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143:閃光花火

 ミュアとアノールドは突然鼓膜を震わせてきた声に反応していた。

 二人して《王樹》の方を見ると、そこにはテンと呼ばれた日色と契約した精霊の姿があった。

 ちょうどあそこからは国全体を見渡せる高さにある。

 そしてそこへ日色が、やれやれと頭をかきながらテンと同じ場所へ向かっている姿も目にした。


「お、おじさん? あれヒイロさん……だよね?」

「あ、ああ……アイツまた何をするつもりなんだ?」


 いつも規格外なことをする日色だが、今回その彼は何か今いちやる気が見えない様子。

 何の対価も無く動く彼ではないのに、仕方無いといった感じで動いているのが見えているせいだ。

 だがこうして皆の注目を浴びる中、嫌々でも毎回必ず驚愕すべきことをやってのけるので、今回も何をするのかミュア的にはドキドキでもあった。こんな状況だからこそ特にだ。


 すると日色が腰に下げている刀を抜き、そのまま腕を突き出したと思ったら、刀の先にテンがヒョイッと乗った。

 直後、突然刀から凄まじい光が放たれたのである。



     ※


「いいか、教えた通りにやってくれよヒイロ」

「分かったからお前も集中しろ。ここへ来る前に何度か練習したんだから問題無い。知ってるだろ?」

「へいへ~い」


 刀の先に乗ったテンに憮然とした態度で言うと、突然テンの身体が発光しだした。

 下から見ている者には、刀が発光していると思うかもしれない。


 テンは顔を動かして街の中をじっくりと視界に捉えていく。そして一通り見終わったのか小さく頷くとニヤッと笑う。


「おっけ~、敵意かっくに~ん!」

「《絶刀・ザンゲキ》……」


 テンがそこからピョンと高く空へと跳び上がる。

 テンを包んでいる光がさらに大きくなってく。まるで空に浮かび上がった小さな太陽のようだ。


 日色は刀を投げ槍を持つような姿勢を作る。

 目つきを鋭くさせ、上空にいるテンを睨みつけた。

 それはあたかもこれから攻撃するターゲットを射抜くような目だ。


 ――ヒュンッ!


 日色はテン目掛けて《ザンゲキ》を投擲。

 見事テンの身体が刀に貫かれてしまう。それはもう普通なら完全に即死のように見えただろう。


 だが次の瞬間――――バァンッ!


 突然テンの身体が膨れ上がり刀を飲み込んだかと思うと、大きな爆発音とともに弾け無数の光に変貌した。


「襲え――――《閃光花火(せんこうはなび)》」


 弾けた光が、無数の弾となって街下に降り注いでいく。

 それはまるで空から降ってくる流星の如く。

 その光景を見たミュアたちや国民は必死で逃げようとするが、それはとてつもないスピードで向かっていき次々と容赦無く襲い掛かる。


 ――――水人形という存在のみに。


 光に貫かれた水人形たちは、瞬時にして蒸発したかのようにその存在を消失させる。

 体内で捕らえられていた者も、光に貫かれはしたが、無傷のままその場で呆けていた。


 そして無数にいたはずの水人形たちは僅か数秒後に、流星の前に姿を消したのであった。


 誰もが起こった現実に戸惑い唖然としている最中、日色はその光景を目にし満足気に頷く。

 すると上空からクルクルと身体を回しながら、光となって弾けたはずのテンが落ちてくる。

 パシッと見事に着地を決めるとVサインを作り二カッと笑う。


「へっへ~ん! 俺最強~!」

「ふざけるな。オレの力あっての殲滅だ」

「おお……二人とも凄い」


 カミュがパチパチと手を叩いているのを見て、日色は肩を竦める。


「ま、文字通り鮮烈なデビューにはなったがな」

「ウキキ! 俺と《ザンゲキ》ちゃんにはこれくらいがちょうどいいっての!」


 テンは嬉しそうにまた跳びはねてはいるが、下にいる者ほぼ全員から説明しろ的な目で見つめられているのでどうしようか悩みどころだった。



     ※



 【獣王国・パシオン】から少し離れた場所にある丘に、一人の人物が地べたに腰を下ろしていた。

 その人物は黒衣を纏い、座っているのは地面に描かれた魔法陣の上だった。

 魔法陣にはちょうど真ん中に座っている者を囲うように小刀が円を描く感じで複数突き刺さっており、明らかに何かの儀式だと推測できる雰囲気だった。しかし突然その小刀が音を立てて全て粉々に砕かれた。


