166:奇跡連合軍
テッケイルとファラは、《平和の雫》のトップ2の一人が、すでに自分たちが出会ったことがあると聞いて驚いていた。
その人物がテンドクだとジュドムに聞き、テッケイルは再度確かめるように聞くが、ジュドムは間違いないと言う。
「テンドクという名前は聞いたことがある。確か『大薬師』としてその名を馳せていたな」
アクウィナスがイヴェアムに説明するように顔を向ける。
「そうか。ジュドム殿、そのテンドク殿は仲間なのですね?」
「ああ、俺が立ち上げた反乱軍にいる。今はアヴォロスの動向を探るために人間界のある場所で他の仲間たちと一緒に身を潜ませてるはずだ」
「そこが見つかる可能性は?」
イヴェアムはもしアヴォロスに見つかると、確実に殺されると危惧しているのだ。
「大丈夫だろ。伊達に歳はくってねえし、隠れるくらいできるはずだ。あれでも俺が憧れた人物の一人でもあるんだぜ?」
その言葉だけで、ジュドムが寄せる信頼度が高いのがよく分かる。イヴェアムもジュドムがそう言うならと、次の話題に移っていく。
「ジュドム殿、いや、ここにいる者たちにも再度この紋様黒衣のリストに目を通してもらいたい。そこで名前でも何でもいい、分かることがあったら教えてほしい」
言われた通り、次々とその場にいるメンバーが資料に目を通していく。だが事前に調べた以上の情報は手に入らなかった。
だが貴重な話が聞けたことはイヴェアムにとっても喜ばしいものだった。そのまま会議は進められていき、これからアヴォロスがどう動いて来るかという議題に突入した。
「今、人間界はあちこちにアヴォロスの手の者が回されてると情報にあった。迂闊に足を踏み入れれば見つかってしまう。だがいつまでも様子を見守っていても後手に回る可能性が高い。ならまずは部隊を組織し、人間界を徐々に攻略していくこととしよう」
「うむ、魔王の言う通り、今アヴォロスは静観を保っているが、近いうち必ず動くはず。だがその前にこちらが先手をとった方が良いという意見は理に適っている」
レオウードもイヴェアムの考えには賛同した。そしてほとんどの者がその考えに反対はしなかった。しかしその中でアクウィナスだけは渋い顔をしていたので、イヴェアムはどうしたのか尋ねてみた。
「……部隊のことを考えていた。人間界に向かわせるのなら、情報収集にも長けて迅速に行動できる部隊が好ましい。我が軍で考えればハーブリード隊とイオニス隊なのだが、相手の戦力把握を誤ると、二人の隊だけでは厳しいものがある」
「何を言うんだアクウィナス。二人は強いし、彼らの隊だってよく統率もとれている」
「それは否定しない。だが相手は一癖も二癖もある者ばかり。今侵入を考えているところには、紋様黒衣もいるとのことだ。言ってみれば上手く相手を打ち破って侵入できればいいが、負ければ兵の士気も下がってしまうし、相手に勢いを与えてしまう。だからこそ、この第一撃は必ず成功させる必要がある」
「ふむ、ならば我々の部隊も動かそう。せっかくの連合軍なのだ。二つの力を合わせて突破すればよかろう」
アクウィナスの心配にはレオウードが獣人の部隊も動かすといって問題点を潰してきた。
「その部隊には【パシオン】の誇るクロウチの隊を貸そう」
「なるほど、アイツならその能力上情報収拾にも、素早い動きにも長けていますね」
バリドがレオウードの提案に補足を入れる。その話を聞いたイヴェアムもなるほどと頷きを見せる。
「それなら戦力としても十分でしょう。かの《三獣士》なら心強いです。次は侵入経路を明確に……ん? ちょっと待って、今こうして侵入経路について考えてるけどヒイロなら我々を一気に【ヴィクトリアス】まで転送できるんじゃ……」
イヴェアムのそんな思いつきに、ほとんどの者がハッとなる。一度日色の魔法で、一瞬にして魔界から獣人界へと向かったので、人間界へ行くことも可能なはずだ。つまり奇襲にはうってつけなのだ。
自分の思いつきに確信を得たイヴェアムは笑みを浮かべるが、それをアクウィナスが粉砕する。
「それは難しいだろう」
「え? …………どうしてだ?」
「実はすでにその考えをヒイロには話してある」
「そ、そうなの?」
イヴェアムは自分よりも先にその考えに至り、もう行動を起こしていたアクウィナスをガッカリとしたように見据える。
「ヒイロはそんなめんどくさいことしたくないとのことだ」
「なっ! め、めんどくさい!? こ、これは戦争なのよ! ヒイロも少しくらい我慢してくれても……」
まさかそんな理由だったとは思わずイヴェアムは驚嘆する。
「無論俺もその言葉にはさすがに追及してみたが、どうやらただ面倒なだけではないらしい」
「ど、どういうこと?」
「ヒイロが一度に転移できるのは約百人ほどらしい。何十万といる兵士を送るために、何度魔法を使わせるつもりだ?」
「そ、それは……で、では主力だけを送り込んで一気に叩くのは?」
「そうだな。それなら可能だ。しかし相手はあのアヴォロスであり、ヒイロが転移できることも知っているのだぞ? 必ず何かしらの対処法を敷いているはずだ」
アヴォロスはこれまでこの世界で起きたことを自分が表舞台から去った後、ずっと見続けてきたと言っていた。そしてイヴェアムの動向も追っていたと言っていた。
