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127:試練達成

 必ず勝ってやると決めたのはいいが、大した策も思いつかず時間だけが過ぎていく。


「オラオラどうしたってのさ~」


 周りからは猿野郎が急かしてくるが、地上だけでなく空中にもいるので本当に鬱陶しい。

 攻撃はただ一度だけ。この膨大な数の群れの中から一人だけいる本体を見つけるのは至難である。

 とりあえずこうして止まっていても埒があかないので、動き回って確認していく。

 どのテンも優越感を示すような笑みを浮かべており、ついイラッとなるが心を落ち着かせて観察していく。

 しかしどこからどう見ても全部が本体のようにしか見えない……。


(難儀な試練を出しやがって……)


 目を必死で凝らしても何かが分かるわけでもなかった。


「あと八分~」


 時間は刻一刻と過ぎていく。このままだと本体を見分ける糸口さえ見当たらない。

 魔法さえ使えれば簡単に割り出せるのだが、ここにきて魔法のありがたさが目に染みる。

 動き回りそれぞれのテンを確認していっても何がどう違うのか判断できない。


「あと六分~」


 次第に焦ってきてしまう。同時に目の動きにも鋭さが増していくが意味は無かった。

 というよりも、空にいる奴らが魔力を爆発させて上下に動いているので果てしなく鬱陶しい。


「師匠ぉ! 頑張ってくださいですぞぉ~!」

「ん……ヒイロならできる」


 ニッキとカミュの信頼が背中に届く。しかしどれほど応援されても時だけが流れるばかりでどうしようもなかった。


「あら、こんな試練も満足にこなせないのでは、とても精霊を使役することなどできないわね」


 嫌味ったらしい声が背中に突き刺さる。

 まだからかったことを根に持っているのか、ヒメは冷笑を浮かべながら口を動かしていた。


「ニンニアッホ様や、お爺さまは何故か貴方を気に入っているようだけど、買い被りもいいとこよね」

「あと四分~」


 ヒメの言い草に加えて、楽しそうにカウントするテンの声で思わず頬が引き攣る。

 ここで怒りを爆発してしまえばそれこそただの子供だ。だからムカつきながらも今自分がしなければならないことを優先しようと歩を進める。


「むむむ! ヒメ殿は師匠を甘く見ていますぞぉ!」

「え? な、なに?」


 突然ニッキが怒鳴ったので驚いているヒメ。


「ヒイロ……馬鹿にしないで」


 カミュも応戦し、ヒメは少し戸惑う様子を見せるが、


「だ、だけど見てみなさいよ! もう時間も無いし、この状況を打破する糸口さえ見つからないみたいではなくて?」


 それはその通りだ。だから日色も何も言い返さない。


「む~それでも師匠は何とかしますぞぉ!」

「する……ヒイロはやる人」

「う……」


 二人の圧力に負けたように後ずさるヒメだが、


「な、何を言おうが現状は厳しいでしょうに。これは精霊と契約するための試練よ? 異世界人だからと言っても無理なものは無理だわ」


 二人はぶ~っと頬を膨らませて反抗しているが、日色はヒメの言葉を聞いて違うことに意識を集中させていた。


(……精霊と契約するための試練……か。精霊……ね)