 粉砕したナイフの残骸を見てその人物は静かに立ち上がると、ジッとフードの中から遠目に映る【パシオン】を見つめる。その時、背後から誰かが近づいて来ており、


「勝手な振る舞いは止めてくださいキルツさん」


 その人物もまた黒衣を纏っていた。

 声のトーンから女性のようだが、その声音は呆れと怒気が含まれている。


「んお? こりゃやっべえ、見つかっちまったかぁ」


 ボリボリと頭をかきながらフードを取る。そこからは無精ヒゲを生やした中年の男性の顔が現れた。またサングラスのような黒い眼鏡をしていて、人懐っこそうに笑っている。


「見つかっちまったかぁではありません! 陛下の指示も無しに勝手に【パシオン】を攻めるとは何を考えているんですか!」

「なあなあ、それより腹減らない?」

「人の話を聞いてください!」

「ダハハハハ! それ無理~、だって俺説教嫌いだも~ん」

「何を良い大人がも~んとか言っているんですか!」


 キルツと呼ばれた男は怒る相手を無視して目線を【パシオン】、いや、一人の人物に向ける。


「……なあランコちゃん」

「な、何ですか? というかその呼び方は止めてくださいと何度も言っているじゃありませんか。私はランコニスです」

「……アイツ、名前何て言うんだっけ?」

「……私の言い分は無視ですか……はぁ、アイツ? 誰のことですか?」

「見えんだろ? あそこの《王樹》のテッペンにいる小僧よ」

「見えるわけないじゃないですか。ここからどれだけ離れてると思っているんですか? 私はあなたみたいに《鷹の目》を持っているわけじゃないんですから……」


 するとキルツは虚を突かれたような顔をして、


「んお? 見えねぇんか? ん~ほら、前回顔見せした時いたろ? 陛下にバリバリ喧嘩売ってた小僧」

「……ああ、いましたね。その彼がどうかしたんですか?」

「なあに、別に大したことじゃねえよ。ただ俺の魔法を一瞬で無に帰しやがっただけだ」

「た、大したことじゃないですかぁっ! そ、それより本当のことなんですか、あの少年がキルツさんの魔法を無に帰したというのは!」

「うん、まぁな。けど……小手調べに挨拶かましただけだったんだが……思わぬ収穫あり……かねぇ」


 サングラスの奥に潜む目を怪しく光らすと、ニッと口角を上げた。


「どうでもいいですが、今回のことバレたらどうするつもりだったんですか?」

「あっれぇ? バラしてないのランコちゃん?」

「そんなことしませんよ。まあバラしてほしいなら今すぐにでも陛下に進言してあげますが?」

「ダハハ! そりゃ勘弁だわ!」

「そうですか。ならもう行きますよ。用は済んだでしょう?」

「ああ、正直陛下の起こす戦争にあまり興味は無かったが……おんもしれぇ奴もいるみてぇだし」

「はい? 何か言いました?」

「何でもないない」


 キルツは再びフードを被り直す。

 そして【パシオン】を一瞥すると、ローブを揺らしながら踵を返し歩いていく。


(……いるじゃねぇか結構マシな連中が。陛下は獣人には期待できないとか言ってたが……様子見しに来て良かったなぁ。それに一番はやっぱ俺の魔法を消したアイツ…………楽しみだ)


