68 幼い頃の恋人がそこにいた。(ルクト視点)
ルクト視点。
〜71話まで、更新再開予定です!
2023/02/08
従者っぽい服に着替えるなら、ワイシャツがいいと思って着たけれど、ダメ出しをくらったので、一先ず、脱がされる。
「ガチ恋……? 本当に、リガッティーに本気で恋しているってこと?」
腰をしっかり曲げて頭を下げたリィヨンさんとスゥヨンさんに、聞き返す。
「お命だけは取らないでください。お願いします。ちゃんとティヨンには、自制心をしっかり持ってもらっていますので。身の程知らずに、手を伸ばしたりしません。命だけは奪わないでください」
「今までだって、本当に、アイツ、離れてても、ファマス侯爵家のために馬車馬のように働いてきましたんで。リガッティーお嬢様に会える時だけは、観賞を存分にして陶酔する幸せを味わうように調教したのです。我がジオン家では、ガチ恋はご法度。勘当ものなので、我が父が調教しました」
ガチ恋。本気で恋している。
ジオン家は、ファマス侯爵家を熱狂的に支持者するように、忠誠を誓って仕えてきた一族。なんか、100年近くからだって。
役者に黄色い声援を送るファンと同じく、ジオン家はファマス侯爵家の人間を黄色い声援の代わりに忠誠で補佐をしてきて、ファンと同じく見惚れるように観賞してきたということ。
それなのに、そのファンの枠を超えて、恋愛感情を抱いてしまったのが、ティヨンさんって人。スゥヨンさんの双子の弟。
「調教……」と、ネテイトくんと一緒に、そこをオウム返ししてしまう。
なんか、とんでもない方向に、家族が調教されてない? 大丈夫?
馬車馬のように働かせたあとに陶酔する幸せって……違法薬物による過重労働ってやつに該当しない? 大丈夫?
「僕は……義姉上と同じで、全くそれを知らなかったんだが…………じゃあ、僕が養子に来て、二年くらいだったか? 領地に行ってしまったのは、それが原因だと? 義姉上から引き離して、領地で馬車馬のように働かせているってことか?」
頭が痛そうに額を押さえたネテイトくんが、質問した。
今は領地で働いているということだけれど、理由はリガッティーのそばにいさせないためなのか。
「いえ……どちらかと言えば、自分の双子の弟は、昔からヤンチャだったので、”リガッティーお嬢様のそばで、お支えしながら、観賞するだけが至上の幸せなのだ”ということをしっかり叩き込んで調教するはずだったのです」
いや、だから、調教が凄いって。実の父親が、でしょ? 教育と呼ばずに、潔く調教するって言うんだね。
リガッティーの家は、本当に面白いんだよなぁ……他人事なら、笑いたい。これは、笑えないけど。
「それがなんで領地に? ……リガッティーにアプローチしてたとか?」
それなら、リガッティーも気付いたはずだよなぁ……。
想われている度合いはともかく、アプローチされていることがわからないような鈍感じゃない。
袖を通してもらったワイシャツのボタンをつけてもらいながら、首を捻る。
「……それが……」
「……ルクト様も、聞いていらっしゃる猛信者が……度々、ティヨンと衝突した末に、決闘により、敗北したティヨンはここファマス侯爵邸に足を踏み入れてはならないと決まりまして……」
「……それで、領地に……」
リィヨンさんの代わりに、スゥヨンさんが打ち明けた。
家令のニコラさんは、知っていたらしいが、ネテイトくんはやっぱり知らなかったらしい。
大人だけが知っていたってところか。
「猛信者って……元は近衛騎士なんだよね?」
「はい。現近衛騎士団長のご子息です。リガッティーお嬢様のそばにいたいがために、押しかけてきて、執事になりました」
猛信者。
現近衛騎士団長の長男で、近衛騎士だったのに、リガッティーと目が合うなり、忠誠を誓っては、一旦近衛騎士を辞めて、執事としてそばで仕えていたけれど、リガッティーが王都学園に入学するタイミングで星の裏側の国に修行しに行ってしまった人。
そんな猛進的な行動のせいで、猛信者と呼ばれているらしい。
