141:知れ渡る凶報
1月22日に新作を投稿します。
しかも今回は、新たな『文字使い』の物語です。
タイトルは
『終末の文字使い ~現実世界にモンスターが現れて500年後のユニークチート~』
です。
今作は現実世界が舞台で、もし文字使いがいたらという話になっています。
『金色』が好きな人は、きっと楽しめる作品となっておりますので、どうぞよろしくお願いします!
一人テラスで悠々と星空を見ていたアヴォロスは、背後から近づいてくる気配に対し、そのままの格好で口だけを開く。
「…………カイナビかい?」
「はっ!」
「首尾はどうかな?」
「滞りなく。報告では王妃と王女リリスを捕獲したとのことです」
「うん、上々だね。けどまさか《衝撃王》が反撃もせずに逃げに徹するとは意外だったなぁ」
アヴォロスの言う通り、ジュドムに宣戦を布告した後、彼は一目散にその場から逃げ出した。
以前戦ったことがあったアヴォロスとしては、彼を挑発すれば熱くなって向って来ると踏んでいたのだが……。
「存外、成長したじゃないか。あの時の若者が」
ジュドムと初めて相対した過去を思い懐かしさが込み上げ、つい笑ってしまった。
そう、彼がまだ冒険者になりたての頃、少し挑発しただけでもイノシシのように突っ込んできたのが、まるで昨日のように思い浮かんでくる。
自らの時はこうして止まっているが、間違いなく時の流れは動いている証拠だ。
「どうされますか?」
「ん~そうだね。仮にも彼はランクSSSの冒険者。元だけどね。でもその実力は折り紙つき。一対一だったらさすがの彼らも危ないかもしれないし……」
「それほどまでにやる男なのですか?」
「ん? あ、そっか、君は知らないんだね彼の力。うん、彼はあらゆる衝撃を知り尽くしてる男なんだ。魔法戦にせよ、肉弾戦にせよ、一人で挑むのは厳しいかもね」
「そこまでとは……」
「何を言ってるのさ。君だって少しは理解したんじゃない? だってここに来てずっと《衝撃王》に花の香りを飛ばしていたでしょ? それなのに彼には通じなかった。まあ、というよりはカイナビの攻撃に気づいて対処していたんだろうけどね」
カイナビは悔しそうに歯を噛み締めるが、アヴォロスは楽しげに笑みを浮かべる。
「一応何人か使役してる死者たちに追わせてはいるけど、見事に蹴散らされているようだし……どうしよっかなぁ」
小首を傾げ、しばらく思案顔を作っていると、ピクンとアヴォロスがあることに気づき眉を動かして目を細める。そして眼下に広がる街並みを見つめた。
「…………そうか、君は敵に回るつもりなんだね」
その表情は先程のアヴォロスと違ってどこか儚げで寂しさを含むもの。
「陛下?」
「……ううん、何でも無いよ。ただちょっと面白いことが起きただけさ」
「……?」
アヴォロスは再び星空を見上げた。
そして誰に向かって言うでもなく、呟き声を上げる。
「国は貰ったよ……ククク」
※
【ヴィクトリアス】がアヴォロスの手に落ちたという凶報は、すぐに【獣王国・パシオン】にも届いていた。
そして今現在、そこへ滞在している日色の耳にも当然の如く入ってくる。
当初、あまり人間界の情報を得ていなかった日色は、国王であるルドルフが乱心したことや、その代役としてジュドムが国を纏め上げていたことをその時初めて知ることとなった。
特にルドルフ乱心という報には呆気にとられた。情報ではアヴォロスの配下にモンスター化されたというが……。
(何ともまあ、皮肉な人生を送ってるな愚王は)
自身が忌み嫌っていた『魔人族』を手玉に取ったつもりでいたみたいだが、結果的に手玉にされていたのは彼であり『魔人族』に裏切られ、しかも言葉もまともに喋れないモンスターに変化させられるとは、あまりに哀れ過ぎる人生だと思った。
彼の本懐がどこに在ったのかなど知らない。
本当に世を平和にすることが目的だったのか、それともただ娘を犠牲にしたという事実に意味を持たせたかったのか、今となっては確かめる術もない。
