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【第一章・完】婚約破棄された悪役令嬢は冒険者になろうかと。~指導担当は最強冒険者で学園のイケメン先輩だった件~  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
二章・多忙な学園の始まりは、恋人と。

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76 闇に葬られた光の謎。



 ()()()()()()()

 皮肉な言葉だ。


 闇属性持ち、または魔族を、拒むような光魔法があったなら、歴史から消されている。


 賢明な判断だ。

 偏見による差別で争っていても、なんの得にはならないし、命が無駄に消え続けるだけ。


 500年前に、争いを止めた英雄達は、正しいことをした。


 さもなくば、魔族も、闇属性持ちも、迫害されるような世界になっていたかもしれない。



()()()、か……」

「はい?」


 重たい沈黙のあと、大叔父様が口にした。


「ほら、ルクト君が言っていただろう? ()()()()()()()()って。君ならやろうと思えばやれてしまうとは思ってはいたが……」

「いえ……そんなつもりは……」


 ルクトさんが言い出したことだ。

 この新薬を開発したあとに、魔導道具を前世の知識も活かして、新開発案を話していれば、画期的すぎると思わず言ったのだった。


 新薬は激震をもたらすとはいえ、『ポーション』の真相はどうするべきか。

 もちろん、万人を愛する女神の名の下で万人を癒すべき神殿で、差別する『ポーション』を作り続けるのは間違っている。

 やめさせるべきだが、方法は穏便がいい。そう決まっている。


「わかっているよ。原因を究明しなければいけない。隠密にね。隠密行動に長けた人材も、大抵は闇魔法の使い手だから、神殿で調査が出来ないのは痛いな」


 冗談まがいに、大叔父様は苦笑を零す。


 隠密行動に長けた人材。

 王室の影のことか。


 諜報活動に向いている闇魔法の使い手の集まりなのだろう。

 が、しかし。

 闇魔法の使い手だからこそ。神殿には行けない。

 長時間、その場で活動なんかしていれば、体調不良が悪化して、密かな行動を続けらないだろう。


「王室でも話し合うが、表沙汰にすることなく、密かに対処したいものだ。戦争なんてごめんだからな。ルクト君、よく明かしてくれたね。いつかは発覚して大事に発展しかねない”嫌な秘密”だ」

「いや、オレを褒めなくてもいいですよ。リガッティーに尋ねられて、気まずいながらも答えただけです。リガッティーも嫌な秘密だとわかってはいましたが……すぐに()()()()()()と、この新薬を開発させるために行動してくれたんです」


 大叔父様がルクトさんに声をかけたかと思えば、念のために出していた新薬の小瓶を摘み上げて、ルクトさんは笑って見せた。


「ルクト君のため?」

「オレの怪我を治す治癒薬が必要だって。そう言ってくれたリガッティーに、()()()()()()()()()()()()()

「……なるほど。『ポーション』が効かないルクト君が、怪我をした時のために、必要な治癒薬が欲しかったのか」


 いや、その通りだけども。

 二人して、こちらを生温かい目で見ないでほしい。

 ルクトさんは、何を言っているんですかっ。


「ルクトさんほどの冒険者が怪我をするなんて、相当危険な状況下でしょうから……想像するだけでもゾッとするじゃないですかっ。だから、ルクトさんのためにも、と思い……」

「うんうん。オレのために尽くしてくれたんだよな? オレへの優しさの結晶? そういえば、名前決めてないよね。”リガッティーの優しさ”にしておく?」

「ちょっ! 冗談でもやめてくださいよ! 恥ずかしい!」


 言い訳がましい言葉を出す私の頭を、髪型を崩さないように撫で付けたルクトさんが、別の意味でゾッとすることを言い出したので、止める。

 そんな名付け! やめて!

 優しさの結晶とか! やめてください!


