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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第八章 ヤレアッハの塔編 ~真実への道~
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217:レッグルスの戦い

「デューク? それじゃユニークモンスターか? しかもSSランクの」


 SSランクのユニークモンスターの特徴として、その強さを表す指標に下から、バロン、カウント、マークィス、デュークと四段階に分けられる。

 デュークキーパー。つまりはSSランクの中でも最強クラスに位置するモンスターだということ。


「お主の言う通りじゃて。デュークキーパーは、《黒樹の番人》と昔から呼ばれておるモンスター。奴に認めてもらわねば、決して《黒樹・ベガ》を入手することはできん」

「認めてもらう? どうやってだ?」

「方法は簡単じゃて。倒せばええ」

「それならシンプルで分かり易いな。楽勝だ」

「ちょっと待ってヒイロくん」

「何だ?」


 レッグルスが制止をかける。


「確かに君ならたとえSSランクのユニークモンスター相手でも問題無いと思う。あの魔神すら倒した君だ。だが俺たちは違う。それとも君が倒してくれると言うのかい?」

「いや、オレはここに来る前にレオウードからある言葉をもらってる」

「ち、父上から?」

「ああ」


『ヒイロ、今回の依頼だが、できる限りお前はサポート役として徹してくれたら嬉しい』


「ち、父上がそんなことを?」

「ああ、だからオレはあくまでもサポート役。そのモンスターを倒すのはお前らの役目だ。無論ミミルは別だがな」


 戦闘力0に近い彼女を戦わせることは絶対できない。そもそもミミルの護衛役としての任も兼ねている日色なのだから。


「だ、だったら尚更だ。ただのSSランクのモンスターなら、俺やプティスがいれば何とかなるはず。しかし相手はユニークモンスターで、しかも最強クラス。さすがに手が余るかもしれない」

「おいおい、次期獣王ともあろう奴が弱気でどうする。レオウードは武者修行で一人でここへやって来てるんだぞ? 仲間がいるお前が尻込みしてる場合じゃないだろ?」

「それは……確かにそうだけれど」


 レオウードからレッグルスについてある程度性格的なものについては聞いている。

 慎重派で石橋を叩いて渡るような性格。穏やかで争いを好まず、身体能力的には恵まれていても、レオウードのように戦いでそれをすべて発揮できていないようだ。無意識に相手に攻撃を加える時にブレーキがかかるらしい。


「相手はモンスターだ。遠慮なく全力をぶつけてみたらどうだ? オレもいるし、それにコイツも一緒に戦うからな」


 日色はニッキの頭に手を置く。彼女はやる気満々のようで拳を高く突き上げて、


「はいですぞ! どんな相手もボクの《爆拳》でイチコロですぞぉ!」


 少しは身の程も知ってもらいたいと思いつつも、ニッキのように前向きな性格は強くなるために必要不可欠なのだ。


「試練だと思ってやってみたらどうだ? レオウードはお前に期待してるからここへ派遣したんだろうしな」

「ヒイロくん……」


 それでも踏ん切りがつかないのか思案顔を浮かべている。


「レッグ兄さま、わたしは兄さまを信じております」

「ミミル……」

「わたしは知っております。いつも夜遅くまで兄さまが鍛錬をなさっておられるのを」

「……見ていたのかい?」

「たまたまです。ですが、毎日強くなろうとなさっておられる兄さまなら、きっと父さまのご期待にも応えられると信じております」

「うん、レッグルス様は強い。レオウード様も言ってた」

「プティス……」


 レッグルスは自分の右手を開いて視線をそこへ落とす。ギュッと拳を作ると、覚悟を決めたように顔を引き締める。


「分かったよ。俺は次期獣王として、必ず《黒樹・ベガ》を手に入れてみせる!」


 良い顔になった。先程まで弱腰だったがさすがはレオウードの息子だ。覇気が身体から滲み出ている。やる気になったようだ。


「はわぁ~ん、レッグルス様、カッコ良過ぎですぅ~!」


 目をハートにしながらクネクネと身体を動かしている気持ちの悪いドウルは放っておいて、日色はドゥラキンに視線を向ける。


「なら案内してもらおうか、《銀米草》のある場所へ」

「……いや、ヒイロくんそれはあくまでもオマケだからね」


 レッグルスの突っ込みが入った。







 洋館を出ると、外は《赤い雨》は過ぎ去っていた。


「あと数時間くらいは雨は降りませんよ。とはいっても、雨が降るのはここら辺だけですけど。《黒樹》がある場所は降らないので心配ありませ~ん」


 案内役としてドウルが同行することに。ドゥラキンはぎっくり腰が結構酷いらしく洋館で養生することになった。本当にアレが伝説の『虹鴉』なのだろうか……?


