133:初代魔王の核
(い、今奴は何と言った……? しょ……初代魔王の……核……だと?)
思わずリリィンは聞き間違いではないだろうかともう一度聞き返すが、
「何度も言いますが、ここに眠るのは、かつて【魔国・ハーオス】を造り上げ、初めての魔王となったアダムスの……核です」
思わずギリッと歯を鳴らす。無意識に拳を震わせわなわなと震わせていた。
「ご存じでしょう? いや、知らないわけがありませんよね。彼女が……アダムスが何と呼ばれていたかを。そして彼女の扱う魔法がどのようなものだったを……ご存じのはずですよね?」
「…………」
知らないはずがない……何故ならアダムスは……奴は……。
「そう、彼女はある魔法で誰よりも強く、そして気高い存在として魔王の位置に君臨した。《夢世の女王》と呼ばれた彼女が使用した、特異過ぎるその魔法の名は――――――――《幻夢魔法》。そうですよね、彼女の力を受け継いだ血族である、『夢魔人族』のリリィンさん?」
シウバは知っているので静かに二人の会話を見守っている。
しかしリリィンは、認めたくない現実を突きつけられてついクゼルを睨みつけてしまう。
しばらくそうして睨み合うが、クゼルの目に嘘を言った濁りが見当たらず溜め息が漏れる。
「…………本当にここにソレがあるのか?」
少し消沈した感じで問う。
「ええ、実物があるのは確かです。効力や、何故ここにあるかなどを詳しく理解してはいませんが……間違いないでしょうね」
「…………そうか」
「お嬢様……」
明らかに困惑しているリリィンにどう声をかけたらいいのか、シウバも困っているようだ。
「……どこに在るかを知っていると言ったな? 貴様はその目で確認したのか?」
「ええ、こう見えても物探しは得意なものですから」
「ああ、そう言えば貴様はあの一族だったな」
失念していたと思い肩を竦める。
この男は腐ってもあの一族の末裔だったということを思い出して、その彼が言うのであればそれはきっと正しいことなのだろうと判断する。
「しかし、これで合点がいった。本当に《初代魔王の核》がここに隠されているというのなら、奴らは間違いなくそれを狙っている」
「はい」
「恐らくあの先代魔王とやらが命じたのだろう。何に使うかは分からんが、どうせ碌でもないことに決まっている。それにここへ精霊であるアビスとやらを送った理由も説明がつく」
精霊ならば視る力を使い迷うことなく目的の場所を探し出すことが可能だとアヴォロスは判断したのだろう。
「探し出して捕らえますか?」
シウバが聞いて来るが、少し考えた上で頭を横に振った。
「いや、放っておけばいい」
「……よろしいのでございますか?」
意外な返答だと感じたのか、シウバは少し大げさに肩を引いた。
「ああ、確かにアビスは精霊だが、あの連中に……少なくともあの二人にどうこうできる代物ではないはずだ。まあ、本当に《初代魔王の核》ならばな」
「疑り深いですね……」
クゼルも呆れたように軽く息を吐き目を閉じる。本当は信用はしているが、今のこの胸のムカつきを少しでも発散したいという意趣返しだった。
「当然だ。ワタシは何も証拠を見せられていないからな。実際にこの目で見なければ確信など持てんわ」
「まあ、そう言うとは思いましたがね」
「しかしお嬢様、その《核》に辿り着いた彼らは本当に手に入れることができないのでしょうか?」
「そうだな、もし今頃奴らが辿り着いていたとしても――――」
※
「おいアビス! どういうことだこれは!」
イーラオーラは目の前に広がっている光景を見て口を大きく開けて怒鳴っていた。しかしその横にいるアビスは、物言わず静かに佇んでいるだけである。
「一体何がどうなってんだ! 何で……何で《核》がこんなにもあるんだよっ!」
