62,課金しようpart11。
かくして〈課金ポケット〉の廃課金者たちは、運営拠点を目指してきた。
みな話し合ったわけではない。彼らの〈課金ポケット〉への熱情が、というより課金欲が、そうさせたのだ。
気づけば数えきれない廃課金市民たちが、運営拠点を取り囲んでいた。だが彼らは暴徒ではない。それは沈黙の抗議であり、突如としてサ終した〈課金ポケット〉の再開を願う信徒なのだ。
あいにくサーバーアイテムが破壊され、黒幕たるベリアルも手を引いてしまったので、サービス再開はありえないわけだが。
サラは窓から外を眺めながら、困った顔をしていた。
「うーん。どうしたものかなぁ」
ケイトが固唾をのむ。
「サラ。廃課金者にとって、サ終とは人生終了に等しい。彼らに失うものはない。対応を間違えては、取り返しがつかないことになる」
「失うものがない? それは違うね」
サラは外に出て、取り囲む廃課金者たちに語りかけた。
「皆さん。〈課金ポケット〉は完全に終わました。再開はありません。ですが嘆くことはないのです。サ終しても、すでにゲットした星5キャラ(ホムンクルス)たちは失うことがないのですから。なんて救われる話でしょうか。ですがこれ以上、わたしを困らせると、その星5キャラたちも失うことになりますよ。運営を怒らせると怖いですよ。BANしますよ」
屋内で話を聞いていたケイトが、アークに尋ねる。
「サラは、すでに引かれた任意の星5キャラを消すことができる?」
「にゃぁ(いいや、できない。サーバーアイテムが生きていればできたが、そもそもそれが壊れてしまったので、いまの事態を生んでいるわけだからな。ハッタリにすぎないが、廃課金者たちはそれを知るはずもないわけだ)」
よって効果は抜群だ。岩に水だ。
廃課金者たちは恐怖の表情を浮かべる。さらにサラは、彼らの心に語り掛ける。
「それに、まだこの先があるじゃないですか。確かに〈課金ポケット〉は終わりました。ですが、きっとまた出会えます。廃課金しても惜しくない、そんなガチャに出会うときが。だからその日のため、いまは貯蓄しましょう。すでにそばにいる星5キャラたちとともに」
なんだか知らないが、この演説は廃課金者たちの胸をうったようで、みな感動の号泣をはじめた。やがてサラに感謝の握手を求め、みなそれぞれの家路についた。
サラはうんうんとうなずき、
「こうして、〈名前はまだない〉は、多くの人たちの心を救ったんだねぇ」
「にゃあ(なぜ『いい話』風にまとめられたのだろうか?)」
※〈名前はまだない〉記録。
魔術戦士ドーグ→追放。
メイド戦士(?)ライラエル→新規加入。




