなっ! 儂は選ばれた人種なのだっ! 人間を超え! 神の使いとして降臨した超人なのだよ!」


 ミュアはゆっくりと彼に近づく。


「いいえ、あなたは人でも神の使いでもない、ただの人殺しです」

「ぐっ……!」


 後ずさるアヴドル。ミュアの耳が大きく広がり銀雷を帯びる。


「アヴドルさん、まだ気づかないのですか? 足元を御覧なさい」

「へ……っ!?」


 アヴドルの顔が青ざめる。何故なら床いっぱいに銀の粒子が落ちているからだ。


「な、何故粒子がここに!?」

「あなたは風を使ってミュアさんの粒子を吹き飛ばして回避していたらしいですが、あなたが飛ばしたクリスタルを弾き、その陰に粒子を隠していたのですよ」

「ど、どういうことだ?」

「周りを見れば分かるでしょう? あなたが何も考えずにクリスタルを飛ばしたせいで、粒子を隠せるブラインドがあちこちにあります。ミュアさんは粒子を遠隔操作して、あなたに気づかれずに、風に吹き飛ばされないように低空飛行をさせて、床に撒いておいたのですよ」

「そ、そんな……! そ、それじゃ最初から儂の攻撃を弾くことが目的だったのか?」 

「最初からではありません。あなたが風を使って粒子を退け、常にわたしと距離を保っているからこそ、この作戦を思いつきました。まさか自分が作り出したクリスタルを使われるとは思っていませんでしたか?」


 ミュアの言葉に愕然とするアヴドル。そして彼を覆っていたオーラは、《銀転化》によりミュアの身体に吸収されていく。オーラが消え、彼の顔から鉄仮面がカランと床へ落ちる。

 そこからは恐怖に怯えた普通の人間の顔が映し出されていた。


「間抜けですね。やはりあなたは最後まで仮面の後ろに隠れていた臆病者だったということです」

「ち、ち、違う……! 儂は……儂は選ばれた……!」


 ミュアは一歩一歩アヴドルに近づく。


「く、来るなっ! 来ると殺すぞ、獣人めがぁっ!」


 ミュアはピタリと止まると、耳を巨大化させた。


「ちょ、ちょっと待てっ! わ、わわわ分かった! 儂も仲間になりょうっ! しょうすれば戦力じゃって増えりゅじょ! ふ、復讐ちたところえ、何も始まるまひっ!」


 ミュアは静かに彼を見据える。

 一気に何十年という歳を取ったかのように老けるアヴドル。もう完全に怯えまくっており、呂律も怪しくなっている。


 ミュアの《銀耳翼》が雷化したままどんどん巨大化していき、頭からプツンと離れて天へと舞い上がる。そして空から、アヴドルをターゲットに設定する。


「ま、待っちぇくりぇ……っ!?」

「これはわたしのお父さんの最高の技です! ――――《一翼の天雷》っ!」


 まるで天から降る鉄槌のごとく、アヴドル目掛けて巨大な雷の柱が落とされる。


「ぎゃあぁぁぁぁぁああああああああああああっ!?」


 …………しかし、アヴドルは生きていた。


 彼の背後には、巨大な穴がポッカリと開いている。

 外れたのではない。……外したのだ。


「き……ひひ……はひ……ふへへへへ……っ」


 するとアヴドルの身体が次第にボロボロと崩れていき、狂ったように笑いながら彼は消えていった。

 実は、すでに彼はもう死ぬだろうと予測がついていたのだ。


「……よろしかったのですか、トドメを刺さずに。仇だったのでしょう?」


 ペビンが尋ねてくる。


「……はい。仇……でした。でも……これでいいんです。わたしには、わたしの戦い方ができましたから」

「…………さすがはヒイロくんが見初めた方だというわけですか」

「へ? 何ですか?」

「いいえ、何でもありませんよ」


 小声で言われたのでハッキリ聞き取れなかったミュア。


「ですが、これで地上のモンスターたちも大人しくなるでしょう」

「はい。あと残すのは……」

「神王サタンゾア、だけ」

「全力全開ですぞ!」

「オス! さっそく戻りましょう!」


 ウィンカァとニッキ、そしてレッカも傷などなく無事なようだ。

 ミュアはふぅと小さく息を溢す。そしてそこにいたはずのアヴドルの残骸を見つめ、静かに天を仰ぐ。


(……これで安らかに眠れるよね、お父さん、お母さん)


 ミュアの仇討ちという幕が閉じた瞬間だった。





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