今彼らの見ているのは、果てなど見えないほどの広さがある場所であり、しかもあちこち無数に青黒い光を放つ珠が宙に浮いていた。
「しかも何で洞窟内がこんなにだだっ広ぇんだ! どうなってんだよココはっ!?」
「…………」
「おいアビス! 黙ってねえで何とか言ったらどうだ!」
この状況に戸惑い、必死に声をかけるが反応を返さないアビスに苛立ちを覚えている。
「どれが本物の《初代魔王の核》なんだよ! テメエ、《視る種族》なんだから分かるだろうがよ!」
しかしアビスは答えず、無数に散りばめられてある光の珠に目を向けている。
そしてようやく一言……。
「……これは驚いたな」
「ああ? 何がだよ?」
「これは……いや、さすがは初代魔王の力といったところか……」
アビスは何を思ったのか、一つの珠に近づき触れてみる。すると簡単に手に取れた。
「お! それが本物か!」
「……いや、違うな」
「ああ? でもこれも幻ってやつなんだろ? だったら触れるそれが本物なんじゃねえのか?」
アビスはそのまま珠を地面に落とすと、ガラス玉を落としたように砕け散った。
「極められた幻術は、現実と見分けがつかない。相手の精神を支配し、思うがままに操る。それが幻術だ。例えば、今俺は珠に触りたいと思い触れた。そして触ることができた」
「……?」
イーラオーラには難しいのか、首を傾けている。だがそれを無視して続ける。
「だが逆に今度は……」
そう言って一つの珠に触れようとするが、今度はスカッと空振りする。まるで映像を触っているかのように擦り抜ける。
「こんなふうに、ただの幻だと思い込んで触ると、それは幻になる」
「…………一体どういうことだ?」
「つまりだ、ここは本物の《核》が生み出した幻術の中で、しかもこちらの思うことが反映されるような空間になっている」
「……おいおい、んじゃ簡単じゃねえか! 本物を出せとか願ったらいいってことだろ!」
単純に考えれば彼の言う通りなのだが、状況はもっと複雑である。
「いいか、たとえ今ここにある珠を本物だと思い手にする。しかしそれは本当に本物か?」
「……はあ?」
「手にしたのは本物であってほしいと思ったただの幻……かもしれないということだ」
それでもイーラオーラは訳が分からずキョトンとしている。
「そう思わせ、偽物を本物と思い込ませることも幻術のうちだということだ。ここはこちらの思う通りに動く世界のように思えるが、そう思わせるように仕掛けられた幻の中に俺たちは今いる」
「ん~いまいち分からん」
「つまりだ、この中から本物を見つけ出すのは不可能に近いということだ」
「オ、オイオイ、ここまで来て手詰まりかよ! 精霊の力はどうしたんだよ! 役立たずにもほどがあるじゃねえか!」
「精霊も万能じゃない。《視る》という観点に置いて優れた能力をもっていても見破れないものはある。これほどの幻術を破るには、それこそ常識を覆すような力が必要になるだろう」
あまりにも広い空間に呆れて溜め息が自然と漏れる。
「妖精の長や精霊の長レベルなら少しは何か分かるだろうが、俺では無理だな」
「マ、マジかよ……」
「これは明らかに想定外だ。いや、陛下も恐らくこういう事態になることは薄々感づいていたのかもしれない」
「はあ? どうしてだ?」
それは彼らがここへ向かう前にアヴォロスがこう言っていたからだ。
『例のもの、もし取って来られるなら取って来てくれるかな』
そう彼は言っていた。
「つまり、陛下も一度ここへ来たことがあるのかもしれないな。それで同じような状況に陥り、泣く泣く断念した。そして精霊である俺の力ならあるいはと思ってここに派遣したのだろうな」
「ほう、ならテメエは任務失敗じゃねえか。いや、ちょっと待てよ。そもそもお前は《魔法無効化》できたはずだよな? なら何でこの魔法は無効化できねえんだ?」
『高位精霊』と呼ばれる存在はそのほとんどが《魔法無効化》という能力をその身に宿している。