 それからすぐにそこへ獣人の兵士たちが駆けつけたが一足遅く、残されていたのは魔法陣と粉々になったナイフの残骸だけだった。



     ※ 



「せっつめいしやがれぇぇっ、ヒイロォォォッ!」


 突然アノールドが日色のいる《王樹》へと乗り込みやって来た。後ろにはミュアや、その他顔を知っている連中が集まっている。

 当然こうなることは予測はしていたが、詳しく説明する義務は無いので、


「断る」


 それだけ言うと、そこにはオーノウスもいたからちょうどいいと踏み、


「続きを教えてくれ」


 と頼み込む。

 こっちは早く《太赤纏》を学びたいがために戦闘を終わらせたようなものだった。無論《絶刀・ザンゲキ》の試しもあったが、一番は《太赤纏》には違いない。


 オーノウスもまた、先程の光景を目にしていた一人なので説明を求めたいといった表情が目に入ってくる。

 別にオーノウスには訓練を受けさせてもらっているので、教えるくらいは吝かではないが、こうもずら~っと立ち並ばれると気が滅入る。


「あ、あのヒイロ様、先程のはヒイロ様が?」


 ミミルも若干困惑気味に聞いてきているが、どうやら彼女は日色の姿を確認してはいなかったようだ。


「ああまあな。少し試したいことがあったから試しただけだ」

「そ、それでもです! それでもヒイロ様が国をお救いして下さったことには違いありません!」

「そうだぞヒイロ、お前のお蔭で迅速に事を収めることができた。感謝するぞ」

「ほう、なら大陸の一部を……」

「おほん! それとこれとは話が別だ。それにお前が手を貸してくれなくとも、ワシだけでも何とかできたしな」


 レオウードが強がりのように言うが、それが強がりでないことは彼と戦った日色が一番よく知っている。時間はかかったろうが、日色がいなくてもあの程度の敵なら殲滅できただろう。

 しかし勢いに任せて言質を取ろうとしたが、さすがは獣王だ。引っ掛かりはしなかった。


「とにかく、さっきのことについて詳しくは……」

「そうなんよ~、俺って精霊だからさ~」

「教えられな……い……」

「さっきの攻撃はさ、《閃光花火》って言ってさ、俺が爆発したん見たろ?」

「…………」

「あれはさ、俺っていう存在の特異能力のって…………あ、あのヒイロ、な、なんで俺の頭をそんな目一杯掴んでんのかな?」


 せっかくこっちが自分の能力を隠そうとしているのに、身体も口も軽い小動物が、ミュアとミミルたちの前で意気揚々と御高説していた。


「お前な……」

「い、いいじゃんかよ別に! 知られたところで問題ねえじゃんか! それにこういうスポットライト浴びるのって俺すっげえワクワクしてんだからさ!」


 嫌々と駄々をこねる子供のように頭を振るテンを見て、何も言う気が失せ仕方無く溜め息をともに説明を許可した。

 確かに日色の能力というよりはテンの能力なので、彼が話したいというのなら別段構わないと思った。それに余計なこと(欠点など)はさすがに言わないだろうと判断してのことだ。


 テンの独壇場で、驚くことにレオウードまで興味津々に耳を傾けていた。

 だが彼らが気になるのも無理はないだろう。それだけ異質で超常的なことを日色がしたのだから。

 テンと《絶刀・ザンゲキ》は一体化している。つまり二つとも精霊、いや『高位精霊』の力を持っている。


 つまり《魔法無効化能力》である。これにより、魔法でできた水人形を無効化させたという単純な話ではあるのだが、あの時、テンは身体を発光させる前に敵からの敵意をサーチした。

 テンは敵意に敏感であり、それを一定の距離の範囲ではあるが全て把握することができる。


 《閃光花火》は見た目通り、テンに《ザンゲキ》を刺すと花火のように爆発を起こして散開する。

 そして飛び散ったテンは閃光の塊となり上空から敵へと降り注ぐ。

 敵意の無い者には無害だから、水人形に捕まった国民たちを貫いても無傷だったということだ。尤もその国民が魔法を使っていたりすれば、その魔法は無効化されるが。


 簡単に言えば範囲内の魔法を全て無効化できる効果を持っているということだ。ちなみに物理的ダメージは一切無い。

 得意気に説明しているテンを見て溜め息を溢していると、


「ヒイロォォォォォォッ!」


 ダダダダダダダとその場に聞き慣れた声が届いてくる。その白い物体は間違いなくニャン娘のクロウチだった。


「見てたニャァァァァッ! やっぱヒイロはすっごいのニャァァァァッ!」


 このままではまた抱きつきとは名ばかりの突進を食らうので、すかさず『交換』の文字を書く。


(許せ……鳥人間)


