60,課金しようpart8。
というわけで、〈名前はまだない〉は消費生活局と戦争状態となった。
だがサラは、そんなことよりも今月分の〈課金ポケット〉のノルマを片付けるのに忙しい。
これが中間管理職の大変さかぁ、とアークは同情心たっぷりに思った。せっかく運営を乗っ取ったのに、その矢先、上司が五大悪の一体と知るハメになるとは。
そろそろサラを、この立場から脱してやりたいものだが……
ただし、〈課金ポケット〉中枢アイテムで、ユーザーたちの課金額を確認しながら、「ふっふっふっ、もっと課金するのだ」と、愉しそうに笑っているサラを見ると、そこまで悲劇的な状況ではないのかもしれない。
……いややはり、一刻も早く、なんとかしたほうがいいような。
(とすると、やはりベリアルと話をつけるしかないのか。できるだけ話し合いで解決したいものだが。理性的な……悪魔にそんなことを望んでも大丈夫だろうか。はたして戦闘になったとき、自前の拳闘魔術で太刀打ちできるかどうか。
いやいっそのこと、『禁じ手』を使ってみるか)
アークがそんなことを考えていたころ──
この〈課金ポケット〉運営拠点から直線距離で10キロ地点で、消費生活局のボブは、局自前の特殊部隊〈ドーン〉の隊長であるディーンと打ち合わせをしていた。
「標的は、〈名前はまだない〉。もとは冒険者ギルドのパーティだったが、Aランクパーティを壊滅させて離脱。本来ならば冒険者ギルドに粛清されるはずが、見逃されている連中だ。それを、我々、生活消費局が仕留める」
ボブには賞賛があった。〈ドーン〉ももとは冒険者ギルドのAランクパーティ。ギルドマスターと折り合いが悪くSランク昇格こそなかったが、実力だけでいえばSランク格。それほどのパーティだがギルド離脱後は行き場がなくなり、生活消費局が引き取った。
(くっくっくっ。あの小娘め。目にものみせてやる。生活消費局を敵にまわして、ただで済むと思うな)
「やれるな?」とボブ。
〈ドーン〉リーダーのディーンは、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「おれたちに任せておいてください。どうせ〈名前はまだない〉など、評判が一人歩きしたに過ぎない。真のパーティの力というもの見せてやりますよ」
五分後。〈課金ポケット〉運営拠点に、部下を率いて隠密裏に侵入成功したディーンは、しかし凍り付いていた。
窓辺で寝そべり、気難しい顔をしている雄猫を見た瞬間に。
固唾を呑む。
(な、なな、なんだ、この猫は、ただの猫ではない………凄まじいオーラを纏っていやがる。お、おれには分かる。分かるぞ。この猫こそが、〈名前はまだない〉の核か……猫が一番強い、などという話、デマではなかったのだな。だが、まて、いま奴はこっちに気付いていない。ここで不意打ちをくらわせれば、もしや──)
猫がこちらを見やり、鳴いた。
「にゃぁぁぁぁ!!!」
ディーンは知らなかったが、このときミィ(すなわちアーク)はこう言ったのだ。
(こっちは考えごとをしているんだ。邪魔をするんじゃぁぁない)と。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
瞬間。
打撃系魔術の嵐を浴び、ディーン、そして部下たちの意識は刈り取られたのだった。
全身骨折、全治8か月。しかし命に別状はなし。




