61,課金しようpart9。
アークはサラとともに、運営拠点の近くを散歩した。晴れ晴れとした空のもと──どうも路上生活者が増えているような。
しかし家をなくしても、〈課金ポケット〉は手放さない。狂乱した様子でガチャをまわしている人たちを遠くから眺めながら、サラは呆れた様子で言った。
「やーれやれ。人生捨ててまで課金するとは呆れたものだぁね」
「にゃあ(おまえ、〈名前はまだない〉は弱者のためにあるといっていたのに、ついに道を踏み外したか。おれは悲しいぞ、サラ! おまえの正義の心はどうした!)」
「ミィくん、焼き魚を買って帰ろう」
「にゃい(うむ。正義よりまずは飯か)」
帰路の途中、ライラエルを見かける。だがこのライラエルは、サラのライラエルではないわけだ。星5キャラが無限にいるわけではない。それらホムンクルスは33タイプある。これら33タイプが星5として引かれているわけで、たとえばライラエルだけでも王都内には何百体といるわけだ。
拠点に戻ったサラは、ライラエルに尋ねた。
「自分と同じ人間、というかホムンクルスがたくさんいると、変な感じだろうね」
「いいえ、お嬢様。わたくしたちは、10であり1です。それぞれのタイプのホムンクルスは意識を共有しておりますので。つまり、わたくしはここにも存在するし、まったく異なる場所にも同時に存在しているわけです」
「はぁ。なんだか難しい話だね。わたしとミィくんには理解できないよ」
「にゃあ(おれは理解したぞ)」
サラがまだ何か言おうとしたとき、ケイトが駆けこんできた。深刻極まる表情をしており、なぜか両手に巨大なハンマーを持っている。ウォーリアーあたりにジョブチェンジしたのだろうか。
サラも同じような疑問を抱いたようで、驚いた様子で問いかける。
「ケイト、どうしたの?」
「私の従兄が、自宅を担保に借金し、結果、不動産を差し押さえられることになった。そう、ガチャを回すための借金のせいで!」
「へぇ。ケイト、従兄がいたんだ」
「そこは、いまはどうでもいい。とにかく廃課金は不幸しかうまない。これ以上、〈課金ポケット〉を続けることは、この世界のすべての善に反する」
「まったく何を言い出すのかと思ったら。あのね、ケイト。神は天と地を創造し、ついでに課金ガチャを生んだんだよ」
「にゃあ(なにをデタラメの極みをほざきだしたんだか)」
「だいたいケイトだって、すり抜けという地獄のようなものを作ったじゃない。すり抜け不幸者を、すでに何万人と生み出したんだから」
「そう。だから、ここで贖罪を果たす」
ケイトはハンマーを振り上げたかと思えば、思い切り〈課金ポケット〉中枢アイテムに叩きつけた。すなわち、すべての〈課金ポケット〉を制御している、このサーバーアイテムに。これが壊れては、王都中のすべての〈課金ポケット〉が機能を停止するのだ。
「にゃぁ(そのための巨大なハンマーだったのか)」
サラが顔面蒼白になって叫んだ。
「あーーー! なんてことを。なんてことをしてくれたの、ケイト!」
中枢サーバーから煙が出てきたかと思ったら、小さな爆発をした。完全なるお釈迦。〈課金ポケット〉の終焉は、こうもあっけないものだった。
ケイトが溜息をついた。
「これで、廃課金者たちは救われる」
アークが素朴に思うに、(すでに、そんな単純な話ではない気がするぞ)。