その傍にいた日色に関しても必ず情報として調査しているはずだった。そしてその魔法が意味するものを把握し、対処法を見つけているはずだ。イヴェアムも、アヴォロスのことを思うと、きっとアクウィナスの言う通りだろうと思い押し黙った。
「それに、ヒイロはヒイロで動くと言っていた。何やら《マタル・デウス》の中にヒイロがどうしても倒したい相手がいるようだ」
「そ、そうなの……できれば一緒に動いてほしかったけど、彼がそう言うなら覆りそうにないわね」
イヴェアムは日色が一度決めたことを曲げないことを知っている。それにそこまで日色に執着心を芽生えさせた《マタル・デウス》の誰かには同情を覚えた。彼が形は違っても戦争に貢献してくれるというのなら今はそれでいいと思った。
「それに転移で強襲するというのもいいが、《マタル・デウス》の全てを叩かなければ戦争は終わらないだろう。だからこそ、人間界に配置された連中を全て攻略していき、完全勝利を得なければアヴォロスは諦めないし、倒せないだろう。甘いことを考えていたら、そこを奴に突かれて負けることだってある。この戦争は是が非でも勝たなければならない。世界を、『魔人族』の平和を願っているのなら、人間界全てを攻め落とすつもりで臨むのだ」
アクウィナスは普段とは違い饒舌に話していた。イヴェアムはそれほど今彼が言ったことが重要かつ守らなければならない信念なのだと強く思った。
一つ深呼吸すると、イヴェアムは皆の顔を一通り見る。
「こうしてここに『魔人族』、『獣人族』、『人間族』の将来を憂いて集まってくれたそれぞれの代表者がいます。こうしていがみ合って、憎み合っていた三種族が顔を合わせ、一つの大きな問題点を解決に導くために手を取り合う。こういう姿を私はずっと夢見てきました。だからこそ、この戦争負けることはできません。これから先も、ともに生きていける世界を守るためには、アヴォロスを倒さなければなりません。どうか皆さん、力を貸して下さい!」
魔王としてではなく、この【イデア】に住まう者として頭を下げるイヴェアムの真摯な態度に何かを感じ取ったのか、まずレオウードが口を開いた。
「うむ、この繋がりが絶対の力になると、ワシも信じておる」
そして次にジュドムだ。
「だな。俺が人間代表でいいのか分からねえが、人間界を取り戻すためにもこっちから頭を下げるぜ! どうか力を貸してくれ!」
ジュドムはイヴェアム同様に忌憚ない意見を述べ頭を下げる。反乱軍に参加している人間は全て連合軍に参加すると表明してくれたのだ。すると隣に座っていたファラも立ち上がって、
「種族の違いから起こった争い。それが今までどんどん大きくなってきていましたの。ですが今回は、その他種族同士が手を取り合う戦い。今、私たちはかつてあった歴史を再現しようとしているんですの」
かつて全ての種族が手を取り合い、互いを慈しみ、守り、育てる時代があった。しかしその事実はもう古い文献の中にしか存在していない。だからこそ、今ここに起こっていることは奇跡そのものである。
「この場に居合わせることができて……『魔人族』と『獣人族』の方たちの想いに触れることができて感謝しておりますの」
ニッコリ笑うファラに、全員が軽く頷きを返す。ファラが思っていることもまた、皆が感じていることなのだ。
そしてイヴェアムは誰よりもファラの言葉に賛同しているように大きく頷くと、
「ファラ姫の言う通り、これは、かつてあった奇跡だ。だからこそ、我々連合軍の名前を改めてこう呼びたいと思っている!」
――《奇跡連合軍》――
「どうだろうか。今の我々にはピッタリだと思うんですが」
他の者の顔を見回し、彼らも納得気な様子を感じ頬を緩ませるイヴェアム。
「では、各々の部隊にお伝え下さい。ジュドム殿も反乱軍に通達を願います」
「ああ、任せろ!」
イヴェアムは再度、皆の顔を見回す。その瞳に宿す強い光を向け、皆に今自分がどれほど感動しているかということが伝わればいいと思っていた。
「では改めて、『魔人族』、『獣人族』、『人間族』が集う連合軍、《奇跡》の結成を、ここに宣言しますっ!」
こうして、過去の栄光である奇跡を再び呼び戻し、三種族が力を合わせる瞬間が訪れたのだ。
※
【魔国・ハーオス】で《奇跡連合軍》が結成されたことは瞬く間に大陸中に知れ渡っていった。そしてその報は無論【ヴィクトリアス】にも届いていた。
アヴォロスはその結成を予期していたのか全く驚かず、むしろ楽しむように報告を受けていた。
「なるほど、これは面白いことになったね。まさかいつの間にかあのジュドム・ランカースが魔界に渡っていたとはね」
「やはり放置しておかずに抹殺しておいた方が良かったのでは?」
玉座に座っているアヴォロスの隣に控えているヴァルキリア05号が感情を全く見せない物言いをする。
「ううん、これでいいんだよ。自分たちが最高だと思える軍を作り侵攻してくればいい。それを全て余の力でねじ伏せてあげる。彼らの信じる奇跡や希望、その何もかもを絶望に変えてあげるんだ」
「しかし、相手はこれで三種族が集結することになります。その中には捕獲し損ねた勇者の存在も」
