62 許可を得たら次の任務。
にこやかなお母様は、過去では菫のように可憐なご令嬢だった。
今だって、キツい印象を持たせるメイクをやめてしまえば、可憐さは目立つ容姿を持つ。
けれども、菫の花の中では、毒を持つ種もあったりするのよねぇ……。
隣のお父様は、ずおぉん、と暗い表情をしている。
王室へ、脅迫気味に、頼む気でいるお母様がいるのだ。
娘も、すでに脅迫気味に、王室へお願いを叶えてもらう権利を手に持っているので、行使する気でいる。
……なるほど。外見だけではなく、私はお母様によく似ているのね。
「えっと……では、冒険者ギルド、調査機関、彼らにもしっかり情報漏洩に気を張ってもらい、王国への報告をしても、功績者である義姉上とルクトさんの名前は出さず、意図的に伏せてもらい、大ニュースとして国民に公表するということで間違いないでしょうか?」
なんとか、ネテイトが話を進めようと、確認をした。
「そうね……リガッティー。ギルドマスターは……あなた達の仲はご存知で?」
「あっ。はい。元々、気付いていましたし、ちゃんと心配もしてくださり、さらには爵位授与も積極的に力を貸してくれると明言してくださりました。……先程、ルクトさんが”恋人にしてもらった”と報告すれば、涙ぐんでましたわ」
「あら、そう……。あと、ストーンワームを討伐したのは、二人だということも会談の場で話したとか。『ダンジョン』へ調査もそこで話していたのよね? 前情報はあるのだから、こう付け加えましょう。ストーンワームを討伐した本人が調査に行くことになり、『ダンジョン』へ向かった。その道中で、二人は恋仲になった。そして、下級ドラゴンと遭遇し討伐。功績は素晴らしくても、婚約解消直後の上に、侯爵令嬢の身分による冒険者活動がネックとなっているから、それらを考慮して功績者の名前を伏せていただきたい。これだけの情報を渡しておくのはどうかしら?」
ギルドマスターも”恋仲”だと知っていることを確認して、お母様は提示すべき情報を選び、お父様の方へ確認。
「うむ。いい考えだ。それが私達に出来る根回しだな。もちろん、冒険者ギルド側のギルドマスターとも口裏合わせないと。”恋仲”とあえて明かすことで、リガッティーが慰謝料として要求した”王室に願いを叶えてもらう権利”も、こちらが最初に思った通り、結婚を認めることについてだと思ってくれるだろうしな。問われたとしても、あながち間違いでもないし、適当にはぐらかせる」
ふむふむ、と頷くお父様は、お母様の考えに賛成する。
「この差し迫った問題である下級ドラゴンの討伐については、これで対処しよう。長くて二日は報告を留められると言ったな? では、明日ギルドマスターと話して打ち合わせをして、遅くても翌日には報告をしよう。娘も関わるということで、重大な報告だ。ギルドマスターとともに、我々も王城へ報告のために同行する。決まりとしよう」
お父様の決定に、少しホッとした。
これで、昨日の下級ドラゴンの討伐という、想定外な功績により、ルクトさんや私が悪目立ちすることを防ぐ対処が出来る。
「その前に、リガッティー。――確認、いえ、明確にしておきたいことがあるわ」
やけに鋭さを感じる目で見据えてきて、お母様が問う。
何かしら、と目を二つ瞬いてから、そのまま、言葉を待つ。
「今までの口ぶりから察するに……今後も、冒険者活動をするのよね?」
ゴクリ、と息を呑んだけれど、なるべく小さな動作に留める。
緊張で怖気づいているとは思わせない。劣勢になって、畳みかけられる。
想いを語る時は、感情を隠さなかったが、こういう勝負ならば怯えたら負けたも当然。
想いは認められたが、冒険者活動を許すという言葉はもらっていない。
冒険者活動の許可を、傷心を盾にもぎ取るとは言ったが……今の意思を問われている。
「はい。ルクトさんがSランク冒険者になるための新人指導を完遂してもらうために、あと22日あります。8日は新人指導を終えたという記録がつきますが、指導担当を新たに変えるとなると、9日からカウントされていきますが、新人もまた30日の指導を受けるため、それまで担当を続けるという決まりとなっているそうです。貴族子息も度胸試しで冒険者登録をするので、数日は稼げるというケースはあっても、基本的には担当変更は指導者側に負担ですね」
それもあって、ルクトさんは面倒に感じて、新人指導を後回しにしていたとか。
言葉を切って、私が残りの22日を指導してもらう、と強く告げようとしたけれど。
「もちろん、あなたが残りの22日の指導を受けたいというでしょう。あなたは彼のために出来ることはしたいと言ったのだもの。私だって、そうするべきだと思うわ。彼には失礼だったけれど、でもやはり、あなたが最後のランクアップをさせてあげるべきでしょう」
ん!?
