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136:パシオンでの報告

 『転移』の文字を使用してさっそく【獣王国・パシオン】へとやって来た日色とカミュ、そしてテン。

 そこで見たものは、確かに以前来た時と明らかに違っている風景だった。戦闘があったと推測できる傷が、地面や彼らの住む木に残っていた。


 それは鋭い刃でつけられた傷のようで、その傷跡からだけでも相手が相当の腕前だということが何となく分かる。

 話に聞いたことがあるのだが、国民たちが住む木は、かなりの硬度と柔軟性を持っており、生半可な衝撃でどうにかなるものではないという。


 それなのにまるで木の抵抗感が感じられないほど切り口が綺麗だった。それは武器のせいか、それともその人物の腕のせいか、恐らく両方ともだろうと判断する。

 なまくらな武器では、地面を豆腐のように切断することなどできないし、武器が上質でも腕が無ければ、こうも見事な切り口を生み出すこともできないだろう。


「これやった人……強い」


 カミュもまた同じ解答に行きついていたようだ。ちなみに今カミュの姿は『変化』の文字を使い獣人になってもらっている。そして一応日色もだ。

 イヴェアムの助言に従い、無闇な刺激を獣人たちに与えないように姿を変えておいたのだ。日色は以前にもなったことがあるミュアと同じ銀髪獣人で、カミュもまた同様であり、一目見ると二人は兄弟………………兄妹のように見える。


