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126:精霊の試練

あけましておめでとうございます。

今年も『金色の文字使い』をよろしくお願い致します!

 正直焦ってはいた。

 無論顔には出してはいないが、さすがに魔法無しで『高位精霊』と戦うことに若干の不安を覚えていたのである。


 見た目は小さなリスザルのようで、変わっているのは喋ることと毛が黄色いといったところだろう。

 しかしアレは間違いなく精霊なのだ。

 しかもただの精霊ではなく、一度戦ったことのあるシシライガと同じ格の高い存在。


 無論全ての『高位精霊』がシシライガのように強いとは思ってはいないが、それでも自ら戦闘を吹っかけてきたところを見ても、相当腕に自信があるのは間違いない。

 そんな相手に魔法が使えないフィールドで戦わなければならないのは正直厳しい現状だ。

 いや、契約するのだとしたら強い奴の方が良いことに変わりは無いのだが。


 だがシシライガのような力の持ち主だとしたら魔法無しでどうやって戦えばいいか悩んでしまっているのも事実だった。


(まだ《赤気》を使って戦闘なんてできないしな……)


 こういう戦いの時のために考慮した《赤気》を使っての戦闘方法である《太赤纏》はいまだ名前しか知らないという状況である。


「おいおいおい、どうしたのさ! もしかしてビビッちまってんの?」


 対面に立ち、こちらを馬鹿にしたように笑みを浮かべてくる対戦猿ことテンに対して苛立ちを覚える。


「そんなわけがないだろうが。今どうやってお前を料理しようか考えていたんだ」


 かなり強がりな成分は入っているものの、弱みなど相手に見せるわけにはいかない。


「頑張ってくださいですぞ師匠ぉ!」

「うんうん」


 ニッキの応援にカミュの高速頷きが目に入ってくる。


「それじゃ両者いいかのう?」


 顔を見るとどことなくワクワク気なホオズキ。年甲斐も無くこういった状況に胸が躍るような少年心を持っているのかもしれない。


「ああ」

「こっちはいつでもいいさ!」


 二人して返答を返すとホオズキも同じように返す。そして大きく息を吸うと、


「始めじゃ!」


 こちらはすかさず《絶刀・ザンゲキ》を抜く。こうなったら魔力を込めた斬撃で意識を奪うしかないと思い、


「……へぇ、魔力を刀に宿してんのか?」


 テンの言う通り、青白い魔力が刀を覆っている。

 ……魔力は放出できるというのは助かった。

 この領域は、あくまでも魔法として効果を発揮することができないようだ。

 先手必勝のごとく素早く大地を蹴り間を詰める。


「よっと!」

「はっ!」


 素早い動きをするのは分かっていたが、それに加えて的の小ささは難敵だ。

 この刀で斬れば相手の魔力を乱して、少しぐらいダメージを与えることはできる。

 相手が弱者ならそのまま気絶させることもできるが、高位の精霊では、恐らく動きを鈍らせたりするだけだろう。

 しかしそれでも構わない。鈍らせたところを集中的に攻撃すれば、さすがに倒せると踏んだ。


 だがこちらの動きを見極めているのか、軽やかに身を翻してかわされてしまう。

 こっちもそれなりに素早く動いているのにも拘らず掠りもしない。

 仕方無く刀だけでなく避けたところを蹴り上げたりしてみるが、あっさりと避けられる。

 さすがは猿……すばしっこい。


 加えて避けた瞬間に尻尾を振り回して攻撃してくる。

 当たっても大したことがなさそうだが、相手は精霊でありどんな隠し玉を持っているか分かったものではない。迂闊に攻撃を受けるわけにはいかないので、こちらも回避する必要がある。

