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117:マタル・デウス

 アヴォロスの世界征服宣言に、誰もが愕然とした様子で硬直していた。それはまさに時間が停まっているかのようで。

 だがそんな彼らをよそに美形少年は続ける。


「だから君たちには我らの傘下に入ってもらいたいんだけどどうかな?」


 物言いが凄く軽い。まるでこれから旅行に行くから一緒にどうかな? みたいなノリで言葉を発している。

 もちろんそんな提案に乗る者がいるわけがない。


「「ふざけるなっ!」」


 魔王と獣王は同時に完全否定する。

 しかしその答えを予想していたのか、少しも動揺など見せずにアヴォロスは続けて言う。


「うん、だったら戦争しようか」


 今度もまた、返答はあっさりしたものだった。

 その言葉の持つ意味は当然重いもののはずなのに、それを微塵も感じさせず言い放ってくる。


「戦争だと……?」

「そうだよイヴェアム、互いに譲れないものがある。そしてそれは話し合いなどで決して解決できない。だとすればどうする? …………奪うよね? 力づくで」

「ふ、ふざけるなっ! この期に及んでまだ憎しみを増やすつもりかっ!」

「だったら黙って余の支配下に置かれればいい。そうすれば、余が適材適所として君たちを使ってあげるよ?」

「それこそふざけるなだ! 貴様の配下になるくらいならば、全滅した方がマシだ!」


 レオウードが怒気を込めながら声を張り上げる。もちろんそんな提案を受け入れるわけがないのだ。


「うんまあ、そうだね。獣は別にいらないから。結果的にペットにするか食糧にするか、それとも廃棄物に回すかしかないね。あ、でもさすがに余は食べないかな。だって気持ち悪くて臭そうだしね」

「貴様ぁぁぁぁっ!」


 あまりの物言いに対し、激昂したレオウードだったが、まだ身体が回復していないようで膝を折ってしまう。


「おやおや、無理しない方が良いよ?」


 レオウードの頭は完全に沸騰しているだろうが、どうにも身体が言うことを聞いてくれないらしい。


「貴様ぁぁぁ……っ」

「アハハ、ここで君たち全員を相手にするにはさすがに心許無いのでね。こちらもいろいろ準備もあるし、そうだなぁ…………告知はまたいずれするとしようか」


 アヴォロスは両腕を広げるような格好をすると、またも楽しそうに目を光らせる。


「その矮小な脳に記憶しておくといいよ。この世界は我々――《マタル・デウス》が支配する」

「馬鹿な……」


 レオウードの呟きはその場にいる者全員の代弁だった。


「フフフ、それじゃ今日はこの辺で、顔見せしにきたとだけ思ってくれたらいいかな」


 すると彼らの足元に広がっていた水溜まりから眩い光が目を射してくる。そして彼らの足から水の中へと徐々に沈み込まれていく。どうやらここから立ち去る腹積もりのようだ。

 次々と水中にその姿を隠していくが、数人だけはまだ完全には沈まずに留まっている。


 誰もが大災害にでも遭ったかのように言葉を失ってその様子を見つめている中、アヴォロスはわざとらしく思い出したように「あっ!」と声を漏らして人差し指を立てる。


「そうそう、言うの忘れていたよ! ねえ獣王?」

「む?」

「一つ良いことを教えておいてあげるよ」


 何を急に言い出したのかと思いレオウードが不審な目を向ける。


「……さっき、君の部下がここへやって来たでしょ? まあ、余が殺しちゃったけど」

「くっ、貴様ぁ!?」

「まあ聞いてよ。というか聞いた方が良いと思うんだけど……」

「何だ!」


 そしてアヴォロスは思わせぶりに一つ息を吐くと、


「ここにはいないけど、余の下にはコクロゥがいるんだよね」

「な、何だとぉっ!」


 てっきりレオウードが叫んだかに見えたが、声を張り上げたのはマリオネだった。彼を視界に入れたアヴォロスは少し目を見開き考える素振りをすると、思い出したかのように続ける。