ただ彼はそうまでして突き進んでいた道を、誰かの都合で捻じ曲げられ、挙句に死にも相応しい末路となっている。
(人間を総べていた王が、一介のモンスターに変わるか…………激動の転落人生)
碌な死に方をしないだろうなと思ってはいたが、まさかモンスターになるなどとはさすがに考えなかった。
(それにしてもあのテンプレ魔王め、本格的に動いてきたな)
何かしらの動きは近いうちにあるだろうと思ってはいたが、まさか【人間国】の乗っ取りだとは意外な事実だった。
日色は今、《玉座の間》でレオウードと対面しているのだが、その時報告を聞いたのである。また彼ら《マタル・デウス》があちこちで暗躍していることも知った。
「ヒイロ、奴らは何をするつもりだと思う?」
「世界征服だろ?」
「…………いや、それは分かっているのだが……」
呆れたように溜め息交じりにレオウードは喋るが間違ったことは言っていないはずだ。何といっても自分たちの目の前でアヴォロスがそう宣言したのだから。
「とにかく今は情報収集に努めた方が良いのは確かだろうな。奴らの最終目的が世界征服だとしても、その過程で間違いなくコッチにも被害は訪れる」
「うむ、ヒイロの言う通りだ。魔王とも情報を密にし、対策を立てねばなるまい」
※
【獣王国・パシオン】の誇る頭脳であるユーヒットは、自らに与えられている研究室へと向かっていたのだが、ふとその部屋の扉を開けようとした時、中から誰かの気配を感じた。
ゆっくりとその誰かを確認するように扉を開くと、そこにいた人物を見て「ほほう」と感心するように声を漏らした。
「おやおや、これは珍しいお客さんもあったもんですよぉ」
その人物はユーヒットと同じく長い耳を持ち、これまた同じように白衣を着ている。しかもどちらもヨレヨレの白衣であり、似ているのはそれだけでなく顔立ちも何となく似通っていた。
しかしそれは当然のことだ。今ユーヒットの目の前にいるのは、ユーヒットと血が繋がっている実の妹であるララシークなのだから。
「ふん、こんな場所に来たくは無かったがな」
愚痴を溢すように口を尖らせる姿は子供のようだ。彼女は手に持っていたペンチのような道具をポイッとテーブルに投げ置いた。
「ああ、そんな乱暴に扱わないでほしいのですよ!」
慌ててユーヒットはテーブルに放り投げられた道具を手に取り、無事かどうか確かめてホッと息を吐く。
「相変わらず、自分の研究に関係するものだけは大事みたいだな」
「ニョホホホ! いけませんですよララ! これはホラ、見やがれなんですよ!」
手に持った道具にはよく見るとスイッチのようなものが複数あり、それをユーヒットが押すと、ペンチ型だった道具はカシャカシャとまるで組立パズルのように動き、一瞬にしてマイナスドライバーへと早変わりした。
「…………」
「ニョホホホ! それにこうやればですよ!」
またスイッチを押して、今度は金槌の形になる。
「ホラホラァ! 便利じゃないですかぁ! ララもレッツプレイ!」
「いるかこんなもん!」
「ああっ!?」
ユーヒットに道具を手渡されたララシークは、そのまま隅に置いてある道具箱に投げつけた。
「うぅ……ひ、酷いことしやがるのですよぉ……」
グルグル眼鏡の下から涙を流しながらユーヒットは嘆いていたが、それを冷ややかな様子でララシークは見つめていた。
ユーヒットは研究馬鹿の他にも、研究に関係するものをまるで家族のように大事にしている。特に自らが作成したものに関しては必ずララシークに自慢するので鬱陶しいと彼女は感じているのだ。
「そんなことより……」
「そ、そんなことよりっ!? な、何てこと言いやがるんですかララ! この子たちは僕の子供のようなもので!」
「はいはい、分かった分かった。お詫びに今度良い酒でもわけてやるから許せ」
「僕は酒などに興味はないのですよぉ!」
