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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第八章 ヤレアッハの塔編 ~真実への道~

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234/281

234:月への出航

 今日の仕事も終わり、イヴェアムは自室のベッドに腰を下ろしていた。普段なら明日の業務について少し考えた後、紅茶でも飲んでリラックスするのだが……。


(……そんな気分じゃないもの……)


 心に広がっている絶望感。それは縮まることなく、時間が経つ度に大きくなっていく。

 枕を胸に抱えたまま、イヴェアムが想うのは一人の少年のこと。


 《塔の命書》に操作されていたから仕方がないと片づけられるような問題ではない。そんなにイヴェアムの心は強くないのだ。


(私がヒイロにあんな顔をさせてしまったのよ……)


『あなたには感謝しているわ。けれど、あなたのその力は危険過ぎるのよ。きっと災いを呼ぶ。殺しはしないわ。だからここで一生大人しくしてくれないかしら』


 自分が言った言葉で、日色は明らかな動揺を見せて悲しげに眉をひそめていた。日色の存在を否定するような言葉を言ったのだから、それも当然だろう。


「わた……しは……何て…………ことを……!」


 無論本心ではない。大好きな人を否定するなんてするわけがない。

 でも何故だろう……。悲しくて、辛くて、痛くて…………涙が止まらない。

 枕に次々と落ちる滴。ここ数日の夜は、いつもこんな感じだ。泣いても泣いても、涙は涸れてくれない。


 大好きな人に悲しい顔をさせたという事実が、イヴェアムの心を壊そうとしている。魔王として立っていても、まだイヴェアムは十代の女の子なのだ。


「ぐす……ひっぐ……ヒイロォ…………会いたいよぉ……」


 会って謝りたい。謝らなくてもいいと、日色からは言ってきているとマリオネから聞いたが、そんなことは関係なく実際に会って謝りたい。

 でもどんな顔をして会っていいか分からない。もしかしたら嫌われたかもという想いが拭えないのだ。操られていたとしても、あの言葉はもしかしたら自分の心が言わせたことなのかもと考えてしまうのだ。


 だから不安でいっぱいになり、こうして彼のことを想うだけで涙が出てくる。会いたいが、会うのが怖い。心がどんどんと痛くなってくる。


「でも……会いたいよぉ……やっぱり……会いたいよぉ……ヒイロォ……」




 ――――――――――――窓を開けっ放しにしてたら風邪ひくぞ、バカ。




 不意に耳に入ってきた言葉。

 そんなわけがないと思いつつも、イヴェアムは俯かせていた顔を、ゆっくりと上げて窓の方に向ける。


「ったく、やっぱり泣いてたか」

「ヒイ……ロ……?」

「会いに来てやったぞ、暇潰しにな」


 イヴェアムにとっての英雄がそこにいた。



     ※



「ヒイロ……? え……嘘……」


 目の前にいるイヴェアム。その顔は驚きに満ちていて、日色の姿を焼きつけるように凝視している。

 日色は空に浮かんでいる【ヤレアッハの塔】に、かつてイヴェアムと一緒に見た月を思い出し、ふと気になったことがあった。


 それは《塔の命書》に操作された者たちには、操られていた時の記憶があるということ。イヴェアムのことだから、日色を拘束していた時のことを、今もなお自分の責任だと背負い込み悲しんでいるのではと思われた。