「恐らく、《魔法無効化》を無効化する力を持っているのだろうな。この幻術は」
「オイオイ、そんなもんあんのかよ!」
「ある。魔法の中には《絶対魔法》と呼ばれるカテゴリーが存在する」
「な、何だそりゃ?」
「またの名を《精霊魔法》とも呼ばれるものだ。イーラオーラ、《赤い雨》の存在は知っているか?」
「はあ? あの魔法だけじゃなく、魔力そのものを無効化するっていう雨だろ?」
「まあ、その認識で大よそは間違いないが、精霊はその雨の中でも魔法が使える。何故なら精霊の扱う魔法は、全ての干渉を無効化できる効果があるからな。それがたとえ《魔法無効化》だとしても、《絶対魔法》の前では無力化する」
「ん~よく分かんねえが、んじゃよ、お前の魔法でその《魔法無効化》を無効化する力を、さらに無効化すりゃいいんじゃねえのか?」
少し複雑な言い方だが、理屈は理解できるだろう。つまりイーラオーラは、この状況をアビスが扱う《精霊魔法》で無効化して、元に戻せと言っているのだ。
「確かに可能性としては有り得る」
「ならさっさと……」
「しかし《絶対魔法》には優劣が存在する」
「ああ?」
「力の強い方が、その現象を引き起こすことができる。つまりはだ……」
「…………」
「今の俺では、この幻術を無効化できる力が無いということだ」
「……ちっ、何だよ役立たずじゃねえかよ! んじゃこのまま泣き寝入りかよ!」
嫌味ったらしく言うが、少しもそれには反応しないアビスに彼は舌打ちを放つ。
「最大の目的は、目標の確認と今後の対策を立てることだ。確かに取得できれば一番良かったが、情報は収集できた」
「んじゃどうするんだ?」
「一度帰るぞ。陛下に報告して指示を仰ぐ」
「…………ちっ、めんどくせえなもう!」
二人は広大に広がる大地を目の前にして踵を返しその場を後にした。
※
リリィンたちはシャモエとミカヅキが待つクゼルの住処へと戻っていた。
「お嬢様、先程申されていたように、本当に《核》を放っておいて大丈夫なのでございますか?」
リリィンに尋ねるシウバだが、それに答えたのはクゼルだった。
「大丈夫ですよきっと。私も直に見たことがあると言ったのを覚えているでしょう?」
「ええ、まあ」
「アレをどうにかしようなど、あの二人にできるとは思えません。それだけ《核》の力は異常だということです」
「……左様でございますか」
リリィンもクゼルも気にしていない様子なので、シウバもこれ以上は追及してはこなかった。
「……さて」
突如、クゼルの目が鋭く細められシウバに向けられる。
「先程の続き……なのですが」
何故彼が雰囲気を変えたのは一瞬戸惑ったようだが、シウバは思い出したように頷きを見せる。
「ヒイロ様……のことでございますね」
「ヒイロという名の少年……私がこの世に生み出した《絶刀・ザンゲキ》を扱い戦争に参加したというのは真でしょうか?」
「……間違いございません」
その瞬間、クゼルの顔が苦痛を与えられているかのように歪む。その表情には後悔の念も色濃く表れている。
「何故……《ザンゲキ》を戦争なんかに……そのことをザフは知っているのですか?」
ザフというのは彼が一週間ほど鍛冶の基本について教示した、いわゆる弟子のようなものだ。
そしてクゼルが戦争で人を傷つけるために使われるのが嫌で、彼が世界を回り自分の生み出した武器を回収していたことはザフも知っていたらしい。
だからこそ、そんな思いを知っているザフならば、むざむざと戦争に参加するような者に《ザンゲキ》を渡したことが信じられないのだろう。
「元々ヒイロ様は冒険者をなさっておられます。無論依頼を受け、人と戦うこともあるということはザフ殿にもお話ししました。ですがあの時にまさかヒイロ様が戦争に参加されるなどとは本人はもちろん、わたくし共にも分かりませんでした」
