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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第六章 イデア戦争編

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165:露わになる真実

 日色は今、【魔国・ハーオス】から少し離れた南に位置する森に入っていた。それほど広大な森ではない。しかしそこの樹に実る《ホワイトカミンの実》や《ウーブドの実》は、魔界にしか存在しない果実であり、とても美味しいのだ。

 たまに日色もここに来て果実を口にしたりする。だが今、日色は果実を食べに来たわけではなかった。

 森の中を黙って進んでいくと、少し開けた場所が存在する。その中心には小さな泉があるのを日色は知っていた。

 日色の目的地はその泉だ。何故日色がそんな場所に向かっているかというと……


「……お前が、この本を差し入れたのか?」


 そこには一人の人物がいた。日色の記憶の中では見たことのない人物だ。ダークブルーの長髪をポニーテールに結っている。

 モデルのようなスラッとした体躯をしているが、出るところは見事に主張している。また薄い化粧をしているのか、薄紅を引いた唇は白い肌にとても印象的だった。

 だが化粧など必要無いと思われるほどの若さと美貌を兼ね備えている。佇まいにも気品を感じさせ、まるでライトノベルなどに出てくる王族のお姫様のような人物だった。

 しかしやはり、間違いなく日色が初めて会う人物だと断じた。日色が声をかけた後、その女性はフッと笑みを溢すと、


「そうよ、ヒイロ・オカムラくん。いえ、今はこう呼んだ方がいいかしら、『魔人族』の英雄さん」


 ピクッと日色は眉を動かす。どうやら相手は自分のことをそれなりに知っているようだ。


「貴方のことは知ってるわよ。そして……」


 次に彼女が言った言葉で日色は大きな衝撃を受けた。


「貴方もまた、私のことを知ってるわ。何故なら、あなたに魔法の使い方をレクチャーしたのは私だもの」

「…………は?」


 今コイツは何て言った……? オレに魔法を教えた……?


 聞き間違いかと思い彼女の顔を見つめるが、微笑を浮かべ、真っ直ぐ瞳を見つめてくる彼女からは冗談とは思えない雰囲気を感じさせた。

 だが日色はいくら記憶を探ってみても、目の前の女性に関する情報が欠片も見当たらない。


「…………誰だお前」

「そう睨まないでよ。敵意が無いっていうのは分かるでしょ?」

「気色の悪いこと言う奴を警戒するのは当然だろ」

「き、気色……女にそんなこと言うものではないわよ?」

「いいから答えろ。まずはお前の名前だ」

「…………調べてみたらどうかしら?」


 日色は顔には出さないが、彼女の言動には内心冷や冷やものだった。確かに日色は相手の口から情報を得なくても、『覗』の文字や『調査』などの文字を使えばあっさりと情報を入手することはできる。

 しかしそのことは誰にも言ったことは無い。無論アノールドやミュア、そしてリリィンたちにも言ってはいない。

 相手の《ステータス》を把握できるということは日色にとって何よりも優位点だ。だからこそ誰にも言わない方が良いと判断してそのように振る舞ってきた。

 それなのに今の彼女の質問は、思わず顔に出てしまうほど心を揺るがせた。


「今からお前について調べろって言うのか? それは時間が掛かるだろうが。情報収集が一瞬でできるわけが……」

「できるでしょ? あなたの《文字魔法》を使えば……ね」

「っ!?」


 さすがに動揺を表情に出してしまった。もしかしたらこれから時間をかけて自分のことを調べればいいと彼女が言ったのかもと希望的観測を持ったが、どうやら先に懸念した通り、日色が魔法で瞬時にして情報を得られることを彼女は知っているようだ。


「……何のことだ?」

「フフ、すぐに動揺を殺して、そうして惚けられるのは凄いわね。貴重な能力だわ。だけど、隠さなくてもいいの。私はあなたのこと、いえ、あなたの魔法について、それなりに知識として持っているから」

「何だと……?」


 日色はさらに警戒度を高めて彼女を睨みつける。


「う……だからそう睨まないでくれるかしら? 私はこう見えても戦う力なんて持ってないのだから」


 確かにそれは冗談ではないようで、先程からビシビシと覇気をぶつけていると、彼女は本当に苦しそうに顔を歪めていた。

 仕方無く警戒だけは緩めず覇気を真っ直ぐぶつけるのは止めた。すると彼女は安堵したように息を吐く。


「ふぅ、ありがとう。でも本当に成長したみたいね。あの頃は何も知らないただの異世界人だったのに」


 異世界人だということも知っているようだ。日色の中でもこの女性が何者なのか段々興味が惹かれていった。


「警戒を緩めてもらうためにも、そろそろ謎解きするわね」

「…………」


 ジッと日色が見守っていると、突然ボンと白煙が出現し彼女を包み、そして……。


「……思い出したかい? 不思議な御仁さんや」


 ……思い出した。その容貌を見て、過去の記憶がくっきりと甦って来た。そう、間違いなく彼女に、魔法の使い方や魔力の知識など、この世界に最も必要な情報を教えてもらった。