 最後に見たイヴェアムの泣き顔。あの顔が日色には脳裏に暗い影を落としていた。明日に出発を控えて、イヴェアムに一言でも挨拶をしておこうと思ったのだ。

 そうしてやって来たのはいいが、思った通り彼女は自分がやってしまったことに重責を感じて泣いていた。


「一応お前には責任なんてないって伝えたはずなんだがな」


 日色が頭をかきながらイヴェアムに近づこうとすると、


「ま、待ってっ!」


 突然彼女からの制止の声が耳をつき足を止める。


「そ、それ以上近づかないで……ヒイロ」

「……何でだ?」

「だ、だって……また私……操られてあなたに酷いことをするかも……しれないし」


 悲痛に歪む表情。一瞬――ほんの一瞬だけだが、日色の登場に彼女の表情が明るくなった気がしたが、あれは気のせいではないだろう。

 その後すぐに表情が強張ったのは、彼女の言ったように操作されてしまう恐怖に怯えてのことだろう。


「安心しろ」

「え?」

「オレにもう油断はない。たとえお前が操られていても、そう簡単に奴らの思惑に乗るわけがないだろ?」

「で、でも……」


 まだ納得できていないようだ。無理もないだろう。彼女自身、抗うことのできない力なのだから。


「はぁ、ならこのまま一定の距離を保つ。それでいいか?」

「…………うん」


 彼女との距離は日色なら一足飛びで潰せるくらいしか離れていないが、それでも彼女が安心できるならこのままでいいだろうと日色は判断した。


「……ごめんね、ヒイロ」

「操作されていた時のことなら謝るな。あれはどうしようもなかった。いや、むしろ警戒を怠っていたオレの落ち度だ」

「だけど! だけど……あんなこと……私は……」


 彼女の目から涙が零れ落ちる。ポタポタと床にシミを作っていく。


「気にするな……と言っても、お前のことだ、どうせ気にするんだろうな」


 だからこそイヴェアムは泣いていたのだから。いや。今も泣いているのだから。


「だから別に気にするなとは言わない。だが、オレは怒ってなどいないからな」

「…………嫌いに……なってない……の?」

「はあ? 何で嫌いになる?」

「だって……」

「嫌いならわざわざお前の顔を見るためにここまで来たりしないぞ」

「……え? わ、私の顔を見るため?」

「そうだが? ……悪いか?」

「う、ううん。その……あの…………嬉しい」


 ようやくイヴェアムの強張っていた表情が緩み始めた。同時に頬が赤く染まっているのは、さすがに今の言葉によるものだということは日色も理解している。


「オレは明日、塔へと出発する」

「うん、知ってるわ。私もお手伝いしたいけど……」


 それが無理なのは彼女も十分に理解しているはずだ。


「お前には、ここでやるべきことがある。そうだろ?」

「うん……」

「魔王として、民を導き守る。それがお前の道だろ」

「その通りよ」

「オレが塔へ行っている間、『神人族』が【イデア】に何もしないという保証はどこにもない。だからこそ、お前にはこの国を守り抜く使命がある。いや、それがお前のやりたいこと……だろ?」

「うん。私は導く王になりたいから」


 少しずつ彼女の瞳に強い光が戻ってきた。日色が見たかった光である。


「…………ねえ、ヒイロ。無事に帰ってきてくれるのよね?」


 不安げなイヴェアムの声が耳に入ってくる。日色はスッと目を閉じると、そのまま『飛翔』の文字を使い、


「ついてこい、イヴェアム」


 そのまま窓から外へと出て行く。彼女も少し困惑した様子だが翼を広げて追ってくる。


「ここは……!」


 イヴェアムを誘導したのは、以前彼女と約束したことがある屋根の上だった。

 二人してそこに立ち、上空に浮かんでいる月の塔からの光を浴びて対面する。


「前にもここで約束したのを覚えてるか?」

「う、うん。戦争する前だったわね」

「ああ、その時お前はオレにこう言った」



『絶対にいなくならないで』


 

