9,頭数は大事。
ある日。
サラがどんよりした表情で言うには、
「まただよ、ミィくん。人が増えない! 〈名前はまだない〉のパーティメンバーが!」
先日、アンデットキング討伐によって、〈名前はまだない〉のパーティランクは『F』から『E』に上がった。これにサラは不満であり、
「Aランクパーティでも苦戦する大物を討伐したのに、なんでAランクにならないの」
アークも、冒険者ギルドの内情など知らないが、さすがにひとつだけの功績で、そんな大出世はないのだろう。
とにかくEランクパーティなどはありふれているので、何かと人手不足な冒険者界隈、新メンバーを獲得するのも大変らしい。
「にゃぁ(そもそも、新メンバーが必要なのか?)」
「うんうん、いまミィくんが言いたいことは、なんか分かったよ。いまのまま二人と一匹で充分、と言いたいんだろうけど。ミィくんはワイルドカード枠だからね。そしてパーティって、四人くらいはいるよ。役割分担とかあるでしょ」
そんなものか。とくに新メンバーに興味のないアークは散歩に出た。猫のような生き物に転生してから、散歩が妙に好きになった。動物の習慣だろうか。
とある路地を歩いていると、前方を大剣を装備した男が、歩いている。ただ者ではない風格。こんな男を仲間にしたら、サラも大喜びだろう。ただし、実際のところは、たいした腕ではない。
アークには天性スキル《識眼》というものがあり──これも転生時に継続していた──、だいたいの相手の力量は一目で分かる。
そんなとき、ぱっと見は平凡な小市民風の男が、「誰か助けてくれぇ!」と叫びながら走りよってきた。
当然、アークは無視して、大剣の男に。
「どうした?」
「賊です! むこうの路地裏で、仲間が襲われている!」
《識眼》によると、この平凡な市民こそが、真にただ者ではない。さては罠か。
人の好い大剣の男が、「なんだと? よし任せろ!」と、小市民風についていく。アークも興味本位で、ついていく。ひと気のない場所に出るも、賊の姿はない。
「これはどういうことだ?」と大剣の男。
すると小市民風の男が、変わった形の剣を、虚空から取り出した。いまのは《異空収納》魔法か。
どうやら魔法剣士のようらしい。アークが見たところ、魔術師レベル8、剣術技能レベル3。魔術寄り。
「この王都には実力者が多数いると聞いてな。あんた、試し斬りの相手になってもらうぜ」
ようやく、この小市民風の男の罠だったと気づいた大剣の男は、ふっと不適に笑う。彼我の実力差に気付いていないようだ。
「オレと決闘したいのか? この身の程知らずが!」
しかし身の程知らずは、こっち。
「そいつは、ありがたいね!」
小市民風の男──平凡な見た目は、暗殺者としての素質もあるとみた──は、魔術剣スキルlevel5《火渦剣》を使う。全身に火炎をまといながら、さらに火炎の斬撃を使う難度の高いスキル。
大剣の男が瞬殺されるのが目に見えたので、アークは跳躍。拳闘スキルlevel1《跳び蹴り》で、大剣の男を蹴り飛ばし、《火渦剣》の射程外へ飛ばす。
小市民風の男が驚く。
「なんだ、この猫は!?」
さらにアークは、同じく《火渦剣》を発動(ただし剣は装備していないので、猫手でいく)。
そして、こちらの《火渦剣》のほうが、密度は高い。小市民風の男の《火渦剣》を突き破り、近くの壁まで吹き飛ばした。
「にゃぁ(身の程知らずだったな──と言っても通じないか。とにかく、これに懲りたら、格下相手に騙して決闘などするなよ)」
小市民風の男はまだ意識があり、だが闘いを継続できる状態ではない。
はじめ自分の敗北が信じられないようだった。しかも、ただの猫──のような生き物に。
しかしこの猫のような生き物の実力は、本物。同じ魔術剣スキルでぶつかりあったからこそ、相手の魔力と剣術(猫手だったが)が、研ぎ澄まされていることが分かる。
そこまで考えるに至り、ショックは歓びへとかわった。
アークの前に跪くようにして、
「あんたのような強者を、おれは求めてここにきたんだ! 猫──いや、師匠、どうか、このおれを弟子にしてくれ!」
「にゃあ(断る冗談じゃない)」
「おお、いまの言葉、『よかろう。貴様には見どころがある、このおれが師として、鍛えてやる』とおっしゃったのですね! あ、申し遅れました。おれはドーグというものです」
「…………にゃぁ(意思疎通ができないのも、いい加減、困りものだ)」
とりあえず、このドーグを、サラに紹介することにした。