顔を真っ赤にして怒るユーヒットに、ララシークはめんどくさそうに溜め息を漏らし頭をかく。
「悪かったよ。ところで例のナイフの件はどうなったんだ?」
「うぅ、全然謝罪の気持ちが伝わってきやがらないんですが……まあいいですよ。えっと、例のナイフと言うと、アレのことです?」
ユーヒットは棚に収められてある赤い布で包まれている物体を指差す。
「ほう、アレか」
ララシークはそのナイフを布ごと取り出し、中身を確認する。
「それで? ヒイロに調べてもらったんだろ?」
「ニョホホホ! その通りなのですよ! 全くもって驚きの調査能力なのでございますよぉ! ニョホホホ!」
「ま、アイツのアレは反則だけどな。それで? このナイフの正体は何だ?」
「ほ~う、ララもやはり気になりやがりますか?」
「まあな、ワタシだって一応研究者の端くれだ。このナイフだってレオ様の頼みで調べてはみたが何も分からんかったんだしな」
肩を竦める彼女は、ナイフを手に取りジッとその怪しく光る刃の部分を見つめる。
「モナーククラーケンに存在する《ドフトフィル》を加工して作られた刃。その効力は圧倒的な硬度と魔力を通しやすくすること。これで何をどうやったら《アラゴルン》を枯れさせることができるのか、理論が全く立たねえ」
「まあ、それはそうなのですよ。だって刃にはそもそもそれほど重要な意味は無いですからねぇ~」
「……はあ?」
ポカンと虚を突かれたように固まる彼女に近づきユーヒットはナイフを受け取る。そしてある部分を指差す。
「コレが肝だったのですよ」
「コレ?」
そこにはビー玉のような綺麗な水晶玉が嵌められてあった。
「……やっぱただの水晶玉ってわけじゃなかったんだな?」
「ニョホホホ! そのようなのです! 何でも赤ローブくんが言うには、これは《双子珠》と言うらしく、何でもコレと対となるもう一つそっくりの珠が存在しやがるらしいのですよ」
「……それで?」
「実はですね、この珠とどこかにあるもう一つの珠は繋がってやがるらしいのですが、これは言わば送信役と赤ローブくんは言ってましたのですよ」
「送信?」
「もう一つは受信。……分かりませんですか?」
ユーヒットは人差し指を立ててララシークに試すような言い方をするが、ララシークはしばらく考え込むとハッとなって、
「そうか! 送信……受信……なるほどな。つまりはだ、このナイフで《アラゴルン》に備わっている魔力を全て奪ったってことか。そして奪った魔力は送信役のこの珠を通じて受信役のもう一つの珠へと送られた……だな?」
「ニョホホホ! さすがは僕の妹なのですよ! その通りなのです!」
《ドフトフィル》で作られた刃物は魔力を通しやすくする。つまり《アラゴルン》に刺さったナイフは、その刃物を通過して珠へと魔力が流れていく。そしてその珠からもう一つの珠へと魔力は流されていった。
魔力を宿した大樹である《アラゴルン》は、全ての魔力を奪われて枯渇した。だがそれだけならまだ良かった。しばらく経てば、魔力も戻ることもあっただろう。
しかし《双子珠》の効果はもう一つあった。
それは生命力そのものを魔力に変換することだ。
ナイフを刺されたことによって《アラゴルン》は魔力を奪われ、その上生命力も全て魔力に変換されて文字通り全てを枯渇させられてしまったというわけである。
「そういうことだったのか……生命力を魔力に変換……確かに魔道具の中にはそんな効能を持つ物だってあるが……まさかコレが……」
「多分なのですが、それは市販のものではないのですよ。恐らくは先代魔王が直に調達したものなのでしょうねぇ~」
「だろうな。こんな珠、聞いたことも見たこともねえしな。それに多分コレは……」
ララシークが難しい表情を受かべると、
「ニョホホホ! さすがはララなのです。やはり気づきやがりましたのですね。そうなのです、実はもうこの珠……死んでやがります」