「……あの時の占い師……? 占い……師……? アンタ……まさか!」


 そこでまたも記憶の中に引っ掛かっていた先日話題に上った占い師の話を思い出す。ジュドムを助け、彼に日色を探せと助言した占い師。

 そんな考えが見透かされていたのか、


「ふぇっへっへ、そうさね。私が……」


 またボンと白煙を生み出し、その中から先程の美女が現れる。


「ジュドム・ランカースを動かした占い師、そして、君が持っているその本の作者、マルキス・ブルーノートよ」

「……マルキス? …………女だったのか」


 するとガクッとマルキスが肩を落とす。


「えっと……そこなの?」


 どうやら日色の驚き所が意外な部分だったようで苦笑を浮かべている。


「ま、まあいいわ。あと一つ、どうせ貴方が調べたら分かることだから言うわ」

「……?」

「マルキス・ブルーノートは作家としてのペンネーム。本名は別にあるの」

「…………」

「アリシャよ。アリシャ・ニア・ピピス・ヴィクトリアス」

「……!? ……ヴィクトリアス?」


 それは人間が住む国である【ヴィクトリアス】と同じ名前だった。


(まさかコイツ……)


 日色は何かに気づいたように目を細めると、アリシャが肩を竦める。


「貴方が何を思っているのか、分かるつもりだけど、とりあえず嘘が無いということを証明したいの。調べて?」

「…………」


 言われるまでもなく、彼女の真偽を確かめるために《ステータス》を覗くつもりではいた。相手からも了承を得たということで、日色は気がねなく『覗』を使用した。

 そしてそこに書かれてある称号を見て目を見張り、「やはりな」と呟いた。


「分かった?」

「…………いろいろ疑問がある。だがまず、オレが聞きたいことは……」


 日色はアリシャの差し入れの本を手に取り、そこに貼り付けてあった紙を千切ると、彼女に見せつけるようにして突き出す。


「ここに書かれてある内容についてだ」


 アリシャもその貼り紙を見て、軽く頬を緩める。そこに書かれている内容、それは、


『この本の真実。それが此度の闇に繋がる入口である。君が真実を知りたいと思うのであれば、南の森にある泉に一人で来てほしい』


 日色はここに書かれてある内容を読んで、本来なら関係無いなと一笑に付すのだが、何故か引きつけられるものがあった。


 闇……それはきっと戦争のことであり、世界の敵である《マタル・デウス》のことでもあると推察した。

 これから日色も奴らと関わることが増えていくはず。情報はいくらあってもあり過ぎではない。だから罠だとしても、一応確かめてみようと思いここまで来たのだ。

 何より、何故自分なのかということが一番気になった。それを問い質したいと感じたのが一番の理由かもしれない。

 アリシャは日色に背中を向けて、泉に視線を落とす。


「ねえ、貴方はその本を読んで、何を感じた?」

「……それが何か関係あるのか?」


 素っ気なく聞くと、アリシャから溜め息が聞こえた。


「……いえ、ただ聞きたいだけ。教えてくれるかしら? この本の主人公の生き様、どう思った?」

「そうだな、惨めな奴だって感じたな」

「……そう、まあそうよね」

「国を想い、民を想い、必死で世と戦い平和へと導いた主人公。だが自国の王により謀殺される。主人公はそれでもまだ平和を諦めきれず、魂のままどこかで永遠を待ち続ける。そんな話だったな。誰が読んでも主人公が惨めだと思うぞ?」


 信頼していた者に裏切られ、掴んだはずの平和が瞬く間に壊れていく。そんなことになったら心が壊れても不思議ではない。

 異常なまでの平和への執着心から、災いの種である可能性が少しでもある者たちを滅ぼすという決意をする元英雄。本当に哀れで切ない物語である。


「惨め……か。だけど、彼をそうさせたのは、国であり、世界なのよ」


 遠い目をしながら口を動かすアリシャは、ここではないどこかに心を置いているようだった。


「……まるでこの物語が実際にあったかのように話すなアンタは」


 そう言うと、彼女は寂しげで儚げに笑みを浮かべて日色を見つめる。


「……まさか……」

「……フフ」


 体ごと彼女は日色と対面する。そして笑みを崩し、真剣な面持ちを向けてくる。


「貴方には、真実を知ってもらおうと思うのよ」

「……何故だ?」

「本当は、何も知らずにこの世界を楽しんでもらえたらって思っていたわ……あの時、初めて会った時から」


 それは日色に魔法の使い方などを伝授した時のことだろう。


「だけど、世界はやはり大きく動き出してしまったわ。私はそれでも何もしないって決めてた」

「…………」

「でも、やはり駄目ね。世界は私を野放しにはしてくれないみたい」

「……アンタ、さっきから何言ってんだ?」


 その日色の質問には答えず、アリシャは視線を切る。


「これから話すことは貴方にとって、信じられないものになると思うわ。それでも……聞きたいかしら?」

「当然だ。そのために来た」


 二人はジッと目を見合わせていると、アリシャはフッと笑みを浮かべる。


「フフ、強いのね。……では教えるわ、真実を……」


 日色は黙って彼女の口に集中していたが、その驚くべき真実に耳を疑いたいと思った。額から無意識に汗を流してしまうその話に、時を凍らせたように固まったままただただアリシャと対面していた。



     ※



 日色がアリシャと出会って数時間後、日は沈み夜が世界を支配していた。

 【ヴィクトリアス】の王城、そのテラスでは一人の人物が微笑を浮かべながら眼下に視線を落としていた。その先にあるのは【ヴィクトリアス】の街並みだ。


「……やはり、大分変わったね」


 その少年の名はアヴォロス。今やヴィクトリアス王として人間界に君臨している。


「…………あまり気配を消して余に近づくことは推奨できないよ?」


 アヴォロスは目を閉じながら背後からに向けて声を発した。


「おや? さすがはアヴォロス氏ですね」


 闇の中からスッと音を立てず現れたのは、《マタル・デウス》の特徴である黒衣などを纏っておらず、その逆に白いローブを身に纏い、顔には奇妙な面を被っている。声は曇っているが男性のようだ。