「そう……ですか……いえ、そうでしょうね」
何故なら一通り、旅の話はシウバがクゼルに話していたからだ。日色の目的は単なる世界巡り。そしてリリィンはそんな日色についていく傍らで、野望を叶えるために根回しをすることだった。
根回しといっても、この世界で住み辛く感じている者に手を差し伸べ、いずれ築くつもりである【万民が楽しめる場所】の手伝いをしてもらうためだ。クゼルのもとへやって来たのもそれが本懐だ。
「で、ですが……」
日色が好きで人を傷つけているわけではないとシウバは言い聞かしているが、それでも納得できないのかクゼルは苦々しく表情に陰りを落としている。
「では、一度お会いしてみてはいかがでございましょうか?」
「……え? ……会う?」
「はい。こうして我々が口頭で伝えるよりも、クゼル殿ご自身の目でご覧になって頂いた方が、ヒイロ様という人間の本質を感じることができるはずでございます」
「ククク、まあ貴様がどう推測しようが、その斜め上を平気でいくような男だ。今の貴様の価値観でさえも、一瞬で潰される恐れだってあるぞ?」
リリィンは子供のように楽しそうに笑みを浮かべるが、どことなく暗い。まるで悪戯でも考えているような目だ。それほど日色という男は計り知れないということだ。
「……あなたがそこまで言うとは……」
クゼルはほんの少しだけ息を吐くと静かに目を閉じてしまった。どうやら自分なりに考え答えを出すために思案しているようだ。
シウバはクゼルに聞かれないように小声でリリィンに耳打ちをする。
「よろしいのでございますかお嬢様?」
「何がだ?」
「ヒイロ様はここに来られるのを面倒がられておいででございました。再度同じ答えが返って来るような気が致しますが?」
「いや、それはワタシの目的を知らなかったからだろう?」
「は?」
「アイツはワタシの夢を……その……お、応援してくれると……て、手助けしてくれると言ってくれた」
リリィンの頬が上気しているのをシウバは黙って見過ごしているようだ。
「クゼルの勧誘も、夢に関わることだ。だ、だからそのように言えば多分……恐らく……い、いや絶対だ! 絶対ヒイロはここへ来てくれるはずだ! こ、来なければ無理矢理来させるぅ!」
「……お嬢様、それでは本末転倒になるような気が……」
「う、うるさい! そ、それにだアイツなら……」
リリィンはいまだ目を閉じて考察しているクゼルに視線を送る。
「アイツなら、クゼルを変えてくれるような気がするのだ」
「……はい、わたくしめもそう思います」
シウバは優しく微笑むと、リリィンもまたそっと目を閉じる。
その隣ではシャモエが眠りこけているミカヅキを膝枕して、彼女の頭を撫でていた。それはまるで母親と子のような雰囲気で、こんな薄暗い洞窟内では何か別世界のような感じがする。
しばらくするとクゼルはゆっくりと瞼を上げた。
そして彼の意思を聞こうとリリィンたちは注目する。
「……分かりました。一度お会いしましょう。いえ、会わせて頂きたいです……その彼に」
「分かった。時間の指定はあるか?」
「そうですね、私は明日でも構いませんが?」
「ふむ……なら明日の昼にでも来るか」
シウバも了承したというように頷く。同じくシャモエも同様の仕草を返す。
「承知しました。ではまた明日ということで」
クゼルがそう言うと、リリィンたちは立ち上がり、シウバは布袋をクゼルに手渡す。それはミカヅキがモンスター化して運んでくれた荷物だった。
「これはこれは、どうもありがとうございます」
それはクゼルへの手土産として持ってきた食糧などだった。嬉しそうにクゼルも笑顔を浮かべている。
シウバは寝ているミカヅキを抱えると、シャモエを連れ添って歩き出した。その後ろからリリィンもついていくのだが、
「楽しみにしておけクゼル。ヒイロは規格外だぞ?」