「ああ、そう言えばコクロゥはマリオネの家族を殺したんだったっけ?」

「先王よ、それは真の話か!」


 今にも掴みかからんばかりの表情をしている。


「本当だよ。何ならこれから【パシオン】に行って確かめればいいと思うよ?」

「……おい、今のはどういう意味だ?」


 当然レオウードは彼の言葉に疑問を感じて問い質す。


「うん、それはね、コクロゥに【パシオン】に行ってもらったからね」

「何だとぉっ!?」


 今度は間違いなくレオウードだ。その顔には絶望を宿したように鬼気迫った表情をしている。


「アハハ、だから早く帰った方が良いと思うよ? あ、それとイヴェアム?」

「……何だ?」

「テッケイルはこっちが預かってるから」

「なっ!? やはりお前がっ!」

「アハハ、じゃあね」

「待てっ!」


 するりと水の中へと消えていく。

 振り上げた拳の行き所を失った感が皆の胸に込み上げてくる。

 そしてもう一人、カミュは仇から目を離さず鋭い眼光をぶつけていた。


「絶対……倒す」

「……できるのか?」

「……する」

「……なら憶えておけ、俺の名はヒヨミだ」

「……ヒヨミ」


 互いに視線を逸らさず、ヒヨミの頭が消えるまでカミュはずっと見つめていた。


「……倒すから」


 拳を握った彼の決意が言葉になって聞こえてきた。

 そうして突如現れた闖入者たちは、これまた突然とその場からいなくなったのである。


 周囲に静寂が支配する中、レオウードが乱暴によろめく身体を振って歩き出す。


「父上!」


 第一王子であるレッグルスが、我を忘れた様相を見せているレオウードを止めるために声をかけるが、レオウードはそれを無視してズカズカと進んでいく。

 そんなレオウードの前にレッグルスは立ちはだかり、彼と視線を合わせる。

 だがレオウードは、「そこをどけ」と威圧して見せた。

 それでもレッグルスは意思を揺るがせない。


「父上、まずはご指示をください!」

「…………」

「それが王――我々を導くあなたの役目です!」


 目を細めて少し驚いたような雰囲気を醸し出すレオウードは、次に目を閉じると大きく息を吐く。


「……助かったぞレッグルス。危うく王として責を捨てるとこだった」

「いえ、それが今私の役目ですから」

「ガハハ、今……か。ララよ、ワシは良い息子を持っておるな」


 レオウードの顔に先程の厳然たる様子が少し身を潜ませて接し易い穏和な空気を漂わせた。そして声を掛けられたララシークは、呆れたように肩を竦める。


「ええ、お大事になさってくださいよ。さっきもレッグルス様が止めなければワタシが止めてましたから。殴ってでもね」

「ガハハ! それは気を持たせたようですまんかったな!」


 再び冷静に物を考えられるようになったレオウードは、一つ咳払いをすると、


「とにかく、今起きたことを確かめるためにも、早々に国へ戻らなければならん」


 獣人たちもそれぞれに首を縦に振っている。


「いろんなことが起き過ぎている。本来ならこれからのことを『魔人族』の者たちとともに話し合いたいのだが……」


 そう言ってイヴェアムに顔を向けるが、彼女もまた彼を擁護するように、


「いえ、こちらも確かめるべきことがたくさんあります。アヴォロスの言ったことを裏付けた後、彼の企みがもし真実ならば、今後の対策をしっかりと練る必要があります。我々同盟を結んだ者としての今後を」