「やはり君か。何の用だい?」

「いえ、ただこうして王となられた気分はいかがかと思いましてね」

「王ならもう経験済みだよ」

「ですが、人間を総べる王は初めてでしょう? たとえ仮初めの王だとしても」

「仮初め……か。ククク、確かにそうだね。別に余はここにいる者たちを案じているわけではないしね」

「……本当に動くのですね?」

「クク、君も妙な立場にいるよね。君こそいいのかい、ここに居て」


 面の男のくぐもった笑い声が聞こえてくる。


「いえいえ、僕はただ、面白いものを間近で見たいだけですから」

「そう? 案外趣味が悪いね」

「それはあなたよりもですか?」

「クク、それはどうだろう」

「さて、では僕はこの辺で」

「もう行くのかい?」

「ええ、こう見えても忙しい身ですから」

「……一つ、教えてもらってもいいかな?」

「ええ、お答えできることなら」


 アヴォロスは静かに振り向き、面の男と真正面から対面する。


「君は……余の同志かな?」

「ええ、あなたが僕を楽しませ続けてもらえる限りは……ね」

「ふぅん、だったら頑張らないといけないみたいだ」


 アヴォロスは大げさに肩を竦める。そして面の男はそのまま闇の中へ消失していった。もういなくなった存在をまだ見つめるように闇の中をジッと眺めるアヴォロス。

 しばらく見つめた後、フッと視線を切り、また街並みに視線を戻した。だが先程と違って表情は緩んではいなかった。


「余にしかできないことがある。世の中の全てを犠牲にしても、譲れないものは譲れない」


 どこか憂いを込めた面相を浮かべ、静まり返った夜空の下でひっそりと呟いた。



     ※



 日色はベッドに横になり、物思いに耽っていた。時間はすでに夜になり、いつもなら本でも読みながら時間を潰している時間帯であり、まだ寝るような時間ではないのだが、日色は昼に会ったアリシャから聞かされた話を反芻し、室内の灯りを消して、真っ暗な中、日色の呼吸音だけが聞こえている。

 窓から入る月明かりに照らされている自分の足元を見つめる。その視線をゆっくりと窓の方へ移し、空を眺める。


『今話したことが虚言かどうか、魔法を使っている貴方には分かるでしょ?』


 アリシャとの会話を思い出す。彼女の言う通り、魔法を使い彼女が嘘を言っていないことは証明された。


『貴方に話した理由も、それで理解できたと思うわ』

『……何故だ?』

『え?』

『その話が事実なのは分かった。なら何故、あのガキはオレを放置しておく?』

『…………』

『オレならその存在に気づいた時点で仲間に引き込むか、排除するぞ』

『そうね。もし仲間にならないのなら、あなたほど厄介な存在は無いものね』

『だったら……』

『だからこれからよ』

『は?』

『きっとこれからアヴォロスは何かをし始めるはず』

『それはお得意の占いで分からないのか?』

『残念ながら、占いだって万能じゃないもの』


 日色はベッドから起き上がり、窓を開けた。涼しい風が日色の黒髪を微かに揺らしている。日色は『飛翔』の文字を使って窓から飛び立つ。

 目前には大きな月が見下ろしている。その月に向かうような感じで真っ直ぐ飛んで行く。そしてかなりの高さに昇った後、ピタリと動きを止めた。そしてまたアリシャとの会話を思い出す。


『気をつけなさいヒイロくん』

『…………』

『アヴォロスが今まで貴方に手を出さなかった理由は必ずあるわ。それが何かは分からないけど、その魔法を受け継ぐ貴方をこのまま放置しておくとは考えられないもの。それに貴方も戦うつもりなんでしょ? 彼が組織した《マタル・デウス》と』

『……ああ』

『私には、こうして貴方に助言することしかできない。悔しいけど、私にはアヴォロスと戦う力が無いから』

『……別に武力を扱うことだけが戦うってことじゃないだろ』

『……え?』

『戦い方にもいろいろあるはずだ。アンタのお蔭で、オレは奴の狙いに薄々は気づけた。そうやって誰かに助言し、支えることもまた戦うってことじゃないのか? 少なくとも、オレはそう思うぞ』


 その時、アリシャが唖然とした顔は結構見ものだった。


『……………………フフ、やはり貴方は強い。それにどことなく似てる』

『オレは何も変わらない。ここに、この世界に来た以上、もうここはオレの世界でもある。まだ堪能もしていないうちに世界を壊されてたまるか』

『ヒイロくん……』

『まだ見ぬ本や食べ物だって山ほどあるはずだ。奴が世界を壊そうとするなら、オレは止めるぞ。本と食べ物のためにな!』

『…………アハハハハハ! 本当に面白い子ね貴方は。……ねえヒイロくん、以前貴方にやってあげた占い、覚えてる?』

『そんなの忘れたな』

『あら? それは酷いわよ、フフ。でもね、あの占いには続きがあるの』

『続き?』

『ええ、以前こう言ったわ。人は皆、己の心に星を宿しているって』


 その一言で日色は確かにそんなことを言われたのを思い出した。その星の形、色、大きさ、輝き、それら全てが百人いれば百通り違う。それを見て判別することがアリシャの占いだった。

