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金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~  作者: 十本スイ
第五章 マタル・デウスの暗躍編

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152:ひとときの日常

 リリィンが喚きながら去り、残された者たちは当然、時が凍りついたかのように動かない。それほどリリィンの変わり様が衝撃的だったのだろう。

 そんな中で、クククと含み笑いをするアクウィナスに皆の視線が向く。


「ど、どうしたアクウィナス?」


 イヴェアムがそう尋ねると、アクウィナスは微笑を浮かべたまま、


「いや、相変わらずだなと思ってな」


 懐かしげにリリィンが出て行った扉の方に視線を向けるアクウィナスを見て、イヴェアムはつい首を傾ける。


「ノフォフォフォフォ! お久しぶりに可愛らしいお嬢様を拝見できました! 今日は何て良い日でございましょう! ノフォフォフォフォ!」

「シ、シウバ殿! いつの間に!?」


 イヴェアムが当然の如く、先程まで宙ぶらりんになっていたはずのシウバが復活していたので驚いている。


「け、怪我とかは無いの?」

「ノフォフォフォフォ! そのようなものございません! 執事ですから! ノフォフォフォフォ!」


 確かに見たところ何も無さそうなのでイヴェアムはホッとしている。


「……はぁ、リリィン殿には悪いことをした。あとで謝罪せねば」

「ノフォフォフォフォ! それは大丈夫でございますよ。お嬢様にはあとでわたくしからも言っておきますし、どうしてもと仰るならば良いお酒をご用意なさって下さい。できればワインなど良いですな。そうすれば一気にご機嫌がお治りになられますから」

「そ、そうか、分かった!」

「しかしまあ、今お嬢様を心配されるより、マリオネ殿の方をどうにかなさった方がよろしいかと?」

「へ?」


 シウバの意味深な発言に、イヴェアムは「そういえば先程から静かだな」と言いながらマリオネに意識を向けるが……そこには真っ青な顔をしたチョロ髭男爵がいた。


「マ、マリオネ……?」


 直立不動で立ち、目の焦点も合っていない。それなのに額から脂汗が滲み出ている。


「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 するといきなりマリオネが、頭を抱えて壁に頭を打ち突き出したのだ。


「ええええっ!?」


 イヴェアムはマリオネの奇行に思わず声を上げる。


「ワシの、ワシの髭を切るのだけはやめてくれぇぇぇぇぇっ! あ、いかん! いかんぞ! そんな先っぽをばっさりいかれると…………しかも右側だけなんて勘弁しろぉぉぉぉぉっ!」