「そうだな。そのためにも現状を正確に把握する必要がある。今後については落ち着いてから会議でも開き決めた方が賢明であろうな」


 確かにここは一呼吸置いた方が、より良い関係作りはできるだろう。同盟のことについてもそうだが、何よりも突如現れたイレギュラーのせいで皆が戸惑っている。

 互いに情報を精査するためにも、一度互いの国へ帰って落ち着きを得た方が良い。


「そうですね。では一応の収拾がついたら連絡をお願いします。こちらももしかしたらアヴォロスが何か手を出しているかもしれませんから」


 アヴォロスは【パシオン】に手を出したと言っていたが、【ハーオス】も彼の企みの犠牲になっているかもしれないのだ。今すぐ確かめる必要がある。

 ただ魔人最強であるアクウィナスもいるので、おいそれと手は出せないだろうが。


「その通りだな。もし奴が本当に戦争を起こす気なら、その戦争に負けるわけにはいかん。これから情報交換は密に行っていくべきだな」

「はい。ではお急ぎを。アヴォロスの言う通りかは分かりませんが、先程こちらに向かっていた獣人の兵士が尋常ではない様子だったことから、何かあったのは本当のようですから」

「すまない」


 そう言うと踵を返したレオウードは皆に指示を与え始める。



     ※



「ヒ、ヒイロ様!」


 か細く甲高い声が耳に入って来たと思ったら、その主はミミルだった。

 その隣にはミュアにアノールド、そしてミミルの近くにはミミルを活発化させて大人にしたような女性が立っている。

 その四人がこちらに近づいてきていた。恐らく挨拶のつもりなのだろう。だが気になるのは初めて見る女性だ。


「あ、あのヒイロ様、その……お強かったです!」

「さ、さすがはヒイロさんです! ど、どうしたらそんなに強くなったのか知りたいです!」


 幼女が二人頬を染めながら目を輝かせて見つめてくる。


「そうは言ってもな、半年の成果だとしか言えんが……」

「いやいや、それにしても強くなり過ぎだろうがお前……。まさかレオウード様でも勝てんとはよぉ。もうバケモンだなこりゃ」


 アノールドが嘆息する態度がムカついたので、


「そういや、オッサン個人は負けたな」

「うぐ……で、でも決闘には勝ったぞ!」

「ああ、あのチビウサギのお蔭でな」

「うぬ……」


 しかし落ち込んだのはミュアも同じだった。

 彼女もまたイオニスに勝つことはできなかったのだ。

 アノールドだけを攻撃したつもりだったが、思わぬ飛び火を与えてしまったことに、日色も失敗したと思い頭をかいてしまう。

 仕方無く彼女に近づくと、トン……と、その額を指先で突く。


「だが成長したなチビ」

「ふぁ……ヒ、ヒイロさん……」

「それでもまだまだ力を使いこなせてないみたいだし、せめて精霊を出せるくらいまで強くなって見せろよ」

「……は、はい!」


 先程の落ち込みからは考えられないほど明朗とした表情が目に入って来た。


「もう……ミュアちゃんだけずるいです」


 そこへミミルが服の裾をクイッと引っ張ってきた。


「ちょ、ちょっとミミル!」


 初めて声を出した女性とそこで目が合う。すると何故か彼女は頬を赤く染めると顔をサッと背けた。


(何だ……?)


 そのような態度をされる理由が咄嗟に思い浮かばず眉をひそめてしまう。


(怒ってる? なら決闘絡みだとは思うが……)


 顔を赤に染めて目を逸らす理由としては、こちらに対して怒りを覚えていることしか思いつかなかった。

 恐らく獣王を倒し、結果的に『獣人族』の勝利を奪った相手に対して憤慨しているのかもしれない。

 それならばあまり接するのは良くないと思い、いらない波風を立てる必要も無いので彼女のことを考えるのは止めた。

 だがそこへ、アノールドが余計なことを言い始めた。


「あ、そういやククリア様のことってヒイロ知らなかったよな?」


 この空気の読めない親バカめと思いながら内心で舌打ちをする。

 せっかく触らぬ神に祟り無しで放置を選んだというのに、わざわざ遠ざけたものを目の前に差し出してくる。


「この方はククリア様と言って、レオウード様のご息女でミミル様の姉君だよ」


 考えていないことは無かったが、ミミルを呼び捨てにしていたことを考慮して、やはり王族だったかと得心した。

 そのククリアが何だか挙動不審な様子で、こちらをチラチラ見てはその場に居辛そうにしているので、やはりここに居るのは不愉快なのかと思っていると、


「ク、ククリア・キングよ! よ、よくもやってくれたわね!」


 ククリアがそう言って何故か握手を求めるように手を差し出してきた。だが彼女の言葉を聞いた限りだと、やはり怒りを露わにしていることが分かるのだが、それでも握手を求めてくるのはどういうことだろうか?