お母様自ら、許可を出してくれたわ……。
な、何かしら……理解してくれて嬉しいと思うべきだろうけれど…………不穏さを感じるのは何故?
「それで――――その後は?」
「はい?」
「その後よ、その後。30日目以降! あなた、彼の隣は自分以外あり得ない、自分だけのものだと、はっきり言ったじゃない」
「はいっ。ルクトさんの隣は、私だけですっ。……つまり、今後も、ルクトさんの相棒として、冒険者活動を続ける許可をくださるということですかっ?」
ツンツンしているけれど、この流れはお母様が、自分の発言に責任を取れと言い放つのでは!?
これからもずっと冒険すると言ったのだから、意志は揺らがない! それを見越しての許可をくださる!?
「ルクト・ヴィアンズさんも、あなたを相棒と望んでいるのよね? しかも、同格の冒険者だとすでに認めているような口ぶりに聞こえたわ」
「……え、えっと……はい。ルクトさんには、本当に高く、評価していただいてますね……」
不穏さを改めて感じて、私の声は失速してしまった。
ん? ……んんん? お母様???
「ならば、冒険者活動を許可をします。ただし、妥協など許しませんよ。しっかり、同格の冒険者として胸が張れるように、ランクアップなさい」
ドーンッとお母様は腕を組んで、上から見るようなやや仰け反った姿勢で、言い放った。
ひ、ひえぇ……。
よもや、お母様側から、それを言われるとは……夢にも思わなかったわ……。
あ。お母様側ではないわ。
お父様は、信じられないって驚愕の顔で、隣のお母様を見ていらっしゃる。
ネテイトまで、両手で口元を押さえている。反対意見を叫ばないようにしているのだろう。
完全にお母様の独断だわ、これ。
「は、はい。お母様の方からそう言っていただき、とてもありがたいです。昨日の下級ドラゴンの討伐も、ルクトさんと勝利を収めて、覚悟を決めました。規格外に最強の冒険者であるルクトさんの相棒として、しっかりと肩を並べたいと。ルクトさんも、ランクを上げて、ちゃんと同じ依頼を受けて、冒険がしたいと言ってくださっていたので。正式にその意思表明をしたら、とても喜んでくださりました。冒険者活動も、許可をくださり、ありがとうございます」
スッと頭を下げた。
言質はとったわ。
お父様が反対を口にしたところで、私の言質をとってお母様も許可を出したのだ。お母様の決定だって、お父様も簡単には曲げられない。
「ちゃんとわかっているのかしら。リガッティー」
「え? 何がでしょうか?」
キョトンとしてしまうが、なるべく冷静な姿勢を保つ。
「同格よ、ど・う・か・く。ランク付けでも、あなたはルクト・ヴィアンズさんと並びなさい」
「……はい。Sランク冒険者とまでは、まだちゃんと言えませんが……必ず、Aランク冒険者にはなろうと思っています」
流石にSランク冒険者になるとは、言わせないでほしいし、言わないでほしい。
「Sランク冒険者の下級ドラゴンの5体の討伐のランクアップ条件を考えれば、すぐにランクアップしなさいとは言わないわ。でも、Aランク冒険者になるのは当然よ」
……ん? なんなんだろうか。
この、不穏さ。晴れないわ。
「リガッティー。あなたは王妃教育という高度な教育を受けてきたし、幼い頃から無我夢中で学んだ魔法もかなりの高い評価を、王室魔術師長からもいただいているのでしょう? さらには、その魔法の腕を思う存分、冒険で発揮していると。対するルクト・ヴィアンズさんは、どうなのかしら? あなたを超える教育を受けたと言うの?」
ん? んんん……?