「らしいね。クク、でもこっちにも手駒はあるさ。勇者には…………勇者だよ」
アヴォロスがクスクスと笑みを溢しながら玉座から立ち上がると、
「戦争にも演出は大事だよ。勇者には勇者としての使命を果たしてもらう。彼は今どこ?」
「はい、例の部屋にいるかと」
「そう、それじゃ行って伝えようか。彼のやるべきことが何なのか教えるためにさ」
【ヴィクトリアス】の王城、その地下にはアヴォロスが作らせた広大な空間が存在した。そこはかつて『クピドゥス族』が作った遺跡の地下にあった部屋と同じような造りをしている。
大きな魔法陣の周囲には膨大な数の棺桶がある。ただ『クピドゥス族』の遺跡と違うのは、突き当りの壁にあるのは獣のような石像ではなく、怪しく青光を放つ巨大な石が嵌められてある。
そしてその中に体中を包帯で巻かれて、外見を把握できない人型の何かが入っている。石の中は液体状になっているのか、ユラユラと微かに石の中で包帯人間は上下している。途中、口元らしき部分から泡が生まれてもいる。
その石を悲痛な面持ちで見つめる一人の人物がいる。彼の名前は青山大志。元は地球人であり、ここヴィクトリアス王の意向でこの異世界【イデア】に召喚された勇者の一人だ。
「安心していいよ、死んではいないからね」
そんな彼の背後から子供のような声音が届く。大志が振り返ると、そこにはいつものように挫折を知ら無さそうな不敵な笑みを浮かべたアヴォロスがいた。その隣には05号までいた。
そんな彼らを大志は恨めしそうな瞳で睨む。
「ククク、そんな怖い顔しなくても、さっきも言ったようにアレは死んでないよ」
「アレって言うなっ!」
アヴォロスの言葉に憤りを感じた大志は拳を強く握り叫んだ。しかしその態度もまた面白いと思っているのか、アヴォロスは微笑を浮かべたままだ。
「説明を受けたでしょ? アレ……クク、あの子はまだ生きてるって」
「くっ……くそぉ」
大志は悔しさに歯を噛み締め身体を震わせている。アヴォロスは包帯人間の方に視線を向かわせると、
「大分馴染んだようだね」
「……一体……あれは何をしてるんだ?」
「あ、そっか。君は彼らから何も聞いてないんだね。ん~まあ、その話をするつもりでここに来たってのもあるから、少し話してあげる」
大志はゴクリと喉を鳴らすと、ジッとアヴォロスの口元に注目する。
「あの子はまあ、生贄なんだよ」
「なっ!? な、な、何を言ってんだよっ!」
アヴォロスを掴みかかろうとするが、05号が彼の目の前に立ち塞がる。「うっ」と大志を立ち止まらる。
「あはは、そう怒らないでよ。あの子はあくまでも予定だから」
「よ、予定? ど、どういうことだ?」
「そうだね。君はこの場所がどういった場所か分かるかい?」
「この場所……?」
立ち並ぶ棺桶、その棺桶に見守られるように中心に刻まれている魔法陣。そしてクリスタルのような石が嵌められてある壁。何とも不気味で奇妙な光景が広がっている。
「ここは復活の儀式を行う場所さ。そして、余が最も欲しているものを復活させる生贄としてあの子を選んだというわけさ」
「ふ、ふざけるな! 何で千佳なんだよ! 俺は、俺たちはそもそもこの世界の住人でもないんだぞ!」
あの大きなクリスタルの中に存在している包帯人間は、大志と同じくこの世界に召喚された鈴宮千佳だ。
「何で……何でだよ! 俺たちはただ……『人間族』を救うために……なのにこんな……」
ガクッと膝を折り頭を垂れる大志。そんな大志を冷ややかな目で見下ろすアヴォロス。
「……甘いね。誰もが望み通りに生きていけるって本当にそんな戯言を信じているのかい?」
「…………」
何も言い返せず、ただただ辛辣で冷たい声だけがその場に響く。
「君がいた世界が、どれほど甘い世界だったのかは知らないよ。知りたくも無い。ただね、君だけでなく、残酷な現実は誰にでも訪れるんだよ。理不尽なことは、唐突にしてやってくる。その理不尽に嘆いて、叫んで、怒り狂っても何も変わらない。だからこそ、変えるために動かなかければならないんだよ。分かるかい? 何も知らない勇者くん?」
「そ、それは……」
「この状況を変えたいなら…………あの子を救いたいなら動けばいい。じっと喚いているだけじゃ、あっという間だよ? 人の命が散るのはね……」
その言葉の重みに大志はまるで重力が倍以上になったかのように何故か身体まで重みが増したのを感じた。
大志はそれでも歯をギリッと食い縛り額から大粒の汗を流して顔を上げる。
「……何をすればいい? 何をすれば千佳を解放してくれる?」
自分にできることはこれだけだと大志は決断する。無論相手は信用できない。それでも今、少しでも千佳を助ける可能性があるのなら、そのために動く必要があるのだと思う。
アヴォロスは口角を三日月形に歪ませると、
「これから戦争が始まるのは知ってるよね?」
「……ああ」
「その戦争に君にも参加してもらう。そこで余の指定する相手と戦ってもらう」
「……指定する相手とは?」
「それを今、君に知らせる必要があるのかい?」
「…………」
「…………クク、まあいっか。なら教えてあげるよ。その相手は……」
大志は瞬きをせずに緊張した面相だ。そして静かにアヴォロスの唇が震える。
「……残りの勇者たちだよ」