 結界を抜け出ると、すぐさま濃霧が周囲を覆い隠していく。まるで霧自体が生きているかのよう。はぐれないようにドウルが用意したロープを皆で掴んで歩いている。ミミルだけは日色の腕を掴んでいるが。


「実はですね~、デュークキーパーがこの霧を生み出しているんですよ~」

「そうなのかい?」

「は~い、レッグルス様。こうやって侵入者を惑わせ、戦いの地まで辿りつけさせないようにもしているんですよぉ」


 確かにこれほどの濃霧であれば、《黒樹・ベガ》を見つけることは不可能に近いだろう。何せ一メートル先が見えないのだから。


「あ、でも安心して下さいね~。デュークキーパーは知性のあるモンスターで、正々堂々騎士道精神溢れる存在なので、いきなり不意打ちするとかはないですから」

「そ、それは助かるね」

「ですが、レッグルス様を信用していないということじゃないんですけどぉ……本当に倒せますか? 相手はマジで強いですよ?」

「それは分からないね。ただ俺は仲間たちとともに全力でぶつかるだけさ」

「わたしはドゥラキン様から見守るようにと言われていますので、口惜しいですけど満足のいくサポートもできません。助言くらいはできますが……」

「ううん、その気持ちだけで嬉しいよドウル。ありがとう」

「あ~ん! そんなそんな! 夫の役に立ちたいと思うのは妻として当然ですよ~! それにここで良い女を演じればきっとレッグルス様はわたしの虜。もう抜け出せないくらいにわたしを愛しちゃいますよね~。キャー! そうなればわたしは獣王夫人じゃないですかぁ! あ~『獅子族』は愛し方も情熱的だと聞きますから、きっとわたし壊れる寸前くらいまで愛し尽くされるんですね……ううん、むしろそれってご褒美だから! ドMなわたしにはカモンベイベーだから! あ~ん、早く結婚したいィィィ~ッ!」


 そんな妄想を爆発させる包帯女に対し、日色たちは呆気に取られている。


「……レッグルス、良かったな。これで【パシオン】も安泰だ」

「ええっ!? ヒイロくん何を言ってるんだい!?」

「ドウルさんがお義姉さんになるのですね。できればその時は素顔を見せてほしいです」

「ちょ、ミミルまで!?」

「レオウード様もきっと喜ぶ」

「プティスまで、誤解だってば!」

「おめでとうですぞドウル殿!」

「ありがとーニッキちゃん! わたし幸せになるね!」

「ああ~……何故か外堀から埋められていく……」


 からかったつもりだが、このままトントン拍子に話が進められていき、本当に結婚したらそれはそれで面白いと思う日色だった。


 がっくしと肩を落としているであろうレッグルスを想像し、少しだけ同情をするが、基本的に自分に関係無いのでそのままスルーすることにした。

 その時、先頭を歩くドウルの足が止まったせいで、互いに身体をぶつけてしまう一行。


「え? あ、ドウル? どうかしたんですか?」


 ドウルのすぐ後ろを歩いていたレッグルスが声をかける。


「確かこの辺に、岩が二つ並んでいるところがあるんです」

「そうなのかい? それがどうしたんだい?」

「その岩の隙間に入っていき、その先に……」

「……デュークキーパーがいるということ?」

「はい」


 先程までのお茶らけた雰囲気が一掃される。一様に緊張感が走る。ドウルが感覚を済ませて周囲を確認。


「ありました。離れずについて来て下さいね」


 彼女が再び歩き出す。この霧の中で迷わずに進めるのは、彼女が『精霊』で視る種族だからであろう。そうでなければ日色はともかく、他の者は完全に道を失ってしまうこと確実である。


 歩いていくと、両端に岩の存在を確認できる。確かに今、こうやって歩いていると岩の隙間を進んでいることが分かる。ちょうど一人が通れるくらいの窮屈さではあるが。


 しばらく歩いていると、どういうわけか霧が薄れていく。闇に包まれている眼前に、どこからか射しこんでくる光が映る。


「あそこが出口ですよ」


 さらに高まる緊張感。特にレッグルスが一番緊張しているようで顔を強張っている。この先に試練があるのだから無理もない。

 光の中へ飛び込み、思わず眩しさで顔をしかめてしまう。目が慣れたところ、ようやく自分たちがどこにいるのか把握することができた。


「――これはっ!?」


 そこはまさに幻想的な空間だった。


 穏やかな風に運ばれる銀色の花びら。赤茶色の大地が広がり、その先には緑豊かな草花が生い茂り、その中に一際大きな大樹が伸びている。先程まで暗い霧の中にいたというのに、ここはその様相を一切見せないほど明るい太陽に照らされている場所だった。


 そして日色たちのすぐ目の前には地中に埋まった岩が半分ほど顔を覗かせており、その上に胡坐をかいて座っている存在がいる。あれがデュークキーパーなのだろう。


「侵入者……か」


 驚くことに、その存在が口を開いた。







 口で何と説明したらいいのだろうか……。


 目の前にいる番人。その姿はモンスターにも思えるし、人にも思えるような見た目をしている。


 人型……そう、人型といえるだろう。身長は大体二メートルほど。プレートアーマーを装備し、腰には二本の剣が携えられている。


 ただ奇妙なのは、顔の部分が、まるで何も描かれていない面でも被っているかのように、本来あるべき顔の形がない。目も鼻も口もだ。だからモンスターにも思える。


(だが喋ったぞ……?)