 日色の星は、力強く、そして燃えるような赤を抑え込むようにして、その周りを黒のような青が支配している。形は一辺の角も無い純粋無垢な球体。そしてその輝きは見る者の目を醒ますような眩い光を放っていると言っていた。


『その光はね、とても温かく優しい。そして揺るがない強い意志が籠っていた』

『…………』

『その光の中にね、小さな種が見えたの』

『種?』

『その種は、未知を示すもの。未来を予感させるもの。貴方には、いまだ開花していない種を持ってる』

『種……ね』

『どんな花を咲かせるか分からないけど、その花が咲いた時、全てが上手くいくような予感がするの』

『それも占いか?』

『フフ、いいえ、これはただの勘……かな?』

『よく分からんが、オレはオレの道を行くだけだ』

『…………分かったわ。私もまたできることをしようと思うわ。また会いましょうヒイロくん』


 日色は月を眺めながらアリシャとの会話を思い出し、夜風に身を晒していた。その時、肩に僅かな重さを感じた。


「……何の用だ黄ザル?」


 出現したのは日色が契約した精霊であるテンだった。媒介である《絶刀・ザンゲキ》がある場所にいつでも転移することができる。こうして空にいるはずの日色の肩に瞬時にして現れたのがその証拠だ。

 しかしいつもうるさいテンの顔からは笑みは無く、真剣な瞳を日色に向けていた。その顔で日色は悟った。


「聞いてたなお前」

「……ああ、前にも言ったろ? 《ザンゲキ》ちゃんは俺と感覚を共有してる。話し声もちゃんと、届いてたさ」

「……そうだったな」


 二人は同じように月を見上げる。


「なあヒイロ、アヴォロスが何をしてこようと、俺らなら全部覆せるさ」

「当然だ」

「ウキキ! 真実にはビックリしたけど、過去は過去だろ? なら関係ねえさ」

「ああ、そもそも《マタル・デウス》には一泡吹かせるつもりでいたんだ。やることは変わらない」


 日色は改めて決意を固めた。



     ※



「はあっ!」

「む!」

「てやっ!」

「甘い!」


 今魔王城にある練兵場では、二人の人物が拳を交えていた。一人が突っ込み、殴ったり蹴ったりするのだが、相手の一人は軽やかにかわしている。


「これでどうですかな!」


 一人はニッキであり、彼女は歯を食い縛り右拳に魔力を溜める。そしてそのまま突き出そうとするが、パシッとその右手首を掴まれる。


「のわっ!?」


 右手首を掴まれたまま上空へと放り投げられるニッキ。しかし彼女はそのまま体勢を整えて、落下の勢いのまま突っ込んでいく。


「うむ、勢いは認めよう」


 ニッキが相手をしているのは獣王レオウードだった。彼はニッキの意気込みを感じて好ましく思っているようで笑みを浮かべる。


「一撃決殺! 《爆拳》っ!」


 ニッキの拳がレオウードに近づき、そのまま衝突するはずだった拳は、レオウードにあっさり見切られ、今度は避けられた上にニッキは右足を掴まれた。


「う~離して下さいですぞぉ!」

「ガハハ! やる気は十分、動きも元気があって申し分なし、だがまだまだ実力は足りぬようだな」


 そう言うとレオウードはそのままパッと手を離すと、ニッキは体を回転させて地面を蹴ってその場から離れると、


「ならこれはどうですかな! ――《爆拳・弐式》!」


 ニッキの拳から魔力の塊が放たれる。


「ほう、そのようなこともできるとは」


 レオウードは感心するように目を開くと、片手を前に出し、飛んでくる魔力の塊を掴むように止めた。


「な、何ですとっ!?」


 ニッキはさすがに掴まれるとは思っていなかったのか叫んでいる。レオウードの手の中で小規模な爆発が起きる。

 問題無く爆発したことで、かなりのダメージを与えることができたと思ったニッキはニヤッと嬉しそうに笑みを浮かべるが、爆煙の中から現れたレオウードは、


「ふむ、少しばかり痛かったぞ」


 レオウードの手を見てみると、本当に微かだけ火傷のような傷があるだけだ。


「う~師匠みたいに強いですぞぉ~」


 ニッキは悔しそうに歯噛みすると、再び大地を強く蹴り出し突進する。


「ガハハ! ただ闇雲に突っ込んで来るか、それもまた良し!」


 レオウードは体中の筋肉を膨らませて仁王立ちをした。真正面から受け止めてやるといった意思表示だ。

 しかしニッキが姿勢を低くした刹那、彼女の足元から小さな爆発が起きたと思ったら、凄まじいスピードで突進力が増した。


「むっ!?」


 ――ドゴォッ!