「そうだな。だが何より驚くのは……」


 日色は国の中心にそびえ立っている大きな大樹に視線を向ける。

 一番変わったのは、国のシンボルとして堂々と君臨していた《始まりの樹・アラゴルン》の変わり果てた姿だった。

 まるでそれは何百年と放棄された枯れ木のようで、あれほど生命力溢れる力強い大樹だったものが、今では見る影もなくなっていた。


 国をいつも見守っていた瑞々しい緑は失われており、がっしりと根付いていた根元は、か細くなり不安定に存在感を示していた。


「これまた、酷くやられたもんだな」


 皆でみすぼらしくなった大樹を眺めていると、


「……ヒイロさん?」


 突然自分の名を呼ばれて反応する。そこには久しぶりに会う元旅仲間の姿があった。


「久しぶりだなチビ」

「ヒイロさん!」


 ミュア・カストレイア。銀髪がトレードマークの可愛らしい獣人の少女である。日色が初めて仲間にした一人である。


「えっ!? あ、その、ど、どどどどうして今? い、いきなりヒイロさん? も、もしかしてこれは夢とか……あぅ!」


 あまりに落ち着きが無いようだったので、日色は彼女の額をトンと突き正気に戻させる。


「うぅ……や、やっぱりヒイロさん……ですか?」

「当然だろ。誰だと思ってるんだ?」

「……えへへ、その言葉遣い、間違いありませんね」


 嬉しそうに破顔する彼女だが、すぐにまた真面目な表情をすると、


「と、ところでどうして【パシオン】に来られたんですか?」

「ああ、それなんだが…………オッサンはいないのか?」

「おじさんなら今《王樹》にいますよ」

「《王樹》? ああ、国王が住む大樹のことだな」

「はい。もしかしておじさんにご用事ですか?」

「それとお前にだ」

「え? わ、わたしに?」


 ミュア自身、身に覚えの無いことだろう。キョトンとしながらも、思案顔で日色がやって来た理由を自分なりに考えているようだ。


「とにかくオッサンの所に連れて行ってくれるか? そこで話す」

「わ、分かりました!」


 そうしてミュアの案内のもと、《王樹》へと歩き出した。ミュアはチラリと日色のすぐ背後にいるカミュに顔を向けて、


「あ、あの、カミュさん……で良かったですよね?」

「うん……カミュだよ」

「改めまして、わたしはミュア・カストレイアと言います」

「うん……よろしく」


 カミュはいつも通りの無表情だが、ミュア自身、上手く自己紹介ができたと思ってホッとしている顔を見せた。

 そしてチラチラと日色の肩にいる小動物に視線を向けている。聞いてもいいものかどうか迷っているような感じだ。


「お嬢ちゃん、気になるんなら聞きゃいいと思うんだけどなぁ」

「ふわっ!?」


 まあ、突然獣が喋り出したらそれは驚くだろう。ミュアもまた口をあんぐりと開けて固まっている。

 するとピョンとミュア目掛けて跳ぶと、ミュアは慌てて両手を出してテンを受け止めた。


「おお~ナイスキャッチ!」

「え、あ、その、ありがとうございます」


 ミュアは説明を求めるように上目使いで日色の顔を見つめてくる。


「歩きがてら、そいつに説明してもらえ」


 それだけ言うと、そのまま前へと歩き出した。


「っつうことだしさ、しばらく俺の話し相手になってくれっかお嬢ちゃん?」

「え、え~っと…………はい」





 《王樹》は幾つもの大樹が重なり合ったような複合体として存在していて、そこを人が住めるように改築している。

 以前日色も来たことがあるが、いつ見ても大きな存在感を見せつけてくると嘆息してしまう。

 その《王樹》の中に入ろうとするが、兵士らしき人物にさっそく止められてしまう。しかしミュアが取り持ってくれたお蔭で中へ入ることができた。


 国を襲われたにしては《王樹》があまり傷ついていないように見えた。

 ミュアから聞いた話では、《王樹》を構成している木々は、自己治癒能力が高いらしく、傷ついても時間が経てばそれを自ら癒すという。


 しかしそれも元々は《始まりの樹・アラゴルン》の恩恵だとされており、あの樹が死んでしまった以上、今までと同じ速さで自己治癒はしないとのこと。

 《王樹》の中を通って、かなり開けた場所へと出た。ここは兵たちが鍛錬などをしている場所だというが、そこに見た顔が幾らか確認できた。


「ん? お、お前は!?」


 最初に日色の姿を発見し声を上げたのは、国が誇る《三獣士》の一人であるバリドであった。日色が鳥人間と呼んでいる彼は、その背中に立派な翼を宿している。

 彼とも決闘で戦った経験を持つが、彼にしてみれば獣人に敗北を与えた張本人である日色が目の前に現れて戸惑ってしまうのは当然だ。そして無論身構えてしまうのも。


「何しに来た!」


 瞬時に敵意を含む目つきを向けてくるが、慌ててミュアが説明する。日色はただ自分たちと話をするためにやって来たということを。


「……何ともまあ、自由なことだな」