リガッティーの卒業後には戻ってきて、王族に嫁ぐはずだったリガッティーの近衛騎士になって、一生守り尽くす気だったとか。
「猛信者とともに、リガッティーお嬢様の補佐の座を取り合い、無謀にも決闘で立ち向かって、追い出されたわけです。兄弟の中ではヤンチャで強くても、事実上は辞職中だとしても護衛意志の強い近衛騎士ですから、力による決闘なんてティヨンの敗北は当然でした。魔法契約までしてしまったので、ミッシェルナル王都学園から転校して領地へ。そこで調教が決まったわけです」
魔法契約による決闘って……大事だな。
敗者は勝者の要求を必ず呑まなければいけないやつ。
「初耳すぎる……」
「いや、なんで? ネテイトくんも、リガッティーも知らないよね?」
ネテイトくんがポッカーンとしているし、リガッティーからは聞いていない。あの様子だと、ティヨンさんが領地に行ってしまった決闘なんて、全然聞いたことがないんだろう。
「はい。リガッティーお嬢様は、王妃教育が始まったばかりですので、我々大人が苦労をかけまいと気を付けていました。猛信者もまた、王妃教育に専念なさっていたリガッティーお嬢様に、心配かけまいと努めていましたのです。ティヨンもまた、リガッティーお嬢様を困らせることは、よしとしませんでした」
ここで一番年長者のニコラさんに問えば、そう答えてくれた。
その心がけだけは、称賛したい。
「そもそも、ティヨンの想いが発覚したのが、王家との婚約がきっかけです。元から、スゥヨンとともに、リガッティーお嬢様の従者候補として教育を受けておりましたが、ヤンチャな性格故に、ライバルのスゥヨンともみ合いの喧嘩が多いとばかり思い込んでいたのですよ。ですが、縁談が決まったと聞いた時のティヨンときたら……」
やれやれと首を振ったニコラさんの呆れ果てた視線を受けて、双子の兄であるスゥヨンさんが、首を引っ込めて縮まる。
「どんな感じだったんですか?」
「ガン泣きでした。地面に蹲って、のたうち回って、大泣きでした」
「…………リガッティーの四歳上だから……当時、14歳、か」
「はい……」
「「……」」
リィヨンさんの重たそうな声で、スゥヨンさんを見れば、深く項垂れた。
ネテイトくんと一緒に顔を合わせて、なんとも言えない表情となる。
スゥヨンさんに似た少年の姿を思い浮かべた。
幼児の駄々をこねた大泣きでのたうち回る、年頃の少年、か。
それで、ガチ恋ファンの調教が始まったわけだ。なるほどね。
「それをリガッティーが知らなかったなんてすごいな……そんなに王妃教育が忙しかったとか?」
ちょっと10歳のリガッティーが心配になった。
「いえ……元々リガッティーお嬢様は、自分達に観賞されようとも、微塵も気にしないで魔法の勉強に無我夢中だったのです。五歳で許可をもらったお嬢様は、もうぴょんぴょんと跳ねて大喜びを示しました……あの可愛さは、天使の寝顔に匹敵しました……」
「あれは……悶えましたねぇ……」
リィヨンさんが困ったように話したかと思えば、ぽわぽわした雰囲気で口元を緩ませる。弟のスゥヨンさんも、思い出しているもよう。
「そんなリガッティーをめちゃくちゃ見てみたいけど、リガッティーの魔法好きが、五歳からだとは初耳。凄いな、リガッティー」
「厳密に言えば、赤子の頃から、奥様の腕の中で庭園の水やりの魔法を無我夢中で見つめていらっしゃいました。物心をついた頃には、魔法を使おうとしたため、お怪我をしないように、使用人一同で代わる代わるで、厳重に見張りを付けました故……視線には慣れすぎていたのでしょう。魔法練習の許可を得たあとも、ちゃんと見張りは欠かさずつけていました」
「自分とティヨンが真横でガン見しても、真ん丸な瞳を動かして魔法の本の文字を追うのは、やめませんでしたねぇ。――あっ、自分達だけではないですよ? 人形遊び代わりに魔法を学ぶリガッティーお嬢様を、ファマス侯爵家に仕える者達が、花を愛でるように見守っていましたから」