 イヴェアムがあの時のことを思い出しているのか、再び照れたように紅潮している。


「不安なら、もう一度約束してやる。お前の願いごとはなんだ?」

「ヒイロ…………いいの?」

「今ならサービス料金だ」

「お金取るの!?」

「冗談だ」

「じょ……あ、あのねぇ……ヒイロォ……!」

「そう怒るな。大分マシな顔になったじゃないか」

「え……あ」


 ずっと陰りのある表情をしていた彼女だが、今はかなり明るさを取り戻している。そして二人の間にあった距離もまた、自然と近くなっていた。


「ホントなら対価を要求するんだがな。まあ、お前には特別無料で聞いてやろう」

「……ふふ、相変わらず偉そうね、あなたは」


 ようやく見せてくれた笑顔。日色もホッとして肩を竦める。


「……どんな願いでもいいの?」

「そうだな。オレにできることならな」

「今のヒイロにできないことなんてほとんどないと思うけど……?」


 彼女の言う通り、たとえ若返りたいや綺麗になりたいなどという、女性が強く思うような願いも、今の日色なら叶えることはできる。魔法を使えばいいだけなのだから。


「別に何でもいいぞ? 巨乳になりたいとかでも」

「きょっ!? ヒ、ヒイロォッ!」


 グイッと詰め寄ってきて頬を膨らませるイヴェアム。


「わ、私はべ、別に貧乳なんじゃないもん! そ、そりゃシュブラーズと比べると見劣りするかもだけど、それなりにはあるもん!」

「わ、分かった分かった。これも冗談だ!」

「もう! ヒイロのバカ! デリカシーがないわよ!」


 どうやら怒らせてしまったようだが、豊かな感情が彼女に戻っている感じで、日色としては嬉しく思う。


「それで? さっさと願いごとを言ったらどうだ」

「…………そうね。それじゃ……」


 イヴェアムが日色の顔をジッと見つめる。瞳がキラキラと光り、月の塔の光を反射して彼女の金髪が美しく輝いている。夜風が冷たいせいか、彼女の頬が林檎のように赤い。


「ヒイロ――――――――抱きしめてほしいな」

「……は?」


 思わずキョトンとなってしまう。どんな難題を吹っかけてくるのかと思って構えていたのだが、あまりに単純な願いに呆気にとられてしまった。


「……ダメ?」


 上目遣いで見つめてくるが、さすがに戸惑いを隠せず、


「ど、どういうことだ? それが願いか? 前とはえらい違うが……?」


 聞いてみると、彼女は首を左右に振る。


「……だって、ヒイロは勝つもの。無事で帰ってくるもの。願わなくても、それは絶対」

「ずいぶんな自信だな」

「うん。だって、ヒイロのこと、信じているから」

「イヴェアム……」

「だから…………今は、ギュッてしてほしいの」


 潤んだ瞳に、熱がこもっているのか彼女の顔が赤い。

 そして日色もまた、彼女の願いに動揺している。


(コ、コイツはオレのことを好きで……でもオレは答えを先延ばしにしてて……。ていうかそんな状況で抱きしめるとかアリなのか? くっ……本ではどうだったか……?)


 こんな時の正しい対処法として本の知識を頼ったが、なかなか良い答えが検索できない。


「ねえ……ダメ? ヒイロォ……」

「う……………………………………分かった」


 このいたたまれない状況の中、逃げ出すのは容易ではあるが、そうしたらきっとイヴェアムはまた悲しんでしまうだろう。せっかく元気づけに来たのに、それでは本末転倒というものだ。


「だ、だがオレからするのはどうも――」


 その時、胸の中に花の香りのような優しいニオイがフワリと鼻に感じた。気づけば、イヴェアムがいつの間にか胸に飛び込んできていたのだ。


「…………お前って、案外積極的な奴だったんだな?」

「……ヒイロにだけだもん」


 照れ臭いのか、顔を上げずに日色の胸に埋めているので声がこもっている。彼女から熱いほどの温もりが伝わってきた。飛び込んできたものの、ジッと彼女は動かない。

 日色は後ろに回っている手で、彼女の背中に触れると、


「……ぁっ!?」


 彼女の身体が小さくピクッと反応する。顔を見ると、どんどん真っ赤になっていく。


「……お前、恥ずかしいなら最初からしなければいいだろ?」

「い、いいの! これでいいの! だからちょっと黙ってて!」


 ギュ~ッと彼女の腕の力が増していき、身体が締めつけられる。


(もしこれが操られている状況だったら、このままサバ折りにでもさせられるのか?)


 こんな状況で考えることなのかどうか分からないが、一応は警戒しておく。まあ、彼女の状態を見るに、操られている様子は微塵もないのだが。


「…………ねえ、ヒイロ」

「あ?」

「……絶対に帰ってきてね?」

「……願いごとは一つじゃなかったのか?」

「そんなことヒイロ言ってないもん」

「……その願いは願うまでもないってさっき言ってなかったか?」

「そんなこと覚えてないもん」

「子供か」


 今度は無視。そのまましばらく彼女の抱擁が続く。


(よくよく考えれば、これって抱きしめてっていうより、抱きしめさせてだよなぁ)