「……マリオネ……一体……」

「アイツの魔法にかかっているのだろうな」


 答えを出してくれたのはアクウィナスだった。


「アイツ? まさかリリィン殿か?」

「ああ、アイツも相手に幻を魅せることができるからな。大方マリオネは、命の次に大事にしている髭を弄ばれている悪夢を魅せられているのだろう」

「ま、まるで話に聞いた初代魔王のような力だな……」

「…………まあな」


 アクウィナスはイヴェアムの言葉に少し間を置きながら返事をした。イヴェアムは、何故アクウィナスがそのような返事の仕方をしたのか疑問には思っていないようだ。


「し、しかしいつ戻って来るのだ?」

「……まあ死ぬことはないだろうから、放っておけばそのうち戻ってくる」

「……わ、我が国が誇る《クルーエル》の《序列二位》をこうもあっさり手玉にとるとは……リリィン殿は凄いのだな」

「ああ見えてマリオネより長生きしているからな。当然だ」

「む? や、やはり後で謝罪せねばな」


 マリオネの情けない姿を見て、決してリリィンを怒らせてはいけないと思ったのか、イヴェアムは極上のワインを用意するとシウバに言った。



     ※


 リリィンが魔王城の会議室から涙目で逃げ出してから一週間が過ぎた。

 そして日色はこの一週間、ずっと【獣王国・パシオン】にいたのだが……。


「何? 出て行く?」


 《玉座の間》、そこで獣王であるレオウードとその王妃であるブランサを前にして日色一行は話していた。

 その内容はそろそろここを出ようという話。日色曰く、十分国を堪能でき、また欲しい情報も粗方入手できたので基本的にもう用は無かった。

 だがレオウードは、日色が出て行くという言葉を聞いて良い顔をせず聞き返したのである。


「ああ、当初の目的は果たせたしな」

「……もう少しゆっくりしたらどうだ?」

「そうよヒイロさん、せっかくミミルがあんなに喜んでいるんですもの。それに口には出していませんが、ククリアもいつもよりおしとやかですし」

「おお、さすがはこのワシが認めた男だ! ついにククリアまで制したか! 惚れた男の前ではよく見られたいと思っているのであろうな! ガハハ!」

「ええ、ですから普段以上に女性っぽく振る舞っているのでしょうね」


 二人がそんな勝手なことを言っていると、


「な、何言ってるのよぉっ!」


 突然その場に真っ赤な顔をしたククリアが現れた。

 そしてズンズンと日色を追い越して二人の前まで来る。


「パ、パパもママもか、かかか勝手なこと言わないでくれるっ! ほ、ほほほほ惚れたって、惚れるわけないでしょうがワタシがっ!」

「どうしたそんなに慌てて」

「そうね、はしたないわよ」


 二人は窘めるように言ってはいるが、明らかにニヤニヤしている。完全に娘の反応を面白がっている証拠だ。


「うぅ~」


 獣のように唸るククリアは、その怒りの矛先を隣に控えているバリドに向け、


「ちょっとバリド! アナタも側近なら王の発言くらい窘めたらどうなのっ!」

「わ、私ですかっ!」


 まさか自分が巻き込まれるとは思っていなかったのか目を白黒させて固まっている。

 そんな中、ククリアの視線がゆっくりと日色に向かう。


「…………から……」

「は?」

「だ、だから……違うから」

「……何を言ってるんだ?」

「だ、だから!」


 バッと身体ごと日色に対面するククリア。


「い、いいい今のパパとママの発言は違うからっ!」


 そんなに顔を紅潮させながら精一杯否定するとは、余程勘違いされるのは嫌なのだろうと日色は判断する。


「心配するな」

「……へ?」

「お前がおとなしかろうとやんちゃだろうと、オレにはどうでもいいからな」

「あ……う……そ……そう……なんだ」


 何故か今まで赤く染め上げていた頬が元の肌色に戻り、若干ガッカリしたように目を伏せる。

 彼女の背後ではレオウードとブランサが「あちゃあ~」的な感じでこめかみに手を当てていた。

 何か悪いことでも言ったのかと思ったが、どう考えても今の彼らの反応を与えた理由が判明しない。

 ただ思ったことを素直に口に出しただけなのだ。


「あんなぁヒイロ、ほんのちょっと、髪の毛一本くらいでもいいからさ、女心を分かってやれさ」


 やれやれといった感じで頭を振るテンは、変わらず日色の肩に乗っている。


「女心? 分かるわけないだろうが、オレは男だ」

「…………はぁ~、そういうこっちゃねえんだけどよぉ」


 物凄い長い溜息を吐かれたので少し苛立ちを感じた。


「言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ?」

「それが言えるんなら苦労はしねえさ」

「なら黙ってろ。それに二刀流を見ろ。コイツも絶対分かってないぞ。何故ならコイツも男だからだ」


 日色は隣にいるカミュに視線を促すが、確かに彼も首を傾けてキョトンとしている。


「ん……俺は男。ヒイロと……一緒」


 自慢げに言うカミュ。そして「ほらな?」的な感じの日色。そんな二人にもう溜め息しか出ないテンだった。


「ま、まあヒイロよ、先程の話だが、ホントに出て行くのか?」

「ああ」

「むぅ、そうか。できれば時間が空いた時にまた一つ、お前と手合せでもしたかったのだがな」


 勘弁してくれと思った。以前戦ったのは、そうする必要があったためで、自分のために戦った。だがただ時間潰しに戦闘するのは拒否したい。

 自分では戦闘狂だと思ってはいないし、手合せとはいえ獣王と相対するのはハッキリ言って面倒過ぎる。戦っている内に燃えてきたとか言って、我を忘れて本気になりそうな相手との仕合いなどノーサンキューだった。


「それに最近レニオンもお前に勝負を申し出ているそうじゃないか」


 レニオンというのはこの国の第二王子のことだ。戦闘意欲はレオウードと似通っており、さすがは親子だと感じる。だがこういう輩は一度相手をすれば、次は次はと何度も勝負を申し込んでくるので、日色は全く相手にしていなかったのだ。


 レニオンが仕合いを申し込んでくる度に、第一王子であるレッグルスがその窘めとして彼を叱りにくるので、今ではレッグルスに少しばかり同情するほどだった。それだけレニオンはしつこかった。


「まあ、ワシとしては一度戦って世間の広さを教えてやってもらいたいと思うのだが、どうだ?」

「断る」

「ガハハ! だろうな!」


 断られることを承知で言葉を口にしたようだ。隣でそんなレオウードを「もう、あなたは」と叱咤している。


「まあ、今生の別れになるわけでもなし、ヒイロなら魔法でいつでもここへやって来れる。ミミルやククリアが寂しがってたらまた来てほしい」

「ちょ、ワタシは別に……っ!?」


 ククリアが反論しようと息巻くが、


「ああ、それとだ。出て行く前にミミルたちには挨拶してやってくれよ」

「ああ、そのつもりだ」


 また無断でどこかへ行きやがってと怒鳴りながらアノールドに突進されるのはごめんだ。


「まあ、すぐにまた会いそうな気もするがな。奴らのこともある」


 レオウードの雰囲気が変化し、目が鋭く細められる。奴らというのは先代魔王アヴォロスが組織した《マタル・デウス》のことだ。あれから音沙汰はないが、きっとまた何か動きがあるに違いないと日色も思っている。