 悪いがまた同じ手を使わせてもらった。


「がふんっ!?」


 瞬時に日色と位置を変えた《三獣士》のリーダーであるバリドは、前回と同じようにクロウチの体当たりをまともに食らって吹き飛んで行った。


「ニャァァァァァッ! またバリドニャァァァッ! ニャんでニャァァァッ!」

「いい……加減……にし……ろ」


 ガクッと頭を落としたバリドを、その場にいた者全員が哀れさを含めた目を向けていた。









「は? 今から【魔国】に帰る?」


 突然オーノウスから聞かされた言葉に日色は絶句してしまった。

 日色は先程、敵の来襲で中断してしまった《太赤纏》の訓練をできるだけ早く再開するために敵を一掃した。

 それなのにオーノウスは訓練よりも優先すべき事項ができたと言って【魔国・ハーオス】へ帰るという。それに向こうで少し私事も片づけておきたいと言った。


 確かに今回、こうして会えて少しでも訓練を受けれたのは僥倖だったので、強くオーノウスを引きとめることはできない。彼には彼の仕事ややりたいことだってある。


「悪いなヒイロ。ここが襲われた以上、向こうも警戒する必要がある。それに今回得た情報も陛下にお届けしたいのでな」

「…………はぁ、まあ基礎は一応口頭で教えてもらってるし、今回はそれで我慢しておくか」

「なに、お主には必要なことは教えた。後は繰り返し修練するだけだ」

「ああ、一応礼として向こうへ帰るなら送るがどうする?」

「む? そうか? なら頼むとしよう。部下たちは置いておくから何かあったら手数で悪いが俺のように向こうへ送って情報を届けてもらいたい」

「まあ、それくらいなら構わんぞ」

「助かる」


 それから準備を整えに一度部下たちの元へと向かったオーノウスだが、手間を省くために日色も一緒について行き、そこから彼を『転送』の文字で【魔国】へと送った。


「どうするの……ヒイロ?」


 カミュがこれからのことを聞いてきたので、とりあえずもう一度《太赤纏》の訓練をしようと思った。

 せっかくコツらしきものは教えてもらったので、その日にできるだけ身体に慣らしておこうと考えたのだ。


「そうだな…………ん? ところであの小動物はどうした?」


 肩に若干の寂しさを感じたと思ったら、いつもそこにいるテンの姿が無かった。自慢気に《閃光花火》について説明し、それが終わったら肩で風を切りながら定位置へと戻って来た。

 そこからオーノウスに会って先程の会話をしていたのだが、いつの間にかそこから消えていた。何か知っているかと思ってカミュに尋ねると、彼は小さく顎を引く。


「ん……ミュアのところ」

「チビ? 何でまた……」

「ヒイロとの出会い……聞きたいって」


 彼が言うには、日色とテンとの出会いを、ミュアはミミルとともに聞きたいとテンに言っていたらしい。

 これから日色は《太赤纏》の訓練をする間、テンには時間が空くのでその時間を利用してミュアたちの所へ向かったのだ。


「なるほどな、お前はいいのか?」

「俺……ヒイロと一緒」


 相変わらずの忠義心だが、


(よくもまあついて来るよな。オレなら暇で暇で仕方無いが……)


 カミュは無機質なその表情を崩すことなく、また欠伸一つすることなく日色をジッと見つめて傍に控えている。何が彼をそこまでさせるのかこの前聞いたことがあるのだが、


『ヒイロは恩人。俺の……生涯の主』


 バシッと言い切られ、逆に何も言い返せなくなった。カミュが望んだ結果だというのなら、これ以上何も言うことは無いのでそのままにしている。

 だがそこでふと思いついたことがあり、カミュに視線を動かす。


「……そうだな、なら少し手伝ってくれ」

「……何を?」


 コクンと首を傾けて聞き返してくる。


「ちょうどやってみたいことがあったんだ」


 そうして先程オーノウスに訓練を受けていた部屋へと戻って行った。



      ※



 ミュアとミミルは《王樹》の庭園で作物の回収や種蒔きなどを行っている。これは二人の日課。

 そしてテンもまた、農業初体験ということで楽しみながら二人を手伝っていた。


 ここで育った作物は食べられるものが多く、国民たちへと配ることも多々ある。ここの責任者はアノールドの姉であるライブなのだが、彼女が育てる花や作物は人気があり、多くの需要をもたらしているのだ。