最後にそれだけ言うとその場を後にする。クゼルも苦笑を浮かべて手を振っていた。
※
アビスとイーラオーラは、【シャンジュモン洞窟】で経験したことを、先代魔王であるアヴォロスに報告していた。
彼はそれを楽しそうに微笑みながら聞いていたが、ふと気になった事柄があったのか眉をピクリと動かす。
「……そこにいたの? あの《赤バラ》が?」
《赤バラ》とはリリィンのことだ。アヴォロスの問いにアビスが肯定する。
「ふ~ん、でも何でそんな所に……《赤バラ》は彼女のことを嫌っていたはず。わざわざ嫌な思いをしてまで行くような所かな……?」
「あそこに何か目ぼしいもんでもあるんじゃねえんですか?」
イーラオーラは自身の考えを伝えるが、
「ううん、あそこには《初代魔王の核》以外に目ぼしいものなんて無いはずだよ? モンスターだってウヨウヨいるけど、今更レベル上げって柄でもなさそうだし……」
アヴォロスが顎にてをやりながら考え込んでいると、
「そう言えば奴らには仲間がいました」
「ん? 仲間? もしかして赤ローブの少年くんかな?」
日色のことを指しているのだが、アビスは首を横に振る。
「いえ、あの場にはいなかった人物でした。しかも獣人」
あの場というのは顔見せをした時の場所である。
「へぇ、獣人。まあ、少年くんは顔が広いみたいだからね~。その仲間の一人なんじゃないかな? 一応聞くけどどんなのだった?」
「黄色の髪に作務衣のような服装。それに確か腰には異様な雰囲気を放つ刀を持っていました」
「……異様?」
「はい、まるで氷のように冷たく、だが炎のような熱さを感じさせ、不気味さを宿した刀を」
「黄色の髪……不気味な刀……それに獣人……?」
ブツブツと復唱しながら発現し、上空を見上げているとハッと少し目を見開くが、
(……いや、無いか。あの男がまさか魔界にいるわけが……。いや、逆に魔界だから安心? それに隠れるなら【シャンジュモン】はうってつけ……か)
そう思いはしたが頭を横に振る。
(いや、もしそうだとしてもあの男が表に現れることなんてないか。恐らく《赤バラ》が接触したのはあの男なんだろうけど……ククク、無理だよ《赤バラ》。あの男を引っ張り出そうとしても、世俗に興味を失い、いや憎んですらいるあの男を動かすことなんてできないよ)
その考えには理由があった。何故なら自分の誘いを何度も断った相手だからだ。どれほどの好条件を突きつけようが、また脅そうが決して首を縦に振らなかった。
その理由の一つが自分にもあるということは重々承知しているのだが、あの男――――クゼル・ジオが誰かを信じて表に出てくることはありえないと自分は判断している。
(今更扱い辛い爆弾のような男のことなんてどうでもいい。それよりも……)
アヴォロスはクゼルのことは考えから追い出し、
「アビス、イーラオーラ、二人ともご苦労だったね。次の探索に向かってね」
「《核》はよろしいんですか?」
イーラオーラはそう尋ねてくるが、
「うん、別に今すぐ必要というわけでもないし。それに手に入れる当てが無いわけじゃないしね」
明らかに何かを企てているかのように怪しく瞳を光らせる。それを少しゾクッとした様子でイーラオーラは見ているが、アビスは平然とそこに佇んでいた。
「では、俺は次の回収に向かいます」
「え? お、おい待てよアビス!」
「うん、頑張ってね~」
アビスが踵を返してそそくさと出て行く後ろ姿を追って慌ててイーラオーラも向かった。
そして一人になったアヴォロスは「ふぅ」と溜め息を漏らす。
「……まだだ。まだ完璧じゃない」
いつもの笑顔は身を潜め、まるで憎い仇でも見るような瞳で空へと仰ぐ。
そして何かを掴むようにゆっくりと右手を上空へと向けて握り込む。
「余は屈しはしない。必ず手に入れてみせる……必ず……」