 だがこうして人の温もりに触れるというのは心地好さを感じさせる。自分に好意を持ってくれている人物ならなおさらだ。

 つい日色は無意識に彼女の頭にそっと手を置く。またもピクリと彼女の身体が揺れる。


「……イヴェアム、オレがいない間、この世界を頼んだぞ」

「……うん」

「オレは絶対に奴らをぶっ潰して帰ってくる」

「うん」

「すべてが終わったら、三国合同宴会ってのも面白いかもしれないな」

「うん……そうね、ヒイロ」


 日色は視線をキョロキョロと動かす。そしてそっと目を閉じると、大きく息を吸い込み、


「お前らも、イヴェアムを頼んだぞっ!」


 声を張り上げたことで、イヴェアムもさすがに驚き顔を上げる。


「……い、いきなりどうしたの?」

「いいや、何でもない。ただ叫びたかっただけだ」

「……?」


 可愛らしく首を傾げるイヴェアムの頭を優しくポンポンと叩き、今度は日色から彼女を抱きしめてやった。


「これで願いは叶えたぞ」

「…………うん」


 イヴェアムの目からは涙が流れる。しかしその涙は、先程見た悲しさいっぱいのものではなく、嬉しさが流させたものだということは一目で分かった。

 そのまま日色の腕の中で、イヴェアムは張りつめた糸が切れるように、穏やかな表情のまま眠ってしまった。


 彼女を抱えてベッドまで運ぶ。名残惜しさを感じながらも、窓から出て行く日色。

 すると、屋根の上や空中に、マリオネたち《魔王直属護衛隊》の面々がいた。


「感謝するぞ、ヒイロよ」

「ありがとッス。ヒイロくん」

「陛下のあんな顔、久々に見たわ~」

「うむ。さすがは我らが英雄だな」

「これで普段通りの陛下に戻って頂ける」


 マリオネ、テッケイル、シュブラーズ、オーノウス、ラッシュバルがそれぞれ言葉をかける。先程日色が叫んだのは、彼らの気配を感じたからだ。


「……後は頼んだぞ」


 五人が任せろと言わんばかりに頷きを返す。日色も満足気に頷くと、そこから転移してドゥラキンの洋館へと戻っていった。









 翌日、【ヤレアッハの塔】へ向けて出発する準備がすべて整った日色たちは、ドゥラキンの屋敷の前に集まっていた。

 傍には、日色が転送した空を翔ける船である《スピリット・アーク》の存在もある。


「準備はええんじゃて?」


 ドゥラキンが日色に尋ねてくる。


「ああ、回収できるだけの回復薬も持った。あとは……あそこにいる目障りな連中を潰すだけだ」


 日色がギロリと空に浮かぶ金色の塔を睨みつける。


「スー、ノアを頼むんじゃて」

「――――――――お守り役は慣れている。任せておけ」


 スーが黒鳥の姿でそう言うが、ドゥラキンはその背で気持ち良さそうに眠っているノアを見て呆れたように肩を落としている。こんな時まで寝ているノアに不安を覚えているのかもしれない。