「……っ!? …………お前は最低だ」
「そんなこと、最初から分かってるでしょ? けど、それでも君は…………断らないでしょ?」
しばらく二人は視線を交わし合う。一人は殺意にも似た視線を、そして一人は愉快そうに笑みを含んだ視線だ。
だが大志の場合は、ここで反抗してしまうと増々自分の立場が悪くなり、下手をすれば千佳を殺されてしまうかもしれない。それを無論相手も知っててそう言っているのは分かっている。
だからこそ腹の中は怒りの熱で煮え滾っているのだが、それを爆発させるわけにもいかない。
「…………分かった。けど、もし約束を破った場合、俺はお前を殺してやるっ!」
「ククク、それは面白いね。君にそんなことができるとは思えないけど、余の言ったことは真実だよ。決して偽りはない」
「あと、朱里たちも殺しはしない。アイツらと一緒に元の世界に戻るんだ!」
「ふぅん……まあ、それでいいよ。こっちも戦争で勇者を殺そうとは思ってはいないし、そもそも君に命じるのは彼女たちの捕縛だからね」
「それなら……分かった」
「でも、今じゃ彼女たちは魔王軍に籍を置いてる。故に、彼女たちもコッチと真剣に戦うはずだよ? そんな彼女たちに力づくで対応できるかい?」
「……それが望みだろう? なら、やるしかない」
覚悟を決めたような言葉を吐くが、その表情はまるで心臓が圧迫されている痛みを耐えているようだ。
「あはは、分かったよ。それなら君の覚悟を見せてもらうよ。こちらの考えじゃ、もうすぐ向こうが動くと思う。どう動くか、それは君が考えることじゃない。君はただいつでも戦えるように準備だけはしておきなよ。アレも……渡しているでしょ?」
ギリッと大志が歯を鳴らす音がする。
「まあ、使うか使わないかは君が決めればいいけど、君の失敗はあの子の死にも繋がるということは忘れなようにね」
それだけ言うと、アヴォロスは含みのある笑いとともにその場から姿を消していった。
後に残された大志は、再びクリスタルの中に浮かんでいる千佳を見つめる。
「絶対助けてやるからな……何があっても……絶対」
これから始まる戦争で、恐らく会いたかった朱里やしのぶとも出会うだろう。……敵として。
彼女たちが自分の話を理解して、黙ってついて来てくれればいいが、軍に所属していることから、彼女たちも勝手な行動などはできないだろう。
もしかしたら本当に彼女たちと戦うことになるかもしれない。そうなった場合は、なるべく傷つけないように拘束する必要がある。
だが二人相手に大志一人では、下手すれば自分が逆に拘束される恐れがある。それは任務の失敗に繋がり、千佳の命も危うくなる。つまり負けるわけにはいかない。
大志は懐に手を入れ、ゴソゴソと探って何かを取り出す。それは歪な形をしている真っ赤な鉱石のようなものだ。
その石に視線を落としながら強く目を閉じる。
「……やるだけだ」
静寂が包んでいるその場に、大志の断固たる意志が響いた。
※
アヴォロスによって戦争の宣言が成され、いつ本格的に両者で大火が生まれてもおかしくない時期に、丘村日色は一人である場所へと来ていた。
三つの大陸とは切り離されて存在する小さな島。周囲には緑が生え、大人しいモンスターたちが生息している。その島には小高い丘の上に一本の木と、その下に墓石のような物体が設置されてある。
ここは【エロエラグリマ】といって、日色がかつて一度訪れた場所でもある。その時はリリィンたちと一緒に旅をしていた時であり、立ち寄った際も別段強く感慨を持った場所ではなく、すぐに通り去った場所でもあった。
誰が【エロエラグリマ】と名付けたのかは判明していないが、ここは別名【嘆く英雄】と呼ばれている。
何でも昔、実際に存在した英雄と呼ばれた人物が自身の無力さを嘆いて自害した場所だと逸話で伝えられているとのこと。
そんな話をシウバから聞いたが、自害という部分に不愉快な気分を感じて、以前来た時はすぐに島から出たのを覚えている。
日色は今、その墓石の前でしゃがみ込み、よく見ると何かが刻まれてある部分を手でなぞった。土埃のせいか、みぞに土がこびりつき、前回来た時も汚い石だと思っただけで注目していなかったが、どうやら文字が書かれてあるようだ。
いちいち土をとって確認するのも面倒だったので、『清潔』という文字を使って墓石を綺麗にした。
青白い魔力が墓石を覆い、キラキラとまるで長年の垢が落ちていくように鮮明になっていく。そして浮き彫りになった文字を見て、日色は驚愕した。
『僕は嘆く。世界を嘆く。国を嘆く。人々を嘆く。そして、僕自身を嘆く』
それは間違いなく日色の知っている言語で書かれていた。
「に、日本……語?」
そう、紛れもなくそこに使われてあるのは日本語だった。やはりアイツの言ったことは本当だったのかと、動揺を隠し切れずに無意識に呟いてしまう。
そして――。
「――――やはり、アイツは君と同じ世界から来たんだね」
電撃がビリッと走ったように正気に戻った日色は、背後から聞こえた声に即座に反応した。そこにいる人物を見て、さらに驚愕の色で顔を染めた。
「……テンプレ魔王……っ!?」
アヴォロス・グラン・アーリー・イブニング。幼い金髪少年がそこに立っていた。ここまで近づかれてようやく彼の存在に気づいた自分を叱咤する。
