105:イオニスの真実
(う~使っちゃったよぉ……でもこうしなきゃ多分やられていたし……)
ミュアはこの技のリスクを考えて、つい使わされてしまったとイオニスを恨めしく見つめる。それと同時に、使ったのに大したダメージを与えることもできなかったことが悔しく思えた。
本来ならこの《迅雷転化》発動時に、近くにいる者をその放電の餌食にするのだが、イオニスはその過敏とも思われる反応速度ですぐさま危険を察知してその場から離れたのである。
少しは電撃が身体に流れたようだが、あれではほとんどダメージ無しと言える。まだ使い切れていない《転化》は、この発動時で相手を倒す予定だったのだが、その思惑が外れてしまい、ミュアはかなり戸惑ってしまっていた。
「それ……《転化》?」
イオニスから問いが放たれる。
「うん、まだ上手く使えないけど、全力でやるって決めたから!」
しかしレオウードのように全身を《転化》させているわけではない。上手く使えていないということから、一部分しか《転化》できないことを推測されたかもしれない。
「……こっちも本気なの」
イオニスの雰囲気がガラッと変わり、瞬間身体がブレる。そして気づいた時にはミュアの懐へとやって来ていた。
拳がミュアの腹に突き刺さる。しかもそれを見た獣人側から悲鳴が轟く。何故ならその拳がミュアの身体を貫いていたからである。
「……っ!?」
しかし一番驚愕に顔を歪めていたのはイオニスだった。
彼女の拳は間違いなく貫通しているのだが、腹からは血液らしきものが見当たらないし、それよりも明らかに手応えが無い様子だったのである。
――バチバチ……。
「《転化》っ!?」
先程は左肩の部分を《転化》して雷化したミュアだったが、今度は殴りつけられた腹の部分を雷化したのである。
それを察したのか、イオニスはすぐさま離れようとするが、ガシッと、彼女の腕が身体から抜かれないように両手でしっかりと捕まえた。
「逃がさないよ!」
もしここで逃がしたら、もう捕まえられない気がしたミュアは、磁気を流されるのを覚悟して雷化していない両手で彼女の腕を掴んだのだ。
「くっ!」
「これでぇぇぇぇぇぇっ!」
ミュアの全身から凄まじい放電が迸る。
「ああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
イオニスは身体に走った激痛に叫びを上げる。
ようやく彼女に目に見えてダメージを与えることができた。
ミュアは目を強く閉じて必死に力を振り絞る。このままイオニスを戦闘不能に持って行くまで歯を食い縛った。この好機は絶対に逃したくないのだ。
――ドガッ!
「あうっ!」
しかしそこへ突然ミュアの掴んでいる腕に《回迅》が飛んできてぶつかった。
そのせいで拘束から解放されたイオニスが、即座に全速力で距離を取る。
「はあはあはあ……」
「うぅ……」
息を乱しながら膝をつくイオニスと、腕の痛みに顔を歪めているミュア。翼化していた耳も、元の獣耳に戻っている。
(そ、そうか……わたしの腕に磁気を流して、あの武器を飛ばしてきたんだ……)
地面に落ちていた《回迅》を《磁気魔法》を使って、ミュアの腕へと引き寄せたのだ。動きを封じられていたイオニスが辛うじて反撃できる術だった。
ただ磁気を流したのは腕そのものではなく服なのだが。
(で、でもこれだけ冷静に対処するなんて……)
雷のせいで身体が痺れていたはずなので、動くことはできなかった。だからこそイオニスは武器を飛ばすという方法を使って、見事現状を打破したのである。
その冷静な対処にミュアは舌を巻くばかりだった。
しかも右腕に《回迅》が当たり、骨にもダメージを受けたのか、少し動かすだけでも激痛が走る。この決闘の間では、もう右腕は普通の状態では使い物にはならなくなった。
「う……ぐ……ビックリ……したの」
イオニスも、これ以上ないくらいの脱出を図れたが、それでも雷を直接受けてかなりのダメージを負っていた。
「だけど……これでイオの勝ちなの!」
すると地面に落ちていた《回迅》と、さらにミュアの武器である《紅円》がイオニスの方へ独りでに向かって行く。
そしてグルッと反動をつけるように彼女の周りを回ると、今度は物凄い速さでミュアへと向かってきた。
ミュアはその場から走って逃げようとするが、武器たちは追尾していく。
「無理なの! 磁気を帯びた武器はたとえ《転化》でも防げないの!」
彼女の言う通り、どれだけ逃げても武器は追って来る。
勢い余ってか、ミュアはガツッと躓きこけてしまう。
ミュアは攻撃を受けることを覚悟をし、腕をクロスしてガード態勢を整えて歯を食い縛る。
キンッ! キンッ! キィンッ!