リガッティーの魔法好きが、想像以上すぎる。
ニコラさんから聞いて、スゥヨンさんも思い出話をニッコニコして言ってくれたが、恋敵ではないアピールで両手を上げて見せた。
そんな幼い頃から、魔法を学んでいるなら、見張りも厳重なのは当然か。
それでは熱い観賞の目だって、慣れちゃうよなぁ……。納得。
なんかこうして、リガッティーの昔話を、身近にいた人達に聞くのは楽しいな。羨ましさもあるけど。
「まぁ、使用人が多い家となれば、人目なんて慣れてしまうのは、当然ですよ」
「そういうものなんですか……。わかる気はしますね。他の貴族の家でも、仕えているお嬢様やお坊ちゃまを、愛でるように見守る感じですか?」
「んー、どうでしょうか? 他家を気にしたことないので、確かなことは言えませんね。君達は、他家の使用人仲間と話したことあるかい?」
オレが貴族の家はこんな感じなのかと質問すれば、リィヨンさんが首を捻った。
尋ねたのは、オレの髪型をいじり始めた使用人男性の三人だ。
「自分は関わりないですね」
「あ、自分は友人が何人もいますよ。下級ドラゴンのお肉の自慢が出来なくて、つらいです……」
「私も何人か、知人ですが、いますね」
三人のうち、二人は知っているそうだ。
下級ドラゴンのお肉、自慢したいよなぁ。でも秘密なので、言えないと、かなり肩を落とした。
「大きく、三つに分けられると思います。最悪なのが、完全に使用人を奴隷みたいに見下している家ですね。最近では、そんな貴族は少ないとのことですが、いるということに変わりないみたいです。あとは、主従関係をきっちり分けている家ですね。雇用主と従業員、必要以上の言葉なんて話さない感じです。残るは、主人の一家が使用人一同を一人一人覚えてくれていて、たまに私的な会話もするような和気あいあいな家です」
「ここファマス侯爵家が、まさにそれだと思っていますよ」
自慢げに、そう笑顔で話してくれる。
「へぇ? リガッティーもネテイトくん達も、あんな大人数の使用人達のこと、しっかり覚えてるんだ?」
「家で働いてもらってますからね、当然だと思うんですけど」
「それも一理ある」
最初の二つのパターンだと、名前を覚えているか、微妙なところだな。
ネテイトくんは当然そうにいうけれど、気まずげにリィヨンさんが手を上げた。
「実は、リガッティーお嬢様が……七歳の頃に、初めて見る騎士に気付きまして……」
スイッとリィヨンさんが、ニコラさんに視線を送ると、苦そうに顔を歪める。
え、何。どうしたの。
「色々な事情が重なって、その時、リガッティーお嬢様のおそばにいた使用人達も、初めて見る新人騎士だったのです。初めてお会いする侯爵家のリガッティーお嬢様に、誰かと問われても、緊張でしどろもどろになってしまった彼は……敵とみなされて、瞬時に闇魔法で眠らされました」
「リ、リガッティー……」「義姉上っ……」
七歳! お嬢様が! 騎士相手に! 新人とはいえ、魔法で眠らせた!
王城で新人騎士の一団も倒したことがあるとか聞いたけれど! 七歳でもう頭角を現してるじゃん!
痺れるなぁもう! 好きだよ!!
「そういう失態もあるので、とにかく、新入りはお嬢様達にちゃんと紹介する決まりが出来ました。人目に慣れていても、見知らぬ人には敏感なので、無防備なご令嬢ではなかったのですよ、アハハ」
「リガッティーの家って面白すぎる……」
面白いけれど、笑っていいのやら。
そういうことで、ファマス侯爵家は新しい使用人達も、しっかり覚える貴族になったわけだ。
リガッティーは身内の視線は慣れてても、部外者には気付くから、無防備なわけではないというフォローが入った。
「魔法契約で、ティヨンさんはここには戻って来れないから、領地で働いているってことだけど……今現在どうなんですか? リガッティーへの気持ちは」
「「…………」」
「あの~?」
心痛な空気が重くのしかかったみたいに、ジオン家の兄弟は項垂れる。
いや、ホント。答えてくださいよ。
この空気だと、ガチで恋敵?