 ヒメの言った言葉を復唱して、静かに刀を納めると目を閉じて立ち竦む。



     ※



 突然目を閉じた日色の様子を見たホオズキは「ほう」と感心するように目を開く。


「ヒメよ」

「な、何よ?」


 突然ホオズキに声をかけられ反射的に聞き返す。


「お主にはいつも教えておるじゃろう?」

「……え?」

「諦めなければ、必ず光明は見えるとのう」


 彼の言葉にヒメは押し黙り、不機嫌そうに口を尖らせている。

 だがそれもすぐに崩し、真面目な顔で日色を見つめる。そうさせたのは、日色からありえないほどの魔力が流れ出ているからだ。


「な、何よこの魔力……っ!?」


 およそ人では考えられないほどの魔力が日色の体から放出され結界内を覆っていく。


「ほっほっほ、どうやら彼は儂らの想像以上の力を宿しておるようじゃのう」


 思わず喉が鳴ってしまうほどの魔力量。結界の外にいるから自分たちには影響は無いが、中にいるテンはこの魔圧に耐えられるのか……。


「どこまで成長したのでしょうか彼は……」


 隣で呟き声を上げるニンニアッホの顔も驚愕に歪められていた。それほど日色の成長度は計り知れないものがあったのだろう。


「た、確かに魔力は凄いけどこれでどうやって本体を見分けるって……あっ!?」

「気づいたかのうヒメ?」


 ホオズキの問いの通り日色の思惑がハッキリと理解できた。


「ええ、でも無茶するわね彼」

「ほっほっほ、面白い少年じゃわい」


 ヒメはもう見下すような目をしていなかった。ただ黙って、日色の行動の結末を見届けようと思い視線を送った。



     ※



「うっ、なんつう魔力を出しやがるんさ!」


 渦中にいるテンは、突然噴水のように噴き出した魔力に全身を掴まれ息苦しさを覚えていた。


(こりゃ、『精霊』以上の魔力量だっての!)


 魔力の量ならばどんな種族よりも精霊は負けない。

 むしろ身体は魔力そのものでできているといっても過言ではないのだ。

だからこそその膨大な魔力量は誇るべき優位点……なのだが、その精霊以上の魔力を放つのが人間だということに愕然とした思いを宿していた。


(し、しかも分裂してっから個々の魔力量は心許ねえし、これはヤバイかも~)


 だが、と思いその魔力を放出している張本人に視線を向ける。

 これだけの魔力を放出するにはもちろん内包する魔力量もさることながら、かなりの魔力コントロールが必要になってくる。

 何故ならただ魔力を放出しているだけでなく、その魔力で一体一体を包み本体を見分けるように探っているのだから。


 確かに幾ら均等に魔力を分けて分裂したといっても、本体には魔力を生み出す核となっている部分が備わっている。無論外見上分かるわけではないし、触れても本体かどうか見極めるのも難しいはずだ。

 しかし相手の体に魔力を流して丁寧に調べていけば、本体にしかないものに気づくはず。


 それが魔力を生み出している核だ。精霊を形作っている魂のようなものだ。

 分裂体にはそれが欠けている。それに気づいた日色は、こうして魔力を自由に操作して体を調べていっているのだ。


 しかしそれは先程も言ったようにかなり精密な魔力コントロールを要求されるし、何よりこれほどの魔力量を放出し続ければ一気に魔力が枯渇してもおかしくはない。

 これしかないと思ったのかもしれないが、かなり無茶過ぎる方法であることは間違いない。


(このままぶっ倒れるつもりなんかよ!)


 本来なら動き回って大人しく調べさせるつもりもないのだが、ここから動かないと宣言した手前そうもいかなかった。

 見てみればまだ全員に魔力は行き渡ってはいない。

 自分(本体)にもまだ魔力はまだ届いていない。このまま相手が魔力放出を維持し続けられるか、それとも途中で根尽きてしまうか……。


(へへ、面白えじゃんか! アイツの根性見定めさせてもらうとすっか!)



     ※ 



 非常に分が悪い賭けだった。しかしこれしか思いつかなかった。

 もう少し時間があれば、他に何か思いついたかもしれないが、もう迷っているわけにもいかず、行動を起こすことに決めた。

 精霊と契約するための試練……ヒメの言葉で精霊がどういった存在なのか思い出した。


 精霊とは魔法そのもの。また魔力そのもののような存在である。故にその膨大な魔力で身体を構築しているといっても過言ではない。

 そして精霊には魔力の源である核となるものが体内に存在することも思い出した。それは唯一無二のものであり、たとえ分身しようがそれは本体にただ一つだけ存在するのではと推測した。


 無論確信などは無い。だがもうこれしか考えつかなかった。だから核を探るためにどうすればいいか思案し、この結界内にいるテンたちを全て魔力で覆い調べようと考えたのである。

