63,密室で殺されると迷惑part1。
〈課金ポケット〉の一件以降、サラはすっかり『燃え尽き症候群』と化していた。
抜け殻のごとく。猫のアーク(ミィ)とともに、毎日、日向ぼっこして過ごす日々。
「にゃぁ(おまえ、もう少し活気ある日々を過ごさなくていいのか? 目が死んでいるぞ、目が)」
「ミィくん。ごはんなら自分で食べなさい」
そんなある日。珍しく冒険者ギルドからの使者がやってきた。〈名前はまだない〉が冒険者ギルドを独立、いわばライバル関係となってからは、表立った対立こそしていないが、険悪であることは間違いないのに。
サラが居留守を使おうとしていたので、アークはみずから玄関を開けにいった。いい加減サラも、現実社会に復帰するべきという判断から。
居留守作戦が失敗したので、サラは渋々といった様子で、冒険者ギルドの使者を出迎える。だいぶ不機嫌さを隠さずに。
「はい、いらっしゃい。何か用?」
冒険者ギルドの使者はボブと名乗った。
アークとサラは顔を見合わせる。それからサラが尋ねた。
「もしかして消費生活局のボブとは知り合い?」
「おや彼をご存じですか? ええ、実は生活消費局、王都騎士団、特別保安局、王国陸軍王都駐屯軍、そして冒険者ギルドの各幹部にボブという名前の男がいましてね。ただの偶然ですが。私は冒険者ギルドのボブです」
「へぇ。紛らわしい話。ボブ1、ボブ2、ボブ3とか番号付けすればいいのに」
こちらのボブは侮辱されたのか気になっている顔で咳払いしてから、さっそく本題を切り出してきた。
「実は、私は冒険者ギルドを代表して、〈名前はまだない〉に依頼がありまして」
「うちに依頼? うーん。それって死ににいくような嫌がらせ依頼?」
「まさか。これは、えー、特殊な事件なのです。あえて部外者に依頼するようにと、レティア様が命じられました。ですので、まず依頼を受けていただくには、秘密契約保持書にサインしていただかねば」
「えー。まずは依頼内容を聞いてからでないとサインできない」
「いえ、まずはサインいただかないと依頼内容をお伝えできません」
しばらくどちらも譲らなかったが結局サラが折れた。秘密契約保持書にサインする。アークも、猫の手形を押そうとしたが、ボブに笑われながら止められた。癪にさわる出来事だ。
「では依頼内容をお伝えします。実は、冒険者ギルドの高官が何者かに殺害されました。そして、ひとつの可能性として、それは内部の者が犯行に及んだかもしれないのです。お分かりいただけましたか? あえてギルド外の者に真実究明を依頼した理由が? 冒険者ギルド内のどこに犯人が潜んでいるか分かりませんからね」
「へぇ」
「そして、殺人現場は完全なる密室だったのです」
なぜか、これがサラの何かに火をつけた。いきなり目をきらきらと輝かしだす。
「密室殺人事件! 一生に一度は遭遇したいというアレ! 盛り上がってきたねー。わたしが華麗に、密室トリックを解いてあげよう。ほら、あれだよ、あれ。氷を鍵のところにはさんで、溶けたら自動で締まる感じのトリック? 分かるかな、猫のミィくんに?」
「にゃあ(犯人は、単に空間転移スキルでも使ったんじゃないのか)」