刹那、ミュアの目の前に何者かが現れて、武器を弾いた。
「――ミュア、無事かっ!」
「おじさんっ!」
そこに現れたのは頼れるミュアの保護者であるアノールド・オーシャンだった。
突然ミュアの危機に出現したアノールドを警戒してイオニスはすかさず距離を取る。
「……あの人はハーブリードが相手をしていたはずなの」
イオニスはキョロキョロと、仲間であるハーブリードを探していると、
「すみませんイオニス!」
そこへハーブリードがやって来た。
「……ハーブリード」
「風で目眩ましを受けている間に、こちらに来られたようですね」
ハーブリードがアノールドを見ながら言う。
「ミュア、立てるか?」
ボロボロになったミュアと対戦相手のイオニスの姿を見て、ミュアがいかに頑張ったのかをアノールドは悟る。
「よく頑張ったな。あとは俺に任せてお前は……」
「ううん、わたしはまだ戦えるよ!」
「……けどお前……」
明らかにもう体力も限界にきているし、さらに右腕は相当の重傷を受けてしまった。とてもではないがこれ以上は危険だと判断するだろう。
だからアノールドはあとは自分一人で何とかしようと言ったのだろうが、ミュアは揺らぐことの無い瞳をぶつけた。
「助けてくれたのはありがとうおじさん。でもわたしは、もう守られるだけの存在じゃ嫌なの! だから……」
歯を噛み締めながら必死に立ち上がり、アノールドの横に立つ。
「今度はおじさんたちの隣で戦うんだもん!」
かつて、日色とアノールドの背中だけしか見ることができなかった弱い少女はそこにはいなかった。
痛みで立っているのも辛いはずなのに、前だけを見据えているミュアを見て、アノールドは何とも言えない表情を浮かべる。そして小さな声で「ホントに強くなったな」とだけ呟くと、
「分かった! なら師匠が相手を倒すまで粘るなんて言わねえ! 倒すぞ、奴らをっ!」
「うんっ!」
二人の覚悟はもう決まった。
「……どうやら怪我を負っているからといって手加減などできそうもありませんね」
「最初からそのつもりなの」
ハーブリードはミュアたちの覚悟を感じて身を引き締める。
「ミュア、俺たちのコンビネーションを見せてやろうぜ!」
「うん! 最後の力で援護するから!」
そう言うと、ミュアはギリギリと歯を鳴らし苦痛に耐えながら、両手を上げる。
「――《雷陣空激》っ!」
ミュアの両手からシャボン玉がポコポコと生まれ出る。そして上手いことにアノールドを避けて敵に向かって行く。
「ハーブリード、アレに当たると危険なの」
「分かりました。ならば、シャドウボウ!」
ハーブリードが飛んでくるシャボン玉に向けて黒い矢を放ってくる。矢がシャボン玉に当たると、矢を包み込んで放電現象が起きて動きを止める。
「なるほど、これは迂闊に近づけないということですか」
「アレを使ってほしいの」
「アレですか? 確かにアレなら二人纏めて攻撃できますが、僕の魔力はほぼ空になりますよ?」
「問題無いの。その隙に必ずトドメを刺すの」
「……分かりました。では……」
ハーブリードが一歩後ろへ下がり、両手を天高く上げた。すると彼の身体から大量の青白い魔力が上空へと昇っていく。
「何だ?」
アノールドも、ハーブリードの行動に疑問を感じたが、動かないなら好都合だと思って、先に目の前のイオニスに攻撃を加えるために間を詰める。
「おじさん気を付けて! 彼女に少しでも触れたら磁気が流されるから!」
「んなもん関係ねえ! 全力でたたっ斬るっ!」
アノールドは彼女目掛けて大剣を振り下ろす……が、イオニスの身体を勝手に剣が避けて、彼女の足元にいつの間にか戻って来ていた《回迅》に衝突することになった。
「その剣はもう磁気を流してるの」
ミュアを助けた時に武器を弾いたせいで、アノールドの剣はもう彼女の思うがままに陥っていた。
「ちっ! ならこれだぁぁぁっ!」
――ブオォォォンッ!