 今度はこちらの態勢が崩れたところを狙って突進してくるが、そのまま地面に向けて転がり相手の攻撃をかわす。


 そして互いに視線を交わし合ったところで再び日色は地を蹴ってテンに刀を振り抜く。



      ※



「は、速いわねっ!?」


 驚き声を上げたのはヒメだった。

 まさか彼女はこんな決闘が行われるとは思っていなかったが、それ以上に驚いたのは日色が精霊と契約するという話だった。


 今まで人間が契約に及んだ事実はあっても、そのほとんどが失敗に終わっている。

 一時は契約に成功したとしても、結局は扱い切れず魂の器が徐々に砕け、精神を崩壊させる者も多くいた。


 日色はそんな話を聞いたという。それなのに揺るぎもせずに契約を執行しようとするとは正気を疑ってしまった。

 それに他の精霊ならともかく、あのテンを契約相手に選ぶとはそれも驚いたものだ。


 普段テンは馬鹿やったり…………いや、馬鹿しかやっていないが、それでも精霊として自分に並ぶほどの実力の持ち主である。

 普通の人間がその魂の強さに耐えられるわけもないし、何よりテンと戦うなど自殺行為もいいところだった。


 確かに最初会った時、テンは日色に魔法で拘束されていたが、外の世界では著しく力を制限される精霊だからで、ここ【スピリットフォレスト】なら全力を出すことが可能である。

 その実力はいかに強者といえど魔法無しでは絶対に勝利を得ることのできないほどのものである。

 それをテンも分かっているはずなのに、どうして試そうと思ったのか理解に苦しむ。


 試すもなにもテンの勝利は決まっているのだ。だからこのような不毛な決闘の意味を問い質したいという気持ちが胸に溢れていたが、目の前の光景を見て思わず言葉を失う。

 刀を抜いたと思ったら、凄まじい速さでテンに突っ込む日色を見て、彼が生半可な実力者ではないことを知る。

 しかもあの素早いテンの動きを先読みして、しかも今はそのテンを防戦一方に追い込んでいる。


(ただの人間ではないことは知ってたけど……なかなかやるわね)