「……ところで獣王」

「何だ?」

「【楽園】について、できれば前向きに考えてくれよ?」

「ガハハ! そうだな、皆で話し合ってみよう。それにお前の主にも会って話をしてみたいしな」

「勘違いするな。アイツは主じゃない。今回のこともオレが独断で提案しただけだ」


 無論アイツというのは赤ロリことリリィンのことだ。


「……主のためにではないのか?」

「くどいぞ。アイツとは目的が同じなだけだ。というよりも、アイツの掲げる夢の先を見てみたいって言った方が正しいか」

「ほう、惚れてるのか?」


 レオウードの目がキラーンと光り、ククリアのこちらを見る目にも力が入っているような感じがする。


「ふざけるな。オレはノーマルだ」

「ん? ノーマル……?」


 日色の言った意味が分からず首を傾けるレオウード。日色にとって、リリィンは幼女であり、そんな幼女に劣情を催すような性癖は無いと思っている。 


「いやいや、ノーマルでもねえだろ……言ってみりゃ、無色だ無色」


 ボソッとテンが耳元で喋るが完全に聞こえている。首根っこを掴んで後ろに放り投げた。しかしテンは上手く体を回転させて着地した。


「な、何すんだよヒイロ!」

「黙れ黄ザル。無色無色と意味の分からんこと言いやがって」

「けっ! ノーマルなら少しくらい女っ気見せやがれ! この枯れた無色野郎!」

「…………ほう、どうやら黄ザルじゃなく焼きザルになりたいみたいだなこのお喋りザルめ」

「へんっ! やれるもんならやってみやがれこの天然鈍感枯れ男め!」


 二人が睨み合い、火花が散っている時、パンパンと手を叩く音が聞こえ、二人してそちらに視線を向ける。


「止めだ止め! というかこんなところでヒイロと精霊のガチバトルは勘弁してくれ」


 レオウードの言っていることは尤もだ。もしこの流れで本気でなくとも二人が戦えば、恐らく《玉座の間》は崩壊する。それほどの実力を二人は持っている。


「……フン、命拾いしたな良く舌が回るおサルさん」

「コッチのセリフだっての、目つきの悪い短気人間さん」


 ハッキリ言ってどっちもどっちなのだが、そんな子供っぽい二人を見て、思わず周りは頬を緩めていた。

 こんな日色を見ていると、とても獣王を決闘で破り、『魔人族』に勝利をもたらした英雄だと思えないのだろう。


 今度来る時はリリィンも連れてくるので、その時【楽園】について詳しく話を聞いてくれと言って日色はその場を後にした。

 とりあえず向かう場所は庭園だ。そこに会うべき人材が軒並み揃っているらしかった。


 庭園に着くと、畑ではミュアとミミルが仲良さそうに笑いながら作物を収穫していた。同じくその近くにはアノールドとその姉であるライブの姿も見えた。

 近寄っていくと……。


「ヒイロォォォォォォォォッ!」


 聞き覚えのある声と、こちらへ向って来る大地を鳴らす足音が耳に届く。

 瞬時にいつものように『交換』の文字を書こうとするが、そこでうっかり、その場には日色の盾である鳥人間ことバリドがいなかったことに気づく。

 咄嗟にアノールドに対して発動しようと思うが、距離があり過ぎた。そんな虚を突かれた隙に結局……


「ウニャァァァァァァ~!」


 背後から抱きつきとは名ばかりの突進を食らったが、どうにか足を踏ん張って耐えた。

 そして今、その原因であるニャン娘のクロウチは日色の背中に小さな頭をグリグリして、ようやく成功した抱きつきを精一杯堪能している。


「ヒイロォォォ~、ヒイロォォォ~ニャァァァァ~」

「……いい加減離せニャン娘」


 鬱陶しそうに言うが、


「嫌ニャッ!」


 ビシッと断言されてしまう。呆れて日色も溜め息を漏らすが、そこへ日色の来訪に気づいたミュアたちが一斉にやって来た。


「もうクロウチさん! ヒイロ様から離れてください!」


 第二王女ミミルが可愛らしく口を尖らせている。傍にいるミュアも頬を膨らませている。


「へっへ~いいぞいいぞもっとやれ~! 相手がミュアじゃなきゃ誰でも……ひぃっ!」


 アノールドはどうやら学習という機能が無いようだ。


「おじさん? わたしじゃなきゃ…………なに?」


 ゴゴゴゴゴゴゴと背後に業火の揺らめきが見えている。

 アノールドは顔を真っ青にして、


「こ、こらいけませんよクロウチ様! そういうことは部屋で二人っきりの時にしてください!」

「ニャ! そうニャ? 二人っきりニャらニャんでもしていいのニャ? ニャったらヒイロ! 僕の部屋行こうニャ! い~っぱいぎゅ~ってするニャ~!」


 満面の笑みを浮かべるクロウチだが、アノールドの背後に現れた……。


「……おじさん?」

「……アノールドさん?」


 二人の天使がとうとう悪魔に変わってしまった。そこで自分の失言の危険性に今気が付いたようにハッとなったアノールドは、


「……ハハ……俺ってお茶目さん……」


 最後の言葉を残して笑いながら沈黙したという。







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