「はははっ。見せ付けてくれるね」


 微苦笑ながらも、笑い退ける大叔父様。


「『ポーション』は別案件として、王室でも極秘で調査しよう。先ずは、あの問題の令嬢の光魔法による、リガッティー君の被害だが……テオ達になんとしても情報を掴んでほしいものだ。一応、調査報告書をまとめさせておこう。『ポーション』案件の手掛かりになるかもしれない」

「それならば、すでに頼んでおいています。始めてもらう前から、こうなると思いまして」

「うむ、流石だ。新薬の発売は、このまま慎重に進める。『ポーション』とは関係なく、画期的な新治癒薬として、発表しよう」

「そうですね……それがいいですわ」


 私のために危害を加えかねない光魔法を調べているが、神殿の調査で得た情報は、報告書としてまとめてもらうことは指示済み。

 手掛かりが、得られるかもしれない。


 いや、原因はなんとしても解明するべきこと。


 そうして、魔族を拒む『ポーション』を闇に葬るのだ。


「んー……いっそのこと、あの令嬢を実験に使おうか? どうせ死刑は確定したようなものだから、執行までにいい思いをさせてやる代わりに、妙な類の光魔法について解明する手伝いをさ」


 大叔父様が、とんでもないブラックジョークを笑いながら言い出した。


「……冗談、だよね? リガッティー」と、ルクトさんが、コソッと確認してくる。


 王族殺害未遂の大罪人ではあるけれど、強い光魔法の使い手を、死刑執行までの間に実験に付き合わせるのは……かなりブラックだ。

 冗談でも笑えません……大叔父様……。


「もうあんな令嬢に手を焼いている場合ではないね。すぐに裁判を(おこな)って、刑罰の確定を言い渡してしまって、時が来るまでは閉じ込めて放っておいてしまえばいい。神殿で意図的にやっているか否かで、立ち回りが違ってくる」

「その裁判……神殿の大神官長も、参加なさるのでしょう? 王室に関わる重大犯罪ですから、大神官長の参加は必須のはず」

「その通りだよ。しかし、これを機に探りを入れるのはなんとも、なぁ」


 神殿の最高責任者も、裁判に立ち会う。

 いい機会だと探りを入れていいものか。難しい。


「その裁判、第一王子が不参加になる予定だそうです。だから、リガッティーの参加も、拒否出来る大義名分になるじゃないですか」

「そうだった。ミカエルを呼び続けているし、ミカエル自身も拒否しているから、立ち会いは免除する方向らしい。まったく。それなら、リガッティー君への配慮を考えてほしいものだね」


 やれやれと、大叔父様はこめがみをもみほぐす。

 まったくだ、とルクトさんも肩を竦める。


 王族を優先することに呆れ果てている様子。

 だって、王族だもの……。


「王妃様も、話を聞いてくださって、不参加に出来るように言ってくださるそうですわ。昨日私の両親も国王陛下に直接ご相談したのに、聞いていないと王妃様も少々怒っていらしてましたね」

「昨日? ファマス侯爵夫妻への正式な謝罪は、昨日だったかい?」

「あら、ご存知なかったのですか。情報制限は徹底してくれている証拠でしょうか。昨日は冒険者ギルドと調査機関と一緒に、私の両親がとある功績についての報告とお願いをしに行ったのですわ」

「……()()()()()()()?」


 少々身構えた怪訝な顔で、大叔父様が問うから、苦笑してしまう。


「明日の朝、号外で公表しますが、私とルクトさんの名前は伏せてもらうことになったのです。侯爵令嬢の冒険者活動を伏せるためにも、恋仲になっている冒険者とともに、名前を公表しないように尽力してもらいたいとお願いをしました」


 大叔父様は、肝心の功績とやらを、黙って待つ。



「『ダンジョン』で、下級ドラゴンを討伐しました」

「……遭遇、してしまったのです……」



 ルクトさんがケロッと言い退けたあと、私は力なく付け加えた。


「…………何故……」


 大叔父様は、額に手を押し当てる。


「私達では、調査は出来ませんでした。巨大すぎる下級ドラゴンが通った道を進んでみたのですが、地中深くの場所で、長距離で崩壊してしまって通れない状況でしたので。今朝にはもう、調査チームの一部が出発しています。大掛かりに調査をしていくそうですよ。次から次へと……今年の春から、王室も、てんてこまいですね……」

「う、うーむ……身内の不祥事から始まったようなものだから、どうにもあやつが、不吉を招いたとしか思えんな」

「それは、流石に……可哀想です。でも、()()()()()と言うなら、喜んで()()()()()と言ってやりますわ」

「あははっ!」「プハハッ!」


 第一王子の婚約破棄騒動から始まってしまい、王室は慌ただしくなっていたのに、不穏な『ポーション』と、そして『ダンジョン』に巨大な下級ドラゴンの出没と、立て続けに問題が押し寄せてきた。