 ニッキは頭からレオウードの腹目掛けて体当たりした。


「ぬうぅっ!」


 レオウードは吹き飛ばされないように歯を噛み締める。そのままの状態で二メートルほど後ろにずらされたレオウードは、懐にいるニッキをその大きな手で掴むと、そのまま地面へと落とす。


「あぐっ!」


 ニッキは後ろ首を地面へと押し付けられ身動きができなくなった。


「……そこまでだなバカ弟子」


 その戦いを黙って見ていたニッキの師匠である日色が戦いの終わりを告げる。よく見れば周囲には日色だけでなく多くの『魔人族』の兵士がいた。

 そもそも何故ニッキとレオウードが手合せしているかというと、アヴォロスが起こした戦争についての会議をするためにレオウードはこの【魔国・ハーオス】へと来ているのだが、その会議が一段落して、しばらく休憩することになり、レオウードがせっかくだから日色に会いたいと言ったのだ。

 日色はその時、ニッキの修業の手伝いをするために練兵場にいたので、必然的にレオウードもそこに行くことになった。


 そして彼がやって来た時、レオウードも身体を動かしている兵士やニッキの姿を見て自分も少し汗を流したいと申し出てきたのだ。

 ならちょうどいいからニッキの相手でもしてやってくれと日色は言った。日色の弟子ということでレオウードはニッキに興味を持ち快く承諾した。

 ニッキもまた日色と戦った経験のあるレオウードとの仕合いには大いに乗り気だった。本人は「勝って見せるですぞ!」と自惚れていたので、日色は頭を軽く小突いて叱っておいた。


 結果は当然のことながら分かっていたが、それでもニッキが少しでもレオウードを驚嘆させたことについては満足した。

 まだまだ足りない部分は多いが、やはり弟子の成長は嬉しいものだった。


(そういや、アイツと出会った時は言葉もまともに喋れなかったな……)


「師匠ぉ~負けてしまいましたですぞぉ~」


 悲しそうに駆けつけてきたニッキに対し、大きな溜め息を一つ。


「勝てるとでも思っていたのかバカ弟子」

「うぅ~まるで子供扱いでしたぁ……」

「子供なんだから仕方無いだろうが」

「むむむ! それはいくら師匠といえど聞き捨てならないですぞ! こう見えてもボクは日々成長しているのですぞ! 身長だってこの前測った時、ミカヅキに勝っていましたぞ!」


 自慢するように彼女は言い張っているが、正直ミカヅキと比べてもどんぐりの背比べであり、外見上ではほとんど判別できないほどの成長ぶりだった。


「ガハハ! さすがはヒイロの弟子だ! なかなか見どころのある子供ではないか!」


 そこへ、ニッキが戦っていたレオウードが豪快に笑いながらやって来た。そしておもむろにその大きな手でニッキの頭に手を置き、ガシガシと撫でつける。


「しかしまだまだ荒削りだ。あの《爆拳》とやらは魔力爆発を根本に置いた業なのだろう? しかしまだしかと魔力圧縮ができておらん。まあ、その歳であそこまで昇華させたのは驚嘆ではあるがな」


 ニッキの頭がグリングリンと盛大に揺れている。ニッキはそこからサッと逃げ出すと、日色の背後へと陣取る。「がるるるる!」とまるで獣が威嚇しているような表情だ。

 だがレオウードの言ったことは間違い無かった。あれからニッキには戦う術を教えてきたし、意外にも呑み込みの早いニッキではあったが、まだまだ足りない部分が山ほどある。

 ニッキは人間でありながら魔法が使えないといった特性を持っていた。しかしながら体内に宿っている魔力量が日色のように膨大だった。


 だからこそ、その魔力を使った攻撃方法を編み出した。それが《爆拳》だ。魔力爆発を利用したその攻撃は、威力は大きいがコントロールが難しい。

 失敗すれば備えられた爆発力が自分に返ってくる。その話をした時、ニッキは強くなれるなら何でもすると言ったので、日色はその方法を教えた。

 実は日色も魔力爆発を起こすことはできる。しかし日色の場合、魔法も使えるし、効率も悪いので使わないだけだ。


「つ、次は絶対勝つですぞぉ!」


 レオウードを指差して宣言するニッキだが、


「ガハハ! それは頼もしい! ならばもっと強くなるのだな少年!」

「ボ、ボクは女ですぞぉ!」

「おお! そうだったか、それは済まないことをした、ガハハ!」


 確かに見た目からはニッキが女だとは分からないだろう。まだ子供だし、顔立ちも中性のような作りだ。可愛いは可愛いのだが、見た目で少女と決定するほどの説得力が含まれていない。


「うぅ~師匠!」

「ん? 何だ?」

「修行に付き合って下さいですぞ! 一刻も早くアレを完成させたいですぞ!」


 やる気に満ちた瞳を宿し見上げてくるニッキに肩を竦める。


「……お前、この後は二刀流と手合せするとか言ってただろ?」

「……ああっ! そ、そうだったですぞ!」

「……やはりお前は成長してもバカだな」

「で、では師匠、その後なら!」

「その後はドジメイドたちと買い物の約束をしてたってお前言ってたが?」

「…………忘れてたですぞぉ!」


 …………ニッキはやはりニッキだった。



     ※



 【ヴィクトリアス】の王城、《玉座の間》では現在ヴィクトリアス王となったアヴォロスが玉座に座っていた。

 その傍らにはヴァルキリアシリーズの05号が控えている。まるで秘書のように影のように佇んでおり、アヴォロスが彼女から手渡された何枚かの紙に目を通しているのをジッと見守っている。