 自分の目が少し曇っていたことを確認し改める。日色は確かに普通の人間と比べると強者のカテゴリーに入る。

 それに彼の強みは、身体能力というよりもその観察眼、つまり洞察力だと言える。相手の動きをよく見て、それに合わせて攻撃を加えていく。それができる者はかなり少ない。


「お強いですねヒイロさんは」


 突然自分に声をかけられたと思い、そちらに視線を向けるとニンニアッホがいた。即座に一歩下がり無礼の無いように頭を俯かせる。


「……悲しいわヒメ。本当にもう以前のように接してくれないの?」

「……立場が違いますから」


 そうだ、立場が違う。自分は何の肩書も持っていないただの精霊だが、相手はすべての妖精たちを総べる女王なのだ。礼を欠けた行動などとれるはずもない。

 そう思っているとふと両頬に肉感を感じ、


「ひゃ、ひゃひをふふんへふか?」


 何をするんですかと言いたかったが、頬を引っ張られてしまっていて言葉にできない。だがそんなことよりも、これを止めなければならない。


「ひ、ひんひはっほはわ?」


 彼女の名前を呼ぶが、彼女はムッとした表情になり、


「駄目! ニアと呼んで!」

「へ、へふが……」


 立場もあるのに馴れ馴れしい態度などとれるわけがない。自分だって、できれば以前のように彼女の名前を呼びたい。

 だがそう呼べない理由があるのだ。無論立場もある。しかし真実は……彼女に嫉妬しているからだ。


 同じ頃にこの世に生まれ落ち、同じように手を取り合い育ってきた。まるで姉妹のようにいつも一緒にいて、お互いに知らないことなど無いと言えるほど仲が良かった。

 しかしニンニアッホが妖精の女王に選ばれ、明らかに立場の違いが浮き彫りになった時、胸にポカンと穴が開いた。


 そしてその穴を熱い火が埋めていく。そしてその火は段々と暗く冷たいものに変わっていく。それが嫉妬だということはすぐに気づいた。

 互いに王を目指していた。そして同時に王になろうとも約束はしていないが暗黙のうちに互いに決めていた。


 それなのに彼女が先に王になった。

 何だか自分が置いて行かれた気がして、自分がちっぽけな存在だと感じてしまった。彼女がそんなことで態度を変えるような人物でないことは理解している。


 だが一緒にいると否応無く格の違いを思い知らされた。だから必要以上に距離を置いて態度もよそよそしくなった。

 呼び方も、ニアからニンニアッホ様と変え、態度を改めた。

 いつか自分が王になり、彼女に追いつくまでは……。


「も、申し訳ございませんが……立場が違いますので」


 頬から手を放されたので、自分の気持ちを伝える。

 すると彼女はやはり悲しそうな顔をして、小さく「そう」とだけ言うと、その視線を再び日色たちへと向けた。彼女のその表情を見て、ズキッと胸が痛む。


 そんな二人をニッキが不思議そうに見つめていたことに気が付かず、ヒメは内心で謝罪しながらも、自分もまた日色たちへ顔を向けた。



     ※



 思った以上に素早い動きをするテンに対して舌うちを連発する。激しく動き回っているが、まだこの程度では息は切れない。

 だが的も小さく、同じような速さで動き回る相手を容易に捉えられず次第にイライラしてくる。


(ふぅ、ダメだな。少し落ち着くか……)


 深呼吸をして心を落ち着かせる。


「へいへいどうしたどうした眼鏡野郎? この程度でもうバテたのかっての? ウキキ!」


 ピキッと額に青筋を立てる。どうやら相手は人を苛立たせるプロフェッショナルのようだ。相手の思惑に乗ってはいけない。


「しっかし、やっぱその刀って良い刀だよなぁ~。その刀で斬られると、さすがに痛そうだよなぁ~キキッ!」


 まるで遊んでいるかのように楽しそうに笑う。実際にまだ彼は本気ではないのだろう。それはこうして対峙していても伝わってくる。

 魔法が使えたらと思うが、使えないものをいつまでも考えていても無意味だ。とにかく今ある手札で奴を仕留めるにはどうしればいいか考える。


(スピードはまだ上がる。だが問題は奴がまだ全力じゃないってことだ)


 フリフリと挑発するように動く尻尾を見ると、真っ二つにしてやりたい衝動にかられる。


(それに高位の精霊の真の姿は人型……だよな)


 チラリとホオズキとヒメの方を見る。彼らは今人型だ。

 ホオズキの場合は、あの巨大な白蛇姿の方が貫録と迫力はあったが、シウバの言が真実ならばテンにはまだ隠し玉が残っているということだ。


(その力を出させる前にやるのが定石か……)


 周囲の状況を確認して使えるものが無いか判断する。木が立っているところを見て思案顔を浮かべた。

 スピードはまだ全力を見せていないので、こちらも手札は隠してある。

 しかし切り方を間違えたら無駄になる。要は相手を思う通りに動かして後は……。


(…………ま、やってみるか)


 顔を引き締めると、相変わらずニヤニヤしているテンに向かって行く。無論相手は止まっておらずその場から弾かれたように動き出す。

 刀を振るが、鮮やかに身を翻され空を切る。


「へっへ~ん! 当たらん当たらん!」


 得意げに動き回る彼を冷静に見つめて攻撃を繰り返していく。途中彼が左へ跳んだので、


(そっちじゃ困るんだよ!)


 彼が向かう場所へと刀を投げ槍のように投げつける。


「おわっ!?」


 さすがに武器を投げつけられると思っていなかったのか、慌ててその場を跳び退く。そこで追い打ちとばかりにすかさず拾った石を投げつけて攻撃する。


「今度は石かよ!?」


 驚いてはいるものの、余裕を持って大きく後ろへ跳んで避けるテン。


(……よし)