 ドドーンッと、問題ではなく、大問題だ。



 どう考えても、私が全て関わっているので、私が持ってきた大問題、と言われてはおしまいだけれど。

 それならば、第一王子が婚約破棄騒動でスタートさせたせいだと、責任転嫁してやる所存。


 第一王子が私を裏切った報いとして、王室に不吉な大問題が押し寄せてきたのだ。


 と、声高々に言ってやろうぞ。



 真顔で言い放てば、大叔父様もルクトさんも、笑い声を上げた。



 まぁ、結局は、ただの言い掛かりでしかない。


 偶然だ。同じ時期に発覚して、対処するために動かなくては行けなくなっただけ。

 不運にも、重なってしまっただけのこと。


 遅かれ早かれに発覚しかねなかった『ポーション』については、こうして発覚した方が、不幸中の幸いだ。


 下級ドラゴンの異常な出現についてはわからないが、それも調査でわかるはず。


 不吉だと嘆いていないで、対処するために動くのだ。



「オレが訊いていいわけがないでしょうが、裁判の準備は進んでいますか? 予定はまだ決まっていない? 春休み中はないですよね?」

「進んではいるが、春休みはないだろう。どうしてだい?」

「あぁーいえ。ちょっと、予定が決まっているんで。特に明後日は、リガッティーの両親に挨拶するという大事な予定が入っているんで、急遽は困るんですよね」

「おやおや……それは大事だ。だが、急には決まらないだろうから、安心して、()()()()()()()といいよ」


 急遽、裁判が(おこな)われることはない。

 傍聴もとい立ち会いには、重臣の貴族が揃う。さっき言ったように、神殿の最高責任者もだ。

 前もって、日にちは決まって、知らされるだろう。


 王妃様からも聞いていないので、今から二日後に、開かれることはない。



 大叔父様がニヤリと意地悪気な笑みで言うから、ルクトさんは苦笑いを返す。


 なんだかんだで、二人の仲いい気がするのは、気のせいかしら……。



「その我が両親ですが、この件を話しても大丈夫でしょうか? 王室でも極秘調査するとのことですが、新薬についても、『ポーション』の問題についても」

「ファマス侯爵夫妻なら、大丈夫だ。ネテイト君だって、信用する。どこまで情報を伝えるかは、君の判断に任せるさ。『ポーション』の調査の方は、王室の指示で慎重に進めるが、テオやネテイト君には、別の動きをしないように注意してもらおう。新薬の発売は、来月末を想定しているんだが、その前に調査を進めたいため、テオ達の調べ物で警戒されないようにしたい」

「わかりました、注意しておくように伝えます。しかし、新治癒薬の発売によっても、警戒されないでしょうか?」

「そこも慎重に見極めておくよ」

「わかりました」


 家族にも、新薬について、そして新薬開発の動機による、不穏な『ポーション』について、話す許可をもらえた。


 それから、少しの情報整理をして、話を終わらせる。


 早速、大叔父様は、王室へ重大案件として、報告を持っていくそうだ。

 昨日の今日で、てんてこまいね……王室。


「頼ってくれてありがとう、リガッティー」

「! ……頼りにしてますわ、大叔父様」


 ありがとう、と言われるとは、変な感じだ。

 一番多くの時間を過ごしてきた王妃様ではなく、大叔父様を頼ったことに、嬉しくてお礼を言ったのだろうか。

 正確には把握出来ないけれど、私は頼っているという事実だけを答えて、笑みを返した。


「じゃあ、ルクト君。せいぜい、頑張りたまえ。()()()()()()()()

「はい。()()()()()()()()()()()