「……ふぅん、余が動けなかった期間で、結構動きがあったんだね」

「はい、かつてのルドルフ王が建設した施設やら、資金を提供していた秘密組織などがありましたが、軒並み潰されています」

「なのに誰がやったか判明してないみたいだね」

「はい、どうやら手を下したのは隠密に長けた者たちのようで」

「……ジュドム・ランカースが組織した反乱軍でしょ?」

「かもしれませんし、そうでないかもしれません」

「……そうだね。幾つかは単独で潰しているみたいだし、組織だった動きも無いね」

「どうされますか?」


 アヴォロスはこめかみを人差し指でポンポンと叩くと、


「別に放置でいいんじゃないかな?」

「構いませんか?」

「うん、だって前王のやったことを引き継ぐつもりなんてないからね。潰されるならそれはそれで、別段余自身に害はないし別にいいかな」

「ではそのように。あと、こちらなのですが」


 05号が一枚の紙をアヴォロスに手渡す。その内容を見てアヴォロスは楽しそうに目を光らせる。


「ふぅん、これって本当?」

「呼ばれますか?」

「うん、事情を聞きたいからね」


 05号が軽く頭を下げるとその場から去った。

 しばらくするとアヴォロスの目の前に二人の人物が現れた。


「やあキルツにランコニス、少しコレについて聞きたいんだけど」


 アヴォロスが手に持った紙をヒラヒラと動かす。


「ん? 何ですかねそれ?」


 無精ヒゲを生やした中年男性。サングラスのような黒い眼鏡をしている人物であるキルツが首を傾ける。


「あれ? キルツが提出したんじゃないのかな? それじゃランコニスかい?」


 キルツの隣にいる女性に視線を動かすアヴォロス。ランコニスは薄桃色のショートカットをしていて、眼鏡もしている女性である。少し吊り上がった目は意志が強そうに見える。特徴的に言えばふっくらとした唇かもしれない。全体的に整った顔立ちをしている。


「はい」

「そっか」

「へぇ、ランコちゃん、そんなことしてたの?」

「その呼び方は止めて下さい。本来ならキルツさんが書類作成しなければならないはずなのに、わざわざやってあげたのですから報酬下さい。お金下さい」

「ダハハハハ! 世の中金ばっかじゃねえ~ぜランコちゃん?」

「……とにかく今は陛下の御前です。お話は後で」

「うへ~怖い怖い」


 アヴォロスはそんなやりとりをする二人を見てクスッと笑う。


「ずいぶん仲が良さそうだけど、先にコレについて質問させてもらうよ?」

「仲はよくありませんが、どうぞ」


 ランコニスは完全否定して話を促した。


「じゃあまずは君たちが魔界に行って情報収拾した時なんだけど、『クピドゥス族』の遺跡が潰されていたっていうのはホント?」

「はい。陛下があそこで幾つかのミイラを手に入れたのは我々も知っていますが、それから後は遺跡をずっと放置していました」

「そうだね。もうあそこには必要なものは無いからね。魔法陣の解析も終わっているし、君が言ったようにミイラも手に入れたからね」

「その後、つい最近みたいなのですが、遺跡が破壊されていました。きっともう二度と、あそこで儀式をさせないためでしょう」

「ふぅん、もう関係無いけどね。だけどそんなことをする人物……」 


 アヴォロスは視線を空へ向けて顎に手をやる。


「……まあいいか。次だけど、これが一番聞きたかったことなんだ。…………見つかったって本当かな?」

「はい。もう絶滅したと考えられていましたが、まだ生き残りがいました」

「そっか……一人の消息は掴んでいるけど、アレは爆弾みたいなものだから手を出したくないし…………うん、でもなるほど。生きていたなら是非手に入れたいね。間違いない?」

「はい。キルツさんからの情報ですから」

「へ? 何のこと?」


 アヴォロスがキルツに紙に書かれた内容を読み上げると、


「……多分ですけどね~」


 その内容を肯定するように彼は言うが、少しめんどくさそうにボリボリと頭をかいている。


「そう、もう戦争の宣言はした後だけど、手駒は多い方がいいからね。あの二人にでも頼むかな」


 アヴォロスが独り言のように呟いていると、


「あの~陛下ぁ、俺まだ仕事残ってるんでこれでいいですかね?」

「うん、もういいよお疲れ様」

「へ~い、んじゃ行くよランコちゃん」

「だからそう呼ばないで下さい!」


 スタスタと先を歩くキルツを慌てて追っていくランコニスだった。



     ※



 《玉座の間》から出てしばらく進んだ後、キルツはふと足を止めた。その後ろについていたランコニスも、突然止まったキルツに不自然さを感じて眉をひそめた。


「……ねぇランコちゃん」

「だからその……」


 ランコニスがいつものように窘めようとした時、いつも飄々としてふざけているようなキルツの顔に笑みが一つも無かったので言葉に詰まる。


「キ、キルツさん?」

「……あのこと言ったんだね」

「え? あ、もしかして先程の情報ですか?」

「俺さ、これが陛下の耳に入ると、また戦禍が広がるって言ったよね?」

「……ええ」

「まあ、ランコちゃんは仕事に忠実なだけなんだろうけどさ……」

「キルツさん?」

「まあ、口止めしなかった俺が悪かったんだけど」

「……?」


 心底キルツの言動の真意が理解できないようでランコニスの頭の上にはハテナが躍っている。


「……あの子らには悪いことしちゃったねぇ~」

「あの子ら?」


 キルツは遠方を見るような目つきをして言う。そしてランコニスの呟きには反応を返さず、ボリボリと頭をかくと、サングラスをクイッと上げて再び歩き出す。


「まあ、願わくば静かに過ごせることを……だな」

「あ、待って下さいキルツさん! 一体あの子らってなんですか!」


 しかしキルツは目を閉じながらそのまま歩を進めていった。



     ※ 



 今【魔国・ハーオス】では再び魔国・獣王国会議が行われていた。先程まで小休憩を挟み、その期間を利用してニッキと模擬戦をしていたレオウードが、幾分スッキリした表情で会議の議題に上がっている問題点を口にする。