「ち、違うんですよ? ルクト様っ。調教のおかげか、ティヨンは大人しく馬車馬のように働いて、たまに領地にやってくるリガッティーお嬢様のお世話をちょっとして観賞をすることが至福な人生のご褒美だと思って、尽くしているのです! 横恋慕で、リガッティーお嬢様に手を伸ばすなんてあり得ませんっ!」
リィヨンさんが改めて言うけれど、その調教って合法なんだろうか……心配だ。
「もうっ、そのっ! ……リガッティーお嬢様の幸せなら……ホント…………」
「兄さん!」
勢いが失速して、またもや項垂れたリィヨンさんをスゥヨンさんが慌てたように呼ぶと、ハッと我に返って顔を上げた。
「今はアイツを監禁しているので大丈夫です! あッ……!」
爆弾発言をしたリィヨンさんは、マズイって顔になって自分の口を押える。
スゥヨンさんは目元を片手で押さえて、横を向く。
ニコラさんは額を押さえて、上を見上げた。
「な、なんで、ティヨンを監禁……?」
「監禁で大丈夫って、どゆこと?」
ネテイトくんとオレは、盛大に困惑する。
聞いてはいけない会話だと察した使用人達からも、困惑が伝わった。
オレはもうすでに着替えが終わっていたので、ニコラさんが部屋を出るように指示をする。
「…………ティヨンに……。始めは隠していたのですが……領地で魔物の群れの対処を終えて、いざ帰ろうとした時に、ティヨンに……知られてしまったのです……」
部屋の扉が閉まると、リィヨンさんが、懺悔のように暗く打ち明けた。
オレとネテイトくんは、ほぼ同時に気付く。
ティヨンさんが、監禁されたことに関係するであろう、隠された事実とやらが何か。
「「婚約破棄……!!」」
ティヨンさんの恋心が発覚したリガッティーの婚約。
それが破棄されたという事実。
「そ、それで……それでティヨンは、監禁された、のか?」
「リガッティーを掻っ攫いに行こうとした?」
「「違いますッ!!」」
ガチで恋敵じゃないかと顔をしかめたら、慌てふためいたように、リィヨンさんとスゥヨンさんが首を横にブンブンッと振った。
「アイツ! どう転んでも死ぬのか!? 死ぬのか!? うがあっ!!」と、スゥヨンさんが頭を抱えて、嘆きを上げる。
「ううっ。違うんですって、ルクト様。調教のおかげで、ホント、そんな身の程知らずなことはしないんで、殺さないでくださいっ」
「殺すなんて言ってませんよ」
涙声なリィヨンさんに泣き縋れているみたいだけど、オレは人を殺しませんよ。オレを何だと思ってんですか。
「じゃあなんで、監禁されてるんですか?」
「ぐすん…………。”リガッティーお嬢様を裏切った代償は死のみ”……と、怒り狂い暴れたので、拘束して監禁中です……」
「「…………」」
人を殺そうとしているのは、まさかのティヨンさんだった……。
あちゃーと、両手で顔を押さえるネテイトくん。
オレは乾いた笑いを出しそびれて、口元を引きつらせた。
婚約破棄を聞いて、リガッティーが裏切られたと知って、殺意爆発で暴れた、と。
想い人の婚約決定で、大泣きしてのたうち回っていた14歳が、その想い人を裏切った元婚約者への殺意で、やらかしそうだから、大人になった今21歳で監禁されている最中。
リガッティーの元婚約者は、王族だ。王太子目前で失脚したとはいえ、それでも王族の第一王子。
せっかくリガッティーが、あの悪女が吹っ掛けようとした王族殺害未遂の大罪を跳ね返したというのに。
万が一でも、身内が、本当に王族殺害をしようとするなんてマズい。
監禁は、妥当。落ち着くまで、そうするべきだ。
「その……監禁は、大丈夫そうです?」
「はい…………落ち着いたら、大罪はだめだと言い聞かせます。リガッティーお嬢様に迷惑がかかるとしっかりと諭せば、バカなこともやめてくれるはずです……」
「そ、そうなんですね…………そうであってほしいですね」
「「はい……」」
冷静さを取り戻して、王族殺害の大罪をやめることを願う。
実の弟なのだから、リィヨンさんとスゥヨンさんも、心配で堪らないだろうな。
大罪はだめ、だって言い聞かせないと、いけないレベルで怒り心頭かぁ……。
気持ちはわからなくはない。