不安しかない。この会話。この会話の行く末が……不安!
「い、いえ……ルクトさんは、Bランク冒険者のご両親に、同行して経験をさせてもらってはいたそうですが……私ほどの教育だなんて、そんな……。あとは、王都学園の授業、あ、図書室では役に立つ魔法も発掘してきたと。それも活かして、お一人で上り詰めて、今の規格外の最強な冒険者となったと……思います」
ど、どうしよう。膝の上の手が、震えそうだわ。
「そう。ならば――――あなたはルクト・ヴィアンズさんの最速ランクアップ記録を超えられるわね!」
「!?」
ひっ!? ひぃいいいぇえええッ!?
おおお、おおぉ、お母様!?
「何を驚いているのかしら。妥協は許しません。あなたならば、可能でしょう? いいえ、可能になさい。ただでさえ、侯爵令嬢の冒険者活動では、酔狂な遊びとしか思われなくて、印象が良くないわ。一年よ、一年以内! あなたは最速ランクアップでAランク冒険者になりなさい!」
おっ、お母様ぁああッ!!?
私は必死に吐血したいほどに叫びたい衝動を堪えて、小さな笑みを張り付けたまま、身体を停止させる。
「これがファマス侯爵家のためよ! 軽んじられないように、見せ付けなさい!」
お母様はわなわなと震えて肩に手を置いたお父様にも向かって、ファマス侯爵家のためだと豪語した。
ファマス侯爵家の令嬢が、冒険者活動をしている。
眉をひそめるような話ではあるけれど、目が飛び出るほどの驚愕を与えるためにも、私は最速ランクアップの実績を突き付けろ、と。
それが世間体への対処。お母様の考えだ。
「で、ですが……お母様……私は、その……学園もありますし、新しい、事業も」
「あなた、学園の成績も維持出来ないという気? あなたが将来なるはずだった王妃よりも大変なのかしら!?」
「王妃の公務を比較することは難しいですが! はい! 私は最速ランクアップでAランク冒険者になりますわッ!」
「よろしい!」
押し負けた。
カッと目を見開いて問い詰めるお母様に押し負けて、私は宣言してしまった。
ルクトさんの一年の最速ランクアップの記録を塗り替えて、Aランク冒険者になる。
☆ミッション!☆
【親から冒険者活動の許可をもぎ取る★】
ミッションクリア☆☆☆彡
☆新ミッション!☆
【相棒と同格の冒険者になる★】
・Aランク冒険者へ、上り詰めろ!
・ルクト・ヴィアンズの最速ランクアップの記録を超す!
(※ただし、学生業も新事業もこなすべし!)
お腹がギュッと締め付けられるような感覚を覚えるテロップが、頭に浮かんだ。
でも次には、ルクトさんが大喜びして目を輝かせては嬉しげに笑う顔しか、浮かばなかった。
「つまり、その……ええっと、ですね。冒険者活動は、いずれ公表する、という形ですね? リガッティー・ファマスとして、コソコソすることなく、冒険者活動をしていいと」
よろよろと挙手しながら、私は尋ねる。
お父様もネテイトも、満身創痍のようにげっそりした顔を俯かせていた。
お母様の独断の新ミッションは、二人にとっても大打撃的な衝撃だったようだ。
リィヨンもスゥヨンも、頭を抱えて、無音で嘆いている。
マーカスなんて、無な顔で棒立ちしているから、多分意識ないわ。
「当たり前よ。コソコソですって? 後ろめたさを感じるなら、即刻辞めなさい」
「威風堂々とさせていただきますわ」
お母様。
菫の花のような可憐さは、いずこですか?