何と言っても相手は今回戦争をしかけた張本人であって、敵の大将なのだ。油断一つするだけでどんなことをされるか分からない。日色は戸惑っている間に自分が何かされていないか、『解析』の文字を使い自分を調べた。
魔力を使用したせいでアヴォロスの目の奥が警戒の色に染まるが、何かをしてくる様子は無い。
文字の結果で、どうやら自分が普段と変わらない状態だったので内心でホッとする日色。しかし得体の知れないアヴォロスとは距離を離し警戒度を最高潮に高めていく。
「そこに書かれてある文字が読めるということは、やはりそういうことだね」
アヴォロスは一人で納得気である。
(このままここでやり合うことになるか……?)
そして彼が一人でここに来ていることはないだろうと判断し、周囲に気を配る。もし自分を倒すためだけに、自分が一人になるところを待って狙ってきたのだとしたら、これは心底まずいと感じる。
アヴォロス一人なら負けるつもりはないが、黒衣全員でもし囲まれていたらと考えると、さすがに厳しい。
ここは隙を見ていつでも『転移』の文字を使えるようにしておく。
だが不思議なことにアヴォロスからは敵意といったこちらを警戒させるような意が伝わってこない。まるで争う気などないように感じる。
(なら何しに来た…………まさか)
彼が現れた理由を思いついた時、アヴォロスがクスッと笑みを溢した。
「安心していいよ。ここで争う気はないから。というより君がこんな所にいるなんて、ハッキリ言って予想外だったからね」
「……信じられると思うのか?」
「なら周りを調べてみなよ。君のお得意の魔法で。できるでしょ? そうすれば分かるよ、余がここに来たのは一人であり、敵意も無いということがね」
日色は距離を一定に保ちつつ、指だけを動かしていく。『索敵』の文字を使い、島周辺を調べる。このくらいの小さな島なら二文字でも十分に欲しい情報は得られる。
そして結果。彼の言う通り、今この島に存在する人は日色とアヴォロスだけだった。どうやら本当に一人でやって来たようだ。
「ね? 分かったでしょ? それに、たとえ君が今回の戦争の要だとしても、ここで戦うなんてしたくないんだよ」
その顔には子供らしくない達観さと、多くの寂しさと悲しみが含んでいた。
「…………それはここがお前の親友が眠る場所だからか?」
日色のその言葉にはアヴォロスも目を見開き、そして探るように視線を強めて見つめてきた。
「…………誰から聞いたのかな?」
「さあな、自分で考えろ」
「…………そっか、恐らくは彼女に会ったんだね。あのアリシャに……」
日色は表情を変えることなく押し黙っている。
「彼女はどうやら本格的に余の敵に回るみたいだね。今まで座して関せずを貫いていたにも拘らず、やはり自国の危機には動かざるを得ないってことかな」
アヴォロスは一人で納得気に頷いている。そして考えるように俯かせていたその視線を日色へと戻してきた。
「なら君は、全てを知ったわけだ」
「だったら何だ?」
「君という存在の価値も?」
「……それが何だと聞いてる」
「…………君は理不尽だと思わないのかい? もしかしたらそこに眠っている奴みたいに、人に、国に、世界に利用されて、最後には捨てられるかもしれないんだよ?」
「…………」
「それに、奴らはそうやって理不尽に踊らされている者たちを高みから見下ろしてる。理不尽だよね? 余たちはゲームの駒か何かかい? まったくもって不愉快だよ」
「よく言うな。お前も部下を手駒扱いしてるだろうが」
「アハハ! これは一本取られたね! けどね、余は奴らとは違う。手駒は手駒でも、余は彼らと同じ盤上にちゃんと立ってるさ」
それでも人を手駒のように扱っていることは変わらない。楽しそうに笑う彼に不愉快さが募る。だがアヴォロスはそのまま続ける。
「そんな余からもう一度言っておくことがあるんだ」
「…………」
「その力、余のために尽くせないかい?」
「冗談はよせ。オレはお前らを許せない事情がある」
「…………そんなのあったっけ?」
「ああ、だからお前ら《マタル・デウス》には潰れてもらうぞ」
「ふぅん、何でそんなにやる気になっているのか分からないけど、一度こうと決めたことは他人が何を言っても聞かない。そんなところもそっくりだよ」
アヴォロスがどこか懐かしげに日色を見てくる。
「……一つ教えようか。余がどうして今まで君に接触しなかったのだと思う?」
「知るか」
「アハハ、それはね、君にはこの世界の真実に直に触れて、その目で確認してもらいたかったからだよ。まあ、余の身体も不完全で満足に動けなかったっていう理由もあるにはあったけど、君には自由に動いてもらって、その上で真実を知ってもらいたかったからね。まあ本当は戦争の時に、余自身の口から伝えようと思ったんだけど、ちょっと予想外ではあったね」
マルキス・ブルーノート、本名アリシャに真実を教えてもらっていたことは彼にとっては相当に意外だったということだ。
「つまりオレを放置していたのは、オレ自身がこの世界をどう思うか、生活させた上でオレ自身の答えを聞きたかったからということか?」