リガッティーが死刑の濡れ衣まで押し付けられようとしたと知った時は、戦場ならぶっ潰してやる、と怒りが込み上がった。文字通り、ぶっ潰すだけであって、息の根を止めたりしないって。
「あとは、父親が調教師なので、任せましょう」
ニコラさん……はっきりと調教師って言っちゃうんですか……。
「それより、リガッティーお嬢様がお待ちでしょう。もっと昔のリガッティーお嬢様について語りたい気持ちはありますが、時間も迫っています」
「あ、そうですね。リガッティーの話を聞かせてくださってありがとうございます」
なんか、ティヨンさんの大罪を犯すであろう危険性の話はしなかったみたいに、昔話をしただけみたいにニコラさんが締めくくってしまった。
リィヨンさんとスゥヨンさんは、異論がないようだ。
ネテイトくんは、げっそりしている。
「ああ。お嬢様には、どうか伏せておいてください。多忙のところで、我が愚弟で煩わせたくありません。我がジオン家が収めます故」
「あー……そうですねぇ、わかりました。でも、恋敵だってことは話しますんで」
リィヨンさんの口止めに頷くけれど、ケロッと言わせてもらった。
リィヨンさんとスゥヨンさんは、二人揃って仰天した顔をする。
「今後、再会した時には、リガッティーに異性として警戒してもらいたいんで。身内には無防備だからこそ、知ってもらわないと」
「そ、そうですけどぉ…………はい……」
「仰る通りです……はい……」
スゥヨンさんとリィヨンさんは、嫌々ながらも引き下がってくれた。
間近で熱い視線を受けても気付かないくらいに、無警戒の相手がいるのは、いただけない。さらには、オレの恋敵だ。
オレの気持ちを、理解してくれて助かった。
「それで、ぶっちゃけ、猛信者の方はどうなんです?」
「「あ、ないないです」」「「ないです」」
リィヨンさんとスゥヨンさんは、掌を左右に振って、ネテイトくんとニコラさんも首を左右に振って、きっぱりと断言する。
「本当に、あの方は単なる猛進的な崇拝者です。女神様が降臨しても、手を伸ばして触れようとするなんて、身の程知らずの献身的な信者なんていませんでしょう? 昔のティヨンなら手を伸ばしかねないので、領地に追い払われたというわけですよ」
「例え、恋愛感情だと名付けようとも、そんな感じですよ。それが猛信者の忠誠心です」
けらりと、ジオン家の兄弟は笑い退けた。
それが、”猛進的な信者”と呼ばれる”猛信者”ってわけか。
コンコン。
ノック音がしたので、ニコラさんが確認する。リガッティーだ。
こちらは準備も済んだから、通してもらった。
「わあ。かっこいいです、ルクトさん。素敵じゃないですか」
戻ってきたリガッティーは、両手で持てる大玉を包んでいる。
【映像記録玉】だろうけれど、それより、リガッティーがアメジスト色の瞳をキラキラさせるみたいに見開いて、愛らしい笑みを零して歩み寄るから、そっちに気が逸れた。
「オレは従者姿も似合う? ていうか、なんか……執事って言った方が、ぴったりな服?」
後ろ部分は燕尾みたいにちょっとだけ伸びた上着は黒。ズボンも黒だ。
わざと開いた上着の中には、ベスト。ワイシャツには、蝶ネクタイ。
勝手なイメージ。
従者であるスゥヨンさんにそう言ってもいいのやら。スゥヨンさんをチラッと見たけれど、別に気を悪くしたようじゃなくて、にこっと軽く笑い返された。
「ふふ。似合ってますよ。私はその髪型に見惚れてしまいます。とってもかっこいいですね」
「あーうん。髪もやってもらったんだ」
リガッティーは、ニコニコと楽しそうにオレの前髪を摘まんだ。
ちょっと右の前髪を分けて上げた感じにセットしてもらった。
「……そんなに気に入ってもらえたなら、毎日この髪型にしようかな?」
リガッティーが夢中になって見てくれているから、嬉しくて口元を緩ませて、そっと腰の後ろに手を添える。軽く両腕を回す感じの姿勢。
オレの前髪をリガッティーが触っているから、抱き締めるのはお預けかな。
「んー。それはだめです。毎日そんな素敵な髪形にするなんて、ルクトさんの人気が爆発的に上がってしまいます。ただでさえ、ファンがいるのはご存知でしょう? そのファンサービスは許しません。私がいいって言ったら、その髪型でお洒落してください。いいですか?」