 また意地悪に言うから、ルクトさんも苦笑いながらも、強気で言い返す。

 やはり、仲いいのでは。



 ミッシェルナル王都学園での用事が済んだ。

 門を出て、馬車まで行くと、ちゃんとイーレイ達が待機していた。


「オレはここまで。冒険者ギルド行って、手紙を確認する!」

「ああ。例の、ですね。返事が来ていたらどうするんですか?」

「……届けるべき? めちゃくちゃ気になるから、オレ読んでいい?」

「んー。特に読んで困ることはないので、いいですよ。いい話なら、明日会ってすぐに口頭で教えてくださいね」


 ルクトさんは、魔導道具職人からの手紙を期待して、冒険者ギルド会館へ寄ってから帰るとのこと。


 別に読んでくれても構わないので許可を出せば、ルクトさんは無邪気な笑みを零してくれた。


 ルクトさんのエスコートで馬車に乗り込んだけれど、ルクトさんが手を放さない。

 そう思えば、ちゅっと手の甲に口付けをされた。


「明日、冒険な」

「……はい。冒険ですね」


 ルビー色の瞳を細めて、微笑むルクトさんに、私も微笑む。

 遠出冒険の『ダンジョン』以来だ。

 そして、冒険者活動を認められて、初めて。

 9日目の新人指導。



 ルクトさんに軽く手を振って、馬車で移動。

 ジトッと、イーレイが向かいの席から見てくる。


「何?」

「……手紙の管理は、わたしの役目では?」

「あ……。そんな嫉妬しなくても」


 不貞腐れ気味なイーレイに、私は笑ってしまう。

 説明をしておかないとね。


 通信具の耳飾りから始めて、魔導道具職人のエリートチーム『ネロウスワン』から意見を求められていると話した。

 部屋にも手紙があるから、それを読んで把握してもらう。


「それはまた腕が鳴りそうです!」と、イーレイはやりがいの予感を察知。機嫌はコロッと直して、息巻いた。



 ファマス侯爵邸に、帰宅。

 イーレイの部屋を用意させて、楽なドレスに着替えてから、お父様の執務室へ、今日も集合。


 イーレイを軽く紹介して、正式に雇用契約を交わした。



 お母様から、今日のお茶会から得た情勢を聞く。

 まだ半信半疑な夫人達に、婚約解消が成立したという報告したとのことだ。

 明日、登城することも話した。

 第一王子の今後については、何も言わず、私の次の縁談はどうなるかの質問も、かわしたそうだ。


 大して、予想とは変わらない。


 明日の『ダンジョン』の下級ドラゴンの発表には、ファマス侯爵邸の者達は、素知らぬ顔をすると、通告済みだそうだ。


 私も、今日は王妃教育により知った秘密は、口外出来ないように契約を済ませたことを報告。


 それから、ディベット大叔父様との新薬の事業について。

 ちゃんと味は不味いが、改良版の試供品を出して、見せた。


 サクッと軽く大商会の名前と、生産の用意が進んでいて、四月末には各地で発売を開始する想定で動いていると話す。

 

 『ポーション』に代わる、新治癒薬の開発。


 家族一同は、言葉を失った様子。


「去年、レインケ教授から声をかけてもらってよかったです。私の魔力操作がカギとなるみたいで……今後も、役に立つそうですわ。ルクトさんのためでした……。思いの外、『ポーション』と同等の効能になってくれて、激震を走らせる新薬になったわけです」

「ルクトさんへの想いのおかげ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「お母様……ルクトさんへの想いなのは、否定しません。彼が心配で……。脚をがぶりと噛まれて、負傷した彼は、幸い噛み千切られなかったおかげで、自力で帰って、時間をかけて治療したそうです」