「まあ、ざっくり言えばそうなるね。でも、その顔を見れば、どうやら君は真実を知ってもなお、余の行いに手を貸そうとはしないということなんだね?」
「当然だ。オレはまだまだこの世界には用があるんだ。堪能する前に消されてたまるか」
「ん~別に消すわけじゃないんだけど、まあ、変わることは変わるよね。下手すれば大陸は一つ二つなくなるかもしれないけど」
「そんなこと許容できるか。お前はまだ見ぬ宝が山ほどある大陸を消そうとしてる。そんなこと許せるはずがないだろ」
「ククク、君にとって何がそんなに大切なのかな? 宝と言うくらいだから相当大切なものでしょ? 金? 武器? いや、女かい?」
「本と食べ物だ」
「…………はい?」
「二度は言わんぞ」
まるで子供がだまし討ちを受けたかのように大きな目を開けて硬直しているアヴォロス。
「ほ、本と……何? た、食べ物だって? え? 本って読む本だよね?」
愕然とした面持ちで問い返してくるが、
「オレの生きがいを奪おうものなら、オレは全身全霊でそれを止めてやる」
「…………そ、そんな理由で余に刃向うのかい? 何だったらこちらだってそれくらいは用立てできるんだよ?」
「お前の施しなど受けん」
「……それは何故だい?」
「何となく、お前は気に入らない」
アヴォロスはジッと日色の目を睨み返している。そしてフッと溜め息を吐き出し目を閉じると、
「そういう反抗的な目もアイツそっくりだよ。忌々しいけど、最初から何となく分かってた。君はどうやっても余の敵に回るだろうとね。そして、だからこそ今まで放置していたというのもあるんだ」
「何?」
「簡単さ。全てだ」
「は?」
「全てを覆してやるんだ。人も、国も、世界も、何もかも。その魔法を受け継ぐ君さえもね。いや、その魔法を受け継ぐ君を絶望に叩き込むことこそ、余がアイツを越えたことの証にもなる。そうすれば、余は奴らに必ず届き、裁きを与えることができる」
彼の瞳には日色は映っていない。そこに映っているのは、過去の亡霊と未来への高き渇望だけだ。狂信にも似たその昏い瞳に日色も思わず喉を鳴らす。
「だから存分に力を振るうと良い。皆で力を合わせると良い。何をしても良い。だけどその全てを余は越えていく」
「一度敗北した癖によく言う」
「そうさ! だからこそ壁の高さには気づいた。そしてその壁は乗り越えられると今じゃ思ってるんだよ!」
やはり何を言ったところで平行線。彼は自分の道を信じ、貫くことしか考えていない。たとえその道の周りには犠牲という名の羊の群れが横たわっていても……。
アヴォロスは一つ咳払いをすると、少年らしさの欠片も無い歪みに歪み切っていた表情を元の美少年のそれに戻す。そして静かに墓石に視線を送る。
「一つだけ礼を言おうか」
「……?」
「その墓石を綺麗にしてくれてありがとう」
そう言うと、アヴォロスは踵を返し背中を見せてきた。そのままの格好で、
「正々堂々なんて言わないよ。どんなことをしようが、余は世界に勝つ。止めたければ止めてみるといい。ただし、覚悟はしておくことだね。次に余と対面した時、君には絶望を与えることになるんだから」
「ふん、逆にならないといいがな?」
「アハハ、どこまでも横柄な子だね君は。これでも一国の王なのに」
「なら王らしく振る舞ったらどうだ? オレには自分の思い通りにならないから駄々をこねてるガキにしか見えない」
「……言うね。なら言葉はもういらないかな」
「ああ、そうだな」
風が吹き、二人の髪をそれぞれ揺らす。その一瞬の間、二人は同時に口を動かす。
「「この戦争―――」」
次の瞬間、ピタリと風が止む。
「「―――オレ(余)が勝つ!」」
去って行ったアヴォロス。一人島に残った日色はふと視線を墓石の方へ向ける。予想外な出会いを経験した日色だが、ここでアヴォロスに会って良かったとさえ思っていた。
やはりアヴォロスには与することはできない。彼には彼なりの正義があるであろうということは分かる。しかしそれでも彼の正義は多くのものを犠牲にする。
そしてその犠牲の中には日色が守るべきものが多数含まれる。この世界【イデア】に来てまだ一年も経っていないが、日色にとってここはもう愛すべき世界でもあった。
日本よりここの方が自分の欲求を叶えることができる。危うくても楽しい世界を失うことは許容できない。何よりもここにはまだ多くの本や食べ物がある。
それに少なからず日色の心の中に住み始めた者たちもいる。大切な者たちなのかどうかと聞かれたら渋ってしまうような感情ではあるかもしれないが、それでもいなくなったらなったでつまらなくなる奴らがいる。
「アンタも……そうだったのか?」
答えを返してくれない墓石に対して問いかけるように言う。すると墓石の側面にピキッと亀裂が走る。
「……何だ?」
そこを覗き込んでみると、確かに一本筋が入っていた。もうかなり老朽化していたのだろうと推察していたら、ボロッとその筋をきっかけにして墓石が少し欠けた。
そしてその中から虹色に輝くビー玉のようなものが現れた。何となく日色は手にとってみる。すると突如として光を放ち粒子化して霧散していった。
「……何だったんだ一体?」
もう一度墓石を見ても何ら反応は無かった。
(あの玉は墓石に埋められていたのか?)