 そう、それが一番の疑問。モンスターは本来人語を話すことはない。少なくとも日色は今まで旅をしてきて出会ったことはない。


「おい妄想女、コイツがデュークキーパーなのか?」

「誰が妄想女ですか!」

「返事をしたってことは自分でも認めてるんじゃないか」

「ぶぅ~! レッグルス様ぁ~」

「あはは、えっとぉ……ドウル、彼がもしかして番人ですか?」

「その通りです~!」


 この女……。日色はレッグルス相手になら簡単に話すドウルに呆れる。


「彼がここ【黒樹高原】の番人――デュークキーパーです」

「で、でも喋りましたよ?」

「そりゃ喋りますよぉ、それが彼のユニークたる所以ですからぁ」

「……? どういうことだ、妄想娘?」

「あ、あなたはほんとーに無礼な人ですよね……はぁ、まあいいでしょう。彼のユニーク特性は人の知性です。こういうタイプのユニークモンスターは決して珍しくありません。特にSSSランクにもなるモンスターの中にはそういうタイプが多いと聞きます。それに彼はランクこそSSランクと位置づけられてますが、その実力はSSSランクと遜色ありません」


 これは益々厄介なことになった。まさか人と同等の知性を持っているとなれば、戦い方が非常にシビアなものになってくる。


 普通のモンスターなら単純な罠にも引っ掛かり倒すことができるだろうが、知性があるということはそれを見抜いた上で、逆にそれを利用することまで考えることができるということ。


(まあ、どの程度の思考能力を持ってるかは分からんがな)


 それでもSSSランクの実力に人の知性。他にも恐らく異能を持っているはず。


(これはレッグルスだけじゃ心許ないか……?)


 それでも今回は、サポートに徹しようと決めているので、すべてはレッグルスの判断に任せる。

 するとレッグルスが一歩前に出てデュークキーパーと対峙する。


「デュークキーパーよ! 我々は《黒樹・ベガ》を求めてやって来た。できれば争いなどではなく、他の交渉で道を譲ってはくれないか!」


 まずは一つの可能性。極めて低いだろうが、レッグルスの問いにどう答えるのか……。


「我、番人なり。《黒樹》を手に入れたければ、我を超えて行け」


 デュークキーパーから凄まじい敵意が迸る。ここから先には通さないという意志表示。


「どうやら戦わないといけないみたいだな。ヒイロくん」

「ああ、存分にやれ」

「わたしは見守っていますね~」


 そそくさと後ろへ下がって観客モードに移行したドウル。


「ミミル、アイツの傍にいろ」

「は、はい!」


 一応あの『虹鴉』の精霊なのだからミミル一人守るくらいはわけがないだろう。


「指揮は任せるぞ、王子様?」

「分かってるよ! ヒイロくんは支援を中心に、皆の身体能力を上げられるなら上げてくれ」

「任せろ」

「プティスとニッキは俺と一緒に彼を包囲し、一斉に攻撃を仕掛けるよ!」

「おっけーです」

「はいですぞ!」


 日色は言われた通りに彼らに向けて『加速』の文字を三回放つ。


「……よし! ありがとうヒイロくん! 行くよ二人ともっ!」


 レッグルスの掛け声をきっかけに三人が一挙に相手との距離を詰める。しかしデュークキーパーは慌てることなく、そのまま何もせず佇んでいるだけ。


(妙だな……防御態勢もとらないのか?)


 脳裏に浮かぶ疑惑。腰に下げている剣でも抜いて身構えるかとも思っていたがそうではない。ただ自然体にその場で立っているだけ。


 対して三人は『加速』の文字により、飛躍的にスピードは上昇しているので、すぐに相手を囲むことに成功。レッグルスは腰に携帯している剣を抜くと、


「――《水の牙》っ!」


 剣に纏った大量の水が斬撃になってデュークキーパーへと迫る。次いで、


「――《氷の牙》っ!」


 プティスが手裏剣のような小さな物体を投げつけると、その周りを氷が覆い鋭さを数段アップさせる。


「《爆拳・弐式》っ!」


 ニッキは右拳に込められた魔力を放つ。三者一様に遠距離攻撃による奇襲。彼らの攻撃が当たる瞬間、デュークキーパーの指がピクリと動いたのを日色は見逃さなかった。


 まさに閃光のような動きで双剣を抜くと、三つの攻撃に向かって青い剣線が光る。見事に三つの攻撃を斬り裂いたデュークキーパーから、一気に膨れ上がる殺気に日色たちの顔が強張る。