「やはり問題は相手の戦力だな」


 室内には魔王イヴェアムを初め、《クルーエル》の面々、そしてレオウードとその側近であるバリドが顔を突き合わせていた。またその中には人間代表として、ジュドム・ランカースと【ヴィクトリアス】の第二王女ファラもいる。


「その通りですね。ただ密偵などを放ってはいるものの、表面上でしか戦力を把握できてません」


 レオウードの言葉に反応を返したのはイヴェアムだ。彼女がアヴォロスのもとにある戦力を把握するために、密偵などを多数送って様子を見ているのだが、残念ながら情報を正確に掴めていないかった。

 その理由として、やはりアヴォロスの魔法が一番に挙げられる。彼が使う死者を扱う魔法は、戦力を幾らでも補強できるという強みを持っている。


 つまりアヴォロスはいくらでも手駒を増やすことができるので、そこを考慮する必要があるのだ。しかも密偵の何人かは、【ヴィクトリアス】に近づき過ぎたのか、アヴォロスの手の者に殺された可能性があり、帰って来なかった。

 本来なら内部に入り込み、もっと正確な情報があればいいのだが、ジュドムのテッケイル救出により、警戒度が高まり易々と近づけなくなっていた。


「表面上でも、今把握できている戦力はどれほどなのだ?」

「そうですね、シュブラーズ?」


 レオウードの問いに対しイヴェアムがシュブラーズに促す。彼女は小さく返事を返すと、手に持った資料を読み上げていく。


「最初から整理するために、敵の特徴を追っていきます。まず彼らの特徴、それは黒衣を着用していることです。そしてその黒衣の中には限られた者にだけ背中に様々な紋のようなものが刻まれています」

「……確かに我が国に以前やって来た者たちの黒衣にはそのようなものが刻まれていたと言っていたな?」

「はっ! 一人はコクロゥ、もう一人は【ヴィクトリアス】に召喚された勇者です」


 レオウードが確かめるようにバリドに視線を向けると、彼はつつがなく答えていく。だがその答えを耳にしたファラの顔色が青ざめる。やはり日色同様に大志に申し訳なく思っているのかもしれない。


「それぞれ違う紋様だったようですが、こちらも調べたところによりますと、シュブラーズ殿の言う通り、紋様を背負っていない者も確認できました。恐らく紋様を背負っている者は黒衣の中でもアヴォロスの直臣ということかもしれません」

「ふむ、バリド殿の仰る通り、こちらでもそう睨んでいる」


 イヴェアムが言うとレオウードが「ふむぅ」と低く唸る。


「現時点で何人ほどの者が紋様を持つのだ?」

「ハッキリとは言えませんが、こちらの調べた人数では少なくとも十人以上は……」


 難しい表情を浮かべながら言うイヴェアムは手元にある資料をレオウードの前に差し出す。


「それは紋様黒衣のリストです」


 そこに書かれてあるのは顔と名前、そして紋様の種類。中にはその者の経歴などがかかれてあった。レオウードは一通り目を通すと、一人の人物に目が止まる。


「コイツは……」

「どうされましたかレオウード殿?」

「……魔王よ、この情報は間違いないのか?」

「はい、そこに書かれてあることは今確実に分かっていることですから」

「むぅ……」


 突然険しい表情を見せたレオウードに、誰もが視線を向かわせる。


「一体どうされたのですか? 知っている者でも? もしかしてコクロゥという輩のことですか?」


 矢継ぎ早にイヴェアムが尋ねると、レオウードは皆に見えるように長卓の中心に資料を開いて置く。


「……ジュドム・ランカース」


 ふとレオウードが呟くように言ったのは彼の名前だった。


「何だ獣王?」

「お主ならこの男のことを知っているのではないか?」

「……?」


 ジュドムは資料がよく見える位置まで移動すると、そこに描かれてある人相書きに視線を落とし、瞬きを忘れたかのように見入ってしまっていた。


「……ジュドム殿?」


 彼の突然の硬直に不思議に思ったイヴェアムが尋ねる。


「……バカな。何かの間違いじゃ……」

「ああ、ワシもそう思ったのだが、この人相、やはりアヤツではないのかと思いお主に訪ねたのだ」

「……生きてたのか……」

「この男が本物ならな。いや、アヴォロスのもとにいるとなるとやはり……」


 二人のそんなやり取りに、ほとんどの者は完全に置いて行かれていた。


「ま、待って下さいお二人とも! どういうことか説明をお願いします!」


 堪らずイヴェアムが二人の間に入るように声を張る。ジュドムとレオウードは互いに顔を見合わせ軽く顎を引くと、ジュドムが静かにその低い声を室内に響かせる。


「この男の名はキルツ・バジリックス。…………かつて、俺が若い頃その身を置いていた冒険者組織《平和の雫》のリーダーだった男だ」

「……聞いたことがあります。確かその組織にいる者は全員がSランク以上の冒険者で、トップの二人はSSSランカーだと」


 バリドが補足するように言うと、ジュドムは肯定するように頷く。


「そうだ。俺はまだその時はSランカーになりたてだったが、トップの二人はそれはもうすげえ奴らだったぜ。平和を謳い、武力よりも話し合いを主軸に置いた戦い方をする人たちだった。確かここにいる獣王とも何度かやりあったことがあるって聞いたな」