突然アノールドを中心にして風が巻き起こる。
「ふぬぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
今度は《回迅》ごと剣を振り回してイオニスに襲い掛かった。彼女もその攻撃に虚を突かれて、咄嗟に上空へとジャンプして逃げる。
「逃がすかぁっ! ――《風陣爆爪》ぉぉぉぉっ!」
上空へ向けて無数の風の刃が放たれる。
「くぅっ!」
イオニスは予想外な攻撃にガードを固めるが、体中に傷が生まれていく。プツンと、彼女のアイマスクの紐も切れてしまう。スタッと彼女は地面へと降りると、ハラリとアイマスクが地面に落ちて、それまで確認できなかった彼女の目が露わになる。
「イオニス!?」
それを見ていたハーブリードも思わず叫んでしまう。そしてイオニスもまたアイマスクが外れたことに気がつき、
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
突然手で両目を押さえて蹲った。彼女の様子に、ミュアたちも呆気にとられて固まっている。それを見ていたハーブリードは慌てたように言葉を発する。
「くっ! 仕方がありません!」
すると上空に巨大な魔法陣のような模様が出現する。
ハーブリードは上空へ掲げていた両手をバッと下に向けて下ろした。
「――――アラム・シュトラムッ!」
ハーブリードの言葉で、魔法陣から何かが地面へ向けて落ちてくる。それはよく見ると、黒い剣であり、黒い矢であり、黒い斧であり、黒い槍など様々な武器だった。
数多の武器が雨のようにその場に降り注ぐ。いや、正確にはミュアとアノールドがいる場所にだ。
「な、何だとっ!?」
アノールドはとんでもない数の攻撃にゾッとした表情を見せる。
これはたとえ全身を《転化》できたとしても、あれほどの数の攻撃を受ければ一溜まりも無いだろうから。何よりここには彼が守るべきミュアがいるのだ。
しかもミュアは先程の《雷陣空激》で力を使い果たす寸前である。
「おじさん! まだだよっ!」
「ミュア!」
「まだ全部出し切っていないからぁっ!」
するとミュアの獣耳が再び翼の形になり、バサバサッとはためかせる。そして物凄い速さで、アノールドの隣に立った。
「おじさんっ!」
「くっ! ああもう分かったよ! こっちも全開だぁっ!」
二人の体がそれぞれミュアは青紫色、アノールドは薄緑色に変色していく。
「――《迅雷転化》ぁぁっ!」
「――《爆風転化》ぁぁっ!」
二人の変化を見たハーブリードが叫ぶ。
「まさか! 二人とも完全な《転化》をっ!?」
全身を《転化》できないと推測していたのが外れたせいか、驚きに包まれている。
そんなハーブリードをよそに、まずミュアが動いた。
「お願いっ! 身体っ、もちこたえてっ! ――《雷陣空激》ぃぃぃぃっ!」
ミュアの全身から先程とは比べものにならないほどの数のシャボン玉が生み出され上空へと向かって行く。
そして何とか落ちてくる黒い武器たちの動きを止めるが、
「長くもたないよおじさん! 決めてっ!」
「任せろっ!」
アノールドは跳び上がり、そして体を回転させ始める。
「これでどうだぁぁぁっ! ――《荒尽の嵐怒》ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
アノールドを中心にして、天をも貫くような巨大な竜巻状の風の渦が生まれ、魔法陣ごと飲み込まれていく。飲み込まれた武器たちは、風の刃に切り刻まれ霧散していった。
「……そんな馬鹿な……!?」
ハーブリードは蹲っているイオニスを庇いながら、目の前で起きている現象に吃驚していた。
しらばくして竜巻が消えて、上空からアノールドが落ちてくる。彼はドサッと地面に落ちると、
「痛ててて……くそぉ、やっぱまだ慣れてねえし、もう身体ガタガタじゃねえか……」