「くるぞっ!」


 日色が咄嗟に叫ぶと同時に、デュークキーパーは大地を蹴り上げてニッキをターゲットに捉える。その巨体に似合わず雷のような動きに、虚を突かれるニッキ。


「ちっ! ニッキ! 地面に向けて《爆拳》を放てっ!」

「は、はいですぞっ!」


 日色の判断によりニッキは拳を地面に叩きつける。刹那、地面が爆発し向かってきていたデュークキーパーも一旦足を止めた後、後ろへ下がる。


 そんな彼に後ろからレッグルスが迫る。しかしデュークキーパーは振り向きざまに左手に持った剣でレッグルスの剣をあっさりと受け止める。そのまま即座に右手に持っている剣で弧を描きながらレッグルスを攻撃しようとする。


 だがそこで足元から伸び出てきた氷の塊により剣が弾かれてしまう。プティスの仕業だ。

 さらにデュークキーパーの背後から爆煙を突き破りニッキが飛び出てきた。


「うおぉぉぉっ! ――――《爆拳》っ!」


 津波のような一連の攻撃。さすがの相手もこれでダメージを受けるだろうと誰もが思っていた。

 しかし突如として、デュークキーパーの肉体に赤身が増し、筋肉が膨れ上がる。身体から紅いオーラが迸り、そのまま力任せに身体を独楽のように回転させる。


「うわぁぁぁっ!?」

「のわぁぁぁっ!?」


 彼の近くにいたレッグルスとニッキが、回転で生み出された風圧で吹き飛んでしまう。デュークキーパーを中心に小さなクレーターが生まれる。


「おいおい……アレって《太赤纏》じゃないのか?」


 日色の眼に映るのは《太赤纏》に似た技を使っているデュークキーパー。先程とはうって変わって膨大なエネルギーを感じる。


「お主ら、少しはやる。久しぶりに本気が出せそうだ」


 どうやらまだまだ本気とは程遠いようだ。


「ぐ……っ」


 レッグルスは身体を起こし、相手を睨みつける。


「強い……さすがは《黒樹の番人》だ。でも、俺たちにも《黒樹》は必要なんだ! 絶対にあなたに勝って《黒樹》を手に入れてみせる!」

「ほう、私利私欲のため、というわけではなさそうだな。しかし我も番人。いかなる理由があろうと、ただで《黒樹》を渡すわけにはいかん」


 デュークキーパーが再び双剣を構え直す。


「力を示せってことかな?」

「……《獅子族》の王子よ、我を認めさせてみよ」


 デュークキーパーが持つ剣へと紅いオーラが集束する。そしてそのまま再び回転すると、水を打って波紋が広がっていくように赤い斬撃が周囲にいるレッグルスたちに襲い掛かる。


 だがその時、三人の身体がフワリと浮き、空へと舞い上がる。三人は何が起きているのか分からず困惑していたが、すぐさま誰の仕業か分かったように同時に視線を向ける。

 無論彼らを救ったのは日色だ。デュークキーパーも日色に顔を向けてくる。


「……何をした?」

「さあな、知性があるんなら、自分で考えたらどうだ?」

「…………」


 日色の両手の人差し指の先には、


『三人』と『飛行』


 の文字が浮かび上がっている。日色の魔力を消費して、彼らを操作して飛ばせることもできるが、それには意識を集中させなければならないので非効率。故に……。


「お前ら! そのまま自由に飛行できる! こんな状況だが、すぐに慣れろ!」


 とは言われても初めての経験であるレッグルスとプティスは、空を飛ぶことに至難している。ただニッキだけは、


「くらうですぞっ! ――《爆拳・弐式》っ!」


 以前にも何度か経験させているので見事な飛行を見せながら攻撃をデュークキーパーに放っている。しかしデュークキーパーも俊敏な動きを見せて回避していく。そのまま今度は日色の方へ突進してくる。


「どうやらお主を先に潰した方が賢いようだ!」


 支援役を先に断つ。それは戦略上最も有効な手段ではあるが、


「舐めんなよ」


 パンと両手を合わせる。


「――――《太赤纏》!」


 日色の身体をデュークキーパーと同じような赤いオーラが包む。《絶刀・ザンゲキ》を抜き、向かってくるデュークキーパーに向かって、


「――《熱波斬》っ!」


 斬撃を放つ。相手も予想だにしていなかった攻撃のようで、咄嗟に剣をクロスさせてガードするが……攻撃が当たった瞬間に爆発が起きて、デュークキーパーはそのまま後方へと吹き飛ぶ。


「言ってなかった。オレの攻撃は爆ぜるぞ」


 奇しくも先制点を取ったのは支援役の日色だった。

 