 確信を得たような表情をすると、今度は全力でその場から移動した。


「へ?」


 日色が今まで使っていなかった速さで動いたため、テンは少し呆気にとられたように固まる。

 すると背後から大きな影が彼に襲い掛かった。


「え? って木ィィィッ!?」


 突然テンに向かって大木が倒れてきたのだ。


 日色はちょうど彼が大木を背にするような場に追い込みたかった。そして全力で木の背後に回り刀で斬り倒す。少し右寄りにしてだ。そうすればテンは恐らく……。


「おっとぉ!?」


 こうして左に跳び出してくるはずだ。


「な、何っ!?」

「油断大敵だ、黄ザルめっ!」


 逃げ道さえ予測できれば攻撃を当てる確率がグッと高くなる。

 そして見事に計画は上手くいき、後はこの刀で身体を――。


 ――スカッ!?


 斬る――だけだったのだが、刀はただ風切音を響かせただけだった。


(……どういうことだ? 今アイツ……)


 斬れなかったことよりも、そこから逃げ出した方法に驚愕していた。

 そしてもう一つ、ようやくといったところか、今目の前にいる人物を見て警戒を高める。


「キキ、今のはヤバかったぜ。この姿になってなかったら正直斬られてたかもな。結構策士だなおめえ」


 そこには日色より小さめの体躯であり、イケメンとは言い難いが、愛嬌のあるやんちゃ坊主の顔立ちをした少年がいた。


 黄色い髪を逆立て後ろ髪が少し長く、額には赤いバンダナを巻いている。大きく吊り上っている目が印象的だが、人懐っこそうに笑う顔も目を惹いた。

 だがそんな姿よりも気になることがある。


「お前、空を飛べるのか?」


 聞きたいことはそれだった。

 あの瞬間、確かに仕留めたと思った。空中にいた彼を、正確に捉えていたつもりだったから。

 だが刀が当たる瞬間、その場から勢いよく存在を消した。まるでブースターでも使ったかのように瞬時にしてその場から移動したのだ。

 だから彼が空を自由に動き回れるのではという見解を持った。


「いんや、俺はそんなことはできねえよ?」

「…………」

「俺はただ跳ねただけだしな」

「……跳ねた?」

「おう、こんな感じでな」


 そう言うと大きく空へとジャンプした。彼を見失わないように目線を合わせる。到達地点に達して、そのまま落ちてくるが、次の瞬間――――――ボフッ!

 テンの足元が淡く光ったと思ったら、その場から再び上空へと跳ね上がった。そのまま落ちてくる度に、何度も空中で足を動かしては再び空へと昇る。


「便利だろ~これぇ~」


 なるほど、これならあの時、消えたように移動できたはずだ。奴は空を飛べるのではなく跳ねることができる。彼の言った通りだ。


「……足に魔力を溜めて瞬時に放出してるのか……? いや、小さな爆発音から察して、その魔力を爆発させてる……?」


 悪い癖か良い癖か、未知の業に思わず分析が入ってしまう。顎に手をやりブツブツと言っている日色を見て、地上に降りたテンは首を傾けていた。


「お~い、続きやんねえんか?」


 その言葉にハッと現実に戻る。そして再度刀を相手に向けて構える。


「なるほどな、これは思った以上にしんどそうだ」


 増々相手に穴が無くなってしまった。

 それに対してこちらは魔法が使えない。幾つか策は思いつくが、どれも効果は薄いものばかりだ。


 あの姿になった相手の力量も正確には把握できてはいない。

 一つ言えるのは、猿の時と違って……いや、比べることも馬鹿げたほどの威圧感が相手から迸っている。とてつもない存在感だ。

 まだ相手は全力ではないにも拘らず、先に戦ったシシライガと同等以上の圧力を感じる。

 どのようにして攻略するか思案していた矢先、目の前からテンが姿を消した。


「っ!?」


 ハッとなって背後から敵意を感じて、瞬時にしゃがみ込んだ。

 すると空気を切り裂くような音が頭の上に響き、そのままの状態ではまずいと感じて即座にその場を離れた。


「あっちゃ~、挨拶のつもりだったってのに避けられちった」


 舌をペロリと出している顔が腹立つが、今はそれどころではなかった。

 凄まじい動きだった。

 今のは完全に不意を突かれたというのではなく、ただ単に動きが見えなかったのだ。

 何とか敵意を感じて避けることはできたが、一瞬で熱かった身体に冷水をかけられたかのように全身が冷たくなっている。


(しかもまだ全力じゃなさそうだな……あの動きに《魔法無効化能力》があるっていうのか……冗談じゃないな)