「アタシたちが作った非常食も積んでおいたわ」

「ありがとうございます、クーお姉さま、レッグお兄さま」


 ミミルがククリアとレッグルスに笑みを返す。


「お嬢様、どうかお気を付けくださいませ」

「うむ。留守中、シャモエらのことは貴様に託すぞ、シウバ」

「ふぇぇぇぇ~、本当にご無事に帰ってきてくださいですぅ~」

「ないちゃダメだよ、シャモエちゃん! わらっておみおくりしよ~!」


 シャモエの服をクイクイと引っ張りながらミカヅキが笑顔を見せる。シャモエも「はいですぅ」と返事をして涙を拭った。


「大丈夫ですぞ、シャモエ殿! 師匠たちは、このボクがお守りするですぞ!」

「あらニッキ、あなた一人ではなくて、私もいるのだけれど?」


 ニッキの言葉にはパートナーのヒメが窘める。ニッキも「では二人で頑張るですぞー!」とやる気を見せる。


「ウィンカァ、存分に力を揮ってきなさい。あなたなら、もうあの力も自由に使えるはずですから」

「ん……ととさんも、みんなのことよろしく……ね?」


 ウィンカァの頼みにクゼルがしっかりと頷く。そしてウィンカァは、傍にいるハネマルの頭を優しく撫でつけ、


「ととさんを守って」


 と言うと、「アオォォッ!」と気迫を伝わらせてくるような咆哮を響かせた。自分に任せてくれと言っているようだ。


「ミュアァァァ~!」

「もう、おじさんってば、泣かないで」

「だ、だってよぉ~!」


 アノールドの顔面は、鼻水と涙でいっぱいである。ハッキリ言うと汚い。呆れたようにララシークが彼の足を軽く蹴りながら口を開く。


「ったく、みっともない弟子だな。しゃきっとしなアノールド!」

「そ、そんなこと言ってもですね師匠ぉ~! ミュアが……ミュアがぁ」

「ニョホホホ! ヒイロくんたちに任せておけばきっと大丈夫ですよきっと。多分。恐らく。よく分かりませんが」

「それ慰めにもなってねえよっ!」


 ユーヒットの適当発言に突っ込むアノールド。


「と、とにかく! わたしたちは大丈夫だよ、おじさん! だから信じて待ってて!」

「う……ミュア……。絶対だぞ! 絶対無事に帰ってきてくれよ! 絶対だかんなっ!」

「うん!」

「ミュアァァァァァ~!」


 最後に目一杯ミュアを抱きしめるアノールド。ミュアも苦笑交じりだが、どことなく嬉しそうではある。これほど自分を心配してくれるアノールドに感謝しているのだろう。

 日色のもとに、アクウィナスが近づいてきた。


「ヒイロ、またもお前に託すことにはなるが、くれぐれも用心しろよ」

「安心しろ。さっさと潰して、さっさと帰ってきて、さっさと飯を食べるって決めてるからな」

「お前らしいな」

「お前こそ、オレがいない間は頼んだぞ。特に……」

「陛下のことなら任せておけ。それに動けるのは俺だけではない。シウバやクゼルもいる。あとのことは心配せずとも、お前は『神人族』を打ち滅ぼすことだけ考えろ」

「そうだな。ならそうすることにする」

「世界の希望を、お前が手繰り寄せてくれ」


 ずいぶんと恥ずかしいことを言う彼に、僅かな照れ臭さを覚えるが、自分たちの双肩に世界の運命が託されていることは間違いない。

 『神人族』との最終決戦。それに敗れれば、世界はもう『神人族』の手から逃れることはできないだろう。イヴァライデアの力も弱まっている今、日色たちが敗北すれば、もうこれほどの戦力を集めることもできないはず。


 文字通り、これが世界を取り戻す最後のチャンスなのだ。絶対に敗北が許されない。


「オレは……オレらは勝つ。そのために行くんだ」


 自分にも言い聞かせるように日色は宣言する。《塔の命書》をぶっ潰し、イヴェアムたちを解放するためにも。

 塔へ行くメンバーが次々と船へと乗り込んでいく。


 丘村日色

 ミュア・カストレイア

 ウィンカァ・ジオ

 リリィン・リ・レイシス・レッドローズ

 ミミル・キング

 ニッキ

 テン

 ヒメ

 レッカ・クリムゾン

 ノア・ブラック

 スー


 この十一人が塔へ向かう戦力である。走り出したらもう止まらない。このメンバーで、未知の世界――【ヤレアッハの塔】へ行き、『神人族』を倒さなければならないのだ。


 ミミルが《精霊炉》のある個室へと入っていく。そこにはミミルの身長と同じくらいの台が設置されてあり、その上には巨大な水晶玉のような球体が存在している。


 ゆっくりと台へと上り、ミミルは水晶玉に手を添える。するとそのままズズズズと身体が沈み込んでいき、全身が水晶玉の中にすっぽりと入った。

 そのまま祈るように両手を組むと、


「ラ~ラララ~ララララ~ラララ~」


 歌を口ずさみ始めた。

 刹那、水晶玉が眩い輝きを放ち始めると同時に、船の側面に設置されてある翼がゴゴゴゴゴと鈍い音を立てて動き始める。そして『精霊』の力で作り出される結界が、《スピリット・アーク》を包んでいく。


 翼がはためき、フワリと地上から浮く。それを見てララシークとユーヒットは満足げに頷いている。他の者たちも、船が浮いている姿を目撃して呆けたように瞬きを見失っている状態だ。

 徐々に高度を上げていく船。


(いよいよ出発だな。それにしても、あの糸目野郎は一緒に行かないようだが……)


 気になるのはペビンのこと。スパイ行為をしているペビンのことだから、おいそれと日色と一緒にいるところを上司に見られるわけにはいかないということは分かっているが、昨日からずっと姿が見えないのも気にかかる。


(何かを企んでいることも考慮しておくべきだな)


 契約があるからといっても、ペビンのことを全面的に信用などできない。神出鬼没で神算鬼謀を持つ彼のことだから、また何かを企てている可能性だって高い。

 日色の害になるようなことはしないはずだが、はたして……。


(まあ、向こうで会うだろうし、今はアイツよりも無事に向こうに辿り着くことを考えるか)


 一先ず優先するべきことに専念することにした。

 船に乗り込んだメンバーが、それぞれ地上にいる者たちを見下ろし手を上げたり振っている。それに応えるように、アノールドたちも同様に手を大きく振った。


 口々に地上から激励の声が聞こえてくる。そして船の上からも、一際大きな声で、ミュアが叫ぶ。


「行ってきまぁぁぁすっ!」


 千切れんばかりに手を振っているアノールドに向かって手を振るミュア。

 船はさらに高度を上げて、ドゥラキンの結界から抜け出る。そのまま空を翔け出し、塔へと向かって突き進む。アノールドたちが豆粒みたいに小さくなっていく。


 皆が視線を地上から塔へと移す。誰もがこれから臨む戦いに身を引き締める。


「さあ、行くぞ!」


 日色の掛け声に、それぞれが反応を返す。

 未来を決める決戦への舞台へ――。




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