 日色の《熱波斬》の効果により後方へと吹き飛んだデュークキーパーだが、さしたるダメージがないようで、転倒することもなく見事に着地を決める。

 そこへニッキの《爆拳・弐式》が飛んでくる。


「むっ!?」


 ニッキは日色ならデュークキーパーを後方へと吹き飛ばすと信じていたようだ。彼が着地する前に、《爆拳・弐式》を放っていた。

 デュークキーパーは剣をクロスさせて防御するが、発現した爆発力により再び後方へと吹き飛ぶ。


「うおぉぉぉぉっ! 今度は直接叩き込むですぞぉ!」


 そんなことを口にするなと言いたい日色だが、真っ直ぐで単純なニッキはほぼ無意識に口走ってしまうことを知っているので何も言わない。


 ニッキは空から滑空してデュークキーパーへと突っ込む。だがその時、レッグルスは冷静に状況を観察していた。


「今のは吹き飛んだというよりは、自分から跳んだようだった……!」


 つまりデュークキーパーは《爆拳・弐式》によって吹き飛ばされたのではなく、自ら後ろへ跳んでダメージを逃したということ。見れば日色の時と比べると体勢もまったく崩れていない。


「いけないっ! プティス、援護をっ!」

「はい!」

「俺の水を凍らせるんだ! 《水形珠》っ! ――形状・滝っ!」


 レッグルスは右手をデュークキーパーの頭上へとかざすと、右手から球体状の水塊が放たれデュークキーパーの頭上で停止する。パァンッと弾いたと思ったら、滝のようにデュークキーパーの身体を叩く。


「ぐぬっ!?」


 ニッキの攻撃に意識を集中していたせいか、レッグルスの攻撃への対処が遅れて身体が前傾姿勢に折れ曲がってしまう。ニッキも「え!?」と驚きを見せつつ、一旦突進を中止する。


「よし! 今だプティス!」


 レッグルスの掛け声によりプティスが滝に向かって手裏剣状の武器を投げつけ、触れた瞬間に一気に凍結する。滝に埋もれていたデュークキーパーもそのまま氷漬けになった。

 三人は空から地上へと降りるが、ニッキは不満そうにレッグルスに詰め寄る。


「レッグルス殿! せっかくボクのターンですのにぃ!」


 その時、コツンとニッキの頭を日色が小突く。


「ふにゅっ! い、痛いですぞ師匠!」

「バカ弟子、お前はレッグルスに救われたんだよ」

「……はへ?」

「お前の攻撃で奴は確かに吹き飛んだ。しかしアレはわざとだ」

「へ……わざと?」

「そうだ。わざと後ろへ跳んでダメージを逃がし、追撃してくるお前にカウンターを食らわせようと画策していた」

「…………」

「レッグルスはそれに気づいて、奴の動きを奪う攻撃をしたんだよ。まったく、いつも状況判断だけはしっかりしろと言っているだろ? あのまま突っ込んでいたら、間違いなくカウンター攻撃を受けていたぞ」

