78,血祭られている。
〈名前はまだない〉ギルドには、わりと人員が多い。
といっても、いまも行方不明中のケイトの毒舌によれば、「ただのモブ」らしいが。実戦投入するわけではないが、活動範囲を広げた〈名前はまだない〉が、潤滑に運営されるため、多方面の事務作業を片付けてもらっている。
ただしそれはライラエルの下部組織といってよく、サラも飼い猫枠のアーク(ミィ)も、誰それがそうだと分かるほどの接点はなかった。
接点はなかったが、どうも片っ端から殺されているようだ、と聞くと、
「ミィくん。これは明確に喧嘩を売られているようなものだよ。いや、これは戦争だ」となる。
一方、飼い主の暴走をいさめるのも自分の役目だろうと、アークは指摘する。
「にゃぁ(まて、はやまるな。敵が、〈名前はまだない〉の下部組織の構成員から殺してくるとは、こうも考えられる。まだ全面戦争をするつもりはない、というメッセージだと。ここで、おれたちが向こうの要求を呑むならば、和解の余地はあると。むろん、おまえはそんなメッセージを受ける気はないだろう。が、それでも穏便に解決する道があるということは、頭の片隅に入れておくべきことだぞ)」
我ながら、まっとうな助言をするものだ、と自画自賛。
対するサラは、しばし脳内で翻訳に時間をかけていたが、やがて顔を輝かせて、ぐっと拳をあける。
「ミィくん、いまの『にゃあ』は、ヤッチマイナァ!と言ったわけだね。適格な後押し、ありがとう!」
「にゃあ(なんでこういう重要なときに、ぜんぜん通じないんだ。しかも、かすりもしていないぞ)」
アークは猫として、頭を抱えた。しかし猫が頭を抱えると、
「ミィくん、あざとかわいい!」
と、妙に可愛い評価を受けるだけだった。客観的に見て、頭に前脚あげているだけで可愛いものなのか。まぁ可愛いのかもしれない。
サラは、できるメイドのライラエルから、敵の正体について聞くことにした。つまり、この時点まで、敵の正体もよく分かっていなかったわけだ。そして正体を聞いたら聞いたで、サラが不可解そうな顔をする。
「え、税務ギルドの刺客の仕業? たかが税の取りたてギルドのくせに、そんな大層なものを飼っているの?」
「お言葉ですが、お嬢様。国家運営にとって税の徴収ほど大事なものはありません。市民が納税義務を守るためには、時には暴力行為も辞さない組織が必要となるのでしょう」
「はぁ~。しかし、なんで税務ギルドは、うちを攻撃してくるの? ちゃんと納税しているのに? これって、冤罪?!」
「先日畳んだ奴隷ギルドが一度も納税しておりません」
「それがあったかぁ~」
と、額に手をあてて、困った顔をするサラ。
刹那。〈名前はまだない〉ギルドの外壁を突破して、黒装束の男が飛び込んできた。刺客だ。
魔術付与に輝く剣身。さては魔剣士か。
「《皇弧震》」
魔剣スキルlevel10の《皇弧震》。斜め上へのエネルギー刃の一撃。ライラエルは回避に送れ、腰部で一刀両断されてしまった。
「ライラエル!」
「ご安心ください、お嬢様。わたしは……数時間後には……自動で、復活いた、しま…す」
と言い残して、ライラエルの身体が消滅した。今際の言葉が本当なら、そのうち復活するらしい。さすが、星5キャラ。
「うちのメイドを手にかけるとは、断固として許さないぞ。親族一郎、皆殺しだ! ね、ミィくん」
「にゃぁ(一族郎党は見逃してやかったらどうだ?)」
「分かったってば、ミィくん。ヤッチマイナァ!だね?」
「……」
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