 魔力は魔力に反応する。だからこうして魔力を身体に流せば、相手の核に反応してくれると判断した。


 もしかしたらこれ自体攻撃になるのかもしれないと少しドキドキしたが、相手から何も言われないのでどうやらこの行動は攻撃には入らないらしく安心する。

 しかし初めてやってみたが、これがかなりきつい。

 魔力放出そのものなら何度もやったことがあるが、これだけ一気に魔力を大量放出させ、それを維持し、なおかつその魔力を動かして調べるのは半端ではない集中力を必要とした。


 それに伴って加速する脱力感。少しでも気を抜けば倒れそうになる。こんな方法がとれたのも、魔力量の恩恵があってこそだった。


(だがちんたら何かしていられるか。まだ全体に行き渡ってないんだ!)


 額から滝のように汗を流しながら歯を食い縛る。まるで体に何倍もの重力がかかったような負荷を感じる。

 先程からカウントの声がテンから聞こえない。

 それは恐らく彼もこの戦法に焦りを覚えているからだと判断する。だからこそ、これは絶対成功させてやると意気込む。


 しかしガクッと膝が折れる。

 まだ駄目だ。このまま倒れたら二度と立ち上がれない。そしてそれは敗北を意味する。


(そんなこと……できるか!)


 大きく息を吸うと、


「うおぉぉぉぉぉぉっ!」


 残りの魔力を絞り出すように噴出させる。

 そして――。


(――――――見つけたっ!)


 カッと目を見開いて、重い足取りながらそれでも一歩一歩目標まで近づいていく。次第に相手の顔が視界に入る。そしてその表情が、先程みたいにもう笑ってはいないことに気づく。

 震える拳に力を込めて、精一杯振り抜く。


 パシ……。


 弱々しい音が相手の頬を打つ。

 もしそれにダメージを期待しているなら全くといっていいほど皆無だ。しかし間違いなく攻撃は当たった。

 後はその対象が本物かどうか……。


 確かめようとした刹那、急激に両足から力が抜かれる。それでも視線だけは目の前にいる人物から離さない。


「……やんじゃねえか人間」


 相手の口がそう動き、嬉しそうに微笑んだところで意識が闇に沈んだ。



     ※



 倒れそうになる日色をテンは右手で支えるように抱えると、張られていた結界が解け、後ろから物凄い勢いでニッキとカミュが飛んできた。


「し、師匠ぉっ!」


 軽く溜め息を漏らしたテンは、その場に日色を寝かせるとニッキは泣きそうな顔を浮かべながら悔しそうにテンに視線を向ける。


「安心しろっての。勝負はそいつの勝ちだし」

「……へ?」


 すると複数いたテンが、次々と消えていき、今ニッキの目前に佇むテン一人になる。


「そいつは見事に俺を探しやがった。だから……」

「ヒイロの……勝ち?」


 カミュが無表情に口を動かすと、テンはそれに応えるように小さく顎を引いて、


「ああ、おめでとさん」

「うおぉぉぉ! 良かったですぞぉ!」


 寝ている日色に抱きついて喜ぶニッキ。そしてそこにホオズキたちもやって来る。


「ほっほっほ、まさかあのような方法で試練を越えるとはのう」


 楽しそうに顔をクシャクシャにして笑みを浮かべているホオズキをよそに、ヒメはその可愛らしい顔を少し卑屈そうに歪めて日色を見ていた。


(何なのこの子? というかあんな方法でテンの試練を突破するなんて規格外にもほどがあるわよ!)