 かなりの含みを感じるが、彼も彼で立場上忙しいはずだ。国がこのような状況になっているので仕方は無いが。

 日色があまりにも外聞も気にせず立場も関係無しで自由に行動しているので呆れているのだろう。

 するとどこからかダダダダダダという激しく大地を蹴る足音が聞こえてくる。

 そしてそれは段々と近づいてきて――。


「――――――ヒイロォォォォォォォォッ!」


 突然現れた黒い影が、バスッと何かに体当たりする。


「うぅ~! ヒイロォォォ! 会いたかったニャ~! やっぱヒイロのニオイがしたのは気のせいじゃニャかったのニャ~!」


 ウリウリウリウリと頭を抱きついている何かに擦りつけるが、それがピタッと止む。そして顔をゆっくりと上げて……。


「ニャニャッ!?」

「い、痛いだろうがクロウチィ……!」


 そこにいたのはバリドだった。

 クロウチが日色と思って抱きついたのはバリドだったのだ。


「ニャ、ニャんでニャ!? ヒイロが突然、バリドに変化したのニャ~!?」

「わ、私は本物のバリドだ!」


 するとクロウチはバッと起き上がってバリドから距離を取る。


「ええっ!? バリドは僕のことを愛していたのかニャ!? そんなの困るニャ!?」

「何故そのようなことになるのだ! そもそも私だって気が付いたらお前に飛ばされていた!」

「無意識の愛情っ!?」

「ああもう! やはりお前は面倒臭い!」


 そんな二人をしら~っと日色たちは冷えた目で見守っているが、


「あ、あのヒイロさん? もしかして魔法を?」

「まあな。鳥人間には悪いが身代わりになってもらった」


 あの一瞬、日色は『交代』という文字を発動させていた。

 これは任意の相手と場所を交代させることのできる効果を持っている。無論効果範囲などの制限もあるが、近くにいたバリドがその被害者に選ばれたのだ。


「ヒイロォォォッ!」


 クロウチが今度こそターゲット捕捉と言った感じで狙いを定めながら抱きつこうとしてくる。すると日色は待てというふうに手を差し出し、


「ちょっと待てニャン娘」


 クロウチも日色の制止の声を聞いて、ブレーキをかけると日色を見上げるような形で見つめてくる。


「ニャニャ? どうしたのニャ?」

「ああ、いいかニャン娘、アッチを見てみろ。面白いものが見れる」

「へ? どこニャ? ニャにが面白いのニャ?」


 日色に背中を向けてキョロキョロと顔を動かしている。

 だが突然頭をユラユラと動かし、目元にも力が入らなくなったのか、瞼が自然と下りていき……。


「く~」


 猫のように身体を丸めてそのまま眠ってしまった。


(……コイツが単純で良かった)


 またも魔法を使い『眠』の文字の効果でクロウチを大人しくさせることに成功した。こうして見ると、どう考えても日色と激しく戦った人物だとは全く思えない。

 無論あの時は黒豹が人化したような姿だったから強そうに見えたが、今は雪のように真っ白な髪を持った可愛らしい小さな幼女だ。


「ヒ、ヒイロ、幾つか貴様に言いたいことがあるのだが?」


 額に青筋を立てながらバリドが起き上がって睨みつけてきた。


「おう鳥人間、無事だったか?」

「…………はぁ、もういい。何を言おうが暖簾に腕押しになりそうだ」


 日色の性格を少しずつ理解し始めているのか、反論することを諦めたようだ。


「まあ、挨拶代わりだ。身内の恥は身内が処理するものだろ?」

「…………」


 バリドは頭を抱えてしまう。確かにクロウチは獣人であり《三獣士》の一人なので、《三獣士》のリーダーである彼が責任を取るのも仕方無いことなのかもしれない。

 幸せそうに眠っているクロウチを見下ろし呆れたように溜め息を漏らすと、


「ところで、アノールドを探してるのだったな。彼は今庭園にいるはずだ」

「庭園?」

「あ、ヒイロさんが初めてミミルちゃんと会った場所ですよ」


 あそこかと小さく頷く。見晴らしも良く綺麗な花や作物も実っていた。ああいう場所で本を読むのもきっと心地良いだろうなと感じる場所だった。


「なら行くか」


 日色が歩き出そうとすると、バリドがミュアに声をかける。


「ミュアよ」

「あ、はい、何でしょうか?」

「ミミル様は自室に居られるはずだ」


 チラリと日色をバリドは一瞥する。


「きっとお喜びになられる」

「あ、はい! ありがとうございます!」


 バリドも微かに笑みを返して、仕事に戻って行った。






 今、日色はカミュとテンだけで庭園へと向かっている。ミュアが何故いないのかというと、ミミルにも日色の来訪を知らせてあげたいということで彼女の部屋へと向かって行った。

 庭園は以前にも来たことがあるので迷うことは無いと思ったためミュアと分かれて行動している。


 以前に来た時とそれほど変わりは無かった。多くの花々から甘い香りが漂い鼻腔をくすぐり、微かに吹いている風が香りとともに頬を優しく撫でていくのは気分が良いものだった。