激しく息を乱しながらも、同じように疲労感を露わにしているミュアのもとへ、力を入れて立ち上がり必死な形相で向かって行く。
「だ、大丈夫か……ミュア……」
「う……うん……だけどごめん……もう身体が……」
ミュアもすべての力を使い果たしバタッと地面に倒れる。それを間一髪でアノールドが支えるが、彼もまた膝を折り顔を歪める。
「……正直驚きました。あなた方の底力は大したものです」
そんなハーブリードの称賛を耳にするが、
「へっ、俺たちはもう動けねえ。けど、ミュアには手を出さないでやってほしい。やるなら俺をやれ」
その言葉を聞き、ハーブリードはクスリと笑う。
「見縊らないで下さい。もう戦えない者をいたぶる趣味は僕にはありません」
先程の魔法で魔力はほぼ空になってはいても、動けないアノールドたちを殺すことは簡単だろう。だがもう戦闘意思の無い者に攻撃を加えるほど愚かではないとハーブリードは言う。
「それに、イオニスを放ってはおけません」
いまだに顔を隠して蹲っているイオニスの肩に手を置いている。ミュアも彼女が気になり、気を抜くと意識を失いそうになりながらも口を開く。
「ど、どうしたの……イオちゃん?」
だが彼女は小さい声で「嫌なの嫌なの嫌なの嫌なの」と繰り返すだけで答えてはくれない。
見かねたハーブリードが、軽く息を吐いて答える。
「イオニスの目には、大きな傷があるのです」
「え? 傷?」
「ええ、傷です」
アノールドはそれだけ? と言いたいような感じで視線を向けていたので、ハーブリードは苦笑を浮かべて答える。
「あなた方には、理解できないかもしれませんが、イオニスはこの傷のせいで疎まれてきました。しかもこの傷を作ったのは……いえ、これ以上語るのは不作法過ぎますね」
ハーブリードはそう言って話を終わろうとした時、
「水臭いよイオちゃん!」
突如ミュアの叫びが響いた。そして今まで呟きながら震えていたイオニスの動きがピタリと止まる。
「わたしが傷を見て何か悪口でも言うと思ったの!」
皆は黙ってミュアの言葉に耳を傾けている。
「確かにわたしたちは敵同士で、こうやって戦ったけど、わたしは楽しかったよ! 必死だったけど、イオちゃんと全力で戦えて嬉しかったもん!」
ミュアは苦痛に顔を歪めながらも歩伏前進をしてイオニスに近づく。
「ほとんどの人たちは、獣耳とか傷みたいに見た目で勝手に判断するけど、わたしたちはそうじゃないよ! だって、こうやってお互いに全力でぶつかったんだよ?」
ミュアはイオニスの目の前まで来て思ったことを叫びにしている。
「だから勝手に判断しないで。わたしがイオちゃんの傷を見て悪いことを言うような人物だって、そんな悲しいこと思わないで」
「……だって、みんなはこの目を見て気持ち悪がるの」
そこでようやくイオニスから声が聞こえてきた。
「うん、だけどそれはイオちゃんが悪いわけじゃないよね? 悪いのはイオちゃんのことを知らない人たちの方だよ」
戦ったミュアは何となくだが理解していた。彼女の心がとても純粋で綺麗だということを。
「ミュア……」
「だから……ね? 見せてみてイオちゃん?」
「……やだ! やっぱり怖いのっ!」
「…………大丈夫だよ」
ミュアは努めて優しく声をかける。
「だってわたし、敵同士だけど、イオちゃんのこと好きだもん!」
その言葉を受けてイオニスは体をピクリと動かせる。
「イオちゃんは……好きになってくれない……かな? それとも種族も違うし、敵だから友達にはなれない?」
「……ともだち?」
「うん、友達だよ」
「…………いいの? ミュアを傷つけたのはイオだよ?」
「だからこうして分かり合えたんでしょ?」
「…………」
「だから……友達になって下さい」
イオニスは目を押さえていた両手を震えながらも外し、ゆっくりと顔を上げてミュアを見つめる。