 何とも納得しがたいといった感じで、見事試練を突破した日色を観察していると、


「ふむ、気骨もある、実力もある、それに何より精霊たちに好かれとる。ふむ、やはりここはヒメを嫁に……」


 ……ピタ。


「お爺さま……この爪は少し押しただけでも岩さえ貫くけど?」

「じょ、冗談じゃヒメ……じゃからそう殺気立てんでくれ……」


 ヒメはいつの間にかホオズキの背後を陣取り、彼の首に自身の長い爪の先を僅かに触れさせていた。ホオズキは全身から冷や汗を流しながら青ざめている。


「二人とも、何やってんのさ……」


 テンも呆れた様子で肩を竦めていると、ボンという白煙とともに猿の姿へと戻った。


「キキッ、面白い奴みっけた!」


 日色の顔を見下ろしながらニヤッと口角を上げている。そんなテンの嬉しそうな表情を見て、ヒメはどことなく面白くない気分が胸に過ぎる。

 そんなヒメの表情を見て何かを察したのか、


「のうヒメ、お主もどうじゃ? 彼と契約なぞ……」


 するとハッとなったヒメは大きく一歩後ずさる。


「な、何を言っているのよお爺さま! だ、大体私は生涯契約なんてするつもり無いわよ! 人なんてくだらない生き物なんだし!」

「ふむ、そうかのう?」

「そ、そうよ。そ、そりゃこの子の頑張りは少しは認めてあげなくもないけど……や、やっぱ人だし、信じられないし、それにもう契約はテンに決まってるじゃないの」


 早口で捲し立てるが、ホオズキはニヤニヤが止まらず、


「冗談じゃ冗談。確かにこの子にはもう契約候補はおる。しかしのう、契約も相性。もしテンが駄目だった場合、その時はヒメがしてみたらどうじゃ? まあ、失敗した時、その反動でヒイロが五体満足じゃったらの話じゃがのう」


 契約に失敗するとリスクが高い。一応契約することにテンは認めたが、契約自体が成功するかはまだ分からない。失敗すれば最悪死ぬことだってあるのだ。


「な、何をそんな都合の良い話しているのよ! そんなとっかえひっかえみたいな!」

「じゃけどのう、お主先程テンの顔を見て羨ましそうな顔しておったんじゃないかのう?」


 するとヒメはボッと頬を赤らめて、その顔を誰にも見られないようにそっぽを向く。


「し、しししししてないわよそんなことっ! 本当に失礼するわね!」

「ほっほっほ、そうかのう。じゃが……」


 ホオズキはゆっくりと視線を日色に向ける。


「……確かに彼はヒメと契約の運命には無いようじゃのう。うむ、彼にはテンが合っとるみたいじゃわい」

「…………」


 ホオズキの言葉を背中で聞くが、当然のことと思っていても、やはり何か胸にチクリと刺すものがあった。それは先程のテンの嬉しそうな表情だ。

 実際に精霊というのは単体でも生きていくのに支障は無い。

 だが外の世界では著しく力を制限されるし、単身で長い間外の世界に居続けることができない。それが精霊の常識なのだ。


 しかし契約者がいれば、ともに存在を共有することができ、一緒に行動することが可能になるので、外の世界で自由に行動することもできる。

 それに何より精霊は契約することによって、本来の力を外の世界で発揮することもでき、しかも契約者から供給される魔力は甘美なる快感を与えてくれるのだ。


 もちろんヒメ自身、まだ契約したことがないので、その感覚がどのようなものかは分からない。しかし他の契約者を持つ精霊たちからは、一様に恍惚な気分を味わえるという言葉を聞く。