 上を見上げれば澄んだ青空が広がっている。こんな空の下にいると、誰も国が襲われてあたふたしているとは思わないだろう。


 カミュやテンも同様の気持ちを持っているのか、目を閉じ心地良さそうにしていた。だがそこには日光浴に来たわけではない。

 目的のアノールドがどこにいるのかを探してみると、たくさんの草が生えている花壇のような場所でこちらに背を向けた形で何やら作業をしていた。


 見ると、彼の横には小さなザルが置かれてあり、その中には恐らく薬草であろう草花が入れられてあった。


「おいオッサン」


 作業に集中しているようで、このままでは気づかないと思い声をかけると、忙しそうな声音が届いてくる。


「ああ? 悪いけど今忙しいんだ…………あ? 何だヒイロか。話なら後で……ってヒイロォォォォォォォッ!?」


 顎が外れたかのように大きな口を開けて吃驚するアノールド。相変わらずの声の大きさだなと日色は思った。


「お、おおおお前何でここに? ってかヒイロだよな?」

「そんなことより……その格好は何だ?」


 アノールドの今の格好は、麦わら帽子に白いツナギを着用した作業服だった。


「え? あ、こ、これか? これはその……ククリア様が作業する時はこの格好で……」

「ちょっとアノールドまだなの! ライブが薬草早く持って来て……って……え?」


 そこに現れたのは、今アノールドが言葉にした人物……第一王女のククリア・キングだった。

 そしてその後ろから――。


「どうされたのですか、ククリア姉様?」


 この声はミミルのものだろう。どうやらミュアも彼女を引き連れてきたようだ。

 ミュアが、日色が何故《王樹》にやって来たのかを説明した。


「ふ~ん、そんで俺とミュアに何を伝えてえんだ?」

「ちょっと待ってアノールド、その前にライブに薬草を届けなさい」

「え? あ、そうですね。忘れてたなんて言ったら姉ちゃんにどやされちまうし」


 とりあえず話は後にして、皆でアノールドの姉であるライブのもとへと向かった。

 ライブはここでメイド長をしていて、今は自室で休養しているという。


「どうかしたのか?」


 歩きながら何気無く質問すると、アノールドが苦笑を浮かべながら言った。


「何でもよ、先代魔王の刺客と一戦やっちまったみてえなんだわ」

「……オッサンの姉って強かったのか?」

「う~ん、まあ並みの兵士よりは強えぜ。俺も昔は全然勝てなかったし」


 勝てないのは今もだろと心の中で突っ込む。実際に彼女に頭が上がらずヘコヘコしているところを見ているのだ。


「けどな、相手は札付きの悪らしくてよ、しかもお前も見ただろ《始まりの樹》や国の現状」

「ああ」

「あれをやったのは、そいつらしいんだわ。まあ、《始まりの樹》を枯らしたのはもう一人の奴だって話だけどな」


 その刺客があろうことか王妃であるブランサを手にかけようとした時、そこをライブが助けに入ったのだが、敵の予想以上の攻撃に両腕に重傷を負ったという。


「……なあヒイロ、頼みがあんだけどよ」

「その傷を治せって言うんだろ?」

「…………ダメか?」


 アノールドも日色の性格は分かっている。見返りが無ければ基本的に日色は動かない。

 気まぐれや自分でした約束などで動くことはあっても、ほとんどの場合は対価を要求してくるということを理解しているはずだ。

 だからこそ少し言い辛そうな表情をしているのだろうが。


「別に構わんぞ」

「ホ、ホントか!?」

「ただし」

「あ……や、やっぱな……」


 言葉の続きがあると知って若干消沈している。


「対価として、久々にオッサンの料理を食わせろ」

「…………ホント変わらねえよなお前」


 日色の要求がどんなものか気づいていたが、あまりにも昔と変わらないことに呆れが胸に込み上げてきているのか、頬が引き攣っている。







 ライブの両腕を青白い粒子が覆いキラキラと光り輝いている。

 それをその場にいる全員が見守っていた。


「へぇ、こりゃあったかいねぇ」


 ライブは腕の温もりに安心感を覚えているような表情を浮かべている。しばらくすると光は収縮していき、腕の中に吸収されていくみたいに消失した。

 先程まで、ライブの腕は皮膚が焼け爛れていたり、膿が湧いたりしていたのだが、その黒ずんでいた肌が、生命を感じさせるような血色の良い肌へと戻っていた。