「ほら、やっぱりこうして目と目を合わせた方が一番だよ」
ミュアは満面の笑みを浮かべている。イオニスの両眼には大きな火傷があり、確かに女の子としては、他人に見せることに躊躇してしまうものであることは理解できる。
「それに、とっても綺麗な目してるよイオちゃん」
見えないわけでは無かったのだ。彼女は火傷を隠すためにアイマスクをして、それでも戦えるように血の滲むような努力をしてきただけの話だった。
とても美しい翡翠色の瞳が、大きな目の中に収まっていた。ミュアはグッと身体を起こしてニコッと微笑む。
「隠すなんてもったいないよ」
「う……うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
イオニスは目に一杯涙を浮かべた瞬間、ミュアに抱きついて泣き始めた。ミュアは優しく彼女の頭を撫でる。
そして泣き終わったイオニスは、頬を染めながら顔を背けていた。どうやら今度は泣いてしまったことに羞恥を感じているようだ。
「あは! イオちゃん可愛い!」
「むぅ……ミュアはイジワルなの」
そんな二人の様子を見ていたハーブリードは目を大きく見開いて感嘆していた。
「それにしても驚きました。あのイオニスがこうも簡単に心を許すとは」
「簡単じゃねえよ」
「え?」
「ミュアだからこそできたことだ」
「…………」
「あの娘は、人の痛みを自分のことのように感じることができんだ。だからあの娘の言葉は心に入ってくる」
「……そうですか。なるほど、あなた方が、我が国の英雄の友人であることに納得がいきました」
「は? 英雄?」
「ええ、ヒイロ殿です」
「ぶほっ! ヒ、ヒイロが英雄ぅっ!?」
思わずアノールドは噴き出してしまった。
「な、何です? 何か変ですか?」
「い、いやまあ、そりゃなあ……」
日色と旅をしていた間柄としては、彼がとても英雄と呼ばれるような人物ではないことを知っているアノールド。
どこの世界に食べ物と本さえあれば、喜んで戦争にも参加する英雄がいるのだろうかとアノールドは頬を引き攣らせている。
「あ、そういやそのイオニス……だっけか?」
突然の声にミュアたちは視線を向ける。
「どうしたのおじさん?」
「いやな、その傷だけどよ、アイツなら治せんじゃねえか?」
「……あっ!?」
ミュアも思いついたようにハッとなる。
「そうだよイオちゃん!」
イオニスの両手をとって喜びを表す。
「イオちゃんのその火傷、ヒイロさんならきっと治せるよ!」
「え? ヒイロって……英雄の?」
「英雄?」
「そうそう、その英雄様だ」
ミュアが首を傾げたのでアノールドがフォローした。
「ヒイロなら、多分元の綺麗な顔に戻してくれるはずだぜ」
「うん! わたしからも頼んであげるよ!」
「…………ほんとに治るの?」
実は今まで医者には治療を頼んでみたが、どれも効果は無かった。だから諦めていたのだという。
「大丈夫! ヒイロさんはすごいんだから!」
「というより規格外で論外で圏外で化け物だ」
その時、アノールドは誰かの視線を強く感じて寒気を感じたような顔をしたが、気にするのも怖かったのか無かったことにしたようだ。
「だから一緒に頼もうイオちゃん!」
「……ほんとに治るなら……治したい」
「……あ、でも対価を用意しなきゃなぁ……」
その時、アノールドの背後から声が届く。
「それならばご安心を。美味しいお料理でもご馳走なされば、きっとヒイロ様はお力をお貸ししてくださると思いますよ?」
「うわおっ!」
アノールドは、ビックリして悲鳴を上げた。そしてその驚きを与えた人物を確認すると、そこにはシウバがいた。
「ア、アンタなんでここに?」
するとにこやかな表情でシウバは口を動かす。
「いえ、もう第二回戦が終わりましたのでご報告にと」
「……え?」
彼の言葉の意味がすぐには理解できずに皆が固まる。