 シシライガも速かったが、テンは明らかにそれ以上だ。《天下無双モード》なら無論遅れをとることはないが、素のままの身体能力では正直言ってついていけない。


(人型だとこうも違うのか……)


 猿の時とはもう比べものにならない。あの動きで連続攻撃されたらと思うと背筋が凍る。どうにか突破口が無いか必死で思考を回転させる。


「――――――なぁ」


 急に声を掛けられて身構えてしまうが、相手は両手を頭の後ろへやりにこやかに笑っているので、つい警戒心が緩みそうになる。


「まだ《赤気》も使いこなせてねえんか? 見てると使う気がねえってよりは、使えなさそうだしさ」

「……さあな、油断を誘ってるってこともあるぞ?」

「う~ん……おめえならやりかねねえけど、そんな感じじゃねえっぽいんだよなぁ~」


 ジッと観察するように見てくる。そこであることを思い出して苦々しい表情を浮かべる。

 そう言えば相手は《視る種族》だったのを忘れていた。こちらの手札がもう無いことを見極められているかもしれない。


「う~ん………………ま、いっか。《赤気》を使いこなせんなら対等にやりあえっかもしんねえけど、今はまだそれでいいや」

「…………は?」


 何やら自己完結した相手につい聞き返してしまった。


「ん~いやさ、実のところこの姿になるまで追い込まれるとは思ってなかったんだけどさ、このままガチにやりあってもしょうがねえから……」


 テンがそう言うと突然彼の身体がブレる。

 思わず目を凝らした刹那――。


 ――ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!


 次々とテンの分身が周囲を埋め尽くして行く。身を引き締めながら周りを確認するが、数えるのも面倒になるほどのとんでもない数だった。


「これで見極めてやるよ眼鏡野郎」

「何だと?」


 睨みを利かせるように言うが、相手は鼻にもかけない。


「こん中に本体が一人だけいる。それを当ててみろ。ただし攻撃できるのはたった一回だけだ。できるかできないか……それで判断させてくれ」


 一人一人をじっくりその場から動かずに観察する。だがどう見ても本物と偽物の区別がつかない。


「おいおい、もしかしてこん中に偽物がいるとか思ってるんか? 違う違う。あくまでも全員実体だぞ」

「……っ!?」


 これ全部が…………実体だとっ!?


 規格外過ぎる力だろと怒鳴ってしまいそうになる。

 もしこれ全部が一気に襲い掛かってくると思うとゾッとする。何体かは倒すことはできるかもしれない。だがさすがに今の状況で全員は不可能だった。


「あくまでも俺が言ってるんは本体、つまりオリジナルだ! ちなみに俺らはここから動かねえ。だからさっさと見つけてみろっての。あ、あと長々とやるつもりもねえから時間制限は…………十分だけやるよ」


 楽しそうに笑みを浮かべながら言うその顔は、猿の時と同じくイラつかせる。

 つい空に浮かんでいる奴らは動いているだろと突っ込みを入れようと思ったが止めにした。そんなことを気にしている場合ではない。


(この中に本体…………どれだ?)


 まるで見分けがつかない。

 攻撃は一度きり。外せば恐らくテンは自分を認めないだろう。

 あんな猿に認めてもらわなくても構わないといえば構わないのだが、舐められたままで終わることなどできなかった。

 もしそれをリリィンにでも伝わると必ず馬鹿にされるからだ。


 ギュッと柄を握りしめる手に力を込めて、もう一度周囲を見回す。


(いいだろう……この勝負必ず勝ってやる)







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