「うわ、本当に痛みまで消えたよ! あはは、アンタ凄いもんだねぇ!」


 ライブは手放しに、治癒を施してくれた日色に視線を向けて微笑む。


「感謝するよ。これで今日から存分に仕事ができる!」

「お、おい姉ちゃん、治ったばかりなんだから、今日くらい休んだらどうだ?」

「馬鹿なことを言うんじゃないよアノールド! 元気なうちに目一杯働く! そして老後は余生を楽しむ! それが姉ちゃんのモットーだって知ってんだろ?」


 タバコを唇に挟みながらニカッと笑うライブ。さすがはアノールドの姉、その豪胆な性格は感心を覚えるほどだ。

 そして彼女は座って治療を受けていたが、そのまま立ち上がり日色の目の前に立つと頭を下げる。


「アンタのことはアノールドやミュア、ミミル様から聞いている。改めて礼を言うよ。腕を治してくれてありがとう」

「いや、気にしなくていい。対価はしっかりもらうからな」

「そのことなんだけどな、どうせならそんなヒヨッ子のボンクラ料理より、このライブ様の料理を食べてみないかい?」

「ボ、ボンクラ料理……」


 ガックリと肩を落とすアノールドだが、どうやら反論は怖くてできないようだ。


「いいのか? 一応依頼はオッサンから受けたんだが?」

「いいさいいさ。治してもらったのはコッチなんだ。本当ならアタシが礼を尽くすのが筋だろ?」

「…………分かった」

「よっしゃ! さあ、久々に腕を振るうからね! 夕食は楽しみにしてな!」


 その笑顔は何だか人を安心させるような笑顔だった。暗いものも全て包み込んで明るくしてしまうような温かさが伝わってくる。

 どうやらアノールドと同様、かなりお人好しな性格らしい。


(さすがは姉弟か……)


 ライブは一応治ったことを報告するために、一番心配していたブランサに報告しに行った。

 これでやっと本題に入ると思って、アノールドとミュアに対面する。彼らも思い出したかのようにハッとなって目を見つめてくる。


「ヒイロさん、教えて下さい。あなたがわたしたちに伝えたいことを」


 ミュアの一言をきっかけに日色が口を開く。


「まあ、それほど大したことでもないんだがな」

「いいからさっさと言っちまえよ? お、もしかして彼女ができたとかか?」


 アノールドは失敗した。その発言の重みがどんなものかを理解せずに喋った。だから背筋が凍って初めて失言に気づいた。


「おじさん……」

「アノールドさん……」


 背後から冷たく暗い視線が彼の背中を突き刺していた。


「そう言う冗談は……」

「仰らないでほしいのですが?」


 ミュアとミミルの尋常ではない気配に気づき、


「は、はいぃぃぃぃぃっ! く、くくく口が滑りましたぁ!」


 十代の少女たちに土下座するような勢いで謝罪する三十代のオッサンの図式は、見ていて物悲しくなる要素を多分に含んでいた。


(哀れな中年だな……)


 日色もまた、彼女たちが怒っている理由に薄々は気づきながらも、ここは発言をしない方が良いと判断して黙っていた。

 だがそこでクイクイっと服が引っ張られる。見るとカミュが無機質な顔を向けていた。


「……ねえねえヒイロ」

「何だ?」

「どうしてミュアたち……怒ってるの?」

「ああ、アイツらは何故だか知らんがオレを兄のような感じで見ているからな。そんな兄に彼女ができたっていう話が面白くないんだろ」

「え……ヒイロ彼女いるの?」

「いるわけないだろ」

「……そう」


 何故かその時、カミュがホッとしたような表情になったが、もしかしてカミュもまた自分を兄的な存在だと思っているのだろうか……?


(まあ、一応部下だからな。アニキ的な存在として見てるのかもな……)


 人の表情には敏感でも、その真意を掴みとる能力に欠けている日色は、結局は彼女たちの想いに気づいていない様子だ。


「…………ヒイロって鈍感なの?」


 テンが疑わしそうな目で喋る。


「オレのどこが鈍感だ。オレはどこぞの勇者みたいな気質は持っていないぞ」


 もちろん青山大志のことだ。


「…………はぁ、嬢ちゃんたちも大変そうだなぁ」


 そんな呟きが聞こえたが、とりあえず本題に入らなければ時間が勿体無い。


「どうでもいいが、さっさと説明していいか?」


 皆も日色の言葉で我に返ったように注目を向けた。


「実はな……」





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