「こちらも、難しいと思っていたので、家族に相談してみるとルクトさんに言いましたが……春休み明けの学園生活でも、私とルクトさんの交際は」
「隠すくらいなら別れなさい」
「堂々と寄り添っていいと???」
そんな威圧感をビシバシ放ちながら、眼力で押し負かそうとしないでほしい。
「もちろん、婚前なのだから、節度は守るべきよ。けれども、あなたと彼が関係を隠す理由は、身分差くらいでしょう? もう契約上の婚約者もいない。隣の王太子の件もあるから、対策も考えないとね。冒険者活動も、タイミングは見計らうべきだろうけれど、いずれは明かすことになるのだし、一時は醜聞となっても、必ず掻き消しなさい。ミッシェルナル王都学園は、実力至上主義。実力を見せつけなさい。あなたはそれが出来る娘だし、そうするべきなのよ。覚悟、あるのでしょう?」
ハードル……高いなぁ……。
実力至上主義といっても、それはちょっと違う気がするのですが…………ま、まぁ、示せる実力は見せ付けましょう。
「はい。節度は守り、隠すような言動は致しません。ここまでご理解、ありがとうございます。お母様」
新学期が始まっても、ルクトさんと校内で我慢せずに会える。
昼食を一緒にするの、楽しみだと話していたのよね。
嬉しい気持ちを示す笑みで、また頭を下げて感謝を伝える。
「ハッ! そうでしたわ。早速、『ダンジョン』の下級ドラゴンの討伐の件、冒険者ギルド側と話をしないといけませんね」
「あ、ああ、そうだな。とりあえず、明日話し合いに行くという旨を、先触れを送ろう。リィヨン」
「いえ、お待ちを。実は、ルクトさんが残って、私の連絡を待っているのです」
老け込んだような顔で我に返ったお父様が、前髪を掻き上げて、リィヨンへ指示を出すけれど、手を伸ばして止めた。
きっと、私が自分の足で戻ると思っただろうから、すぐに左耳の耳飾りのその手を添えて見せる。
「この耳飾り、実は通信具です」
「なんだって? そんな小さなものが?」
「まあ。耳飾りなんて、初めて見たわ」
「通信具だったの? ペアルックの品かと……」
目を見開いて身を乗り出すお父様とお母様とネテイト。
ネテイト……違うって言ったでしょ。
リィヨン達だって、驚いて覗き込むように顔を寄せる。
「家を抜け出す私の都合に合わせられるようにと、ルクトさんが初日に買おうと言ってくださって」
「まあ。お揃いの耳飾りなんかつけさせて……もうすでに独占欲の表れでは?」
「そ、そんなことは……コホン。とにかく、最新式だと見せてもらったのが、これですわ。【伝導ピアス】という名称の通信の魔導道具です」
これがルクトさんの独占欲の表れだなんて、動揺してしまったが、とりあえず説明をする。
この世界では、先触れを出すのは、魔法とはいえ、手紙が主流。
通信の魔導道具は、前世では携帯電話だろうけれど、普及はしていない代物だ。
急を要するなら、直接突撃すればいい。それほどの事態でなければ、手紙で済ませてしまう。
本当に必要なら、ペアルックのように同じ物を、共鳴させるように繋げる仕様で通話をさせる魔導道具を持つ。
私に予算があったのもそうだけれど、私の都合に合わせることが名目だとしても、傍から見れば、恋人の危機に駆け付けられるように連絡が取れる備えと思われる。
それくらい、通常の生活では普及されていないのだ。
「これはつけた耳から、伝導で相手の声が伝わる仕様なので、相手側の声はつけている者にしか聞こえません。こっそりと連絡を取り合うには好都合だと、ほぼ即決しましたわ」
「あら、凄い技術じゃない。素材も安くないでしょうね、安っぽい石には見えないわ」
「だと思います。これを作ったのは『ネロウスワン』ですもの」
「あら、エリートじゃない」
「お店の店長の息子さんが二人とも働いているそうで、他にも身内がいるようなので、繋がりが深いのでしょう」
しみじみとお母様は【伝導ピアス】に注目する。
長く伸びたような雫型の石は、ルクトさんの瞳の色ということで、私が赤色を選択した。
「え。待ってください。義姉上? 魔導道具職人から、意見を求められているという話は……その『ネロウスワン』なの?」
お母様に制止の言葉を示してから、ネテイトが私に尋ねる。
話したかしら? ……話したわね、ルクトさんが。