ユーヒットの言うように、《双子珠》はもうすでにただの珠になっていた。恐らく一度だけしか使用することができず、使ったら何の力も無い普通の装飾品になってしまうのだ。
「だから調べても何も分からなかったのかよ……少しでも何か残ってりゃ何か分かったはずだが、ただの珠になっちまったんだとしたら、どれだけ調べても分からなかったのも無理ねえな」
「それを一発で解明しやがったのですから、研究者の面目丸潰れなのですよ! ニョホホホ!」
それは無論日色のことに対して言っているのだ。
獣人の誇る頭脳である二人が考えても分からないことを日色があっさりと解決してしまったので判明したことは良いのだが、やはり納得できないという気持ちも持っているのだろう。
「……ふぅ、そんじゃ、このナイフはもうただのナイフ……か」
「いえいえ、《ドフトフィル》で造られている以上、稀少品で間違いなのですよ!」
「まあな、けどまあ、解明して良かったっつっても……やっぱ後の祭りだな」
後悔が入り混じった暗い表情を浮かべるララシークだが、
「……大丈夫なのですよ」
「は?」
ユーヒットはニヤッと口角を上げている。
「確かに樹は残念なことになりやがりましたが、僕たちはまだ生きていますから」
「…………」
「僕の研究対象だった《アラゴルン》を奪ったお礼は、必ずお返ししてやりますのですよ!」
どうやらユーヒットの研究対象だった《アラゴルン》が、《マタル・デウス》に殺されてしまったことで、家族を奪われたような気持ちをユーヒットは抱いているようだ。
そしてそれは彼らに対する怒りになっている。
「ナハハ、お前を怒らせるとは、奴らも馬鹿なことをしたもんだな」
「ニョホホホ! 先代魔王のあの体……解剖してやりたいのですよぉ~! ニョホホホ!」
それから二人は、今後について話し合った…………というようなことはなく、もう聞くことは聞いたと言いララシークは自分の家へと帰って行った。
お茶でもと誘ったユーヒットだったが、さっくりと断られてショックを受けたのは誰も知らなかった。
※
少し厳しめの表情で城内を歩き、目的の場所へと真っ直ぐ向かっているのは【魔国・ハーオス】が誇る《魔王直属護衛隊》であり、そのトップに君臨しているアクウィナスだ。
真紅色の長い髪が左右へとなびき、早い足取りは床から規則正しい音が聞こえてくる。
彼はすれ違うメイドたちが整えられた美顔を見て頬を染めていることにも気づかず、そのまま憮然とした態度で進んでいく。
彼が何よりも守護すべき人物である魔王イヴェアムという少女が仕事をしている執務室へとだ。
目的の場所へ到着した彼はノックをして向こう側の相手に入室の許可を貰い扉を開けた。
「ほう、ずいぶん顔色が良くなった。あれからしっかり睡眠をとっている証拠だな」
アクウィナスは微笑を浮かべながら、目前で仕事をしているイヴェアムを見て、彼女の肌が以前とは違う様相を呈しているのでそう判断したのだ。
彼女もまた少し恥ずかしそうに顔を俯かせると、
「だ、だから以前はすまなかったと言っているだろう! そ、それにあれからは注意を受けたようにしっかり睡眠は確保しているつもりだ!」
「うむ、それでいい」
満足気に頷くアクウィナスに対し、イヴェアムは赤くなった頬の熱を払うように首を振ると彼の訪問の要件を聞いた。
先日【魔国】にも【ヴィクトリアス】の凶報は届いた。
あのアヴォロスがまさか人間国を乗っ取るとは思わなかったが、信頼できる配下の者たちにも確認をとったので間違い無かった。
アクウィナスはあれから新たな情報が来ていないかイヴェアムに聞きに来たという。
「いや、目新しい情報は無いな」
「そうか……」
「何か気になることでもあるのか? …………まさかジュドム殿のことか?」
「…………」
「確かあの人は、国王不在の国をほとんど一人で纏め上げていたと聞いているが、彼が《マタル・デウス》襲撃でどうなったのかは……分からない」
「ああ、そのようだ」
「確かに心配だな……幾らあの人でも多勢に無勢では……」