「うぅ~……」


 ニッキは申し訳なさそうにレッグルスに身体ごとむけると頭を下げる。


「も、申し訳ありませんですぞレッグルス殿!」

「はは、いいよ。俺だって失敗することはいっぱいある。少しずつ強くなっていけばいいんだ」

「は、はいですぞ! ありがとうございますですぞ!」

「レッグルス様、ニッキ、そんなことより……くる」


 プティスの声が二人の緊張を引き戻す。氷漬けにされたはずのデュークキーパーが力任せに氷を破壊して突撃してきた。ただの突撃ではない。

 左右に素早く動きながら攪乱する手法を選択している。


「動くなよ、お前ら」


 日色は『防御』の文字を使い四人の周囲に魔力の壁を作る。

 デュークキーパーが剣をクロスさせて振り抜いてくる。


 バチィィィィッと壁と剣とのせめぎ合いが起こり、あろうことか日色の防御フィールドが徐々にひび割れていく。


「ちっ、二文字じゃきついか。お前ら後ろへ下がれ!」


 日色の言葉を受けて一斉に後方へ距離を取る一行。同時に壁は相手によって斬り裂かれてしまい、そのままデュークキーパーの剣戟が大地を抉る。


「やはりさすがはSSランクのモンスターだな。あっさりと二文字を打ち破ってくるとはな」


 過去にもそのような存在は確かにいた。あのレオウードもそうだ。少なくともレオウードの腕力と良い勝負だということだろう。


「――《流水転化》っ!」

「――《氷雪転化》っ!」


 レッグルスとプティスによる《転化》が成される。全身を水と氷に転化させるこの技で、単純な物理攻撃を無効化する作戦なのだ。

 二人は一気にデュークキーパーの懐へと入る。しかし相手も十分な反応で、カウンター気味に二つの剣をそれぞれに突き刺してくる。グサッと二人の身体に剣は突き刺さるが、


「「効かないっ!」」


 そのままレッグルスは剣を振り抜き、プティスは氷の剣を作りデュークキーパーに斬撃を繰り出す。

 ただ相手の反射も鋭く、攻撃が効いていないと思った瞬間、後ろへ大きく跳び回避しようと試みる。


 だがさすがに一歩遅かったようで二人の斬撃を受けてしまい分厚い筋肉の塊である身体から赤い筋が二本走る。


「ニッキ! 追撃だよっ!」

「任せるですぞっ!」


 レッグルスの合図の前にすでに準備をしていたニッキは、彼らの背中を跳び越えデュークキーパーへと迫る。


「くっ! やらせない!」


 デュークキーパーが再び身体を回転させてニッキを吹き飛ばそうとするが、途中で回転が止まってしまう。

 まさに驚愕。デュークキーパーはそこで自身の身体に纏わりつく糸のようなものを発見する。


「こ、これは――――っ!?」


 すでに日色は先手を打っていた。


「……回転はさせないぞ」


 デュークキーパーの足元に光る赤い文字。それは『粘着糸』の文字。大地から伸び出た粘着性の高い無数の糸が回転する彼の動きを拘束した。


「全力で叩き込めっ!」

「はいですぞぉぉっ! 一撃決殺――――《爆拳》っ!」


 逃げ道を失ったデュークキーパーは、ニッキの拳をまともに受けてしまった。凄まじい爆発が生まれ、爆風によりニッキが目前から吹き飛んでくる。彼女をレッグルスとプティスが受け止める。


「見事だったよ、ニッキ」

「うん、大成功」

「えへへ、やったですぞ」

「はは、でもさすがはヒイロくん、いつのまに仕掛けてたんだい?」


 レッグルスの疑問が飛んでくる。


「そんなもん、すでにあちこちに設置してある」


 戦闘が始まった直後から、デュークキーパーの目を盗んであちこちに設置文字として様々な罠を仕掛けておいたのだ。そこへ敵が入り込めばいつでも発動できるように。

 サポート役として日色はきっちりと仕事はしている。


「だが油断するなよ。ノーダメージってわけじゃないだろうが、まだ倒せたかは分からん」


 日色の注意に三人が改めて爆煙の中を凝視する。そこに浮かぶ一つの影。次第に煙が晴れていくと、そこからはいまだに糸に縛られているデュークキーパーが現れる。

 やはり無傷ではない。レッグルスとプティスの斬撃と、ニッキの《爆拳》で確実に傷ついている。


 装備しているプレートアーマーも砕けてしまっている。


「……なるほど、個々の技をこれほどまでに連携して高めるとは驚きだ。これまでの侵入者とは比べものにならない練達さを思わせる」


 ただ日色もこれほど連携が上手くいくと思っていなかった。

 ニッキはともかく、レッグルスとプティスと組むのは始めてだ。それなのにこれほど上手く連携が取れているのは、やはりレッグルスが的確な指示を与える前に、彼女たちにアイコンタクトを送っているからだろう。


 さらにそれだけでなく、要所要所でレッグルスが状況を観察して二人のサポート役までこなしている。彼個人にレオウードほどの力強さはないが、仲間を上手く使いこなす手腕は驚嘆に値する。


(これはレオウードとはまた違った獣王の誕生だな)


 どちらかというとイヴェアムのようなタイプかもしれない。他人の力を引き出す戦い方。それが彼の真骨頂なのだろう。


「見事なものだ。一つ、試させてもらっていいか?」


 それはレッグルスに問いかけられている。


「……何です?」

「次、我の一撃をお主一人が防ぎ切れたら、この道を譲ろう」


 さあ、面白いことになってきた。







「一撃? お、俺がですか?」


 突然のデュークキーパーによる提案。レッグルスが明らかに戸惑っている様子を見せる。


「左様。我の一撃をお主が防ぎ切れるか否か、是非試させてもらいたい」

「……何故ですか?」

「お主、『獅子族』の者であろう?」

「はい」

「かつて我はジングウードなる者と対峙したことがあった」

「しょ、初代様とっ!?」

「彼もまた己の力量を我に示した。彼に連なる者よ、その力を示したまえ」


 正直言えば、そんな提案など無視して皆で叩き込めばいずれ勝てるだろう。相手がまだ本気ではないとはいえ、日色も前に出ると勝負はつくはず。


 しかし相手は別に憎い敵でも何でもない。こちらはあくまでも挑戦者であり、向こうは試す側。相手の思惑に従って行動するのも試練の一つだと判断できる。


(さて、王子様はどうするか……)


 傍にいるプティスとニッキもチラチラとレッグルスの意見を求めるように視線を彷徨わせている。


「俺は…………も、もし防ぎ切れなかったら?」

「当然ここから出ていくことを了承してもらう」

「……!」


 つまりもし勝負を受けるなら負けは許されないということ。日色にとってもせっかく美味い食材である《銀米草》を目の前にしておめおめと引き下がるわけにはいかない。もしレッグルスがダメなら自分がと考えてもいる。


 レッグルスは選択に迷っているようで表情が厳しい。


「無論、お主ら全員で我とこのまま戦い続けるという選択もある。そちらの方がより勝利の可能性としては高かろう。あくまでもこれは我の我が儘みたいなものである。さあ、返答はいかに?」


 デュークキーパーの問いに対し、レッグルスは一度皆の顔を見回す。プティスとニッキは軽く頷きを返す。

 ということは彼女たちはレッグルスの好きにしていいという意志表示だ。視線が日色へと向かう。


 日色は腕を組みながら真っ直ぐレッグルスの目を見つめる。戦うなら絶対勝てという意志を込める。彼に伝わったのか分からないが、微かに苦笑を浮かべると、再びデュークキーパーと対面する。