「エリート魔導道具職人から、意見を?」
「あ、はい。この【伝導ピアス】について、少し意見を言ったのですが、それが店長さんから、息子さん達に伝わったのでしょう。意見を求める報酬に凄い試供品をいただいてしまいまして……」
怪訝な顔をするお父様に、私もちょっと腑に落ちない風ながらも、経緯を話す。
「どんな試供品なんだ?」
「あ、ご覧になります? 昨日討伐した下級ドラゴンの姿も、記録しましたの。【記録玉】で」
「【記録玉】なのか」
興味を示したお父様に、せっかくだから、討伐した下級ドラゴンも見せようと思った。
「どんな凄さを持っているのですか?」
「本当に凄いから腰を抜かさないでほしいのだけれど」
「下級ドラゴン11体の討伐よりですか~?」
リィヨンも興味津々だと、長身の上半身を横に倒して、軽い調子で言う。
みんな、色んな衝撃から、立ち直ってきたみたいだ。
「そうね……でも、本当に凄いのよ。【一画映像記録玉】なのだけれど」
私は【収納】から、先ず土台を取り出して、テーブルに置いた。
【記録玉】と聞いたのに、土台が置かれて、一同は不思議そうな顔をする。
「あ、これは、記録した映像を確認する魔導道具です。こちらのくぼみに【記録玉】をはめると読み込んで確認が出来るのですわ」
「ん~? 瞬間的映像の記録を確認するだけで、重々しくないですか?」
リィヨンが首を捻る理由は、瞬間的映像、つまりは写真のことを指すのだけれど、一般的な【一画映像記録玉】はその写真を玉の中に封じ込めたかのように留める魔導道具だからだ。
ビー玉を覗き込めば、別の光景が見える。そんな感じ。
一画、つまりは瞬間的映像だけを、言葉辞典よりも分厚くて大きな土台に映して確認するのは、”凄い”とは思えないのだろう。
「それがね、リィヨン。私が【新・一画映像記録玉】と呼んでいる【記録玉】には……15個の映像が記録出来るの」
「「「「「えッ」」」」」
写真が15枚も記録出来る。
それだけも、この世界観の中では”凄い”のだ。
しかも、その【記録玉】は、私の掌にすっぽりと収まる小型。最早、超小型。
【収納】から取り出したそれを、差し出して見せようとしたけれど、家族三人が揃って、一斉に身を引いた。
「わかります……本当に凄いですよね」と、私はその反応を咎めない。
私も最高傑作であろう高等技術で作り上げたであろうこれを最初に持った時は、震えたもの。
「この【新・一画映像記録玉】の意見の方も書いた手紙を送ってもらったら……20人近くの研究職人の方から、さらなる意見交換を求められてしまったのですよね」
「エリートの『ネロウスワン』に??? リガッティー……お前は、魔導道具に精通していたか?」
「いいえ。必要最低限の常識範囲で、軽く習った程度です……。でも、案はたくさん出ましたわ。一画の映像を現像する魔導道具があればいいなという意見も送りましたが、先日もルクトさんが可能ならば、アクセサリーのように持ち歩けて、通常の【一画映像記録玉】のように覗き込めるように映像を移してほしいという素晴らしい案を出したのですよ」
「「最高かッ!」」
大切な写真を肌身離さずに持ち歩くための、ルクトさんの名案を嬉々として話したら、何故かリィヨンとスゥヨンの兄弟が声を合わせた。
びく、と驚く。
え、な、何。すごい食いつき。
「お嬢様、その現像の魔導道具とは、いつ出来上がるのでしょうか?」
「自分、欲しいです。至急、欲しいです」
本当に食いつく……すごい食いつく。
リィヨンとスゥヨンは、鼻息をフシュフシュと鳴らすほど興奮している。
「それはまだわからないわ。考案中の段階だもの。……どうかした? 二人とも」
「リガッティー。気にしなくていいのよ。見せてちょうだい」
「あ、はい」
お母様が急かすから、私は【記録玉】をはめこんで、確認を始めた。
真っ先に、初めてルクトさんとのツーショットを収めた映像が出てしまい、慌てて両手で遮る。
「すっ、すみません! これはっ、その、お試しに記録したものでしてっ、下級ドラゴンのものは、その、あとでっ……後ろの方でっ」
「なかなかのイケメンね。頬赤くなかった?」
「ちょ、お母様っ。ご勘弁をっ」
「勝手に見ているから、あなたはイケメンな恋人に通信なさい」
ひぇええっ!