 すると彼女が失敗したという感じで青ざめる。


「あ、い、今のは違うわ! ワ、ワタシったら何言ってるのよ!」


 突然今言った自分の言葉を後悔し始めたので、思わず目をパチクリさせて見つめてしまった。

 ククリアの顔が今度は瞬時に茹で上がると、


「ご、ごめんなさい! あ、あなたに会えたら言わなきゃならないことが一杯あったのにワタシったら緊張してしまって……その……」


 シュンと耳を垂らして小さくなる彼女は、主人に怒られた子犬のように見えた。

 何だかこっちが苛めている絵になっているのではないか? 

 こういう時にこそ役立ってもらわないといけないアノールドは、こちらを見てニヤニヤしているし助けるつもりは無いらしい……どうやらまた『幻』を見たいということなのだろう。今度さらに濃厚なものをお見舞いしてやろう。


「……はぁ、ほら」


 仕方無くその場を早く収拾をつけるために手を差し出した。


「……え? あ……」


 無言を貫いていると、ククリアは意図を察して握手をしてきた。


「そ、その……強いのね君」

「まあな」

「フフ、そこは謙虚に返すのが普通じゃないの?」

「そんな言葉はオレの辞書には無い」

「アハハハハ、そうなんだ!」


 嬉々として頷くと、


「うん、でもまずはありがとう!」


 突然頭を下げてきた。

 一体何事かと思って固まってしまう。


「ミミルの声、取り戻してくれたのは君でしょ?」


 なるほど、彼女にとっては妹、家族を救ってくれたことに対して感謝したかったらしい。


「確かに治したが、無料ではないからな。アレは貸しだ、そうだろ青リボン?」

「はい!」


 満面な笑顔で肯定するミミルをククリアは見て、穏やかに笑みを浮かべる。


「ううん、それでも本当に嬉しかったの。だからありがとう」


 もう一度頭を下げるのを見て、少し気恥ずかしくなったので、


「別に気にするな」


 顔を背けて言う。

 するとそこでミュアが不安気な表情を作り見上げてくる。


「あ、あのヒ、ヒイロさん? その……怪我は大丈夫ですか?」

「問題無い」

「で、ですが動きがその……ぎこちないですよ?」


 ほう……と、ミュアの観察眼には舌を巻く思いだった。

 確かに怪我という怪我は無い。黒衣の奴に殴られはしたが、あのくらいならもう大丈夫だ。しかし《天下無双モード》のせいで体中かなりの筋肉痛が襲っている。それに疲労感も半端無い。