「一人暮らしだったわね…………それは心配でもあるわね」

「『ポーション』が常備出来れば、そんな心配も軽減ですよね……。彼ほどの冒険者が負傷した状況は、想像を絶しますね」

「自分、昨日リガッティーお嬢様に頼まれて買いましたけど……やはり、信者の目が酷かったですよ……痛いのなんのって」


 お母様のあとに、リィヨンとスゥヨンが頷いて見せた。

 苦々しく、信者が健康そうな購入者には、厳しい目を向けると愚痴を零す。


「そこは問題じゃないの。ルクトさんは『ポーション』を受け付けない体質なのです」


 理解が出来ないみたいに、お父様達は怪訝な顔をした。


「……ルクトさんの祖母も、『ポーション』を受け付けず、吐いたそうです。彼女は、魔族のハーフだったとか。人づてで、他にも『ポーション』を受け付けない方がいたとか」

「……魔族? 魔族が原因なのか? 闇魔法の使い手のせいでは? 問題の光魔法と何か関連が?」

「先程、大叔父様の前で、私もルクトさんも飲んで確認しました」

「ちょっ! そのために『ポーション』を買わせたのですか!? 確認なんて! 無茶をするために!?」

「大丈夫だったわ。私は。……ルクトさんは、吐きました」


 スゥヨンが血相掻いた顔で覗き込むから、私は大丈夫だと掌を見せる。

 ルクトさんが、本当に『ポーション』を拒絶する体質だと確認した。


 そして、大叔父様と話したことを伝える。


 ネテイトとスゥヨンにも、『ポーション』については無用な詮索はせず、引き続き、光魔法について調べてほしいと頼んだ。

 深刻な話に重い空気になったが、王室が極秘で進める案件。

 むやみに手を出さず、要請された時には手を尽くそうと、お父様が締めくくった。

 それまでは、不穏な『ポーション』のことには触れないと、決定。



 改めて、イーレイの紹介を、侍女長に任せておく。歳の近い貴族令嬢同士で、侍女仲間と顔見知り。あとは、使用人一同と顔合わせだが、それは後回しにして、着手が出来る作業から始めてもらった。

 手紙の確認。軽く交友関係の把握のための質問に答えて、急ぎの対応の仕方を決めた。

 まだ当分は、新人指導を受けての冒険者活動があと21日あるため、遠出による不在の予定は今のところない。

 学園生活も、再開するので、忙しくなるのは、ジュリエットの光魔法ぐらいだ。スゥヨンから調査結果を知りたいから、あとで報告書をもらうとのこと。

 新薬についても、書類を渡して頭に入れてもらい、さらには冒険者の衣服についての話をして、その日を終えた。



 翌朝。


 私は、冒険者の服装に着替えた。

 いつもなら、乗馬や剣術のための運動用のズボンスタイルで出掛けて、冒険者ギルド会館に行く前の店の化粧室を借りて、冒険者活動用に買った服に着替えていたのだけれど、隠すな方針のお母様から「見せなさい」と言われてしまったので、自分の部屋でお着替えである。


 白と赤のタンクトップの重ね着と、ベージュ色の短パンとダークブラウンのベルト。

 今日は春用コートのようなジャケットを、上に着た。お尻側の短パンがちょうど隠れるぐらいの丈で、剣を携えても、抜き差しに支障はないよう、サイドに切れ目がある。

 そして、黒いニーソ。短パンからはみ出る太ももを、絶対領域を残して包む。

 少し踵が上がった厚底ブーツは、ダークブラウン。


 間違いなく、貴族令嬢には見えない格好。いや、貴族令嬢は、先ず着ない服だ。


 賛否両論だった。


 お母様は平然と観察していたが、侍女長と侍女組、メイドの半数近くは、崩れ落ちる。

 お仕えしているお嬢様の貴族令嬢らしかぬ服装によるショック。

 イーレイもショックを受けた様子だったが。


「狼狽えてはいけません! わたし達は、このリガッティー様を受け入れるべきなのです!」


 なんとか崩れ落ちることは堪えて、理解を心掛けた。

 イーレイ……出来る女である。


「リガッティーお嬢様は、素敵ですので、全然はしたなくありません!」

「むしろ、目に保養では!?」

「お手入れしていて常に思っていましたが、やはり素晴らしすぎる体型です!」

「惜しみなく出されると、ドキドキします!」


 というのが、肯定的なメイド達。


「そう! リガッティー様は、ただの貴族令嬢ではなく! 冒険者となるのです! 冒険者のリガッティー様を! 受け入れるのです!」


 頑張って受け止めようとしているイーレイ。


「素敵よ。リガッティーの素晴らしさを惜しみなく出しているだけじゃない。下品さがないのは、リガッティーが元から気品に溢れているからかしらね。あなた達、リガッティーは女冒険者のファッションリーダーになるのだから、否定的に見ず、理解するように。納得いかないなら、進言しなさい。今後、リガッティーの役に立つのだから」