 だがやはり一番良いのは、契約者と信頼で繋がっているという感覚だという。ともに在る、ということが精霊の喜びに繋がる。


 だからこそ、自然に生まれた精霊たちは契約者が現れるのを渇望していたりする。

 誰もがそのような感覚を持ちたいと願い欲する。

 だが契約者が目の前に現れることなど極めて稀。

 というよりも海底に【スピリットフォレスト】が飛ばされてからはまずそんな機会を失ったと言える。


 昔は豊かで美しい森の中にあったが、そこに迷い込んだ人が精霊と出会い契約するという形がほとんどだった。

 しかし今ではそれも不可能。海底に迷い込んでくる人などいるわけがないのだから。


 だからヒメもそうだが、テンだって諦めてはいたのである。

 だがニンニアッホがある少年を【フェアリーガーデン】に赴いたという報をホオズキから聞いた。その少年は、人間ながら妖精に好かれる人物とのこと。


 その話を聞いたテンは、実際にその少年を自分の目で見たいと言い、ホオズキに願い彼を探す役を貰った。何度か失敗に終わったが、こうしてようやく会うことができた。

 一目見た時から、どうやら彼は少年のことを気に入っていたようだ。それにホオズキから契約の話を出された時、多分彼は驚きながらも嬉しかったのだろう。


 しかし『高位精霊』のプライドのようなものか知らないが、彼を試すことにしたらしい。

 本当はそんなことしなくてもすぐにでも契約したいはずなのに、テンも案外と不器用で意地っ張りだと思った。


 だから今回の試練では、恐らくテンは無理難題を吹っかけて、少年の気概を確認しようとしたと思う。無理なことにも諦めずに心を折らないか見極めたかったのだろう。

 契約には何よりも心の強さが必要になるからだ。だが予想とは裏腹に、少年は誰もが思いついてもやらないだろうという方法を使い試練を突破してみせた。


 これにはテンだけでなく、その場にいた全員の度肝を抜いた。そしてその予想外を、テンは嬉しそうに迎え入れた。彼も感じたのだろう。少年はきっと、相応しい契約者だと。

 だからあんな嬉しそうな顔ができたのだ。諦めていた契約者が見つかった喜びと、その契約者が予想外の強さを備えていたことに心が躍ったのだろう。


 そんなテンの顔を見て、彼を応援しようという気持ちの他に、微かに嫉妬のようなものが見え隠れするのに気づいた。

 自分は恐らく出会うことのない奇跡を、テンは手に入れられたことに喜びと同時に悔しさが滲み出たのだ。

 ホオズキにちゃかされた結果、押し黙りながら、いまだ笑っているテンを見つめていると、


「……安心するんじゃよヒメ」

「……へ?」


 ホオズキがその優しげな瞳をこちらに向けて微笑んでいた。


「お主にもいつか必ず……必ず運命(びと)が現れるわい」

「そ、そんなの…………いらないって言ってるじゃない……」


 否定するが声には力強さがこもらなかった。


「ほっほっほ、お主はいずれこの儂の後を継ぐ立場じゃ」

「…………」

「儂には契約者などおらんかったが、ヒメには必ずできる。それもそんなに先の話じゃないわい」

「何よそれ……妄言ではなくて?」

「ほっほっほ、お主にも現れるよ。お主とともに生きてくれる者がきっとのう」


 微笑みながら白い髭を擦る彼を見て、思わず溜め息が漏れる。だがそんな彼の言葉が、ポワッと心の中で灯りをつけたのも確かだった。


「それにのう、ほら、案外あの二人のうちのどっちかがヒメの主かもしれんぞ?」


 二人とはニッキとカミュのどっちかということだ。どう見ても二人とも器ではないような気がする。


「あの二人がここにやって来たのもヒメが認めたからに相違ないじゃろ?」


 確かに許可無くここへはやって来られないので、二人に許可を与えたのは事実だ。


「まあ、急ぐ必要など無いわい。ヒメのペースで見極めればええわい」


 ホオズキの言葉が静かに胸の中に染み渡っていく。自分のペースで見極める。そうだ、テンだって少年のことを自分なりに確かめたのだ。

 なら自分も諦めること無いのかもしれない。いつか出会う契約者を夢見続けることは、決して不毛なことではないとホオズキが教えてくれた。


(…………でもあの二人のどちらか…………ありえないでしょ)


 一人は子供で、一人は女の子のような男。どちらも武人としてなかなかのものを持っていると感じたが、それでも少年のような規格外っぷりは無さそうな雰囲気だ。


(ん……けどあの子……)


 二人の方に視線を向け、少し考え込むように目を凝らしたが、


(……気のせいよね)


 自分の中で答えを出して首を振った。







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