「……はい。仰せのままに」
きっぱりと却下したリガッティーは、オレの蝶ネクタイをキュッと締めて、笑って言った。
いや、ホント……最高。
リガッティーの独占欲なのか。それ、可愛すぎる。もう全部、リガッティーの仰せのままにしたい。
オレはリガッティーだけのものだから、全部言う通りにするよ。
そのまま、ギュッて抱き締めたかったのに、大玉が間にあるから、その存在を二人揃って思い出した。
「ふふ。さっき、リィヨンに私の【一画映像記録玉】を複製したものをもらうって話してたじゃないですか。実はこれ、私が初めての魔法をお披露目するってはしゃいだ映像を記録したものでして……何故か、古参の使用人一同が複製したものをもらったことがあるって思い出しましたので、見付けました」
「え? 何それ、見たい。くれるの?」
リガッティーが、初めての魔法をお披露目って。
五歳かな? はしゃいでるって、絶対可愛いじゃん。
ワクワクして【映像記録玉】に触れようとしたけれど、リガッティーが両手に持って、避けてしまったから、空振りした。
「欲しいなら、取引ですよ」
「取引? 何を差し出せばいいの?」
「ルクトさんの幼い頃の映像です」
「えぇ~……んー。誕生日のがあった気がするけど……あっ! 一画でいい? 9歳の時に、初めての手合わせをするために木剣を持ったオレ。かなりはしゃいでる感じにポーズを決めてるやつ」
「見てみたいですね。では、交渉成立です」
やった! リガッティーがはしゃいでいる幼い姿の映像を見せてくれるなら、オレも自分のはしゃいだ幼い姿を提供だ。
リガッティーは、早速【映像記録玉】を再生してくれた。
スッと、玉を中心に、透けた映像が周囲に映し出される。
場所は、庭園みたいだ。遠くに花壇が見える。
〔いくよー!〕
女の子の幼い声が、後ろから聞こえた気がして、振り返ると、そこに幼い少女がいた。
ラベンダー色のフリルドレスを着ているその子は、紫色の艶を放つ黒髪を靡かせる。真ん丸で大きなアメジスト色の瞳だ。
さっき見たばかりのリガッティーの瞳と同じく、キラキラしている。
リガッティーだ。
幼いリガッティー。
小さな両手を広げて、腕をパッと上げた。
そこから、溢れるように、水が出現。ぶわり、とシャボン玉みたいに、水玉がいくつも浮いていく。
オレ達の周囲に、水玉は浮いていき漂う。陽射しだろうか。キラリと、光を反射させる。
〔もっと!〕
大はしゃぎと言えるほど、幼いリガッティーが、その場で飛び跳ねたかと思えば、両手をまた上げて、ぶわっと大きな水を宙に投げるように出現させた。
五歳ぐらいにしか見えない女の子が出すには、多すぎる量の水魔法だと思うが、些細なことだ。
〔えへへ! すごいでしょ?〕
満面の笑みを輝かせる幼い少女に、心を奪われる。
目を離しがたいけれど、腕の中にいるリガッティーへ、視線を移した。
「……はしゃぎすぎですね。お恥ずかしい」
幼い自分を見て、リガッティーは恥ずかしげに頬を赤らめて、はにかんだ。
「……可愛い。めちゃくちゃ可愛すぎる。好き。無理、好き。家宝にする」
「家宝はやめてくださいよ……」
リィヨンさんとスゥヨンさんが、感動した様子でハンカチを目元に当てている。多分、昨日聞いた会話の通り、この【映像記録玉】もジオン家で家宝にされているのだろう。
オレも、大事に保管する。絶対。
呆れ半分で苦笑をするリガッティーを、ギュッと片腕で抱き締めて、もう一度、幼いリガッティーの水魔法の初披露の映像を再生。
はあ、本当に可愛すぎる。好き。
可愛い可愛い恋人の幼い姿を、目に焼き付けるみたいに、見つめた。
オレ。絶対、この頃のリガッティーに会っても、恋をした自信しかない。
オレの生涯で、ただ一人の女性だ。
最初から、この人だけだった。
唯一無二の存在は――――誰にも譲らないから。
書いてはいませんが、残りのストックを更新します!
とりあえず、71話まで!
よろしくです!
ヒロインに、ガチ恋な個性的キャラ多し。
2023/02/08