なら何故突然現れ、しかも消えてしまったのだろうか。調べようと思い、『解析』の文字を使ってみるが、分かったのは墓石の材質だけだった。あの玉のことは情報に一切含まれていない。
訝しく思いながらも、消えてしまったのならまあいいと思い、その場から立ち去ろうと墓石に背中を向ける。するとそこに目を反射的に閉じるほどの突風が吹く。日色も思わず足を踏ん張り腕で顔をガードする。そしてその時、確かに聞こえた。
『今は知らなくていい。だけど、きっと君の……』
その言葉は背後から聞こえた。突風が止むと、日色はまさかと思いながらも墓石に再度視線を向ける。先程と何ら変わりのない光景が映っている。
「…………まさかな」
日色は小さく頭を振ると、墓石の下の方に書かれている文字を一瞥して、もう振り返ることなくそこから去った。
『我が愛するアリシャとアロスの幸せを願って 灰倉真紅』
まるで隠すように、本当に小さな文字でそこに書かれていた。
帰って来た日色に対し、どこに行ってきたのかリリィンが質問してきたが、プライベートなことだと断じて追及を許さなかった。まさかアヴォロスに会ったなどと言ったら、たちまちうるさく言われるに違いないからだ。
今魔王イヴェアムと獣王レオウード、そして人間代表の反乱軍リーダーであるジュドムが軍議を行っていると聞いた。日色に声が掛からないことを考えると、これまで日色に頼り切って来たイヴェアムも、さすがに自重しようとしているのだろうか……。
しかしこういう大戦にこそ普通は参加を頼むべきなのだが。まあ誘われようが誘われなくても日色がやることは自分でよく分かっている。誰に何を言われようが、一度決めたことを貫き通すだけだ。
時々部屋に来るテッケイルから話を聞くに、部隊編成も着実に整っており、近々奇襲部隊を人間界へ送るとのこと。そこでようやく本格的に戦争が始まるのだ。
これまで平和な日本で生きてきて、そして突如として危険極まりないこの異世界にやって来た。恵まれた魔法のお蔭で今まで思う通りに生き続けてこられたが、今回もまた《文字魔法》にはお世話になるだろう。
たとえその魔法が業深きものだとしても今は日色の力である。まだこの世界に来て一年未満ではあるが、この生活を捨てたくないと思えるほど愛着が湧いている世界だ。
まさか自分が世界を巻き込む大規模な戦争に参加するとは夢にも思っていなかったが、日色の胸中には「勝つ、そして生きる」という信念が息づいている。
負けても生き残れればいいのではと突っ込みを受けそうではあるが、そこはやはり負けず嫌いの少年だということで、やるからには勝ちたいのだ。そのためにもやるべきことはしっかり備えておく。
(《ステータス》の確認はちゃんとしておくか……)
そう思い心の中で《ステータス》と念じる。
ヒイロ・オカムラ
Lv 230
HP 8567/8567
MP 15860/15860
EXP 23878322
NEXT 567390
ATK 1398(1553)
DEF 1150(1165)
AGI 1680(1730)
HIT 952(1002)
INT 1449(1459)
《魔法属性》 無
《魔法》 文字魔法(一文字解放・空中文字解放・多重書き解放・二文字解放・複数発動解放・設置文字解放・三文字解放・遠隔操作解放・範囲指定解放・自動書記解放・四文字解放)
《称号》 巻き込まれた者・異世界人・金色の文字使い・栄光を受け継ぎし者・覚醒者・人斬り・想像する者・ユニークジェノサイダー・殲滅者・グルメ野郎・我が道を行く・妖精の友・精霊の友・ミカヅキの飼い主・モンスターの天敵・放浪者・閃光サムライ・超人・SP幼女落とし神・魔に好かれし者・超巻き込まれ体質・万人タラシ・ウーマンキラー・秘技天然落としの使い手・子供のヒーロー・超鈍感マイスター・天然鈍感枯れ男・無色野郎・読書マニア・食いしん暴君・向上心の塊・勘違いプリンス・超絶ダイバー・テレポーター・夢追い人・魔人族の英雄・王を越えた者・獣王に認められし者・ラッキースケベ野郎・猿回し・至高の魔・ニッキの師匠・万能の者・天下の業師・極めた者・超越者
…………何だこの称号の多さは?