イヴェアムが心配そうに言葉を漏らすが、
「いや、あの男に限って死んだとは思えない」
「アクウィナス……」
「あの男の力は、実際に戦ったことのある俺が知っている。幾ら多勢に押しかけられようが、そこから生還できる程度の実力と知恵は備えているはずだ」
「……そうか、お前がそのように言うのならそうなのだろうな」
イヴェアムは安堵したかのように笑みを浮かべる。実際彼女にはジュドムの本当の強さなどは分からないだろう。
幼い頃一度出会ったくらいなのだ。
だがアクウィナスはジュドムと死闘を演じている。その命を賭して戦ったという繋がりは、まるで戦友にも等しい関係を互いに構築したらしい。
そんなジュドムの強さを信じているアクウィナスがそう言うのなら、イヴェアムもまた彼の生存を信じてみようと思ったのだろう。
そこで話は一段落ついたが、ふとある人物のことをアクウィナスは思い浮かべた。
「そう言えば、あれからヒイロはどうした?」
「え?」
「え? ではない。無理矢理眠らされ、自分があまりにも体を酷使し過ぎていたことを自覚させてくれたヒイロだ」
「む、むぅ……何か言い方に棘が無いか?」
「フッ、気のせいだ」
実際アクウィナスは少し当たっているのかもしれない。
自分ではどうにもできなかった彼女の考えを簡単に改めさせてくれた日色に嫉妬して、また日色の言うことを素直に聞いたイヴェアムに少し意地悪をしたかったのだろう。
「ヒイロかぁ、あれから数日経ったが連絡一つ寄越さん。う~まったくあの馬鹿ヒイロ、心配するじゃないの!」
口調が変わっているが、こうして素直に愚痴を言う彼女を見て微笑ましいと思っているのか、アクウィナスは微笑を浮かべながら言う。
「まあ、便りがないのも元気である証拠だ。それにアイツがどこかでのたれ死ぬところを想像できるか?」
「……………………できないわ」
「アイツのことだ。きっと向こうで美味いものか、珍しい本でも見つけて楽しんでいるのではないか?」
「……………………きっとそうね」
簡単に日色のことを想像でき、恐らく間違いないだろうと呆れ顔を作るイヴェアム。
「それに今はヒイロのことより、先代魔王のことだ」
「……そうね」
突然二人ともが真面目な顔になり場の空気も重くなる。
「世界征服……奴が言ったことを信じるとなると、まずは人間からということになるか……?」
「【獣王国】も襲われたようだが落とされてはいないからな。今混乱が予想されている【ヴィクトリアス】なら簡単に手に入ると思っていたのだろうな」
「現に奴は呆気なく国を手にした。そしてこれから人間界を奴が手中に治め始める」
アクウィナスの言葉で押し黙るイヴェアム。アヴォロスの性格上、それはきっと恐怖支配になるだろう。それこそ反発する者がいれば皆殺ししてもおかしくはない。
そしていずれその恐怖に人間は皆心が支配されていく。
「……次はどこだと思うアクウィナス?」
「今戦力が著しく高いここは後回しにされる可能性が高いだろうな」
「…………じゃあ【獣王国】?」
「うむ、もしかしたらすでにもう何かしらの動きが向こうであるかもしれないがな」
「ちょっと待て! あそこにはヒイロだっているぞ!」
「ああ、だから逆に何かをするようなら、そいつが不憫だな。ヒイロの怒りを買ったら、間違いなく潰されるだろうし」
「…………はぁ、何でもいいから無事に帰って来てよヒイロ」
いろいろな思いが胸の中で交錯するが、イヴェアムの心の中での最優先は、やはり無事に日色が帰って来ることにあるようだ。
「それにだ、今はオーノウスも向こうにいるしな」
「あ、そう言えばそうだったわね」
それでもイヴェアムの胸中には日色の存在が強く浮かんでいるのだが、アクウィナスもまた、そんな彼女の想いに気が付いたのか微かに笑みを浮かべると、遠くにいるであろう二人の友人のことを思う。
(…………何事も無ければ一番良いがな)