「一撃……一撃を防げばいいんですね?」

「ああ。だが一つだけ言っておこう。《転化》は通じんぞ」


 レッグルスの顔が強張る。つまりただの物理攻撃ではないということ。SSランクでユニークモンスターの最大攻撃が恐らく放たれるのだろう。それをいかにして耐えるか……まともに受けたら日色でも防ぎ切ることは厄介かもしれない。


「レッグ兄さま……信じております」

「頑張ってくださいませ~っ! レッグルス様ぁぁぁ~っ!」


 少し離れた場所ではミミルとドウルがそれぞれ彼に言葉を届けようとしている。

 彼はそんな彼女たちの想いを受け一度ゴクリと喉を鳴らす。微かに身体が震えているのが分かる。予想もできない攻撃を防がなければならない。もし失敗すればそれはレッグルスのせい。そんなプレッシャーが彼を攻め立てているはず。


 だが彼はカッと力強く開いた眼差しをデュークキーパーにぶつけると、


「分かりました! その条件を受けます! お願いします!」


 決断した。


「うむ。ならば少し距離を取るのだ」

「……はい」


 レッグルスが決断したと同時に、日色はデュークキーパーを拘束している糸をキャンセルして消した。


 両者だけが動き、日色たちから離れていく。対面する両者。互いの距離は二十メートルほど離れているだろうか。


「準備ができたら始める」


 デュークキーパーのその言葉に、レッグルスは大きく何度も深呼吸を繰り返す。両手に携えた剣をきつく握り、力を溜めていく。



「……準備はできました」

「……では」


 刹那、まるで火山が噴火したような勢いでデュークキーパーの身体から紅いオーラが立ち昇る。

 距離が離れているはずなのに、大気を伝ってビリビリと日色の身体まで震わせてくる。


(とんでもない力強さを感じる……!)


 まさしくアレは自分が《太赤纏》を使い最大級の《赤気》を纏っているのと同義。

 耳鳴りのような音とともに立ち昇っていた紅いオーラが、双剣に集束していく。ただそこにいるだけで力の奔流が漏れ出て大地を軋ませ風を生んでいく。


「流水転……いや、これじゃダメだ」


 レッグルスが《転化》を扱おうとして中断する。先程《転化》は通じないと言われたことを思い出したのだろう。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」


 レッグルスも身体からオーラを滲ませていくが、比べてみても明らかにデュークキーパーの方が大きい。このままぶつかれば勝負の結果は火を見るより明らか。


「……見せてもらうぞ、次代を担う若き力を――」


 さらに高まっていくデュークキーパーの力。皆が言葉を呑み込み静かに見守る中、レッグルスとデュークキーパーの一騎打ちが始まる。




     ※



 レッグルスは、自身が武人としてレオウードほどの高みにいけないことは承知していた。レオウードのあの強さは天から授かった生まれ持った資質。自分には無い。


(単純な力比べなら、俺はレニオンにも劣る)


 弟は戦いの素質に恵まれている。それこそレオウードと同等のものを持っていると思う。だから本来ならば力の強い者――レニオンが次代の獣王になった方が良いと思っていた。


 しかしレオウードからは「次代はお前だ」と言われている。

 そしてレニオンもまた、レッグルスならばと支持してくれているが、何故そこまで自分に価値を求めるのかレッグルスにはいまだに分からない。


『これからは力ではない。この世界を変えていくには、力ではなく心の強さが必要になる。お前は誰よりも心が強い。お前は自分に自信がないと言うが、民も兵も……そして我々もお前が次の王だと信じておる。何故だか分かるか?』


 レオウードに問われた時、解答が見つからなかった。


『それはな、お前という器に誰もが惹かれているからだ。確かに単純な力ならばレニオンの方が上なのかもしれぬ。しかしお前には他人の痛みを知り、それを我が事のように受け止める器がある。これから先、必要になってくるのは、お前のその大きな器だ。力が大きいから強いのではない。心が大きいから強いのだ。強くなれ、我が息子よ』


 レッグルスはレオウードの激励を受けて日々精進することにした。今までも怠ったことはなかったが、さらにもっと高みを目指したいと思うようになった。


 だからこそ誰もが寝静まった夜に、一人鍛錬をして己を成長させようとしてきたのだ。まだ心の強さというものがどういうものか分からないが、レオウードが信じてくれた自分を信じてみようと思った。


(答えはまだ見つかってない……だけど、俺は皆から託されたものがあるんだっ!)