 ミミルもまた菜園が好きで、こうしてミュアの時間が空けば二人で庭園にやって来て仕事をする。


「ほ~れ、お茶が入ったよ!」


 そこへライブが少し休憩しろと言ってきた。手にはお茶菓子が用意されていた。

 せっかくの良い天気なので、そのまま庭園で頂くことになった。テンも美味しそうに菓子を口にしては顔を綻ばせている。

 何でもない雑談をしていると、突然ライブがニヤッと笑みを浮かべると、


「ねえアンタたち、ヒイロのこと、好きなんだろ?」

「「ぶっ!?」」


 ミュアとミミルは二人してお茶を吐きそうになり咳を何度もする。


「な、なななななな何をおっちゃってるんでちゅかっ!」

「そ、そうですよ! い、いきなり過ぎますよライブさんっ!」


 二人の顔は面白いように真っ赤になり、それを見たライブは楽しそうに笑っている。


「アハハハハ! アンタたち、その反応だけで十分だよ! アハハハハ! ん? おや、アンタは気づいてたのかい?」


 ライブは同じようにニヤニヤしているテンの顔を見て、彼は気づいていると判断したようだ。


「ま~な~、気づいてねぇのって、ぶっちゃけヒイロだけじゃね?」

「そうみたいだね、アレはなかなかに難しそうな奴だね」

「う~ん、そもそも何で嬢ちゃんたちはあの無愛想な奴のこと慕ってんだ? どう考えてもめんどくせえ人間性してんじゃんか」


 テンが不思議そうに尋ねるが、二人はいまだ顔を真っ赤にしたままで俯かせている。

 そして二人して手をモジモジとしだして、


「「そ、それは……」」


 まるで姉妹のようなハモリを見せてくる。そんな二人を見テンとライブは肩を竦めて互いの顔を見せ苦笑をしてみせた。


「ほれ、まずミュアちゃんは何で?」

「はう! わ、わたしでしゅか!? あの……その……それはですね……えっと……」


 聞くまでに相当時間が掛かったが、どうやらミュアは初めて会って、そこから旅をし続けているうちに日色に惹かれていったという。


「そ、その……ああ見えてヒイロさんは優しいところがあって……か、カッコ良いですし……な、何より自分というものを持っててすごいなぁって思ってまして……」


 口を動かす度に、プスプスと頭から湯気を溢れ出させるミュア。これ以上喋らせると爆発するのではと思われたほどだ。


「なるほど~、んじゃミミルちゃんは?」

「う……ミミルは……」


 少し言い難そうに身を引いた彼女だが、軽く深呼吸をするとニコッと笑みを浮かべる。


「ミミルは……あの方に助けて頂きました。ですが、それはあの方を知るただのきっかけに過ぎません。ミミルは……ミミルは初めて会った時からあの方に心を掴まれてしまいました」

「ふ~ん、一目惚れってやつ?」

「いいえ、運命です」

「……いや、それって一目惚れじゃ……」

「運命です」

「だ、だから……」

「運命です」

「……うん、きっとミミルちゃんとヒイロは運命の赤い糸で結ばれてんだね!」


 もう反論するのは諦めて潔く乗っかったテンだった。


「それに、ミュアちゃんも言ってましたよね。運命だって」

「あ、うん」

「ミミルたちとヒイロ様との間には、切っても切れない運命の糸が結ばれています。少なくとも、ミミルたちはそう信じています」


 ミミルとミュアは顔を見合わせ「ね~」と言いながら互いの手を取り嬉しそうに笑みを浮かべている。


「はぁ~こりゃぞっこんだってことかぁ~。アイツ、一体何人の女を落としゃ気が済むんだ?」


 そんなテンの言葉にピクッと同時に耳を動かしミュアとミミルは明らかに雰囲気を変えた。そして二人同時に、テンの方に顔を向けるとニコッと笑う。


「「テンさん、そのお話、詳しく聞かせて頂けませんか?」」

「…………はい?」


 笑顔なのに有無を言わせない威圧感を感じているのか、テンはゴクリと息を飲むと……。


「……わ、分かりましたです……はい」


 後になって彼は言った。あの時の迫力は『精霊王』のそれよりも強かったと。







本日、新たな『文字使い』の物語を投稿しました。


タイトルは


『終末の文字使い ~現実世界にモンスターが現れて500年後のユニークチート~』


です。

今作は現実世界が舞台で、もし文字使いがいたらという話になっています。

『金色』が好きな人は、きっと楽しめる作品となっておりますので、どうぞよろしくお願いします!


https://book1.adouzi.eu.org/n0618fz/


アドレスを貼っておきます!



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