いや、別に初めて見る《ステータス》ではないのだが、いつ見てもやはり一言突っ込みを入れてしまう。他の者と比べても明らかに大量過ぎる称号。しかもほとんどが身に覚えの無いものばかり。そして不愉快なものも多数。
しかし結構強者と戦ってきたというのに思った通りにレベルが上がっていない。やはりこのレベルになると上がりにくいのだろう。あのアクウィナスでも240程度だったはず。
長年戦い続けてきた最強の『魔人族』がそれなのだから、これはこれで異常なことなのだろう。まあ、レベル上げに関しても魔法を使い卑怯とも言われても仕方無い方法で稼いできたのも事実なのだが。
(そういやギルドカードも見てみるか)
Name ヒイロ・オカムラ
Sex Male
Age 17
From Unknown
Rank S
Quest
Equipment
・Weapon 絶刀・ザンゲキ(精霊刀)
・Guard レッドローブ改 メンタルブーツ
・Accessory 妖精の指輪 ボンドリング
Rigin 4634988
(そういやギルドランクはSから上げるためにはギルドに申請して許可されなきゃならなかったな…………まあ別にこれでいいが)
正直ランクに興味は無い。高い方が優先的にクエスト受注もできるし待遇も比較的に良くなるが日色にとってはどうでもいい。基本的にギルドは金をもらうために利用していたに過ぎないからだ。
日色は再び《ステータス》に視線を戻すと、《文字魔法》の説明をおさらいするように目を通していく。
《遠隔操作解放》 消費MP 100
空中文字で対象物に向けて放った文字を遠隔操作できる。ただしできるのは一文字と二文字だけである。動かせる範囲はそれぞれの文字の効果範囲内のみ。また一度何かに触れてしまえばそれ以上は動かせない。
《自動書記解放》 消費MP 150
自分の思った通りに自動で文字を書くことができる。ただし初めて書く文字に関しては、どのような文字であれ自動では書けない。また続けて同じ文字を書く時も同様の制限がかかるので注意が必要。
《範囲指定解放》 消費MP 1000
二つの文字列を書き、一方は現象を、もう一方はその範囲を決定することが可能。これは一文字なら一文字、二文字なら二文字でしか対応できないので注意する。また三文字以上で使用する場合、一度使用してしまえば半日は使用できない。
《四文字解放》 消費MP 全体の30%
四文字を連ねて書くことができる。三文字の時と同様、その効果範囲、威力、汎用性ともに更に向上する。文字によって効果時間は違うが、この能力が解放されたことにより、《三文字解放》時に二文字での制限が緩和されたように、今回で三文字の制限が緩和される。内容は二文字の時と同じである。ただし今回、《設置文字》で設置できる文字のストックが更に二つ増えて、合計七個分の設置が可能になった。《四文字解放》は、一日に三度までしか使用できず、同等の効果を持つ文字は使用不可能。一度使った後は、MPを全回復させないと一文字しか使用できなくなる。また文字発動を途中で中断した時、《反動》として全てのステータスがレベル1の状態に戻り、魔法も使えなくなる。更にランダムで状態異常が起こる。種類は激痛、麻痺、睡眠、失明、混乱がある。状態異常、ステータス減少・魔法不能ともにランダム時間で元に戻る。
(便利は便利なんだが、四文字の失敗は戦っている最中だと即死に繋がるよな)
それはそうだ。《反動》を受けるとレベル1状態に戻ってしまうのだから、下手すればゴブリン程度のモンスターにも殺される可能性は十分あるのだ。
だから滅多なことでは四文字は使えない。使うとしたら絶対に中断されない状況でのみに限られる。
だがそんなリスクを抱え込んでもやはり四文字の威力は絶大ではある。一人の時に何度も試したことがあるが、他の文字とは次元が違うほどだった。それはレオウードとの戦いの時でも証明されたとは思うが、文字によっては一つの大陸にも影響を及ぼせるほどの効果範囲もあった。
(まあ、使い方さえ間違えなきゃ、最強の力ではあるよな)
そして今回の戦争でも大いに役立ってくれるだろうと思う。その時、【エロエラグリマ】で会ったアヴォロスの言葉を思い出す。
彼は正々堂々とは言わない、どんなことをしてでも自分の思いを叶えると言っていた。ならばこちらも相応に構えるだけだ。
(この力をフルに使って、お前に一泡吹かせてやる)
アリシャに【エロエラグリマ】がどんな場所か教えられて足を延ばした結果、思わぬ出会いをしたが、今ではあそこでアヴォロスと話せて良かったと思っている。
改めてアイツは敵だということを認識できたからだ。そして必ず本と食べ物は守ると誓う。やはりどこまで行っても日色の欲求は止まらないのである。