 瞬間、レッグルスの身体が光り輝き出す。


「行くぞっ! 若き『獅子族』よっ!」


 デュークキーパーから暴虐にも思えるほどの殺気と力の流れを感じる。全身に怖気が走り死を予感させる。

 彼は剣をクロスさせると、そのままゆっくりと上体を反らしていく。距離はかなりある。だが感覚ではすぐ目の前に剣を突きつけられているような錯覚を覚える。命を握られている感覚。


 デュークキーパーの両腕の筋肉がボコボコッと膨れ上がる。彼の足元に広がる大地に亀裂が走る。


「受けてみよっ! ――――《鳳凰我十字(ほうほうがじゅうじ)》っ!」


 光のような速度で振り下ろされる二つの刃。そこから放たれる紅い斬撃。それが形を変えて鳳凰のような形状を作りレッグルスへと向かってくる。


「俺だって負けるわけにはいかないんだっ! うおぉぉぉぉぉっ! ――――《一閃の紫水(しすい)》っ!」


 レッグルスもまた剣を振り抜く。紫色に染まった水が剣から縦一文字に放たれる。


 両者の中央周辺で二つの攻撃が衝突する。バヂヂヂヂヂヂィッと力を削る音とともに下方に広がる大地が塵と化していく。だがそれは明らかにデュークキーパーの攻撃による影響である。

 証拠にレッグルスの《一閃の紫水》は力負けして徐々に押し返されていく。


「まだまだぁぁぁっ!」


 レッグルスは何度も何度も斬撃を放つが《鳳凰我十字》の勢いは一向に弱まらない。このまま紅い衣を纏ったあの火の鳥に喰われれば、跡形もなく消失してしまうだろう。


(俺は……結局強くはなれないのか……っ!)


 だがその時、ふと仲間たちの顔が目に入ってきた。レッグルスを心配そうに見つめるプティスやミミルたちの顔。


(俺は……俺は……っ)


 迫りくる鳳凰を前にして恐怖で身体が震える。


『強くなれ、我が息子よ』


 レオウードの言葉が再度脳裏を過ぎる。信じてくれる者たちの顔が次々と浮かび上がる。


「俺は――――――――――――強くなるんだぁぁぁっ!」


 その時、頭の中で水をうったような波紋が広がる感覚を覚えた。同時にある名前が浮かび上がってくる。


「け……顕現せよっ! ――――ライオォォォグゥゥゥゥッ!」


 レッグルスの背後の空間に亀裂が走り、ガラスを割った音とともに空間を斬り裂いて青紫色の獣が姿を現した。それはレオウードのシシライガとどこか似た存在である。


「何っ!? 覚醒っ!?」


 デュークキーパーの困惑の声。彼だけでなく日色たちも一様に吃驚している。


「はあはあはあ……お、俺にも《現象の儀》ができた……! 頼む……ライオーグ……俺の全部を使っていい……アレを打ち破ってくれぇぇっ!」


 レッグルスから迸る大量のオーラがライオーグへと注がれていく。ライオーグの身体が一回り大きくなると、大地を蹴り出し鳳凰へと突撃していった。

 再び激突する両者の攻撃。しかし今度は鳳凰の動きがピタリと止まる。


 両者が唸りを上げる。しかしそれでもやはりまだ力不足なのか、微かに押され出すライオーグ。レッグルスも徐々に意識が刈り取られていきそうになる。


「頑張ってくださいっ! レッグ兄さまぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 愛しい妹の声がレッグルスの正気を呼び戻す。


「兄として……次代獣王として…………負けるわけにはいかない! 俺は……俺はあなたを越えるぅぅぅぅぅぅぅっ! いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 さらに力を増すライオーグ。その眼が紅く光り鳳凰の首に噛みつく。だが鳳凰も負けていないようで、ライオーグを炎で包み込む。


 そして――――。


 まるでミサイルでも落としたかのような爆発が起こり、レッグルスとデュークキーパーはそれぞれ爆風に吹き飛ばされてしまう。


 ニッキたちは咄嗟に日色が『防御』の文字を使用したので爆風の影響を受けずにいられた。もちろんミミルたちもだ。

 気がつけば、平坦だったはずの大地に巨大なクレーターが生まれていた。その外側に、ちょうど対面するようにレッグルスとデュークキーパーが倒れたまま。


 先に起き上がったのはデュークキーパーだ。クレーターを見下ろしながら手に持っていた剣を鞘へと納める。そしてゆっくりとレッグルスのもとへと歩いていく。


「ぐ……うぅ」


 レッグルスは信じられないくらい身体にガタがきているのを感じる。まるで一日中水の中で泳いで全身が筋肉痛に襲われているような感じ。痛くて身動きするのが億劫になる。


 だがそれでもデュークキーパーが近づいてきていることを知り、顔を歪ませながらも上半身を起こす。

 デュークキーパーがレッグルスを見下ろすように立つ。無言を貫いている。


「はあはあはあ……」


 レッグルスはただ息を乱しながら彼を見上げているだけ。すると彼がさっと手を差し伸べてくる。


「……え?」

「……フッ、大したものだったぞ、若き『獅子族』よ」

「あ……そ、それじゃ!」

「ああ、この試練――――お主の勝ちだ」


 レッグルスはその言葉を聞き、緊張感から解放されてそのまま倒れ込み意識を闇に沈ませていった。結局、彼の手を取れなかったことは残念だったが……。





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