66,密室で殺されると迷惑part4
第一発見者=真犯人とは、お決まりのひとつといえばひとつ。
アーク(ミィ)は、ライラエルの推理を支持した。
だがしかし、ここでサラがとてつもないこと(当人判定)に気付いてしまった。
「まった、まった。ねぇミィくん。これはルール違反じゃないの? 容疑者リストにないものが犯人ですって。それは重厚な館ものミステリで、実は犯人は外をぶらぶらしていた『ぶらぶらしていた人』と判明するようなもの」
アークは呆れ果てた。
「にゃぁ(容疑者リスト? そもそも、そんなものはないだろ)」
通常の犯罪捜査ならば殺人の動機のあるものを探すところ、サラはいきなりトリックがどうのと言い出す始末。現状、殺されたシュナイダーに動機のある者たちは定かではない。ただ冒険者ギルドの幹部なので、敵も多かっただろう、くらいの推測はできるが。それで容疑者リストが埋まるわけでもない。
だがサラが求めているのは手順なので、まずはボブに『シュナイダーが殺されたときこの冒険者ギルド本部にいた者』の一覧を用意させた。当然、その一覧の中には、『第一発見者』もいるわけだ。これで『容疑者リスト→犯人を推論して見出す』の流れが作りだされる。サラは迷探偵をやれて満足、アークも我が家に帰れて満足、ライラエルもお嬢様の力になれて満足。みんな満足。
ところが『容疑者リスト一覧』を見たサラが、「なんじゃこりゃい」と顔をしかめた。
「いやいや、ボブさん。計208人って、舐めているの? こんなに容疑者が多くて、どうやってミステリーしろというの? せいぜい8人くらいにまとめてくれないと?」
「はぁ。しかし、ご希望の『シュナイダーさんが殺されたときギルド本部内にいた者』ですと、この数になります。当時は幹部会が行われていたので、護衛や従者などなど、大いににぎわっていましたからな」
渋々ながらサラはうなずいた。
それからボブのいないところで、ライラエルに小声で注文しているのを、アークは聞いた。
「あのさライラエル。このさい、『探偵と唯一接触していた者』、つまり依頼者であるボブを『実は真犯人でした!』の流れにしたいから、適当に『手がかり』とか見繕ってくれない? あとはこっちで流れで推理披露してボブを捕まえるから。正直、ちょっと飽きてきたし」
「承知いたしました、お嬢様。その程度の工作でしたら、完璧に仕上げる自信がございます」
アークは頭を抱えつつ、これはサラのかわりに自分が謎を解かねばならない、と気づいた。
猫などの動物が探偵役も定番ものではないか。きっと犬の探偵よりも需要はあるはずだ。
などと考えながら廊下を歩いていると、ふいに閃いた。ぱっと天から降りてくる感じだ。謎がすべて解き明かされる、この驚天動地のトリックを──
とたん、別のことが脳内に響いた。
『規定の推理に到達されたため、ルールに則り排除いたします』
「にゃぁ(しまった、これはそういうことか──!)」
刹那、アークは消滅した。