「では、リガッティー様の冒険者服についての意見などは、わたしにお伝えください」


 お母様がきっぱりと言ってくれるし、メイド達もうんうんと声援代わりの頷きを見せる。

 イーレイは、挙手をして注目を集めた。

 否定的な侍女とメイド達に詰め寄られながら、メモを取っていく。


「いってきますわ」


 見送りは断り、玄関扉だけを開けてもらい、出掛ける。


 玄関前で待機していた騎士が目をひん剥く反応をしたが、まぁまぁ、と手を振って宥めた。騎士なら、平然でいましょう。



 ルクトさんは、時間通りにファマス侯爵邸の門の前にいた。


 今日は両親が在宅中ではあるが、明日が正式な挨拶をする日と決まっているので、敷地内に入らず、門の前まで迎えにくることにしたのだ。


 開かれた門の門番の任についた騎士二人と談笑しているもよう。


 視線の先に瞬間移動が出来る無属性の魔法【テレポート】で、手前まで移動した。



「リガッティー! おはよう!」


 ルクトさんは、ぱあっと明るい笑みで両腕を広げる。遠慮なく、ルクトさんの腕の中に飛び込んで、抱き付く。


「冒険者リガッティー。なんか、久しぶりに感じる。その上着は、初めて見る」

「メアリーさん達との買い物の時に買いました」

「へぇ。似合うね。青髪なのは、残念」


 やっぱり、気付く、イケメンさん。


 今日はまだ素では冒険者活動の許可は出ていないので、髪は【変色の薬】で鮮やかな青色に変えていた。

 その髪を、後ろで三つ編みにしてもらっている。



 すると、ルクトさんが、ギュッと抱き寄せてきた。

 力強くて、キツすぎるくらいだ。


 妙だと思えば、ルクトさんが耳打ちした。



「もう一人……()()()()()()()()()()()()()()()?」

「えっ?」


 見えないが、もう一人、いる。


 そんな言葉を聞いて、左右に配置された二人の騎士を見やる。

 門番に徹するように、ビシッと立ち、前を向いていた。


 門前には、身を隠せる場所などない。

 外は馬車通り、中は広々した前庭の道。


 ルクトさんは【探索】の魔法で、その存在に気付いているのだろう。


 私もすぐさま【探索】の魔法を発動した。

 薄い薄いベールのように伸ばした魔力を放つ。網のように張ったその範囲の生命体を感じ取れる魔法だ。

 魔力を、感じ取る。

 生き物には、必ず、魔力があるのだ。


 私を抱き締めているルクトさん、そして左右の門番。

 三人の存在と位置は把握出来た。


 しかし、()()()()

 範囲内に、気配がある。


 ルクトさんに、この【探索】魔法を習得させてもらって以来、婚約解消が成立する日まで、感じていたものだ。


 気配があれど、場所が特定出来ない。


 いるとわかっていても、それだけ。

 認識阻害されているのだ。


 ルクトさんに離してもらって、自分の目で周囲を確認するが、やはり目には見えない。



 姿が全く見えず、【探索】魔法にも、実在しかわからないような存在。

 他にいては、困る。


 恐らく、姿を消すことに特化した闇魔法を行使している者の仕業。



「……何故、()()()()……」

()()()()? 心当たりがないんだ?」


 ()()()


 ()()()()が、この場にいる。


 第一王子の婚約者ではなくなった瞬間に、監視は解かれた。

 昨日だって、王家の影について、口外しない契約書にサインしたばかりだ。



 私が来るなり、ルクトさんは気付いた。

 ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ルクトさんは、怪訝な顔付きで、私と周囲を警戒した。





5/13に投稿。13周年の記念投稿新作。

https://book1.adouzi.eu.org/n5068if/

『陽だまりの陽炎。~ちょっと幸福な異世界転生魔法エンジョイライフを目指す~』

も、よろしくお願いいたします!

こちらも、転生者。魔法の天才少女。

一応令嬢だけど、田舎領地でのんびりと魔法学びのスローライフがしたい。(したい)

と、いう少女の物語です。

幼馴染達が、バチバチと火花を散らすけれど、当事者はそっぽを向く逆ハー状態は、確定です。


多分、似たようなタイミングで、今後も、こちらと一緒に更新していくと思います!

いいね、ありがとうございます!

ぜひ、これからもよろしくお願いいたします!

2023/05/17

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