ルクトさんとツーショットばかりの記録がぁ!
隠していた手をぺいっとお母様に退かされてしまい、私は赤面を代わりに隠しながらも、耳飾りを人差し指で弾いた。
魔力と接触による小さな衝撃を同時に与えることで、通信が繋がる仕様。
着信は、熱っぽさを放つので、それで気付ける。相手も同じ要領で、耳飾りを弾けば、繋がるのだ。
〔リガッティー〕
「ルクトさん~」
〔え、大丈夫? 何かあったの? 遅いと思ったけど……〕
好青年らしい優しい男性の声。
まるで頭の中に響くように、聞こえてくる。私だけに。
「帰ってきました……」
〔ん? 帰ったね? ……え? 帰ってきたって、え? もう帰ってきたってこと!?〕
「はいぃい……。目の前にいます」
〔目の前に……ご両親が……そ、それで? どんな様子なの?〕
ルクトさんも、自分の声は聞かれていないとわかっているので、緊張を含んだ声音で尋ねた。
「物凄く見てます……」
〔え、リガッティーを?〕
「いえ……私とルクトさんを収めた……一画映像記録を」
〔……一画映像記録……え”? 全部?〕
「……はい」
食い入るように、今まさに私とルクトさんが交際を始めた記念に収めたツーショットを見られています。
心当たりしかないルクトさんは、きっと向こう側で絶句しただろう。
交際記念のツーショットを見て、私を見る。
それを繰り返す家族達に、私は熱が上がる顔を両手で押さえた。
ルクトさんだって、流石にこの場にいれば、赤面を両手が隠して蹲っただろう。
「……ベタ惚れだな」
「ベタ惚れねぇ……」
「ひえっ」
両親が呟く映像はなんなのか、愚かにも確認してしまった。
〔え、何? 悲鳴?〕
「ルクトさん! なんですか! もうっ! 甘えた猫みたいに頬擦りしているあなたの映像ですよっ!」
〔……ひえぇ〕
告白をしてもらった場所。ルクトさんが記録してくれたのだけれど、肩を抱き寄せてきたので、勇気を出して頬を重ねたことは覚えていた。
そのあとに、ルクトさんが頬擦りをしてきたのだ。それまで記録していた!
ルクトさんは心底嬉しそうに破顔して、私に頬を擦り寄せている。
見るからにベタ惚れ! 甘えた猫のように、デレ全開!
心当たりしかないルクトさんは、同じような悲鳴を零す。絶対今、赤面して蹲っている。
散々、規格外の最強冒険者だと慄く功績を聞いたのに、このベタ惚れ顔で擦り寄る映像。
お母様達は、口元に片手を添えて、生温かな目で映像を見つめた。
ピコン! ミッションクリア♪
ピコン! 新ミッション追加!
多忙すぎるリガッティー。
2022/12/08