「間違いない。その二人とは何度か相見えた。二人とも、人間にしておくにはもったいないほどの強さを宿した者たちだった。しかし、二人の中の一人、キルツは死んだと聞かされていた」

「獣王の言う通り、キルツ・バジリックスは、あるクエストに参加してそれっきり帰らなくなった。俺らは総力を上げて探し回ったが、結局見つからなかった。あれから数十年、何でそのキルツ・バジリックスが……しかもあの時の……若い頃のままなんだ?」


 重々しい空気が緊張感を強まらせていく中、最初に口火を切ったのはアクウィナスだ。


「……何故人間の冒険者で、平和を謳っていたその者がアヴォロスの手にあるのか。しかも歳をとらずに。考えられるのはアヴォロスに黄泉から引き摺り出されたということだ」


 彼の言う通り、そう考えれば辻褄は合ってしまう。一度死んだキルツは、アヴォロスの魔法によって復活し、今彼の手駒として動いている。誰もがアクウィナスの考えが正しいと思い頷いている。しかしその中でジュドムだけはギリッと歯を噛み締めて、まるで信じられないといった面相を見せている。


「どこまでもふざけたことを……アヴォロス……っ!」


 ジュドムの身体から明らかな敵意が不快感とともにその場にいた者にビリビリと伝わっていく。まるで大気が震えているようだった。その感情だけで、キルツという人物が、彼にとって大切な人物だったということが分かる。


「で、でもジュドムさん、今は残念ながらそのキルツさんという方は敵になっているッス。できれば情報が欲しいんスけど……」


 このままだとジュドムの威圧感がさらに増して話ができなくなると踏んだテッケイルは、苦笑を浮かべながらもジュドムに声をかけた。というのも、視界に入っているファラが、威圧感を浴びて凄く辛そうだったのだ。

 ジュドムも、ファラの様子に感づき軽く頭を振って考えを飛ばすような仕草をすると、


「すまねえなファラ」

「え、いいえ、お気になさらないで」

「テッケイルもすまねえな」

「アハハ、別にいいんスよ。それで? どんな人なんスか?」

「そうだな……」


 ジュドムは思い出すように目を閉じて微かに笑みを溢す。


「とっても愉快で、優しい人だったよ。ホントに平和を願ってた人だった。すぐ人をからかったり、馬鹿やったり、無茶なことも平気でやるような人だったけど、あの人の下には多くの人が集まった」

「ジュドムさんもその中に一人だったってわけッスね」

「ああ、俺が憧れた人だ。強くて大きくて、あの背中に追いつきたいって思ってた人だ。彼が組織した《平和の雫》ってのは、極力武力は使わず物事を解決する者たちの集まりだった。無論、どうしようも無い時は武力を行使してでも守るべき者たちを守った。かつて、獣王が攻めて来た時、覚えてるだろ?」


 ジュドムはレオウードに向かって言うが、彼も懐かしげに頬を緩める。


「ああ、あの時はワシもまだ若かったしな。だから人間などに遅れを取るわけがないと思って攻め入ったが、たった三人にワシが止められるとは思わなかったぞ」

「さ、三人ッスか?」

「ああ、トップの二人と、そこにいる《衝撃王》だ」

「へぇ~、ジュドムさんってその頃から半端なかったんスね~」


 明らかに声に感動が籠っていた。


「いや、ほとんどトップ二人が活躍したんだよ」

「何を言う。その時、ワシを最後に吹き飛ばしたのはお主だろう。血塗れになりながらも、まだ若いその拳でワシを退かせた。見事だった」

「獣王にそこまで言われるとは、悪い気はしねえけどな」


 若干照れがあるのかジュドムはバツが悪そうに頬をかいている。


「あ、でももし本当に先代にキルツさんが操られているとしたら、厄介なんてもんじゃないんじゃないッスか?」

「そうだな。だから俺の知ってることは全部話す。あの人を楽にさせて上げるためにも、情報は惜しまない。ただ、一つ頼みがある」


 ジュドムは、そこに揃った面々に対し頭を下げる。


「キルツさんともし戦うことがあったら、それは俺に任せてくれ!」


 そのジュドムの懇願には、是非もないという声が多い。ただ操っているのがあのアヴォロスなので、望み通りいくかどうかは分からないとイヴェアムは念を押した。


「構わねえ。これは俺のわがままだ。連合軍が危うくなるようなことはしねえ」

「……分かりました。ではもしその対図になった時は、全力でジュドム殿を支援しましょう」

「ありがてえぜ魔王ちゃん!」

「あ、でもジュドムさん、それならいっそのこと《平和の雫》のトップのもう一人にも参加を願えないッスかね? もし力を貸してもらえるんならすごくありがたいんスけど……」

「は? それならもう仲間だろうが」

「……へ?」


 ジュドムの返答にテッケイルはポカンとする。


「つうか、もうお前とファラは会ってるし」


 テッケイルだけでなくファラまで寝耳に水なようで時を止めたように固まっている。


「忘れたのか? テンドクのジイサンだよ。アレがもう一人のトップだった人物だ」

「「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」


 二人は仲良くハモリながら咆哮するように吃驚した。






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