 それをできるだけ表に出してはいなかったはずなのだが、ミュアの目には不自然に映っていたのだろう。


「だから気にするな」

「そ、そうですか……。あ、あの一つ聞いてもいいですか?」


 まだ聞きたいことがあるようだ。少し言い辛そうな感じだが。


「何だ?」

「その……そちらの方はどなたですか?」

「そちら?」


 ミュアの目線を追うと、そこには――。


「……ん、俺?」


 ――カミュがいた。

 先程からずっと日色の傍に控えていたようだ。ジッと黙って佇む姿は、まさしく王を護衛する騎士のような感じである。


「二刀流のことか?」

「二刀流……あ、そう呼ばれているんですね。はい、そちらの女性の方なのですが……」


 そこでふと気になったワードが聞こえたので口を挟む。


「ちょっと待て」

「へ?」

「今何て言った?」

「え、えっと……そちらの女性の方……」

「違うぞ」

「はい?」


 困惑気に首を傾けている彼女に、軽く息を吐いてから答える。


「コイツは男だぞ」

「………………ん?」


 その声はミュアのものだったが、その場にいた全員がキョトンとなっていた。


「お、おいおいヒイロ、それは何の冗談だ? その子はどっからどう見ても女の子じゃねえか! しかも美少女っ!」


 指を差しながら喧しく騒ぐ。


「俺……女なの?」


 無表情でコクンと首を傾けると自分を指差して尋ねる。


「聞くな。男だろうがお前は」

「ん……そうだった。俺……男!」


 何故か自慢するように胸を張るカミュに呆れて溜め息が零れる。


「ホ、ホントに男……なのか……? こ、こんなに可愛いのに……?」

「そ、そうです! なんだかとってもずるいです!」


 アノールドとミュアがそれぞれ感想を述べるが、ミュア、ミミル、ククリアの顔がどこか安心感を感じているように頬が緩んでいる。


「……えへへ。可愛いって……ヒイロ」

「……それは良かったな」


 もう付き合い切れないと思って淡白に返答するが、カミュは照れているのか頬を染めながら顔を俯かせている。男がそんな反応でどうする。


「で、でも安心しました……ね、ミミルちゃん!」

「はい、そうですねミュアちゃん!」


 何をホッとしているのか分からないが、問題さえ起きなければそれでいい。


「おいお前ら、そろそろ国へ戻るぞ」


 ピコピコと長い耳を揺らしながら、相変わらず汚らしい白衣のポケットに手を突っ込みながら地面を鳴らしてララシークが近づいてきた。

 どうやら帰国の準備が整ったようだ。


「ヒイロ、我々も戻りたいのだが……」


 魔王イヴェアムも、獣王との話が終わったのか話しかけてきた。


「転移、できるか?」


 ここには日色の『転移』の文字でやって来た。まさか歩いて戻るわけにもいかないので、日色にもう一度『転移』の文字を使ってほしいと言ってきたのだ。

 無論これは戦う前から決めていたことなので、使うことに抵抗は無いのだが……


「悪いが今は使えん」

「やはり《反動》か? シウバ殿に聞いたが、まだ回復には時間が掛かるとのことらしいが」

「分かっているならもう少し待ってろ。あと少しで使えるようになるから」

「分かった。彼らにはそう伝えておく。使えるようになったら言ってくれ」

「ああ」


 イヴェアムは再び『魔人族』の者たちがいる場所へと戻って行った。


「ほらほら、さっさと行くぞ」


 ララシークに尻を叩かれるようにその場から移動させられるミュアたち。


「あ、あのヒイロさん! これからは、もっと会えますよね!」


 ミュアは必死な形相で尋ねてくる。その横でアノールドが不機嫌そうな顔をしているが無視しておく。


「もう盟友なんだろ? 許可さえあれば会いにくればいいんじゃないか」

「ミ、ミミルも会いに行きます! ですがヒイロ様もまた会いに来てください!」

「……好きにしろ。当分暇はできないからオレから行くのはずいぶん後になるぞ」


 何故ならこれから自分には《フォルトゥナ大図書館》に籠るという野望が残っているのだ。読み漁り尽くすまでどこかに出掛ける気はまったくもって無い。


「ヒイロ! いつかお前をギャフンといわせてやっからなぁ! そしてミュアは渡さねえっ!」


 親バカが怒鳴っているが、ララシークに足を蹴られて早く進めと急かされている。

 そしてククリアも、こちらに軽く笑みを浮かべて会釈すると、ミミルとともに去って行った。


 あと視界の端に映ったのだが、クロウチが泣きそうな……いや、アレはもう泣いているのだと判断できるが、プティスに首元を掴まれ引きずられていっている。

 多分こちらに挨拶でもしようとクロウチは思ったのだろうが、それをプティスに阻止されているようだ。


 まあ日色にとってクロウチは些か面倒な相手なので、付き合わずに済んだことに心の中でプティスに礼を言った。


「フニャァァァァァァ、ヒイロォォォォォォォォォッ!」


 何か聞こえたがきっと気のせいだろう。……そういうことにしておいた。





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